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2024/01/23
SoundTrip @London / 伝統と革新が交わる街に生まれた先鋭
IBC 2023の会期も終わり、1週間ほどヨーロッパに滞在して様々な都市の現場を見て回った。帰国前に最後の訪問先として選んだのがイギリスの首都、ロンドン。そのロンドンでも最新設備を誇るという「RavensBourne University」と、ハリウッド・ロンドン間をAvidのクラウドサービスで結び制作を進めるポスプロ「Fulwell'73」へ訪問した。最新のロンドン事情とともにその様子をお伝えしたい。
四半世紀ぶりのロンドン
ロンドンは音楽の発信地としていくつもの歴史を作ってきた。その一方で日本ではあまり知られていないかもしれないが、映画産業も大きな規模を誇り、ハリウッド作品の30%程度はここロンドン郊外のスタジオで作られている。飛行機嫌いのスタンリー・キューブリックは、ほとんどの作品をロンドンだけで制作したという話は有名ではないだろうか。007シリーズ、スター・ウォーズシリーズで有名なパインウッド・スタジオ、ハリー・ポッターシリーズのリーブスデン・スタジオなどがこのロンドン郊外にある。もちろん音楽スタジオはそれ以上に有名だろう。本誌読者であれば、知らないはずはないアビーロード・スタジオはロンドンの中心からすぐの場所にある。ブリティッシュ・ロック、レゲエ、パンクなどロンドンを発信地とした音楽は今でも息づいている。また、ニューヨークと並ぶミュージカルの中心都市でもある。さまざまなエンターテインメントの中心地となるロンドン。筆者個人としてはなんと学生時代以来の訪問。何年ぶりかはあえて明記しないが、四半世紀の年月は時代の変化を大きく感じた。
変化を感じたとはいえ、ここはヨーロッパ。町並みや地下鉄など昔のままの姿で懐かしさを感じるところもある。バスや、タクシーは新型になり、2階建てバスの後ろで出発のベルを鳴らしていた車掌さんを懐かしく思い出したりということも。少しの時間を見つけ、ロンドンの市街を散策することもできた。大英博物館から、コヴェント・ガーデン、トラファルガー広場、ウェストミンスターとロンドンの観光客にとっての中心を散策。昔ながらのロンドンの旧市街と、ここも昔から変わらないトラファルガー広場の観光客の群れ、そしてピカピカにリニューアルされたビッグベン。伝統と革新が交わる街、などとよく言われるが、その様子はこの一角からもよく感じ取れる。東京もそうだが、ロンドンでも世界中からの観光客が戻っている、コロナが終わり日常を取り戻しているのはこちらでも同じようだ。
コヴェントガーデンあたりが、ロンドンの伝統を体現する地域だとしたら、別の日に訪れたテムズ川からの風景はまさしく今のロンドンだった。ロンドンの中心を流れるテムズ川は、海からの荷物を直接ロンドンまで運ぶ重要な交通路であった。海運の港町として発展してきたロンドンではあったが、近代に入りその重要性は徐々に薄れ、街の中心から東に10km程度の場所に、テムズバリアと呼ばれる巨大な堤防が築かれることとなった。これは、北海の海水面上昇によるテムズからの逆流、ロンドンを洪水から守るためでもある。これにより外洋からの船はロンドンまで入ってくることはできなくなり、ロンドン郊外の造船所などはその役目を終えることとなる。一番河口側の巨大なドッグはロンドン・シティー空港となった。新都心が建設され、ロンドンの新しい中心地となっているカナリー・ワーフも元々はその名の通り港の後である。
これらの新しいロンドンを過ぎ、有名なタワーブリッジからがロンドンの旧市街である。まずは、金融の中心であるシティーの高層ビル群があり、その先には巨大な丸屋根が特徴的なセントポール大聖堂。その先にはビッグベンというように、河口側からテムズ川を遡ると、ロンドンの歴史を遡るかのような体験をすることができる。ちなみにこの船旅は観光船ではなく、ロンドン交通局の運営する市民の足であるフェリーを利用している。さすがに地下鉄よりは時間が掛かるが、外の見えない地下鉄と比べると別格の体験ができるおすすめの交通手段である。
最新設備のデジタルメディア大学
それでは、ロンドンで訪問したデジタルメディアとデザインの大学「RavensBourne University」とポストプロダクション「Fulwell'73」に話を移そう。
RavensBourne University、開校は1962年にまで遡るデジタルメディアとデザインの専門大学だ。ロンドンの中心街から東に10km程度、北海の海水面上昇によるテムズからの逆流、ロンドンを洪水から守るために作られたテムズバリアと呼ばれる巨大な堤防にほど近い、ノース・グリニッジという新開発エリアに新校舎を竣工、新しく作られた総合商業施設O2アリーナの目の前に立地している。この2011年に建てられた校舎はデザイン性の高い外観を持っており、その設備はロンドンでも最新の設備を誇る学校となっている。デジタルメディアコースとしては、3学年のコースとなり各学年に60名程度が在籍し、日本からの留学生もいるということだ。
生放送を学ぶための立派なスタジオ、調整室、そしてポストプロダクションの実習室を見せていただいた。スタジオと調整室はそのまま放送ができるのではないかという充実した設備。スタジオに関しては、ポストプロダクションの実習のための収録スタジオとしても機能も併せ持っているということだ。収録された素材はすべてサーバーに保存され、完全にファイルベースでのワークフローを学ぶことができるようになっている。ポストプロダクションの実習室は、数多くの端末がずらりと並び、NLEを1人1台使ったハンズオンでの授業がここで行われている。
📷生放送を実際に学ぶためのスタジオ、調整室は5.1chの構成でCALREC Brio 3bが導入されていた。
この実習室には2部屋のMA室、1部屋のカラーグレーディング室、そしてオーディオの録音スタジオが用意されている。MA室はAvid S6が導入され、最新の環境での作業が行えるようになっている。録音スタジオは広いブースで、バンドの収録なども行える規模の機材が導入されていた。訪問したタイミングが改修中であり、あまりじっくりと見ることはできなかったが、自分たちでできることは講師陣が自分たちで行い、その導入コストを減らして機材予算に回すという涙ぐましい苦労話のほうが記憶に残っている。そして、これらの端末はすべてAvid NEXISへ接続され、生徒それぞれに与えられた自身のストレージエリアで作業を行えるようになっているということだ。
📷実習室には個別のワークスペース。右に編集室やMA室などが並んでいる。
完全なファイルベースを学べる学校と紹介したが、この設備バックボーンを持つ教育機関は世界でも有数のものではないだろうか。学生にこのような最先端の機材を触れさせてトラブルは無いのか?と少し意地悪な質問をしてみたのだが、「私は学生を一切信用していないよ(笑)」だそうだ!このポリシーのもとPCの電源ボタンにすら学生はアクセスできないような仕組みで運用を行い、端末となるPCは定期的にバックアップイメージからリカバリーが行われ、デスクトップなどに置き去りにされたデータは容赦なく消しているということ。そのためのサーバーでの運用であり、まずはそこを理解して実習に臨んでもらっているということだ。
📷(左)Avid S6が導入されたMAルーム。(右)まさしく工事中だったレコーディングスタジオはAvid S3とSSL ASP 8024が備えられている。
ハリウッドとロンドンをAvidクラウドで連携するポスプロ
📷敷地内は撮影できず、残念!
そして、もう一つの訪問先であるFulwell'73は、映画を中心に制作を行うポストプロダクションで、ハリウッドとロンドンの2つの拠点でその活動を行っている。2つの拠点で共同作業を行うために、Avidのクラウドサービスを活用してシームレスな連携を実現し、その制作環境を構築している。Media Centralなどの活用により、スタッフは出社することなく作業をどこからでも行うことができるようになったのは、大きな進歩だという話を聞くことができた。しかしながら、クラウドの仕様コストは、現時点ではオンプレミスで制作環境を構築するコストと比較すると高価であるそうだ。Fulwll'73のようにハリウッドとロンドンという海を跨いだ遠隔地での共同作業をも実現する、クラウドはまさに夢のようなソリューションではあるが、それ相応のコストが発生しており、今後解決すべきクラウドの課題ではないかという。
もちろん、ITテクノロジーなので時間とともに最適なところに落ち着いてくるということが想像されるが、それはもう少し先の未来のようだ。基本はオンプレミスでのシステムで作業を行い、必要性がある部分だけクラウドにするといったハイブリッドな環境構築がポストプロダクションには今後求められていくことだろう。利便性の向上は間違いなくあり、どのレベルでのデータ共有を行うのか、編集の作業環境の共有は必要なのか?など様々な観点からの検証を行うことが重要となる。さらには、まだ見ぬ未来にクラウドのコストがどのように変化するのかの予測も必要となる。現場が必要としてきた様々なことが実現してきたことで、次のステップとも言える議論が、まさに始まっているということを実感できた。
RavensBourne Universityからの帰り道にテムズ川フェリーを利用したのだが、最新の設備から約1時間の船旅でウェストミンスターへと至るロンドンの歴史をさかのぼる旅は、非常に興味深いものであった。歴史と伝統、最新テクノロジーとリベラルな人々、それこそがロンドンの原動力であると実感できたロンドン訪問であった。
*ProceedMagazine2023-2024号より追記・転載
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2024/01/16
RIEDEL Communications @Wuppertal / 世界規模のイベントを支える一大拠点
放送局のインカム、コミュニケーションのシステムとして多くの導入が見られるRIEDEL。以前のProceed MagazineでもF1 鈴鹿グランプリでのRIEDEL社のソリューションの事例をご紹介したが、今回はドイツ、ヴッパータールにあるその本社にお伺いをする機会を得た。インカムの世界的なトップメーカーであるRIEDELの本拠地でシビアな現場の信頼を勝ち得てきた製品はどのように生まれているのだろうか。
世界規模イベントのバックボーンに
RIEDEL本社のあるヴッパータール(Wuppertal)は、ドイツ第4の都市ケルンの北50km,デュッセルドルフの東30km、ドルトムントの南30kmと、大都市に囲まれライン=ルール大都市圏の一部となっている。ドイツの産業革命の中心地の一つとして早くから工業の発達した都市である。この街には、世界最古のモノレールが存在している。100年以上の歴史を持つこのモノレール、残念ながら乗車する機会には恵まれなかったが今でも市民の交通手段として活躍している。
この工業都市であるヴッパータールでRIEDELは1987年に創業。その当初からインターカム、無線トランシーバーを中心に販売を行っていた。現在でも続くモトローラ社との関係は、同社の無線通信機器との関係が深い。同社の一番最初の製品は、この無線トランシーバーとインカムとの接続を実現するインターフェースであった。製品の販売とともに、レンタル事業が同社の中核となり、大規模なイベントなどにチームを派遣してスタッフ間のコミュニケーションなどのバックボーンを支える事業を大規模に展開している。レンタル事業の成長は著しく、1993年にはF1、1994年にはオリンピック、1998年からはFIFAワールドカップ、と世界規模のイベントへの進出を果たしている。これは今日まで続いており前述のF1ではRIEDELなしではその運営が成り立たないというレベルにまで達しているほどだ。
巨大倉庫を経て届くフィードバック
このレンタル事業の現場として、まず見せていたくことができたのが巨大な倉庫!これまでに製造したRIEDEL製品はもちろん、これからレンタルするシステムのキッティング、事前のテスト、必要であればカスタマイズなども行っているということだ。レンタルのカスタマイズとは?という部分だが、例えばヨットレースの世界大会であるアメリカズカップ向けのものであれば、耐海水の対策をすべての製品に対して行うなど、そのクライアントのニーズに応じて対応しており、自社にない製品で簡単なものであれば作ってしまうことまであるそうだ。
レンタルというと、単純に製品を貸し出して返却を受けるというというイメージかも知れないが、RIEDELの行っているレンタル事業は、機材の貸出だけではなくそのオペレート、システムの構築といったところにまでおよぶ。一例としてF1であれば、インカムに加えて国際中継用の動画、音声、走行する車両から送られてくるさまざまなデータ類、ありとあらゆる会場で流れるデータを一元管理している。現場でのデータバックアップはもちろん、世界各地から国際中継のハブとなっているドイツの放送局までの回線もRIEDELの回線だ。ほかにもブンデスリーガ(ドイツのサッカー1部リーグ)の放送用回線も一手に担っている。もはや、レンタルという言葉よりも運営事業という言葉のほうが相応しいレベルである。
このような大規模、小規模問わず世界規模のイベントのバックボーンを支えるためには、相応な規模の倉庫とキッティングスペース、返却された機器のメンテナンススペースも必要となる。レンタル出荷のスペースもこの規模となればもはや物流拠点と呼んでもいいほど。このレンタル事業の現場からのフィードバックはRIEDELの製品開発の強さの秘密でもある。メーカーとユーザーという立場ではなく同じ会社の別部署同士として、リアルなフィードバック、ニーズが世界各地の現場から送られてくる。それを受けて開発された製品は、すなわちユーザーのニーズに即応した魅力的な製品になっているということは容易に想像がつくであろう。
実際に、社内で製品開発、システム開発の部署、レンタル部署は熱い議論を繰り返すことが多いということだ。「こんなことはできないのか?」「こう使ったらどうだ?」「それよりこちらの方がいいぞ!」と密接なコミニュケーションの中からさまざまな製品がまさに「現場の」ために生み出されている。
ブンデスリーガ中継のキーを担う
📷モニタールームはブンデスリーガのモニターを行うセッティングになっていた、ドイツ国内各地20ヶ所ものスタジアムからの回線を一手に担う。
レンタル事業のスペースの一番奥にはモニタールームがある。ちょっとした放送局の副調整室のようなスペースだ。見せていただいた際には、ブンデスリーガのモニターを行うセッティングになっていた。ドイツ国内各地のスタジアムからの回線状況を一手に監視し、その状況を確認、モニターするための施設となる。これを文章で一文にまとめることは簡単なのだが、実際のところを紐解けばRIEDELの自社回線でドイツ国内にある20以上のスタジアムと回線が繋がり、審判のつけるインカムの音声からスタジアムのアンビエントまですべてを聴けるということ。これはなかなか一筋縄ではいかないことである。
カメラ回線も常時4回線以上が各スタジアムから確保されていて、このヴッパータールのサーバーで全回線のバックアップ収録が行われているということだ。また、ドイツではボールや選手がグランドのどこにいるかをセンサーを使って細かくデータとして残している。このデータも同様にRIEDELのサーバーに収まる。ブンデスリーガに対してのレンタル事業とは言うが、ブンデスリーガ中継のバックボーンをすべて担っているとも言える。
そのほかの大規模イベントの際にもこのモニタールームが活用されるということだ。RIEDELでは世界中からの回線を強固なものにするためのネットワーク事業部が立ち上げられている。ヨーロッパを中心に世界中にそのアクセスポイントを設置するまでに至っており、基幹となる回線は100GbE、それ以外は10gbEで世界中を結んでいるということだ。
製品開発の分野にも目を向けてみよう。インカム、トランシーバーからスタートしたRIEDELは、インカムのマトリクス接続を実現したArtistシリーズを2000年にリリース。そして映像や音声をIP伝送するMediornetを2009年に登場させた。このMediornetが先にも紹介したような映像、音声、インカム、GPIOなどすべての会場を飛び交うデータ、情報通信を束ねる中核となっている。IP伝送技術の進化とともに取り扱いができる回線数は増加し、その機能も向上を続けている。製品に関しての開発コンセプトは、前述の通りでレンタル事業部からのフィードバックが大きなヒントを与えてくれている。
📷自然と共生した広大な敷地に建物が並ぶ、まさに一大拠点呼べる規模。エントランスのトロフィーからはF1から宇宙までRIEDEL製品が活躍する幅広い分野が感じとれる。
オープンな環境のオフィスに
各部署のコニュニケーション、風通しを良くするオープンな環境のオフィス。役職に関係なくフラットなスペースとしているようで、CEOが普段使用しているのは扉も壁もないデスクだそうだ。すっかりオフィスに馴染んでいたのだが、天井には懸垂用のバー(!)がある、これが筋トレ好きなCEOのために用意された唯一特別な設備だそうだ。
📷広々としたオフィスに企業カラーの赤が映える。フラットな仕切りのオフィスには社員同士がコミュニケーションできる仕掛けがふんだんに盛り込まれている。右写真が件の懸垂バー(!)。
ここからは写真撮影がNGになってしまったのだが、設計部署、メンテナンス、検証部署が並び、テスト用の機材や、サーバールームなど機械類がズラリ。検証に関しては、最大負荷をかけてのランニングテストを日頃から行っており、バグチェックなど、どのような大規模な現場からのトラブル報告に対しても実機検証が行えるよう、2000回線以上の映像、インカムを常に飛ばせるようなセットアップが行われている。大規模な現場で生じた予期せぬバグに対してもすぐに対処できる準備が整っているということだ。これは、現場に出ているスタッフも心強いことだろう。その後、最終の組み立て工場も見せていただいたのだが、最後の組み立てはすべて手作業。1台ずつ全数検査を行ってからの箱詰め作業が行われていた。箱から出してすぐに現場に投入されることが多い同社の製品。このようにしっかりと検査が行われていることに安心感を覚える。
世界中の現場で実際に使われるRIEDEL製品、その上で出てくるニーズ、次の世代への効率的な運用、そういったことがすべて詰まったソリューションがここにはある。国内では、まだまだインカムの利用がメインではあるが、Artist以降の製品であればMediornetとの連携も可能。RIEDELのソリューションをすべて活用した実例は興味深いものとなる、これからも様々な形でお届けしたい。また、RIEDELはIP伝送の分野で老舗とも言える存在、今もなお進化を続ける世界のトップランナーである。国内におけるIP伝送でもそのテクノロジーの活用が一層進むことに期待をしたい。
*ProceedMagazine2023-2024号より転載
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2024/01/11
BFE @Mainz / 顧客の理想を形にする仕事、インテグレーターのあるべき姿。
ドイツを代表するシステムインテグレーターであるBFE社。第1ドイツテレビであるARD、第2ドイツテレビとなるZDFといったドイツの主要放送局でのシステムインテグレートはもちろんのこと、自社工場を構えてワンオフでの製品生産まで行っている。事業としてはインテグレーターの枠組みを大きく超える存在となるBFE、同社が拠点を構えるマインツ本社へ伺った。
ドイツ公共放送の中核、マインツ
ドイツ中部、ラインラント=プファルツ州の州都でもある歴史ある街マインツに本社を構えるBFE。マインツはフランクフルトの隣町であり、実際のところフランクフルト空港から郊外電車で西へ30分程度のところにあるライン川沿いの街である。また、世界遺産でもあるライン渓谷中流上部をめぐるライン川下りはマインツを出港地としている。ローマ時代の遺跡があったり、中世ドイツの宗教的な中心地であったりと多くの歴史の中心地でもある。第二次大戦で壊滅的な被害を受けたこともあり街並みは近代的なものが多いが、伝統的な様式で作られた街の中心となるマインツ大聖堂はロマネスク様式の大聖堂としてヨーロッパでも有数のものである。
このマインツになぜBFEがあるのか。これにはこの街にZDFというドイツ最大の放送局があるからという非常に明快な理由がある。ここで少しドイツの放送事情を説明しておこう。ドイツは日本で言うところのNHKにあたる放送局が複数存在している。公共放送として国民全員から受信料を徴収し、それを財源に放送を行うという形態のものである。その1つ目が、第1ドイツテレビを運営するドイツ公共放送連盟(ARD)と呼ばれるドイツ各地に9つあるテレビ局のネットワーク。ARDは共同で放送する4チャンネルの放送と、地域ごとの独自の放送チャンネルを持つ。本誌でも取り上げているSWRはこのARDの中の1局である。もうひとつが第2ドイツテレビの頭文字を取ったZDFである。ZDFはドイツ全域をカバーして3つのチャンネルを放送しており、このZDFの本部がマインツにある。
面白いのが、ARDとZDFはそれぞれが独立した放送局ではあるが、同じドイツの公共放送として共同で運用するチャンネルが4つもあるということことだ。全国に向けた公共放送のチャンネル数は、ADRが4チャンネル,ZDFが3チャンネル、ADRとZDFの共同制作が4チャンネル。そのほかに各地域ごとの放送がADRの9つの放送局それぞれにあるということになる。すべてまとめるとかなりのチャンネル数である。視聴シェアの割合もこれらの公共放送が51%を締め、その他の商用放送と拮抗している。このように公共放送のシェアが高い国というのはかなり珍しいのではないだろうか。ちなみに受信料は18.36EUR。執筆時点のレートでは2900円程度となる。
複数メーカー製品を一括制御するKSC
各州ごとに設けられたARDの放送局に比べると、ZDFは全国区でありその規模は巨大なものである。その放送局とともにインテグレーターとして成長を遂げてきたBFE、どのようなところからこの会社は大きな飛躍を遂げたのだろうか?そのキーとなるのが「KSC system」と呼ばれるアプリケーション。放送局の設備にはさまざまな制御関係の信号があり、それらがスタジオシステムの根幹を握るものとして信号のルーティングや、チャンネルの切り替えなど、さまざまな場所で活用されている。KSCはさまざまな機器の組み合わせで構築されるそれらの制御を一括でコントロールしてしまおうというもの。当初は、GPIOやシリアルコントロール(RS-232,RS422)などを総合的にコントロールできる製品として登場。時代の進歩とともにIPベースでのコントロールにも対応し、現在でも顧客の要望に応えてKSCでコントロールできる機器は着実に増えている。
テキストで説明をするとだとシンプルだが、外部制御を受け付ける機器であればKSCを使うことですべてを一括でコントロールできるということだ。映像のルーターでも、音声信号の切り替えも、Cueランプや、トークバックなどもすべてを一括で制御できるまさに夢の製品。複数の製品を1つのボタンで一括制御させることができるようになっている。これらの機能はハードウェアのボタンにアサインし利用することができるようになっており、KSC用のパネルはBFEのオリジナル製品だ。
📷何でも切り替えられるKSC、物理パネルの種類も多彩だ。写真はSWRで導入されていた実際の製品で、ラックマウントタイプのものから単体で動作するものまで様々なラインナップを持つ。KVMの切り替え、回線の切り替え、エマージェンシー時のサブシステムへの切り替えなど、何でも一つのパネル上で行うことができる。
ZDFのシステムを構築するにあたり、伴って生じるさまざまな接続や制御の問題点をこのソフトウェアで解決してきている。まさに、現場の要望から生まれたソリューションである。このKSCシステムをZDF専用のカスタム製品として終わらせるのではなく、汎用性を持たせて次のビジネスに繋げているのがBFEの着眼点の優れたところ。放送局、ポストプロダクションに向けてシステムの開発が行われたものではあるが、IPベースでのコントロールを受け付ける製品なら何でもということで、G&DやIHSEのKVMの制御も可能としている。これと音声映像のルーティングの切り替えを総合的にコントロールすることで、街中にある監視カメラの映像を日々確認するマインツ警察などにも導入実績があるそうだ。ほかにもフランクフルト空港の案内表示板の制御など、放送とは全く関係のない分野での導入も進んでいるということだ。複数のメーカーの製品を一括でコントロールしたい。そんな要望のあるところにはこのKSC Systemが導入される可能性がある。ゼロからカスタム設計で作るよりもコスト的にもメリットが高く、既存ルーターやKVMを使い回すことができるこのKSC System。日本国内の放送局にとっても救世主となりうる存在なのではないだろうか。
理想にフィットするワンオフ製品
📷広々とした加工場。木工、金属加工の組み立てと、必要なものは何でも作れる設備が揃っている。左下は組み立て中の製品で、このフレームにテレビ・モニターが設置され床おきのモニタースタンドとなるそうだ。
BFEの成長を支えるKSCシステム。それ以外にも顧客の要望に合わせて、家具などの製作も行っている。スタジオ家具は汎用の製品ではなく機器類を実装したりと特別な要望が多い。これに確実に応えるため、BFEでは自社内ですべて手作りで家具を生産している。顧客の要望を自分たちで隅から隅まで形にする。そのような理想的な環境を構築しているわけだ。実際のところ、BFEの工場にはシステムインテグレーターの拠点とは思えない工作機械がずらりと並んでいる。このモノづくりという分野も拡大を続けており、中継車の設計改造やセットアップなども手掛けるようになっているということだ。顧客の理想を形にする仕事。まさにシステムインテグレーターにおけるひとつの究極であると感じた。
日本国内でこれらの仕事は、専門分野を含んでいるということもあって複数の会社で分業するケースが多い。BFEはどれくらいの規模の会社なのかを聞いてみると、150名程度だという。工場で自社製品であるコントロールパネルを製造しているスタッフ、木工加工をして家具を作るスタッフ、そういった人数を合わせての150名である。この人員規模で全国ネットの放送局ZDFを筆頭にさまざまな分野へ進出し、その納入を一手に担っているのは効率的なオペレーションの成せる技と言えそうだ。
また、社内をぐるりと案内いただいたのだが、エントランスのすぐ脇には広い社員食堂があり、ここでさまざまな仕事を行う社員同士がコミュニケーションを行い、業務をスムーズに進めているということ、スタッフ間のコミュニケーションを何よりも大切にしているということがうかがえる一幕である。このコミュニケーションを大切にする文化はBFEに限ったことではなく、ヨーロッパ最大の放送機器展示会であるIBCの会場を歩いていても感じるところ。機材の展示よりもカフェスペースや飲食の提供などを行い、人と人との関係があった上で機器の販売やサービスを提供するというビジネススタイルが根付いていることが感じられる。
ニーズを叶える工場セクション
少し脱線してしまったが、BFEのバックボーンとなる工場についてを見ていきたい。最初に見せてもらったのが、KSCシステムのコントロールパネルを製造する部門。パーツごとにある程度アッセンブリされたモジュールを手作業で一つ一つ組み立て、動作チェックを行い、梱包する。その一連の作業を手際よく行っていた。日本国内でも共通となるが、多品種小ロット生産の現場においては、どこも同じように一人のスタッフが一貫して生産を行っており高い技術力を持つ職人の世界を見ることができる。
次に木工加工場。大型の工作機械が並び、切り出しから加工、整形、仕上げまでを一貫で行う設備が整っていた。KSCシステムにより成長を遂げた会社という説明からだと、IT関連のソフトウェア企業のようなイメージを受けるかもしれないが、このようなモノづくりの現場を併せ持っているというところが非常に興味深い。この木工加工場の隣には金属加工場もある。プレスやカッター旋盤とほとんどの大型工作機械が揃っている。アルミであればほとんどの製品がここだけで作れるという規模だ。金属加工でフレームを作り、木工加工で机などの天板を作る。ユーザーのニーズに合わせてどのようなものでも作ってしまえる工場が社内にある。これは、クライアントのさまざまな要望に対して提案を行う立場のシステムインテグレーターとしては頼もしい限りである。よほどのものでない限りスタジオに収まる家具類はここで作ることができるだろう。
続いてキッティングのスペース。システムインテグレーターということで、事前にシステムを組み上げての動作検証やテスト運用などを行う。その場所も工場の一角にしっかりと設けられている。広い工場の一角ということもあり、十分に余裕のあるスペースが取られているのが本当に羨ましい。広い空間で余裕を持って事前の組立作業などが行われている。その先では中継車の組み上げが行われていた。もちろん車体は別の所で作ってくるということだが、車に積まれる機器の組み込み、設定、調整はBFEが行っている。見せていただいたタイミングでは、編集室が3室と簡易ナレーションブースが2室というかなり大型の車が作られていた。車体以外の中身はすべてBFEで作っているということだ。機器類だけでなく、家具類まで作れる強みがまさにここでも感じられる。限られたスペース、提携のものでは収まらない場所への特注家具の製作、そこで使われる機器類システムの設計、キッティング、もちろんKSCシステムを使った総合的な制御システムと、ワンストップでシステムの構築が行われている。
📷車庫で組み立てられていたのがこちらの中継車。中継車と言っても移動編集室である。この中に3部屋の編集室と、2部屋のナレーションブースが設置される。もちろんここでもKSCによるシステムの切り替え、画面の切り替えなどが行えるシステムが導入されている。車内にはサーバーラックもあり、インジェスト、編集用のストレージも社内で完結するシステムアップとなっていた。
BFE本社の向かいは広大な緑が拡がっており、その向こうにはZDFの巨大な建物が見える。立地としては街外れということになるが、十分な広さを持った工場を作るにはこの場所が良かったのだろう。今回お話を伺ったCEOも、本社に併設されている工場こそがBFEの発展に大きな意味を持っていると語っていた。システムインテグレーターの会社を立ち上げた人物ということもあり、モノを作ることが本当に好きなのだろう。当初は予想もしていない分野へも導入が進んでいるKSCシステムを軸として、ユーザーのニーズに確実な回答を提供する工場の存在。インテグレーターという事業におけるひとつの理想形がここにあった。
*ProceedMagazine2023-2024号より転載
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2024/01/09
SWR @Mainz / ドイツ公共放送局で進むオートメーションフロー
SWR=Südwestrundfunkをそのまま日本語に訳すと南西ドイツ放送局、ドイツ国内で第1ドイツテレビとして全国ネットを構成するドイツ公共放送連盟(ARD)の系列局の一つとなる公共放送局である。シュトゥットガルトに本局を構える放送局だが、今回取材にお伺いしたマインツ、そしてバーデン=バーデンにも放送局を構える。これは、SDR(本部シュトゥットガルト)とSWR(本部バーデン=バーデン)が統合され、現在のSWRとなったためである。番組自体は、シュトゥットガルト、バーデン=バーデン、マインツの3拠点からの放送が行われ、それぞれの拠点間は複数の回線で結ばれている。今回は旧SWR時代より放送エリアの北部地域の中心とされていた規模を持つ放送局であるマインツへ赴き、ドイツの公共放送局SWRのスタジオ設備を拝見した。
ドイツにおける公共放送
ドイツの公共放送は、日本におけるNHKのように受信料を各世帯から徴収しその運営を行っている。日本との大きな違いは、その公共放送局が複数存在するという部分と、少ないながらもCMの放送があり放送局として1割程度の収入を広告収入から得ているという部分である。ドイツでは放送受信料の支払いは義務である。そのため、テレビ所有の有無に関わらず世帯ごとの受信料の徴収が行われ、その受信料は予め決められた割合により各放送局へ分配されることとなっている。
今回取材を行ったSWRはドイツの第1チャンネルにあたるADRを構成する9局の一つ。各地方ごとに設けられた9つの放送局は、共同で第1チャンネルARDの放送と、各局独自の地域放送を行っている。第1チャンネルといっても実際には共同で総合、娯楽、教育、ニュースと4つのチャンネルを運営。それ以外に地域向けのチャンネルと第2チャンネルであるZDFとの共同運営チャンネルの制作を行っている。これらのチャンネルはそれぞれ幹事局があり、SWRはZDFとの共同チャンネルとなるARTE(文化・教養)チャンネルの幹事局となっている。それ以外にも地域のラジオ放送も行っており、SWRであれば10チャンネル(内FM6波)のラジオ放送を行っている。ARDを構成する中の1局とはいえ、かなりの規模の放送局であることがおわかりいただけるのではないだろうか?キー局とまではいかないまでも、それに準ずる規模の放送局となる。
余談ではあるが、ドイツの放送局はABCモデルと呼ばれる大改革の途上である。インターネットの普及に伴う視聴環境の変化、公共放送のあり方、IT化による予算削減などの課題に取り組んでいる。現状で公共放送としてテレビ20チャンネル、ラジオ70チャンネル以上が提供されているが、これは法律で放送が義務付けられており、各放送局は予算が足りなくなったとしても放送を行う義務を持っているということでもある。これをインターネットを伝送路とした放送など柔軟な対応を進め、時代にあったメディアとしての情報発信、公共放送のあり方が模索されているところである。やはりどれだけインターネットなど情報ソースが増えたとしても、公共放送の持つ客観性、公平性、正確性など、プロのマスメディアとしての意義、存在価値は残るものと考えている。ただし、従来どおりの量が必要かどうかというところは世界中で議論が行われているところではないだろうか。
高度に自動化されたスタジオ
それでは、SWRマインツ放送局のスタジオを紹介していこう。このスタジオは、LEDパネルによる背景を備え、高度に自動化が行われた最新のスタジオであるということだ。照明機器はすべてリモートコントロール可能。天井のレール(バトンではない!)上を自在に動き回り、パンタグラフアームの先の照明は、上下、首振りなどがすべてモータライズされ遠隔操作が可能となっている。それらはプリセットが組まれており、演者の立ち位置に合わせてプリセットを呼び出すだけの仕組み。スタジオの床には細かくバミリがなされ、例えば20番の立ち位置であれば照明プリセットの20番を呼び出す、といったように新しいオペレーターが入ったとしてもすぐに使えるように工夫されている。カメラも手動オペレートの物が大半ではあるが、壁面にはこれらのプリセットに合わせて動作するPTZも準備されていた。
高度に自動化されているため、スタジオに入るスタッフの人数は最小限。番組の規模次第でコントロールルーム側の人数も変わってくるが、4〜5名で行うことが多いとのこと。スイッチング、場面転換が多い番組の場合には、2つ目の調整室も併用しデュアルオペレートでの運用が行われているということだ。スイッチャー、テロッパー、VE、照明が最低限必要なスタッフとなり、それに運用スタッフがいれば最低限のオンエアはできるようになっているということ。これらもオペレーションが定型化されれば、プリセットチェンジなどで自動化していくのが現在の流れだということだ。
KSCで集中制御するシステム
📷メインスタジオの副調整室(サブ・コントロールルーム)。映像と音声は壁で仕切られ、別の部屋になっている。ビデオ・スイッチャーはSONYが採用され、インカムはREIDEL。写真の前列には、スイッチャーとテロッパー。写真の外、後列にVE席が用意されていた。すべてのシステム切り替えはBFE製のKSCシステムが採用されている。このシステムでオーディオ、ビデオすべてのルーティング、非常用のシステムへの切り替えが行われている。
別記事でも紹介しているBFE社のKSCシステムがここでも使われており、モニター表示の切り替えなどに使われている。このシステムであれば、照明、カメラ、VEスイッチなどを総合的に制御できる。メインのビデオスイッチャーであるSONY製品が不具合となった場合には、このKSCがバックアップシステムとしてビデオルータを直接制御するシステムアップが組まれていた。ビデオスイッチャー自体を二重化するといった大規模な仕組みではなく、ビデオ回線のルーティングを行っているMiranda社のビデオルーターをKSCで制御するということである。このビデオルーターをスイッチャーのごとく使ってしまおうという発想だ。オーディオも、ビデオも、すべてが一度ルーターに入っているのがシステムアップにおけるポイント。外部制御可能なルーターにさえ一度入れてしまえばKSCで制御可能である。
オーディオに関してはLawoのコンソールが導入されていたが、その前段にはStagetech Nexusエンジンがシグナルルーターとして導入されている。この二段構えのシステムをKSCシステムでの制御と組み合わせて障害回避するシステムアップとなっている。また、5.1chのスピーカーが準備されていたが、残念ながらそれほど制作の機会は無いようである。これは、日本と同じくサラウンド制作の番組が少なくなっているということでもある。発想はシンプルに、コストを絞りつつ十分な機能を持たせることを実現しているように感じられた。
📷音声副調整室のコンソールにはLawoがインストールされていた。メインスピーカーはGenelecで5.1chの構成だ。マシンルームにはStagetec NEXUSエンジンが導入されている。これがLawoの手前にインストールされており、システム全体のオーディオルーターとして導入されている。LawoがNGとなった際には、手前のNEXUSでルーティングを切り替えるという仕組みだ。
最小人数で運営されるバーチャルスタジオ
📷フルオートメーションのカメラ、照明のシステムが導入されたバーチャルスタジオ。SWRマインツ放送局では、この部屋から毎日3回15分枠のニュースが放送されているということだ。完全グリーンバックでそこにスタジオがデジタル合成される。3台のカメラは位置の移動も含めすべてが自動化されている。隣の映像サブでは、合成結果を確認しながらスイッチングが行えるようになっている。
もう一つのスタジオも見せていただいたのだが、こちらはデイリーのニュース専用のスタジオとなっている。グリーンバックでの合成を使ったバーチャルスタジオとなり、先に見せていただいたスタジオよりもさらに自動化が進められていた。カメラが特徴的で、メインとなる3台のカメラはすべてプログラムにより自動化されている。レールの上を左右に移動するもの、天井から吊るされ上下するものと、カメラマンがいなくとも稼働できるセットとなっている。もちろん、何かのときのために1台は手動で動かせるものが準備されていたが、普段は使っていないということだ。照明もすべてリモートで調整できるものとなっており、今でもバトンをおろして照明の調整を行っている日本との差を痛感するところである。
この自動化が進められた結果、スタジオ内のスタッフは基本1名(!)、ニュースキャスターも1名ということもありスタジオ内は2名しかいない、ということになる。そのスタッフ1名となるVEがスタジオ外周部のスペースに座り、基本的にはカメラの映像を調整しているということだ。バーチャルスタジオということで、その後はデジタル合成処理が行われ映像が作られる。音声も基本的には1人配置されることになっているということ。やはりサブで放送をするスタッフは、監視という目的もあり人は減らせないようだ。自動化が進んだとしても最後まで人間がその役割を担う部分もあるということだ。
このサブは作りが少し変わっていて、ビデオとオーディオが反対を向いてセッティングされている。その前に見せていただいた部屋は、オーディオが別の部屋となっていたが、ここでは同室でそれぞれ別の向きに座るような形。やはりニュースということで即座にコミュニケーションが取れるように同室であることの方が、プライオリティーが高位という判断で同室としたそうだ。その中でもそれぞれが独立した作業を行うということを考えると、この並びはひとつの答えなのかもしれない。
DJデスクに埋め込まれたフェーダー
📷ブースのデスクに用意されたフェーダーを使い、DJがまさにワンマンオペレートでプログラムを進行させている。
次はラジオスタジオ。ここでは放送の手法という部分で日本国内との差を痛感した。先にも述べたようにSWRは10チャンネル(内FM6波)のラジオ放送を行っている。これはすごいボリュームである。3つの拠点があると言えど、このマインツで3チャンネル程度は受け持たないとチャンネル数との整合性が取れない。見せていただいた建屋には4つのラジオスタジオがあった。それぞれブースの大小はあるもののほとんどが同じ作りとなっている。
そこで伺った制作スタイルが驚きの連続であった。サブには基本的に2名。エンジニアとプロデューサーが入り、ブースにDJが入る。ゲストがいなければ、基本的にはこの3名でオンエアを行っているということだ。ここまででも限界まで省力化していることが窺える。ブースに入ると、DJデスクにフェーダーが埋め込まれている。なんとSWRでは、DJが曲の再生、ボリュームの調整などを喋りながら1人で行っているということだ。曲の再生に関しては予めスタンバイさせておき、フェーダースタートでの再生ができるようになっているということ。ゲストがいた場合には、それぞれのマイクがDJの手元のフェーダーに立ち上がるようになっていて、バランスが取れるようになっているということだ。サブに控えるエンジニアはトータルのバランスの調整というよりは、ほとんど監視に近いような業務になっているという。
サブに置かれたコンソールのフェーダー部分はパラでDJのデスク上にも置かれ、どちらからでもコントロールできるようなセッティングになっているということ。ブース側に再生機器なども置かれ、DJが手元で操作できるようになっている。もちろんサブ側にも置かれているが、基本はすべてDJが行っているということ。DJが自分のマイクのボリュームを手元で調整できるため、日本でよく見られるカフボックスは無い。また、デスクはすべて昇降式になっていて、SWRのDJの多くが椅子に座らず、立ってオンエアに臨んでいるということだ。実際にオンエアしている部屋もあったのだが、お話の通りで立って手元のフェーダーを操作しながらオンエアを行っていた。この昇降式のデスクはBFEによるカスタムの製品だということ。さまざまな違いに驚かされることばかりのラジオスタジオ。サブの方は日本のラジオ局とは大きな差を感じることはなかったのだが、ブースに入ってからそのオンエアのワークフローに驚きの連続であった。
📷コントロールルームにもミキサーはあるが、ここではほとんどフェーダーを触らないとのこと。
SWRの心臓部は
他にも、インジェストルームを見せていただいたのだが、各地から送られてくる映像はすべてインジェストされ、ファイルベースで管理されているということ。カメラで収録されてきたもの、バーデン=バーデンなど別の拠点からの映像、それらはすべてここでインジェストされサーバーに保存されている。インジェストルームには、博物館レベルのVTRも含め、ありとあらゆるデッキがずらりと並んでいたのが印象に残っている。公共放送ということもあり、どのような素材が必要になったとしても、現行のワークフローに組み込むことができる準備が行われている。現在は、基本的にXDCAMもしくはSxSが主流。それ以外にLiveUなどのインターネット回線越しに送られてくるものもあるということ。ここでも、BFEのKSCシステムが、信号回線のルーティングを一括で制御するコントロールパネルとして活躍していた。
📷文中にもあるインジェスト用のデスク。これと同様の仕様のデスクが6台用意されている。
また、6卓準備されているインジェスト用のデスクはすべてが昇降式。長時間の作業の多いインジェストのスタッフの負担を軽減するために、好きな体勢で作業ができるよう工夫がされていた。なお、ここでインジェストされたものは別の建屋にあるポストプロダクションへ送られ、そこで編集が行われるということ。60式のAdobe Premierが使われているということだ。オーディオ・ポストに関しては2部屋のMAルームがAvid Pro Toolsで運用されていて、来年にはAvid S6への更新が予定されているという。
最後にメンテナンスルームを紹介したい。常駐のメンテナンススタッフが常駐するこの部屋は、SWRの心臓部であると紹介された。マスターではなく、なぜここが心臓なのかというと、シュトゥットガルト、バーデン=バーデン、そのほか各支局との回線の監視機能を持っているからである。IPベースでの伝送により繋がっている各地との回線。それをこのメンテナンスルームで常に監視し不具合のチェックを行っている。レイテンシー、パケットエラーといった基本的なところを常に監視しているスタッフが居るということは、運用を行う側にとっては心強い限りということだ。機器不具合のメンテナンスとともに、バックボーンのメンテナンスも行っているというイメージだろうか。IPベースでの伝送が導入されることにより、常時監視を行うことが容易になる。これにより業務としては項目が増えるが、不具合を未然に防ぐということに繋がっていると感じる。
筆者にとっては初めてとなる、海外での放送局の実際を見る機会であった。日本と使用している機器に大きな違いは感じられなかったが、そのシステムアップや運用方法、省力化、自動化への取り組みなどさまざまな部分で大きな違いを感じることとなった。ここドイツでも公共放送のあり方が議論されている中、様々な努力が行われているということを肌で感じることができた。世界一合理主義な国民性と言われるドイツ。我々も見習う部分が多くあるのではないだろうか。
*ProceedMagazine2023-2024号より転載
Review
2024/01/04
Fraunhofer IIS@Erlangen / MPEG-Hを生み出した世界最大の音響研究所
これまでにもその情報を発信してきたMPEG-H。次世代音声コーデックとしてドイツのFraunhoferが開発したこの規格、イマーシブ、インタラクティブといった次世代のエンタテインメントを担う規格となっている。今回はその開発元であるドイツ・ニュルンベルグ郊外のエルランゲンにあるFraunhofer IISを訪問し、色々とその実際を見せていただいた。改めてMPEG-Hの現在地と、その制作環境、さらにはその次のステップまで踏み込んだ情報をお届けしていきたい。
イマーシブ、インタラクティブ
📷SONY 360 Reality Audioではマスターファイルの器としてMPEG-Hを用いている。
それでは改めてMPEG-Hをおさらいしておこう。MPEG-Hは、Fraunhofer IISが次世代の音声コーデックとして発表した規格。イマーシブへの対応はもちろんだが、インタラクティブ音声への対応という点が他のコーデックとの最大の差別化ポイントではないだろうか。
まずは、イマーシブという部分を見ていきたい。一番身近なMPEG-Hとして挙げられるのははSONY 360 Reality Audioではないだろうか、フルオブジェクトの制作環境を持つこのフォーマット。各オブジェクトが持つメタデータを含んだ配信用のマスターファイルの器としてMPEG-Hが採用されている。非圧縮のオブジェクトメタデータを含むオーディオコーデックといえばADM BWFファイルがあるが、圧縮でメタデータを持つオーディオコーデックとなるとMPEG-Hがその筆頭となる。
MPEG-Hが持つもうひとつの特徴であるインタラクティブに関しては、放送分野での活用が期待されている。実際の事例として、すでに韓国、ブラジルにおいてはMPEG-Hが地上波放送の次世代コーデックとして採用され、韓国では4K地上波の次世代放送規格として平昌冬季オリンピックのタイミングから、また、ブラジルではリオデジャネイロ夏季オリンピックのタイミングから実運用が始まっている。
📷IBC 2023でソフトウェアベースでのリアルタイムエンコーダーを展開するSalsa Soundのブース。
