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前田 洋介

[ROCK ON PRO Product Specialist]レコーディングエンジニア、PAエンジニアの現場経験を活かしプロダクトスペシャリストとして様々な商品のデモンストレーションを行っている。映画音楽などの現場経験から、映像と音声を繋ぐワークフロー運用改善、現場で培った音の感性、実体験に基づく商品説明、技術解説、システム構築を行っている。

RIEDEL Communications @Wuppertal / 世界規模のイベントを支える一大拠点

放送局のインカム、コミュニケーションのシステムとして多くの導入が見られるRIEDEL。以前のProceed MagazineでもF1 鈴鹿グランプリでのRIEDEL社のソリューションの事例をご紹介したが、今回はドイツ、ヴッパータールにあるその本社にお伺いをする機会を得た。インカムの世界的なトップメーカーであるRIEDELの本拠地でシビアな現場の信頼を勝ち得てきた製品はどのように生まれているのだろうか。

世界規模イベントのバックボーンに

RIEDEL本社のあるヴッパータール(Wuppertal)は、ドイツ第4の都市ケルンの北50km,デュッセルドルフの東30km、ドルトムントの南30kmと、大都市に囲まれライン=ルール大都市圏の一部となっている。ドイツの産業革命の中心地の一つとして早くから工業の発達した都市である。この街には、世界最古のモノレールが存在している。100年以上の歴史を持つこのモノレール、残念ながら乗車する機会には恵まれなかったが今でも市民の交通手段として活躍している。

この工業都市であるヴッパータールでRIEDELは1987年に創業。その当初からインターカム、無線トランシーバーを中心に販売を行っていた。現在でも続くモトローラ社との関係は、同社の無線通信機器との関係が深い。同社の一番最初の製品は、この無線トランシーバーとインカムとの接続を実現するインターフェースであった。製品の販売とともに、レンタル事業が同社の中核となり、大規模なイベントなどにチームを派遣してスタッフ間のコミュニケーションなどのバックボーンを支える事業を大規模に展開している。レンタル事業の成長は著しく、1993年にはF1、1994年にはオリンピック、1998年からはFIFAワールドカップ、と世界規模のイベントへの進出を果たしている。これは今日まで続いており前述のF1ではRIEDELなしではその運営が成り立たないというレベルにまで達しているほどだ。

巨大倉庫を経て届くフィードバック

このレンタル事業の現場として、まず見せていたくことができたのが巨大な倉庫!これまでに製造したRIEDEL製品はもちろん、これからレンタルするシステムのキッティング、事前のテスト、必要であればカスタマイズなども行っているということだ。レンタルのカスタマイズとは?という部分だが、例えばヨットレースの世界大会であるアメリカズカップ向けのものであれば、耐海水の対策をすべての製品に対して行うなど、そのクライアントのニーズに応じて対応しており、自社にない製品で簡単なものであれば作ってしまうことまであるそうだ。

レンタルというと、単純に製品を貸し出して返却を受けるというというイメージかも知れないが、RIEDELの行っているレンタル事業は、機材の貸出だけではなくそのオペレート、システムの構築といったところにまでおよぶ。一例としてF1であれば、インカムに加えて国際中継用の動画、音声、走行する車両から送られてくるさまざまなデータ類、ありとあらゆる会場で流れるデータを一元管理している。現場でのデータバックアップはもちろん、世界各地から国際中継のハブとなっているドイツの放送局までの回線もRIEDELの回線だ。ほかにもブンデスリーガ(ドイツのサッカー1部リーグ)の放送用回線も一手に担っている。もはや、レンタルという言葉よりも運営事業という言葉のほうが相応しいレベルである。

このような大規模、小規模問わず世界規模のイベントのバックボーンを支えるためには、相応な規模の倉庫とキッティングスペース、返却された機器のメンテナンススペースも必要となる。レンタル出荷のスペースもこの規模となればもはや物流拠点と呼んでもいいほど。このレンタル事業の現場からのフィードバックはRIEDELの製品開発の強さの秘密でもある。メーカーとユーザーという立場ではなく同じ会社の別部署同士として、リアルなフィードバック、ニーズが世界各地の現場から送られてくる。それを受けて開発された製品は、すなわちユーザーのニーズに即応した魅力的な製品になっているということは容易に想像がつくであろう。

実際に、社内で製品開発、システム開発の部署、レンタル部署は熱い議論を繰り返すことが多いということだ。「こんなことはできないのか?」「こう使ったらどうだ?」「それよりこちらの方がいいぞ!」と密接なコミニュケーションの中からさまざまな製品がまさに「現場の」ために生み出されている。

