Shibuya 03-3477-1776
Umeda 06-6131-3078

Headline

3D Audio
2021/08/19

Dolby Atmos 関連情報 ~ Avid Blog

ここ数年で、Netflix、Amazon、Appleなど、新世代のメディアプラットフォームの旗手が続々と Dolby Atmos 対応を表明し、ユーザーがイマーシブ/空間オーディオを体験する機会は今後も増えていくと予想されます。 Avid Blog には、Pro Tools を使用した環境に限らず、Dolby Atmos 制作にかかわる数多くのノウハウや事例が掲載されています。 これから Dolby Atmos 制作に挑戦したいと考えている方、イマーシブオーディオに関する知見をより深めたいエンジニアのみなさま、ご自身の音楽を Dolby Atmos フォーマットで発表したいと考えているミュージシャンの方々など、どのような方にも参考になりそうな内容ですので、こちらの記事で一気に紹介させていただきます。 Dolby Atmos Music 関連の最新記事 AvidPlayで Dolby Atmos® Music を配信する方法(Apple Music編) インディーズ系アーティスト/バンドやプロダクションが、AvidPlay を使って Apple Music の空間オーディオでコンテンツ配信する方法を、具体的に解説しています。 Dolby Atmos Musicでミックスするためのヒントとトリック Dolby Atmos Music をバイノーラルミックスする際のノウハウを、22項目に渡って解説しています。Dolby Atmos でのスピーカー・ミックスに関して、一定以上の知識/経験のある方がバイノーラル・ミックスに挑戦する場合に有効な、少し上級者向けの内容となっています。 まとめページ、動画再生リストなど Avid Web: Dolby Atmos Music関連情報ランディング・ページ Dolby Atmos Music 制作のためのAvid ソリューションなどを紹介しているページです。 Pro Tools | Ultimate - Dolby Atmosミキシング関連ビデオ Pro Tools | Ultimate で Dolby Atmos 制作を行う際の基本的なワークフローを解説しています。設定からデリバリーまで、実際の画面を見ながら確認できます。 Dolby Atmos Music トライアル・パッケージ 無償ダウンロード こちらの記事でも紹介した、Pro Tools | Ultimate と Dolby Atmos Renderer の無償トライアルパッケージです。 その他、Dolby Atmos 関連ブログ グラミー賞受賞者 ダレル・ソープのイマーシブミュージック・ミキシングに関する3つのポイント ヘッドフォンを使用してDolby Atmos Mixを作成する Netflix :オリジナル作品「Sol Levante」のDolby Atmos Pro Toolsセッション・ファイルを無償公開! Sound That Moves – イマーシブ・オーディオ・プロダクション統合ワークフローの解説 AvidPlayで Dolby Atmos® Music を配信する方法 Dolby Atmos® Music のミキシング体験とAvidPlayでの配信 Dolby Atmosの中核となるPro Toolsインターフェース あなたにとって、最適なDolby Atmos® ソフトウェアとは? Pro Tools | UltimateとMTRXでDolby Atmos Homeファイナル・ミックス・ステージを構築提案! Pro Tools | Ultimateによる Dolby Atmos 制作フローの概要 ROCK ON PRO では、お客様のご要望に合わせた最適なシステム提案をさせていただいております。ご相談・ご質問は、ぜひ下記 contact ボタンよりお気軽にお問い合わせください。
Review
2021/08/18

鹿児島-東京-和歌山がつながる、多拠点連続配信 〜鹿児島ジャズフェスティバルの挑戦!〜

予定調和を拒み、瞬間の閃きに命を賭ける…ジャズという音楽が持つこのリアルを伝えたいという思いで2017年にはじまった「鹿児島ジャズフェスティバル」。毎年順調に来場者数を伸ばしてきたこのイベントも、2020年からのコロナ禍の影響で例年通りの開催を断念せざるを得なかった。「それでもできることはあるはず」という実行委員長 松本氏が取った選択は、異例とも言える多拠点連続配信!ひとつのYouTube ページで鹿児島・東京・和歌山と配信元を切り替えながら連続配信を実施し、全国的に移動が制限された中で大型音楽イベントを成功させた「鹿児島ジャズフェスティバル2020オンライン」の挑戦を取材した。 ●鹿児島ジャズフェスティバル 鹿児島ジャズフェスティバル 公式HP 鹿児島ジャズフェスティバル2020オンライン 1st Day 鹿児島ジャズフェスティバル2020オンライン 2nd Day ピアニスト松本 圭使 氏が主体となって2017年より実施されていている鹿児島ジャズフェスティバル(通称:かごジャズ)は、ジャズという音楽の最大の特徴でもある"その時・その瞬間に生まれる音楽"という魅力を凝縮した形で届けたいという想いから生まれたジャズフェスティバル。そのため、ジャズシーンの第一線で活躍するアーティストたちを招聘しながらも、すでにマーケットされたグループ単位ではなく個人単位での出演をオファーしていることが最大の特徴だ。 各アーティストは期間中いくつかのステージに出演するが、その際の組み合わせも実行委員が考案し、毎回異なるメンバーによる演奏となるよう工夫がされている。オーディエンスはさまざまな組み合わせの演奏を楽しむことができ、アーティスト同士の出会いの場としても機能しているが、こうした手法を取る最大の目的はジャズミュージシャンの普段の活動をより身近に体験してほしい、ということにある。 海外からの招聘アーティストについても、みずからのグループによる出演だけでなく、国内のアーティストと共演してもらうステージを構成するなど、クラブギグに近いコンセプトのプログラムはまさに「毎晩違うハコに行って、毎晩違うメンバーと演奏する」というジャズミュージシャンの基本的な生活により近いものと言えるだろう。初年度は16,000人、2018年が31,000人、2019年が67,000人と動員も倍々で増加しており2020年も3月までは例年通り実施する予定だったが、コロナ禍とそれに伴う緊急事態宣言の影響により、2020年度はYouTube Liveを使用したオンラインでの開催となった。 ジャズのリアルを身近に ROCK ON PRO(以下、R):本日はお忙しい中にありがとうございます。はじめに、鹿児島ジャズフェスティバル全体のコンセプトをお聞かせいただけますでしょうか。 松本:鹿児島ジャズフェスティバルは「リアルなジャズを濃縮したようなフェスをやりたい」という思いで2017年に立ち上げました。そのため、グループとしてすでに出来上がったサウンドを聴いてもらうのではなく、ステージ上で「はじめまして」「で、(曲は)何やります?」というところからお客さんに観ていただいく形でやっています。その方が、アーティストを身近に感じてもらえるんじゃないかと思って。 R:実際に、本当に「はじめまして」の組み合わせもありましたね。 松本:はい。アーティスト同士の出会いの場としても機能させたいという気持ちもあります。それまで共演したことがなかった人たちが、鹿児島ジャズフェスティバルをきっかけに共演しはじめたという例もいくつかあります。 R:動員規模も年々大きくなっていった中で、新型コロナウイルスの影響はどの時点からあったのでしょうか。 松本:2020年も、3月までは例年通り実施する予定でした。概要の冊子を作ったり、協賛していただくみなさまを招いてのパーティなども実施していたのですが、新型コロナウイルスの影響が大きくなったことで、例年通りの形での実施はするべきではないと判断しました。