そこでは最大15chのオーディオを伝送することができるMPEG-H(Level 3)が採用され、視聴者がリモコンでナレーションのレベルを上げ下げしたり、放送局側が用意する複数のプリセットされたバランスで音声を聴くことができるインタラクティブオーディオを実現している。スポーツ中継を例にとれば、解説の有無や応援席のレベルを中心にしたプリセットなどを選択できる。伝送できる15chのオーディオの組み合わせは自由で、5.1chのサラウンド放送にレベル調整を行いたい個別のトラックを加えてインタラクティブ性を持たせる、といったことが可能だ。もちろん、イマーシブ音声やオブジェクトオーディオを放送することもできる。
日本国内における次世代放送規格
現在、日本でも次世代放送規格に関しての議論が積極的に行われており、総務省から2023年7月に「放送システムに関する技術的条件」として、次世代地上波放送の概要が示されている。高度地上デジタルテレビジョン放送方式として、放送電波へのデジタル符号情報の伝送方式に始まり、映像の圧縮形式などとともに音声に関しても概要が示されている。入力フォーマットとしては「22.2マルチチャンネル音響に対応」とあり、現在運用されている4K / 8K衛星放送と同様のフォーマットが踏襲される。
それに加え、オブジェクトベース音響への対応も明記されているのが新しいところ。音声の符号化方式としては本記事で取り上げているMPEG-Hとともに、AC-4が併記されている。AC-4とはDolbyが提唱している次世代コーデックであり、実運用をスタートしている世界各国ではMPEG-HかAC-4かのどちらか一方を採用するケースが多いが、日本では両方式が採用されるという方向だ。なお、それぞれ準拠する規格はMPEG-H : ISO/IEC 23008-3、AC-4 : ETSI TS 103 190-2である。また、ペーパーに示された入力チャンネルは56ch。このチャンネル数はMPEG-H Level 4で規定された最大チャンネル数である。現在運用されているMPEG-H Level 3は16chとなるため、そこからするとかなりの増加と言える。これは、22.2ch放送時にも差し替え音声によるインタラクティブ放送を行うことができるチャンネル数を考慮したためとされている。
総務省HP「放送システムに関する技術的条件」
次世代放送では、放送自体の効率化により伝送可能なデータレートの向上が目論まれている。具体的には現在の地デジの16.85Mbpsから、22.25Mbpsへの向上となる予定だ。映像圧縮に関してはH.266(VVC)の採用。これは、現在一般的なH.264の二世代後継の圧縮技術である。音声も同様に現在のMPEG-2 AACからの圧縮技術の進歩もあり、さらに多くのチャンネル伝送を実現するものとされている。一例とはなるが、SONY 360 Reality AudioのMPEG-H伝送では、24chを1.5Mbpsで伝送している。この高効率な圧縮という部分に関しては、MPEG-HもAC-4もコーデックは違えど同様と言える。両者ともに、オブジェクトオーディオを扱うことができるというところも同様だ。両規格とも国際規格として規定されており、どのように両規格を使い分けていくかという議論が今後行われていくだろう。
執筆時点では、明確に次世代放送への移行タイムラインが提示されているわけではない。だが、他国ではすでに順次移行を開始していることを考えると、それほど遠くない未来に移行が開始されることは間違いない。着実に日本国内でも次世代の地上波デジタル放送の規格整備が進行している。すでに海外では放送がスタートしている事例も数多くある。技術の進歩はとどまることは無い、徐々に次世代の規格として採用されることとなっているこれらを知り、触れておくことは重要となる。
MPEG-Hをどう作るのか
AC-4に関しては、乱暴な言い方をしてしまえばDoby Atmosである。一方MPEG-Hに関しては、まだまだ国内では未知のものとして捉えられることが多いのではないだろうか。しかし、MPEG-Hが用いられていくという流れはすでに大きな流れとしてあり、Pro Tools 2023.6でインストーラーが統合されたりと具体的な形で制作環境が整い始めている。
放送におけるMPEG-Hには2つの制作パターンがある。一つはBroadcast、生放送でのMPEG-Hである。NABやIBCのレポートでもお伝えしてきているが、ハードウェアでのリアルタイムエンコーダーが各社より登場している。SDI信号にエンベデッドされた音声に対してメタデータを付加するという動作により、リアルタイムエンコードを行うこれらの機器は、すでに実際の運用に供されている。現状ではSDI信号に対してのエンコードを行う製品となり、MPEG-H Level 3の16ch仕様となっている。IBC 2023では、ソフトウェアベースでのリアルタイムエンコーダーであるSalsa Soundも登場し、その選択肢が着実に増えている。
📷Fraunhoferからリリースされている制作向けのMPEG-Hエンコーダーはさまざまなユーティリティーが提供されている。Mac OS、Windowsともに対応となり、ほとんどのワークフローにおいて不足することは無いだろう。
一方、制作向けのMPEG-Hエンコーダーは、Fraunhoferからリリースされている純正ソフトのみというのが現状である。とはいえ、やり直しが効く制作環境ということを考えれば、この純正のエンコードソフトで必要十分であることは間違いない。イマーシブオーディオにも、インタラクティブオーディオにもしっかりと対応している。Fraunhoferからはさまざまなユーティリティーが提供されており、マスターファイル視聴用のMPEG-H VVPlayer、Video FileにMPEG-Hを畳み込むためのMPEG-H Encording and Muxing Tool、メタデータ修正用のMPEG-H Info Toolなどの製品も同梱されているため、ほとんどのワークフローにおいて不足することは無いだろう。すでにMac OS、Windowsともに対応している。
イマーシブオーディオ制作においては、MPEG-H Authoring Plug-inというソフトウェアが、DAWのプラグイン(AAXおよびVST3)として提供されている。3Dパンニングを行うことができるこのソフトからファイルをExportすることで、3Dメタデータを持ったMPEG-Hのオーディオデータが作成できる。22.2chのパンニング、7.1.4chへの対応、フルオブジェクトとしてのファイル書き出しが可能と、次世代の放送用オーディオへの対応をしっかりと済ませている。
科学技術を世の中で使えるようにする
このMPEG-Hの開発元であるFraunhofer IISへの訪問を実現したのでその模様をお伝えしたい。Fraunhofer IISは、欧州最大の研究機関であるFraunhoferの一部門となるIIS=Institute for Integrated Circuits、日本語にすると集積回路研究所だ。Fraunhoferの75拠点ある研究所の一つであり、MP3の生みの親として世界中に知られる研究所である。Fraunhoferは応用研究をテーマとし、科学技術をどのように世の中で使えるようにするか、ということを民間企業からの委託研究として行っている。実際にFraunhoferの研究予算の7割は民間企業からの委託研究費で賄われているそうだ。
今回訪問したFraunhofer IISは、ドイツの南部バイエルン州第2の都市であるニュルンベルグの隣町、エルランゲンにある。ニュルンベルグは中世の城壁に囲まれた美しい旧市街をもつ伝統ある都市。IISがあるエルランゲンは大学都市であり、1700年代にその起源を遡ることができる伝統あるドイツ12大学のひとつ、エルランゲン大学がある街だ。また、第二次世界大戦後のドイツを代表する電機メーカー、シーメンスが移転してきたことで発展を遂げた街でもある。
このFraunhofer IISの研究の大きな指針のひとつが「オーディオ・メディア技術」。集積回路研究所という名前からもわかるように、デジタル技術の発展とともに符号化の技術を研究し、それがMP3へと繋がっている。その後もAAC、HE-ACC、xHE-ACC、MPEG-Hと各世代を代表するコーデックを開発してきている。現代の携帯デバイスになくてはならない技術となっている高度な圧縮技術。そして、エンタテインメントを支えてきた技術とも言えるだろう。その現在進行系の技術がMPEG-Hである。なお、すでに次世代の技術である「MPEG-I」も姿を現し始めている。
全フォーマットを正確に再現する研究スタジオ
📷大量のスピーカーが設置された試聴室。30°、45°、60°など各フォーマットに合わせた正確な位置に設置が行われ、Dolby Atmos / Auro 3D / SONY 360RA / NHK22.2などの正確なモニターが可能だ。水平、上層に2つの巨大なリングを設置し、そこにスピーカーを設置することで完全な等距離での設置を実現している。
研究所に到着してまず案内されたのが、研究のために使われているというスタジオ。Dolby Atmos、Auro 3D、NHK 22.2chといった現在規格化されているすべてのフォーマットのスピーカー配置を正確に再現し、MPEG-Hでコーディングした際の聴こえ方などを検証している。ここでのさまざまな実験をスムーズに行えるように、カスタムで作ったなんと6000ch超のルーティングが可能なモニターコントロールボックスでシグナルルーティングを行っているそうだ。
そして、スピーカーはすべて銘機「Musikelectronic Geithain / RL904」で揃えられているあたりがドイツらしい。Musikはご存知の通り旧東ドイツ、ライプツィヒで誕生したメーカーだ。その多数のスピーカーを正確な位置に設置するために、巨大な円形のトラスが吊るされている。このトラスだけで1トンを超えているということ。様々な実験を正確に行うために防音もしっかりとなされ、2メートル近い遮音層が確保されているということだ。遮音よりも響きを重視しがちな欧州のスタジオとは一線を画す、研究所らしいスタジオである。
ここではMPEG-Hでコーディングされた様々なイマーシブ・フォーマットの音源を聴かせていただいた。特定のフォーマットを持たないMPEG-H、器としての柔軟性、多様性を改めて実感した次第である。続いて、インタラクティブ・オーディオのデモとして、スポーツ素材でのダイアログの上げ下げ、ナレーションをオフにしてスタンドの観客音声のみ、などを切り替えられる様子を見せていただいた。また、音楽ライブの素材ではステレオ素材とイマーシブ素材の聴き比べ。これもMPEG-Hであればひとつのパッケージに同時に入れておくことができる。最高の環境でMPEG-Hの多様な可能性を体験することができた。
最終アウトプットまで担保する研究設備
📷シアタールーム。この部屋も現在運用されているすべてのフォーマットに対応するために、大量のスピーカーが設置されている。
また、リビングルームを模した視聴室もご案内いただいた。ここには様々な民生の再生機器が揃えられ、それらの動作のチェックや聴こえ方のチェックなどが行われているということだ。もちろんではあるが、制作向けの技術提供だけではなく再生機器を作るメーカーに対しても同様に技術協力を行っているFraunhofer。これまでも数多くのスタンダード(規格)を作ってきた研究所である。しっかりと最終の出口まで担保して、実際のユーザーの経験に対してもコミットしているということが感じ取れた。
そして、別のフロアには映画館規模のシアタールームがある。ここでは、さまざまなCinema向けのオーディオフォーマットの視聴体験が可能であり、それらの違いについてなどの研究が行えるようになっていた。筆者もここまでのマルチフォーマットのシアタールームは初めてである。ほとんど見ることのない、Aruo 3DやDTS-Xに対応したスピーカーの設置は新鮮であった。符号化技術の研究開発と言ってもやはり聴感としての確認は重要なファクターであり、様々なフォーマットを実際に試せる(聴ける)設備を持っているFraunhoferが「世界最大の音響研究所」と呼ばれるのもよくわかる。様々な環境やケースにおいてどのように音が聴かれているのか?想定されるほぼすべての体験が行える施設がここには揃っていた。
最後に、MPEG-Hはまさにいま羽ばたこうとしているところだが、その次はどのような進化を考えているのか?というお話を聞いてみた。すでにご存知かもしれないが、Fraunhoferでは「MPEG-I」というもう一世代先の技術開発をすでに終わらせている。イマーシブとインタラクティブの次として、AR / MR向けの技術を映像コーデックとともに開発をしているということだ。イマーシブであることは当たり前で、さらにインタラクティブ性を高めると考えるとやはりAR / MRに行き着くのであろう。プロセッサーの処理能力など現時点では課題も多いが、さらなる体験をユーザーに与えるための技術が形になりつつある。ベースとなる要素技術は揃ってきているので、それらをどのようにユーザーが使いやすいように形にしていくのか?ユーザーの端末の処理負荷を軽減するためにはどうしたら良いのか?具体的な課題解決に取り掛かっているそうだ。Fraunhoferの考える次世代のエンターテインメントは、パーソナルに楽しめるAR / MRということのようだ。これはキーワードとして覚えておいて損はない、いまからでもそれらの情報に対してアンテナを張っておいたほうが良いというサジェスチョンであるように感じられる。
📷(左)リビングルームを模した試聴室。サウンドバーなど民生の製品がずらりと揃う。(右)研究用の小規模な試聴室。この部屋も左ページの部屋と同様にマルチフォーマット対応の視聴環境となっている。
筆者にとっては念願とも言えるFraunhofer IISの訪問。MP3を代表に世界を変えたテクノロジーの震源地。3度の増築によりどんどん拡大を続けているこの大きな研究所で、オーディオ分野だけでも300名以上が働いているという。最先端となるMPEG-I、そしてその次の技術、そこから派生するテクノロジーもあるだろう。科学技術を実用に変えていくFraunhoferからは目が離せない。
*ProceedMagazine2023-2024号より転載
Review
2023/09/18
SOUNDTRIP 2023 / Apogee Studio / 製品開発現場におけるDolby Atmos環境
Apogee Electronics社が持つApogee Studio。本社に隣接するスタジオでのDolby Atmosへの取り組み、製品と連携して育まれるテクノロジー。アメリカでのDolby Atmosへの興味、関心などを含めてレポートしていきたい。Apogeeはデジタルレコーディングを牽引してきたレジェンドとも言えるメーカーであるが、改めてそのレコーディング業界における功績を振り返るところから始めていこう。
時代を作った銘機と隣接したスタジオ
1985年に3人の創業者により設立されたApogee。正式な会社名としてはApogee Electronics Corpである。3名の創業者のうちBetty Bennettは、現在も同社の社長を務めており、Bob Clearmountainの妻としての顔も持つ人物である。今はAudio Interfaceメーカーとして認知されているApogeeだが、そのルーツはDigital Filterにある。デジタルレコーディングの黎明期である1980年代に、当時新しいリスニングメディアであったCDのデジタル歪みなど、デジタルメディア特有の問題を解決する技術をリリースしている。Apogeeの924 / 944 Anti-Aliasing Filterは、瞬く間に評価を得てリリース翌年の1986年には業界標準のデジタル・マルチトラック・レコーダーであったSONY PCM-3324、その互換機を製作していたMitsubishiのオプションとして採用されている。このフィルターは「冷たい」「硬い」と言われていたデジタル音声を、アナログライクなサウンドにすることができる魔法のようなフィルターであった。
次にリリースしたのが、AD-500 / AD-1000。このAD/DAコンバーターではUV22と呼ばれる画期的なディザーを登場させる。UV22ディザーは、その名前を見ることは少なくなったもののYAMAHAを始め多くの3rd Partyメーカーが採用した技術だ。Digital Filter、そしてディザーと画期的な技術を発表するApogeeはデジタル・オーディオの持つ持病のようなデメリットを、次々と過去のものへとしていった。
そして1997年にはAD-8000をリリース。Pro Toolsでのレコーディングがスタジオに浸透し始めた時期に登場したこの8ch AD/DAは、サウンドにこだわるスタジオの代名詞ともなっていた。当時、アナログレコーディングにこだわるエンジニアもAD-8000であればデジタルでも大丈夫、とPro Toolsへの移行を加速させた機材のひとつ。その後、Master Clock GeneraterであるBig Ben、ホームレコーディングに向けたEnsemble、Duet、さらにはiOS対応のONE、JAM、Micなどとターゲットを明確にした製品をリリースしていく。
📷往年のApogee製品ラインナップ。リリースした製品数は少ないものの、すべてが歴史を彩る銘機と呼ばれるのもばかり。1990年代のデジタルレコーディングを支えたAD-500/1000/8000は時代を代表するサウンドを作ったもの。その伝統のサウンドは現行の製品にしっかりと受け継がれている。左下のプラグインのようにUV22は様々な他メーカーの製品でも採用されディザーの重要性を業界に知らしめたApogeeの技術を象徴する製品だ。
このようにApogeeの歴史を振り返ると、時代を作った銘機が揃っていることがわかる。確固たる技術、サウンドへのこだわり、イノベーションを持った製品をリリースするメーカーであり、今日のデジタルレコーディングのベースとなる技術はApogee由来のものが数多く存在する。そのベースには、本社に隣接するApogee studioの存在が大きく関わってくる。実際のレコーディングの現場が機材を開発しているオフィスの隣にある。しかもそのスタジオをメインで使用しているのはBob Clearmountain氏であり、そこからのフィードバックを得て製品開発、チューニングを行っているということを考えるとApogeeの製品クオリティーの高さにも納得がいく。また、一部のエントリーモデルを除き、プロシューマ向けの製品はすべて本社で生産しているというのもApogeeのこだわり。一部のブティック・ブランド、ガレージメーカー以外でMade in USAというのは今や貴重な存在だ。
メーカースタジオもイマーシブ対応へ
それでは、Apogee Studioの紹介に移りたい。本社の隣にあるApogee Studioは、Old Neveをメインコンソールに据えたレコーディングスタジオ。近年はライブパフォーマンスの配信なども行っているそうだ。このスタジオも7.1.4chのイマーシブ対応に改装がすでに行われていた。Old Neveのアナログコンソールに、7.1.4chのスピーカーセット。アンバランスに感じなくもないが、それだけイマーシブミックスの需要が高いということだろう。
📷Old NEVEのコンソールが据えられたApogee Studioのコントロールルーム。モニタースピーカーはNeumann KH310での7.1.4chとなる。もちろん、Audio InterfaceにはApogee Symophony mk2。Appleとの関係も深いApogeeらしく、Logic ProでのDolby Atmosミキシングのデモも見せていただいた。
スピーカーはすべてNeumann KH310で統一されている。1980年代〜1990年代にラージモニターとアナログコンソールでの作業を行ってきたエンジニアがNeumann KHシリーズを愛用しているケースが多いように感じるのは筆者だけだろうか?ラージモニターのような豊かなローエンドを持つこのシリーズ、特に3-wayのKH310がお気に入りだということだ。実際にそのサウンドも聴かせてもらったのだが、様々な機材が置かれたコントロールルームでのイマーシブ再生ということを考えると反射が多く理想的とは言えない環境ではあったが、Apogee Symphonyの持つストレートでトランジェントの良いサウンドとNeumann KH310の豊かなボリューム感により、直接音の成分が多く部屋の響きが持つ雑味をあまり感じることもなくイマーシブ再生を聴くことができた。部屋としてのアコースティックを大きく変えることは難しいが、このように機材のセレクトによりその影響を軽減できるということはひとつの大きな経験となった。
もちろん、イマーシブミキシングの際にNeveアナログコンソールの出番はない。このコンソールはステレオ仕様となるためモニターセクションとしての利用もできない。それでもレコーディングを行うということにおいて、誰もが憧れる素晴らしいサウンドを提供することに疑いの余地はないだろう。ミキシングルームを別に用意することが多いイマーシブのミキシングルーム。別記事でも紹介しているVllage Studioもイマーシブ・ミキシングのためのスタジオは、収録用の部屋とは別のAvid S6が設置された部屋である。
それでもイマーシブ対応を果たしている理由は、Apogee Studioが音楽制作のためのスタジオであるとともに、Apogeeの製品開発のための施設でもあるということにほかならない。単純に制作スタジオということであれば、合理的な判断の上で別にイマーシブ・ミキシングルームを作ることになるだろうが、Apogeeがイマーシブ制作の環境を持つということの意味として、Apogeeのプロダクトの使用感、機能のチェックなどにも利用するということになるからだ。
ここで使われているのはもちろん、Apogee Symphony mk2。そしてバージョンアップにより機能が追加されたイマーシブ対応のモニターセクション。そのテストヘッドとしてこの環境が活用されている。さらに、音質面であったり深い部分でのユーザー・エクスペリエンスを確認するために、このほかにも2部屋、合計3部屋のイマーシブミックス環境を整えている。部屋の大きさ、部屋の設備、接続される機材、音の環境、そういったことを様々なケースでテスト、検証のできる環境がここには揃っている。ユーザの目線での製品開発、使い勝手の検証、そういったことを即座にフィードバックできる環境を持っているということもApogeeならではと言えるのだろう。
アメリカ西海岸のサウンドの秘密
もうひとつ用意されたイマーシブ環境のスペースを見ていく。こちらはGenelec the ONEで7.1.4chを構築した部屋。アメリカのスタジオらしく、遮音、吸音といった日本のスタジオのような音響設計は入っていない。正面の角に設置されたベーストラップと調音パネルが数枚設置されているのみである。この部屋はミキシングルームとしての操作デスクをミニマムにしている。PC、Audio Interface、Displayがデザインされたひとつのデスクに収められ、これだけでミキシングのシステムが完成している。
この部屋でもそのサウンドを聴かせてもらった。部屋自体の響きはあるはずなのだが、締まった低域とダイレクトに耳へ届く中高域。吸音は最低限なのに濁りを感じることのないサウンドには驚いた。低域に関しては、やはり床の影響が大きいのではないかと想像している。日本のスタジオは、遮音のために浮床構造を用いて外部からの音の侵入を防いでいる。そのために、部屋自体がその名の通り宙に浮いているような状態となっている。音というのは振動であり、その振動を遮断するということが遮音ということになる。アメリカのスタジオはどこも床はコンクリート。平屋の建物が多いロサンゼルスということもあり、地面からそのままコンクリートを流し込んだ床になっているのだろう。日本であれば、湿気を抜くためにも床下には空間を設けるのが常識となっているが、乾燥したアメリカ西海岸ではその必要が少ないのかもしれない。この床の安定感、重厚さ、そういったものが低域のタイトな響き、アメリカ西海岸のサウンドの秘密なのかもしれないと感じたところだ。
Old Neveのミキサーが鎮座するスタジオとは全く方向性の異なるサウンドではあるが、やはりここもApoogee Symphonyのサウンド。使い勝手はもちろん、そのサウンドキャラクターを確認するのに、これだけ異なった環境で聴き比べを行うことができるというのは、サウンドチューニングにとっても大きな意味を持っているのだろう。
📷リビングルームのような、開放感のある部屋に設置されたGenelecでの7.1.4chのスピーカーシステム。デスクは最小限のスペースにPC本体を含めて設置できるように設計されたカスタムデスクが置かれていた。アコースティックチューニングは最低限。音を聴きながらのチューニングの結果がこのような形で結実している。
ユーザーの利用環境もシミュレート
📷iLoudで構築された7.1.4chのミキシングルーム。イマーシブ制作を行うミニマムなシステムにおいてApogeeの製品の使い勝手などを確認するためのシステムアップがなされている。
最後に、片付いていないので、とかなり遠慮されていたのだが、ホームスタジオであればどのような環境になるか?ということをシミュレーションするためのミキシングルームを見せてもらった。ここでは、iLoudのスピーカーで7.1.4chが構築されている。イマーシブミキシングを行う上で、ミニマムな環境でのテストケースを検証しているということだ。このように、ユーザーの利用環境をシミュレートしながら、実際に作業をしてみてどうなのかというケーススタディを積み重ねていることがよく分かる。そして、次の制作環境としてターゲットとしているのが、すべてイマーシブ環境だということは特筆すべきポイント。アメリカでのイマーシブ制作の盛り上がりを強く感じずにはいられない。実際のところ、Bob Clearmountain氏へ過去に自身がレコーディングをおこなったヒットソングのイマーシブミキシング依頼が殺到しているということだ。このような新しいフォーマットへのムーブメントが感じられるのは本当に素晴らしい。過去作品のイマーシブミキシングも素晴らしいことだが、新譜、特にイマーシブを前提に制作された楽曲の盛り上がりも楽しみにしたい。
Apogeeの歴史、イノベーション、テクノロジーといったベースから、ユーザー目線での製品開発、イマーシブ時代の到来を感じさせるApogee Studioの進化。そのようなものを感じ取っていただけたのではないだろうか。この場で伝えたいことが数多く内容も多岐に渡ったが、このようなメーカー開発の現場での事例からも、アメリカでのDolby Atmos、イマーシブサウンドへの期待感が滲み出ていることが感じられる。是非ともこの感覚を共有していただければ嬉しいかぎりだ。
*ProceedMagazine2023号より転載
Review
2023/09/13
SOUNDTRIP 2023 / media HYPERIUM / Immersive Sound@ L.A.
2023年のグラミー賞でBest Immersive Audio Albumを受賞した、Stewart Copeland, Ricky Kej & Herbert Waltl「Divine Tides」。その制作を担当したプロデューサー / Herbert Waltl 氏とエンジニア Eric Schilling 氏にインタビューの機会を得た。イマーシブオーディオに対しての向かい合い方、ミキシングに対する考え方、制作者目線での貴重なコメントをいくつもいただくことができたのでご紹介していきたい。
ステレオとイマーシブで2度のGrammy Winnerに
長年にわたり、音楽業界に多大なる足跡を残しているミュージシャンであり、プロデューサーのHerbert Waltl 氏と、グロリア・エステファンを始め、ラテン、ポップスなど多彩な音楽の制作に携わるエンジニアのEric Schilling 氏のお二人にHerbert Walti氏が1996年に立ち上げたmedia HYPERIUMでお話を伺った。まずは、お二人のこれまでの実績、今年のグラミー賞を受賞した作品について振り返る。
📷写真左よりROCK ON PRO 前田洋介、Herbert Waltl 氏、Eric Schilling 氏、株式会社メディア・インテグレーション北木 隆一
Herbert Waltl 氏は3度のグラミー賞受賞、3度のグラミー賞ノミネート、数々のプラチナディスクの制作に携わったプロデューサーである。テクノロジーに精通し、新しいフォーマットへの積極的な取り組みでも知られる。1996年にmedia HYPERIUMを立ち上げ、サラウンド作品の可能性を求めて様々な研究を行ってきた。その後、イマーシブオーディオにも積極的に取り組み、Ray Charles / Lady Gaga / Pink / Sting / Jason Derulo / Sheryl Crow / Chick Corea / S.F. Symphony / BR Symphony Orchestra / Royal Concertgebouw Orchestraなどの作品に携わっている。グラミー賞でもBest music DVD Awardなどにノミネートされていることからわかるが映像関連の制作の評価も高く、映画のサウンドトラックなどの制作も行っている。まさに、サラウンド〜イマーシブと音楽フォーマットの進化とともに歩み続けている、技術をしっかりと理解したプロデューサーと言えるだろう。
Eric Schilling氏は、アメリカのトップエンジニアの一人。2000年以降に4度のグラミー賞受賞、7度のラテングラミー賞受賞。代表的な作品としては、Gloria Estefanとの16枚のアルバムが挙げられる。それ以外にもNatalie Cole / Jon Secada / Elton John / Natalie Imbruglia / Shakiraなどのアルバムを手掛けている。ラテン音楽のエッセンスを取り入れたポップスに代表作が多い。サンフランシスコ出身だが、伝説的なプロデューサーBill Szymczykとの出会いから、彼のフロリダのスタジオBayshore studioへと移籍、そこで上記したようなマイアミ発の数多くのヒット作品に携わるようになる。現在も自宅と自身のスタジオはマイアミ、オークランドにある。近年はAlicia Keysのアルバムの360 Reality Audioフォーマットへのリミックス作業を、彼女のメインエンジニアであるAnn Mincieliを中心に、George Massenburgらと今回インタビューで伺ったmedia HYPERIUMで行った。他にも数多くのイマーシブ作品に関わっている。
Divine Tides / Stewart Copeland, Ricky Kej
2023 Grammy Winnerとなった「Divine Tides」は、Stewart Copeland / Ricky Kej & Herbert Waltlによる、様々なカテゴリーの音楽を集めた宝箱のような作品。クラシック、ラテン、ゴスペル、そのベースにはRicky Kejの出身であるインド音楽など多種多様なエッセンスが詰まっている。元The PoliceのドラマーStewart Copelandは近年映画のサウンドトラックの制作を精力的におこなっており、さらにはオーケストラ向けの楽曲や、バレエ音楽、オペラなども手掛けている。そんな世界観にインド出身の新進気鋭のミュージシャンRicky Kejのエキゾチックなエッセンスをベースとしたメロディー、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団によるオーケストレーション、Southan Gospel(南アフリカをベースとするゴスペル)でグラミー賞ワールド・ミュージック部門の常連であるSoweto Gospel Choirによるハーモニー、Rasika Shekarなどインド出身のミュージシャンによるコラボーレーションが重ねられ、2021年にリリース。そして2023年の本年にグラミーを受賞した作品だ。
これを、Herbert WaltiとEric Schillingがmedia HYPERIUMでイマーシブにミキシングした。この作品は、ステレオ音源で聴いてみていただいてもわかるように広大な世界観を持つ。Stewart Copelandによる空間が拡張していくようなパーカッションサウンド。もともとイマーシブオーディオのために作られたような世界観を持つこのアルバムが、二人によるイマーシブミックスでその本来の姿を現しグラミーを再び受賞している。ステレオでの新譜とイマーシブミックスが2度にわたりグラミーを受賞したのはかなり珍しいケースなのではないだろうか。
7.2.5 + 4B、media HYPERIUM
インタービューをおこなったmedia HYPERIUMはロサンゼルスの南、ロングビーチの西にある小高い丘陵地Rolling Hillsにある。高級住宅地であるこの場所の一角にあるオフィスビルにこのスタジオはある。プール付きの豪邸が立ち並ぶ本当に静かな住宅街の商業エリアに突然スタジオがある、といったところだ。このスタジオにはミキシング用の部屋があるのみで、別の場所でレコーディングされたものをここでミキシングしているそうだ。
スピーカーはNeumannが選択されている。イヤーレベルのスピーカーはKH420、解像度が高く、大音量でなくともサウンドの迫力を感じることができる素晴らしいモデルだと絶賛されていた。イマーシブではスピーカー数が多いため、すぐに音圧過多になり疲れてしまうが、少し控えめの音量でもしっかりとサウンドを確認できるNeumann KHシリーズはお気に入りのモデルだということ。配置されたスピーカーのレイアウトは7.2.5 + 4B。イヤーレベルに7本のKH420、トップレイヤーにはKH310、ボトムはKH120とNeumannのKHシリーズで統一されている。ちなみに、特別な音響処理がなされている訳では無いオフィスとして作られたこの部屋の響きを気に入って使っているということだが、なぜこのようにバランスの取れたサウンドがするのかはあまり考えたことはなく、スピーカーを置いて鳴らしてみたら良い音がした、それがすべてだとシンプルかつ明確な答えをいただいた。
📷オフィス施設の一室に作られたスタジオ。写真の通り、水平面に7chのNeumann KH420、上部にはSONY 360 Reality Audioに合わせ仰角30度に設置された5chのKH310と、Dolby Atmosに合わせて仰角45度に設置された4chのKH150。壁面には厚手のカーテンが張り巡らされてはいるが、吸音・遮音などは行われていない。聴音用のパネルが左右に設置されているのみのシンプルなスタジオである。
音響空間の再現にとって必然の配置ができる
さてここからは、どのようなお話を聞くことができたかお伝えしていきたい。映画音楽にも関係があった二人はサラウンド、そしてDolby Atmosなどのイマーシブフォーマットに以前より取り組まれていた。ステレオに対しての可能性の広がりをフォーマットの拡張とともに感じ、それぞれのフォーマットで作品をリリースしている。
中でも360 Reality Audioは、完全な360度 4πの空間を持つフルオブジェクト指向のフォーマットということでいち早くその先進性、可能性を感じ取って作品制作に携わってきている。音楽の表現として下方向が加わったということは大きいと言う印象を持たれていた。確かに下から聴こえてくる直接音というものは少ないかもしれないが、音響空間の再現にとっては非常に重要であるということを感じている。低音の表現に関しても、やはり音を配置できる空間が広いことで柔軟性が上がるというよりは必然性を持って音の配置が行えるようになった、という感覚ということだ。楽曲として、作品として、然るべき位置から然るべき音が鳴る。表現の自由とも言い換えることができるのかもしれないが、その一方で、これまでにそれほど音の配置に悩んだことはない、というコメントは印象的であった。普段の暮らしで接している音空間、それこそが4πの空間でありそれを再現する。その中に音楽としての刺激、感覚を盛り込んでいくという作業は非常に楽しい作業だとのこと。Dolby Atmosとの同時制作の場合にも、360 Reality Audioから制作をして順に再現できる空間を狭くするという手法をとっているということだ。
📷左手後方には機器ラックがある。この角度から見ると上部のスピーカーの位置を各フォーマットに合わせて設置されているのがよく分かる。
エンジニアのEric氏は、携わったアーティストのライブパフォーマンスのサポートなども行っていることもあり、音楽を生で楽しんでいる環境の音、そんなものまでも再現したという欲求もあるという。それを考えるとイマーシブオーディオは最適なフォーマット、というよりもイマーシブだからこそ会場の熱気のようなものまで伝えることができるようになってくるのではないかと大きな可能性を感じているということだ。アメリカはライブパフォーマンスを楽しむということを非常に重要視するカルチャーがある。ライブを楽しむということは、ミュージシャンのパフォーマンスを楽しむということであり、才能に触れ、それに感動するということでもある。音楽という一瞬にして消えていくパフォーマンスとの出会い、それを非常に大切にしているし、それに対しての対価を惜しまない。そんな文化が根底にあると感じている。
これはヨーロッパでも同様で、ヨーロッパに根付くクラッシク音楽の下地は同じようなところから来ているのではないだろうか。少し脱線してしまうが、アメリカ人の強さは、日本語で言うところの「一期一会」であると筆者は感じている。一度切りの出会い、チャンスをいかにつかめるか?その瞬間にかけるパワーが桁違いに感じられる。いま楽しむと決めたら、その時間は徹底的に恥も外聞もなく楽しむ。瞬間のパワーがすごいから、素晴らしいパフォーマンスに出会ったときの反応もすごい、それが連鎖的に全体の空気となり、さらに素晴らしい音楽、時間、空間を生み出す。遠慮がないといえばそうなのかもしれないが、音楽、エンターテインメントに触れるということにおいて遠慮は必要ないもの。会場の熱気、熱狂をそのまま詰め込んだイマーシブオーディオのアルバムが誕生するのは時間の問題かもしれない。
📷作業デスク前方はこのようになっており、ボトムの3chのKH150の姿が見える。さらに2本KH150が置かれているが、これはボトム・バックサイド用で360RA作業の際に接続して使っているということだ。
音楽の持つ可能性はイマーシブオーディオの誕生により確実に進化する。表現のできるキャンパスが広がったことで、これまでと違う音楽がこれから次々と登場してくるだろう。イマーシブオーディオを楽しむ環境も今はイヤホンやヘッドホンだが、これはアメリカには合っていない。車社会であるがゆえに、カーオーディオへのイマーシブオーディオの普及が重要なポイントになるという。カーオーディオが進化すれば、運転をしながらでも新しい体験、楽しみとしてイマーシブオーディオがさらに普及するだろうということだ。ロサンゼルスのようにどこへ移動するのも車で、そして渋滞も当たり前、1時間程度のドライブは日常茶飯事という環境であれば、カーオーディオというのはひとつのキーワードである。「なんせ、いつも車の中にいるからね、、」と少々うんざりとした表情で話してくれたが、その一方でイマーシブオーディオにおけるリスニング環境の未来については明確なビジョンが見えている様子でもあった。
📷機材ラックには大量のdCsのDAコンバーターが。往年の銘機であるdCsのDAコンバーターを以前より愛用しており、ここでもスピーカーへの出力はこれでDAしているとのこと。作業用のデスク上には、Avid S1が3台並ぶ。やはり作業デスクは前方からの音にとって障害となるので、できるだけコンパクトにまとめている。PCディスプレイを左右に振り分けているのも音の聴こえ方を考えてのこと。MergingのANUBUSはモニターコントローラーとして採用されている。
映画から普及が始まったイマーシブオーディオだが、固定された画面のある映画よりもヴィジュアルの存在しない音楽のほうがより自由であり、可能性が広がっているのではないかという。映画もイマーシブにより映像に描かれた世界の再現性というところに大きく寄与しているのは間違いないし、映像を印象づける強力なインパクトの一端になっている。しかし音にとって、大きな印象の差異を引き起こす映像がないということは、ユーザーそれぞれが音楽を自由に受け取り、それを楽しむことができるということでもある。映画音楽なども手掛けてきたからこそ感じる、音楽としてのイマーシブの可能性。二人のお話からは新たなフロンティアとして音楽表現の手法がより拡がったことを楽しんでいる様子がよく伺えた。
*ProceedMagazine2023号より転載
Review
2023/09/11
SOUNDTRIP 2023 / GOLD-DIGGERS / LAにおけるSONY 360 VMEサービス測定スタジオ
サービス開始時点で世界に3拠点用意されたSONY 360 VME(Virtual Mixing Enviroment)の測定スタジオ。東京 / MIL Studio、NY / The Hit Factory、そしてLAにおける拠点がこのGOLD-DIGGERSだ。 ここではLAのスタジオを実際に訪問し、GOLD-DIGGERSがどのようなスタジオで、イマーシブ制作に対してどのような考えを持っていて、また、VMEというエポックメイキングなサービスをどのように捉えているのか、様々なお話を聞くことができたのでご紹介していきたい。
●メディア・インテグレーション 360VMEサービス概要ページ
●メディア・インテグレーション 360VME測定サービスご案内ページ
●ソニー社:360VME解説ページ
再生された7部屋のレコーディングスタジオ
📷1920年代に建てられた当時の雰囲気を残す外観。この黄色い看板もビキニバー時代のものがそのまま残されているということだ。
まずは、GOLD-DIGGERSがどのようなスタジオなのかをご紹介したい。East Hollywoodにあるこのスタジオは、ホテル、バー、ライブハウスが併設された珍しい営業形態のスタジオである。望むならば日中レコーディングを行い、新曲を夜にライブハウスで披露、そのままホテルに宿泊、といったこともできてしまう他に類を見ないスタイルだ。このスタジオがあるのはロサンゼルスを東西に貫くサンタモニカ・ブルーバード沿いの1920年代に建てられたという歴史ある建物なのだが、遡るとここで営業していたビキニバーとその上階のホテルがそのスタートとなるそうだ。そして、そのバーの後ろにあった若いミュージシャンが多く利用していたというリハーサルスタジオが、現在のレコーディングスタジオの原型となっている。
ただし、若いミュージシャンと言ってもここはロサンゼルス。デビュー前のThe Doors、Jimi Hendrix、Slayer、Hollerwood Rose(Guns'n Rosesの前身)などが利用していた場所だったという。残念ながら1990年台にはほとんど廃墟のようになっていたそうだが、これらの設備に目をつけ、手直しを行い最新の設備を持った7部屋のレコーディングスタジオと、ライブバー、そしてブティック・ホテルという現在の営業スタイルに再生させている。歴史のある場所、建物、そういったものを大切に次の時代にあった施設へと生まれ変わらせていく。アメリカらしい伝統の引き継ぎ方を感じさせるスタジオだ。ちなみに、サンタモニカ・ブルーバードに向かって掲げられている看板は、オープン当初のビキニバーのものがそのまま使われているそうだ。
📷1Fにあるライブスペースのバーカウンター、これも歴史を感じさせる重厚さ。ライブスペースのステージも照明器具も球体状のシャンデリアと洒落た作り。
360RA & Atmosコンパチブル
📷後方を振り返ると上から、Atmos用、360RA用、水平面、ボトムと4層のスピーカーが配置されているのが分かる。
GOLD-DIGGERSは7部屋のレコーディングスタジオを持つが、そのうち2部屋がイマーシブ対応となっている。今回じっくりと見させていただいたStudio 6はSONY 360 Reality Audio 5.0.5 + 4BとDolby Atmos 9.1.4両対応のスピーカーシステムを持つ。写真からもわかるように天井にSONY 360 Reality Audio用の5chのスピーカー(仰角30度)と、Dolby Atmos対応の4chのスピーカー(仰角45度)がそれぞれ独立して用意されている。この仰角の違いは音響表現にかなりの違いをもたらす。特にリアルレコーディングした音源を再現しようとした際に、音場のつながりなどに大きな影響がある。また、下方向にあたるボトムスピーカーを4ch導入しているのも特徴的。前方向だけではなく、全天周の表現ができる360 Reality Audioをしっかりとスピーカーで再現するためには、ボトムスピーカーが後方にもあったほうが効果的ということだ。確かに真下に音像を配置した際に、ボトムスピーカーで後方に配置したものがないとイヤーレベルで後方のソースが鳴ってしまう。下方向のものはしっかりとボトムスピーカーからだけ鳴らしたい、ということを考えれば理にかなったスピーカー設置である。
この部屋では、音楽作品の制作はもちろんだが、East Hollywoodという土地柄から映画のサウンドトラックの仕事も多いという。中でもイマーシブ制作への需要は高く、こちらのStudio 6は人気の高い部屋だということだ。また、写真を見ると黄色い光が強く差し込んでいることがわかる。得てして外部とは遮断された穴蔵のような空間になりがちな制作スタジオだが、こちらでは屋根から光を導くミラートンネルが用意されていて、外光をスタジオにいながら浴びることができる仕掛けがあった。晴天率の高いロサンゼルスらしいギミックだ。
📷元々ボーカルブースであった部屋をマシンルームとして使用している。フロントのL,C,Rch以外はパッシブのスピーカーとなるためアンプもこちらに収められていた。
ヘッドホンで高い精度でのプリミックスを
肝心の360 VMEの話を聞いてみると、これは本当にエキサイティングな出来事だと興奮気味に話していただいた。コマーシャルベースのスタジオということもあり、自分たちのスタジオのファシリティー、そのサウンドを持ち帰ってもらうことができるこの360VMEは革命的な出来事だという。前にも述べたようにイマーシブ制作の需要は高く、部屋が埋まってしまっているために受けられない仕事もあるということだが、360VMEサービスを使えば他の部屋でもヘッドホンでかなり高い精度でのプリミックスを行うことができる。作業の最後に一日だけスピーカーの設置されたStudio 6で作品を仕上げ、完成させるといったこともできそうだ。音楽にとって高い可能性を持つイマーシブフォーマットでの制作を停滞させることなく、逆にアクセラレートすることもできる素晴らしい技術だと表現していた。
📷今回スタジオをご案内いただいたチーフエンジニアのEd McEntee氏と筆者。
イマーシブの持つ表現力、空間の広がりは全く新しいもので、2つの大きな可能性を感じている。一つは、従来の録音というサイエンスが追い求めている空間をそのままキャプチャーして再現(「リプロデュース」という言葉を使っていたのが印象的であった)するもの。音響においてのキャンバスが、やっと実世界と同等の広がりを持ったことで実現できる高い精度でのリプロデュース。これは、今後さらに高いレベルでの制作物が登場するのではないかという期待とともに、自身もそんなチャレンジを行ってみたいと熱く語っていただいた。
もう一つは、新しい4π空間というキャンバスに対して新しいアートを誕生させるアーティストが出現してくるのではないかという期待。GOLD-DIGGERSはサイズの異なるスタジオを複数用意することで、予算の大小に関わらずアーティストを受け入れることができるようになっている。新進気鋭の才能あふれるアーティストの受け入れも積極的に行っており、その中から新しい音楽が生まれてくることに期待しているということだ。過去のメジャータイトルのイマーシブでのリミックスも多く行われているが、やはり思い出とともにあるステレオミックスの感覚を捨てられないでいる作品も多い。もちろん、イマーシブに触れるきっかけとしてリミックスという手法は素晴らしいが、その魅力を100%伝えられているかというとそうではなく、もっと素晴らしいものが生み出される可能性を秘めていると感じているそうだ。
STUDIO DIGEST !!
