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嶋田 直登
[ROCK ON PRO Product Specialist Team / Assistant]2019年4月入社。IT/音響心理学/マルチメディアの基礎知識をベースにProduct Specialist Teamのサポート業務を行なっている。好きなものはリズムマシンとカレーライス。こう見えて実は、泣く子も黙る九州男児。
TOA ME-50FS 〜完全アナログ設計・妥協無きこだわりが実現する驚異の原音忠実・ハイファイサウンド〜
1934年創業、国内の非常用放送設備や業務用放送設備にて圧倒的なシェアを誇る老舗音響機器メーカーTOA。商業施設の天井埋込スピーカーや公共交通機関など、街中いたるところでそのロゴを見かける機会も多いだろう。そのTOAが、音楽制作を目的とした、プロフェッショナル向けのモニタースピーカーを開発しているのを皆さまはご存知だろうか。
ご存知という方の中には、昨年のInter BEE 2022で実物を試聴されたという方もいるかもしれないが、その出音を初めて聴いた時の印象は多くの人にとって衝撃的な体験となるだろう。昨今多種多様なモニタースピーカーが存在する中で、ひときわ異彩を放ち、驚異的な原音忠実再生能力を誇るのがこのTOA ME-50FSだ。
このME-50FSは、2018年のInter BEEで展示されていたアコースティックモニタースピーカー Q-ME-50proの後継機種にあたり、プロ向けのモニタースピーカーとしてブラッシュアップされたものだ。とくにアナログ回路の設計をはじめ細部までとことん理想を追求し、特徴的なユニットの配置からバスレフポートの形状その他諸々、その設計の全てにおいて一切の妥協を許さずに開発されたという。
◎ME-50FS (公式サイト)
https://www.toa-products.com/solution/ME50FS
実際に試聴をしてみると、どこまでもフラットな周波数特性ながらも、サイズからは想像できない力強いサウンド、あまりの音の生々しさに、思わず再生している音が録音された環境を思い浮かべずにはいられない。
大抵のスピーカーは、再生している音楽のジャンルによって多少なりとも得意不得意はあるものだが、このME-50FSは本当にジャンルを選ばない。ポップス、ロック、ジャズ、クラシック、EDM、歌もの、インスト、古き良き時代の楽曲から周波数レンジが広い流行りの楽曲まで、こちらが求めるレスポンスをあまりにも的確に返してくれるので、つい、あれもこれもと試聴したくなってしまう。何度も聞いた楽曲でも、新たな発見を与えてくれるスピーカーというのは、エンジニアにとってこの上なく心強い味方となるに違いない。
これだけ多種多様なジャンルの音への適応能力があるということは、裏を返せば、このスピーカーが原音にいかに忠実であるかということの裏付けであると言えるだろう。一般に、音を”意図的に作っている”印象が強いスピーカーというのは、往々にしてサウンドの得意不得意が顕著になりやすい。一方、このME-50FSはスピーカー自体の”癖”というものが全くもって感じられないため、スピーカーを通り越して、録音環境を想像してしまう、という訳だ。
完全アナログ設計・妥協無きこだわりが実現する驚異の原音忠実・ハイファイサウンド。その裏側で、具体的にはどのような工夫がなされているのだろうか。その一部を紐解いてみたい。
スピーカーユニットは、10cmのウーファーが2つと25mmのマグネシウムツイーター1つで構成されている。
一般的に位相の良いスピーカーというと、ウーハーとツイーターを1つのユニットに収めた同軸スピーカーを思い浮かべる方も多いかもしれない。しかし、同軸構造だと、確かに理想的な点音源には近づくものの、異なる周波数を発するユニットを1つに収める以上、それぞれが発する振動の影響など、避けられないトレードオフが発生してしまう側面もあるという。