ぼく自身もアルコールスプレーを持ち歩いていて「スプレー男」とか呼ばれるくらい(笑)感染には気をつけていましたし、少なくとも鹿児島県内では感染に対する危機感は当初から非常に高かったこともあります。 R:2020年度はすべてYouTube Liveによるオンラインでの実施となりました。こうした形での開催、そもそも、開催するという決断に至った経緯をお伺いできますでしょうか。 松本:5月頃には中止も考えたのですが、当時、多くの音楽イベントが配信という形で行われているのを見て、「こうした形ならやれるんじゃないか」と思ったんです。ライブを観たくても観れないというストレスを自分自身も感じる中、鹿児島ジャズフェスティバルなら、たとえ配信になってもジャズの本質を大事にした形でみなさんに楽しんでもらえるフェスができるんじゃないかと思いまして「よし、やるぞ!」と(笑)。そこから、どうやったら面白いものにできるかということを考えていった結果、「さまざまなアーティストがさまざまな組み合わせで出演する」という、これまでの鹿児島ジャズフェスティバルの形を踏襲した上で実施するのがよいのではないかということになりました。すると、まず会場は鹿児島と東京の2箇所が必要だということになります。 R:鹿児島と東京にいるアーティストがリアルタイムでセッションするのをライブ配信する、という珍しいステージもありました。 松本:ひとつのYouTube Liveのページで2会場が切り替わりながら配信するというだけでもほとんど前例がなかったように思いますが、さらにSYNCROOMを使ったコラボステージを組み合わせたらもっと面白いことができるんじゃないかと思って。当時、ぼくは夜な夜なSYNCROOMを使って遊んでたんですが(笑)、これを使ったら離れた会場でのコラボ演奏もいけるんじゃないか、と。それで「東京ステージ」「鹿児島ステージ」「つながるステージ」という3つを柱にしたプログラムを組むことにしました。 手探りで作り上げた3拠点から連続配信 R:配信元を切り替えながら連続配信するという点、そして、2会場間でセッションしている様子を配信するという点がユニークだったと感じています。これはどのように行なっていたのでしょうか。 松本:鹿児島ステージは鹿児島、東京ステージは東京から配信していました。つながるステージは和歌山のティースペック橋本さんのところから配信しました。ですので、3つの拠点からのストリームをひとつのページで配信していた形になります。 R:これらを実現するための機材や運用のシステムはどなたが設計されたのでしょうか。 松本:機材については各会場の方々にお任せしました。連続配信しながら2会場を切り替える方法については、ぼくが思いつきで実験していた方法を使用しています。例えば、鹿児島会場のバックアップストリームに東京会場からの映像を流し、時間が来たら鹿児島会場のメインストリームを落とすんです。すると、バックアップに流れている東京会場からの映像に切り替わる、というかなり危なっかしいやり方です(笑)。技術屋さんなら絶対に採用しない方法ですね(笑)。本番中はずっと電話でやりとりしながら、各会場の配信ストリームを流したり止めたりしてました。 野井倉:当時はライブ配信の技術というものが方法論として確立していなかったので、トライ&エラーを繰り返しながら段階的に組み立てていきました。東京会場からのストリームをいったん鹿児島に送ってもらって、配信元を鹿児島1本にするというやり方も最初に試しました。ただ、東京からも同じチャンネルに配信できるなら、それがいいんじゃないか、と。であれば、つながるステージに関しては橋本さんという遠隔セッションに関するプロフェッショナルの方がいらっしゃるのだから、そこできれいにまとめてもらって和歌山から配信するのがいいだろうということになりました。 松本:つながるステージに関しては、8月に実験的に一度やってみたんです。その時は、東京からの信号をいったん鹿児島に送ってもらって鹿児島が配信元になる形でした。実際にやってみると、東京からの信号を受けて、鹿児島側にディレイを入れて、その上でリップシンクを取って…結構しんどいね!ってことになって(笑)。そんな時に、友人のギタリストで今回東京会場のディレクターもお願いした松原慶史さんから、ティースペック橋本さんを紹介してもらったんです。 橋本:ちょうど中間地点ですし(笑) 松本:ライブ配信については、ぼくも野井倉さんも、コロナ禍がはじまった頃からぞれぞれ個人的にその可能性を探っていた状況でした。先述の松原さんが以前からYouTube配信を積極的におこなっていたので、彼からたくさんのことを教えてもらいました。バックアップストリームを使って配信元を切り替えるという方法も、彼に夜な夜な付き合ってもらって(笑) 野井倉:前例もほとんどなかったので、6月くらいから私と松本さんで毎週さまざまな設定を実際に試しながら、映像と音声のクオリティを追い込んでいきましたね。 3拠点を結ぶ各会場のシステム R:各会場ではどのようなシステムで配信をおこなっていたのでしょう。 野井倉:私のところ(鹿児島会場となったCAPARVOホール)はライブハウスなので、ステージに関しては通常のPA/SRシステムです。卓の2MixをPro Toolsに入れてリアルタイムでマスタリングしたものをOBSから配信しました。つながるステージではPro Toolsを挟むとレイテンシーが増えるので、配信用には卓のアウトを直接SYNCROOMで橋本さんのところへ送っています。鹿児島ステージの時はモニターには通常のころがしを使いましたが、つながるステージではキューボックスを入れてイヤーモニターしてもらいましたね。 松本:配信システムはDelquiが所有しているものを使用しました。マシンはMacbook Pro 16" i9 8コア メモリ64GB で、ハードウェアエンコーダーを使用するのがミソです。 R:東京会場は、鹿児島との大きな違いはレコーディングに近い環境を構築したことにあると思います。 吉川:東京会場は、ぼくが普段マスタリングで使用している機材などをすべて持ち込んでの配信でした。RCA 44-BXとかU 49、U 47とか持って行ったんで、いわゆる配信ではあまり見ない構成だったかも知れません。モニターも、転がしを使わずにヘッドホンでモニターしてもらいました。デジタルでの処理は一切おこなわず、卓のアウトをすべてアウトボードでマスタリングして、それをスイッチャーに入れてました。遅延はOBSで合わせてましたね。 R:デジタルを使用しなかったのは遅延を回避するためでしょうか。 吉川:というか、どのプラグインが何ms遅れるとか、そこまで詳しくは把握してなかったのと、ソフトを使っちゃうと、本番中に予期せず止まったりしたら怖いなと思って。アナログで完結させようと思ったんです。 R:つながるステージの時はどうでしたでしょうか。 吉川:つながるステージでは、SYNCROOMを使うためにPro Tools HDXシステムを使用しました。それまでSYNCROOMを使った経験があまりなかったので、使い慣れているHDXでキューなどを作りたかったんです。Blue Cats PatchWorksを使って、Pro ToolsにSYNCROOMをプラグインとして立ち上げてました。 R:映像はどのようになっていたのでしょうか。 松本:鹿児島ステージでは2台のスイッチャーを連結して、11台のカメラを使用しました。 野井倉:カメラは機種を合わせることができなかったので、色味を合わるのが大変でした。 松本:カメラはカメラマンさんに持ち寄ってもらったので、機種を揃えられなかったんです。東京はBlackmgic Design Pocket Cinema Camera 4Kを11台揃えていたので、鹿児島の映像関係の方々は「負けるもんか!」と燃えてましたね(笑) R:スイッチャーは何を使用されましたか? 野井倉:Roland V-60HDです。鹿児島ジャズフェスティバル自体が以前からRolandにサポートを受けている関係で、スイッチャーなどの一部の映像関係機器はRolandからお借りしました。