📷チーフのEd氏が一番のお気に入りだというStudio2。ビンテージのNeve8014が鎮座する。MicPreは最初の8chがNeve 33102、次の8chは1073という仕様。センターセクションには2254Eが2ch分埋め込まれている。その上にはBrentAvirilがMicPreとしてノックアウトしたことで有名になったラインアンプ1272が並ぶ。Neve好きにはたまらない仕様にカスタムされている。別スタジオのStudio1にはAPI 2448 32chがある。
📷もう一つのイマーシブ・ミキシング・ルームであるStudio 9(7,8は欠番)。こちらはPMC6をL,C,Rchに9.1.4ch仕様の部屋となる。
📷収録のためのSoundStage。楽器庫かと思うほどの充実したビンテージアンプ、機材のコレクションを備え、すべてのスタジオの共用ブースとしてコントロールできるように設計されている。
📷マイクコレクションの一部、こちらにはAKG D12がズラリ。マイクのコレクションは新旧問わずに評価の高いモデルが取り揃えられている。
📷こちらもビンテージのAKG C12A。Telefunkenと並び銘機となるAKG C12の後継機、C414シリーズとの端境期に生産されていた製品。そのサウンドはC12の型番通りの音が出る。
360 VMEサービスで、イマーシブ作品を作る敷居はぐっと低くなる。GOLD-DIGGERSのStudio 6をヘッドホンとともに持って帰ってもらうことで、イマーシブ制作のホームスタジオとしての価値も高まる。制作のペースも上がることが予想できる。サービスインが待ちきれないということが本当に強く感じられた。今後は、東京のMIL Studio、NewYorkのThe Hit Factory、そしてLAのGOLD-DIGGERS。このスタートラインに立っている3つのスタジオでも連携してノウハウを積み重ね、360 VMEをイマーシブ音楽制作の起爆剤にしていきたい。
*ProceedMagazine2023号より転載
Review
2023/09/06
SOUNDTRIP 2023 / Village Studios / LAの音楽史を作った、そして作り続けるスタジオ
アメリカ西海岸でも特にロサンゼルスは音楽の歴史を語る上で外せない街の一つだろう。ゴールドラッシュに代表される、アメリカ西部開拓史の最終目的地の一つでもあるこの街からは、今でもフロンティアスピリッツに代表される新しいものへの貪欲さ、そして挑戦するという気概が感じられる。音楽にあってもウェストコーストロックなどとひとくくりにされることも多いが、やはりロンドンともニューヨークとも異なったマインドの音楽がこの街から誕生している。そんなロサンゼルスを代表する老舗のレコーディングスタジオ「Village Studios」を訪問したのでその模様をレポートしたい。
LAにおける音楽カルチャーの生誕地
まずは、この「Village Studios」の歴史を少し紹介していきたい。立地としてはWest Hollywoodということになるが、高級ブティックが立ち並ぶビバリーヒルズよりも海側となり、ビーチで有名なSanta Monicaに限りなく近い場所にある。このスタジオは1922年にMasonic Templeとして作られた建物を改装してRecording Studioとしている。Masonic Templeとは、フリーメイソンの教会であり、一般の教会とは異ってラウンジのような作りになっていたようである。その後、1960年ごろにはMaharishi Mahesh Yogiによる超越瞑想のセンターとして使われていたそうだ。超越瞑想といえばフラワームーブメント世代のアーティストが、ヴェーダに由来するマントラ瞑想法として取り入れ、かの時代を代表するサブカルチャーとして一世を風靡したことで知られる。The Beatlesのメンバーがそれを学んだのは有名な話で、インドでのPV撮影などそれを印象づけるものが多く残されている。
この施設を実業家であるGeordie Hormelが1968年に買取りスタートしたのが今のVillage Studiosである。このあとに一部屋づつ紹介するが、このスタジオにはまさに歴史を作ったといえるNeve 8048コンソールがあり、それ以外の部屋にもNeve 88Rコンソール、最新のイマーシブミキシングルーム、Neve Genesysの部屋などがある。このスタジオでのレコーディングされた作品を紹介しようとすると誌面がそれだけで埋まってしまうので、受付前に飾られていたプラチナディスクのコレクションからいくつか紹介すると、The Rolling Stones "山羊の頭のスープ"、The Red Hot Chill Peppers "CALIFOLNICATION"、Stealy Dan "AJA"、Phil Collins "Face Value"、Nine Inch Nails "with teeth"、Smasing Pumpkins "メロンコリーそして終わりのない悲しみ"、その他にもVillage Studiosで多くのレコーディングを行ったアーティストとしては、The DoorsのJim Morrison、Bob Dylan、Santanaなど枚挙にいとまがない。スタジオに置かれているハンドブック「Greenbook」がWebにも公開されているが、まさに錚々たるミュージシャンが名を連ねている。
それ以外にも、映画のサウンドトラックも多く手掛けている。音楽スタジオであるためミュージカル・ムービーのサウンドトラックが多いのだが、近年のヒット作としてはLady GAGAとBradry Cooperの名演と高い音楽性でアカデミー賞を受賞した「アリー/スター誕生」のサウンドトラックもこのスタジオから生まれている。それ以外にも「ショーシャンクの空に」「君につづく道」「カーズ」「トイ・ストーリー2」など、どれも聞いたことがあるビッグタイトルばかりではないだろうか、ハリウッドお膝元のスタジオならではの作品群である。
Studio A
Village Studiosを代表するのは、間違いなくこのSutdio Aだろう。歴史的なNeve 8048が据えられており、数え切れないほどの名作がここで生み出された。しっかりとメンテナンスされ、状態の保たれたコンソール。気品すら漂うその様は改めて音楽の制作方法について問いただされているような気がした。近年ではやはり収録には、Pro Toolsを使うことがほとんどだということだが、コンソールの脇にはFlying Faderを扱うためのコンピューターがしっかりと鎮座している。演奏を録音する、そこで生み出された音楽を残すための行為、それこそがレコーディング。素晴らしい演奏を生み出すのをアシストし、余すことなく記録する。そのための施設がレコーディングスタジオである。そんなことを改めて感じさせる部屋であった。このNeve 8048について、あれこれと語るのはここではナンセンスな気がする。隣のスタジオで生まれる素晴らしい音楽を収録するために、必然性を持ってここにある、そんな存在だ。
この日は、レコーディングセッションを始める前に見学をさせてもらったため、すぐにでもセッションが始められるようにすべてがセッティング済み。さすがに誰のセッションが行われるのかまでは教えてもらえなかったが、きれいに片付けられたスタジオよりも実感があってよかった。コントロールルーム側には、コンソール以外にも溢れんばかりのビンテージ機器。当たり前のようにオリジナルのPultecがあり、Lexiconのリバーブがある。少しタイムスリップをしたかのような感覚にさえ感じられる。
スタジオ側もマイクがスタンバイされている。VocalとGuitar、そしてPianoというトリオ構成のセッティング。それぞれに向けられているマイクが機材好きにはたまらないチョイスだ。Vocalには、オリジナルのELAM251(!!)、PianoにはOff micがRCA BX44、On micがAKG C12。GuitarにはNeumann U 67(もちろんオリジナル)。最低限かつ最強のセッティングではないだろうか、垂涎の眼差しが止まらない。こんなところからも老舗のレコーディングスタジオならではの凄みが感じられる。この日、案内をしてくれた若いスタッフも、この機材コレクションには今でも感動していると自慢気に話をしてくれた。
Studio D
次に案内されたのが、Villageで一番広いスタジオとなるStudio D。こちらのコンソールはNeve 88R。国内ではほとんどお目にかからないモデルではあるが、現行モデルであるNeve 88RSに連なるNeveのアナログコンソールの始祖にあたるモデルだ。Small / Large Faderを備えたインライン仕様のマルチトラックレコーディング対応モデルで、もちろんFlying Fader仕様の72Faderコンソール。マイクプリはNeve 1081が備わっている。サイドデスクとしてBMCコンソール(1073仕様)が設置されていた。こちらは、マイクプリとして活用されているようだ。モニタースピーカーはカスタムメイドのモデルで、ユニットはTADのドライバーが使われている。あとから追加されたのであろう、スーパーツイーターが増設されているのが印象的であった。オリジナルを大切にしながら時代に合わせてモディファイを行う。そんな一幕を垣間見た気がした。
スタジオ側は広いスペースでゆったりとミュージシャンが配置されている。床にラグを敷いてそこに席を置いている。アメリカのレコーディングスタジオらしいところだ。日本であれば、パーテションで仕切ってしまいたくなるところだが、それをしていないのもやはり文化の違いを感じるところ。素敵な装飾、ライトが設られたブースとしても使えるスペースもあるのだが、この日のセッションでは荷物の置き場として使われていた、なんとも贅沢である。それ以外にもミーティングスペースとしてプライベート空間が確保されている、その重厚な雰囲気からは歴史を感じさせられる。
Studio F
3部屋目にしてやっと現行の製品に出会うことができた。こちらの部屋が最新のイマーシブミキシングに対応したStudio Fである。Avid S6をメインコンソールとして5.1.4chのイマーシブミキシングルームとなっていた。この部屋はミキシング専用ということではあるが、他のスタジオとのタイラインが確保されており、バックアップのレコーディングなども行えるようになっているということだ。タイラインはあえてアナログ。音質などを考慮すると音楽においてはまだまだアナログがベストチョイスだという判断をしているということだ。スピーカーはKALI Audioのモデルが使われていた。
2F Studio
こちらは、コンパクトなコントロールルームでNeve Genesysが設置された部屋。コンパクトとはいってもNeve Genesysの48Fader仕様、それだけでも中々な迫力だ。この部屋はオープン当初はスタジオではなかったそうだが、途中で部屋を増やすにあたり改装されて今の形になっているそうだ。一台づつコメントを付けて紹介したくなるようなアウトボードのコレクションがサイドボードに。モニタースピーカーはOcean Wayが採用されている。
Stage
当初は物置部屋として使われていた部屋にステージを設置し、いまはライブの配信などを行っているスペース。ここは、まさにコロナ禍の様々な制約により生まれたスペースである。これだけの天井の高いスペースが余っているということ自体が驚きではあるのだが、思いついたことをすぐに実行するそのモチベーションは素晴らしい。カメラや、ビデオスイッチャーなどを用意してライブパフォーマンスの配信を行っているということだ。
Studio
古代の神殿のような荘厳な造りのスタジオ。天井も高く容積もあるため響きの良い空間である。日本ではどうしても響きを殺してそれぞれのサウンドのセパレーションをよく収録をしたいと考えてしまうが、響きがあることで生まれる音楽もある。特にクラシック楽器などは、ホールの響きと合わさって一つの楽器の音色が完成されるという考え方もある。そんなことを思い出させる空間であった。この部屋に置かれているピアノは、オスカー・ピーターソンが愛用していたピアノを譲り受けたものだそうだ。こういったちょっとしたエピソードにもレジェンドの名前が挙がってくる。
Lab
最後に紹介するのはこちらのLab。残念ながら常駐のメンテナンススタッフはいないということだが、定期的に通ってきてもらい、スタジオのすべての機器はここで修理メンテナンスを行っているということだ。そのための保守パーツなどもすべてストックされているとのこと。こういったことの積み重ねでこのスタジオが60年以上の歳月に渡って維持されてきているということだ。そして、この部屋の反対側の壁にはストックされているアウトボードがぎっしり(!)。こちらももう説明不要かと思うが、歴史的な銘機が完動状態で保管されている。これだけのものを維持する労力は計り知れない、歴史的なスタジオではあるが、それを維持し運営することの努力を垣間見ることができた。
やはり、ウェスト・コーストロックの震源地の一つであったVillage Studios。歴史を作ったそのスタジオは雰囲気、空気、そのすべてにオーラを纏っている。そしてもともとからの装飾であると思われるスタンドグラスや、素晴らしい調度品の数々。スタジオに入るとすぐにその歴史と伝統を感じずにはいられない空間であった。そんなVillage Studiosもコロナ禍においては開業より一度も火を落としたことのなかったVillage StudiosのNeveも60年ぶりに電源が落とされることもあったそうだが、スタジオからのライブ配信、コンサート・イベントなど新しい形での営業が少しづつ始めていったとのことだ。なお、このコロナ禍でのロサンゼルスのスタジオの様子はLA Timesに記事として掲載されている。これまでもこうして時代の流れに柔軟な対応をとってきたのだろう、困難から再び立ち上がるさまは改めて称賛に値する。
「さすが」としか言いようがない完璧なスタジオと、それにより積み重ねられてきた歴史。コロナ禍という未曾有の驚異にも現代的に対応して変化を続けるVillage Studios、今後も次の歴史を積み重ねて音楽との歩みを紡いでいってもらいたい。
*ProceedMagazine2023号より転載
Review
2023/08/30
Avid Pro Tools | MTRX II / Thunderbolt 3オプション〜期待を裏切らないフラッグシップ機の更新〜
2016年の発表以来、Avid製オーディオI/Fのフラッグシップとして多くの現場で愛用されてきたPro Tools | MTRX。AvidはNAMM Show 2023でさらなるブラッシュアップを施した後継機「Pro Tools | MTRX II」と、フラッグシップ機をNative DAWで使用するためのThunderbolt 3 オプションモジュールを併せて発表。大注目の新製品についてその機能を概観するとともにシステムアップ上の利点を考えてみたい。
●PRO TOOLS | MTRX ll / ¥1,089,000(本体価格¥990,000)
MTRXをベースに新たなFPGAを用いて、オリジナルと同等の音質を維持しつつ開発された MTRX II 。内蔵SPQ、Dante 256 Ch内蔵(Dante 128 Optionも併用可能)、マトリクスルーティングは4096 x4096へ。イマーシブ時代におけるミキシングおよびモニタリング・キャパ シティーの拡張を実現している。従来のMTRX Optionカードと完全互換を持ち、アナログ入出力を全8スロットへフルに使用することも可能。 Avidのフラッグシップモデルがいまリロードされた。
Pro Tools | MTRX ファミリーがNative環境で使用可能に!
大注目のThunderbolt 3モジュールに対応
Avid製フラッグシップ・オーディオI/Fとして信頼を寄せられてきたPro Tools | MTRX(以下、「初代MTRX」)。1500 x 1500という大規模なクロスポイントを備えたルーティング・マトリクス、モジュール方式を採用することによる高い柔軟性と拡張性、そして比類なきオーディオクオリティがプロフェッショナルな現場で愛されてきた大きな理由だろう。4月に開催されたNAMM Show2023では、その初代MTRXにさらなるパワーアップを施したPro Tools | MTRX II(以下、「MTRX II」)が発表された。MTRXファミリーの代名詞でもあるルーティングマトリクスの強化や、Dante / SPQの内蔵、アナログI/Oカードの換装上限撤廃など、さまざまな機能強化が図られている。さらに、大注目は同時に発表されたThunderbolt 3オプションモジュール。MTRX IIとMTRX StudioをついにNative環境で使用することが可能になっている。
MTRX II 自体の機能も気になるところだが、ある意味でそれ以上に注目されそうなプロダクトが、MTRX IIと同時に発表されたThunderbolt 3オプションモジュールだ。これは、オプションカードスロットではなく本体にインストールするタイプのモジュールとなっており、MTRX IIとMTRX Studioで使用することが可能。残念ながら、初代MTRXに追加することはできないのでご注意いただきたい。
これまで、Pro Tools | MTRX ファミリー(初代MTRX / MTRX II / MTRX Studio、以下、「MTRXファミリー」)をMac / PCと接続するには、本体ユニットまたはオプションカードのDigiLinkポートを使用するしかなかったが、Thunderbolt 3オプションモジュールを換装することでMTRX IIとMTRX StudioをNative環境でも使用することができるようになる。具体的に言えば、Pro Tools Studio / Artistはもちろん、Steinberg NUENDO、Apple Logic Pro、Presonus Studio OneなどのCoreAudio対応DAWにおけるNative制作環境で、AvidフラッグシップI/Oを使用できるようになるということだ。特に、ver.2022.4でマルチチャンネル制作に対応したPro Tools Studioを使用したNative環境で、大規模なルーティングとモニタリング機能を備えたMTRXファミリーを使用することができるというのは、ユーザーにとっては大きなトピックではないだろうか。
●Thunderbolt 3 Module ¥135,080(本体価格¥122,800)
📷MTRX IIとMTRX Studioの両製品に対応したThunderbolt 3モジュールがリリース。これによりDigiLink接続によるパワフルなDSP統合環境に加えて、 Thunderbolt 3経由で実現する低レイテンシーなCore Audio環境での柔軟性も実現可能となる。Thunderbolt 3オプション・モジュール経由で、MTRX IIでの使用時に256ch、MTRX Studioの場合では64chにアクセスが可能、他のアプリケーション等をDADmanソフトウエアにルートし、より先進的なDolby Atmosワークフローが実現できる。
Avidの発表によれば、Thunderbolt 3オプションはHDXとの併用が可能。DADmanのルーティングマトリクスに、I/OソースとしてHDXとは別にThunderbolt 3の入出力が見えるようになり、これらをMTRX上でルーティングすることができるようになるとのこと。イメージとしては、従来のDigiLink I/O オプション・カードを使用して複数のPro ToolsシステムをMTRXに接続する場合に近いものになる。
この機能を利用することで、メイン機とは別のマシンにインストールされたCoreAudio対応DAWとの間で信号のやりとりができるのはもちろんだが、大きな期待が寄せられるのが、MTRX II / MTRX Studio 1台で、Pro ToolsとDolby Atmosハードウェア・レンダラー間の信号をやりとりできるようになるのでは!?ということだ。システムにおいてクリティカルな部分となるため、発売開始後に実際の挙動などを実機で検証する必要はあるが、仕様上はこうした構成を取ることが可能となっている。Dolby Atmos制作のシステムアップにも一石を投じる可能性を持ったプロダクトに大いに期待したい。
Dante / SPQ内蔵など、機能面での性能もアップ
初代MTRXの拡張カードの中でも需要が高かった128ch Dante I/OとSPQだが、MTRX IIでは256ch分(@44.1/48kHz)のDante I/Oと、SPQ機能がはじめから本体の機能として内蔵されることになる。Dolby Atmosや360 Reality Audioなどのイマーシブ制作においては、オーディオ入出力もスピーカーシステムも従来よりはるかに大規模となるため、多数のオーディオを伝送できるDanteと、最大1,024のフィルターを追加して音響補正機能を提供するSPQというふたつの機能が本体内蔵になるのは、かなり豪華なアップデートではないだろうか。
ちなみに、初代MTRX用のオプションカードはMTRX IIでも引き続き使用することが可能だ。MTRX IIにビルトインされるDante I/OにはSRC機能がないため、SRCが必要な場合や、さらなるI/O数が必要な場合などは、従来通り128ch Danteカードを追加することで対応することができる。極端な例だが、8スロットすべてにDanteカードを追加した場合、MTRX II 1台で合計1280chのDante信号を扱うことができるということだ。MTRX II に内蔵されるSPQはオプションカードとして初代MTRXで使用できるものと同じ128 EQチャンネル+最大1,024フィルター。MTRX Studioに内蔵されているものとは異なり、SPQの機能をフルに使用することができる。反面、初代MTRXに内蔵されていたAES/EBU I/Oは廃止されてしまった。今後はAES/EBU信号を扱いたい場合には、オプションカードを追加することで対応することになる。
オプションカードに関してもうひとつ嬉しいアップデートは、アナログI/Oインストール数の上限が撤廃されたことだ。初代MTRXではアナログのオプションカードはInput / Output合計で6枚までしかインストールすることができなかったため、Pro Toolsシステムを大規模なアナログコンソールと接続する場合などにネックになってしまうことがあった。MTRX II ではこの上限がなくなり、8つのスロットすべてにアナログI/Oカードをインストールすることができるようになっている。
さらに、MTRXファミリーの特徴であるルーティングマトリクスとモニタープロファイル機能にも大幅なパワーアップが施されている。ルーティングマトリクスのクロスポイントは従来の1500 x 1500から、3倍近くとなる4096 x 4096に増加。モニタープロファイルで使用できる内部サミングミキサーは256 × 32から512 × 64に増加する。このアップデートにより劇場用のDolby Atmos制作においても十分な数のチャンネルを扱うことができるようになる。
初代MTRXと同様、システムのコアデバイスとしての活躍が期待されるMTRX II。AvidフラッグシップI/Fとしての期待を裏切らない仕様だ。また、待望のThunderbolt 3モジュールもついに発表となり、こちらも今後の制作環境に大きな柔軟性をもたらすことが期待される。やはり、ハードウェアで開発される新製品は、制作システムを構成するにあたりに大きなインパクトを与えることになる、今からその登場を心待ちにしたい。
*ProceedMagazine2023号より転載
Review
2023/08/01
TOA ME-50FS 〜完全アナログ設計・妥協無きこだわりが実現する驚異の原音忠実・ハイファイサウンド〜
国内老舗音響メーカーTOAが手がけるプロフェッショナルモニタースピーカー ME-50FS
1934年創業、国内の非常用放送設備や業務用放送設備にて圧倒的なシェアを誇る老舗音響機器メーカーTOA。商業施設の天井埋込スピーカーや公共交通機関など、街中いたるところでそのロゴを見かける機会も多いだろう。そのTOAが、音楽制作を目的とした、プロフェッショナル向けのモニタースピーカーを開発しているのを皆さまはご存知だろうか。
ご存知という方の中には、昨年のInter BEE 2022で実物を試聴されたという方もいるかもしれないが、その出音を初めて聴いた時の印象は多くの人にとって衝撃的な体験となるだろう。昨今多種多様なモニタースピーカーが存在する中で、ひときわ異彩を放ち、驚異的な原音忠実再生能力を誇るのがこのTOA ME-50FSだ。
このME-50FSは、2018年のInter BEEで展示されていたアコースティックモニタースピーカー Q-ME-50proの後継機種にあたり、プロ向けのモニタースピーカーとしてブラッシュアップされたものだ。とくにアナログ回路の設計をはじめ細部までとことん理想を追求し、特徴的なユニットの配置からバスレフポートの形状その他諸々、その設計の全てにおいて一切の妥協を許さずに開発されたという。
◎ME-50FS (公式サイト)
https://www.toa-products.com/solution/ME50FS
試聴時の印象 〜多種多様なサウンドに対応する高水準のレスポンス~
実際に試聴をしてみると、どこまでもフラットな周波数特性ながらも、サイズからは想像できない力強いサウンド、あまりの音の生々しさに、思わず再生している音が録音された環境を思い浮かべずにはいられない。
大抵のスピーカーは、再生している音楽のジャンルによって多少なりとも得意不得意はあるものだが、このME-50FSは本当にジャンルを選ばない。ポップス、ロック、ジャズ、クラシック、EDM、歌もの、インスト、古き良き時代の楽曲から周波数レンジが広い流行りの楽曲まで、こちらが求めるレスポンスをあまりにも的確に返してくれるので、つい、あれもこれもと試聴したくなってしまう。何度も聞いた楽曲でも、新たな発見を与えてくれるスピーカーというのは、エンジニアにとってこの上なく心強い味方となるに違いない。
これだけ多種多様なジャンルの音への適応能力があるということは、裏を返せば、このスピーカーが原音にいかに忠実であるかということの裏付けであると言えるだろう。一般に、音を"意図的に作っている"印象が強いスピーカーというのは、往々にしてサウンドの得意不得意が顕著になりやすい。一方、このME-50FSはスピーカー自体の"癖”というものが全くもって感じられないため、スピーカーを通り越して、録音環境を想像してしまう、という訳だ。
完全アナログ設計・妥協無きこだわりが実現する驚異の原音忠実・ハイファイサウンド。その裏側で、具体的にはどのような工夫がなされているのだろうか。その一部を紐解いてみたい。
ユニット配置へのこだわり ~理想的なフルレンジ"を実現するための工夫~
スピーカーユニットは、10cmのウーファーが2つと25mmのマグネシウムツイーター1つで構成されている。
一般的に位相の良いスピーカーというと、ウーハーとツイーターを1つのユニットに収めた同軸スピーカーを思い浮かべる方も多いかもしれない。しかし、同軸構造だと、確かに理想的な点音源には近づくものの、異なる周波数を発するユニットを1つに収める以上、それぞれが発する振動の影響など、避けられないトレードオフが発生してしまう側面もあるという。
その問題を解決するため、ME-50FSは2台のウーハーとツイーターを可能な限り近接した配置とし、各ユニットの使用帯域を剛ピストンモーション領域に限定。さらに、クロスオーバー周波数を1600Hzと下げることで、定位と位相を理想的なフルレンジに近づけることに成功している。3つのユニットの中心から等距離となる点(各ユニットの中心に内接する円の中心)が音響中心点となる格好だ。
フルアナログへのこだわり ~理想的なサウンドの肝となる外付のインピーダンス補正回路~
↑ME-50FSの背面 ※画像クリックで拡大
エンクロージャには、それぞれ直方体のボックスがスピコンケーブルで接続されている。一見、電源ユニットかと勘違いしてしまうかもしれないが、ME-50FSはアクティブスピーカーであり、電源ユニットはパワーアンプ部と一体でスピーカーのエンクロージャー内に収められている。
では、このボックスは一体何のためにあるのかというと、実はこの中で、パッシブアナログ回路での低域共振補正とインピーダンス補正が行われている。たとえ理想的な筐体を設計したとしても、必ず生じてしまうこの副産物を、ここで補正することによってようやくその真価が発揮されている。
ここで言う低域共振とは、スピーカーユニットとキャビネット内の空気の間で発生する共鳴現象によって引き起こされ、特定の周波数に対して共振しやすい特性を持っている。特定帯域の音に癖が付いたり、位相ずれが生じたりする原因となるため、適切に補正を行う必要がある。
一方、インピーダンスは、個別のスピーカーユニット、コイルやコンデンサといったパーツに起因するもので、周波数によって変動が生じる。こうした変動は、当然ながら最終的な周波数特性に影響を与え、音質や位相特性に悪影響をもたらしてしまうことがあるため、低域共振同様に補正が必要なものである。
※公式サイトより引用
最近では、内蔵のDSP回路で補正を行うタイプのスピーカーも多く存在するが、それらを全てアナログのパッシブ回路で行ない、更にアンプ側から見た負荷条件まで踏み込んで対策しているのがこのスピーカーのこだわりだ。
一般的なデジタル信号処理の利点として、ノイズに強くなることや大量生産時のコストを下げられることなどが挙げられるが、その分必ずA/D変換、D/A変換を通ることになり、レイテンシーが生じたり、量子化誤差により原音と差異が生じたりする原因となりうる。また、DSPでは、当然のことだがアンプとスピーカー間の負荷条件の改善まで行うことは不可能だ。
一方、全ての処理をアナログ領域で行うことで、一台一台の製作に手間暇はかかるものの、原理上遅延のない正しい時間軸での連続波による処理が可能となり、また、サンプリングレートに制約されない高域〜超高域の再生を実現、アンプとスピーカーの関係まで含めた改善が可能となる。まさにこの外付けボックスこそが、フルアナログにこだわったME-50FSの心臓部であり、その驚異的な原音忠実サウンドを可能にしているのだ。
サイズからは想像できない強力な低音再生能力
ウーファーは10cmのユニット2つが担っているが、このサイズのユニットから再生されているとはにわかに信じがたい、クリアかつパワフルな低域が出力される。再生しながら、横からスピーカーを見てみると、ユニットが前後に大きくピストンモーションしていて、音量のダイナミクスに合わせて切れ味の鋭いレスポンスを見せていることからも、そのダンピングファクターの高さがうかがえる。
また、個性的な三角形のバスレフポートはエンクロージャと同じバーチ合板が用いられており、一般的な樹脂製筒形のバスレフポートと比べ、強度の向上が図られている。これによりポート自体が振動してしまう現象、"鳴き"が抑制され、そこに並行面を持たない構造も相まって、ポート自体から発せられるノイズ低減を実現している。
※スペック情報は下記URL「資料・ダウンロード」欄に必要情報入力後ダウンロード可能です。
◎PROFESSIONAL MONITOR SPEAKER ME-50FS
https://www.toa-products.com/solution/ME50FS
現在Rock oN Company渋谷ではME-50FSの試聴を行うことが可能です。店頭での試聴をご希望の方は下記URLよりご予約をお願いいたします。
https://www.miroc.co.jp/news/antenna-shibuya/lets-ask-rock-on/
※試聴期間終了日は未定です。必ずご予約時にご確認をいただきますようお願い申し上げます。
本製品に関する法人のお客様のデモ・ご購入についてのお問い合わせは下記コンタクトフォームよりお気軽にご相談ください。
Review
2023/06/22
Elgato Stream Deck+でDADmanをコントロールしてみた
Elgato社から発売されているStream Deckシリーズ。DAWや映像編集ソフトはもちろん、OBS、Twitch、YouTube といった配信系のアプリから、IoT照明のPhilips Hue、更にはZoom、PowerPoint、Keynoteといったビジネスアプリまで、多種多様なソフトウェアのショートカット&マクロコントロールに対応しています。
当WEBサイトをご覧の皆さまの中には、Avid Pro Toolsのショートカット&マクロコントロールとしてご利用の方もいらっしゃるかと思いますが、今回、MTRXやMTRX StudioのモニターコントロールソフトDADmanの操作も、このStream Deck +から行うことができるという噂を聞きつけ、実際に動かすことができるのかどうか、検証してみました!
Stream Deck +から新搭載のタッチパネルとノブx4
従来のラインナップでは、卓上においてボタン操作を行うタイプのものがサイズ違いで3種類と、フットスイッチのような使い方ができるStream Deck Pedalが存在しましたが、昨年12月に発売されたStream Deck +には、2x4のボタン配列に加え、新しくタッチ&スワイプ操作可能な横長の液晶パネルと、ダイヤル操作のノブが4つ搭載され、コントロール方法の幅が一気に広がりました。
設定方法
◎STREAM DECK + 用のドライバアプリケーションをインストール
下記URLからSTREAM DECK + 用のドライバアプリケーションをダウンロードし、インストールします。
https://www.elgato.com/cn/ja/s/downloads
◎有志が作成した"MOMStreamDeckPlugin"をインストール
今回は、Avid Pro Audio Communityに、有志によって公開されていた、"MOMStreamDeckPlugin"を試しました。こちらは下記文中に記載のURLにてダウンロード可能です。
ダウンロードが完了したら、"com.padl.monitoroperatingmodule.streamDeckPlugin"をダブルクリックすることで、Stream DeckからDADmanをコントロールするための設定ファイルを読み込みます。
MOMStreamDeckPlugin は DADman と StreamDeck の間のインターフェースです。DADmanにMOM(Monitor Operating Module)として表示されます。過去1年間ベータ版として提供していましたが、一般提供を開始することになりました:
MOMStreamDeckPlugin is an interface between DADman and StreamDeck. It appears as a MOM (Monitor Operating Module) to DADman. I'm pleased to announce general availability after being in beta for the past year:
https://www.lukktone.com/download/MOMStreamDeckPlugin.zip
AvidとDADのいずれからもサポートや支持を受けていませんが、広く使用されています。
It is not supported or endorsed by either Avid or DAD, but it is widely used.
引用:MOMStreamDeckPlugin : https://duc.avid.com/showthread.php?t=424348
ただし、下記フォーラム投稿にも記載がある通り、本プラグインについては、AVIDやDADは一切関与していない非公式なものであるという点は注意が必要です。(同時に、NTP Technology純正のDADman用コントローラーであるMOMに競合させる意図も全くないという事も述べてあります。)
補足しておくと これは、DADもAvidも全くサポートしていません、 そして、MOMやAvid独自のコントロールサーフェスの販売に競合させる意図は全くありませんでした。MOMには素晴らしい操作性があり、イーサネットケーブルがあればどこにでも設置することができます。とはいえ、MOMStreamDeckPluginは多くの導入実績があり、ユーザーからのフィードバックで改善され続けています。
I should add, it's not supported in the slightest by either DAD or Avid, and it was never my intention to compete with sales of the MOM or Avid's own control surfaces. The MOM has great haptics and can be placed anywhere you have an Ethernet cable. Having said that, there are plenty of deployments of MOMStreamDeckPlugin and it continues to improve with user feedback.
引用:StreamDeck integration with DADman : https://duc.avid.com/showthread.php?t=418946
◎DADmanの設定
DADmanのDevice Listを開きStatusが"Unit ready"となっていること、Unit Nameが"Stream Deck"と正しく認識されていることを確認します。
Moniter Profile Configurationの"MOM"タブより、アサインの設定をします。
◎STREAM DECK+の設定
設定画面を開いて、Edit Profiles >> import Profilesをクリックし、 "MOM.streamDeckProfile"を読み込むと、MOMのデフォルトと似たようなレイアウトのプロファイルが読み込まれます。これらは自由に配列を変更できるほか、Stream Deckの利点である、キーキャップに表示する文字の変更も可能です。
また、MOMに標準搭載のレイヤー切り替え機能とは別に、Stream Deck自体のページ切り替えも行うことができるので、DADman以外のアプリケーションの操作は別ページに配置するなど、使い分けを行うことができます。
◎設定完了!
以上で設定完了です。実際に触ってみると特に問題なくDADmanをコントロールすることができました。MOMとの違いとしては、その接続方法(LAN or USB)、ボリュームノブのサイズ(大 or 小)、キーキャップの表示(有 or 無)、といった点が挙げられます
SoundFlowをお使いの方はScheps MOMDeckも
さまざまなオーディオ系ソフトのショートカットやマクロコントロールに対応したSound Flow内にもDADmanのコントロールに対応したプレミアムアプリが販売されています。
先日、ミキシング・エンジニア/プロデューサーのアンドリューシェップス氏によってリリースされたのは、Scheps MOMDeck。こちらはSoundFlowのPremium Appになるため、定額料金とは別に追加料金を支払うことで使用できるようになります。詳細は下記URLよりご確認ください。
https://soundflow.org/store/pkg/scheps-momdeck
MOMはサプライチェーンの問題で長期に渡り入手困難な状況が続いており、ご注文いただいている皆さまには大変ご不便をおかけしております。入荷までの代替品として、ぜひともStream Deckをご活用いただければ幸いです。Stream Deckご導入に関するお問い合わせは、ROCK ON PRO各営業担当、もしくは下記コンタクトフォームよりお気軽にご連絡ください。
Review
2023/06/16
驚きのSONY 360 VME体験レポート!
マルチチャンネルスピーカー再生での聴取感をヘッドフォンで限りなく正確に再現する…そんなことが可能となれば、マルチチャンネルに対応したスタジオへ毎回足を運んだり、物理的な部屋の広さがどうしても必要となるマルチスピーカー環境を構築せずとも、立体音響コンテンツの制作に着手することができます。
SONYが開発した360 Virtual Mixing Environment (360 VME)は、まさに立体音響スタジオを再現したヘッドフォン再生を可能にするサービス!今回は、国内唯一の測定スタジオであるMedia Integration, MIL Studioでの360 VME体験をレポートいたします!
さっそく測定開始!
測定は、専用のバネ型マイクを両耳に装着して進めていきます。しっかり耳の奥まで押し込むことで、鼓膜に近い位置での計測が可能です。
360 VMEが現在対応する最大チャンネル数は16chですが、今回は360 Reality Auidoの標準フォーマットである13ch(5.0.5+3B)での測定を行いました。
(MIL Studio自体は最大43.2chのディスクリート再生システムを擁しています!詳細はコチラ)
椅子に座り、頭の位置をセンタースピーカーに合わせます。測定というと不思議と肩に力が入ってしまいまいがちですが、肩の反射もHRTFに関係するため力は抜きましょう。
まずは、センタースピーカーからピンクノイズを再生し、左右マイクの確認から始まります。
次に、使用する各スピーカーから順番にスイープ音を再生し、それぞれの角度から到来する音の周波数特性を計測します。四方からピュイっと上がるスイープ音に打たれると、まさに全身をスキャンされているのではという感覚に。実際は全身はおろか、スピーカーの特性からスタジオ全体の空間特性、個人のHRTFまでまるっと測定しているのですから驚きです!(ですので測定中はお静かに。)
ヘッドフォンを使用した測定へ
ここから更に、VMEならではの測定に入ります。バネマイクを耳に入れたまま、その上から使用するヘッドフォンを装着し、ヘッドフォン自体の特性も計測します。ですので、測定時にはVMEで使用するMyヘッドフォンを持ち込んでの測定となります。
今回使用したヘッドフォンは、360 VMEの対応ヘッドフォンであるSONY HDR-MV1。今年5月に発売されたこのヘッドフォンは、立体音響制作でのモニター用途を意識した製品であり、360 VMEと並行して開発された経緯があります。
ヘッドフォンから左右続けてスイープ音を計測すると、測定プロセスは終了です。ここまでの測定結果から、この世でただ1人の為のプロファイルデータを生成します。
VMEの威力を体感!
出来上がったプロファイルのチェックも兼ねて、センターに定位させたピンクノイズを再生してもらいます。ここがVMEの能力を体験するファーストポイントとなるのですが…ピンクノイズに驚愕する日が来ようとは!
ヘッドフォン再生だと分かっていても、目の前のスピーカーから再生されたとしか思えない音に思わず笑ってしまいました。これが空間音響特性含め、完全に個人最適化されたバイノーラル再生の威力!
続けて360 Reality Audioの楽曲でVMEを体感します。スピーカーとヘッドフォンで聴き比べを行いますが、しっかりと頭外定位した音像はスピーカー再生そのもの!MV-1が開放型なのも相まってヘッドフォン再生でも音場が広く、両者の違いは低音特有の空気の振動感、ボディソニックくらいに感じました。スピーカー再生だと思ってヘッドフォンを外すと、静かなスタジオ。脳が騙される体験に、手元のヘッドフォンを何度も着脱してしまいます。私の測定は大成功だったようです。
実際の測定サービスでは、測定後にプロファイルデータと360VMEソフトウェアを受け取ります。自身の制作環境に360 VMEを接続することで、今回測定した環境を再現したヘッドフォンモニタリングが行えるようになるということです。どこにいても、ヘッドフォンをかければそこにはこのスタジオの音場が広がっている。360 VMEによって、より多くの方がスピーカー再生を意識した立体音響コンテンツを制作できるようになるのではないでしょうか!
プライベートHRTFを用いた制作は、これからの3D Audio制作環境構築において無視できない存在になると、今回の体験で一層感じました。360 VMEの凄さは、百聞は一見にしかず、ぜひ実際に体感してください!MIL Studioでの測定サービス開始は、今年7月の中旬頃を予定しております。MIL StudioでのVMEに関するご予約、お問い合わせは下記のフォームから!
https://pro.miroc.co.jp/headline/mdr-mv1-vme-release/
https://pro.miroc.co.jp/works/mil-studio-tech-proceed2022/#.ZDTYiezP0-S
https://pro.miroc.co.jp/headline/360ra-info-2022/#.ZDTQ4OzP0-Q
Review
2021/10/21
現役サウンドデザイナーによる実践レビュー!vol.5 ~Le Sound SpaceMotors
既存のライブラリから音源を選び、尺を合わせて加工して、足りない音は収録…という従来のワークフローとはまったくことなるアプローチでサウンドデザインの世界を拡げるLe Soundプラグインは、効果音をシンセサイズするという、プロシージャルオーディオのコンセプトにもとづいたアプローチで自由自在なサウンドメイクを可能にします。
このLe Sound製品を、TV番組、CM、アニメーション、イベントなど幅広い分野で大活躍中のサウンドデザイナーである安江史男 氏(Tacit Knowledge Sound LLC)、荒川きよし氏(株式会社 Async)のおふた方に実際に使用していただき、実践的な使い方を教えてもおう!というこの企画。
全6回予定の第5弾はTacit Knowledge Sound LLC 安江氏によるSpaceMotorsの実践レビュー。
アイドリングや加速・減速感など、シンセだけで制作すると異常な手間と労力がかかるSF的なモーター音。SpaceMotorsはこれらの作業を自動化してくれるだけでなく、近未来的なSFカーから巨大戦艦の浮上音のような重厚なものまで自由自在なサウンドメイクが魅力。
その魅力の引き出し方を、安江氏が徹底解説してくださいます!
第1弾 安江氏によるAudioElec編はこちら>>
第2弾 荒川氏によるAudioWind編はこちら>>
第3弾 安江氏によるAudioTexture編はこちら>>
第4弾 荒川氏によるAudioTexture編はこちら>>
安江 史男 氏 プロフィール
愛知県春日井市生。カリフォルニア州立ノースリッジ大学で音楽ビジネスを学ぶ。外国人コーディネーターを経て、音響効果の世界へ。
TVCM、Web、イベント等、多種多様な効果音が必要な作品に従事。選曲も扱う。DJとしての活動も顕著。
公式サイト:https://www.yasuefumio.com
レーベル: www.bigpierecords.com
今回はSpaceMotorsについてご紹介します。
オシレーター、リアクター、ノイズ、グラニュレーターの4要素を組み合わせて音を生成し、Speedとあるノブを回すことでエンジンが回っているような音を精製できるプラグインです。
今回はSpaceMotorsの特に注目すべきポイントに焦点を当ててご紹介できればと思います。
上の画像はプラグイン画面です。
両サイドに生成する音を決めるパラメータが並び、真ん中の大きなノブでSpeedの値を決めます。真ん中上部と下部には、4つのパラメータが重なったマスターの音に対してかけるエフェクトがあります。
注目すべきは所々にあるAutoボタンです。
こちらをオンにすると、Speedの値が上がる毎に、追付いしてオンにしたパラメータの数値が可変するというものです。
まずはシンプルに未来感のある音を作ってみました。
オシレーター上部にシンセではお馴染みのサイン波、ノコギリ波、矩形波のマークがあります。
シュイーンといった音にしたかったので、こちらではサイン波を用い、なだらかな音にしています。
上げ下げするとAutoが白く点灯しているパラメータも可変しているのがわかると思います。
ただなだらかな音だと最大速の時に激しさが足りないので、真ん中下部のTremoloで揺らぎを出すようにしています。Shapeというパラメータは揺らぎの具合をサイン波、ノコギリ波、矩形波と同じ考え方で変えるものです。
数値としては0.00にするとサイン波、1.50でノコギリ波、3.00で矩形波と数値を変えることでシームレスに変えられます。こちらでは数値を大きめにしてカクカクしたTremoloにしています。こうすることで、Tremoloの値が大きくなった時に音に荒さを追加しています。
もう一つ、Space Motorsの特徴として、Glideというパラメーターがあります。こちらはSpeedの数値を上げ下げする際に音の加速度に遅延を与えるものです。
わかりにくいので、ちょっと極端ですが動画にしました。
映像冒頭ではGlideの値を最小にしたもの、23秒付近から最大値にしたものでご紹介しています。値最大の方を見ていただくと、遅延の具合がわかっていただけるかと思います。
こちらを用いることで、マウス操作でSpeedの値を変えても、モーター感、エンジン感のある音の加速度を作ることができます。
次の動画ではオシレーターをノコギリ波にして作ってみました。
未来感のある音でもトゲがあり、荒々しくできるかと思います。
また、TremoloのAmp、Freqの下部のパラメーターは、Autoをオンにした時のAmp、Freqの始点と終点を決めるものです。こちらでは高めの値で数値が上下するように設定しているので、Tremoloが激し目にかかり、荒々しさを追加できています。
また、Autoをオフにするとこのようなものになります。
Tremoloの具合も一定になるので、また別の使い方ができたりするかもしれません。
今回はSpaceMotorsについてご紹介させていただきました。焦点をTremoloとGlideに当ててしまったので、オシレーター、リアクター、ノイズ、グラニュレーター、ビブラートについて全く触れられませんでしたが、ぜひこちらは試してみてください(リアクターとグラニュレーターはかなり面白いです)。
いかがでしたでしょうか。SFカーの走行音やロボットの駆動音などを、映像の動きに合わせて制作する場合、シンセサイザーだけでは相当に複雑な作業になってしまいます。ご覧いただいた通り、SpaceMotorsはたったひとつのノブを操作するだけで、直感的にそうした音の動きの変化を生み出すことが可能です。
豊富なプリセットとかなり細かいところまで追い込めるパラメーターによって、どんなテイストのサウンドもサクッと作れてしまいます!
Le Soundプラグインの中ではいわゆるシンセにもっとも近いGUIなので、クリエイティブなプラグインシンセサイザーとしても活躍できるでしょう。
今回登場したプロダクトはこちら
SpaceMotors
販売価格:¥19,800(本体価格¥18,000)
ポッドレーサー、トランスフォーマー、トロン、ブレードランナーといった、SFカーの複雑でダイナミックなエンジン・サウンドを自由自在にクリエイト。ピュアなオシレーター・サウンドからアグレッシブなマシン・サウンドまで、無限の表現力を秘めています。
Rock oN Line eStoreで購入>>
https://pro.miroc.co.jp/headline/le-sound-review-sounddesign-1-audioelec
https://pro.miroc.co.jp/headline/le-sound-review-sounddesign-2-audiowind
https://pro.miroc.co.jp/headline/le-sound-review-sounddesign-3-audiotexture
https://pro.miroc.co.jp/headline/le-sound-review-sounddesign-4-audiotexture
Review
2021/08/27
現役サウンドデザイナーによる実践レビュー!vol.4 ~Le Sound AudioTextureで短い素材も手軽に活用
既存のライブラリから音源を選び、尺を合わせて加工して、足りない音は収録…という従来のワークフローとはまったくことなるアプローチでサウンドデザインの世界を拡げるLe Soundプラグインは、効果音をシンセサイズするという、プロシージャルオーディオのコンセプトにもとづいたアプローチで自由自在なサウンドメイクを可能にします。
このLe Sound製品を、TV番組、CM、アニメーション、イベントなど幅広い分野で大活躍中のサウンドデザイナーである安江史男 氏(Tacit Knowledge Sound LLC)、荒川きよし氏(株式会社 Async)のおふた方に実際に使用していただき、実践的な使い方を教えてもおう!というこの企画。
全6回予定の第4弾は株式会社 Async 荒川 きよし 氏によるAudioTextureの実践レビュー。今回のテーマは素材から手軽にループを作成できるAudioTexture。前回同様、実際の番組制作にご活用いただいたということで、スペシャルムービーを使用した比較動画をご用意いただきました!
第1弾 安江氏によるAudioElec編はこちら>>
第2弾 荒川氏によるAudioWind編はこちら>>
第3弾 安江氏によるAudioTexture編はこちら>>
荒川 きよし 氏 プロフィール
1996年、NHK入局。
1998年より音響効果業務を担当。ドキュメンタリー、子供番組、コントやドラマなどジャンルレスに対応。
2018年に独立し株式会社Asyncを設立。現在はアニメーション、バラエティ、ドラマ、CM、web、映画などで、選曲と効果音をトータルでデザインしている。
AudioTextureを使用して、素材の尺を自然に伸ばす
今回はLE SOUNDの「AudioTexture」を使用したレビューをしていきます。
効果音を準備していると、「この素材使いたいけどちょっと短いんだよなぁ…」ということはよくありますよね。でもその音が古い音だったりするとその素材しか存在しなかったりするわけです。
その場合はその音をDAW上でエディットして尺を稼いだりするわけですが、短めの素材だと一定のリズムのループ感が出てしまうので、それをなくすためにループするポイントをランダムにずらして貼り付けて…ということが必要になってきます。
AudioTextureを使用すると、その作業を自動的に行ってくれるのですが、それだけではなく、さらにピッチコントロールのパラメータもあるのがミソです。
「短い素材をループ感なく伸ばしながら、映像を見ながらピッチのオートメーションをいじる」というオペレーションがごく短時間でできてしまいます。
実際やってみます。
こちら、バイクのアイドリングの4秒ほどの短い素材です。
普段はこのぐらい短い素材しかないとなると映像と合わせて使うのはちょっと厳しいかなと思ってしまいますね。なので今回はあえて短い素材にしてみました。
このファイルをAudioTextureに読み込ませます。
右上のLOADをクリックで自分のwavファイルをインポートすることができます。ウインドウにファイルをドラッグでも大丈夫です。ファイルパスの途中に日本語などの2byte文字のフォルダがあるとどうも読み込めない場合があるので、英数文字のフォルダの中に置いておきましょう。
STARTを押すと音のファイルを分析して、エンジン音がループ再生されます。X Rangeでループの範囲の設定、その上のスライダーでループの位置を決め、UnitSizeでループする細切れのセグメントのサイズや、Xfadeでそのクロスフェード具合を決めていきます。
さらに、Rateのつまみでピッチをいじることができます。
実はこのコンビネーションがかなり便利で、一定のピッチではなく映像に合わせて変化する必要がある音の場合はこの機能がめちゃめちゃ助かるのです。
この元の4秒ほどの短いアイドリングのエンジン音のファイルで、バイクの発進の映像に合わせてエディットしてみました。環境音とシフトチェンジの音は別で入れました。
まずエンジン音なしのものです。
これはこれで静かなバイクで面白いですね…
次にAudioTextureでエンジン音を入れたものです。
さすがに元がアイドリング音の4秒だけのファイルなのでピッチ変化だけでは不自然だったので、EQのオートメーションやアンビエンスのリバーブもつけています。
このような感じ。
一番上のオートメーションがAudioTextureのRateのつまみのオートメーションです。
今回は極端に短いアイドリングの素材だけであえてどうなるかやってみたので、さすがに本物のエンジン音とは違ってしまうのですが、回転数の高い部分の素材などもあればさらに自然につなぐこともできそうです。
他にも、例えばSF的な効果音などに使ってみるのも面白そうです。
たった4秒のシンプルな素材から、シーンに合わせたループを作成できるAudioTexure。自動で手軽な使い方もできる一方、荒川氏にご紹介いただいたように「いかにも」なループ感をなくすための細かな設定も備わっており、さまざまなシーンで作業時間を短縮することができます。
今回登場したプラグイン以外のLe Sound全ランナップも、ぜひこちらからチェック!きっとイメージに合うサウンドがあるはずです。
今回登場したプロダクトはこちら
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AudioTextureは読み込んだサウンドファイルから、無限のループサウンドを自動で生成することができるプラグインです。
独自のアルゴリズムにより、読み込んだファイルを自然に聞こえる単位に自動で分解。指定した範囲をランダムに再生することで、非常に時間のかかる作業だった背景効果音やループ素材の制作を劇的にシンプルにすることができます!もちろん、分解するユニット単位の大きさやループ範囲などのパラメーターはコントロールが可能。求めるサウンドテクスチャーを素早く実現します!