その問題を解決するため、ME-50FSは2台のウーハーとツイーターを可能な限り近接した配置とし、各ユニットの使用帯域を剛ピストンモーション領域に限定。さらに、クロスオーバー周波数を1600Hzと下げることで、定位と位相を理想的なフルレンジに近づけることに成功している。3つのユニットの中心から等距離となる点(各ユニットの中心に内接する円の中心)が音響中心点となる格好だ。
エンクロージャには、それぞれ直方体のボックスがスピコンケーブルで接続されている。一見、電源ユニットかと勘違いしてしまうかもしれないが、ME-50FSはアクティブスピーカーであり、電源ユニットはパワーアンプ部と一体でスピーカーのエンクロージャー内に収められている。
では、このボックスは一体何のためにあるのかというと、実はこの中で、パッシブアナログ回路での低域共振補正とインピーダンス補正が行われている。たとえ理想的な筐体を設計したとしても、必ず生じてしまうこの副産物を、ここで補正することによってようやくその真価が発揮されている。
ここで言う低域共振とは、スピーカーユニットとキャビネット内の空気の間で発生する共鳴現象によって引き起こされ、特定の周波数に対して共振しやすい特性を持っている。特定帯域の音に癖が付いたり、位相ずれが生じたりする原因となるため、適切に補正を行う必要がある。
一方、インピーダンスは、個別のスピーカーユニット、コイルやコンデンサといったパーツに起因するもので、周波数によって変動が生じる。こうした変動は、当然ながら最終的な周波数特性に影響を与え、音質や位相特性に悪影響をもたらしてしまうことがあるため、低域共振同様に補正が必要なものである。
最近では、内蔵のDSP回路で補正を行うタイプのスピーカーも多く存在するが、それらを全てアナログのパッシブ回路で行ない、更にアンプ側から見た負荷条件まで踏み込んで対策しているのがこのスピーカーのこだわりだ。
一般的なデジタル信号処理の利点として、ノイズに強くなることや大量生産時のコストを下げられることなどが挙げられるが、その分必ずA/D変換、D/A変換を通ることになり、レイテンシーが生じたり、量子化誤差により原音と差異が生じたりする原因となりうる。また、DSPでは、当然のことだがアンプとスピーカー間の負荷条件の改善まで行うことは不可能だ。
一方、全ての処理をアナログ領域で行うことで、一台一台の製作に手間暇はかかるものの、原理上遅延のない正しい時間軸での連続波による処理が可能となり、また、サンプリングレートに制約されない高域〜超高域の再生を実現、アンプとスピーカーの関係まで含めた改善が可能となる。まさにこの外付けボックスこそが、フルアナログにこだわったME-50FSの心臓部であり、その驚異的な原音忠実サウンドを可能にしているのだ。
ウーファーは10cmのユニット2つが担っているが、このサイズのユニットから再生されているとはにわかに信じがたい、クリアかつパワフルな低域が出力される。再生しながら、横からスピーカーを見てみると、ユニットが前後に大きくピストンモーションしていて、音量のダイナミクスに合わせて切れ味の鋭いレスポンスを見せていることからも、そのダンピングファクターの高さがうかがえる。
また、個性的な三角形のバスレフポートはエンクロージャと同じバーチ合板が用いられており、一般的な樹脂製筒形のバスレフポートと比べ、強度の向上が図られている。これによりポート自体が振動してしまう現象、”鳴き”が抑制され、そこに並行面を持たない構造も相まって、ポート自体から発せられるノイズ低減を実現している。
※スペック情報は下記URL「資料・ダウンロード」欄に必要情報入力後ダウンロード可能です。
◎PROFESSIONAL MONITOR SPEAKER ME-50FS
https://www.toa-products.com/solution/ME50FS
現在Rock oN Company渋谷ではME-50FSの試聴を行うことが可能です。店頭での試聴をご希望の方は下記URLよりご予約をお願いいたします。
https://www.miroc.co.jp/news/antenna-shibuya/lets-ask-rock-on/
※試聴期間終了日は未定です。必ずご予約時にご確認をいただきますようお願い申し上げます。