カメラとPro ToolsのアウトをV-60HDに入れて、V-60HDのアウトをOBSに入れているという流れです。 吉川:東京は、映像関係はBlackmagic Designで揃えました。 R:つながるステージはどのような構成で配信していたのでしょうか。 橋本:鹿児島と東京からZOOMを受けるためのPCが各1台、計2台あり、SYNCROOMのためのPCが1台、ミキサーとしてWAVES LV-1、こちらだけOBSではなくWirecastでした。Wirecastの手前でZOOMの出力をATEM Mini Proに入れて、鹿児島か東京かを選ぶ、と。リップシンクはWirecast側でやってます。今回は、私のところでは音作りのようなことはしませんでした。当日は鹿児島と東京からまとまった音が来てたので、バランスだけこちらでフィックスしてそのままふたつを混ぜて送り出すと。もちろん、トータルのレベル管理とかはしてましたけど、リハーサルの段階でレベルはほとんどフィックスしてます。送り出しのレベルを「もう少し上がりますか、下がりますか」みたいな感じで確認しながら、本番中にどうしてもと感じた時だけ数dB触るか触らないかくらいの感じでミックスしてました。 R:SYNCROOMを使用する上でポイントとなるようなものはあるのでしょうか。 橋本:SYNCROOMはP to P接続なんです。今回は3箇所だったので、鹿児島-東京、鹿児島-和歌山、和歌山-東京、と、それぞれ別々の回線でつながっていました。そういう仕組みなので、音質も遅延もそれぞれの環境によって変わってくるんですね。すると、いま自分が聴いている2会場の音が本来のタイミングかどうかはわからないんですよ。鹿児島と東京から私のところに来ている音のタイミングがずれていても、鹿児島-東京間では合ってる可能性があるわけです。そうしたところもリハーサルの際に確認して、明らかにずれている時はこちらでディレイを調整します。 R:LV-1はSoundGrid Serverを使用した低遅延のプロセッシングが特徴ですが、今回は2系統のステレオを1系統にミックスしただけだったのでしょうか。 橋本:今回はそうでした。普段はわんさかプラグインを使いますよ(笑)。160ms分くらい使いますね。ZOOMだと私のとこには映像が300msくらい遅れてくるんです。だから、もっとプラグインを使っても大丈夫なんですが(笑)。 R:配信ソフトは普段からWirecastなのでしょうか。 橋本:そうです。私のところは多点配信が多いんです。それも、YouTube、Facebook、オリジナルサイト、などバラバラなんですよ。どこかひとつに不具合があった時、OBSだと全員止める必要があるんです。それが、Wirecastだとひとつずつ出したり止めたりできるんです。各信号ごとに解像度も変えられますし。Wirecastである理由はその一点だけです。少なくとも、私がWirecastを使い始めた当時のOBSではそれができなかったんですよ。 鹿児島ステージ 鹿児島ステージのオペレーション責任者は、鹿児島ジャズフェスティバル実行委員 でもありサウンドエンジニアでもある SRPlanning 代表取締役 野井倉 博史 氏が 担った。会場となった CAPARVO HALL は同じく野井倉氏が代表取締役を務め る有限会社 SR Factory が経営するライブハウスのため、マイクやモニタースピー カーなどのステージ周辺機器は常設の PA システムを使用している。普段のライ ブと同じ環境で演奏できたことは、アーティストからも好評だったようだ。 インタビューでも触れられている通り、FOH のメインアウトを別室にある Pro Tools HDX システムに入力し、配信のための整音 / マスタリングをリアルタイ ムにおこないながらの配信となった。FOH ミキサーは Roland M-5000。音作りはミキサーで行い、Pro Tools で は段階的に複数のプラグインを使用して YouTube Live に適した音に整えてい く。SYNCROOM を使用しておこなったつながるステージではレイテンシー の増加を抑えるために Pro Tools システムを通さず、M-5000 の2系統目のモニターアウトを直接 SYNCROOM に入力した。Pro Tools のアウトはビデオスイッチャー Roland V-60HD に送られ、ここでカメラの信号と同期を取ったあとで配信用 MacBook Pro に流し込まれる。MacBook Pro は松本 氏が所属する株式会社 delqui が所 有しているものを使用し、OBS から配信をおこなった。8 コア CPU、64GB メモ リを搭載したハイパワーマシンだが、CPU への負担を最小限にするためにハード ウェア・エンコード機能を使用したという。 和歌山:つながるステージ 鹿児島・東京の各会場にいるアーティスト同士がリモートセッションする様子をライブ配信したつながるステージ。このプログラムは和歌山にある有限会社 ティースペックのスタジオから配信され、システム設計とオペレーションは同社 代表取締役でライブPAエンジニア・遠隔セッションエンジニアでもある橋本 敏邦 氏が担った。氏は以前から遠隔セッションを業務として請け負っており、つながるセッションではそうした氏の豊富なノウハウと磐石なシステムがいかんなく生かされたと言えるだろう。このリモートセッションはオーディオ部分をYAMAHA SYNCROOM、映像はZOOMミーティングを使用することで実現している。SYNCROOMはPtoP接続となるため、リアルタイムセッションのために鹿児島-東京をつなぎ、配信用には別途、鹿児島と東京がそれぞれ和歌山と個別に接続した。 各会場からの音声はSYNCROOM用PCからDanteでWAVES LV-1に入れられ、そこでミックスされる。映像付きの遠隔セッションの場合、映像が音声に対して300msほど遅れて到達するため、大量のプラグインを使用しても遅延が問題になるケースはほとんどない。そのため、普段の配信業務ではLV-1で音作りをおこなうそうだが、今回は各会場からすでに処理が施された音声を受けていたため、レベル合わせと映像と同期させるためのディレイを入れるにとどまっている。ビデオスイッチャーはATEM Mini Pro、映像も各会場でスイッチングが施された信号が送られ、鹿児島にいる松本氏と連絡を取りながら和歌山で2会場からの映像をスイッチングしていた。 映像と音声はそれぞれ配信PCに送られるが、配信用アプリケーションにはWirecastが使用され、映像と音声の同期はWirecastで取る形を取った。有限会社 ティースペックではLive device事業部として業務用機器の開発・販売もおこなっており、橋本氏の配信システムではPCはすべてLive deviceオリジナルのものが使用されている。 東京ステージ 東京ステージのオペレーション責任者はSTUDIO Dede オーナーでレコーディング/マスタリングエンジニアの吉川 昭仁 氏。同スタジオはジャズミュージシャンなら知らぬ者などいない、国内でも最高峰のレコーディング/マスタリングスタジオのひとつだ。 そのため、東京ステージのシステムは鹿児島ステージとは打って変わって、スタジオレコーディングのような構成が特徴的。マイクはU-47、U-49、44-BXなどが並び、アーティストのモニターはヘッドホンを使用している。東京ステージの会場には外部のレンタルスペースが使用されたため、STUDIO Dedeの機材をそのまま持ち込んだ格好だ。デジタルドメインでの不意のトラブルを避けるため、アウトボードも多数持ち込まれ、東京ステージ単独での配信にはデジタル処理は一切おこなわれていない。対して、つながるステージ配信時にはモニターミックスを作るためにPro Tools HDXシステムを使用した。プラグインチェイナーであるBlue Cat PatchWorksを介して、VST連携モードのSYNCROOMにオーディオを入力するためだけに使用され、プロセッシングやトリートメントは東京ステージと同様アナログドメインで施している。 