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Review
2021/08/18
鹿児島-東京-和歌山がつながる、多拠点連続配信 〜鹿児島ジャズフェスティバルの挑戦!〜
予定調和を拒み、瞬間の閃きに命を賭ける…ジャズという音楽が持つこのリアルを伝えたいという思いで2017年にはじまった「鹿児島ジャズフェスティバル」。毎年順調に来場者数を伸ばしてきたこのイベントも、2020年からのコロナ禍の影響で例年通りの開催を断念せざるを得なかった。「それでもできることはあるはず」という実行委員長 松本氏が取った選択は、異例とも言える多拠点連続配信!ひとつのYouTube ページで鹿児島・東京・和歌山と配信元を切り替えながら連続配信を実施し、全国的に移動が制限された中で大型音楽イベントを成功させた「鹿児島ジャズフェスティバル2020オンライン」の挑戦を取材した。
●鹿児島ジャズフェスティバル
鹿児島ジャズフェスティバル 公式HP
鹿児島ジャズフェスティバル2020オンライン 1st Day
鹿児島ジャズフェスティバル2020オンライン 2nd Day
ピアニスト松本 圭使 氏が主体となって2017年より実施されていている鹿児島ジャズフェスティバル(通称:かごジャズ)は、ジャズという音楽の最大の特徴でもある"その時・その瞬間に生まれる音楽"という魅力を凝縮した形で届けたいという想いから生まれたジャズフェスティバル。そのため、ジャズシーンの第一線で活躍するアーティストたちを招聘しながらも、すでにマーケットされたグループ単位ではなく個人単位での出演をオファーしていることが最大の特徴だ。
各アーティストは期間中いくつかのステージに出演するが、その際の組み合わせも実行委員が考案し、毎回異なるメンバーによる演奏となるよう工夫がされている。オーディエンスはさまざまな組み合わせの演奏を楽しむことができ、アーティスト同士の出会いの場としても機能しているが、こうした手法を取る最大の目的はジャズミュージシャンの普段の活動をより身近に体験してほしい、ということにある。
海外からの招聘アーティストについても、みずからのグループによる出演だけでなく、国内のアーティストと共演してもらうステージを構成するなど、クラブギグに近いコンセプトのプログラムはまさに「毎晩違うハコに行って、毎晩違うメンバーと演奏する」というジャズミュージシャンの基本的な生活により近いものと言えるだろう。初年度は16,000人、2018年が31,000人、2019年が67,000人と動員も倍々で増加しており2020年も3月までは例年通り実施する予定だったが、コロナ禍とそれに伴う緊急事態宣言の影響により、2020年度はYouTube Liveを使用したオンラインでの開催となった。
ジャズのリアルを身近に
ROCK ON PRO(以下、R):本日はお忙しい中にありがとうございます。はじめに、鹿児島ジャズフェスティバル全体のコンセプトをお聞かせいただけますでしょうか。
松本:鹿児島ジャズフェスティバルは「リアルなジャズを濃縮したようなフェスをやりたい」という思いで2017年に立ち上げました。そのため、グループとしてすでに出来上がったサウンドを聴いてもらうのではなく、ステージ上で「はじめまして」「で、(曲は)何やります?」というところからお客さんに観ていただいく形でやっています。その方が、アーティストを身近に感じてもらえるんじゃないかと思って。
R:実際に、本当に「はじめまして」の組み合わせもありましたね。
松本:はい。アーティスト同士の出会いの場としても機能させたいという気持ちもあります。それまで共演したことがなかった人たちが、鹿児島ジャズフェスティバルをきっかけに共演しはじめたという例もいくつかあります。
R:動員規模も年々大きくなっていった中で、新型コロナウイルスの影響はどの時点からあったのでしょうか。
松本:2020年も、3月までは例年通り実施する予定でした。概要の冊子を作ったり、協賛していただくみなさまを招いてのパーティなども実施していたのですが、新型コロナウイルスの影響が大きくなったことで、例年通りの形での実施はするべきではないと判断しました。ぼく自身もアルコールスプレーを持ち歩いていて「スプレー男」とか呼ばれるくらい(笑)感染には気をつけていましたし、少なくとも鹿児島県内では感染に対する危機感は当初から非常に高かったこともあります。
R:2020年度はすべてYouTube Liveによるオンラインでの実施となりました。こうした形での開催、そもそも、開催するという決断に至った経緯をお伺いできますでしょうか。
松本:5月頃には中止も考えたのですが、当時、多くの音楽イベントが配信という形で行われているのを見て、「こうした形ならやれるんじゃないか」と思ったんです。ライブを観たくても観れないというストレスを自分自身も感じる中、鹿児島ジャズフェスティバルなら、たとえ配信になってもジャズの本質を大事にした形でみなさんに楽しんでもらえるフェスができるんじゃないかと思いまして「よし、やるぞ!」と(笑)。そこから、どうやったら面白いものにできるかということを考えていった結果、「さまざまなアーティストがさまざまな組み合わせで出演する」という、これまでの鹿児島ジャズフェスティバルの形を踏襲した上で実施するのがよいのではないかということになりました。すると、まず会場は鹿児島と東京の2箇所が必要だということになります。
R:鹿児島と東京にいるアーティストがリアルタイムでセッションするのをライブ配信する、という珍しいステージもありました。
松本:ひとつのYouTube Liveのページで2会場が切り替わりながら配信するというだけでもほとんど前例がなかったように思いますが、さらにSYNCROOMを使ったコラボステージを組み合わせたらもっと面白いことができるんじゃないかと思って。当時、ぼくは夜な夜なSYNCROOMを使って遊んでたんですが(笑)、これを使ったら離れた会場でのコラボ演奏もいけるんじゃないか、と。それで「東京ステージ」「鹿児島ステージ」「つながるステージ」という3つを柱にしたプログラムを組むことにしました。
手探りで作り上げた3拠点から連続配信
R:配信元を切り替えながら連続配信するという点、そして、2会場間でセッションしている様子を配信するという点がユニークだったと感じています。これはどのように行なっていたのでしょうか。
松本:鹿児島ステージは鹿児島、東京ステージは東京から配信していました。つながるステージは和歌山のティースペック橋本さんのところから配信しました。ですので、3つの拠点からのストリームをひとつのページで配信していた形になります。
R:これらを実現するための機材や運用のシステムはどなたが設計されたのでしょうか。
松本:機材については各会場の方々にお任せしました。連続配信しながら2会場を切り替える方法については、ぼくが思いつきで実験していた方法を使用しています。例えば、鹿児島会場のバックアップストリームに東京会場からの映像を流し、時間が来たら鹿児島会場のメインストリームを落とすんです。すると、バックアップに流れている東京会場からの映像に切り替わる、というかなり危なっかしいやり方です(笑)。技術屋さんなら絶対に採用しない方法ですね(笑)。本番中はずっと電話でやりとりしながら、各会場の配信ストリームを流したり止めたりしてました。
野井倉:当時はライブ配信の技術というものが方法論として確立していなかったので、トライ&エラーを繰り返しながら段階的に組み立てていきました。東京会場からのストリームをいったん鹿児島に送ってもらって、配信元を鹿児島1本にするというやり方も最初に試しました。ただ、東京からも同じチャンネルに配信できるなら、それがいいんじゃないか、と。であれば、つながるステージに関しては橋本さんという遠隔セッションに関するプロフェッショナルの方がいらっしゃるのだから、そこできれいにまとめてもらって和歌山から配信するのがいいだろうということになりました。
松本:つながるステージに関しては、8月に実験的に一度やってみたんです。その時は、東京からの信号をいったん鹿児島に送ってもらって鹿児島が配信元になる形でした。実際にやってみると、東京からの信号を受けて、鹿児島側にディレイを入れて、その上でリップシンクを取って…結構しんどいね!ってことになって(笑)。そんな時に、友人のギタリストで今回東京会場のディレクターもお願いした松原慶史さんから、ティースペック橋本さんを紹介してもらったんです。
橋本:ちょうど中間地点ですし(笑)
松本:ライブ配信については、ぼくも野井倉さんも、コロナ禍がはじまった頃からぞれぞれ個人的にその可能性を探っていた状況でした。先述の松原さんが以前からYouTube配信を積極的におこなっていたので、彼からたくさんのことを教えてもらいました。バックアップストリームを使って配信元を切り替えるという方法も、彼に夜な夜な付き合ってもらって(笑)
野井倉:前例もほとんどなかったので、6月くらいから私と松本さんで毎週さまざまな設定を実際に試しながら、映像と音声のクオリティを追い込んでいきましたね。
3拠点を結ぶ各会場のシステム
R:各会場ではどのようなシステムで配信をおこなっていたのでしょう。
野井倉:私のところ(鹿児島会場となったCAPARVOホール)はライブハウスなので、ステージに関しては通常のPA/SRシステムです。卓の2MixをPro Toolsに入れてリアルタイムでマスタリングしたものをOBSから配信しました。つながるステージではPro Toolsを挟むとレイテンシーが増えるので、配信用には卓のアウトを直接SYNCROOMで橋本さんのところへ送っています。鹿児島ステージの時はモニターには通常のころがしを使いましたが、つながるステージではキューボックスを入れてイヤーモニターしてもらいましたね。
松本:配信システムはDelquiが所有しているものを使用しました。マシンはMacbook Pro 16" i9 8コア メモリ64GB で、ハードウェアエンコーダーを使用するのがミソです。
R:東京会場は、鹿児島との大きな違いはレコーディングに近い環境を構築したことにあると思います。
吉川:東京会場は、ぼくが普段マスタリングで使用している機材などをすべて持ち込んでの配信でした。RCA 44-BXとかU 49、U 47とか持って行ったんで、いわゆる配信ではあまり見ない構成だったかも知れません。モニターも、転がしを使わずにヘッドホンでモニターしてもらいました。デジタルでの処理は一切おこなわず、卓のアウトをすべてアウトボードでマスタリングして、それをスイッチャーに入れてました。遅延はOBSで合わせてましたね。
R:デジタルを使用しなかったのは遅延を回避するためでしょうか。
吉川:というか、どのプラグインが何ms遅れるとか、そこまで詳しくは把握してなかったのと、ソフトを使っちゃうと、本番中に予期せず止まったりしたら怖いなと思って。アナログで完結させようと思ったんです。
R:つながるステージの時はどうでしたでしょうか。
吉川:つながるステージでは、SYNCROOMを使うためにPro Tools HDXシステムを使用しました。それまでSYNCROOMを使った経験があまりなかったので、使い慣れているHDXでキューなどを作りたかったんです。Blue Cats PatchWorksを使って、Pro ToolsにSYNCROOMをプラグインとして立ち上げてました。
R:映像はどのようになっていたのでしょうか。
松本:鹿児島ステージでは2台のスイッチャーを連結して、11台のカメラを使用しました。
野井倉:カメラは機種を合わせることができなかったので、色味を合わるのが大変でした。
松本:カメラはカメラマンさんに持ち寄ってもらったので、機種を揃えられなかったんです。東京はBlackmgic Design Pocket Cinema Camera 4Kを11台揃えていたので、鹿児島の映像関係の方々は「負けるもんか!」と燃えてましたね(笑)
R:スイッチャーは何を使用されましたか?
野井倉:Roland V-60HDです。鹿児島ジャズフェスティバル自体が以前からRolandにサポートを受けている関係で、スイッチャーなどの一部の映像関係機器はRolandからお借りしました。カメラとPro ToolsのアウトをV-60HDに入れて、V-60HDのアウトをOBSに入れているという流れです。
吉川:東京は、映像関係はBlackmagic Designで揃えました。
R:つながるステージはどのような構成で配信していたのでしょうか。
橋本:鹿児島と東京からZOOMを受けるためのPCが各1台、計2台あり、SYNCROOMのためのPCが1台、ミキサーとしてWAVES LV-1、こちらだけOBSではなくWirecastでした。Wirecastの手前でZOOMの出力をATEM Mini Proに入れて、鹿児島か東京かを選ぶ、と。リップシンクはWirecast側でやってます。今回は、私のところでは音作りのようなことはしませんでした。当日は鹿児島と東京からまとまった音が来てたので、バランスだけこちらでフィックスしてそのままふたつを混ぜて送り出すと。もちろん、トータルのレベル管理とかはしてましたけど、リハーサルの段階でレベルはほとんどフィックスしてます。送り出しのレベルを「もう少し上がりますか、下がりますか」みたいな感じで確認しながら、本番中にどうしてもと感じた時だけ数dB触るか触らないかくらいの感じでミックスしてました。
R:SYNCROOMを使用する上でポイントとなるようなものはあるのでしょうか。
橋本:SYNCROOMはP to P接続なんです。今回は3箇所だったので、鹿児島-東京、鹿児島-和歌山、和歌山-東京、と、それぞれ別々の回線でつながっていました。そういう仕組みなので、音質も遅延もそれぞれの環境によって変わってくるんですね。すると、いま自分が聴いている2会場の音が本来のタイミングかどうかはわからないんですよ。鹿児島と東京から私のところに来ている音のタイミングがずれていても、鹿児島-東京間では合ってる可能性があるわけです。そうしたところもリハーサルの際に確認して、明らかにずれている時はこちらでディレイを調整します。
R:LV-1はSoundGrid Serverを使用した低遅延のプロセッシングが特徴ですが、今回は2系統のステレオを1系統にミックスしただけだったのでしょうか。
橋本:今回はそうでした。普段はわんさかプラグインを使いますよ(笑)。160ms分くらい使いますね。ZOOMだと私のとこには映像が300msくらい遅れてくるんです。だから、もっとプラグインを使っても大丈夫なんですが(笑)。
R:配信ソフトは普段からWirecastなのでしょうか。
橋本:そうです。私のところは多点配信が多いんです。それも、YouTube、Facebook、オリジナルサイト、などバラバラなんですよ。どこかひとつに不具合があった時、OBSだと全員止める必要があるんです。それが、Wirecastだとひとつずつ出したり止めたりできるんです。各信号ごとに解像度も変えられますし。Wirecastである理由はその一点だけです。少なくとも、私がWirecastを使い始めた当時のOBSではそれができなかったんですよ。
鹿児島ステージ
鹿児島ステージのオペレーション責任者は、鹿児島ジャズフェスティバル実行委員 でもありサウンドエンジニアでもある SRPlanning 代表取締役 野井倉 博史 氏が 担った。会場となった CAPARVO HALL は同じく野井倉氏が代表取締役を務め る有限会社 SR Factory が経営するライブハウスのため、マイクやモニタースピー カーなどのステージ周辺機器は常設の PA システムを使用している。普段のライ ブと同じ環境で演奏できたことは、アーティストからも好評だったようだ。
インタビューでも触れられている通り、FOH のメインアウトを別室にある Pro Tools HDX システムに入力し、配信のための整音 / マスタリングをリアルタイ ムにおこないながらの配信となった。FOH ミキサーは Roland M-5000。音作りはミキサーで行い、Pro Tools で は段階的に複数のプラグインを使用して YouTube Live に適した音に整えてい く。SYNCROOM を使用しておこなったつながるステージではレイテンシー の増加を抑えるために Pro Tools システムを通さず、M-5000 の2系統目のモニターアウトを直接 SYNCROOM に入力した。Pro Tools のアウトはビデオスイッチャー Roland V-60HD に送られ、ここでカメラの信号と同期を取ったあとで配信用 MacBook Pro に流し込まれる。MacBook Pro は松本 氏が所属する株式会社 delqui が所 有しているものを使用し、OBS から配信をおこなった。8 コア CPU、64GB メモ リを搭載したハイパワーマシンだが、CPU への負担を最小限にするためにハード ウェア・エンコード機能を使用したという。
和歌山:つながるステージ
鹿児島・東京の各会場にいるアーティスト同士がリモートセッションする様子をライブ配信したつながるステージ。このプログラムは和歌山にある有限会社 ティースペックのスタジオから配信され、システム設計とオペレーションは同社 代表取締役でライブPAエンジニア・遠隔セッションエンジニアでもある橋本 敏邦 氏が担った。氏は以前から遠隔セッションを業務として請け負っており、つながるセッションではそうした氏の豊富なノウハウと磐石なシステムがいかんなく生かされたと言えるだろう。このリモートセッションはオーディオ部分をYAMAHA SYNCROOM、映像はZOOMミーティングを使用することで実現している。SYNCROOMはPtoP接続となるため、リアルタイムセッションのために鹿児島-東京をつなぎ、配信用には別途、鹿児島と東京がそれぞれ和歌山と個別に接続した。
各会場からの音声はSYNCROOM用PCからDanteでWAVES LV-1に入れられ、そこでミックスされる。映像付きの遠隔セッションの場合、映像が音声に対して300msほど遅れて到達するため、大量のプラグインを使用しても遅延が問題になるケースはほとんどない。そのため、普段の配信業務ではLV-1で音作りをおこなうそうだが、今回は各会場からすでに処理が施された音声を受けていたため、レベル合わせと映像と同期させるためのディレイを入れるにとどまっている。ビデオスイッチャーはATEM Mini Pro、映像も各会場でスイッチングが施された信号が送られ、鹿児島にいる松本氏と連絡を取りながら和歌山で2会場からの映像をスイッチングしていた。
映像と音声はそれぞれ配信PCに送られるが、配信用アプリケーションにはWirecastが使用され、映像と音声の同期はWirecastで取る形を取った。有限会社 ティースペックではLive device事業部として業務用機器の開発・販売もおこなっており、橋本氏の配信システムではPCはすべてLive deviceオリジナルのものが使用されている。
東京ステージ
東京ステージのオペレーション責任者はSTUDIO Dede オーナーでレコーディング/マスタリングエンジニアの吉川 昭仁 氏。同スタジオはジャズミュージシャンなら知らぬ者などいない、国内でも最高峰のレコーディング/マスタリングスタジオのひとつだ。
そのため、東京ステージのシステムは鹿児島ステージとは打って変わって、スタジオレコーディングのような構成が特徴的。マイクはU-47、U-49、44-BXなどが並び、アーティストのモニターはヘッドホンを使用している。東京ステージの会場には外部のレンタルスペースが使用されたため、STUDIO Dedeの機材をそのまま持ち込んだ格好だ。デジタルドメインでの不意のトラブルを避けるため、アウトボードも多数持ち込まれ、東京ステージ単独での配信にはデジタル処理は一切おこなわれていない。対して、つながるステージ配信時にはモニターミックスを作るためにPro Tools HDXシステムを使用した。プラグインチェイナーであるBlue Cat PatchWorksを介して、VST連携モードのSYNCROOMにオーディオを入力するためだけに使用され、プロセッシングやトリートメントは東京ステージと同様アナログドメインで施している。
もともと実行委員会がある鹿児島会場に対して東京会場は人手が少なく、カメラマンを除くすべての作業をたった3人の人員で受け持っていたという。配信用のミックスはもちろん、キューミックスや映像のスイッチングまで、オペレーション関連は吉川氏がひとりで請け負った。
「配信」に最適化されたサウンドの探究
R:音質向上のために施した工夫などはありましたか?
野井倉:6月くらいから配信をやっていて思ったのが、ダイナミクスレンジが広い状態で送っちゃうと非常に聴きづらくなるんです。アーカイブになったものを聴く分にはまだいいんですけど、リアルタイムで聴く時には、卓のアウトをそのまま送っただけだとMCが聞こえないとか、曲によってはピークが叩かれて全体的にレベルが落ちちゃうとかがあって。マスタリングして出さなきゃダメだね、って結論に達したのが6月〜7月だったんですね。そこから本番の9月までの間に、レベル管理や実際にYouTubeで聴いた時の傾向も含めて、配信用の整音プリセットをPro Toolsで作っていきました。
R:EQやリミッターを使用しているのでしょうか?
野井倉:インプット段でEQを使ってますが、80Hz以下は結構切ってますし、上の方は逆に4kHzくらいからちょっと伸ばし気味にしてます。レコーディングだと8kHz〜10kHzを上げるとエアー感として残ってくるんですけど、配信だとまったく残らないです(笑)。なので、わりと下の方から持ち上げてたりしますね。そのあとはマスターのアウトプット段で掛けてます。補正用のEQが一発、その後がWAVESのCLA MixDown、L2、SSL G-Master Buss Compressorが掛かっている状態です。ミキサーで既に処理が掛かってますので、Pro Toolsでは1回でガツンと掛けるのではなく3段階に分けてちょっとずつなめしていく感じです。
R:東京側はいかがでしたでしょう。
吉川:主要楽器のマイクプリにNeveとAmpexを使ったことと、マスタリング用途として、レベルを上げるものと止めるものというのを使った程度ですかね。LA-2やSSLバスコンプ、LavryのソフトサチュレーターやMTPリミッターなど、普段マスタリングでやってることの初段と最終段をやったって感じです。全部ハードウェアで、プラグインは一切使いませんでした。
R:つながるステージはどうでしたでしょうか。
橋本:インターネット回線を通してくると、どうしてもS/Nが悪くなるんです。なので、各会場からSYNCROOMに送っていただくレベルをちょうどいいところにしてもらえるようにお願いしていました。普段だと必ずノイズサプレッサーを入れるんですが、今回は各会場でしっかり作られた音が来ていたのでなるべく触らず、そのまま混ぜて出した感じです。
トラブルもまた"ジャズ"らしさ!?
R:ここは苦労したとか、やってみたら思ったようにいかなかった、といったポイントがあれば伺えますか。
野井倉:回線速度ですね。本番中にルーター再起動までかけました。鹿児島はやっぱり東京とくらべるとインフラが弱い。とにかく回線が安定しない。リハーサルの時はよかったけど、本番の時間帯には安定しなかった。そうした影響が極端に出ましたね。
松本:そういう意味では、配信元を分けたのは結果的によかったです。
野井倉:結局、フィナーレのつながるステージは構成を変えましたよね?
松本:もともとはリズムセクションは鹿児島のメンバーが乗って、フロントは東京からという予定だったのですが、鹿児島のSYNCROOMが調子悪くなったんです。リズムセクションが途中で落ちたらまずいということで、吉川さんが機転を利かせて東京会場に残っていた米木(康志 b)さんと福森(康 ds)くんをステージに上げてくれて。彼らには初見で演奏してもらうことになりましたが、それでことなきを得たということが起こっていました。吉川マジックでした(笑)
吉川:ちょっと大変だったのは、その時に「東京にもドラムとベース乗せよう」なんて言っちゃったものの、キューボックスを人数分しか用意してなかったんですよね。あれは焦りました。結局、ぼくのモニターを延長しまくってステージに送ったんですけど、その結果、フィナーレの時は遠くで鳴ってるドラムとボーカルの口元を頼りにスイッチングしてました。
R:東京会場はネットワークは安定していたのでしょうか。
吉川:東京の会場はNURO光が入っていたんです。それが理由で選んだというのもあったんですが、前日に会場入りしてみたらIP v6じゃなくて。そこを変更しなければならなかったということがありました。
松本:東京ステージは会場がDedeさんではなく外部に借りたので、仕込みなどもすべて前日にやってもらうことになってしまって。
吉川:鹿児島ステージと東京ステージが切り替わるタイミングで、なぜかぼくの携帯が切れちゃったりとか。でも、こんなのは全然マシで、ほかの仕事で大きな企業のイベントをやった時なんかは会場が漏電してシステム全体が4回落ちましたからね。かごジャズのトラブルはトラブルではなくて、本番中に「こんなことやりたい!」っていうのをやってしまったがためという、ある意味すごくジャズっぽいイベントで面白かったです。
R:和歌山はいかがだったでしょう?
橋本:私、実はかごジャズがスイッチャーのデビューだったんですよ。それまでの遠隔セッションはZOOMのギャラリービューを出していただけで、音だけはこっちでミックスするというスタイルでやってたんです。つながるセッションの配信を和歌山からやることが決まった時に「できれば全画面でスイッチングを…」ということで。「スイッチング、実は本番でやったことないんですけど」って言いましたら「大丈夫ですよ。2系統の切り替えだけですから!」なんて言われて(笑)。でも、それって実は○か×かの世界じゃないですか(笑)
松本:いや、完璧でしたよ(笑)。ぼくが譜面を見ながらキューを出してたんですけど、途中で「この譜面なんか変だな」と思ってよく見たら、全然違う曲の譜面見てたんです(笑)。でも、橋本さんは完璧にやってくださいました。
橋本:あとは、映像ですね。鹿児島と東京の映像が私の想像をはるかに超えるクオリティだったので「ちょっと待って!」と(笑)。つながるステージはZOOMからの映像なので、なんとかしようということでBlackmagic Design ATEM Streaming Bridgeを候補にしてたんですよ。でも、出荷開始時期が間に合わなかった。そこで、ZOOMで高画質配信ができる方法を探ろうということで、前日になってFull HDで送るモードを見つけたんですよ(笑)。
R:ATEM Streaming Bridgeは、発表されたその日にご注文いただいてました。残念ながら鹿児島ジャズフェスティバルが終了してからのお届けとなってしまいましたが、その後お使いいただく機会はありましたでしょうか。
松本:ZOOMよりは確実にきれいな映像でつながりますよ。
R:こうしたネットワーク系のソリューションというものは、今後もっと需要が高まりそうです。
橋本:そうですね。実際、ZOOMなんてもう普通に使われてますからね。
野井倉:地方は特にそうで、東京からゲストが来れなくなったとしてもイベント自体が中止になることはありません。すると、配信で出演してもらおう、って話になるものが結構多いんですね。東京では、そういう配信向けのスタジオが増えていることはありがたいですね。回線も含めて照明からなにからすべて揃っていて、とりあえずPCを持っていけばすぐ配信できる。それを現地でMCとかと混ぜて。トークショーなどは、今はこういう形が多いですよ。
何もしないという選択肢はない、2021年の展望
R:鹿児島ジャズフェスティバル2021の展望について伺えますでしょうか。
松本:結論から言うと、まだなんとも言えないというのが正直なところです。アーティスト自身が運営するイベントということで、これまでにも新しい可能性を提示してこれたと考えています。そのため、何もしないという選択肢はないと思っています。ただ、屋外での開催に戻るのか、またライブ配信になるのかといったところはまだ何も決まっていないという段階です。
R:リアルと配信を同時にやるという可能性は…
松本:できちゃいますよね(笑)。ライブ配信をおこなったことで、「これを観て鹿児島に行きたくなった」というご意見が一番多かったのですが、次に多かったのが「配信だから観ることができた」というご意見でした。ですので、リアルライブと配信を同時におこなうことも考えてはいます。
野井倉:2019年まではサテライトを含めて4~5会場でやってましたね。実はコロナ以前に一度あがった意見として、夜しかライブをしないサテライトステージに昼間はメインステージの映像を出すというものがありました。鹿児島ジャズフェスティバル2020を経た今なら、こうしたことはもう簡単にできちゃいますね。
松本:実際、以前は映像をリアルタイムにスイッチングして配信して、というソリューションは非常に高価でした。それが、ここ1年ほどで一気に手元まで降りてきた感覚はあります。そうした部分で、鹿児島ジャズフェスティバルのようなイベントにも、映像を使った可能性というものが広く開かれていると感じています。なにかしら面白いアイデアを見つけていこうかなと思っています。
橋本:本人が感染しなくても、濃厚接触者となって来場できなくなるというケースもあると思います。そうした場合は遠隔で参加してもらうというのはありですね。
松本:実は、遠隔出演は昨年8月に経験させていただいてました(ライスパワージャム・ハ!2020)。地方を拠点に活動している身としては、こうした技術はありがたいですね。音楽を楽しむ方法のひとつとして、今後も残っていくんじゃないかと思います。
R:今年も鹿児島ジャズフェスティバルを楽しみにしています!みなさま、本日はありがとうございました!
一同:ありがとうございました!
ライブ配信が現在ほど浸透していなかった2020年夏の時点で、手探りで作り上げた手法によって大型音楽フェスティバルを成功させた『鹿児島ジャズフェスティバル 2020 オンライン』。成功の背景にあったのは、「ジャズという音楽の魅力を多くのひとに伝えたい」という一貫した情熱だったことが伝わってくるインタビューだった。どのような形であれ、2021年もすばらしい音楽を届けてくれるであろう鹿児島ジャズフェスティバルから、今後も目が離せない。
鹿児島ジャズフェスティバル 公式HP
鹿児島ジャズフェスティバル2020オンライン 1st Day
鹿児島ジャズフェスティバル2020オンライン 2nd Day
*ProceedMagazine2021号より転載
Review
2021/07/29
現役サウンドデザイナーによる実践レビュー!vol.3 ~Le Sound AudioTextureでクリエイティブなループを制作
既存のライブラリから音源を選び、尺を合わせて加工して、足りない音は収録…という従来のワークフローとはまったくことなるアプローチでサウンドデザインの世界を拡げるLe Soundプラグインは、効果音をシンセサイズするという、プロシージャルオーディオのコンセプトにもとづいたアプローチで自由自在なサウンドメイクを可能にします。
このLe Sound製品を、TV番組、CM、アニメーション、イベントなど幅広い分野で大活躍中のサウンドデザイナーである安江史男 氏(Tacit Knowledge Sound LLC)、荒川きよし氏(株式会社 Async)のおふた方に実際に使用していただき、実践的な使い方を教えてもおう!というこの企画。
全6回予定の第3弾はTacit Knowledge Sound LLC 安江氏によるAudioTextureの実践レビュー。
手持ちの素材から違和感なくループを作成したり、まるでシンセのような新しいサウンドを生み出したり…クリエイティブと遊び心が満載の実践レビュー第3弾をお楽しみください!
安江 史男 氏 プロフィール
愛知県春日井市生。カリフォルニア州立ノースリッジ大学で音楽ビジネスを学ぶ。外国人コーディネーターを経て、音響効果の世界へ。
TVCM、Web、イベント等、多種多様な効果音が必要な作品に従事。選曲も扱う。DJとしての活動も顕著。
公式サイト:https://www.yasuefumio.com
レーベル: www.bigpierecords.com
vol.1 ~Le Sound AudioElecで電撃サウンドを自在にデザイン
vol.2 ~Le Sound AudioWindでロケ映像を美しく仕上げる
AudioTextureで自然なループからトガったシンセサウンドまで!
第3回はAudio Textureについてご紹介します。
こちらは音を精製するものというよりは、基本的には、音源を元に、鳴らす箇所をランダマイズさせることで、無限ループを作ることができるプラグインです。
ピッチ可変も可能で、こちらもランダマイズできるので、揺らぎを作りながら無限に鳴らし続けることができます。
プラグイン画面です。右上のLoadから音源ファイルを指定してAudio Texture内に取り込みます。
取り込むと自動的にマーカーを生成してくれます。このマーカーはランダマイズさせる際の音源のトリガーポイントになります。左下のUnit Sizeのノブは再生される音源の長さを調整できます。マーカーから次のマーカーまでが再生される音源の長さになるので、Unit Sizeを動かすとマーカーの数が変わります。このマーカーは任意で動かしたり、ダブルクリックで追加することが可能です。
次にループして欲しい音源のエリアの中心を、波形画面下の横に長いバーのポインターを動かして指定し、真ん中の方にあるX Rangeのノブで幅の調整をします。
また、Rateで音源のピッチの上げ下げができます。さらにR Rangeでピッチのランダマイズができるようになり、値を上げていくとランダマイズされるピッチの幅が高低音域に広がって行きます。
まずは無限ループの映像です。
こちらでは水の音をループ感を軽減するために3つ重ねています。
冒頭で大元の音源をPreviewボタンを用いて流しています。Startボタンを押したところから、パラメータに沿ったランダマイズが始まります。
左と真ん中は同じ音源を読み込んでいますが、ピッチとX Rangeの使い方、またマーカーの位置を変えることで同じ音が鳴らないようにしています。これに右の音をベース音として載せることでさらに同じ音と感じさせないようにしてみたつもりです。大元の音源は短い音源ではありますが、長い音源に変化できることがなんとなくわかっていただけるかと思います。
次はシンセ系の音で、ちょっと違ったこともやってみました。
こちらは前回のAudio ElecからTelemetryの音だけを書き出したものを音源としています。X Rangeは最大、そしてUnit Sizeをかなり小さくし、マーカー位置を極端に増やすことでランダマイズされる箇所を増やし、複雑な音にしてみています。
また、後半ではX RangeとR Rangeを最小、Unit Sizeも小さめにし、Rateを上げ下げすることで、駆け上がり下がり音も作ってみています。
シンセでない音でも同じようなことをしてみました。
シェルシェイカーの音を元にしています。収録音関係をシンセサイズすることで手動では鳴らせない音に可変できるのが良いところかと思います。
第3回はAudioTextureをご紹介しました。
音源によって試せることが多様に変わるので、是非色々試行錯誤してみてください!
AudioTextureの魅力は、手持ちの音源の長さを映像の尺に合わせて自在にコントロールできること。さらに、安江氏にご紹介いただいたようにシンセサイザーならではの加工もできる点がさらに便利なところです。
ノイズが入った部分をカットしているうちに尺が足りなくなってしまった音源を伸ばす、短い時間でも音源にダイナミクスを持たせるためにランダマイズする、自然音や生音を素材に新しいサウンドを創造する…使い方もまさに無限大のAudioTextureの魅力にぜひ触れてみてください!
今回登場したプラグイン以外のLe Sound全ランナップも、ぜひこちらからチェック!きっとイメージに合うサウンドがあるはずです。
今回登場したプロダクトはこちら
AudioTexture
販売価格:¥19,800(本体価格¥18,000)
AudioTextureはとても大きな創造の可能性を秘めています。AudioTextureのサウンドを重ねて、たったひとつのシンプルな素材から重層的なサウンドを生成したり、素材を複数使用してサウンド・シーンを制作してください。
Rock oN Line eStoreで購入>>
https://pro.miroc.co.jp/headline/le-sound-review-sounddesign-1-audioelec/#.YQFSalP7Q-Q
https://pro.miroc.co.jp/headline/le-sound-review-sounddesign-2-audiowind/#.YQFSjVP7Q-Q
Review
2021/07/02
現役サウンドデザイナーによる実践レビュー!vol.2 ~Le Sound AudioWindでロケ映像を美しく仕上げる
既存のライブラリから音源を選び、尺を合わせて加工して、足りない音は収録…という従来のワークフローとはまったくことなるアプローチでサウンドデザインの世界を拡げるLe Soundプラグインは、効果音をシンセサイズするという、プロシージャルオーディオのコンセプトにもとづいたアプローチで自由自在なサウンドメイクを可能にします。
このLe Sound製品を、TV番組、CM、アニメーション、イベントなど幅広い分野で大活躍中のサウンドデザイナーである安江史男 氏(Tacit Knowledge Sound LLC)、荒川きよし氏(株式会社 Async)のおふた方に実際に使用していただき、実践的な使い方を教えてもおう!というこの企画。
全6回予定の第2弾は株式会社 Async 荒川 きよし 氏によるAudioWindの実践レビュー。NHKで20年にわたりあらゆるジャンルのテレビ番組でサウンドデザインを担当してきた同氏は本稿執筆に先立ち、5.1chサラウンドでのドキュメンタリー番組にAudioWindを使用。
記事後半では荒川氏謹製スペシャルムービーを使用して、カメラ内蔵マイク / ロケ音声のみ / ロケ音声 + AudioWindの比較動画もご用意しております!
第1弾 安江氏によるAudioElec編はこちら>>
荒川 きよし 氏 プロフィール
1996年、NHK入局。
1998年より音響効果業務を担当。ドキュメンタリー、子供番組、コントやドラマなどジャンルレスに対応。
2018年に独立し株式会社Asyncを設立。現在はアニメーション、バラエティ、ドラマ、CM、web、映画などで、選曲と効果音をトータルでデザインしている。
ナチュラルなサウンドがドキュメンタリーにさらなるリアリティを!
今回ドキュメンタリーのテレビ番組を制作する案件があり、これは絶好のタイミング!ということで、LE SOUNDのAudioWindプラグインを活用させていただきました。
今回の番組は5.1chサラウンドで作成するというとで、現地で録音されたサラウンドでの音ロケ素材もたくさんありました。
MAに入る前の効果音の仕込み段階では、実際の映像の同録音声とともにロケ音のサラウンド環境音をベースに、エディットしながら全体の環境音を作りんこんでいくのですが、もちろんそれだけでは成立しない部分も出てくるので、風音やフォーリーなどでも補強しながらサウンドデザインしていきます。
特に風音などはサラウンドで表現しようとするとステレオのライブラリー素材などをエディットして作り込んでいくのですが、ライブラリーも無限にはないのでだんだん似たような感じになってきてしまったり…
ということで今回の「AudioWind」。
最初はなんとなく人工的なサウンドをイメージして立ち上げたのですが…
適当なプリセットを選択すると、なんだか心地よい風音が…!ナチュラルで使いやすい感じの音色ですね。
しかも5.1バスに接続するとサラウンドで立ち上がりました。
これを映像に合わせてオートメーション使ってエディットできるとなるとこれは相当使えるのでは…!
最初に使い始めた人はプリセットのOutsideのなかのForest Lowなんかを聞いてみると、すごく使いやすい音色なのがわかるのではないでしょうか。
GLOBALのSPEEDのところのパラメータを動かすと風速が変化して、映像に合わせてそのつまみをいじるだけで簡単に抑揚のついた風を作ることができます。
LFEの送りのパラメータもあり、このへんをオートメーションで揺らすとLFEを使用した爆風の迫力も簡単に調整できます。
通常、既存の録音された音などで抑揚のついた風を作るとなると、風の盛り上がっているところを抜き出して繋いだり、EQやボリュームなどのオートメーションを書いていくのですが、このLE SOUNDのプラグインの強みは手間をかけずに映像に合わせて狙った抑揚を作り出せることですね。限られた時間の中で制作する現場においては非常に強力なツールになりそうです。
プリセットも非常に使いやすい音色が多く、森林のそよ風から切り立った山頂の爆風まで、イメージに近いものからエディットしていけば時間を圧縮しながらも思い通りのサウンドを作ることができました。
撮りおろしデモムービーでAudioWindの実力をチェック!
実際に制作した番組の映像素材はアップできないので、木々が風に揺らいでいる映像をテキトーに撮影して、AudioWindで仕上げてみました。
まず最初はiPhoneで撮影したオリジナルの映像です。マイクはiPhoneのマイクになります。
テーブルに置いて撮影したものですが、さすがに音のほうは吹かれていて使えませんね…
次の動画はZoom H2nで、近くの場所で鳥や虫などを別録音した素材で差し替えたものです。フロントのMSマイク素材をMIDSIDE MATRIXのプラグインで調整し、AUDIO EASE Altiverbで少しアンビエンスをつけています。
これだとやはりちょっと物足りないですね…
これにAudioWindで風音を足していきます。4トラック分のAudioWindを走らせてあちこちオートメーションをいじってみます。
NUENDO側のEQ、VOLUMEも書き込んでいます。
出来上がったものがこちらです。
AudioWindのオートメーションはこんな感じ(↓)です。割とテキトーです。
NUENDO側のEQやボリュームもオートメーション書きました。
セッション上半分
セッション下半分
コントローラブルな風音が手元にあるのというのは非常に心強いですね。もっと細かくいじっていくとさらに表情を作っていけそうです。
これからかなり出番が多くなりそうなプラグインでした!
Le Sound 実践レビュー第2弾、いかがでしたでしょうか!?最後のムービーでは、0:30付近からググっと風音が大きくなってくる時のニュアンスなどが、収録音声のみのムービーよりもかなりリアリティをもって迫ってくるのが印象的でした。
自然音というのは常に変化していて、そのバリエーションはまさに無限です。しかし、そもそも、風や雨といった素材はマイクという機材にとって非常に相性が悪いもので、ライブラリや生音収録だけではバリエーションに限界があります。
今回荒川氏にご紹介いただいたように、現場でロケ収録した素材とともにLe Soundプラグインを使用すれば、自然が生み出す絶え間ない変化に近いサウンドを制作できるのではないでしょうか。
今回登場したプロダクトはこちら
AudioWind V2 Pro
販売価格:¥44,000(本体価格:¥ 40,000)
ダイナミックに天候を操る、風のシンセサイザー。プロシージャル・オーディオ技術を用いた革新的なプラグインで、パーフェクトな風の音をたった数分で作成することを可能にします。わずかなコンピューター・リソースで動作し、Le SoundのD.O.S.E.テクノロジーによって、5.1chまでリアルタイムで動作します。全体を作り直すことなく、サウンドを微調整することが可能になります。
Rock oN Line eStoreで購入>>
https://pro.miroc.co.jp/headline/le-sound-review-sounddesign-1-audioelec
Review
2021/06/21
現役サウンドデザイナーによる実践レビュー!vol.1 ~Le Sound AudioElecで電撃サウンドを自在にデザイン
既存のライブラリから音源を選び、尺を合わせて加工して、足りない音は収録…という従来のワークフローとはまったくことなるアプローチでサウンドデザインの世界を拡げるLe Soundプラグインは、効果音をシンセサイズするという、プロシージャルオーディオのコンセプトにもとづいたアプローチで自由自在なサウンドメイクを可能にします。
このLe Sound製品を、TV番組、CM、アニメーション、イベントなど幅広い分野で大活躍中のサウンドデザイナーである安江史男 氏(Tacit Knowledge Sound LLC)、荒川きよし氏(株式会社 Async)のおふた方に実際に使用していただき、実践的な使い方を教えてもおう!というこの企画。
全6回予定の第1弾はTacit Knowledge Sound LLC 安江氏によるAudioElecとAudioWindの実践レビュー。これまでにもCM制作などで実際に愛用しているということで、なんとこの記事のためにショートムービーを制作してくださいました!
安江 史男 氏 プロフィール
愛知県春日井市生。カリフォルニア州立ノースリッジ大学で音楽ビジネスを学ぶ。外国人コーディネーターを経て、音響効果の世界へ。
TVCM、Web、イベント等、多種多様な効果音が必要な作品に従事。選曲も扱う。DJとしての活動も顕著。
公式サイト:https://www.yasuefumio.com
レーベル: www.bigpierecords.com
AudioElec + AudioWindで多彩な電撃サウンドを作る!
LE Soundは炎、雨、風といった音をシンセサイズで作り出す、音源型プラグインです。
今回の連載では、いくつかのプラグインを取り上げて、僕はこんな感じで使用しているというのをご紹介します。
-AudioElec-
今回はAudioElecにフォーカスしてお送りできればと思います。複数の電気音を重ね合わせて電気空間を作るのに長けているプラグインです。
ミキサーが備え付けでありますので、プラグイン上でボリューム操作して作り込んでから、オートメーションで音を可変させて一定の音にならないようにすることが可能です。
…が、僕は音を後からタイミングを変えたり他のプラグインで加工したりすることが多いので、別のやり方でお話を進めようと思います。
プラグイン画面です。一旦ここで大体こんな音にしたいという状態を作ります。
プリセットにたくさんのテンプレートがありますので、こちらで一度選んでから好みの音にしていくのが早いかと思います。
音を決めたら、一度それぞれ個々に書き出します。
ミキサーのソロボタンで単独の音がMasterに流れるようにします。
このような形でざっくり一個一個書き出します。(AudioWindも立ち上がっていますが、後ほど。)
書き出した後は通常の素材を映像に当てていく作業をします。
先ほどは全部のチャンネルを書き出しましたが、映像に当てていると不必要に感じる音が出てきたり、個々で調整したい部分が出てくるので、個々で書き出しておけば後処理がやりやすいかと思います。
それでは早速これで作った映像です!
この映像は所々真っ暗になるので、そこは音を消して映像に合うようにしています。
LE Soundのプラグインは環境音的に使われることが多いかと思いますが、このようにして映像との整合性をとることができるかと思います。
この映像は前後半に分けてみました。後半にはTelemetryの音を追加しています。
このTelemetryの音を足すと雰囲気が変わるのと、ラジオノイズのような雰囲気を追加できます。
また、Telemetryの音にはPitch'n Timeを使ってこんな加工をしてみました。
音を一定にしておくのはもったいないので、ガンガン揺らしています。
また、このTelemetryの音はポップ目のグラニュラーシンセのような音でもあるので、電気系統に関わらずかなり汎用性のある音と感じています。アイデア次第で全く違う使い方ができると思います。
全く別の考え方で…
こちらでは電気の音にディストーションをかけてよりビリビリくるようにしています。
また、AudioWindを用いてWhooshを作り、通過感を足しました。
プリセットのFXから適当に選んで、Master Levelを手動で動かしながら書き出すと、かなりお手軽に風系Whooshが作れます。
今回はAudioElecと、軽くAudioWindも紹介させていただきました。
パラメータがいっぱいあるので絶対他にもやり方やテクニックがあるはずです。
是非試してみてください!
アイデア次第で無限のバリエーションを生み出すことができるLe Soundプラグイン。Telemetoryを加えてサウンドをポップにする、AudioWindを使って厚みを加えるなど、多彩な手法で狙った音を作り込む安江氏のノウハウの一端をご紹介いただきました。
今回登場したプラグイン以外のLe Sound全ランナップも、ぜひこちらからチェック!きっとイメージに合うサウンドがあるはずです。
Le Soundに関するお問い合わせ、ご相談はcontactバナーからROCK ON PROまでご連絡ください!