ブンデスリーガ中継のキーを担う

📷モニタールームはブンデスリーガのモニターを行うセッティングになっていた、ドイツ国内各地20ヶ所ものスタジアムからの回線を一手に担う。

レンタル事業のスペースの一番奥にはモニタールームがある。ちょっとした放送局の副調整室のようなスペースだ。見せていただいた際には、ブンデスリーガのモニターを行うセッティングになっていた。ドイツ国内各地のスタジアムからの回線状況を一手に監視し、その状況を確認、モニターするための施設となる。これを文章で一文にまとめることは簡単なのだが、実際のところを紐解けばRIEDELの自社回線でドイツ国内にある20以上のスタジアムと回線が繋がり、審判のつけるインカムの音声からスタジアムのアンビエントまですべてを聴けるということ。これはなかなか一筋縄ではいかないことである。

カメラ回線も常時4回線以上が各スタジアムから確保されていて、このヴッパータールのサーバーで全回線のバックアップ収録が行われているということだ。また、ドイツではボールや選手がグランドのどこにいるかをセンサーを使って細かくデータとして残している。このデータも同様にRIEDELのサーバーに収まる。ブンデスリーガに対してのレンタル事業とは言うが、ブンデスリーガ中継のバックボーンをすべて担っているとも言える。

そのほかの大規模イベントの際にもこのモニタールームが活用されるということだ。RIEDELでは世界中からの回線を強固なものにするためのネットワーク事業部が立ち上げられている。ヨーロッパを中心に世界中にそのアクセスポイントを設置するまでに至っており、基幹となる回線は100GbE、それ以外は10gbEで世界中を結んでいるということだ。

製品開発の分野にも目を向けてみよう。インカム、トランシーバーからスタートしたRIEDELは、インカムのマトリクス接続を実現したArtistシリーズを2000年にリリース。そして映像や音声をIP伝送するMediornetを2009年に登場させた。このMediornetが先にも紹介したような映像、音声、インカム、GPIOなどすべての会場を飛び交うデータ、情報通信を束ねる中核となっている。IP伝送技術の進化とともに取り扱いができる回線数は増加し、その機能も向上を続けている。製品に関しての開発コンセプトは、前述の通りでレンタル事業部からのフィードバックが大きなヒントを与えてくれている。

📷自然と共生した広大な敷地に建物が並ぶ、まさに一大拠点呼べる規模。エントランスのトロフィーからはF1から宇宙までRIEDEL製品が活躍する幅広い分野が感じとれる。

オープンな環境のオフィスに

各部署のコニュニケーション、風通しを良くするオープンな環境のオフィス。役職に関係なくフラットなスペースとしているようで、CEOが普段使用しているのは扉も壁もないデスクだそうだ。すっかりオフィスに馴染んでいたのだが、天井には懸垂用のバー(!)がある、これが筋トレ好きなCEOのために用意された唯一特別な設備だそうだ。

📷広々としたオフィスに企業カラーの赤が映える。フラットな仕切りのオフィスには社員同士がコミュニケーションできる仕掛けがふんだんに盛り込まれている。右写真が件の懸垂バー(!)。

ここからは写真撮影がNGになってしまったのだが、設計部署、メンテナンス、検証部署が並び、テスト用の機材や、サーバールームなど機械類がズラリ。検証に関しては、最大負荷をかけてのランニングテストを日頃から行っており、バグチェックなど、どのような大規模な現場からのトラブル報告に対しても実機検証が行えるよう、2000回線以上の映像、インカムを常に飛ばせるようなセットアップが行われている。大規模な現場で生じた予期せぬバグに対してもすぐに対処できる準備が整っているということだ。これは、現場に出ているスタッフも心強いことだろう。その後、最終の組み立て工場も見せていただいたのだが、最後の組み立てはすべて手作業。1台ずつ全数検査を行ってからの箱詰め作業が行われていた。箱から出してすぐに現場に投入されることが多い同社の製品。このようにしっかりと検査が行われていることに安心感を覚える。


世界中の現場で実際に使われるRIEDEL製品、その上で出てくるニーズ、次の世代への効率的な運用、そういったことがすべて詰まったソリューションがここにはある。国内では、まだまだインカムの利用がメインではあるが、Artist以降の製品であればMediornetとの連携も可能。RIEDELのソリューションをすべて活用した実例は興味深いものとなる、これからも様々な形でお届けしたい。また、RIEDELはIP伝送の分野で老舗とも言える存在、今もなお進化を続ける世界のトップランナーである。国内におけるIP伝送でもそのテクノロジーの活用が一層進むことに期待をしたい。


 

*ProceedMagazine2023-2024号より転載

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*記事中に掲載されている情報は2024年01月16日時点のものです。