もともと実行委員会がある鹿児島会場に対して東京会場は人手が少なく、カメラマンを除くすべての作業をたった3人の人員で受け持っていたという。配信用のミックスはもちろん、キューミックスや映像のスイッチングまで、オペレーション関連は吉川氏がひとりで請け負った。 「配信」に最適化されたサウンドの探究 R:音質向上のために施した工夫などはありましたか? 野井倉:6月くらいから配信をやっていて思ったのが、ダイナミクスレンジが広い状態で送っちゃうと非常に聴きづらくなるんです。アーカイブになったものを聴く分にはまだいいんですけど、リアルタイムで聴く時には、卓のアウトをそのまま送っただけだとMCが聞こえないとか、曲によってはピークが叩かれて全体的にレベルが落ちちゃうとかがあって。マスタリングして出さなきゃダメだね、って結論に達したのが6月〜7月だったんですね。そこから本番の9月までの間に、レベル管理や実際にYouTubeで聴いた時の傾向も含めて、配信用の整音プリセットをPro Toolsで作っていきました。 R:EQやリミッターを使用しているのでしょうか? 野井倉:インプット段でEQを使ってますが、80Hz以下は結構切ってますし、上の方は逆に4kHzくらいからちょっと伸ばし気味にしてます。レコーディングだと8kHz〜10kHzを上げるとエアー感として残ってくるんですけど、配信だとまったく残らないです(笑)。なので、わりと下の方から持ち上げてたりしますね。そのあとはマスターのアウトプット段で掛けてます。補正用のEQが一発、その後がWAVESのCLA MixDown、L2、SSL G-Master Buss Compressorが掛かっている状態です。ミキサーで既に処理が掛かってますので、Pro Toolsでは1回でガツンと掛けるのではなく3段階に分けてちょっとずつなめしていく感じです。 R:東京側はいかがでしたでしょう。 吉川:主要楽器のマイクプリにNeveとAmpexを使ったことと、マスタリング用途として、レベルを上げるものと止めるものというのを使った程度ですかね。LA-2やSSLバスコンプ、LavryのソフトサチュレーターやMTPリミッターなど、普段マスタリングでやってることの初段と最終段をやったって感じです。全部ハードウェアで、プラグインは一切使いませんでした。 R:つながるステージはどうでしたでしょうか。 橋本:インターネット回線を通してくると、どうしてもS/Nが悪くなるんです。なので、各会場からSYNCROOMに送っていただくレベルをちょうどいいところにしてもらえるようにお願いしていました。普段だと必ずノイズサプレッサーを入れるんですが、今回は各会場でしっかり作られた音が来ていたのでなるべく触らず、そのまま混ぜて出した感じです。 トラブルもまた"ジャズ"らしさ!? R:ここは苦労したとか、やってみたら思ったようにいかなかった、といったポイントがあれば伺えますか。 野井倉:回線速度ですね。本番中にルーター再起動までかけました。鹿児島はやっぱり東京とくらべるとインフラが弱い。とにかく回線が安定しない。リハーサルの時はよかったけど、本番の時間帯には安定しなかった。そうした影響が極端に出ましたね。 松本:そういう意味では、配信元を分けたのは結果的によかったです。 野井倉:結局、フィナーレのつながるステージは構成を変えましたよね? 松本:もともとはリズムセクションは鹿児島のメンバーが乗って、フロントは東京からという予定だったのですが、鹿児島のSYNCROOMが調子悪くなったんです。リズムセクションが途中で落ちたらまずいということで、吉川さんが機転を利かせて東京会場に残っていた米木(康志 b)さんと福森(康 ds)くんをステージに上げてくれて。彼らには初見で演奏してもらうことになりましたが、それでことなきを得たということが起こっていました。吉川マジックでした(笑) 吉川:ちょっと大変だったのは、その時に「東京にもドラムとベース乗せよう」なんて言っちゃったものの、キューボックスを人数分しか用意してなかったんですよね。あれは焦りました。結局、ぼくのモニターを延長しまくってステージに送ったんですけど、その結果、フィナーレの時は遠くで鳴ってるドラムとボーカルの口元を頼りにスイッチングしてました。 R:東京会場はネットワークは安定していたのでしょうか。 吉川:東京の会場はNURO光が入っていたんです。それが理由で選んだというのもあったんですが、前日に会場入りしてみたらIP v6じゃなくて。そこを変更しなければならなかったということがありました。 松本:東京ステージは会場がDedeさんではなく外部に借りたので、仕込みなどもすべて前日にやってもらうことになってしまって。 吉川:鹿児島ステージと東京ステージが切り替わるタイミングで、なぜかぼくの携帯が切れちゃったりとか。でも、こんなのは全然マシで、ほかの仕事で大きな企業のイベントをやった時なんかは会場が漏電してシステム全体が4回落ちましたからね。かごジャズのトラブルはトラブルではなくて、本番中に「こんなことやりたい!」っていうのをやってしまったがためという、ある意味すごくジャズっぽいイベントで面白かったです。 R:和歌山はいかがだったでしょう? 橋本:私、実はかごジャズがスイッチャーのデビューだったんですよ。それまでの遠隔セッションはZOOMのギャラリービューを出していただけで、音だけはこっちでミックスするというスタイルでやってたんです。つながるセッションの配信を和歌山からやることが決まった時に「できれば全画面でスイッチングを…」ということで。「スイッチング、実は本番でやったことないんですけど」って言いましたら「大丈夫ですよ。2系統の切り替えだけですから!」なんて言われて(笑)。でも、それって実は○か×かの世界じゃないですか(笑) 松本:いや、完璧でしたよ(笑)。ぼくが譜面を見ながらキューを出してたんですけど、途中で「この譜面なんか変だな」と思ってよく見たら、全然違う曲の譜面見てたんです(笑)。でも、橋本さんは完璧にやってくださいました。 橋本:あとは、映像ですね。鹿児島と東京の映像が私の想像をはるかに超えるクオリティだったので「ちょっと待って!」と(笑)。つながるステージはZOOMからの映像なので、なんとかしようということでBlackmagic Design ATEM Streaming Bridgeを候補にしてたんですよ。でも、出荷開始時期が間に合わなかった。そこで、ZOOMで高画質配信ができる方法を探ろうということで、前日になってFull HDで送るモードを見つけたんですよ(笑)。 R:ATEM Streaming Bridgeは、発表されたその日にご注文いただいてました。残念ながら鹿児島ジャズフェスティバルが終了してからのお届けとなってしまいましたが、その後お使いいただく機会はありましたでしょうか。 松本:ZOOMよりは確実にきれいな映像でつながりますよ。 R:こうしたネットワーク系のソリューションというものは、今後もっと需要が高まりそうです。 橋本:そうですね。実際、ZOOMなんてもう普通に使われてますからね。 野井倉:地方は特にそうで、東京からゲストが来れなくなったとしてもイベント自体が中止になることはありません。すると、配信で出演してもらおう、って話になるものが結構多いんですね。東京では、そういう配信向けのスタジオが増えていることはありがたいですね。回線も含めて照明からなにからすべて揃っていて、とりあえずPCを持っていけばすぐ配信できる。それを現地でMCとかと混ぜて。トークショーなどは、今はこういう形が多いですよ。 何もしないという選択肢はない、2021年の展望 R:鹿児島ジャズフェスティバル2021の展望について伺えますでしょうか。 松本:結論から言うと、まだなんとも言えないというのが正直なところです。アーティスト自身が運営するイベントということで、これまでにも新しい可能性を提示してこれたと考えています。そのため、何もしないという選択肢はないと思っています。