今回登場したプロダクトはこちら
AudioElec
販売価格:¥19,800(本体価格:¥ 18,000)
AudioElecは電気音エミュレーション専用のプラグイン・シンセサイザーです。ダイナミック・モデリング技術に基づいており、サンプリング技術は非常に限られたモジュールにしか使用されていません。つまり、電気のさまざまな要素の近似値をモデリングした数学的な方程式を、オンザフライで解くことによってサウンドを生成します。この複雑なシンセ・エンジンは受信した制御信号にダイナミックに反応し、生成されたシンセ・モデルに緻密で繊細な制御を提供します。
Rock oN Line eStoreで購入>>
AudioWind V2 Pro
販売価格:¥44,000(本体価格:¥ 40,000)
ダイナミックに天候を操る、風のシンセサイザー。プロシージャル・オーディオ技術を用いた革新的なプラグインで、パーフェクトな風の音をたった数分で作成することを可能にします。わずかなコンピューター・リソースで動作し、Le SoundのD.O.S.E.テクノロジーによって、5.1chまでリアルタイムで動作します。全体を作り直すことなく、サウンドを微調整することが可能になります。
Rock oN Line eStoreで購入>>
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2021/01/25
Avidから音楽のための新I/O、Pro Tools | Carbon ~Built to capture brilliance ~<ProceedMagazine掲載記事>
Avid純正I/Oとしてはおよそ10年ぶりとなる新製品、Pro Tools | Carbonが発表された。Built to capture brilliance - 音楽の輝きを捉えるために生まれた - をキャッチコピーとする待望の新プロダクトだ。本記事ではHDX DSPチップ内蔵という驚愕の進化を遂げた仕様をはじめ、Avidのイノベーションと最新テクノロジーが盛り込まれた新時代のAvid I/Oの機能と実力をあらわにしていく。
●Pro Tools | Carbon 価格 ¥478,500(本体価格 ¥435,000)
<主な仕様> ・対応OS:Macのみ ・対応DAW:Pro Tools, Pro Tools | Ultimate ・同時最大入出力:25インプット x 34アウトプット ・Mic/Line 入力:8x プリアンプ・インプット (コンボジャック5-8と2系統のInst入力はVariable Z対応) ・Analog Line I/O:8 x 8 (DB25) ・ADAT I/O:2 x Optical (ADAT/SMUX) 16 x 16 ・モニター出力:2x 1/4″ ・ヘッドフォン出力:4 x 1/4″ (Stereo) ・コンピューターとの接続:Ethernet (AVB) ・同期:Word Clock (BNC) ・サンプリング周波数:44.1kHz-192kHz ・ビットレート:32bit ADDA
●本記事も含めたProceedMagazine2020-2021号のご購入はコチラから!
HDXチップ内蔵オールインワンI/O
Built to capture brilliance - 音楽の輝きを捉えるために生まれた - Pro Tools | Carbonは、そのキャッチコピーの通りミュージック・クリエイターをメイン・ターゲットとしたプロダクトだ。Pro Tools | MTRX / Pro Tools | MTRX Studioが、主に膨大なトラックをハンドリングすることが想定されるポストプロダクションに歓迎される仕様だったことを考えると、久々の音楽制作向けハードウェアと言えそうだ。
同時最大25in/34outの豊富な入出力、新開発のマイクプリ、インストゥルメント入力のインピーダンス可変機能、そして大注目の内蔵HDXチップなど、機能面を見ただけでもソロからバンド編成のミュージシャン、音楽エンジニア/プロデューサーなど、音楽制作で使用するために必要十分な機能がふんだんに盛り込まれている。しかし、さらに注目に値するのは、AvidがこのPro Tools | Carbonのために多くの新技術を研究開発したという事実だろう。Pro Tools | Carbonは従来とはまったく異なる新しいコンセプトを持ち、I/Oそのものの使い方だけでなくPro Toolsやシステムセットアップ、ひいてはワークフローまで変革するほどのイノベーションを秘めたプロダクトと言っても過言ではない。まさにAvidのイノベーションが詰まったこのプロダクトの機能や使い方について、以下で詳細に見ていきたい。
Pro ToolsにHDXのパワーを与える
Pro Tools | Carbonの仕様で最も目を引くのは、なんといっても筐体内部に搭載されたDSPチップだろう。チップはAvid HDXカードに搭載されているものと同じものとなり、non-UltimateのPro ToolsでもHDXシステムと同様にオーディオをニアゼロ・レイテンシーで扱うことができるようになる。しかも、AAX DSPプラグインをPro Toolsで使用することまで可能になる。
HDX+Pro Tools | Ultimateというシステムのもっとも大きなアドバンテージであったDAWからのモニタリングやプラグインの掛け録りがPro Toolsにも開放された格好となるが、これはPro Tools | CarbonがHDXシステムの単なるエントリーモデルという立ち位置のプロダクトであることを意味するわけではない。HDXはシステムの構成上I/OとDSPカードが別々の筐体となるが、Pro Tools | Carbonは本体内部ですべてのオーディオプロセッシングを完結させることができる。そのため、一貫したアルゴリズムによる処理や介在するインターフェイスを減らすことが可能となっている点は、既存のHDXシステムに対するアドバンテージと言えるだろう。また、新テクノロジーであるHybrid Engineによって必要なトラックだけをDSPモードで処理することが可能となり、マシンパワーを効率的に運用できるようになっていることも見逃せない。
パンポットの上にある稲妻マークがDSPモード切替ボタン。ウィンドウでは、いくつかのプラグインがPro Tools|Carbonで処理されていることがわかる。
高品質を実現する数々のテクノロジー
Pro Tools | Carbonは音楽クリエイターをメイン・ターゲットとしているだけあり、サウンドクオリティにもこだわったデザインがなされている。背面に8機搭載されたマイクプリは本機のために新開発されたもの。Avidいわく「Avid史上最高のクオリティを誇る性能」とのことだ。マイク/ライン入力のうち、6系統にはインピーダンスを変化させることができるVariable Zを搭載。ギター/ベースのキャラクターを変化させたり、リボンマイクを使用する際に適切なインピーダンスに設定することが可能となっている。
こうしたアナログ部分だけでなく、デジタルオーディオのクオリティにとって極めて重要なアルゴリズムの部分にも新技術が使用されている。Pro Tools | CarbonはAvid I/Oとしては初の32bit Floating処理に対応。ソフトウェア部分ではPro Tools 11から採用されていたが、本機への実装によって入力から出力までを一貫して32bitで処理することが可能となり、信号経路の途中で不要な歪みが発生する心配から解放されることになった。クロックには特許取得の倍精度JetPLLジッター除去技術が用いられている。従来のJetPLLを基にしたクロックの2倍の速度で動作するこのテクノロジーにより、これまでよりもジッターの発生を抑制することに成功している。
non-Ultimateユーザー向けのI/Oとしては初となる8ch分のプリアンプを搭載。背面コネクタはコンボジャック仕様でLineレベルと兼用可能だ。2系統のADAT IN/OUTコネクタは96kHzまでのサンプリングレートで合計16ch分のデジタルI/Oを確保、フットスイッチにも対応し、これ1台で制作環境を完結させることが可能な仕様となっている。
Pro Tools | Carbon内部の様子。中央にDSPチップを積んだ基板が確認できる。内部はFPGAで動作しており、高速な処理が可能。すべてのオーディオ処理が内部で行えるため、スループット720nsという超高速処理を可能としている。静謐性を重視したファンは内部温度を検知し、フロント側からリア側へと空気の流れを作ることで効率的な排熱を行う。
ソロアーティストからバンドまで豊富な入出力
最大同時25in/34outという豊富な入出力は、ソロアーティストからバンドまで、ひとつの機体でレコーディングすることを可能としている。アナログ入力はMic/Line x8ch + トークバック(Mono)に限定されるが、これだけでもバンドの個別録りに十分対応できる。さらに2系統のADATを活用して、入出力を拡張することも可能(16ch @44.1-48kHz/8ch @88.2-96kHz/4ch @176.4-192kHz )。フルバンドやオーケストラのレコーディングにも対応できるだろう。
フロントパネルに4系統が備わるヘッドフォンアウト、2系統のインストゥルメント入力も特徴的だ。アコースティックなユニットを自宅スタジオで収録したり、ドラムがブースに入ってギターとベースはコントロールルームから同時録音、といった使い方ができる点は、インディペンデントな活動をするアーティストやエンジニアにはうれしい仕様と言える。さらに、背面にはメインアウト2系統に加えて8ch分のLine出力を備えているため、商業スタジオでも従来のI/Oと同様に使用することが可能だ。
Variable Z対応のInst入力を配置。
フロントパネルに備わる4機のヘッドフォン出力。
先進のAVB接続にも対応したセットアップ
リリース当初はMac専用機となるPro Tools | Carbon。HDXカードもDigiLinkケーブルも不要なこのI/OはMacとの接続は至ってシンプル。それでいて、外部機器との間には十分な拡張性を備えている。Pro Toolsの対応バージョンは、本機の発表に合わせてリリースされたPro Tools 2020.11以降、対応OSはCatalina 10.15.6以降となっている(macOS 11 Big Surには未対応)。
Macとの接続はAvidライブコンソールであるS6Lと同じAVBが採用されており、LANケーブル1本でMacとの接続が完了する。LANポートのないMacBookの場合は、現状ではApple純正アダプタの使用が推奨されている。USB-Cポートしかないモデルの場合はアダプタを2重に使用しなければならないのが難点だが、今後、Avidから何かしらのソリューションが発表されることに期待したい。
Pro Tools | Carbonの開発にあたってAvidはAppleとも強力なコラボレーションを取ったようで、CoreAudioが認識するAVBストリームを、Pro Tools専用のエリアとOSと接続するエリアにわけるような動作を実現している。これにより、Pro Toolsからのアウトと同時に、同じMacにインストールされたその他のアプリケーションのアウトプットもPro Tools | Carbonから聴けるようになっている。また、AVB接続を採用したことで将来の拡張性にも期待が高まる。残念ながら現時点では明確なビジョンは示されていないが、Pro Tools | Carbon背面にはふたつのLANポートがあるため、何かしらの拡張性を見据えているのは確かだろう。ネットワークオーディオの利点を生かしたスケーラブルな機能の実装が待ち望まれるところだ。
Pro Toolsから本体の様々な設定が可能。ヘッドフォン出力へのソース切り替えやトークバックゲインなどもPro Toolsから変更できる。
AVBストリームがOS内部で二股に別れたような認識のされ方をしている。これにより、Pro Tools以外のアプリケーションの音もPro Tools | Carbonから再生が可能。
また、MTRX/MTRX Studioの場合、内部のルーティングマトリクスを操作するためには専用アプリであるDADManにウィンドウを切り替える必要があったが、Pro Tools | Carbonは完全なAvidの純正I/OであるためPro Toolsソフトウェアからコントロールする。特に4系統のヘッドフォンアウトのソースはStereo Mixを出力できることはもちろん、CUEとしても使用可能だ。CUEモードとして設定したヘッドフォンアウトはI/O設定でアウトプットとして認識するため、CUE Mixとして使用することもでき、さらに本体に内蔵されているTALKBACKを混ぜることも可能だ。そのほか、後述するHybrid EngineのコントロールもすべてPro Toolsソフトウェアから離れることなく行うことができる。
そして、パーソナルユースでも気になるのはその静粛性。Pro Tools | Carbonの開発にあたっては、サーマルデザインも一新されたそうだ。内部ファンは効率的な排熱のために回転速度を自動調整し、放熱量を低く抑えながらも静かな筐体を実現している。ミュージシャンが自宅スタジオでレコーディングする場合などでは、マシンのファンノイズはことのほか大きなノイズ源となる。さすが、音楽のために作られたI/Oを自称するだけのことはあるというものだ。
Hybrid Engine、Native-DSPパワーの統合
Pro Tools | Carbonに内蔵されたDSPを活用することで、Pro ToolsにHDXシステムのアドバンテージを追加することができる。前に掲載した稲妻マークが各トラックに用意されており、1クリックでDSPへの切り替えが可能だ。
多くの特徴と機能が詰め込まれたPro Tools | Carbon。ここからは、その機能をどのように活用していくことができるか考えてみよう。
Avidが考えるオーディオ処理の新しいコンセプトはHybrid Engineと名付けられた。Pro Tools | CarbonはDSPチップを内蔵しているが、すべてのオーディオ信号を自動的にDSPで処理するわけではない。DSP/CPUそれぞれの負荷や、作業に必要な機能に応じてDSPとCPUに処理を割り振ることができるようになっている。具体的には、Pro ToolsのトラックごとにDSPモードのON/OFFが切り替えられるようになっている。DSPモードがONになったトラックのオーディオストリームはPro Tools | Carbonの内蔵DSPによって処理されるようになるため、ニアゼロ・レイテンシーでのモニタリングやAAX DSPプラグインの使用が可能になるという仕組みだ。例えば、ボーカルをレコーディングする時やギターソロを差し替えたい場合などには、録音するトラックだけをDSP ONにしておき、残りのトラックのプレイバックにはCPUパワーを使用する、といった使い方が考えられる。トラックのDSPモードON/OFFは、Pro Tools上で1クリックで実行可能だ。
AAXプラグインの柔軟性を最大限に活用
本体にDSPを内蔵したオーディオI/Fとしては、他社がAvidに先駆けて多くのモデルをリリースしている。しかし、その多くは本体がホストに接続されていない状態ではプラグインを使用することができないため、セッションを持ち出す際には必然的に筐体ごと持ち歩かなければならなかった。それに対して、すべてのAAX DSPプラグインはNative環境でも動作するため、外部スタジオにセッションデータだけを持ちこんだり、ほかのクリエイターとコラボレートすることが容易に可能だ。そもそも、AAX開発時には「DSP環境とNative環境でのサウンドテイストの違いをなくす」ということが大きな目的のひとつとして掲げられていた。Pro Tools | Carbonの登場によって、より広範なユーザーがこの恩恵に与ることができるということだ。
当然だが、Avid純正のプラグインだけでなく3rdパーティ製のAAX DSPプラグインを使用することもできる。ピュアなサウンドキャラクターから積極的な音作り、ギターエフェクトやアンプシュミレーターなど、使い尽くせないほどのバリエーションからイメージにぴったりのプラグインを探す時間が、実は一番楽しいひとときかもしれない。
8基のマイクプリに加え、フロントにもInst入力2系統(Variable Z対応)とヘッドフォン出力4系統を備えたPro Tools | Carbonがあれば、自宅スタジオでも本格的なレコーディングが可能となる。プリプロ制作はもとより、ライン入力とDSPプラグインを活用すれば本番Recやセッション録りまで自宅で実現することができる。ヘッドフォンアウトにはそれぞれ別々のモニターミックスを割り当てられるので、専用のキューシステムがなくてもミュージシャンごとに最適なモニターを返すことができる。もちろん、豊富な入出力を活用して業務用スタジオの既存システムに組み込むことも可能だ。
Pro Tools年間サブスクリプションが付属
Pro Tools | CarbonにはPro Tools年間サブスクリプションライセンス1年分が付属しているため、まったくの新規ユーザーでもすぐにPro Tools | Carbonを使用してクリエイティブな活動が行える。この付属する年間サブスクリプションにはPro Tools Perpetual Parachuteという特殊なオプションがついており、サブスクリプションが切れたあとも最後にダウンロードしたバージョンのままPro Toolsを使用し続けることができる(Avid Complete Plugin Bundleなどの特典プラグインにはアクセスできなくなる)。UPGなどを行いたくなったタイミングでサブスクリプションを更新して、ふたたびUPGや特典の権利を得ることも可能だ。では、すでにPro Toolsのライセンスを持っているユーザーはどうなるのか!?という部分については、下記の表にまとめたので参照していただきたい。
また、ご存知の方も多いと思うが、年間サポートプランまたは年間サブスクリプションが有効中のユーザーはAvid Complete Plugin BundleやHEATをはじめとする特典プラグインを使用することができる。Pro Tools | Carbonに付属する年間サブスクリプションでも、もちろんこの特典を得ることが可能だ。それらに加え、Pro Tools | Carbon購入者限定のプレミアムプラグインとして、3rdパーティ製のプラグイン9種が付属する。購入したその日から、Pro Tools | Carbonのアドバンテージをフル活用することが可能となっている。
Pro Tools | Carbonが、まさにミュージシャン/音楽クリエイターのためのI/Oであることがおわかりいただけただろうか。盛り込まれた機能とテクノロジーだけでなく、そこに込められた情熱も含めて知れば知るほど実機に触れてみたくなる1台だ。
●本記事も含めたProceedMagazine2020-2021号のご購入はコチラから!
●Avid Pro Tools|Carbonも組み合わせられるMassive Packの詳細はコチラから!!
*ProceedMagazine2020-2021号より転載
Review
2020/08/10
YAMAHA SYNCROOM 取材レポート 〜音楽の楽しみ方の”新しい選択肢”を目指して〜
2020年6月29日より正式にサービスを開始したYAMAHAの公式オンライン遠隔合奏サービス”SYNCROOM”。すでにニュースなどでも取り上げられているのでご存知の方も多いだろう。今回はSYNCROOMの開発の背景や実際の仕様などについて、YAMAHAの開発・広報担当者にオンラインでお話を伺うことが出来たので、その内容をレポートしたいと思う。
前身はNETDUETTOと呼ばれるサービスだった
ベータ版までは"NETDUETTO(ネットデュエット)"という名称でサービスを展開していたが、正式リリースのタイミングでSYNCROOMと名称を変更したこのサービス。遠隔地にいる演奏者同士が、オンラインで楽器のセッションを行うことが出来るという画期的なもの。普段、仕事や"オン飲み"などで使われているMocrosoft Teams、Zoomなどの一般的なビデオチャットサービスでは、遅延が大きいため音楽セッションを行うとストレスを感じる環境となってしまう。この一般のインターネット回線を利用する上では避けられないネットワーク上の遅延問題を、SYNCROOMでは一体どのようにして回避しているのだろうか。
オンラインでのセッションを実現するための工夫とは?
お話を伺ってみるとその解決策はシンプルそのもの。どのような環境下であれ、絶対的に生じてしまうネットワーク遅延をいかに短くするか。その一点に注目し、開発が進められてきたということだ。遅延を短くするためにソフトウェアとして行うことの出来る工夫はすべて行い、必ず生じてしまうネットワーク遅延に備える、そのような考え方である。そのため、手元コンピューターでのバッファなど、遅延につながる動作は、常に自動で最低限となるよう設計されている。そして、そこにはネットワーク遅延を最短化するための工夫ももちろん含まれる。
遅延を最短化するためには、演奏者同士(SYNCROOM同士)を1対1、PtoP(Peer to Peer)で接続することが重要である。一旦サーバーを介して接続をするようなシステムにしてしまうと、手元のPCから、サーバー、そして相手のPCとネットワーク遅延が増えてしまうのは、容易にイメージいただけるだろう。それを回避するためにSYNCROOM同士は、インターネットを介して1対1で接続される。
SYNCROOMは最大5名までが同時にセッションを行うことが出来るサービス(ルーム連結機能を使えば最大10名まで拡張可能)なので、自分の演奏している音は、相手のPCそれぞれに向けて、1対1で送信されているということになる。汎用のコミュニケーションツールが大抵、サーバーを介していることを考えると、1体多数で1対1(PtoP)の接続を実現しているというところがSYNCROOMの凄さだと感じる。また、これこそが、SYNCROOMの低遅延伝送のキーテクノロジーとも言える。
実はリアルでのセッション環境にも遅延は存在する
SYNCROOMで相手との間に生じる遅延がどれくらいか、ということは公式には明記されていないが、それはある意味当たり前の話だ。何故なら、ネットワーク遅延がどれくらい生じるかは、接続されている環境によって全く別の物となってしまうからである。あくまでも、それぞれの1対1の接続における遅延を最低限にするということに注力しているため、それぞれの遅延を合わせるということは行っていない。実際に集まって演奏したと考えても、それぞれのミュージシャンの立ち位置により距離はそれぞれ異なる。距離が異なるということは、音波伝達に伴う遅延も異なるということ。立ち位置の違いとそれぞれの場所を結ぶネットワーク遅延の差異は似ている。公式WEBにも記載があるが、5m離れれば、そこでは約15msの遅延が生じている。1mに付き3msだ。このレベルの遅延量であれば大きなステージでの立ち位置による音声伝搬の遅延と同等であるというのが、開発側の考え方である。セッションが行えるという観点から見ればこの考え方は全く正しいものであると言えるだろう。
YAMAHAクオリティの高音質を実現
ここまでは、遅延のことばかりを書いてしまったが、肝心のサウンドのクオリティーはどうだろう。そこはさすがYAMAHAである。48kHz/16bitの非圧縮での伝送を実現しているということだ。単純に非圧縮の伝送ということではなく、最大で1対5箇所への低遅延同時伝送である。そう考えると、他の技術では真似の出来ないことを実現しているということがわかるのではないだろうか。今後の回線状況の高速化、PCスペックの向上などにより、将来的には24bit対応、96kHz対応なども実現可能な余地がある。現時点では、安定した低遅延の伝送を行うということを主眼に置き現在のスペックを実装しているということだ。インターネット回線は、今後まだまだ高速化することがわかっている。そうすれば、SYNCROOM自体も高音質、低遅延になりさらなる向上を果たすことになるだろう。
マルチトラック録音を可能にするVSTプラグイン
SYNCROOMには、セッションを録音する機能が実装されている。更には、それぞれのプレイヤーのサウンドをバラで収録するためのVSTプラグインもリリースされている。このプラグインを使うことで、SYNCROOMで演奏中のマルチトラックデータをDAWで収録することが可能となる。これは、かなり画期的なソリューションである。ソーシャル・コミュニケーションツールでは御存知の通り、下手をすれば大抵のサービスがモノラルの音声、ステレオですらないということを考えると、音質の良さに加え、マルチトラックでの収録を実現しているというのは、その後の楽曲制作などにも役に立つ機能である。
高音質低遅延を再優先しているからこそのジレンマ
正式リリースから1ヶ月強の時点ということではあるが、今後に期待したい点もいくつかある。そのひとつは、音声に特化したサービスであるため、相手の顔が見えないという点だ。やはり、よりリアルに近いセッションを考えるとアイコンタクトができないというのはストレスに感じることもあるだろう。現状、ユーザーの間では、Zoomなどの既存のビデオチャットサービスと併用してSYNCROOMを楽しんでいる方が多いようだ。それならばせめて、何かしら既存のサービスとのアカウント連携などといった機能があると、より便利になるのではないかと個人的には感じている。
将来的には海外進出も視野に
NETDUETTO自体は、8年ほどベータを重ねてきたテクノロジーである。たまたま、このコロナ禍の真っ只中のリリースとなったが、こういった事態を想定して開発されてきたものではなく、ネットワーク環境などのインフラがこのサービスを満足に動かせるようになり、ソフトウェアとしての完成度が高まったのが、このタイミングだったとのこと。まさに時代を感じさせるタイムリーなリリースではあったが、YAMAHAの開発に先見の明があったということである。現在は、国内のみのサービスとのことだが、将来的に、海外とのSYNCROOM接続ができるようになると、海外の見知らぬアーティストとのセッションや、ネット越しでのライブへのゲスト参加など、ますます夢は広がる一方だ。
「ユーザーと共に研究開発を進めて行きたい」と今後の展望を熱く語るSYNCROOM担当チーム。現在は有線LANでの安定した接続が必須ではあるが、5Gが本格的に稼働した際に無線LAN下でどこまで出来るかなど興味は付きない。今後の動向に注目したい。
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関連リンク
SYNCROOM PORTAL SITE
https://syncroom.yamaha.com/
『SYNCROOM』公式プレーヤーズサイト
https://syncroom.yamaha.com/play/
イメージ動画(PCアプリ)
イメージ動画(Androidアプリ)
ヤマハ ニュースリリース「離れていても音でつながる」ヤマハのリモート合奏サービス、ついにスタート
https://www.yamaha.com/ja/news_release/2020/20062901/
その他ヤマハ関連記事
https://pro.miroc.co.jp/headline/yamaha-vireal/
https://pro.miroc.co.jp/works/galileoclub/
https://pro.miroc.co.jp/2011/01/31/%e3%83%a4%e3%83%9e%e3%83%8f-%e8%aa%bf%e9%9f%b3%e3%83%91%e3%83%8d%e3%83%ab%e3%81%ae%e6%8a%80%e8%a1%93%e3%81%a8%e9%9f%b3%e9%9f%bf%e5%8a%b9%e6%9e%9c/
他にも、オーディオ・ビデオ関連のリモートワークフローに関する情報は下記ページにまとめられています。是非とも併せてチェックしてみてください!
https://pro.miroc.co.jp/headline/remote-workflow-online-production-cloud-solution/
◎Proceed Magazine 最新号発売中! サンプルの試し読みはこちらのページから! https://pro.miroc.co.jp/headline/proceed-magazine-2020/
Review
2020/06/10
【レビュー】AVID MTRX Studio 〜 スタジオの中枢を担う1UスーパーI/O〜
発表されてから約5ヶ月。待望のAvid MTRX Studioが出荷開始となりました。1Uという小さな筐体でありながら、Danteをはじめとする多彩なインターフェイスを搭載しつつ、ルーター機能、EuCon対応、さらにモニターコントロール機能を搭載など、実にパワフルな機能を持ち合わせており、まさにオールインワンのスーパーI/O!
皆様だけでなく、我々も待ちに待った待望の新製品ということで、早速、機能を徹底解説していきたいと思います。
まずは外観をチェック! 〜多彩な機能が1Uサイズに集約〜
サイズは1U。奥行きは21cm弱と、思ったよりも小ぶりなサイズ。そして重量が驚きの約2.5kg。箱に入った状態を持った時、「まさかの詰め忘れ?」と思うくらいの軽さでした。
フロントにはPREとINPUTのボタンでMic LevelとInputの切り替えボタン。そして、その横にはInst In2系統が用意されています。ADはLine Level 16chに加えて、フロントのInstもしくはリアのMicで切り替え可能な2chが用意されました。なお、こちらの2chに関してはGainレベルのリンクも可能です。
中央には16ch分のレベルメーターが搭載されており、IN/OUTの切り替えはもちろんのこと、Mic/Inst・アナログ(Line)・ADAT・Danteの各入力フォーマットごとの表示切替も可能です。(Danteは16ch x 4ページの切替)また、モニター出力は独立して用意されているので、表示切替の必要はありません。
本体右側にはモニターやCueで使用可能な領域が用意されており、モニターレベル調整やMuteはもちろん、ソースセレクトやスピーカーセレクト、TBレベル調整と言った項目まで自由にアサインができます。
専用コントロールアプリ DADMan 〜5.4.1以降のバージョンに対応〜
MTRX Studioを認識できるDADmanは5.4.1以降のバージョン。対応Mac OSはYosemite(10.10)、 El Capitain(10.11)、Sierra(10.12)、High Sierra(10.13)、Mojave(10.14)、Catarina(10.15)。このバージョンはMTRX Studioを使用するシステムはもちろんのこと、初めてCatarinaに対応したバージョンとしても注目です。
ADセクション ~フロント2入力はリンク可能~
MTRX Studioでは、18ch分の表示となります。リアのMic Inには17,18とナンバリングされていますが、DADman上ではMic/Instの2chが先に表示。そして、MTRXにはなかった機能のGainレベルリンクはこの画面上で行います。「L」のボタンをクリックすると、2本のモノラルフェーダーが1本のステレオフェーダーへ変化します。この時、レベルに関してはリンク状態にした瞬間にCh1のレベルに揃います。(ちなみに、S6やS4上ではGainリンクにしても、Faderは2本のまま。1本でステレオフェーダーに変更はされないものの、1/2chのフェーダーはリンクして動きます。)なお、TB回線もこちらの2chを含むAD全18chのうちから設定することも可能。
ちなみにLine 16chに関しては、MTRXよりもヘッドルームが若干狭いようです。おそらくMTRXとMTRX Studioでは使用しているパーツが異なるんでしょうね。
DADman ADセクション Gainリンク時には1つのステレオチャンネルとして使用できる。 ※クリックで拡大
DADman ADセクション Gain非リンク時にはそれぞれが独立したチャンネルとして使用できる。 ※クリックで拡大
DAセクション ~6dbの固定Gainアップが可能~
DAセクションでは、Monitor 2ch、Line 16chに加え、Headphone2系統も表示されます。
MTRX StudioではLine 16chにおいて、6dB Gainの機能が用意されており、レベルを稼ぐことができます。
DADman DAセクション ※クリックで拡大
Monitor Controlセクション ~スピーカー・プロセッシング機能を標準搭載~
MTRXでモニターコントロールをしている方にはおなじみの機能ですね。もちろんMTRX Studioでもモニターコントロール可能ですが、なんとSPQの機能が標準搭載となります。
MTRXのSPQカードと比較して、処理できるチャンネル数(16ch)とEQポイント(256Point)だけが異なる点ですが、MTRX StudioのAnalog Outは16chなので、筐体に見合ったパワーを搭載していると言えるでしょう。(ちなみにMTRX SPQでは、SPQ Ch:128ch、SPQ EQ:1024となっています。)
DADman Monitorセクション ※クリックで拡大
MTRX Studio本体に搭載されているヘッドホン2系統もこちらのMonitor Profileから設定を行います。別系統にすることで、Master Monitorとは異なるソースをアサインしたり、TBをアサインすることもできるので、使い勝手が良さそうです。
ヘッドホンに出力しているモニターをEuCon A~Eにアサインすることで、S6 MTMのモニターページからもソース切り替え等コントロール可能になる他、MTRX Studio本体のモニターセクションでもコントロール可能になります。両者は相互コントロールが可能なので、MTRX Studio本体をボーカルやナレーターの手元に置く選択肢もでてきますね。(ちなみにファンはそんなにうるさくなかったです。)
MTRX Studioの各ボタンへのアサインはMonitor Profileの「MTRX Studio」とズバリ表示されたタブから行います。設定可能な項目は、1レイヤーにつき、エンコーダー横のA,B,Cの3つのボタンとエンコーダー、エンコーダープレス、リアのExternalの6項目。上記のレイヤー構成がMain Monitor 4ページ、Cue 4ページのレイヤーごとに設定可能です。Cueに関しては、EuCon A~EがCue 1~4に対応しているので、アサインできるボタン数が少ないと思われるかもしれませんが、よく使うものを精査してボタンへアサインすることで、シンプルな使い勝手になるでしょう。
Main MonitorとHeadphone(Cue)の切り替えはロータリーエンコーダー右横のボタンで切り替える他、一番上のセレクトボタンでレイヤー切り替えができる仕組みです。
Connectionセクション 〜512×512のマトリクスでルーティングが一目瞭然〜
512x512のクロスポイントを持つマトリクス機能が内蔵されています。MTRX同様、MTRX Studioでもマトリクス機能を使うことで、Pro Toolsのインターフェイスだけでなく、スタジオシステムの核となる要素を併せ持っています。特に、Danteが標準装備なのは非常に大きなポイントで、Mac 版のDolby RMUと接続する、と言った用途や、ライブ収録システムのI/OとしてSRシステムのDante接続するのもいいでしょう。
Configurationセクション 〜Loop Syncが使えるように〜
設定はほぼMTRXと一緒なので、MTRX Studioならではの点をご紹介します。
Sync Souseの選択肢にあるLoop Sync。そう、HD I/OやSync HDに搭載されている、あのLoop Sync がMTRX Studioには搭載されているのです。今までMTRXとSYNC HDといった組み合わせの際はLoop Syncが使えず、それぞれにWord ClockやVideo Refを分配しておりましたが、その悩みが解消されています。すばらしいです。
そして、DigiLinkのページ。MTRXでは、古いPro Toolsでも対応できるように、HD MADIのイミュレートモードが用意されていましたが、MTRX Studioでは用意されていません。
Pro Toolsとの接続
今回、Digi Linkポートの設定をPri/Priにし、HDXへ64ch接続してみました。I/O設定からはしっかりと「MTRX Studio」と表示されていました。
※Pro Tools 2020.3で起動させております。
※対応Pro Toolsバージョン
Pro Tools | Ultimate 2019.12 以降、及び DADman 5.4.1 以降を稼働する Pro Tools | HDX 、または HD Native システム
https://www.avid.com/products/pro-tools-mtrx-studio/learn-and-support#Resources
と、ざっくりした部分も多々ありましたが、いかがでしたでしょうか?MTRX Studioの魅力は伝わりましたでしょうか。小さいながらもパワフルな機能がぎっしり詰まったMTRX Studioが気になる方、ご質問のある方は下記"contact"バナーより、お気軽にお問い合わせください!
Review
2020/06/01
実はこんなに進んでた!ホームサーバーのイメージを変えるSynology!
「Stay Home」がすすむ中、家の中を快適にするためにお部屋の整理整頓をされた方も多いと聞きます。こんな機会だから、いっそ携帯やパソコンの中にたまったデジタルデータも整理してみてはどうでしょうか。
何年も放置したパソコン内のデータをあらためて見返してひとつひとつ整理するのもいいかもしれません。しかし、そう大きくもないテキストデータはそのまま、まるっと保管をしてしまいたいですね。一方で、日々高解像度化が進むスマートフォンで撮影した写真や動画は、気軽に撮影できるが故にどんどん容量が増えていきます。そうなると、これにはそれなりに大きな容量が必要になるだろうということは想像に難くありません。
自分にあったストレージソリューションは?
では、どうやって?何に?保管をしたらいいのでしょうか。
データの保管方法については、大きく分けて2つあると考えます。
1.HDDやSSD、USBフラッシュ、NASなどのハードウェアストレージへの保管
2.クラウドストレージへの保管
さらに、1の場合、ネットワークに接続し、他人との共有が必要かどうかも考えると、計3パターンになります。
自分に合ったものはどの方法でしょうか。分析チャートでチェックしてみましょう。
まず、基本的に誰かとデータの共有を必要としない人は、HDDやUSBフラッシュなど、1対1での接続をする個人用メディアを使用するのがいいでしょう。例えば、USB3.0、3TBのHDDは1万円前後程度で購入できるため、初期導入コストとしてもランニングコストとしても、最も手軽な選択肢と言えます。
次に、クラウドストレージ向きだった人は、インターネットさえ繋げればどこからでも利用できるという最大のメリットを得られるこのクラウドサービスを使用することをお勧めします。ほとんどのクラウドサービスは、ある程度のストレージ容量を無料で使用することができるため、保存したいデータ量が少ない人には最適な方法と言えるでしょう。
しかし、データ容量が無料の域を超えてしまうと、ストレージ容量を確保するために課金が発生します。そして、ほとんどのクラウドサービスの最大容量は2TBを超える容量をサポートしていないため、2TBを超えた途端に経済的ではなくなります。例えばクラウドストレージの老舗Drop Boxは2TBで月額1,200円必要になります。そのため、短期的には割安になるかもしれませんが、長期的になると外付けのHDDやNASよりもコストがかかることになるかもしれません。
最後に、サーバー向きだった人は、NASなどのサーバーを使用することをお勧めします。しかし、サーバーの場合は、構築するまでに初期導入コストがそこそこかかり、セットアップ作業が必要になります。ただ長期的に考えると、容量と安全性の面で、他2つの選択肢よりもランニングコストは抑えられるのではないでしょうか。
NASと言うと、ネットワーク上でただデータをごっそり保存するだけのイメージがあるかもしれませんが、昨今では外部からもアクセスして、データを保存したり、取り出したりすることができるものがあります。今回は、「クラウドのようにどこからでもアクセスできる」ことも含めて比較をしたいので、SynologyのDiskStation DS218+をお借りして、NASのセットアップ作業とバックアップの使い勝手を体験してみました。
Synology DS218+を構築
DS218+は、高級ティッシュを一回り大きくした感じの大きさで、大げさにスペースを確保する必要はありませんでした。
開封して説明書にある図のように接続します。ネットワーク越しにNASへアクセスして、パッケージをインストールしていきます。難しそうに聞こえるかもしれませんが、webブラウザで指定のURLにアクセスすると、操作方法を順次案内してくれ、ぽちぽちと、その指示通りに進めると、拍子抜けするほど簡単に初期設定が終わりました。この段階でNASをネットワークドライブとしてマウントし、使用することができます。データをそのままコピーするだけの用途であれば、ここまでで何の問題もなく使用できます。
NASの利点をフルに活かせるアプリケーションが充実!Synology DSM
さらに、Synology DSM (Disk Station Manager)というSynology独自のOSにアクセスし、その中にあるパッケージセンターを開いてみました。このパッケージセンターはNASの拡張機能になります。
ざっと見ても100以上のアプリがあり、Synology製のアプリやサードパーティ製のもの、詳しい人ならば自分でアプリを開発することもできるようです。
(今回、NASへのバックアップの紹介がテーマですが、クラウドとの同期もできそうで、NASでのミラーリングに加え、さらに多重化されたバックアップ設定もできそうです。正直、そんなにたくさんのアプリがあるとは思わず、まだまだ勉強不足です。)
必要な機能をインストールして使用する仕組みのようで、今回の目的である「データの整理」、中でも写真や動画を整理し、仕事関連のメディアをテレワーク中の同僚と共有してみようと思います。
写真の管理と外部からのアクセス〜PC側の操作〜
まず、「Photo Station」をインストールし、DSM上で起動させます。同時にQuickconnect IDを設定します。このQuickconnect IDは、自宅にあるSynologyのNASサーバが常時Synologyのサイトと接続されている環境を作って、インターネットからアクセスする方法のようです。コントロールパネルのユーザー設定でユーザーを追加して、そのIDを同僚に送信すれば、同僚がwebブラウザから自宅にあるNASサーバーにアクセスできるようになります。
Quickconnect IDを一箇所入力するたけで、設定が終わりです。
次に「Photo Station」では、手動で作成したアルバム(フォルダ)にバックアップしたい写真をアップロードします。それ以外にも、写真が持っているメタデータを使って、特定条件での写真を振り分けできる「スマートアルバム」があります。撮影日やカメラの種類など、条件さえ入力しておけば、整理が苦手な人でも綺麗に仕分けされたアルバムが作成されます。
写真の管理と外部からのアクセス〜スマートフォン側の操作〜
スマートフォンと連携する「DS Photo」アプリはiOSやAndroidにも対応しており、ダウンロードして使用します。同じようにスマホで外からNASにアクセスでき、写真をアップロード、閲覧、ダウンロードすることができるようになります。
このアプリでは、スマホで写真を取るたびに、NASに写真がアップロードできるように設定することもできるので、撮影したそばからNASにバックアップを取っていくことができます。このような連携は一般的なクラウドストレージでは当たり前の機能ですが、NASであれば容量をほとんど気にしなくてもいいため使い勝手もいいようです。
Quickconnect IDを入力してログイン。
メニューの中にある「画像バックアップ」をクリックし、画像バックアップを有効にします。
「写真のみのアップロード」のチェックを外すと動画もアップロードしてくれます。 「Wifiのみでアップロード」にチェックをいれておくと、wifiにつながるまでは保留の状態になり、無駄な通信料金を使わずにすみます。
設定の中の「Geofence」を設定することで、自宅から半径150mから250mに範囲に入った時だけアップロードを行わせることも可能です。
終わりに
先に述べたとおり、NASは初期導入にそこそこの費用がかかるとは言いましたが、ややめんどくささを感じるファイル共有や、義務感でしかないファイルのバックアップも、synologyが提供する機能拡張アプリで簡単便利をすぐに手に入れられることで、むしろ割安感を感じます。
アンケートによると、スマホの写真はそのまま入れっぱなしと言う人の割合は案外多く、機種が変わるたびに容量を多くして急場をしのいでいるのが現状のようです。長らくデータの整理をしていない方は、この機会にバックアップについて参考にしていただけたら幸いです。
今回は「写真の管理」について見ていきましたが、次回は違う角度から、このNASを紹介できればと思います。
お問い合わせは、ページ下部「Contact」バナーより、お気軽にROCK ON PROまでご連絡ください。
Review
2020/05/08
Pro Toolsユーザー必見!! Video Slave 4 Pro のTIPS !!
Ver 2019.12でのMac OS 10.15 Catalina対応と同時に、Pro Toolsユーザーに激震が走ったのは記憶に新しいところです。なんと行ってもMOV,MP4,M4V,DVビデオファイルの非サポートは、映像音声を取り扱うユーザーにとってはクリティカルな問題。
そこで、Avidからは3rd Partyの製品と組み合わせたワーク・アラウンドが推奨情報として出されました。その中の一つが、Pro Toolsのバックグラウンドで動作するNon-Leathal Application社のVideo Slave 4 Pro。これまでも、Pro Toolsで取り扱えないVideo Fileの取り扱いや、MXFファイルでの作業時のワーク・アラウンドなどをご紹介させていただき、多くのお客様に導入いただいている製品です。
Video Slave 4 Pro導入のメリット
Pro Toolsで取り扱えないVideo Fileの同期再生
GPU処理を活用した低負荷な再生環境
Time Codeのオーバーレイ機能
他にもいろいろな機能がありますが、代表的な機能は上記の3つ。Video Slaveには、Pro Toolsで問題となったVideo EngineのOS互換性問題はなく、OS 10.15 Catalina上でもこれまで通り問題なく動作します。Pro Tools 2020.3ではDNxHD(MOV),ProRes(MOV)などに対応してきていますが、まだ完全に以前と同等となってはいません。
また、File Base Workflowを考えた際に生じるTCキャラの問題などを解消するVideo Slaveは、未だにワークアラウンドとしてアドバンテージを持ちます。
今回は、Video Slave 4 Proを使用するにあたり、便利ないくつかのTIPSをご紹介いたします。
オリジナルタイムスタンプ位置への貼り付け
Video Slave 4 Proのタイムラインに対してVideo Fileを張り込む際に、"Option"を押しながらドラッグ&ドロップすることで、Video Fileの持つオリジナルタイムスタンプ情報の位置へと張り込むことが可能です。
一つボタンを押すだけでその後の手間を大幅にへらすことが可能です。
タイムラインのデフォルト値の設定
普段利用するVideo Fileのスタートタイムが決まっているというケースは多いと思います。事前にタイムラインのスタートタイムの既定値を設定しておくことで、Video Fileに合わせて毎回設定をやり直す手間を省くことが可能です。
ここでは、同時にタイムラインの尺の既定値を設定することが可能です。
オーバーレイするタイムコードの表示設定
Video Slave 4 Proでは、オーバーレイするタイムコードのフォント、サイズ、カラー、表示位置、バックグラウンド(枕)のカラーの設定が可能です。
ここの設定でおすすめなのが、バックグラウンド・カラーの半透明化。こうすることで、裏に表示されているものを確認しつつ、視認性の良いタイムコードをオーバーレイすることが可能です。
キュー出しにも便利なオーバーレイ
Time Code、マーカー(キャプション)、ストリーマーを使用した例。ストリーマーの柱は横方向と縦方向から選択出来る。
Video SlaveはTCだけでなく、マーカー、パンチ、ストリーマーなど、様々なオーバーレイを表示させることが可能です。マーカーをキャプション用に使用してセリフを画面上に表示する、効果音のタイミングを取るためにストリーマーを表示させる、といった収録向けの使い方も便利です。
上部メニューバー"Event"から好みのものを選択するか、"M" "P" "S"のキーを押すと、プレイヘッド位置にオーバーレイを作成できます。
便利なショートカット
Command + L:SyncのON/OFF
Command + T:TimeCodeオーバーレイの表示/非表示
T:タイムラインのズームイン
R:タイムラインのズームアウト
Command + Shift + F:フルスクリーンモードのON/OFF
Command + Shift + M:ミニプレイヤーモードのON/OFF
Command + E:Exportウィンドウの表示
タイムライン上のVideo Clipをダブルクリック:メディア・プロパティーの表示
◀︎または▶︎:プレイヘッドのナッジ
< または >:編集点(カット点)のナッジ
これらのTIPSを使いこなし、便利にVideo Slaveを使いこなしてください!Video Fileを取り扱うすべてのユーザーにおすすめのソリューションです。
本国メーカーwebから14日間のデモが可能(こちらから>>)です。
ぜひともお試しください!!
Review
2020/03/03
Avid / S1の真価をムービーで解説!! ROCK ON PRO清水の実際どうなんでSHOW !!
先日のリリースから数多くの反響と導入が進んでいるAvid S1。ArtistMixの後継機種として登場したとも言える位置付けですが、実際のところArtistMixと比べて何が良くなったの?とお問い合わせをいただくことが多いのも事実。そこで!! そんな疑問を解消するべく、ROCK ON PRO清水が立ち上がりました!ムービーでの解説はもとより、実際の動作の様子も要チェックです、是非ご覧ください!!
Avid S1
¥168,300(本体価格:¥153,000)
1.洗練されたレイアウトに進化! 実は気になる同梱物もチェック!!
まずは全体像ですが、各操作子のレイアウトをチェックです。Solo、Mute、ノブの配置がS3と同様になりボタン自体も大きく操作しやすく改善、ArtistMixでは左側にあったメニューキーが上段に移動したほか、フェーダー下にはカスタム可能な8つのソフトキーがあり、EuConアプリケーションで任意の機能をアサインすることも。ArtstiMixと比べると格段にレベルアップした操作系はもちろん、気になる同梱物もチェックしてます!! 連結には、、、なるほどアレを使うんですね!!
2.Avid Controlとの連携とDaDManモニターコントロール機能をチェック!!
iPad(Avid Control)との連携があってこそのS1です。こちらではAvid Controlでの操作画面やビジュアルの様子と、もう一つ大きなトピックとなるモニターコントロール機能を見ていきます。ProTools MTRXとの組み合わせであれば、I/OのOutを直接スピーカーにつなぎ DaDManアプリケーションにてボリュームコントロール、スピーカーセレクト等が行えるんです!!
3.タブレッドはなくても大丈夫! 単体でも動きます!!
もちろんiPad等のタブレットがあれば越したことはないですが、S1は単体でも仕様することが可能なんです。さらに、タブレット側(Avid Control)も単体で動作しますから、離れた場所からフェーダーをコントロールしたり、ブースに持って行ってトランスポートをコントロールしたりと、タイミングによってS1と切り離して使えば制作時の利便性を向上させてくれます!!
機材にに限らずですが実際の筐体や動きを見ると、良くも悪くも印象は大きく変わりますよね。もちろん実機に触れればイメージであったものを確かなインフォメーションにすることができますので、ムービーだけではなく是非店頭のデモ機もご覧ください!!また、ROCK ON PROではArtistmix/Artist Control/Mackie Controlとのトレードプロモーションも行なっています、詳細は下記バナーのリンクよりご確認ください。お問い合わせお待ちしております!!
Review
2019/12/25
Avid S1ついに発売開始!! 待望のコンパクトサーフェスが登場!!
Avidのブランニュープロダクト、Avid S1がついに発売となりました!ArtistMixが生産完了となり、その後継機種という位置付けの製品ではあるのですが、iPadとの組み合わせによりさらなる操作感の向上と、まるでS6のようなビジュアルフィードバックを得ることができます。残念ながらS1とArtist Mixを連携させて使用することはできないためArtistMixユーザーは『乗り換え』という形になりますが、最大4台まで可能なS1自体の連結やPro Tools|Dockとの連結で、上位機種となるS3/S4を凌ぐ(ような)システムを組み上げることも可能。大きな発展性を携えたAvid S1の魅力を見ていきます!
コンパクトに詰められた機能性とさらに拡がる発展性
Avid S1
¥168,300(本体価格:¥153,000)
まず、Avid S1の概要をおさらいしておきます。8chフェーダーのコンパクトなコントロールサーフェスとなるS1は、Pro tools|Control改め「Avid Control」となったアプリをiPad等のタブレットにインストールしてワイヤレス接続。メーターからEQ、プラグインのパラメーターなどS6ライクなビジュアルで各種情報をコントロールし、8ch用意された100mmフェーダーで、コンパクトながらもプロユースにも耐えうるフィジカルなミックス環境を構築できます。ArtistMix後継機とも言えますが、それ以上にAvid ControlおよびDock等との連携による大きな発展性が魅力です。
それでは、基本的な仕様を見ていきましょう。サイズは幅312mm / 奥行377mm / 高さ97mm(iPad非装着時)と、Dockとの連結した使用を前提にしたデザイン・サイズ感です。Dockと連結することでトランスポート、ジョグホイール、フォーカスフェーダーといったDock側のマスターセクションとしての役割と連携しますので、統合コントロールサーフェスとしてシステムアップすることができます。S1自体も最大4台まで連結可能と、32chをカバーするS3/S4を上回る(ような)システムへの将来性も確保されています。なお、Dockとの連結についてはS1にパーツが同梱、S1同士の連結については筐体側面にマグネットが5ヶ所内蔵されており、S1同士を近づけると吸い付くようにフィットします。
従来モデルとなるArtistMixとのサイズ感はご覧の通りです。横幅はArtist Mixが427mmでしたので横方向は10cm以上もコンパクトになっています。ArtistMixの場合は、デザイン上連結して設置すると1台ごとのフェーダー部が離れてしまいミックスしづらい局面もありましたが、S1はもともと複数台の連結が想定された設計で、連結時にもフェーダー間隔に違和感のないミックスが可能になりそうです。
また、操作子のレイアウトもブラッシュアップされています。両者を見比べてみると、Solo/Muteボタンサイズが拡大され、これまでArtistMixではフェーダー横にあったAuto, ASSIGNボタンがフェーダー上部の位置に移動。フェーダー操作を邪魔せず、誤操作も防げるようになりました。フェーダーについてはS3、S4と同等のALPSフェーダー。タッチセンスの100mmモーターフェーダーで、キャップは違えどArtistMixと感触も変わらず、違和感なく移行できそうです。
ArtistMixではSoftKeyのアサインができませんでしたが、S1ではフェーダー下に並ぶ8個のボタンがSoftKeyに対応しているため、ユーザー任意の機能をアサインできるようになっています。こちらにトランスポート系をアサインしておけば、S1からのPro Toolsコントロール性もグッと幅が拡がります!
Avid ControlでS6/S4ライクな制作環境へ
iPad側には、先日リリースされたばかりの「Avid Control」をインストールして使用することになります。こちらは引き続き無償のアプリケーションで、Apple app Store、Google Playからダウンロード可能。Pro Toolsのホストマシンに別途Eucontrolをインストールが必要ですが、ワイヤレスで各ファンクションをコントロールできるのは大きな魅力です。また、Android OSにも対応を果たしましたのでタブレットの選択肢も柔軟になっています。いずれにせよ、ミキシングにS6/S4ライクなビジュアルフィードバックを追加できることは機能的にも制作環境を一段ステップアップさせてくれます!
また、タブレットを2台用意すれば、写真のように1台のタブレットはS1のメーター表示として、もう1台はAvid Contorlアプリケーション、というような組み合わせでの使用も可能です。なお、写真でのiPadは12.9インチのiPad Pro。こちらを使用した場合はフェーダーとメーターの位置までピッタリ合っています!このとおりS1はiPad Proを使用する前提で設計されてはいますが、通常のiPadを使用しても機能は変わりませんのでご安心ください。
さらに言えばS1はタブレットがなくても動作します!タブレットを設置する受け台の取り外しができないのは少々残念ですが、例えば本体の上にPCディスプレイをアームで設置するなどすれば操作性にも連携した格好で制作が進められそうです。なお、タブレットがない状態でのS1はArtistMixと機能は同等です。
待望の登場となったAvid S1。マウスではできない複数チャンネルのフェーダーコントロール、100mmのフェーダーで繊細なオートメーションを記録する、大規模で複雑なセッションでの微細な各chコントロールなど、フィジカルにミックスできることには、まだまだ覆し難い優位性があります。このコンパクトで身近なプロダクトが登場することによって、そのメリットを新たにすることができるのではないでしょうか。RockoNでは渋谷店・梅田店にその実際をお試しいただける実機をご用意しています、いち早くPro Toolsとのシームレスな制作環境をご体験ください!
◎仕様詳細はこちらから / Avid S1 ホームページ
Review
2019/08/09
Technics / DJカルチャーの起点をダイレクト・ドライブ誕生に見る考察
今年2019年はターンテーブルSL-1200MK6が発売されてから11年。遂に新たなモデルSL-1200MK7が登場します。これはDJにとってだけでなく、クラブミュージックが大きな影響力を持つ現在のミュージックシーンにとっても大きな意味を持つニュース。Technicsブランドの小休止を経ながらもSL-1200シリーズは初代以降、MK2、MK3、MK5、MK6、そしてMK7へと進化して来ました。今回のインタビューでは、Technicsブランドが重ねてきた歴史がいかにSL-1200MK7への誕生へと集約されているのかを軸に、技術、カルチャーの両側面からTechnicsブランドという存在の重要性に迫ります。
(左)パナソニック株式会社 コンシューマーマーケティング ジャパン本部 スマートライフネットワーク商品部 テクニクス推進係 主幹 上松 泰直 氏、(右)パナソニック株式会社 アプライアンス社 テクニクス事業推進室 CTO/チーフエンジニア 井谷 哲也 氏
1. Technicsブランドにおけるターンテーブル製品の歴史
世界初のダイレクト・ドライブ方式誕生
Rock oN : 現在では、Technics=DJというイメージが大きい訳ですが、もともとはハイファイオーディオとしてのブランドで、当然ですがクラブカルチャーが生まれる前からの存在ですよね?
Technics上松:はい、そうです。1965年にホーンツイーター5HH17を組み込んだTechnics1というブックシェルフスピーカーを発売し、Technicsシリーズという形でスタートしたのが最初です。1966年にはパワーアンプのTechnics 20Aを発売。以降、製品を継続して発売していきます。そして1970年にハイファイオーディオ用のプレイヤーSP-10を発売しましたが、やはり、ダイレクト・ドライブを世界初で採用した製品を登場させたことは大きな誇りです。SP-10はトーンアームを別売りとしており、キャビネット、アーム等の各パーツを組み合わせて「D.Dプレーヤーシステム」として発売しました。以降続くSPシリーズは高級タイプの製品で、ターンテーブルのラインナップにおいて技術の試金石的な存在でした。1971年には、SPシリーズのモーターをそのまま使い価格を安くしたSL-1100を、1972年にはダイレクト・ドライブ方式のターンテーブルをより普及させるためのモデルとしてSL-1200を発売しました。Technicsのレコードプレイヤーの型番は1000番から始まり、番号が大きくなるにつれて少しずつ安くなって行った経緯があります。SL-1200は3世代目になりますが、この後に1300、1400、1500と続きます。
Rock oN : ダイレクト・ドライブ方式を開発するにあたって、きっかけはあったんでしょうか?
Technics上松:誕生の背景として、ベルト・ドライブの短所を補う技術であると言えます。かつて弊社の中に無線研究所という組織があり、低速かつ高精度で回るモーターを開発していました。モーターは普通、毎秒60回転程度ですが大きな振動が発生します。ピックアップがその振動を拾うのでS/Nの問題に直結し、それが問題点でした。また、モーターの減速にはいくつか方法がありますが、一番簡単なのはベルト・ドライブ方式による減速でした。でもベルトの場合だと伸縮の問題があり回転精度に影響するという問題がありますし、また、接触構造による減速では磨耗が生じますのでメンテナンスが必要になります。放送局ではそういったメンテナンス作業の手間を避けるために、ダイレクト・ドライブ方式の方が重宝されたんです。また、ダイレクト・ドライブ方式が生まれたからこそDJが出来た訳で、もしベルト・ドライブ方式だけだったら今のようなDJ文化は生まれてなかったかもしれません。ベルトが切れてしまいますからね。
Rock oN : その後、ベルト・ドライブの製品はなくなったんですか?
Technics井谷:いいえ。製造コストとの兼ね合いになりますが、下の価格帯にベルト・ドライブ方式のモデルが残ってました。確か70年代後半くらいでしたが、ベルト・ドライブだけれどサーボをかけるといった「FGサーボ」というシリーズもありました。わかりやすく分類すると、高級機はダイレクト・ドライブ、普及機はベルト・ドライブ、という時期が長く続きました。
Rock oN : クオーツロックの搭載はいつからになりますか?
Technics上松:クオーツロックを世界初で採用したのはSP-10MK2です。水晶発振により回転精度を高める技術なのですが、SP-10MK2はBBCをはじめとする放送局に多く採用されました。当時、クオーツロックを採用した主要メーカーはTechnicsとDenonがありましたが、それぞれモーターの形式が違い、TechnicsがDCモーター、DenonがACモーターでした。それぞれ一長一短があって、TechnicsのDCモーターはトルクが大きく立ち上がりが早いという長所がありました。DenonのACモーターは原理的に鉄心がないため、コギング(軸がガタガタ回る状況)がない代わりにトルクが弱いんです。DCモーターのハイトルク技術を応用し、1981年に発売したのがSP-10MK3です。それと同じ頃にSL-10を発売しますが、これは31.5cm x 31.5cmのLPジャケットサイズで、蓋を閉めると再生出来る構造です。蓋の裏にリニアトラッキングのアームが付いていて、そこにカートリッジが付いているんですよ。普通ですとレコードの円弧に対する接線とアームの方向が違うので角度エラーが出るんですが、リニア・トラッキングトーンアームを採用することで縦置きにしても演奏できる製品でした。
Rock oN : はい、覚えています。ファッション性も兼ね備えて人気が出ましたよね?
Technics上松:トーンアームの根元に光学センサーが付いていてモーターを駆動するんです。根元のシャフトに溝が切ってあり、それをモーターで回すという構造なんですが、トーンアームの針圧はスプリングで引っ張られているので、ひっくり返しても引っ張り上げられ再生出来るんです。当時、他社も同じような製品を出していましたがこのサイズに出来なかったんですよ。普通に設計すると大体34cmくらいが限界なんですが、弊社では、上から「レコードジャケットと同じ大きさにしろ!」という厳命が下り、なんとか製品化したんです。
Rock oN : それはどんな方法で乗り切ったんですか?
Technics上松:問題はカートリッジのサイズでした。それで専用にカートリッジ規格を作ったんです。普通のRCA型カートリッジよりも幅を狭めて、T4P(テクニクス4Pカートリッジ)という規格を作りました。これにより、31.5cmを実現することができました。このSL-10以降、SL-7、SL-5、SL-3と値段を下げながら継続して発売していきますが、T4Pに関しては特許を公開したので、ortofonやAudio Technicaといったカートリッジメーカーも参入し製品を作っていました。今でも、T4Pのカートリッジを探している人がいらっしゃいます。
Rock oN : 1982年にCDが登場しますが、それ以降のレコードプレイヤーの開発状況に変化はありましたか?
Technics井谷:1982年の時点ではまだ状況に変化はなく、多くのレコードプレイヤーを発売していましたよ。薄型でスタイリッシュなこともあり、通常のコンポサイズに合わせて43cm幅の製品もありました。レコードとCDのシフトが逆転し出すのは1986年頃ですね。
THE HISTORY OF TURNTABLE
ダイレクトドライブ方式ターンテーブルの技術の進化とその歩み
歴史を大転換させたDJとの接点
Rock oN : その頃からSL-1200がハイファイオーディオファンとは違った、DJの人たちに使われて行く訳ですね。
Technics上松:そうですね。8割以上がDJからの需要で、残り2割くらいがハイファイオーディオファン、みたいな逆転現象が起こりました。
Technics井谷:DJという人たちが登場したのは70年代中頃に遡ります。SL-1100やSL-1200を使い始めたんです。以降、Technicsの製品がDJ文化の形成に大きな役割を担ってきたのはご存知の通りです。ある時、北米の営業メンバーから連絡があり「変わった使い方をしている奴がいるから見に来てくれ!」といわれ、その当時の技術責任者が見に行ってビックリ。レコードを手で触るなんて当時はご法度な時代でしたからね。「なんちゅう連中やねん!」という感じだったそうです。彼らに色々要望をヒアリングをして、「じゃあ俺が作ったるわ!」と作ったのがSL-1200MK2なんです。スライダー式のピッチコントローラーは瞬く間に受け入れられました。その後も北米のメンバーが改良のためのヒアリングに彼らの元を訪れたのですが、「もうこのまま何も変えなくていいから!」と言われて帰って来たそうです(笑)。
Rock oN : 当時、SL-1100やSL-1300といったモデルもありましたが、なぜ、DJはその後、SL-1200を選び続けたのでしょうか?
Technics上松:多分、レイアウトの使いやすさが大きな要素としてあったのかも知れません。SL-1200はその後、MK2、MK3、MK5、MK6、そして今回のMK7と世代を経て来ましたが、基本的なレイアウトはMK2以降、ほとんど変わっていません。DJにとっては楽器なので、レイアウトを変えてしまうと使いにくくなるとうことがあります。
Rock oN : モーターの部分も変わってないんですか?
Technics井谷:はい。操作感に影響するので、MK2以降、モーターも電気回路も変えていません。
Technics上松:ターンテーブルを進化させるためにやることは完全にアナログ領域の話なんです。やはり「楽器である」という側面があるからです。ただ、回転数を検出して一定のスピードを保つ制御系は、現在の製品においてはデジタル領域に移行しています。速度検出用のコイルで回転スピードを検出し、それを制御量としてサーボをかけモーター制御を行い最適な回転状態を実現します。でも速度検出コイル間の距離に個体差が生じ1台1台バラつくんです。また、3層からなるローター磁石、コアレスステーター(固定子)、ローター磁石のコイル特性もバラつきが生じます。そうなると、例えば3層あるうちの1層だけ磁力が強く出たりする現象が起こり、それが回転数の誤差につながります。昔はその誤差の補正ができなかったんですが、現在は誤差を予めマイコンに覚えさせるんです。
Rock oN : 工場の製造ライン、たとえばロット毎に検査して行うんですか?
Technics上松:いや、1台1台やるんですよ。工場で1台ずつ高速で回転させ測定装置にかけ、どういう風にバラついているかをチェックするんです。そしてその個体差の挙動を内部のマイコンに覚えさせるんです。
Rock oN : 自分の特性を製品自体が記憶してるんですね。すごい技術ですね!
Technics上松:現在はデジタルで誤差を全部解消できるので非常に高い精度を実現しています。以前のモデルでは、ワウフラッター値を目標値に近づけるため、本当に大変な調整作業を行なっていましたが、最近はデジタルで行えるので余裕です(笑)。
Rock oN : 昔はストロボスコープで回転速度を合わせていましたよね? プラッター側部にストロボライトを当てて、縞模様が止まって見えればOKという。
Technics上松:クオーツ技術がまだ無かった頃のものですね。ドリフトと言うんですが、長い間回転していると、ジワーっと回転数が変わってくるんです。そのドリフトを修正するためにプラッター側部の柄とストロボスコープが付いていました。今では回転差を合わせるというよりは、ピッチコントロールの一環として直接プラッター側部に触れてブレーキをかけたりとDJプレイで使いますね。
Rock oN : 本来ピッチコントローラーは曲と曲のピッチを合わせるためじゃなくて、製品自体の微調整のためについていた機能ということなんですね?
Technics上松:そうですね。まだ、DJ文化が生まれる前のものですし。ストロボスコープの機構は元々カッティングマシンに付いていたものなんですよ。それをある意味、別の用途として使い始めたのが70年代中頃のディスコDJ達。最初の頃は、ターンテーブルを2台置いて単にピッチ合わせをし、切り替えてやってたみたいです。
Rock oN : 最近のフェスだと、DJが夜通しノンストップで回しっぱなしにすることもあります。ダイレクト・ドライブ方式が開発された当初、構造の耐久性については考慮されていたんでしょうか?
Technics上松:していなかったと思います。でも、当時のモーターの作りを見ると相当立派に作ってあるんですよ。SP-10のモーターの極数は60あり、すごく大きな数です。60極だと1周を60に分解する訳ですから、それだけ精度を高く出来ます。当時にしてはかなりオーバースペックだったと思うんですけどね。今はSL-1200MK2が12極でSL-1200MK7が9極ですね。技術の進歩で、少ない極数でも問題ないんです。
2.Technicsブランド休止〜復活
ブランド復活の軸はやはりSL-1200
Rock oN : 2010年に世界中のDJに惜しまれながらTechnicsブランドが休止しますが、その経緯をお伺いできますか?
Technics上松:時代の流れとして、ハイファイオーディオマーケットが小さくなっていったということが大きかったです。70年代、80年代には、給料を何ヶ月分も貯めてステレオを買うみたいなことがステータスだった時代がありましたが、現在はオーディオを持ち歩いて聞くスタイルに変わっていますよね。
Rock oN : 現在のパナソニックの事業のなかで、Technicsブランドが占める割合はどれくらいなんですか?
Technics上松:小さいですよ。でも、我々Technicsのミッションは、新しい技術の展開やカルチャーの発信といった販売以外の部分もあります。
Technics井谷:”Tuned by Technics”といった形で、テレビやレコーダーへのブランド展開の動きもあります。単にオーディオだけではなく「音」という大きなくくりの中で、例えば車や住宅など、社内に貢献出来るような事がまだあると思っています。
Rock oN : 現在のTechnicsのスタッフの構成はどんな感じですか? 若い年代の方々もいらっしゃるんですか?
Technics上松:構成的にはベテランが多いんですが、2014年にTechnicsが復活した時くらいから「Technicsをやりたい」という新人が多くなりました。我々としては非常に嬉しい話で、後継者を育てることが大きなミッションです。今困っているのは、真ん中の世代が居ないという事なんですよね(笑)。
Rock oN : 休止以降、世界中のDJからもTechnics復活を願う声が多くあったと思いますが、、、
Technics上松:はい、クラブシーンからはもちろんのこと、ハイファイオーディオリスナーからも復活を願う声をたくさん頂いてたんです。特にドイツではTechnicsブランドが強く、パナソニックのテレビを始めとする映像機器が強くなればなるほど、「パナソニックのオーディオはどうなっている?」、「お前たちTechnicsがあるじゃないか!」みたいな声が届いてたんです。
Technics井谷:ですので、Technicsの復活宣言を2014年の秋にベルリンでやったんですけど、ドイツのマスコミやライターが「よくぞドイツでやってくれた!」と書いてくれました。彼らと話をしていると「俺たちがTechnicsを育てた」という自負があるんですよ。面白いですね(笑)。
SL-1200GAE
Rock oN : 2016年にSL-1200Gを発売されましたが、Technicsブランドとしてターンテーブルを復刻するにあたっては、やはりSL-1200シリーズだったんですね?
Technics上松:はい、2016年にまず世界で1200台限定モデルのSL-1200GAEを、次いでレギュラーモデルのSL-1200Gを、その翌年2017年にSL-1200GをコストダウンしたSL-1200GRを発売しました。SL-1200というTechnicsのDNAを受け継ぐために、単なるSL-1200のレプリカを作るのではなく、現代の技術・価値観を持って蘇えらせようとした製品です。SL-1200GAEを開発するにあたって、SL-1200を手がけたOBから随分と手ほどきを受けたんですが、やはり、人があまり残っていないんですよ。基本設計に関してはSL-1200MK3くらいの段階で製品が完成しており、その後担当したスタッフはデジタル領域のエンジニアばかりなんです。特に難しいのはトーンアームですが、なぜかというとメカニカルな部分の問題になるからなんです。そのあたりの設計がノウハウとしてあまり残っていないんです。CADが無かった時代ですからね。私の大先輩なんですが、当時の工場長がまだご健在で、ご自身の会社をやられてまして、そこにかつてのOBが集っていらっしゃったんですよ。
Technics井谷:随分と手ほどきを受けまして、一時期ですがトーンアームの製造までやって頂きました。そこに最先端のデジタル制御技術などを融合させ、製品化へとまとめ上げる事が出来たんです。
Rock oN : そのデジタル制御技術は、社内で蓄積されていたものをターンテーブルに応用したんですか?
Technics井谷:はい、ダイレクト・ドライブの技術はまずターンテーブルに用いられた訳ですが、その後、CDの時代になり回転数が変化し、求められる精度が上がります。そしてDVD、Blu-rayと時代が進み、回転制御の精度はターンテーブルの時代に比べると物凄く上がっています。我々がそこで培ったデジタル制御技術を、新しいレコードプレイヤーに応用するというのは自然な流れなんです。
Rock oN : 新旧の技術資産がSL-1200の復活に組み込まれているんですね! ところで2018年にSL-1000Rを発売されましたが、なんと160万円! こちらの売れ行きはいかがですか?
Technics上松 :結構売れてるんです。日本が一番売れていてトータルマーケットの3分の1以上を占めています。購入者は50代以上の方が多いですね。レコードのフォーマット自体は今後変化がない世界なので、これを買っておけば一生物ですしね。
Rock oN : DJもSL-1200をなかなか買い換えないんですよ。なぜなら壊れないから(笑)。クラブの現場では結構タフな使い方をしてるんですがそれでも壊れない(笑)。そこもSL-1200の優れた点でしょうね。ところで、ここ数年、アナログレコードブームが若い年代にも起こってますが、どうみてらっしゃいますか?
Technics上松 :嬉しいですね。SL-1200MK7はDJ用という形で初めて世に出して行くので、アナログでプレイしてくれるDJが増えてくれたら、レコード文化が一過性でなく、ちゃんと広がって行くと思います。また、SL-1200シリーズは累計で350万台という数を出荷していますので、過去に愛用して頂いているお客様がたくさん居るはずですから、そういう方々に新しいモデルを試して頂きたいと思っています。TシャツをはじめファッションにおいてもSL-1200が使われたりと、カルチャーの世界での展開も新しい動きが出て来たら面白いなと思います。そういえば、映画「ボヘミアン・ラプソディ」の中にSL-1200MK2以降のデザインの商品が出て来たのを知っています?
Rock oN : 見ましたが、わからないです。どのシーンだろう?
Technics上松 : 「ボヘミアン・ラプソディ」を最初にラジオ局でかけるシーンで2台出てくるんですよ。時系列的に見ると少しおかしいんですけどね(笑)。
SL-1200G
SL-1200GR
3. 新製品SL-1200MK7について
初めてDJターンテーブルと謳われたSL-1200MK7
Rock oN : では新登場のSL-1200MK7についてお伺いしていきます。意外ですが、これまでのSL-1200シリーズで初めて「DJターンテーブル」と謳っていますが、やはり、DJのニーズに答えるといった方向性が大きいんですか?
Technics上松 : DJプレイヤーというくくりは初めてなんです。DJユーザーがほとんどなので、おのずとそういう風になったというのはありますね。従来の品番を見てお分りの通り、MK2、MK3、MK5と少しずつですが改善を加えてきました。イベントをやってると「こういう所を改善して欲しい」といったことが会話の中によく出てくるんです。その声を技術担当者に伝え、少しずつ改善を加えてきた訳です。開発にあたり、これだけDJにヒアリングしたという事は無かったんですよ。
Rock oN : まず、ルックスですがオールブラックのカラーリングで渋いですね!!
Technics上松:ボタンやトーンアームのパーツにブラック色を採用しています。ボディ部分はマット質感のブラックですね。あちこちのDJに意見を聞いて、「ブラックアウトするから見えにくいかも」といった意見もありましたが、、、
Technics井谷:でも、DJの皆さんは、ターンテーブルを自分の手足のような感覚で操作するので関係ありませんでした。心配して損した、みたいな感じです(笑)。
Rock oN : 先ほどお伺いしましたが回転制御はデジタルですが、トーンアーム部分の制御は完全にアナログ領域の話なんですよね?
Technics井谷:はい、トーンアームは本当にプリミティブなメカニカル構造なので、ここに何かを加えてしまったら、多分、DJの繊細なプレイの精度について行けないでしょうね。トーンアーム軸受け部の中にボールベアリングの玉が5つ入ってるんですよ。このことで、5mg以下という高い初動感度を実現しています。材質はマグネシウムです。
Technics上松:モーターはシングルローター型コアレス・ダイレクトドライブ・モーターで、SL-1200GRのものをベースにチューニングしました。ダイレクトドライブ方式の音質的な弱点であったコギングを解消し、モーターの安定した回転で、より高音質にレコードを再生します。また、78回転も出来ます。78回転といえばSP盤ですが、DJプレイの幅を広げることも可能かもしれませんね。
Technics井谷 :SL-1200MK7は一言で言うと楽器です。我々もDJプレイヤーとあえて呼んでいますので、音作りに関しても、試聴室で音を決めるというよりはクラブに持って行き、しっかり低音が出るのか、グルーヴが出るのか、といった観点から作りましたので、通常のプレーヤーとアプローチが全然違うんです。
Rock oN : ここから新たなTechnicsの時代が幕を開けるわけですね、本日はありがとうございました!
音楽が歩んできた歴史の中、「機材が生んだ音楽スタイル」がいくつかあります。その代表格が、ターンテーブルから生まれたDJというスタイル。そこからハウス、テクノ、ヒップホップといったジャンルが発展を遂げ、現在ではクラブシーンという枠を飛び越えて一般的なポップソングの領域へと浸透しているのは周知の事実。
その稀有な歴史をさかのぼっていくと、とあるジャパニーズブランドのターンテーブルの存在に出会います。それがTechnics「SL-1200シリーズ」でした。世界初 「ダイレクト・ドライブ」を搭載したTechnicsプロダクトとDJの偶然な出会い。それを必然的な出会いに変えたのはTechnicsの技術力と歴史の厚さ、そして開発者の情熱でしょう。
この 「ダイレクト・ドライブ」の誕生を、現在のポップミュージックの発火点の1つとして数えるのはいささか大胆でしょうか?Technicsターンテーブルの集大成であるSL-1200MK7が、これからの音楽の歴史においても重要な存在であり続けるのは間違い無いでしょう。
写真左から、Rock oN 恒吉隆治、パナソニック株式会社 井谷氏、上松氏、Rock oN 渋谷隆了
SL-1200MK7
Technicsの高音質技術を惜しみなく投入したDJターンテーブルの新たな世界標準
メーカー希望小売価格 97,200円(税込)
ダイレクトドライブモーターやプラッター、シャーシなど、すべてを新開発しながら、トーンアームや各種操作スイッチなどの配置はSL-1200MKシリーズのレイアウトと操作感を踏襲し、これまでと変わらない使い勝手を実現。一新されたコアレス・ダイレクトドライブ・モーターも、専用に開発したアルミダイカストとラバーを貼り合わせた2層構造のプラッターと合わせてチューニングを行い、SL-1200MK6と同じ慣性質量としています。モーターのトルク制御もすべて見直し、起動トルクやブレーキスピードまで、歴代の1200MKシリーズと同じ操作感を追求しました。最新の技術を盛り込みながらも操作性やフィーリングは従来のまま。操るほどに、SL-1200MK7の進化を実感できます。
*ProceedMagazine2019号より転載
Review
2019/02/20
ビデオ再生の最新ソリューション Video Slave 4 Pro へアップグレード
DAWと同一のマシンで動作し、独自プレイバックエンジンによる安定した動作でDAWと同期したビデオ再生ソリューションを提供するNon-Lethal AppricationのVideo Slave Pro。前バージョンとなるVideo Slave 3 Proは、その機能性と導入障壁の低さで国内でも多くの業務スタジオに導入されて来ました。
昨年末には待望の簡易ビデオ編集機能が追加されたVideo Slave Pro 4がリリースされ、現場でのさらなる活躍が期待されます。新規導入をご検討の方はもちろん、現在Video Slave 3 Proをご使用の方もぜひ最新バージョンへのアップグレードをご検討ください。
Video Slave 3からの変更点
タイムライン
Video Slave 3 Pro(以下、VS3)からVideo Slave 4 Pro(以下、VS4)へのアップデートによる変更点の中でもっとも大きなものと言えるのが、プレイリスト方式からタイムライン方式への再生方式の変更です。
プレイリスト方式を採用していたVS3では、ユーザーがインポートしたムービーファイルは自動的にプレイリストに並び、ファイルのオリジナルTC(またはユーザーが設定したスタートTC)に従ってDAWのプレイバックに同期していました。このシンプルな動作方式はユーザーのニーズに十分に応えるものでしたが、増大するビデオエディットへの要望に応えるために、メーカーはVS4でのタイムライン方式採用に踏み切りました。
これによりアプリケーションの見た目や操作性が大きく変更されましたが、却ってDAWやNLEなどその他の制作用アプリケーションと近くなったため、分かりづらさを感じないものとなっています。ムービーの再生タイミングを変更したい場合、VS3ではウィンドウを開いてTC値を入力しなければなりませんでしたが、VS4ではタイムラインにリージョンをドラッグすることでより直感的に再生タイミングを設定することが可能になりました。
さらに、VS4はひとつのプロジェクトの中に複数のタイムラインを持つことができるため、作業内容に応じて別々のタイムラインを使い分けるといった柔軟性も合わせ持っています。
ビデオエディット
VS4がタイムライン方式を採用した理由がこのビデオ編集機能の追加です。今回のメジャーアップデートに際して、機能的な面での最大の変更点と言えるでしょう。VFXや色調補正などの高度な編集機能までは備えていませんが、リージョンのカット/トリム/ムーブといった基本的な編集ができるようになったことで、MA作業中に発生したクリップの差し替えなどにもスピーディに対応することが可能になりました。急な変更によってワークフローが停止する時間を、最小限に抑えることができる、まさに待望の追加機能と言えるでしょう。
iLokライセンス対応
また、VS4からはランセンス方式がiLokに変更され、これにより、ライセンスの管理・移行がより便利になりました。特に、様々なスタジオで作業を行う機会の多い個人ユーザーの方々には朗報でしょう。
VS3も使用可能
今回のバージョンアップによって大きな仕様変更を果たしたVS4ですが、DAWのTCと同期したプレイバック/スクラブというメインの機能に変わりはありません。また、使用方法もより直感的になっています。とはいえ、これまでVS3を使用されていたユーザーにとっては使い勝手に多少なりとも違いを感じることは否めません。
しかし、この面からVS4へのアップグレードを躊躇されているユーザーのみなさまもご安心ください。VS4へのアップグレード後も、引き続きVS3を使用することが可能です。VS4ライセンスを所有するユーザーは本国メーカーWEBサイト”My Account”下部から”Video Slave 3.4.455 (reads VS 4 licenses)”をダウンロードすることで、VS4ライセンスで起動するVS3を手に入れることができます。VS4の使用法や設定方法が分からずにワークが止まってしまうような事態を避けるために、バックアップとしてマシンにインストールしておくことが可能です。
その他の特徴
VS4についてのさらに詳細な情報は、下記リンク先からVideo Slave 4 Pro製品ページ(日本語)をご覧ください。
https://pro.miroc.co.jp/brand/non-lethal-applications-video-slave-4-pro/
アップグレードの方法
現在、VS3をご使用中のお客様はアップグレード用ライセンスをご購入いただくことでVS4へのアップグレードが可能です。また、2018年10月16日以降にアクティベーションされたライセンスについては無償アップグレード対象となっている可能性がございますので、まずはROCK ON PROまでご相談ください。
Non-Lethal-Applications Video Slave 4 Pro
◎新規ご購入
販売価格:¥75,384(本体価格:¥69,800)
*本製品はダウンロード製品のためパッケージはありません。
*画像はイメージです。
Non-Lethal-Applications Upgrade to Video Slave 4 Pro
◎アップグレード版
販売価格:¥26,784(本体価格:¥24,800)
*本製品はダウンロード製品のためパッケージはありません。
*画像はイメージです。
Review
2018/11/29
いよいよ日本上陸!! VENUE | S6L-24C
世界中で大成功を収めたVENUE | Profileコンソールの後継機種となるS6L-24C。InterBEE2018でStage32と併せて国内初のお披露目となりましたが、それに先立ってAvid Japanにて内覧会が開催されました。今回の新ラインナップは、シリーズ最大規模となる48フェーダーのS6L-48D、ディスプレイも取り除きもっともコンパクトな仕様となるS6L-16C、そして従来のS6L-24Dからチャンネル・タッチ・モジュールが2台抜き取った形となったS6L-24「C」の3つのコントロールサーフェスを中心に、エンジン・I/Oも新機種が加わって、より一層ユーザーの選択に柔軟性が高められた格好です。
◎ VENUE | S6Lシリーズのメリットとは!?
今回のリリースで、サーフェス5種・エンジン3種・I/O4種のラインナップとなりましたが、各I/Oやエンジンはどのモデルでも用途に合わせた組み合わせが可能というのがこのシステムの美点。思いつくままの組み合わせを自由にシステムアップできることになり、エンジン・I/Oに余裕をもたせた構成を行なっておいて会場規模によって持ち込むサーフェスをセレクトするといった運用ももちろんのこと。この従来の製品も含めた100%クロスコンパチで自由にシステム構築できる事がS6Lシステム最大のメリットと言えるのではないでしょうか。
そして、同時に発表されたStage32はラック1基で計32入力/出力チャンネルが可能なモデル。これまでの16もしくは64というI/Oの選択肢にも落としどころが設定されています。Stage16はシャーシと各I/Oモジュールが一体となっているため標準搭載されているI/O数をカスタムできませんが、このStage32はフラッグシップであるStage64と同じモジュールを搭載、用途に合わせたI/Oの変更が可能な上にフラッグシップの音質クオリティをきちんと確保している、ということになります。
◎オプションの組み込みでWAVESとの親和性がさらにUP !!
言わずもがな、、ではありますが、VENUEシステムはソフトウェアプラグインがインサートできます。通常WAVESプラグインをインサートする場合、SoundGrid Extremeを使用して操作用PCにてプラグインの操作を行いますが、S6LではSoundGrid Rack for VENUEとWSG-HD Waves SoundGrid Option Cardをインストールする事により、プラグイン用PCも必要なくS6Lのサーフェス上でWAVESプラグインの操作が可能、スマートにシステムの構築が行えます。S6LシステムはWAVESプラグインをDSPリアルタイム処理する事が可能となるため、他社製品と比べてもシステムに組み込みやすくWAVESプラグインに一番近しいデジタルミキサーコンソールと言えるかもしれません。
気になっていたミキサー本体のサイズ感は!?
ツアーやPA現場などで必ず出てくる課題、となればまず仮設現場でのセッティングです。ミキサーを持ち上げる際に何人くらい人手が必要なのか、どのように立ち上げるかなどで、実際現場に立ち会う人数を決める事もあるのではないでしょうか。選択肢が豊富だからこそ、今一度サイズ確認してみます。
(W x H x D)
S6L-48D / 1934mm x 前面91mm 背面388mm x 787mm
S6L-32D / 1304mm x 前面91mm 背面388mm x 787mm
S6L-24D / 989mm x 前面91mm 背面388mm x 787mm
S6L-24C / 989mm x 前面91mm 背面205mm x 787m
S6L-16C / 671mm x 前面91mm 背面205mm x 787mm
チャンネル・タッチ・モジュールの有無とフェーダー数のほかは共通の仕様で、重量も24Dは54kg、24Cは38kgと16kgの差異。ディスプレイモジュールだけではないかもですが、意外と重量差ありますね。実際に会場で確認してみると、24Cは通常であれば2名で両サイドから卓本体を持ち上げてセッティングする事ができるイメージ、24Dなら3名、32Dになると4名の手が必要となるくらいのサイズ感でしょうか。
各ラインナップでコストと照らし合わせて適正なスペックを選択するだけでなく、各現場に合ったサイズ感を重視する意味でも、サーフェスやI/Oが組み合わせ自由となる点はやはりメリットです。
今回国内初お披露目となったS6L-24Cは、当時も人気を博したVENUE | Profileの後継に位置付けられているだけあり、そのサイズや規模感もまさにベストマッチ。リプレイスにあたって非常に具体的な提案がAvidからなされている状況です。もちろんコスト面でも48D/24Dより優位であることは間違いなく、サウンド面は向上、スペースファクターもクリアできているとすれば、、、これはお試しいただくほかありません。お問い合わせは06-6131-3078 / ROCK ON PRO Umeda 森本・中川まで、お待ちしております!!
Review
2018/09/28
Focal / Clear Professional 店頭展示中!!
◎店頭展示中!!
Focal / Clear Professional
価格:¥198,000(本体価格:¥183,333)
SM9やTrio6を筆頭にTwinシリーズ、Shapeシリーズなど規模の大小にかかわらずクオリティあるモニター環境を提供しているFocal社。過去CMSのシリーズはロングセラーとなりプロフェッショナルのプライベートな制作スペースでもその姿を数多く見かけることができ、その流れはShapeシリーズにも受け継がれユーザーから多くの支持を集めています。そのフランスにオフィスとR&D、生産拠点を構えるFocalですが、スタジオモニター以外にもハイエンドオーディオやカーオーディオのユニットなど多くの分野で製品をリリースしているのは周知の通り。
そして新たな分野として2012年に参入したのがヘッドホンのマーケット。当初はHiFiオーディオ向けとしてSpirit Oneをリリース、こちらはのちにスタジオユースモデルとしてSPIRIT PROFESSIONALへと発展していき、その解像されたサウンドと意外にも手が届きやすい価格帯もあり、あの業界大定番ヘッドホンから乗り換えされた方も多かったのではないでしょうか。その一方で、オーディオの世界では弩級のハイエンドモデルとして50万円以上のプライスタグとなったUtopiaが高い評価を獲得。Focal得意の(!!)固有振動の周波数が高いベリリウムを用いたドライバーなどを用いていましたが、それをアルミ-マグネシウムに変更するなどして半分以下の価格に落とし込み、サウンド制作のプロフェッショナルに向けた仕様を織り込んだのが今回店頭デモにご用意したClear 「Professional」です。
◎佐々木&清水のROCK ON PRO CHECK!!
◎一番耳のそばにある「スピーカー」
「Clear Professional」はUtopiaや兄弟モデルとなるElearと共通したオープン型で、密閉となるSpiritシリーズやListen Professionalと大きく異なるのが一番耳のそばにある「スピーカー」として捉えられる点です。Focalがスピーカーで蓄積したノウハウを最も活かしやすい形でヘッドホンにフィードバックできている製品とも言えます。
一聴してわかるのは音の質量がしっかりと感じられる部分。ディテールを一つ一つ把握できる再生能力の高さで音程感の微妙な超低域のシンセベースラインも、リズムフックになるようなハットの裏拍もニュアンスまで把握できてしまいます。オープンの機構もあり、密閉型に比べて左右の音像が広いことも特徴的。つまり、左右・帯域の上下が広大に広がっており、再生される音像スペースがとにかく広い。そしてその領域の密度がしっかりと詰まって再生されるためディテールが把握しやすいと言えるのではないでしょうか。
結果的にどのようなミックスでもこのClear Professionalのクオリティで聴けてしまうことが長所でもあり、制作においては短所になるのかもしれませんが、きちんとしたリファレンスとして耳に馴染む段階ともなれば、その再生能力の高さからこれまで以上に繊細な作業が可能になることは間違いなく、価格相応の実力をきちんと感じさせてくれるモニタリングを実現してくれるはずです!!
◎Gallery
直近ではStereo Sound / HiVi夏のベストバイで第2位に選ばれるなど、内外からの評価も得てきているClear Professional 。ハイエンドヘッドホンモニターの見せる音像世界をぜひRockoN渋谷で体験してください。お問い合わせはROCK ON PRO 佐々木/清水(03-3477-1776)まで、ご連絡お待ちしております!!
Review
2018/07/30
KS digital / C8-Reference 店頭展示中!!
◎店頭展示中!!
KS digital / C8-Reference
価格:ペア:¥427,680(本体価格:¥396,000)
HANDCRAFTED IN GERMANY。KS digitalの本国ページを見てみると、まず最初にうたわれているコピーです。KS digitalのスピーカーはドイツ・フランスの国境に近いザールブリュッケンにある本社工場で20年以上にわたりハンドメイドを守り生産されています。その出荷にあたってもIFM(Individual Frequency Matching)と呼ばれる各個体ごとに周波数特性と位相統制を測定し整合する工程があり、正確な信号の再現をすべく手間暇を惜しまないクラフトマンシップが注ぎ込まれていることが伝わってきます。
今回店頭に展示ラインナップしたのは「C8-Reference」、8インチのウーファーサイズとなる同軸モニターです。同軸のメリットは各所で様々に語られている通り、点音源から出力される理想的で正確なサウンド環境を実現できるところではないでしょうか。さらにKs digitalは特許技術となるFIRTEC/DSPを搭載し周波数特性はもちろん位相についても直線化。同軸のメリットとともにその定位感は確かなクオリティを感じさせます。そして、実際に聴いてみると意外にも感じられるのがそのパワー感。同軸のコンパクトなルックスのため、どちらかといえばパワーとは対極のイメージかもしれませんが、この同軸レイアウトを8インチのウーファーを持った縦型の3wayに並べ替えて思い浮かべてみると、、、そのサイズから出力されるサウンドもイメージできるのではないでしょうか。ぜひ実機で確かめていただきたいポイントです。
◎佐々木&清水のROCK ON PRO CHECK!!
◎音の鳴る「前」を感じさせるような豊かなニュアンス!
ドイツでハンドメイドされることから、その流通量も限りがありプレミアアイテムともなっていたKS digitalですが、仕様も新たに「Reference」の名称が与えられ、改めて我々の前にその姿を見せてくれました。同軸スピーカーの選択肢としては同じくドイツのMusikElectronic RL906が同価格帯にありますが、音が前面に出てきて音像を見せるようなMusikの傾向とはまた一味異なり、音の鳴る「前」を感じさせるような豊かなニュアンスを持っています。以前から定評のあったウソのない低域も健在。密閉の筐体となりバスレフのような特別な機構はなくとも8インチと大きめのウーファーから余裕のある締まったサウンドが再生されてきます。ルックスのイメージとは裏腹に四つ打ちのキックまでも無理なく受け止めて、意外なまでのパワー感を発揮。そこに同軸のメリットである定位の良さが掛け合わされて、ハイエンドモニターとして期待を裏切らない音像空間が目の前に現れます。
以前にご紹介したPMC / ATCが構造として正しいスピーカーを実直に体現していたのに対し、KS digitalは同軸であり、DSP補正であり、コーンの素材もカーボンを採用、さらにはオプションのリモートコントローラーなど、現代的な要素を盛り込んでリファレンスとなりうるモニターを開発しています。本国ではスタジオモニターはもちろん、オーディオの分野でも数々のラインナップがあり、その姿もかなり魅力的。国内導入が心待ちにされるところです。これでRockoN渋谷リファレンススタジオのモニタースピーカーラインナップも、このKS digitalから、PMC/ATC/Amphion/Musikなどなど、ハイエンドのラインナップがかなり充実してまいりました!すべてを比較試聴して「その1本」を見つけてください!
◎Gallery
・製品オーバービュー
・スタンドの動き
そして、従来と変更され目を引くのがサイドを支点としたスタンド。上下方向への調整幅も写真の通りで、スタンドの高さにかかわらずスイートスポットを狙い撃ち!!です。もちろん固定力、調整とも品質の高さを感じさせてくれます。お問い合わせはROCK ON PRO 佐々木/清水(03-3477-1776)まで、ご連絡お待ちしております!!
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2018/07/20
Pueblo Audio / 2+2 Package 店頭展示中!!
◎店頭展示中!!
Pueblo Audio / 2+2 Package
価格:¥356,400(本体価格:¥330,000)
ビジュアルからして職人の仕事道具です。今回店頭展示でご紹介するのはPueblo Audio / 2+2 Package、マイクプリ+ファンタムとなる「JR2/2」と、そのパワーサプライ「PS34」のパッケージとなります。Pueblo Audioはハリウッド・バーニーグランドマンのエンジニアであるScott Sedilloが自らの制作のために作り出したブランド。生まれもハリウッドなら、そのテストパイロットもハリウッドで行われており、最高峰とも言える現場で求められる条件をいくつもクリアして開発されてきたことが伺えます。そして、すでに数々のビッグタイトルで実績多数。本国ホームページをのぞいてみると、その実直な作りとは裏腹にSTARWARS/SUPERMAN/WALKING DEADなどなど世界的な作品が顔を揃えており絢爛豪華。John Williamsのあの楽曲でも24ch分のPueblo Audioが使用されているほか、WARNER BROS.のフォーリースタジオにも導入されており、Pueblo Audioの開発環境はこれ以上にない現場との密接さを感じます。
そのPueblo Audio / JR Series Preampsは今回店頭にご用意した2ch+ファンタム2系統の「JR2/2」とパワーサプライ「PS34」のほか、4chプリ、ファンタムのみの独立ユニットをラインアップ。PS34は最大4台のJRシリーズに電源供給を行えるため、最大で16chのマイクプリを組み上げることもできます。このファンタム、外部電源を独立した別個体にしていることが熱や磁気、振動などユニットに与える外的要因への根本的な対策になっています。
◎佐々木&清水のROCK ON PRO CHECK!!