ただ、屋外での開催に戻るのか、またライブ配信になるのかといったところはまだ何も決まっていないという段階です。 R:リアルと配信を同時にやるという可能性は… 松本:できちゃいますよね(笑)。ライブ配信をおこなったことで、「これを観て鹿児島に行きたくなった」というご意見が一番多かったのですが、次に多かったのが「配信だから観ることができた」というご意見でした。ですので、リアルライブと配信を同時におこなうことも考えてはいます。 野井倉:2019年まではサテライトを含めて4~5会場でやってましたね。実はコロナ以前に一度あがった意見として、夜しかライブをしないサテライトステージに昼間はメインステージの映像を出すというものがありました。鹿児島ジャズフェスティバル2020を経た今なら、こうしたことはもう簡単にできちゃいますね。 松本:実際、以前は映像をリアルタイムにスイッチングして配信して、というソリューションは非常に高価でした。それが、ここ1年ほどで一気に手元まで降りてきた感覚はあります。そうした部分で、鹿児島ジャズフェスティバルのようなイベントにも、映像を使った可能性というものが広く開かれていると感じています。なにかしら面白いアイデアを見つけていこうかなと思っています。 橋本:本人が感染しなくても、濃厚接触者となって来場できなくなるというケースもあると思います。そうした場合は遠隔で参加してもらうというのはありですね。 松本:実は、遠隔出演は昨年8月に経験させていただいてました(ライスパワージャム・ハ!2020)。地方を拠点に活動している身としては、こうした技術はありがたいですね。音楽を楽しむ方法のひとつとして、今後も残っていくんじゃないかと思います。 R:今年も鹿児島ジャズフェスティバルを楽しみにしています!みなさま、本日はありがとうございました! 一同:ありがとうございました! ライブ配信が現在ほど浸透していなかった2020年夏の時点で、手探りで作り上げた手法によって大型音楽フェスティバルを成功させた『鹿児島ジャズフェスティバル 2020 オンライン』。成功の背景にあったのは、「ジャズという音楽の魅力を多くのひとに伝えたい」という一貫した情熱だったことが伝わってくるインタビューだった。どのような形であれ、2021年もすばらしい音楽を届けてくれるであろう鹿児島ジャズフェスティバルから、今後も目が離せない。 鹿児島ジャズフェスティバル 公式HP 鹿児島ジャズフェスティバル2020オンライン 1st Day 鹿児島ジャズフェスティバル2020オンライン 2nd Day   *ProceedMagazine2021号より転載
NEWS
2021/08/17

Pro Tools 2021.7 リリース情報 〜バグフィックス&macOSでの安定性が向上〜

Pro Tools 2021.6の課題修正バージョンであるPro Tools 2021.7が先日リリースされました。今回、新たな追加機能はありませんが、ビデオ関連の課題修正を含め、幾つかの重要な改善が行われており、最新のPro Tools 2021の機能をより安定した動作でご利用いただけます。 ※Pro tools 2021.7へのアップデート及びインストールに関する詳細は下記AVIDの公式ページに記載されています。事前に必ずご確認ください。 >>Avid Knowledge Base Pro Tools 2021.7 リリース情報 https://avid.secure.force.com/pkb/KB_Render_Download?id=kA26e000000cIp7&lang=ja 今回のバージョンアップに含まれるバグフィックス コントロールサーフェス ・S6や他のEuControlサーフェスを使用して左にパンする時、2の増分で移動しなくなりました(PT-275744)。 クラウド/コラボレーション ・Pro Tools はIce Lake プロセッサを搭載した Windows ベースのマシンでプロジェクトメディアをアップロードおよびダウンロードできるようになりました。また、これらのマシンでプロジェクトを作成した後に Pro Tools | First がクラッシュすることもなくなりました (PT-265808) クラッシュとエラー ・macOS Mojaveでオーディオ付きの一部のビデオファイルをインポートする際に発生するクラッシュを修正しました(PT-274595) ・macOSでPro Tools 2021.6を使用した際に、時折短いフリーズ/SWOD(レインボーサークル)が発生するケースを修正しました(PT-275568) Dolby Atmos ワークフロー ・Dolby Atmos Production Suite 及び Mastering Suite から Cinema Renderer へ接続を変更したときに、Bed/Object Group と Channel Description が引き継がれなくなりました (PT-268744) 編集 ・何も選択されていない場合、次に大きな値で"戻し/送り"のナッジができるようになりました (PT-274494) インストーラー ・macOSでのインストール時、管理者アカウントでPro Toolsプラグインのフォルダが「読み取り専用」にならないようになりました(PT-276034) UI ・カラーパレットのプリセットをmacOS上で権限の問題なく保存できるようになりました(PT-274720) ・英語以外の言語を使用している時、チャンネルの表示/非表示ダイアログに白いボーダーが表示されなくなりました(PT-274621) ビデオ ・セッションスタートがゼロ地点でない場合、非整数のフレームレートを持つビデオクリップがタイムラインのフレーム境界に合わない問題を修正しました(PT-275297/PT-275243/PT-275483)。 ・管理者以外のシステムでビデオエンジンを有効にする場合、管理者アカウントで事前に有効にする必要がなくなりました(UME-1631)。 ・多くのビデオファイルを含むセッションを開く時間が改善されました(PT-274719) ・macOSのFinderからドラッグしてビデオをインポートできない問題を修正しました(PT-274469) >>Pro Tools 2021.7 リリース・ノート https://avid.secure.force.com/pkb/KB_Render_ReadMe?id=kA56e000000cGko&lang=ja Pro Tools 2021.6のリリース情報につきましてはこちらの記事をご参照ください。 >>Pro Tools 2021.6 リリース ~ M1 Mac 対応、UltimateがHybrid Engine 対応!! https://pro.miroc.co.jp/headline/pro-tools-2021-6-hybrid-engine-apple-silicon-m1-mac-support/#.YRtN2NP7TOQ https://pro.miroc.co.jp/headline/pro-tools-2021-6-hybrid-engine-apple-silicon-m1-mac-support/#.YRtN2NP7TOQ https://pro.miroc.co.jp/headline/avid-pro-tools-carbon-promotion/#.YRuBztP7TOQ https://pro.miroc.co.jp/headline/3d-audio/#.YRuB-tP7TOQ https://pro.miroc.co.jp/solution/ndi-proceed2021/#.YRuCFtP7TOQ
Post
2021/08/12

株式会社富士巧芸社 FK Studio様 / 〜機能美を追求した質実剛健なシステム設計〜

赤坂駅と赤坂見附駅のちょうど中程にあるビル。ガラス張りのエレベーターから赤坂の街を眺めつつ最上階まで昇ると、この春オープンしたばかりのFK Studioがある。テレビ・放送業界への人材派遣業務を主な事業とする株式会社富士巧芸社が新設し、映像/音響/CG制作で知られるクリエイター集団 株式会社ラフトがプロデュースしたこのスタジオは編集室2部屋、MA室1部屋で構成されており、「誰もが気持ちよく仕事ができること」を目指してシンプルかつ十分なシステムと超高速なネットワーク設備を備えている。現在の番組制作に求められる機能を質実剛健に追求したこのFK Studioを紹介したい。 富士巧芸社の成り立ちからFK Studio開設まで 株式会社 富士巧芸社 代表取締役 内宮 健 氏 株式会社富士巧芸社(以下、「富士巧芸社」)は、テレビ・放送業界への人材派遣業務を主な事業とする企業だ。映像編集やMA業務に関わる制作技術系スタッフが約60名、ADなどの制作に関わるスタッフが約100名、その他にも配信業務・データ放送運用・マスター室の運用などの非制作業務に関わるスタッフなど、現在約300名におよぶテレビ放送の専門スタッフを抱えている。 富士巧芸社のルーツは昭和34年創業の同名の企業にある。かつて四ツ谷にあったその富士巧芸社はテロップやフリップを中心とした美術系制作物を放送局に納めており、内宮氏は同社の社員としてテレビ局への営業を担当していたそうだ。2000年代に入り、テロップなどの制作物の需要が減少したことでかつての富士巧芸社はのれんを降ろすことになったが、「テレビからテロップがなくなることはない。これからは編集機でテロップを打ち込む時代になる」と考えた内宮氏は編集機オペレーターの派遣事業を開始する。その際に、愛着のある「富士巧芸社」という社名だけを譲り受けたというのが、現在の富士巧芸社の成り立ちである。かつての富士巧芸社と現在の富士巧芸社は別々の法人だが、放送業界におけるその長い歴史と実績は内宮氏を通して脈々と受け継がれている。 富士巧芸社がはじめて自社で編集室を持ったのは5年前。同社の派遣オペレーター第一号であり、現在はポストプロダクションチーム チーフマネージャーの洲脇氏の提言によるものだという。「リニア編集が主流だった時代には、編集室を作るには大きな投資が必要でした。しかし、パソコンを使ったノンリニア編集がメインになったことで機材購入にかかる費用は大きく下がりました。当社は派遣業ということで人材は十分に在籍していましたので、これなら自社で編集業務も請け負えるのではないかと考えたんです」(洲脇氏)。 株式会社 ラフト 代表取締役 クリエイティブ・ディレクター 薗部 健 氏 こうして、MAを除くフィニッシングまで行える同社初の自社編集室が銀座にあるマンションの一室に作られた。「4~5年して、ある程度需要があることがわかってきました。銀座では狭い部屋を5人で回してたので、もう少し広くしてあげたいと思ったのもあって」(内宮氏)と、今回のFK Studio設立への計画が動き出したそうだ。「それならMA室も必要だよね、という話になったのですが、当社はMA室に関する知識はまったくなかった。そこで、以前からお付き合いのあったラフトさんに相談しまして「薗部さん、お願いします!」ということに(笑)」(内宮氏)。 このような経緯でFK Studioは株式会社ラフト(以下、「ラフト」)がプロデュース、同社代表取締役・クリエイティブディレクターである薗部氏がフルスケルトンの状態から設計することになった。最上階のフロアをフルスケルトンから作り直すというのは、天井高が確保でき、設計の自由度が高いというメリットもあるが、今回は飲食店からの転用であったため、空調や水回りをすべてやり直す必要があったり、消防法の関係で不燃認定を受けている素材を使用する必要があったりしたそうだ。スタジオでよく見るジャージクロスは難燃認定のため吸音材に使用せず、壁も天井もすべて不燃材を用いている。飲食店からの転用が意外な課題をもたらしていたようだ。 機能美にあふれ、誰もが仕事をしやすい環境 「お客様を迎える場所なので、内装などの見た目にはこだわりたかった」(内宮氏)というFK Studioは、実に洗練された暖かみを感じさせる空間になっている。エレベーターの扉が開くとそこは明るく開放的なロビーになっており、ここはそのまま各スタジオへの動線となっている。あざやかなオレンジ色の椅子が目を引くが、躯体の柱と色を合わせた漆色のテーブルがシックな雰囲気を演出し、ツヤ出し木製パネルの壁がそれらをつなげて、明るいながらも全体的に落ち着いた雰囲気をたたえた内装だ。このように印象的なスペースとなったのは、薗部氏の"機能美”へのこだわりにありそうだ。「見た目が美しくてもハリボテのようなものじゃダメ。ヘビーデューティでありながら美しい…作品を生み出す場所は、そうした"機能美"を備えていることが大切だと思ってます。天井のレールは垂直に、吸音板もスクウェアに、きっちり取り付けてもらいました」(薗部氏)。 📷 明るい色づかいながら、落ち着いた雰囲気のロビー。 こうしたコンセプトは居住性のみならず、スタジオ機能の面にも行き届いている。「編集オペレーターやエンジニアなどの社内スタッフはもちろん、来てくれるお客様にとっても、全員がすごしやすい…仕事がしやすい環境を作るのが一番だと考えていました。ひとが集まるところには自然に仕事が生まれる」(洲脇氏)とのコメントが印象的で、まさにスタジオ全体が内実をともなった美しさに溢れた空間になっているのだと強く感じさせる。 "ヘビーデューティ"なスタジオ設備 FK Studioの機材構成は一見シンプルだが、現代の番組制作をスムーズに行うための必要かつ十分な機能が備わっており、まさに"機能美"ということばがぴったりな仕様となっている。機材構成をメインで担当したのは、編集室が富士巧芸社 洲脇氏、MA室がラフト 音響クリエイターの髙橋氏だ。 📷 編集室 Edit 1。ディスプレイはすべて4K HDR対応。 2部屋ある編集室は、機材面ではまったく同じ構成となっている。メインとなるMac Proと、テロップ制作などを行うためのサブ機であるMac miniの2式構成、NLEはすべてAdobe Premier Proだ。「この規模のポスプロであれば、お客様もほぼPremierで作業している」(洲脇氏)というのが選定の理由だ。この2式のNLEを中心に、映像波形モニター、音声モニター用のステレオスピーカーとラック型のミキサー、そしてクライアント用の映像モニターといたってシンプルな構成となっている。しかし、ディスプレイはすべて4K対応、Mac Proは16コアプロセッサ・96GBメモリに加えGPUがRadeon Pro W5700X x 2に増設されたパワフルな仕様。さらに、ローカルストレージとして8TBの高速SSDレイドが導入され、4Kワークフローでもストレスのない制作が可能となっている。 📷 館内共用機器ラックには12Gルーターやネットワーク機器などを収容。各部屋からの信号は、館内のどのディスプレイにでも出力することができる。 FK Studioの大きな特徴のひとつに、現代的なネットワーク設備が挙げられる。共有ストレージにはSynologyのNASが導入され、すべてのスタジオ内ネットワークはひとつのルーターに接続されている。そのため、ひとつの編集室で書き出した素材をもうひとつの編集室やMA室と瞬時に共有することが可能だ。さらにいえば、ひとつの映像信号をFK Studio内のどのモニターにも出力できるため、ゲストの人数が多い時などはロビーで試写をすることも可能となっている。ちなみに、ラフトでも同じNASを使用しており、どちらのNASも2社が相互にアクセス可能な状態になっているという。「クラウドに近い環境。こうしたパートナーを増やしていけば、番組データの交換なども簡単になるかもしれませんね」(薗部氏)とのことだ。 社内ネットワークはルーターやケーブルも含めてすべて12G対応、インターネットは下り最大2Gbpsの通信速度を誇るNURO Biz。速度的なストレスは皆無の制作環境に仕上がっている。「今まではローカルのデバイスがボトルネックになるケースが多かった。