◎太い!とかフラット!だとかは当たり前の余裕あるしっかり感
このPueblo Audioの国内代理店はAbendrot International。ホームページを見るとまだ日本国内では未発見ともいえる世界中のハイエンドブランドを紹介しています。その名称となっているAbendrotは日英の世界有数のマスタークロック技術者が開発したクロック「Everest 701」をリリースしており、ちなみにそのプライスは2,800,000円(税別)と別格。
そのAbendrot Internationalが取り扱うマイクプリがPueblo AudioのJRシリーズです。ラインナップを見るとモジュール方式とも言えるようなマイクプリ、ファンタム、電源をそれぞれ組み合わせる内容で、必要に応じた柔軟なプランニングが可能。サウンドについては開発者のScott Sedillo氏が求めるレベルでマイクプリをきちんと作ったらこうなったのでしょう、太い!とかフラット!だとかは当たり前のしっかり感で余裕を感じます。輪郭が明確かつソースをそのままゲインアップできてしまう感覚で、マイクの特徴がそのまま活かされる土台として非常に魅力的。マイクプリでキャラクターをつけない方向なので、フォーリーやオーケストラの収録でも採用されるケースが多いのではないでしょうか。もちろんチューブマイクと組み合わせてヴォーカルRECに使用するパターンでも良い結果を生みそうです。
背面を見るとコネクションも独特。この「JR2/2」の場合同じ筐体にファンタムがあるものの実質的には別ユニットとなります。マイクからファンタムへ、そしてプリへと接続する格好ですが、一つ注目なのは珍しくもAUX OUTが用意されている点。ここでシグナルをパラアウトできるため、バックアップへ回したり、モニター返しに使用したりとマイクプリ直後の整った信号を分岐できると活用の幅がグッと拡がります。シンプルなフロントパネルには2.5dB間隔(目盛の間に一段あり)のステップ式のゲインつまみ、各チャンネルのゲイン差は±0.1dBでマッチングしているそうで、ステレオにした際の精度にも信頼を置けそうです。価格はこの2+2パッケージなら¥330,000(税抜)、そのサウンドや用途から考えるとMillennia HV-3Cあたりのユーザーにぜひ体験していただきたい、という選択肢が増えました!
◎Gallery
フロントパネル
リアパネル
*WARNER BROS. フォーリースタジオ ムービー中盤にPueblo Audioの姿が見えます。
*John Williamsのあの楽曲の収録模様。手前のラックに24ch分のPueblo Audioが格納のようです。
John Williams! from rcjohnso on Vimeo
映画音楽の現場で育てられたことから、ホームページの使用用途も「Decca Tree、OTRF、4 way 5.1、Atomosなどのオーケストラのメインアレイ、木管、ソリスト、1stバイオリン、ピアノ、音響効果(フォーリー) 」と記載がありますが、その高い分解能は幅広いソースに対応できる応用力がありそうです。お問い合わせはROCK ON PRO 佐々木/清水(03-3477-1776)まで、ご連絡お待ちしております!!
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2018/06/29
ROCK ON PRO NEWS !! PMC / Result 6 店頭展示開始!!
◎店頭展示中!!
PMC / Result6
¥378,000(本体価格:¥350,000)
Professional Monitor Company、PMCのその頭文字はプロフェッショナルの機材であることをストレートに感じさせます。PMCはBBCのピーター・トーマスとFWOのエイドリアン・ローダーが1991年にイギリス・ワトフォードで創立したメーカー、現在はその北部にあるルートンの自社工場で製造が続けられています。最初期に開発された「BB5」のワンペアがBBCに納品されたことを皮切りに、USではCapital StudioやDennis Sands Studio、UKでもロンドンのMetropolisなど世界の著名スタジオで長年活躍。日本国内ではサイデラ・マスタリングでPMC MB1 SDM customがメインに使用されています。
そのラインナップもコンシューマ向けやラージも多数、本国Webページを見るとまさしく多種多様ですが、その中でニアフィールドを担うのが今回取り上げる「Result6」です。近年のPMCニアフィールドといえばtwotwoのシリーズ、PMCの特許となるATL=Advanced Transmission Lineでキャビネット全体を仕切り低域を増強、ピークの出やすい音響管によるバスレフとは一線を画したフラットかつ強調されすぎない豊かな低域を再現していました。そこにResult6では新たに開発された「D-Fin」を採用。この特殊なHFドライバー周辺の形状は、滲みのない高域だけでなくスイートスポットの拡大にも効果があります。”音を正確に表現する”クラフトマンシップあふれるPMCが世に送り出した新たな機軸となる技術です。
◎佐々木&清水のROCK ON PRO CHECK!!
◎ミックスチェックで重宝される魔法!?のスピーカー
PMCと聞くと憧れの眼差しを向けてしまう方も多いのではないでしょうか。数々の著名スタジオで採用されている実績はもちろんのこと、ハイエンドのラージでは1000万円以上のプライスタグとなるまさに高嶺の花であったのかもしれません。そのPMCがパーソナルなユーザーに向けてリリースをしたのがこのResult 6です。これまでもtwtwoシリーズがニアフィールドのラインナップとして存在していましたが、DSPコントローラーやデジタル入力などを省きおよそ半分程度のコストで導入できるところまでPMCが近づいてきた、という印象。
Result 6では航空力学も応用した新技術となるD-Finを採用しています。スイートスポットを広くとれるメリットがあるD-Finですが、実際に試聴してみるとあまり内振りせず正面寄りのセッティングでも、高域がならされた自然なサウンドになります。スイートスポットの広さも実感でき、某紙でのレビューでもクライアントからOKをもらい続けられる(!)というミックスチェックで重宝しそうな魔法!?のスピーカーかもしれません。また、低域の出方には独自技術となるATLの効果がふんだんに感じられます。バスレフのような筒を共振させる機構と異なり、音の道筋をあるべくように長くとったこの設計は、その増幅に無理がなくとてもナチュラル。リファレンスモニターとしての要件をよく満たしています。ちなみに背面を見るとEQは付いていません。これはこのモニタースピーカーこそがリファレンスとなるバランスを備えている、というPMCの自信の現れなのではないでしょうか。
プライスレンジとしてはADAM S2Vやmusikelectronic 906が比較の対象として面白そうです。それぞれにキャラクターが大きく異なる中で、どの機種がご自身の環境にマッチするのか、、、RockoN渋谷店でご確認ください!
◎Gallery
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2018/06/22
ROCK ON PRO NEWS !! MANLEY / REFERENCE SILVER店頭展示中!!
◎店頭展示中!!
MANLEY / REFERENCE SILVER
¥486,000(本体価格:¥450,000)
Manleyのマイクラインナップに新たなプロダクトが加わりました!90年代初頭の発売から27年もの月日が流れたManley Reference Gold と Reference Cardioid。抜けのいい高域を持つチューブマイクとして国内外問わず高く評価され、Reference Cardioidはアヴリル・ラヴィーンがカスタムモデルをオーダーして使用するなど、ヴォーカルレコーディングを中心に用いられています。そのラインナップに新しく加わったこのReference Silverは、国産初のコンデンサマイクとなるSony C-37Aにインスパイアされて開発されたとのこと。C-37Aはヴォーカル収録はもちろん、繊細なニュアンスを必要とする和楽器の収録にもよくマッチするイメージですが、海外では未だに状態の良い個体にプレミアムがつき、原音を忠実に収録するそのサウンドは登場から60年以上経った今でも評価得られている逸品。メーカーHPでも「大変貴重なSonyの完動品を見つけるより、、」とあるように、Reference Silverは50年代のヴィンテージマイクのニュアンスを現代のカプセル設計で新たに創り出したマイクと言えそうです。
◎佐々木&清水のROCK ON PRO CHECK!!
◎あらゆるソースに対応できる立ち上がりの早いサウンド
Manleyのマイクといえば、チューブならではのイメージというよりも綺麗な古臭くないサウンドの印象があります。現行ハイエンドモデルのReference Goldは現代のハイサンプルの中でも埋もれてしまわない存在感。スタジオで常設しているケースは中々見かけませんが、サウンドエンジニアが自分の筆として使用しているケースは多数。並みいるヴィンテージマイクと戦えるマイクとして、ヴォーカルを中心にメインソースに使われるケースが多いようです。現在でも全く色褪せることのないこのクオリティを27年も前に実現できていたのは「驚き」とも言えるのではないでしょうか。
そのReference Goldのとても近いリッチな音像感とReference Cardioidとの間にポジションを取るのが今回のReference Silverとなります。Goldでは近いかも、、と感じるような場合にも対応できる、ソースを選ばない扱いやすさを感じたのが第一印象。電源も現代的なユニバーサル電源で、CORE、FORCE、NU MU、ELOP+ に装備され高く評価されているスイッチモード電源から派生した技術が用いられているとのこと。電源の重量自体も軽く、頑丈なマイクケースとも相まってチューブマイクといっても持ち回りは気軽です。
ぜひ店頭で比較しながら試聴していただきたいのは、マイクプリ内臓でパワフルなキャラクターの強いChandler Limited/REDD MICROPHONE、柔らかいニュアンスを表現した暖かみの豊かなNEUMANN/M149あたりでしょうか。こちらもRockoN渋谷リファレンスルームにスタンバイしていますのでご相談ください!
◎Gallery
このReference SilverをRockoN渋谷店で展示開始しました!Vari-MU、Masive Passive、CORE、VOXBOXといったManleyのチューブアウトボードとの組み合わせも興味深く、、、ないですか!? もちろん実際のサウンドを確かめていただけます!! お問い合わせはROCK ON PRO 佐々木/清水(03-3477-1776)までご連絡ください!!
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2017/10/31
NEXT LEVEL MONITOR EXPERIENCE Vol.1~大型ニアフィールドがもたらすモニタリングの新次元~
暑い日々も終わり急に寒い日が続く今日この頃、みなさまいかがお過ごしでしょうか。寒くなってくると、スピーカーも大きめのサイズを使用してゆとりと厚みのある音を聴きたくなりませんか!? 空気を大きく動かすことで、なんだか部屋の温度も少し上がる気がします!!(編注:それは排熱のせいではないかと思われます。)ROCK ON PROではそんな季節にぴったりの企画をご用意いたしました!!ROCK ON PRO渋谷リファレンススタジオにて、大型ニアフィールド・モニタースピーカーにフォーカスした展示を開始いたします!! 60万円~100万円クラスのモニターを2機種ずつ入れ替わりで展示。ADAM S3H、Amphion Two18、EVE Audio SC407、Focal SM9、GENELEC 8351AM、Musik RL904、Neumann KH420、PMC twotwo 8などを順次展示予定です!!
ニアフィールドとはいえ、このクラスになるとじっくりと試聴する機会はなかなか持てないのではないでしょうか!? ご自身の環境で試すにもモニターを入れ替えるだけで大仕事、とはいえ外部では試聴環境が気になるところです…。その点、ROCK ON PRO渋谷リファレンススタジオではスピーカーはすでに設置済み、切り替えもスタッフでも行います。何よりリファレンス環境でのシビアな試聴が可能です!気になる機種がある方は、この機会に是非ご来店ください!!暖かい店内で美味しいコーヒーを召し上がりながら、落ち着いた雰囲気でご試聴いただけるよう準備してお待ちしております!!
気になる展示機種ですが、第一弾はFocal / SM9とEVE Audio/ SC407の2機種。SM9は2012年、SC407は2013年の発売と導入実績も積み重ね、モデルとしても熟成を重ねた逸品。その2機種のポイントをまとめましたのでご確認ください!!
◎Focal哲学を結集したフルアナログ・ヘビー級フラッグシップ!!
Focal / SM9(ペア)
価格:958,000円(本体価格887,037円)
POINT1
3Way、2Wayを切り替えることができるFocus機能の搭載がSM9の特徴です。この機能は後発のTrio 6 Beにも搭載されているもので、Focusモード時には前面外側のサブウーファーと上面のパッシブ・ラジエーターがOFFになります。3Wayモードでは30Hz – 40kHz (+/- 3dB)、2Wayモードでは90Hz – 20kHz (+/- 3dB)という特性に変化し、これ1台で『小さいモニターで聞いたときはこんな感じ、、』という具合にサイズの違う2台による聴き比べが出来てしまうという画期的な機能です!これは「スピーカーを設置するのに最適な場所はひとつの部屋にたった一ヶ所しかない」というFocalの音響哲学の結果から生まれた機能だとのこと。ことの是非はともかくとして、プロダクト・デザインを通して思想が一貫している感じは凄味があります!
POINT2
さらに特徴的なのは天面に搭載された11インチのパッシブラジエーター。パッシブですので電磁気回路もなく、スピーカー筐体内の空気振動を利用して動作することから「天然のサブウーファー」とも呼ばれている機構です。このパッシブラジエーターの搭載により低音の量感が大幅にアップしており、ラージモニター、サブウーファーがなくともしっかり低域の確認ができるのはSM9導入の大きなメリットと言えます。
2way / 3wayの切り替えで一台二役を担えるリスニングに対する柔軟性、パッシブラジエーターによる優れた低域のモニタリングという点、そして見逃せないのはその能力を適度な筐体サイズにまとめている点ではないでしょうか。プロジェクトスタジオにもフィットし、コンパクトなニアフィールドモニターとは明らかに一線を画するFocal / SM9、その実力をリファレンススタジオでお試しください!!
製品仕様
周波数特性3 ウェイモード:30Hz – 40kHz (+/- 3dB)、40Hz ― 20kHz (+/- 1dB)
2 ウェイモード [Focus]:90Hz ― 20kHz (+/- 3dB)
最大音圧レベル3 ウェイモード:116dB SPL (peak @ 1m)
2 ウェイモード [Focus]:106dB SPL (peak @ 1m)
クロスオーバー周波数3 ウェイモード:250Hz, 2.5kHz
2 ウェイモード [Focus]:2.5kHz
パッシブラジエーター11 インチ (27cm) Focal "W" コンポジット ・ サンドイッチ・コーン・ ピストン , エクストラワイド ・ リバース・サラウンド・ラジエーター
サブウーファー8 インチ (20cm) Focal "W" コンポジット ・ サンドイッチ・コーン
ミッドレンジ6.5 インチ (16.5cm) Focal "W" コンポジット ・ サンドイッチ・コーン
ツィーター1 インチ ピュアベリリウム ・ リバースドーム型 TB872
入力10kΩ バランス XLR
電源電圧115V [6.3A fuse] IEC インレッ 100V 駆動検査済
LF アンプ段400W rms, class AB
MF アンプ段100W rms, class AB
HF アンプ段100W rms, class AB
サイズH320 W490 D390 mm
重量35kg
◎リボンツイーターとフルデジタル回路がシルキーでワイドな音像を描き出す!!
EVE Audio/ SC407(ペア)
価格:751,680円(本体価格696,000円)
POINT1
SC407に限らずEVEのスピーカーすべてに言えることですが、EVE Audioの強みは高解像度のDSP回路にあります。フルデジタル制御のため左右差が生まれることはなく、位相のズレがない解像度の高い音でモニターすることができます!SC407クラスの大きなモデルになるとその『位相のズレがない』という印象が如実に見えてきます。SC407は2つのウーファーが同じ帯域を再生するという少し変わった構成を持つ4Wayですが、ウーファー2つが同時に駆動するということはより正確性が要求されるということにもなります。これを実現するのがDSP制御とも言えるのではないでしょうか。その結果、2つのウーファーを使ったその音像はとてもゆとりのあるもの。さらに、左右のレベルやフィルター設定などもDSP制御により正確に行えます。このコントロールはフロントノブで行えるのため、調整のたびにわざわざ後ろに回って、、というような煩わしさもありません!
POINT2
低域は2つのウーファーによって再生することで解像度とパワー感を高めていますが、EVE Audioのもう一つの特徴はAMT(Air Motion Trance)と呼ばれるリボンツイーターにあります。このツイーターは、側面の電極に電流が流れると隣り合ったアコーディオン状のダイアフラムが引き合い、その隙間の空気を圧縮して空気をダイレクトに動かします(エアモーション)。その結果、伝達ロスや歪みの発生がなく楽器の質感や残響成分、倍音までも正確に再現させることができ、立ち上がりも早く解像度が非常に高いサウンドを実現しています。高域の見えやすさと空気感の捉えやすさはミックスのクオリティを引き上げてくれるのではないでしょうか。
ダブルウーファーによる低域、リボンツイーターによる高域と、両方向にとても余裕のあるサウンドがSC407の特徴です。こちらも渋谷リファレンススタジオでじっくりと試聴可能、ご来店お待ちしています!
製品仕様
種別4-way System
寸法(WxHxD) [mm]600 x 260 x 320
周波数特性(-3dB)35Hz – 21kHz
ツイーターAMT RS3
クロスオーバー周波数280Hz/3000Hz
最大音圧レベル116dB
搭載アンプ数4
総電力(ショートターム)600W
保護リミッター有り
ボリューム調整範囲-inf. – +6dB
ディップスイッチ(インプット)+7dBu/+22dBu
消費電力(スタンバイ時)< 1W
出力電圧300VA
重量(kg/lb)18 / 39.7
◎対象商品ご購入で下記の4製品よりお好きなものをプレゼント!
展示期間中にご来店の上、対象機種をご購入いただいたお客様に、モニターの実力を引き出す選べる4つのプレゼントをご用意しました。下記の4製品の中からお好きなものをおひとつ差し上げます!どれもモニターの実力をさらに発揮させることができるマストバイな製品です!!
◎SELECT 1:Sonarworks / Reference 4 Studio edition with mic - boxed
通常販売価格42,800円(税込)相当
スピーカー測定ソフトウェア、スピーカー・キャリブレーション・プラグインに加え、ヘッドフォン・キャリブレーション・プラグインであるSystemwide、さらに、あらかじめSonarworksの音響技師によりANSI準拠の測定マイクと比較・測定されて出荷される測定マイクを収録しています。ご購入いただいたスピーカーの実力を100%発揮できる製品です!
◎SELECT 2:Iso Acoustics / ISO-PUCK 8個
通常販売価格28,080円(税込)相当
IsoAcoustics ISO-PUCKは、スタジオモニター、ギターアンプなどのシステムをアイソレートする革新的なアイテムです。ISO-PUCKのユニークなデザインは、高度なアイソレーションを実現しながら、横方向の動きと振動に抵抗し、サウンドの明瞭さとリスニング・フォーカスを高めます。すべてのエネルギーはISO-PUCKのコア部で管理され、優れたアイソレーションとコントロール性を得られるよう注意深く調整されています。設置面からスタジオモニターをアイソレートし、エネルギーの転移とその結果起こるサウンドの不鮮明さや色付けを排除する最新鋭のインシュレーターです。
◎SELECT 3:ACOUSTIC REVIVE / AC-2.0 TripleC×2本
通常販売価格32,600円(税込)相当
鍛造による世界初のオーディオ専用導体PC-TripleCを導体に採用。10万円クラスの電源ケーブルと比べても勝るとも劣らない贅を尽くした素材と構造で電源クオリティを向上させます。
◎SELECT 4:Zaor / MIZA Stand V36
通常販売価格14,800円(税込)相当
MIZA V-STANDSは、技術的なパフォーマンスとデザインを最良のスタンダードとして両立することを目標として設計されています。プロフェッショナルな使用に対応しつつ扱いやすさも実現したモニタースタンド。AERSTOPパッドを天板に追加し、スピーカーとスタンドとのより良好なアイソレーションを確保、スピーカーからスタンド、フロア、ルームへの低域の伝播を抑制することができます。
次回はADAM S3H、PMC twotwo 8を展示予定、大型ニアフィールドがもたらすモニタリングの新次元とも言えるそのサウンドを是非渋谷リファレンススタジオでご体験ください!なお、展示日程などの詳細は決定次第ROCK ON PROウェブサイト上でお知らせいたします、ご期待ください!
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2017/07/21
残りわずか。Rock oN 限定モデルFostex /NF01R その実力を再確認
今回NF01Rはその名の通り、FOSTEX / NF-01Aを基にブラッシュアップを果たしたRock oN 限定モデルとなっています。限定100ペア(200台)という台数限定販売となっているこのモデルですが残り数量も減ってきており、再度皆様へご提案させていただきたく思います。 詳細情報とクリエイターの皆様にレビューいただいた過去の記事をまとめていますのでNF01Rの魅力を再確認いただけるのではないでしょうか。
また、今回デモのご希望の承れるよう、デモ機の準備もしましたのでご希望の際はご連絡いただければと思います。
NFシリーズについて
黄色い星型凹凸が特徴の紙製ウーファーのNFシリーズ。国内だけでも累計販売台数15,000台以上という、驚異のセールスを叩きだした超人気スピーカーシリーズで、エンジニアを始め数多くのアーティストが使っていることで知られています。
NF-1A
2000年に発売されたNF-1A(Aはアクティブの意味)は、「HPダイアフラム」16cmウーファーと、40kHzまで伸びるUFLC振動板ソフトドーム・ツィーターをによる高速なレスポンスが特徴で、ブーミーで迫力重視の低域をウリにする製品も多い中、ナチュラルな低域と明るい音像で好評を得ました。
当時、このサイズのパワードスピーカーとしてはライバル機が少ない価格帯であったこともあり、コストパフォーマンスの高さからも話題に。今ほど市場が大きくなかった自宅制作派のアーティストからも、ファーストチョイスのニアフィールドモニターとして選ばれていました。
(※販売価格:ペア ¥179,600 税抜)
NF-01A
そのサウンドと人気を継承する形で2002年にデビューしたNF-01Aは、ウーファーを13cmにコンパクト化。NFシリーズの特徴である、「見える低域サウンド」は、あまり大きな音を出せる環境にないホームスタジオクリエイターにヒット。またこれも非常に高いコストパフォーマンスで、DAWを中心とした制作の普及に貢献したといっても過言ではないでしょう(※販売価格:ペア ¥99,600 税抜)。今では当たり前な「プロが本気で使えるコンパクトリファレンス」のはしりだったような気がします。
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2017/04/16
Amphion / One 18展示開始!パッシブスピーカーが放つ繊細な音を体感ください!
アクティブスピーカーが主流となっている近年の市場には珍しく、パッシブスピーカーとなっているAmphionのスピーカー達。それはアンプを後部に背負うことにより「音」へ悪影響を及ぼすことを考慮した結果となっています。
Amphion のスピーカーの特徴は『分解能が高く、自然な音』。是非その音を体感にいらしてください!
amphion / One18 (Pair)
¥388,800 (本体価格:¥360,000)
>>eStoreでの購入はコチラ
amphion / Amp100 mono (Pair)
¥167,400 (本体価格:¥155,000)
>>eStoreでの購入はコチラ
amphion / Speaker Cable 2.5m(pair
¥43,200 (本体価格:¥40,000)
>>eStoreでの購入はコチラ
◎追求した『真なる音』
Amphionは、北欧フィンランド中部に位置するクオピオという町に1998年に設立されたスピーカーメーカーです。
『真なる音』を追求した彼らがたどり着いたのはパッシブスピーカーの開発という『原点回帰』でした。スピーカーにマッチした最善のアンプも同時に自社設計し、ラインナップされています。スピーカーケーブルもラインナップされており、全てセットで購入することを代理店も推奨しています。店頭では一番人気の高いというOne18を展示、ミックスでのモニターとして最適なサイズになっています。
◎店頭ではFostexとRock oNのコラボレーションFOSTEX / NF01Rの展示も行っております!
『Fosetexモニタースピーカーの新たな幕開け』と銘打たれたNF01Rは、FostexとRock oNのコラボレーションによって誕生しました。名機NF-01Aで評価の高かった長所はそのままに、さらにそれを新開発のHRダイヤフラムや数々のテクノロジーで進化させました。詳細はリンクから記事をチェック!
>>WEBをチェック!
その他機材デモもROCK ON PROリファレンスルームにて随時承っております!
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2017/04/09
Antelope / Orion 32 HD店頭展示スタート!!〜Pro Tools HD ユーザー要チェックの3rd Party I/Oが揃い踏み!〜
HDXカードの単体購入が可能となってから、3rd Party製のHD互換I/Oに注目が集まっています!その中でもAntelope / Orion 32 HD は1Uで 32chのI/Oということもあり注目度の高い製品となります。musikmesse 2017ではフラッグシップI/Oの『GOLIATH』もHD版が登場するなど、とても精力的に製品開発を行っているのもAntelopeの特徴でしょう!RockoN店頭ではOrion32 HDを始め、その他メーカーのI/Oも比較いただけるよう準備しておりますので是非ご来店いただき、ご自身に合ったI/Oを見つけてください!
Antelope / Orion32 HD
¥450,000 (本体価格:¥416,667)
>>eStoreでの購入はコチラ
◎1U 32chの多チャンネル In /Outが特徴の注目インターフェース
1Uで32chのIn/Outが可能なAntelope Orion32は、外録の際にその性能を発揮しつつUSBでの接続のみの為、スタジオでの使用例は少なかったのが実情でした。今回HDとなり、そこにMiniDigiLinkが2基搭載されました。1UサイズのAD/DAとしては最多の入出力をほこるHD I/O互換の製品として再登場したわけです。AD/DAの性能もわずかながら向上!Word Clock4系統から2系統へ変更し、新規に2系統のMonitor Outを搭載した、よりスタジオに向けた製品となっています。MADIを受けることもできるので拡張性も豊富です!HDX新規購入でのI/Oというだけではなく、現在HDユーザー様のシステムに加える拡張I/Oとしてもとても有効です!是非実機をお試しになり、検討いただければと思います。気になる方は是非ご連絡くださいませ!!!
お値段、納期のご相談等何でもお電話ください!
その他機材デモもROCK ON PROリファレンスルームにて随時承っております!
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2017/02/08
SoftwareだけHDという選択肢。Pro Tools to PTHD Upgrade
シンHDの登場により、HDXカードが単体販売となっているのはすでに多くの人に周知されたことかと思いますが、今回ご紹介の『Pro Tools to PTHD Upgrade』はあまり知られていないパッケージではないでしょうか?現在ではなくなっているComplete Production Toolkitをお持ちの方には待ちに待ったアップグレード版の登場となります。ソフトウェアだけHDにするという新たな選択肢が加えられ、より自分の作業に合わせたシステム構築が可能になりました!
今回はHDにしかできない機能をまとめ、ProTools HDの魅力をご紹介致します!
Pro Tools to PTHD Upgrade
¥241,920 (本体価格:¥224,000)
※アップグレードの対象はver.11以上となりますのでご注意ください。
>>eStoreでの購入はコチラ
◎ここがポイント!! Pro Tools|HDアップグレード!!
POINT1:扱える最大トラック数と入力数が大幅アップ
POINT2:トラックにアナログサウンドの温かみを「HEAT」使用可能
POINT3:オートメーションに必須のトリムフェーダー
POINT4:5.1ch / 7.1chサラウンド対応
POINT5:最大64トラックのビデオトラック
POINT6:Satellite Linkで複数ワークステーションを連携
POINT7:クリップ・エフェクトをフル活用
POINT8:複数のスタジオ間や自宅での環境を共通化
扱える最大トラック数と入力数が大幅アップ
数多くのプレミアムな機能が得られるPro Tools|HD、ざっとピックアップしただけでもトピックは尽きません。まずご紹介すべきは扱えるトラック数とその入力数です。最大同時オーディオ・トラック数 は48/96/192kHz時でHDX1の場合256/128/64(HDX3の場合は768/384/192)となり、Native版の128/64/32を大きく上回ります。そして、最大インプット数はHDになると最大192チャンネル(HDXcard1枚で最大64ch)、Nativeでは32チャンネルとなりこちらも大幅にチャンネル数が異なってきます。また、あまり語られない部分かもしれませんがAUXトラックの最大数にも大きな差が。HDでは512ch、Nativeでは128chとなっており、大型のセッションを扱う際はやはりHDが必須となってきます。
トラックにアナログサウンドの温かみを「HEAT」使用可能
そして、以前ではHDXのみのオプションとなっていたアナログ・サウンドの温かみをトラックへ与える『HEAT』がPro Tools | HDソフトウェア・アドオンと変更になったことにより、HDユーザーであれば使用可能となりました。アナログサウンドを知り尽くしたCrane Songのデイブ・ヒル氏の協力のもとで開発されたHEATはProTools 内部でのミックスに温かみ、パンチ感、透明度を与えることができます。
オートメーションに必須のトリムフェーダー
オートメーションを多く使われる方には必須機能であろうTrim FaderもHDのみの機能です。トリムフェーダーがない場合、オートメーションが書かれているトラックのボリューム操作は面倒ですよね。。
5.1ch / 7.1chサラウンド対応
Pro Toolsでサラウンドの作業をするにはHDが必要になります。HDへアップグレードを行えば、5.1ch、7.1chサラウンドでの作業が可能になります。この機能追加のためだけでもHDへアップグレードを検討されてる方は多いのではないでしょうか。
最大64トラックのビデオトラック、Satellite Linkで複数ワークステーションを連携
また、MA作業に目を向けてみればビデオトラック数の増加は大きなメリット。Native版では1トラックのみの編集不可であったものがHDでは最大64トラックのビデオトラックが扱え、切り貼り等の編集も可能となります。さらに、複数のワークステーションをイーサネット・ネットワーク上で互いにシンクさせるSatellite Link機能もHDが必要となります。
クリップ・エフェクトをフル活用
ver12.6より搭載されたクリップ・エフェクト機能。クリップ単位でリアルタイムに実行可能なエフェクト機能となり、インプット・ゲイン、位相、EQ、フィルターそしてダイナミクスが備わっています。こちらNative版では再生のみ対応となっており、使用する場合はHDが必要となります。他社のDAWでは搭載されているものもありましたが、ProToolsユーザーでは待望とされていた機能ではないでしょうか!?
SoftwareをHDにするだけでこれだけの機能が使えるようになります!また、スタジオと環境を合わせるという意味でもHD導入は意味が大きいのではないでしょうか?!Ver11以上のProTools をお使いの方は是非検討いただければと思います!
Pro Tools to PTHD Upgrade
¥241,920 (本体価格:¥224,000)
※アップグレードの対象はver.11以上となりますのでご注意ください。
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お値段、納期のご相談等何でもお電話ください!
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2016/12/09
ROCK ON PRO PICK UP !! TUBE-TECH CL1B
スタジオの大定番となるCL1Bが期間限定で衝撃プライズダウン中です!! もちろん、国内正規代理店となるヒビノ株式会社の取り扱いとなり、キャリブレーションを行った状態での出荷。1年保証もさることながら、一生モノの機材にとって切り離せない修理・メンテナンスも安心の国内正規品です。CL1Bもさることながら、TUBE-TECH製品が持つ魅力を真空管機材の構造から振り返っていきます。
TUBE-TECH CL1B
2016年12月15日までの期間限定プライス
通常価格¥604,800(本体価格:¥560,000)→¥428,000(本体価格:¥396,296)
>>eStoreはこちらから
◎真空管の動作原理とは?
「真空管」と聞いて、何を連想するでしょうか?温かみのあるサウンドでしょうか?ギターアンプの分厚い歪でしょうか?あなたにとっての真空管はどのような存在でしょうか。今日では、エフェクト的に考えられることも多い「真空管」ですが過去の歴史を紐解けば、トランジスタの登場までは電子回路の中心であり、どのような製品にも使われている当たり前のものだったということが判ります。
ここで、なぜ真空管がトランジスタに置き換えられていったのかを考えてみましょう。真空管はその名の通り真空状態にしたガラス管(一部、金属管の製品も有り)の中に電子回路を組み込んだもの。その内部は、ヒーターを組み込み、片方の電極(陰極側)を高温状態にすることで、熱電子放出効果を高め電子を放出させ、その放出された電子を電解・磁界などでコントロールすることで目的の動作を引き出すものとなります。
このヒーターがまずは曲者。電熱線で構成されるヒーターはそもそもノイズの発生源。そもそもヒーターの必要ないトランジスタは、ヒーターがないこと自体が特性の向上に直結、またサイズも小さくヒーター用の電源も必要が無いなどと工業製品として考えればいいことばかり。トランジスタが、苦手とする高周波・大電力といった特殊用途以外では一気に世代交代が行われたという経緯があります。その後も、トランジスタを含めた半導体技術の向上はめざましく、真空管は全く付け入る隙が無いという状況が続いています。
◎真空管が持つ構造上の不利を覆すTUBE-TECHの回路設計
しかし、オーディオに関しては真空管の持つ独特の音色が重宝され、特性的、設計的に不利であるにも関わらず引き続き生産されているのはご承知の通り。ここまでお話したように真空管という素子自体は不利な点を多く持っています。それを克服するためには回路設計が重要であり、特性向上には多くの苦労を伴うものであることは想像して頂けるはず。わかり易い例を挙げると、ヒーターは単純に電熱線と考えることができるので、トランスで電圧を整えただけの回路では交流点火となり、電源周波数(50Hz,60Hz)に応じたハムが乗ってきます。ハムをなくすためには直流にする必要が有ります。その整流回路もしっかりとした設計にして、リップルを抑えた回路にしなければいけません。少しのリップルが、ノイズに直結しS/Nの悪化に繋がるのです。
このように、設計の如何によってその特性が変化するのが真空管回路設計の醍醐味。TUBE-TECHはその回路設計に徹底したこだわりを持ち、真空管の性能を全て引き出すということに注力をしているメーカーの一つ。歪、S/Nといった特性にこだわり、一般的に真空管らしいとされている歪などを極力排除しています。そして、そこに残ったエッセンスは真空管が本来持っていた、温かみとスムースな特性。
そして、非常に丁寧な仕事がTUBE-TECHの魅力の一つ。カスタムで作られたトランスはキャラクターの付与を最低限に抑えた優れた設計。基板のレイアウト、ハンダなどにも高いこだわりが有ります。そのこだわりは、こちらのビデオを見れば随所から感じられるもの。デンマーク・コペンハーゲン郊外にある整理整頓された工場の様子は、TUBE-TECHが持つ洗練されたサウンドと同じ空気感を感じます。
◎CL1Bに見られるTUBE-TECHサウンドのポリシー
それではTUBE-TECHの代表的なプロダクトであるCL1Bを見てみましょう。このコンプは伝説的な銘機であるteletronix LA-2Aを参考としたオプティカルコンプ。キャラクターがぜんぜん違う!と思った方は両方を使ったことのある方でしょう。LA-2Aのような厚みを感じるサウンドキャラクターの付加はTUBE-TECH CL1Bにはありません。それはメーカーのポリシーとして、特性の向上とTUBE-TECHの考えるサウンドクオリティーがそこにはあるからです。もちろん、使い勝手に関しては大いにブラッシュアップされ、可変のAttack/Releaseはオプティカルとは思えないほどにシャープな掛かりを提供します。その上でオプティカル素子の持つ人間的な感覚を併せた独特の世界が広がります。
オリジナルのニュアンスが必要ならば、FixモードがありLA-2Aのニュアンスを得ることも可能。幅広いコンプレッションを得ることが可能な懐の広さ、そして深く掛けても破綻をしないその素性の良さがこのCL1Bの魅力。真空管プロダクトでよく言われるウォーム、歪といったエッセンスからは一番対極にあるTUBE-TECH。その良さは、玄人好みのまさにアウトボードならではのもの。わかりやすい変化を求めるのであれば、他のプロダクトをおすすめしますが、普遍的に長く飽きずに使える一台を求めるのであれば、TUBE-TECHの製品は心からオススメ出来るプロダクトです。
どの製品を選んでも、一生モノとなるTUBE-TECHの製品群。キャラクターの立った製品の多いアウトボードの市場ですが、独特なキャラクターではなくアウトボードの基準点となるTUBE-TECHの存在感は、却って際立ってきているのではないでしょうか。
TUBE-TECH CL1B
2016年12月15日までの期間限定プライス
通常価格¥604,800(本体価格:¥560,000)→¥428,000(本体価格:¥396,296)
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2016/04/08
ROCK ON PRO Used Information!! ~YAMAHA AVITECS~
ROCK ON の豊富な中古製品の中からプロフェッショナルの現場で活躍するプロダクト、歴史に名を刻んだ銘機たちをご紹介します!お問い合わせは03-3477-1776 阪田・清水まで、この機会をお見逃し無く!!!
※中古製品のため在庫一点限りでのご提供となります、完売の際はご容赦ください
◎ACP-2 MB(2枚セット)¥69,800(本体価格:¥64,630)
広い帯域での「吸音」と「散乱」による心地よい音場をコントロールできるAVITEXの調音パネルACP-2 MB、USEDで2枚1セット限りのご用意がございます。ACP-2の特徴は「音響共鳴管」と「堅い反射面」をもつこと。音響共鳴管の開口部で消費されるエネルギーによる吸音効果と、開口部から散乱される反射音による散乱効果によって1枚のパネルで「吸音」と「散乱」作用をバランスよく両立させています。開口部を適切に配置することによって、広い帯域でほぼ平坦な吸音特性をもっています。
設置の一例としては、スピーカーの背後にそれぞれ設置することがおすすめです。リスニングに必要な響きを残しつつ、強い1次反射音を抑制することによって、中低域が引き締まり、定位の向上に大きく貢献するはずです。また、リスニングポイントの背後に設置したり、レコーディングの際にプレイヤーのそばで響きを調整するのもいいかもしれませんね。メーカーのサイトでは一般的な吸音材とAVITEX調音パネルの比較実験動画もございます。ご興味の持たれたら是非ご覧になってみてください!!
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2016/04/05
ROCK ON PRO PickUp!!~動作方式も様々な2chステレオコンプを一斉試聴可能~
ROCK ON PRO Pick Up Information!! では今話題のプロダクトをご紹介します!
Rock oN渋谷リファレンスルームではRME ToltalMixを活用しケーブルの引き回しによるノイズの混入を極力排除した独自の比較試聴システムにて、様々なアウトボードをすぐに試聴可能です。今回は季節の変わり目に合わせて比較試聴アウトボードのラインナップもリフレッシュ!! そのラインナップは上段より、、
【NEW】Thermionic Culture / Phoenix SB
【NEW】AVALON / AD2044
Dangerous Audio / Dangerous Compressor
Rupert Neve Designs / Portico Master Bus Compressor etc
Thermionic CultureのPhoenix SBは真空管コンプ、AD2044はオプティカルコンプ、そしてDangerous CompressorはVCAコンプ、Master Bus Compressorはリミッター段にVCAを採用と、メーカーのコンセプトポリシーと採用されたリダクション方式、それゆえに生まれる効果などの違いをまとめて比較試聴していただくことが可能になりました。
中でも注目は、真空管サウンドを突き詰め、歪みだけでなくクリーンなサウンドを提供。知る人ぞ知る良質プロダクトから国内での評価もじわじわと浸透してきた感のあるThermionic CultureのPhoenix SB。そして、伝統の透明感あふれるハイファイトーンを追求するAVALON Design のAD2044の新しくラインナップされた2機種です。ハイレゾレコーディングが主流となってくる今だからこそ再評価していただきたいプロダクト!!
◎Thermionic Culture Phoenix SB ¥561,600(本体価格:¥520,000)
「ソフト・ニー」や「ハード・ニー」による繊細なレベルコントロールや、エフェクティブなコンプレッションまで幅広い音作りが可能とし、スムースなサウンドから、倍音の歪みをねらって付加させる使い方まで多くのシーンで活躍すること間違い無いThermionic Culture Phoenix SB。帯域全体を通してフラットな周波数レスポンスとコンプをナチュラルに動作させた場合の位相ずれや倍音歪みも最小限に抑えられ、透明感あふれる真空管コンプとの印象を受けられることでしょう。裏技として、スタンバイモードにした場合にきつめのコンプレッションカーブがかかる設定となっていますので、それを逆手にとってディストーション効果を得ることも可能となっています。これは是非お試しいただきたい!!
◎AVALON Designs AD2044 ¥388,800(本体価格:¥360,000)
オプティカルコンプレッサーの動作が生み出す自然でナチュラルなコンプレッション効果。可変可能なアタックとリリースをもち、セッティングの幅もオプティカルコンプとしては使い勝手の良い部類になるでしょう。ハイスピードリニアオプトエレメントを採用し最高のゲインリダクション用の音質変化のないパッシヴアッテネータとして、ナチュラルなハーモニーを得ることができます。限りなく色付けの無い透明感あるサウンドは、世界中のスタジオでもこぞって愛用されています。高解像度でのレコーディングにてデジタル処理における情報の欠落などがわかるようになってきた今、アウトボードを活用し、アナログ情報の密度を保持したまま2Mixを作り上げるのも今後一つのデーマになってくるのではないでしょうか。
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2016/03/30
ROCK ON PRO Used Information~SSL MYNX+X-RACK MicPre~
ROCK ON の豊富な中古製品の中からプロフェッショナルの現場で活躍するプロダクト、歴史に名を刻んだ銘機たちをご紹介します!お問い合わせは03-3477-1776 阪田・清水まで、この機会をお見逃し無く!!!
※中古製品のため在庫一点限りでのご提供となります、完売の際はご容赦ください
SSL MYNX+X-RACK MicPre ¥ 109,800 (本体価格:¥ 101,667)
今回はSSL MYNX + X-Rack Mic Amp Moduleをご紹介します。MynxはX-Rack用モジュールを2スロット分まで搭載できるEmpty Rack。こちらにX-Rack Mic Amp Moduleを1本とブランクパネルをセットとして、1点限りの中古品のご案内です。
マウントされているX-Rack Mic Amp ModuleはSuperAnalogue仕様となっており、 スムースな周波数特性と広いダイナミックレンジが特徴。個人用やプロジェクトスタジオにおいても、重宝するS/Nの良い透明感あるサウンドは持っていて損はしないでしょう。SuperAnalogueは9000シリーズで採用された、限りなくピュアで色付けのないアタックの強いサウンド。位相の狂いがない現代のHip HopやDance Musicに最適なサウンドとなりますが、こちらは電源との組み合わせも非常に重要なファクターです。SuperAnalogue向けに設計されたMynxシャーシはその点でも絶対の信頼が得られるでしょう。
モバイルにも便利なMynx Empty Rackは今後本国SSLサイトのみでの販売となっていきます。手に入れやすいこの機会にぜひともGETしてください!!
お客様のシステムへの導入手法などご相談ございましたらご連絡ください!
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2016/03/23
ROCK ON PRO Used Information~AMEK 9098EQ~
ROCK ON の豊富な中古製品の中からプロフェッショナルの現場で活躍するプロダクト、歴史に名を刻んだ銘機たちをご紹介します!お問い合わせは03-3477-1776 阪田・清水まで、この機会をお見逃し無く!!!
オススメ中古機材をご紹介する本コーナー!! 今回はなかなか入荷のないハイエンドメーカーの銘機が入荷!これは即売れ注意です、中古商材現品限りとなります!商品に関してのお問い合わせは 03-3477-1776 担当:阪田・清水 まで!!
※中古製品のため在庫一点限りでのご提供となります、完売の際はご容赦ください
AMEK 9098EQ ¥ 168,000 (本体価格:¥ 155,556)
~しっかりとした太さと抜け,MicPre + EQという使い勝手の良い1chモジュール~
説明不要の定番機種AMEK 9098EQ入荷です!!一時期に比べ中古の流通量も減っているような。。。ルパート・ニーブ氏の1990年台を代表するプロダクトAMEK 9098コンソールからのチャンネルストリップです。Neve ~ Focusrite ~ AMEKという流れを経たニーブ氏のデザインですが、AMEKのサウンドはニーブ氏のデザインしたサーキットの中でもOldに次ぐ人気があるシリーズではないでしょうか。現在はRupert Neve Designとしてニーブ氏のプロダクトを享受することができますが、年代を追うごとにエッジのしっかりとしたソリッドでモダンなサウンドへと傾向も変化をしていっているように感じます。
しっかりとした太さと抜け、非常に高度にバランスのとれたアンプを搭載。また、EQ部分はラージコンソール移植ならではのワイドバンド且つ変化幅の大きなサウンドメイクのしやすい仕様。MicPre + EQという使い勝手の良い1chモジュールです。SSLコンソール導入のスタジオも対比的なキャラクターのプリとして導入実績の非常に高い9098EQ。そのサウンドは聴いていただければすぐに分かる太さとクオリティー。1台持っていて絶対に後悔のないおすすめの1台です!!
お客様のシステムへの導入手法などご相談ございましたらご連絡ください!
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2016/03/18
Retro Instruments 176 現在店頭で常時試聴スタンバイ!!
ROCK ON PRO Pick Up Information!! では今が導入のチャンスとなる話題のプロダクトをご紹介します!
サンフランシスコにあるRETRO Instruments社は「Vintage design for modern recording」をテーマに、ビンテージ名機の設計をベースとして現代に求められた機能追加など改良を行うリプロダクトを得意とするメーカーです。今回ご紹介する176はもともとUniversal AudioのBill Putnumが設計した176(現在も多くのレコーディングにて仕様されている1176の原型)をモデルとした真空管コンプレッサー。オリジナル176以前の真空管コンプの多くはアタックタイムが固定のものが多かったのですが、176はアタック、リリースともに連続可変できるのが特長です。レシオも2/4/8/12:1から選択できます。以前このコーナーで紹介したRS124もオリジナルモデルはアタック固定でした。復刻モデルは可変アタックタイムで現存する3台のアタックタイムの特性を解析し搭載していましたね。
ここまでの機能は176を踏襲しているのですがRetro Instruments 176は、、
・サイドチェーンHPF
・アシンメトリー機能(-/Middle/+)
・ハードワイアーバイパス(Active/Bypass)
・インターステージトランス(In/Out)
といった機能が追加モディファイされています。インターステージトランスでは音のキャラクターが変化されます、トーンコントロールの選択肢があるのは心強いですね。また、聞きなれないアシンメトリー機能は、Middleが通常で音の波形全体のレベルに対してリダクションを検出します。+にスイッチを切り替えると、正相成分に対して、−スイッチに切り替えると逆相成分に対してリダクション検出をします。いったいどこで使うんだなんてツッコミも入ってきそうですが、楽器によって明らかに掛かり方の変わるものもあるので試してみる価値はありそうです。また、サイドチェーンも2.2KHzまでかけられるので、リダクションがどうも掛かりすぎてしまうなんて時に、ちょうど掛かりのいいポイントを探すこともできるでしょう。
Retro Instruments 176 ¥441,720(本体価格:¥409,000)
さて、Retro Instruments 176のサウンド、全体的に太く甘いトーンのサウンド傾向ですが、インターステージトランス機能で高域をキラッとさせる演出ができたり、サイドチェーンでは高い周波数まで対応しているので高域を叩くような掛け方をすることも可能。あまり耳慣れない機能が満載されており、サウンドの変化、傾向などを文字でご案内するのも正直限界があります。店頭にてすぐに機能とサウンドの変化をためしていただくことが可能ですので少しでも興味を持たれたかたは是非渋谷店に足をお運びください!!