ここ(FK Studio)はローカルデバイスのスペックがかなりいいので、逆にネットワークがボトルネックにならないように注意した」(薗部氏)ということだが、さらに、2Gbpsのインターネット帯域を「ゲスト用と社内用にルーターを分けている。そのため、ゲストが増えても館内ネットワークの速度には影響がない」(薗部氏)という徹底ぶり。まさに、"ヘビーデューティ"という表現がしっくりくる。「編集室にお客様が立ち合わないケースは増えています。完成品をチェックで送る時でも、ネットワークのスピードが高いので助かっている」(洲脇氏)とのことだ。 番組制作にとっての"普遍性"を示したMA室 📷 Pro Tools | S3を採用したことで、大きなゆとりを確保したMA室の作業デスク。台本の位置などを柔軟に運用できるのがメリットだ。メーター類や操作系も、見やすく手の届く範囲にまとめられており、作業に集中できる環境が整えられている。 NAルームが併設されたMA室はステレオ仕様、Pro ToolsシステムはHDXカード1枚、HD I/O、Sync HD、Pro Tools | S3という仕様の1式のみ、そして、Mac miniによるMedia Composerワークステーションという、こちらもシンプルな構成。「最高スペックを視野に入れたシステムを組むと、どうしても甘い部分が出てきてしまう。ならば最初から割り切ってステレオとかにした方がいい。そのかわり、4K HDR対応だし、Mac Proもスペックを整えたもの(8コアIntel Xeon W CPU/96GBメモリ/1TB SSD + BMD DeckLink Studio 4Kビデオカード)。モニターもSonyの業務用にして、TB3HDDレイドも入れてます」(薗部氏)という通り、MA制作に必要な機能に的をしぼることで、近年重視されるようになってきたスペックの部分をしっかりとフォローした"基礎体力"の高いシステムになっている。 I/OはHD I/O、コントロールサーフェスはPro Tools | S3だ。今回のスタジオ設計においては、大型コンソールを入れることははじめから考えていなかったという。「複数のパラメーターを同時に操作したい場合はコンソールが必要ですが、ワークのスタイルを大型コンソールに合わせるよりも、原稿を置く位置など作業スペースのレイアウトをその都度変えられたりといったことの方が重要かな、と。」(髙橋氏)ということが理由のようだ。I/Oについては「ぼくひとりで使うなら、どんなに複雑でも面白いものを作ればいいのでPro Tools | MTRXも考えましたが、誰が来ても見れば使えるというところを重視した結果、HD I/Oという選択になりました」(髙橋氏)という。モニターコントローラーはGrace Design m905が選ばれており、音質はもちろんのこと、その使いやすさが選定の大きな理由となっている。 📷 MA室併設のナレーションブース。圧迫感がなく居住性の高いスペース。 「音の入り口と出口にはリソースを割きたかった」(髙橋氏)ということで、マイクとスピーカーは奇をてらわずも最高峰のものが選ばれている。スピーカーはメインがGenelec 8341A、スモールスピーカーとしてFocal Shape 40が選ばれている。NA用マイクはNeumann U87 Ai、マイクプリはMillenia HV-3Cだ。8341Aは近年ポスプロスタジオでの導入事例が増えているGenelec社の同軸モデルのひとつ。以前、ラフトで代替機として借りた際にそのクオリティが気に入り、今回の選定に至ったという。この機種についての印象を髙橋氏に伺うと、「鳴りと定位感のよさから、番組をやるにあたって聴きやすいという点が気に入っています。以前のGenelecと比べると、最近のモデルはより解像度を重視しているように感じます。」(髙橋氏)という答えが返ってきた。こちらにはGLMを使用したチューニングが施されている。スモールについては「今時のよくある小さめのモニタースピーカーって、どうしても低音を出そうとしているように感じるんです。そもそも、スモールスピーカーを使うというのはテレビの条件に近づけるという意図があったのに、(最近のスピーカーだと)スモールに切り替えると余計に音がこもっちゃってよくわからない、ということが多かったんです。その点、Shapeシリーズはそうしたこもりとかを感じずに、使いやすいな、と感じています。」(髙橋氏)とMA向きな一面をShape 40に見出しているようだ。 📷 MAスタンダードの地位を獲得した感のあるGenelec Oneシリーズ。FK Studioでは8341Aが採用されている。解像度の高さだけでなく、鳴りと定位感の良さが好評だ。自前の補正システムGLMも人気の理由だろう。 📷 独自素材を積極的に開発し、引き締まった音像と定位感のよさに定評のあるFocal Shape 40。髙橋氏は自宅でもShapeシリーズを使用しているとのことで、大きな信頼を寄せている。 ビデオ再生はPro Toolsのビデオトラックだけでなく、Media Composer、Video Slave 4 Proでの再生も可能。スタジオ内のネットワークが高速なため、「編集室からNASにProResで書き出してもらったものをMedia Composerにリンクして再生することが多いです。」(髙橋氏)とのこと。ちなみに、ビデオI/OにはAvid DNxIVが採用されている。オーディオプラグインはWAVES Diamond、iZotope RX Post Production Suite、Nugen Audio Loudness Toolkit 2と、MAワークのスタンダードが並ぶ。特にRXについては「RXなしでは最近のMAは成り立たない」(髙橋氏)と、大きな信頼を寄せる。プラグインに関してもこうしたスタンダードなラインナップに集約することで、FK Studioで制作したセッションがほかのスタジオで開けないといったことを未然に防いでいる。まさに、「誰にとっても気持ちよく仕事ができる環境」作りを徹底しているように思えた。ラウドネス関連ではNugen Audioのほかに、テープ戻し用としてCLARITY M STEREOとFourbit LM-06も設置されている。はじめからあえて的をしぼることで実現された一縷の隙もないシステムは、現代の番組MAにとってひとつの"普遍性"を示していると言えるのではないだろうか。 📷 m905本体、Mac mini、DNxIV。普段は触らない機器もビシッと美しく設置されているところに、薗部氏の透徹した美学が垣間見える。 📷 Clarity M Stereoとm905リモコン。必要なボタンがハードとして存在していることは、スムースなMAワークには欠かせない要素だ。手軽に位置を動かせるコンパクトさも、スタジオのコンセプトにマッチしている。 細部まで徹底的にシビアな視線で設計されていながら、訪れる者には明るさと落ち着きを兼ね備えた居心地のよい空間となっているFK Studio。「仕上がりはイメージ以上。ラフトさんのお力添えなしにはここまでのものは作れませんでした。」という内宮氏。これからの展望をたずねると「これを機に、2号、3号とスタジオを増やして行けたらいいですね。」と答えてくださった。FK Studioから生まれた番組を観られる日が、今から待ち遠しい限りだ。 (前列左より)株式会社 富士巧芸社 代表取締役 内宮 健 氏、株式会社 ラフト 代表取締役 / クリエイティブ・ディレクター 薗部 健 氏 (後列左より)ROCK ON PRO 沢口耕太、株式会社 富士巧芸社 映像グループ ポストプロダクションチーム チーフマネージャー 洲脇 陽平 氏、株式会社ラフト 音響クリエイター 髙橋 友樹 氏、ROCK ON PRO 岡田詞朗   *ProceedMagazine2021号より転載
NEWS
2021/08/10

超豪華ゲストによるグランドオープン配信イベント!~渋谷にクリエイターの聖地 LUSH HUB が誕生