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2016/03/14
ROCK ON PRO USED Information ~SSL/Nucleus~
ROCK ON の豊富な中古製品の中からプロフェッショナルの現場で活躍するプロダクト、歴史に名を刻んだ銘機たちをご紹介します!お問い合わせは03-3477-1776 阪田・清水まで、この機会をお見逃し無く!!!
オススメ中古機材をご紹介する本コーナー!! 今回はなかなか入荷のないハイエンドメーカーの銘機が入荷!これは即売れ注意です、中古商材現品限りとなります!商品に関してのお問い合わせは 03-3477-1776 担当:阪田・清水 まで!!
※中古製品のため在庫一点限りでのご提供となります、完売の際はご容赦ください
SSL Nucleus (USED) ¥ 398,000 (本体価格:¥ 368,519)
SSL / Sigmaとの組み合わせにて店頭でも期間限定で展示しているSSL / NucleusがUSEDで入荷しております!! HUIでのDAWコントロールに加え、SSL / Sigmaのチャンネルフェーダーを直接コントロールでき、よりコンソールを使用している感覚でSigmaを扱えるようになるのではないでしょうか。また、NucleusはLayerを3つ設定できるため1つにProToolsのHUIコントロールを、もう1つにSigmaのフェーダーコントロールをアサインしておけば、ボタンひとつで双方切り替えて作業を行うことができます。ProToolsのフェーダーとコンソールのフェーダーを行き来して作業をしていると考えると、素晴らしくお手軽に効率的な作業が実現できます。さらに、Delta Controlプラグインを使用して、DAWからSigmaのフェーダーオートメーションを書き込みなど、単純なコントロールに留まらない製品となっています。新品価格¥756,000(本体価格:¥700,000)から考えるとUSEDのバリューも十分。SSLマイクプリを2ch搭載、モニターコントロールも可能なSSL / Nucleusは渋谷店店頭でお試しいただけます。詳細解説はWeb公開中ですので是非ご覧ください!!
>>併せてチェック!!
for Mixing Engineer!!
Pro Tools & SSL SIGMA DELTAのDesktop Summing Console System展示開始!!
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2016/03/09
ROCK ON PRO Pick Up!!~蓄電で供給するクリーンな電源、ELIIY Power / POWER YIILE PLUS~
ROCK ON PRO Pick Up Information!! では今話題のプロダクトをご紹介します!
落雷、火災など急な停電にも対応するUPS(無停電電源)。業務のダウンタイムを最小に留めるべく導入されている現場も数多いかと思われます。今回取り上げるのは、エリーパワー株式会社のPOWER YIILE PLUS(パワーイレ・プラス)。こちらはUPSと少し趣きが異なり「蓄電」を行うためのプロダクト、つまり緊急時の対応というよりは日常から蓄電という仕組みを室内に取り入れて、日頃も省エネに過ごし、いざという時には非常電源として万が一に備えられる。エコと安心の両方を1台で賄える蓄電という新しい視点が従来にないポイントです。
しかも、W320mm x D550mm x H675とシルバー筐体の旧MacProを少し太めにしたようなコンパクトサイズで重さは何と65kgの超軽量!!、、、さすがにバッテリーは重いですね。。ただし、キャスターも付いたデザインで、そもそもに「移動」するという概念が無かったこの分野に一石を投じています。確かに他の蓄電システムは完全据置の設置でかなり無骨、人目につかないところでデザインの必要もありませんでした。
実はこのPOWER YIILE PLUS、昨年のInterBEEにも出展し各所で話題を集めています。というのも、通常のコンセントから電源を取った場合はノイズの影響を受けることが多々ありますが、この「蓄電」という方法を用いた場合はバッテリーにクリーンな状態で電気を蓄えられるため、音響的な優位性においてもそのメリットに注目が集まっているというわけです。
エコ + 緊急時の安心 + クリーンな電源供給というクリエイターには理想的な環境。POWER YIILE PLUS(パワーイレ・プラス)の登場によって、これまで大規模な設置工事が必要であった蓄電システムがコンパクトに身近になってきたと言えるのではないでしょうか。詳細は下記メーカーホームページにてご確認ください!!
>>メーカーホームページはコチラ
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2016/02/26
ROCK ON PRO PickUp ~ADAMが誇る最先端技術を搭載したS3X-Hをスペシャルプライスで手に入れる!!~
ROCK ON PRO Pick Up Information!! では今が導入のチャンスとなる話題のプロダクトをご紹介します!
プロオーディオ界を席巻しているといっても過言ではない、ADAMの業務用モニタースピーカーフラッグシップモデルのSXシリーズ。ニアフィールドモニターとラージモニターの要素をバランス良く併せ持つS3X-Hが限定1台のみ決算セールスペシャルプライス¥548,000(税込・通常価格¥769,284)でご提供中!! 20万円以上のバリュープライスで憧れのSXシリーズのオーナーになれる大チャンスです。
ADAM S3X-H ★大決算大BAZAR Final! ¥ 548,000 (本体価格:¥ 507,407)
eStoreでチェック
SXシリーズのハイスペックを語る上でキーポイントになるX-ARTツイーターは、圧縮伸張動作を行うダイアフラムによって、空気の動作スピードが何倍にも加速され、優れたトランジェント特性を持ち、周波数特性はハイサンプリングレートでの運用も見据えた50kHzまで伸ばしています。
その、優れたX-ARTの圧倒的なトランジェントレスポンスを誇るARTドライバーに負けない反応の素速さを持つ、HexaConeウーハーは、大音量時においても決して音程の明確さを失うことはありません。S3X-Hはタイトで深い低域を再生するため、左右のウーファーが同じ周波数帯域をシンメトリックに再生。併せて搭載された4インチHexaConeが音楽的に重要なミッドレンジを補完し、高い解像度と音楽的にもバランスのとれた周波数を実現しています。
信頼のおけるモニターになるであろうS3X-H。残り日数も僅かな2月限定の超大特価です。もう悩んでいる暇はありません!! お問い合わせは阪田・清水まで是非ともご検討ください!!
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2015/10/22
ROCK ON PRO USED Information ~Prism Sound / Orpheusなど今注目の中古製品をPick Up!!!~
ROCK ON の豊富な中古製品の中からプロフェッショナルの現場で活躍するプロダクト、歴史に名を刻んだ銘機たちをご紹介します!お問い合わせは03-3477-1776 阪田・清水まで、この機会をお見逃し無く!!!
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LAVRY ENGINEERING / DA924 税込¥498,000(本体価格¥461,111)
マスタリングスタジオでは定番としてその金色のボディで存在感を放っているLAVRY ENGINEERINGのDAコンバーターが入荷しました!頻繁に入荷するものではないので是非この機会に導入を検討されてはいかがでしょうか?現行機種としてはDA-N5 Quintessence がありますが、それもこのDA924が元に作られています。LAVRYサウンドの特長は音の正確性、透明性に優れ、尚かつスムーズでとても音楽的なサウンドです!サンプリング・レートは96kHz、88.2kHz、48kHz、44.1kHzから選択可能となっています。正確なモニタリングは作品に直結する部分。出音を良くしたいと考えている方へ、この最高級DAコンバーターを是非オススメ致します!電源は115V 仕様。
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Prism Sound / Orpheus 税込¥478,000(本体価格¥442,593)
ご存知ハイエンドオーディオインターフェースの代名詞とも言えるPrism Soundの192kHz/24bit FireWire マルチトラックオーディオインターフェイスOrpheusが入荷しました!本機FireWireの接続となりますが、メーカーよりSONNET Echo Pro ExpressCard/34 Thunderbolt Adapter&FireWire 800 ExpressCard/34の組み合わせによりThunderbolt接続で使用できるとの発表をしていますので、『Firewireの端子なんてないよ!』という方でも大丈夫です。入出力は<アナログ入力>・2 x Mic/Line/Inst・2 x Mic/Line・4 x Line<アナログ出力>・8 x Line<デジタル入出力>・S/PDIF(2ch) / ADAT(8ch) / ADAT S/MUX(4ch)を有します。Nativeシステムへ最高の音質を!
お客様のシステムへの導入手法などご相談ございましたらご連絡ください!
ご紹介した製品は中古機材となりますので1点限りのご用意となります。
在庫の状況の確認等はお電話が確実ですので気になる製品がありましたらお気軽にお問い合わせください!
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2015/08/24
ROCK ON PRO USED Information ~Avid HD I/Oなど今注目の中古製品をPick Up!!!~
ROCK ON の豊富な中古製品の中からプロフェッショナルの現場で活躍するプロダクト、歴史に名を刻んだ銘機たちをご紹介します!お問い合わせは03-3477-1756 店頭阪田・清水まで、この機会をお見逃し無く!!!
オススメ中古機材をご紹介する本コーナー!! 今回はPro Tools HDユーザー必見、中古HD I/O入荷のご紹介です!!お手元のシステムをコストパフォーマンス良く拡張するチャンス到来、一期一会の中古入荷です!! 商品に関してのお問い合わせは 03-3477-1776 担当:阪田・清水 まで!!
※中古製品のため在庫一点限りでのご提供となります、完売の際はご容赦ください
Avid / HD I/O 8x8x8(開封未使用品)¥ 348,000 (本体価格:¥ 322,222)
Avid / HD I/O 8x8x8(箱なし中古品)¥ 298,000 (本体価格:¥ 275,926)
中古市場で人気の高いAvid / Pro Tools HDシステム用のインターフェースHD I/O 8×8×8の再入荷です!! 今回は2台の入荷で1台は開封未使用品、もう1台は箱なしの中古品とはなるものの使用感もほぼなくコンディションは良好と言える個体です。どちらもハードウェアの再登録が可能な状態でお渡しとなります。HDX、HD Native環境でのインターフェースの拡張の用途はもちろんですが、TDM環境の方でもご使用いただけるため、192 I/O等からのサウンドクオリティアップを狙った導入もアリではないでしょうか。8x8x8はHD I/Oシリーズの中でもベーシックとも言える8 Analog I/O & 8 Digital I/Oを搭載、さらなる拡張・将来性を考えても一番バランスの取れたI/Oとなっており、導入の一番多いモデルです。背面の空いているオプションカードスロットを活用すればインアウト数の拡張も可能となっています。
お客様のシステムへの導入手法などご相談ございましたらご連絡ください!
Avid / HD I/O AD Option
¥ 92,366 (本体価格:¥ 85,524)
さらに!! HD I/O用のAD Optionも入荷してきています!! こちらを先ほどご紹介したHD I/O 8×8×8に搭載することによりアナログ16インのI/Oへと拡張、対応できるレコーディングのシチュエーションも幅がグッと広がる仕様にカスタムできます。もちろん現在お手元にHD I/O 8×8×8、HD I/O 16×16×Digitalをお持ちの方は是非この機会に拡張を検討してみてはいかがでしょうか。中古で入荷する機会も少ないHD I/O AD Optionの入荷はまさに出会い。お見逃しなく!!
お客様のシステムへの導入手法などご相談ございましたらご連絡ください!
ご紹介した製品は中古機材となりますので1点限りのご用意となります。
在庫の状況の確認等はお電話が確実ですので気になる製品がありましたらお気軽にお問い合わせください!
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2015/07/30
P.R.E 第6回 番外編〜プラグインによるサチュレーションで曲に立体感を出す!! Sound Toys Decapitator〜
幾千数多のアナログ機材をRecommendするこのコーナーも第6回目を迎えました!! 今回は少し趣向を変えて、アナログの倍音感を再現するサチュレータープラグインをご紹介です。 ミキシングの中でも重要な要素となる倍音の調整、そして音の前後感のコントロール。Pro Tools HDユーザーの方であればHEATの出番ということにもなりますが、私シンコーン清水が現場で見「聴」きしていたプラグインSoundToys / Decapitatorを取り上げて実例をご紹介します!!
Sound Toys "Decapitator"
私の経験上ではありますが、サチュレーターとなるとかなりの確率でエンジニアの方に使用されているのがDecapitatorではないでしょうか。使い勝手の良さ、サウンドなどセレクトされる理由は様々ではありますが、何といっても魅力的なのは5つの中から選択できるキャラクターの幅の広さ。画面下部に「A」「E」「N」「T」「P」のボタンが配置されていますが、それぞれ下記のモデリングを行っているようです。
A:Ampex / 350 tape drive preamp.
E:EMI / TG Channel.
N:Neve / 1057 input channel.
T:Thermionic Culture / Culture Vulture (triode setting)
P:Thermionic Culture / Culture Vulture (pentode setting)
どれも魅力あるラインナップなのですが、単なるモデリングだけではなくここからDecapitator独自の各パラメーターで追い込んでいけるのプラグインの良きポイントです。定番的な使い方としてはPUNISHはなし、DRIVEも4以上はなしとし、あくまで歪みにならないよう倍音付加にとどめてLOW CUT / TONE / HIGH CUTを適宜コントロール、曲全体を聴きながらMixのDRY/WETで音を配置していくというシンプルなもの。また、OUTPUTはAutoで使用すると音量の変化なくエフェクト量を変化できるのでとても便利なポイントです。
Decapitator使用例
次はDecapitatorを使い、各トラックを調整する際のパラメータ例をご紹介していきます。使用用途としては音の存在感、前後感のコントロールを行う格好ですので、掛け方はとても薄く掛ける形になります。
①ヴォーカルの存在感を出したいケース
1, STYLEはお好みで選択してください。(Pは用途的に歪みすぎるかもしれません。)
2, DRIVEは1程度、OUTPUTのAUTOを外し、Bypass状態と聴き比べて差がないよう調整していきます。
3, TONEを少しBRIGHTにすることによって明るさを出します。必要によってLOW CUT,HIGH CUTを使用。
4,曲全体を聴きながらMIXのつまみをコントロールします。ソロで聴いていてもあまり違いがなくても、曲全体では明らか聴こえ方が変わってくるのを実感いただけるのではないでしょうか。
②芯のあるBassを作るケース
1, STYLEは”P”を選びます。歪ませた音を薄く混ぜる使い方となるため、歪みの強い"P" を選択します。
2, OUTPUTはAUTOでDRIVEは6まで上げてしまい、ブリブリ歪んだサウンドに。
3, TONEで少し明るくしていますが、HIGH CUTで不要部分をカットしています。
4, 曲全体を聴きながらMIXのつまみをコントロール、薄めのDRY/WETでサウンドに芯が生まれるのを感じられるのではないでしょうか。
どちらも僅かに歪みを足すという使い方になりますが、僅かな積み重ねで得られる存在感は確実な差としてミックスに現れてきました。ハイエンドなヴィンテージ機器を現代のサウンドにフィードバックしていくサチュレーションプラグイン。キャラクターあるサウンドを創り出すエッセンスとしてワークフローに組み入れてみてはいかがでしょうか!!
text by 清水 修平 ROCK ON PRO Sales Engineer
大手レコーディングスタジオの現場経験から、ヴィンテージ機器の本物の音を知る男。寝ながらでもパンチイン・パンチアウトを行うテクニック、その絶妙なクロスフェードでどんな波形も繋ぐその姿は波形を手術するドクターのよう。ソフトなキャラクターとは裏腹に、サウンドに対しての感性とPro Toolsのオペレートテクニックはメジャークラス。Sales Enginnerとして現場の皆様の役に立つべく、日々研鑽を積み重ねている様はまさに修験者の様相。『良い音』を目指す全ての方の為、現場の経験と知識を提案に結び付けている
Decapitator Native
¥ 23,760 (本体価格:¥ 22,000)
詳細はこちらから>>
Decapitator TDM
¥ 47,520 (本体価格:¥ 44,000)
詳細はこちらから>>
★Decapitatorを含むバンドルセット
Native Effects Bundle V4
¥ 64,800 (本体価格:¥ 60,000)
詳細はこちらから>>
TDM Effects Bundle V4
¥ 159,840 (本体価格:¥ 148,000)
詳細はこちらから>>
Review
2015/07/23
ROCK ON PRO USED Information ~Antelope OCX&Isochrone 10Mなど今注目の中古製品をPick Up!!!~
ROCK ON の豊富な中古製品の中からプロフェッショナルの現場で活躍するプロダクト、歴史に名を刻んだ銘機たちをご紹介します!お問い合わせは03-3477-1756 店頭阪田・清水まで、この機会をお見逃し無く!!!
みなさん、こんにちわ!!オススメ中古機材をご紹介する本コーナー、今回はなかなか入荷してこないスペシャルなラインナップとなっておりますので悩む前にまずご連絡ください!!(03-3477-1776 担当:阪田・清水)機材をまずは押さえて一緒に悩みましょう!!
※中古製品のため在庫一点限りでのご提供となります、完売の際はご容赦ください
GENELEC / 1032A(Pair)
¥ 278,000 (本体価格:¥ 257,407)
スタジオ定番ニアフィールドモニター GENELEC / 1032A が入荷しました!! 10inchのウーファーを有し、GENELECらしい豊かな低音とパワフルな音質はさすがの一言!! 現行1032Bがおよそ65万という価格設定ですので中古でこのプライスは即決レベルではないでしょうか?AからBへマイナーチェンジした変更点としてはISS(Intelligent Signal Sensing:無音状態が 1 時間程度継続すると 待機電力を減少させるために自動的にスピーカーの電源をスタンバイ状態にする機能)という省電力機能が追加された程度で音質に関する部分の変更はありません、安心してこの1032Aをお選びください!!
お客様のシステムへの導入手法などご相談ございましたらご連絡ください!
Pro Tools | HD 3 Accel for PCIe
¥ 348,000 (本体価格:¥ 322,222)
なんとPro Tools HDシステムが中古入荷です!! ProTools HD9 ライセンス + Accel Core (PCIe) ×1 + Accel Card (PCIe) ×2の構成でご提供します。もちろんソフトウェア、ハードウェア共に再登録可能で、将来的なアップグレードも利用可能です。別途I/Oが必要にはなりますが、現在TDM システムにカードを足してパワーアップを図りたい方!! とにかくPro Tools HDのライセンスが欲しい方は大注目ではないでしょうか!! 今回2セット入荷しています、このチャンスお見逃しなく!!
お客様のシステムへの導入手法などご相談ございましたらご連絡ください!
Antelope Audio / OCX ¥ 109,800 (本体価格:¥ 101,667)
Antelope Audio / Isochrone 10M ¥ 498,000 (本体価格:¥ 461,111)
Antelope Audio / OCX ¥ 109,800(税込)
クロックといえばAntelopeの名前は真っ先に挙がりますが、同社のクリスタルオシレーターを搭載した高品位クロックジェネレーターが中古入荷です!! 音質向上を求めている方は是非クロックジェネレーター導入をオススメします!! その効果は制作全ての場面に渡り、サウンドの土台を整える重要な役割を担います。ミックス作業での正確なモニタリングはもちろん、正確なクロックによる録音のクオリティーアップはマスタークロックの真骨頂です!! 主観的な意見にはなりますが、音の輪郭がくっきりして、ひとつひとつの音がパワフルになるので録り音を良くしたい方への提案としてマイク、マイクプリと並んでこのOCXを激プッシュします!! クロックを通して録音したサウンドはエフェクトの乗りも違います、リバーブの美しいテールは一度体験したらやみつきです。全ての作業に音質向上が見込める機材が10万円で手に入るというのはUSED製品のメリットとも言えるセレクトではないでしょうか。
さらに今ならIsochrone 10M(税込¥498,000)が中古で在庫していますので、OCXとの組み合わせれば更に精度の高いクロックを提供することが可能となります。10Mはルビジウムオシレーターを採用しており、クリスタルオシレーターと比較すると100,000倍の安定度を確保できると言われています!! 是非OCX+10Mの組み合わせもご検討ください!!
Antelope Audio / Isochrone 10M ¥ 498,000(税込)
ご紹介したAntelope OCX & Isochrone 10Mについては好評連載中の瀬川英史氏のコラム「LA Graffiti:第5回」でも取り上げられています!! 下記のリンクバナーより是非ご参照ください!!
ご紹介した製品は中古機材となりますので1点限りのご用意となります。
在庫の状況の確認等はお電話が確実ですので気になる製品がありましたらお気軽にお問い合わせください!
お客様のシステムへの導入手法などご相談ございましたらご連絡ください!
Review
2015/07/06
【NEWS】Avid Creative Summit 2015:#Pick Up Session!! Soundminer v4Pro-J with ProTools!!
【NEWS!!】 Avid Creative Summit 2015
いよいよ開催が迫ってきたAvid Creative Summit 2015から注目のSessionをプレビューします!! 先ずは株式会社サンフォニックス様の『Soundminer V4Pro-j with ProTools!!』大注目のこちらのセッションですが何はともあれ『Soundminer』をご紹介しないことには始まりません。
『Soundminer』は音源データ(.wav)ファイルの管理を行うツール。映像などで注目を集めるMedia Asset Management のAudio版と言えるアプリケーションです。世界的には『Net Mix Pro』と人気を二分する大定番ソフトとなります。
皆さんはこれまで、どのようなソフトを使って、楽曲データや、効果音を管理されてきたのでしょうか?iTunesを使っている方も多いと思いますが、タイトル、曲名など検索できる項目は限られていますよね。これに、”2015年Hit Song"とか”オープニング向け"等メタデータが入力できたら便利だと思いませんか?それを実現するのがこのSoundminerです。
元々は効果音の検索用に開発が進んだプロダクト。”カミナリ”や、"爆発音"などといったキーワードを入力するとそれぞれにあったサウンドファイルが検索されソートされるという仕組み。キーワードはメタデータとして管理され、メーカー提供のメタデータはもちろんですが、ユーザーが独自にその項目を増やしたりという自由度の高い検索エンジンになっています。
そして、何といっても強力なのがPro Toolsとの連携です。中でもカーソルのある位置に検索を行なったファイルを貼りこむという機能がありますが、Pro Toolsに高度な検索機能を追加したかのようなシームレスな動作が可能です。
複数のメタデータによる高度な検索機能と、直接Pro Toolsのタイムラインへ張り込みが可能なエンジン。Rewireを使用したプレビューも可能なので、実際に貼りこむ前に確認を行うことも出来ます。これらの機能は効果音、選曲だけではなく、ゲームメーカー、放送局などさまざまな現場でこの機能は重宝されること間違いありません。選んでファイルを貼りこむ、一連の作業の効率向上に間違いなく効果があります。
実際の動作の様子はこちらのMOVIEを御覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=PsOqtJiZRbw&feature=youtu.be
更に、NAS サーバーなどでの音源の一括管理機能により、サーバー上のデータを複数のクライアントから検索し貼りこむといった機能も持ちます。効果音ライブラリーを販売する各社との強固な連携により、販売される効果音に予めメーカー側が提供するメタデータが埋め込まれていたりと、様々な連携も取られているのは定番ソフトならでは。効果音ライブラリーを購入したらすぐにSoundminer上で利用が出来るというのが、海外では大きなメリットとして存在、Soundminerの魅力となっています。
そして、最新のV4.5の機能を余すことなくご紹介する今回のセミナー、新しいワークフローの発見があること間違いありません。お席もあとわずか!! 是非ともご参加の申し込みお急ぎ下さい!!
昨年も好評のうちに開催されたAvid Creative Summitがさらにパワーアップして今年も開催決定です!! 3会場で計8本のセミナー、協賛11社様の展示でお届けします!サウンド制作者のためのリアルノウハウセミナーの詳細&お申し込みはリンクより特設ページにてご確認ください!!
Review
2015/03/31
『P.R.E』~Professional Recommend Equipment~ 第3回 1073系プリアンプを比較試聴
ヴィンテージハードウェアが現役で活躍し続けるプロフェッショナルな現場へ…
さまざまな現行製品をレコメンドしていく本企画…
第3回目はマイクプリアンプ(ヘッドアンプ)です !
皆さんはマイクプリアンプは何をお使いですか?音の存在感、キャラクターを作るにはデジタルに変換される前のアナログ領域での音作りがとても重要であることは周知の事実。
そこで今回取り上げるのは、1970年代を代表する伝説的マイクプリ”NEVE 1073”。発表から45年も経っている今なお、レコーディングスタジオで活躍するまさに名機です。その1073をモデルとしてして作られている現行品はAMS NEVE社のもの以外にも数多く存在します。今回は数ある1073系プリアンプ7機種を店頭に用意、OLD NEVE1073をミックス時にライン入力して使用していたVo素材を同じようにライン入力で録音して比較試聴、マイクを接続してのマイク入力での比較も行いレビューしていきます!
※今回比較に使用した素材・機材は店頭にて試聴のご用意をしております!阪田、清水までお気軽にお問い合わせください!
NEVE 1073とは?
そもそもNEVE 1073とはどのようなマイクプリなのでしょうか。1960年代から1970年代のかけてレコーディングスタジオや放送局用にコンソールを製造していたNEVEですが、1073は1970年にウェッセックス・スタジオからのオーダーに合わせて設計されたコンソールに搭載されたH/A EQモジュールと言われています。コンソールに搭載されていたモジュールを個別に使用するようになり、現在レコーディングスタジオで見ることのできるような電源供給用のラックにマウントされ、持ち運びが可能な姿になっていきました。
そのなめらかなかつ存在感のあるサウンドは今なおレコーディングの定番として君臨しています。シルクのようななめらかな音質と形容させるその音色は多くの人を魅了しています。しかしながら、50年近く経った今ではオリジナルの状態で残っているものは皆無ではないでしょうか。修理等でどこかしら手が加わっているでしょうし、経年劣化もしているはずです。S/Nの悪い個体も多いようです。コンディションの良いオリジナルのもの手に入れようとした場合、100万円以上の費用はかかってしまい、導入は現実的ではありません。個体差もあるでしょうし、メンテナンスに関してもパーツの有無等含め、不安要素は多いのが現状です。
それならば現行品の中から好みのサウンドのものを探すのがいいのではないでしょうか。メンテナンスの心配もなく、修理やサポートに関しても安心です。
OLD NEVEらしいサチュレーションのキャラクター、AURORA AUDIO/GTQ 2
まず始めに個人的な1073のサウンドの印象を一言で言うならば『ファット&クリーン』。すなわち低域の膨よかさと高域の倍音感がバランスよく融合した音です。ものすごく近くに感じられる低域の音像が印象的、皆さんもNEVE=太い音という認識があるかもしれません。より近くに感じられる音像や高域の心地良い倍音感が1073の魅力だと思います。
今回比較してみてオリジナルに一番近い印象をもったのがAURORA AUDIO/GTQ 2。音の押し出し感、OLD NEVEで感じられるような気持ちの良い高域の倍音感が感じられました。GAINを上げていったときのサチュレーションのキャラクターが一番 OLD NEVEに近い印象で、低域から高域までバランスが良く出ています。アウトボードを使用する一つの理由として、デジタルではなかなか手に入れるのが難しいアナログのサチュレーションを付加するためにアウトボードを使用する場面は実際多く、サチュレーションのキャラクターがOLD NEVEに近いというのは大きなプラスポイントではないでしょうか。
さらに、GTQ 2で素晴らしいと感じたのは曲全体を出してみたときでした。Voが曲の中に自然に収まり、曲全体がイキイキとするサウンドはOLD NEVEを使用した時に感じられたものと同等、NEVEマジックと呼ぶべきものがそこにありました。高域の心地いい倍音感が他の音の結びつきを高め、それによって音の動きの部分が強調されて曲がイキイキして聞こえる。Voでの使用を考えた場合はAURORA AUDIO/GTQ 2がオススメです。
AURORA AUDIO
GTQ2
¥426,600 (税込)
AURORA AUDIO/GTQ 2とは
AURORA AUDIOはジェフ・タンナー氏により設立されたブランドです。ジェフ・タンナー氏は1073の設計を手がけたとされる人物であり、その音の決め手となるMARINAIRトランスもジェフ氏の設計の元に作られたものでした。ジェフ・タンナー氏は1073の設計を手がけた1971年からNEVEがシーメンズグループに買収される1985年までの14年間を旧NEVE社で過ごし、退社後はNEVE製機材の修理や改造の技術の高さからRed Hot Chill PeppersやFoo Fightersの収録を手がけるスタジオである”Grandmaster Recorders”の機材テックとしてキャリアを築き、1999年『GTQ-2』の発表と同時にAURORA AUDIOを設立しました。
GTQ-2はオリジナル1073と基本回路設計を受け継いでいます。そのトランスはMARINAIR社のかつての社員がジェフ氏の設計をもとに、同じ素材で当時の手法で作っているとのことです。まさに、オリジナル1073を正統継承しているモデルと言えるのではないでしょうか。
◉Winter NAMM2015 : AURORA AUDIO Factory Tour レポート >>
◉Aurora Audio:AMS NEVEと血を分つ、オールドNEVE正統継承ブランド”>>
Sound Cloudで 試聴
Yamaha Custom Grand Piano. Two U87 microphones
GTQ2 Preamp, GTC2 Compressor, GT4-2 EQ
“False River Air” Written and Performed by Brad Pollak.
High Strung Acoustic, 1977 Guild D-35, Same chain
1976 Martin D-35, U87 Microphone
GTQ2 Preamp, GT4-2 EQ.
OLD NEVEの特長を捉えたバラエティ豊かな現行マイクプリたち
今回はVo素材を使用した比較になったためAURORA AUDIO/GTQ 2が非常にマッチしましたが、ソースが異なれば必要とする1073のキャラクターもまた変化します。1073の魅力である低域の押し出し感、高域の心地良い倍音感、近くに感じられる音像を再現した各社の1073系マイクプリのラインナップをご紹介します!!
◉NEVEらしい低域の押し出し感を求めるならコチラ!!◎
NEVEサウンドならではの音の押し出し感をより強く感じられたのはこの2機種です。高域の倍音感はオリジナルより落ち着いている印象ですが、音の押し出し感は凄まじく、低域の豊かさと距離感をとても近くに感じる音像はBassやDrum Kickなどでの使用に是非オススメしたい逸品です。
CHANDLER LIMITED
LTD-1
¥336,600 (税込)
Chameleon Labs
Model 7602 mk Ⅱ Toneflake Custom
¥313,200 (税込)
◉高域の心地良い倍音感は1073の最たる魅力!!◎
1073の魅力である高域の心地良い倍音感。低域から高域までのバランスの良さを感じたのはこちらの2機種。音のエッジがNEVEらしく立つ様子は印象的でした。Drumのスネアやギター、ヴォーカルなどの中域がメインとなるソロ楽器系によくマッチングするのではないでしょうか!!
AMS NEVE
1073DPD
¥407,400 (税込)
VINTECH AUDIO
X73 + X-PSU bundle
¥346,800 (税込)
◉NEVEのキャラクターを踏まえた驚きのコストパフォーマンス◎
この2機種は他の製品に比べると安価ではありますが決してサウンドが劣っているという印象はありません、1073の特長を捉えた上でコストパフォーマンスに優れたモデルは、キャラクターの異なるマイクプリを追加したい方はもちろん、初めてのマイクプリをお探しの方へ猛烈にオススメします!!
Phoenix Audio
DRS Q4M mk2
¥105,840 (税込)
Golden Age Project
PRE-73 DLX
¥66,960 (税込)
アウトボードの使い分けで得られるレコーディングの醍醐味を!!
このほかにもBAE AUDIOやHeritage Audioなど1073のリプロダクトで有名なメーカーは多数存在します。登場から半世紀も経とうかというにも関わらず、これだけのリプロダクト製品が開発され続けることはそのサウンドが世代を超えて求められていることへの証と言えるでしょう。同じ1073をモデルにしているとはいえメーカーの捉え方も様々、それぞれにキャラクターがあり用途によって使い分けができることは、まさにレコーディングの面白さ、醍醐味でもあります。今回ご紹介した7機種を試されたいという方は店頭にご用意をしております、お気軽に担当阪田・清水までご相談ください!!
Review
2010/08/18
Pro Tools HD、衝撃の新たなるステージへ!HD OMNI HD I/O登場
世界中でデファクト・スタンダードとして導入されるDigital Audio Workstationの代名詞、Pro Tools HD Accelシステムが、登場以来とも言える衝撃の進化を遂げます!
Avid logoをまとった新たなインターフェイスの登場とともに、サウンドのブラッシュアップと多様性を増した柔軟なシステム構築が、さらに自在にできるようになり、LE環境からステップアップできる、小規模での環境にもフィットした導入も可能になっています!
新たなI/Oが造り出す、多様性と進化!HD OMNI HD I/O
HEAT追加のPro Tools 8.1が造り出す、サウンドメイキング!
ROCK ON PROアップグレード・プラン、新たなHDバンドルを含む、先行予約開始!
HD OMNI、HD I/O、HD MADI、HEATの価格が決定!NEW!
先行ご予約、ROCK ON PROアップグレード依頼、各種お問い合せは、下記お問い合わせフォーム、または お電話(03-3477-1776)/FAX(03-3744-1255)メールにてもお待ちしております。営業担当:岡田、梓澤、田端、豊桝までお気軽にどうぞ。
新たなI/Oが造り出す、多様性と進化!
高いコストパフォーマンスと、魅力的なサウンドを誇っていたPro Tools HDのインターフェイスですが、その歳月の流れの中で、満を持しての遂に進化したクオリティーとスペック、高い機能を持った新製品の登場です!
高機能を持ったI/Oの登場!
AVID HD I/O
新たに登場したPro Tools HD I/Oは、シンプルに基本3種類のインターフェイスとなり、その中心となるであろうHD I/Oは、導入するスタジオの規模によって、
HD I/O 8x8x8・・・8 Analog I/O & 8 Digital I/Oを搭載 ¥420,000
HD I/O 16x16 Analog・・・16 Analog I/Oを搭載 ¥525,000
HD I/O 16x16 Digital・・・16 Digital I/Oを搭載 ¥262,500
3種類をニーズによって、自由に選択できるようになっています!
従来の使い方に一番マッチするHD I/Oでは、はじめて単体でのアナログ16in/16outに対応しており、共通して本体に搭載される、アディショナルのデジタルI/Oと相まって、これ迄以上の自由度を備えていると言えるでしょう!
HD I/O 16x16 Analogのバックパネルにあるように、4つのスロットに各モジュールが搭載されているのは従来通りですが、全てのスロットにアナログI/Oを装備する事が実現されています!
今までは、アナログ32IN/OUTを実現するために、3台の192 I/Oと、1枚のDAカード、1枚のADカードが必要だったのですが、新たなHD I/Oの場合、2台を用意すれば32IN/OUTを実現できるのです!これは、大編成での同時録音や、バスアウトにアウトボードを多用する、レコーディング・スタジオでのニーズに、マッチしていると言えます。
さらに、従来は48kHz迄しか対応していなかった本体のADAT I/Oも、SMAX II/IVに対応し、ADATでの192kHz(チャンネル数は減少)デジタル・トランスファーにも対応しました!
HD OMNI
¥315,000
今回、注目度の高いと思われるHD OMNIは、冒頭でも述べた通り、Pro Tools HDシステムの魅力に惹かれるクリエイターの方に最適な内容を持つ、全く新しいアナログ4in/8outのコンパクトなインターフェイスです!
4チャンネル用意されたアナログ・インプットには、2chの高品位なマイクプリアンプと、DIを備えたハイ・インピーダンス仕様のインストゥルメント・インプットも搭載!マイクプリには、インサート端子も用意されており、完璧なレコーディング環境を整える事が出来ます!
7.1chのサラウンド・モニタリングにも対応した、2系統のモニタリング機能を持ち、コンパクトながら様々な現場にフィットする柔軟性をもっているのが魅力的ですね!
しかも、AES/EBUの8チャンネルI/Oも追加で備える他、スタンドアローン・ミキサー機能、Core Audio対応など、まさに柔軟に制作を行いたいクリエイターの希望に沿った製品だと言えるでしょう!
もちろん、Word Clock I/Oの他、Loop Syncも備えており、大規模なシステムの中に組み込む事も、あらゆるデジタル機器とのワードクロックでの同期も完璧になっています。
また、HD OMNIはスタンド・アローンの14 x 26ミキサー機能を搭載しており、Hardware Setupにより、柔軟な制作環境を整える事が出来ます!
ご覧の様に、Input側ではアナログ4ch、ADAT 8ch、AES/EBU or S/PDIF 2chの合計14ch、Output側ではアナログ8ch、ADAT 8ch、AES/EBU 8ch、AES/EBU or S/PDIF 2chの合計26chを、自在にルーティングしておく事が出来るのです。
Hardware Setupのアウトプット側の設定を見ていただければ分かる通り、MainとALTをそれぞれ7.1chまでのサラウンドに設定しておきながら、プルダウンでステレオへの切替えが容易に出来るところも、魅力的な機能と言えるのではないでしょうか?
しかも、独立したモニタリング・コントロールが可能になっている事から、従来まではCentral StationやBig Knob、あるいはMackie等の小型ミキサーをモニタリング・コントローラーとして使用する必要がなくなるのです!これは、Nativeのシステムでは、様々なインターフェイスが実現している事ですが、Pro Tools HDでも、HD OMNIを使用する事でよりコンパクトな制作環境を整える事が出来るのです。
HD I/O、HD OMNI、HD MADIを含めた、I/O Set upの進化!
今までは、他のスタジオで作成されたセッションを開く時に、アウトプットのアサインを変えてあげなければならなかったI/O Setupも、使いやすく変更されました!これは、Pro Tools HD 8.1の機能とも言えますが、やはり、HD OMNI、HD I/O、HD MADIと、新たなインターフェイスをリリースする事によって行われた進化と言えます。
具体的には、上の写真でもあるように、Internal Mix Busはセッション毎に、Output Busはシステムに記録される様になり、自宅で作成したセッションを、ICONシステムで開いた途端に左からしか音が出ない(笑)なんてことを回避する事が出来ます。
意外と地味ですが、重要な変更点と言えるのではないでしょうか?
HD I/O、HD OMNIに搭載された共通のAD/DAの進化による高品位化!
HD I/O、HD OMINIでは、筐体のデザインはもとより、本体に搭載されるAD/DAチップも見直されており(ADがCIRRUS LOGIC、DAにTIが使われているようです)内部のアナログ回路のブラッシュアップも施されています。実は、アナログ回路のパーツや設計が大きくサウンドに影響を及ぼすのですが、ダイナミックレンジ124dbを誇る、そのサウンドの実力に、早く触れてみたいものですね!
下で述べるレイテンシーの軽減はもとより、周波数特性や歪み率も、評価の高い他のAD/DA等と比べても、圧倒的な優秀さを誇る数字を出しており、Butch Vigをはじめとした、著名なエンジニアやミュージシャンが、口を揃えた様にそのサウンドを大絶賛しています。
HD I/O、HD OMNIに関しての、インタビューが聞けるビデオをご覧下さい!
また、HD I/O、HD OMNIには、メインのI/Oの他に、アディショナルのデジタルI/Oが搭載されており、自由度の高い接続を、側面からサポートしています!
ローレイテンシーへの更なる追求!
今回のHDインターフェイスは、サウンドだけでなく、HDシステムのアドバンテージでもある、レーテンシーの軽減にも力が入れられています。
通常のインターフェイスや、AD/DAコンバーターでは、約150~180 sample程度のレーテンシーが発生するのに対し、48kHzで1.2m/sec、192kHzで02m/secという、約80 sample程度の驚異的なレーテンシーを実現しており、ますますHD Systemを使用する意味が出てきそうです。
DigiLinkケーブルも、Core側は変更ありませんが、インターフェイス側はmini DigiLinkという新しいコネクターになっており、ここでも新たな息吹を感じますね!
もちろん、接続方式も従来通りを踏襲しており、違いとしては、新たなI/O同士を繋ぐ際に、mini Digilink-mini Digilinkのケーブルが必要になる事くらいでしょうか?
すでに日本上陸したHD MADIのテスト実機を公開!
近年、多チャンネル&遠隔伝送に威力を発揮する事で、注目を浴びているMADIでの転送を実現したHD MADIも新たに登場!
EuphonixやSSL等のデジタル・システムでも使用される事の多い、MADIシステムを、Pro Tools HDに統合するHD MADIは、最高で64ch/48kHzのデジタルデータを、1本のFibreもしくは同軸ケーブルで伝送する事が可能になっており、HD Card 2枚分のI/Oパワーを要しますが、シンプルで信頼性の高いシステムを構築可能となっており、遠距離をデジタルにて転送できるために、ノイズの要因をシャットアウトすることも可能になっています!
現時点でのニーズのみならず、将来的な拡張をはじめとした多様性を実現しています!
HEAT追加のPro Tools 8.1が造り出す、サウンドメイキング!
新たなI/Oの登場とともに、Ver.8.1となるPro Tools Softwareには、今回から追加可能となる、別売りのミキサー拡張オプションHEATが登場です!
HEATは、その名の通り、真空管やアナログ・ミキサーのサチュレートや色づけを再現する、ミキサープラグインとも言えるもので、なんと、Phoenixを開発したCrane Songが、プログラムに多大な尽力を尽くしているとの事です!
なるほど、そのウォームな質感は、アナログ・モデリングが高い評価を挙げてきている中にあって、究極のアナログ・モデリングかもしれませんね!
プラグインではないHEATですが、ご覧のプルダウンから選択すると、画面右端に専用のウィンドウが表示されるようになります。
右に回すと熱いサチュレーション・サウンド、左に回すとダークなサウンドという風になっているのですが、まさにアナログ・ミキサーの実感を実現しています。
一度使ったら、手放せなくなるオプションだと言うコメントに、自信の程が伺えます!
新規でのPro Tools HD導入の際は、バンドルされるHEATですが、アップグレードの方は、別売りとなっているようです。こちらも、是非、詳細はお問い合せ下さい!
その他にも、VENUEとのコネクトを自在に行えるVENUE Link、新しくなったI/O Setup Window等、こちらも盛りだくさんの内容を誇っていますが、トピックなのは、New DSP Management Preferenceなのではないでしょうか?
これは、DSPのリソースが不足してプラグインの追加が出来なくなったとき、有り余るCPUパワーを利用するように、RTASプラグインに自動的に差し替える(!)というものですが、今迄は手動で行っていたプラグインの管理を、自動でインテリジェンスに行ってくれるのが、なんとも隔世の感を覚えさせますね!
VENUE Linkも、これだけSRの現場でVENUEが使用されてきている事を考えると、もはやPro Toolsとのコネクトの際に、面倒な設定変更があること自体が無駄です!その垣根も、今回のアップデートで解消されたとは言えないでしょうか?
後は、リアルタイムの時間がかかっている、Disk to Bounceが、短時間で完了できるようになるオプションがあれば、もう言う事がなくなってしまうのではないでしょうか?
その他にも、新たなSYNC HD、PREも登場を予定しており、その動向から目が離せませんね!
Avid Logoを纏ったPro Tools HD!
One Avidの名のもとに、より強固なSound & Visionソリューションの構築をはじめていたAvidですが、ついにPro Tools HD Accelシステムにも、そのメスが入った格好でしょうか?
現在でもデジタル・オーディオのプロセッシングを、ストレスなく実行するための最高のシステムとして君臨するPro Tools HD Accelですが、CPUの性能向上が著しい現状、有り余るCPUのパワーを、DSPリソースにプラスして、さらに有効活用する事によって得られるアドバ ンテージは、他のシステムではない、安定性とリアルタイム性、独自性を併せ持っており、オーディオの関わる現場では欠かせない存在となっています。
登場時のPrestoチップをDSPに使ったPro Tools HDから、カード1枚当りのMips値を2倍に増強するAccelチップを採用したPro Tools HD Accel、PCI Expressバスの登場によって登場したPro Tools HD Accel for PCIeと、現場のニーズに応えた進化を遂げてきていますが、なんと行っても今回の目玉は、聖域と化していたインターフェイスの登場になるでしょう!
HD OMNI、HD I/O、HD MADI、HEATの価格が決定!NEW!
皆さんが一番気になっていた事だと思いますが、待望のインターフェイス、HD OMNI、HD I/O、HD MADI、HEATの価格が決定しました!HD I/Oの拡張カードもリリースが決定し、Avid Pro Toolsとして新たな段階に入ったのではないでしょうか?
HD OMNI ¥315,000
HD I/O
HD I/O 8x8x8 ¥420,000
HD I/O 16x16 Analog ¥525,000
HD I/O 16x16 Digital ¥262,500
HD I/O AD Option Card ¥136,500
HD I/O DA Option Card ¥136,500
HD I/O Digital Card ¥105,000
HD MADI ¥525,000
HEAT ¥52,500
新たなHDバンドルを含む、販売開始!
9月下旬頃のリリースを予定している、この魅力的なニュー・カマーですが、初回入荷分の数が限られている事が予想されます。ROCK ON PROでは、HD Coreとのバンドルを含めた先行予約を開始しました!
※192 I/Oをはじめとした旧HDインターフェイスは、順次、生産を完了していく予定ですので、入手困難になる可能性もございます。実際には、どちらのI/Oでも使用可能なので、digidesignロゴの残る旧I/Oをご希望の方も、最後のチャンスです!
New HDインターフェイスとHD Coreとのバンドルセットはこちら!
過去にはなかった、CoreとI/Oのお得なバンドル・セットが登場!新規導入、追加導入の方は注目です!ラインナップは下記の通りです!
Pro Tools HD2 Bundle
HD2 + HD OMNI Bundle ¥1,312,500 約¥150,000のSAVE!
HD2 + HD I/O 8×8x8 Bundle ¥1,417,500 約¥150,000のSAVE!
HD2 + HD I/O 16×16 Analog Bundle ¥1,522,500 約¥150,000のSAVE!
Pro Tools HD3 Bundle
HD3 + HD OMNI Bundle ¥1,575,000 約¥200,000のSAVE!
HD3 + HD I/O 8×8x8 Bundle ¥1,680,000 約¥200,000のSAVE!
HD3 + HD I/O 16×16 Analog Bundle ¥1,785,000 約¥200,000のSAVE!
New HD Interface単体でのご購入を検討の方はこちら!
初回入荷分は、数が少ないことが予想されています。お早めのご予約をお待ちしております!ラインナップは下記の通りです!
HD I/O 8x8x8 ¥420,000
HD I/O 16x16 Analog ¥525,000
HD I/O 16x16 Digital ¥262,500
HD OMNI ¥315,000
HD MADI ¥525,000
その他、Pro Tools HDに関する、各種お問い合せはこちら!
(さらに…)