#WHATISLUSHHUB ~LUSH HUB グランドオープニング・オンライン・イベント~ 日時:2021年8月12日(木) 18:00配信開始予定 場所:YouTube Live配信 配信ページはこちら ゲスト:古坂大魔王、本間昭光、江島啓一(サカナクション)、土岐彩香、DÉ DÉ MOUSE、SO-SO、Carpainter(敬称略) 時代に立ち向かうクリエイターとオーディエンスの為に立ち上げられたLUSH HUB。2021年8月12日、ついにグランドオープニングを迎えるこのLUSH HUBから7名の超豪華ゲストと共に3部構成のスペシャルオンライン・イベント番組が配信されます。 イベント詳細はこちらから>> LUSH HUBとは? 「時代に立ち向かうクリエイターとオーディエンスのために」をテーマに生まれたLUSH HUB。テクノロジー、芸術、メディアの輝かしい融合点として、最新・最先端のテクノロジーが詰め込まれた空間です。渋谷で探求し、世界に向けて輝きを発信するLUSH HUBでは、多くのリアルを展開します。 既存の価値観にとらわれず、新しい表現に積極的にチャレンジする。そんな体験をクリエイターとともに生み出し、オーディエンスへとお届けするために生まれた創造のための新たな聖地 LUSH HUB。 ぜひ、こちらから詳細をご確認ください。 注目の超豪華ゲストによる3部構成 + リアルタイム視聴者プレゼントも! 第一部 LUSH HUB REPORT ゲスト:古坂大魔王 LUSH HUBの全貌が明らかになる!お笑いとともに音楽を突き詰める古坂大魔王がNEVE ExhibitionやDMXコンソールAvolight Quartzを使ったRGB照明やムービングライトのコントロール体験、そしてNuTek TriCasterを使った生配信やクロマキー合成によるライブ演出を体験する。あの名曲も飛び出す!? 第二部 LUSH HUB TALK ゲスト:本間昭光、江島啓一(サカナクション)、土岐彩香 LUSH HUBが注目する人物の鼎談企画。第一線で活躍するトップクリエイター3名をゲストに迎え、アーティスト、プロデューサー、エンジニアの視点からそれぞれが目指す未来のサウンドについてスペシャル対談を行う。3名が見据える先にあるイマーシブサウンド。これからの音楽表現はどうなるのか。集まったことのない三人が起こす化学反応を目撃しよう。 本間昭光氏 江島啓一氏 土岐彩香氏 第三部 LUSH HUB LIVE ゲスト:DÉ DÉ MOUSE、SO-SO、Carpainter DMX照明やクロマキー合成を使った総合演出をアーティストと共に作り上げ、パフォーマンスだけでは伝えきれない世界観を伝えるLIVE配信。今回はアンダーグラウンドとメインストリームを自在に行き来し、時代や流行という型にハマらないフリーフォームな創造力を発揮するスペシャルゲスト3組が出演し、圧倒的なパフォーマンスを披露する。 DÉ DÉ MOUSE 氏 SO-SO 氏 Carpainter 氏 リアルタイム視聴者限定プレゼント #WHATISLUSHHUBをリアルタイムでご視聴いただいた方には、抽選で豪華ゲスト陣のサインが入ったTシャツをプレゼント。詳細は番組内で発表されますので、お見逃しなく! (追記8.13) ※こちらのプレゼントへの応募は終了しました。多数のご応募、ご感想をいただき誠にありがとうございました!
Broadcast
2021/08/06

株式会社毎日放送様 / ~多様なアウトプットに対応する、正確な回答を導き出せる音環境~

以前にも本誌紙面でご紹介した毎日放送のMA室がリニューアルした。前回のご紹介時にはAvid S6とMTRXの導入を中心にお伝えしたが、今回はそれらの機材はそのままにして内装のブラッシュアップとシステムの大幅な組み換えを行っている。さらには、準備対応であったイマーシブ・オーディオへの対応も本格化するという更新となった。 システム内の役割を切り分けるということ まずはシステムの更新の部分を見ていこう。今回の更新ではAvid S6はそのままに、モニター周り、Avid S6のマスターセクションをどのように構築するのかという部分に大きなメスが入った。これまでのシステムはスタジオに送られる全ての信号がMTRXに入り、Avid S6のMTMによるモニターセクションが構築されていた。その全ての信号の中にはPro Toolsからの信号も含まれDigiLinkで直接MTRXの入力ソースの一つとして扱われる仕様である。 このシステムをどのように変更したのかというと、まずはMTRXをPro ToolsとDigiLinkで接続し、Audio Interfaceとして使用しないこととした。昨今のシステムアップのトレンドとは逆の発想である。これにはもちろん理由があり、トラブルの要因の切り分けという点が大きい。従来は1台のPro Toolsのシステムであったものが、今回の更新で2台に増強されているのだが、こうなるとトラブル発生時の切り分けの際に、全てがMTRXにダイレクトに接続されていることの弊害が浮かび上がってくるわけだ。MTRXへダイレクトに接続した場合には、Pro ToolsのシステムからAudio Interface、モニターセクションといったスタジオ全体が一つの大きなシステムとなる。俯瞰するとシンプルであり、何でも柔軟に対応できるメリットはあるが、トラブル時にはどこが悪いのか何が問題なのかへたどり着くまで、システムを構成する機器が多いために手間がかかる。これを解決するために、2台に増強されたそれぞれのPro ToolsにAudio Interfaceを持たせ、スタジオのマスターセクションにあたるMTRXへ接続をするというシステムアップをとった。 これは、システムが大きくなった際には非常に有効な手法である。Avid S6以前のシステムを思い返せば、レコーダー / プレイヤー / 編集機としてのPro Tools、そしてミキシング、スタジオのシステムコアとしてのミキサー。このようにそれぞれの機器の役割がはっきりしていたため、トラブル時にどこが悪いのか、何に問題が生じているのかということが非常に明確であった。この役割分担を明確にするという考え方を改めて取り入れたAvid S6のシステムが今回の更新で実現している。 📷Audio Interface関係、VTR、パッチベイは、室内のディレクターデスクにラックマウントされている。手前の列から、映像の切替器、VTR、2台のPro Toolsに直結されたAvid純正のInterface。中央の列には、AntelopeのMasterClock OCX HD、RupertNeve Design 5012、Avid MTRXなど、システムのコアとなる製品が収まる。右列は、パッチベイとBDプレーヤーが収まっている。左から右へと信号の流れに沿ったレイアウトになっている。 MTRXをスタンドアローンで運用する 今回の更新により、MTRXは純粋にAvid S6のモニターセクション、マスターセクションとして独立し、Pro Toolsシステムとは縁が切れている状態となる。MTRXはどうしてもPro ToolsのAudio Interfaceという色合いが強いが、スタンドアローンでも利用できる非常に柔軟性の高い製品である。弊社ではこれまでにも、Artware Hubでの36.8chシステムのモニタープロセッサーとして、また松竹映像センターにおけるダビングシステムのマスターセクションとしてなど、様々な形でMTRXをスタンドアローンで活用していただいている。常にシステムに対しての理解が深い方が利用するのであれば、一つの大きなシステムとしたほうが様々なケースに対応でき、物理パッチからも解放されるなど様々なメリットを享受できるが、不特定多数の方が使用するシステムとなると、やはり従来型のミキサーとレコーダーが独立したシステムのほうが理解が早いというのは確かである。 ある意味逆説的な発想ではあるが、一つの大きく複雑なシステムになっていたものを、紐解いてシンプルな形に落とし込んだとも言えるだろう。この部分に関して、ミキサーとしてのマトリクス・ルーティングというものは、放送用のミキサーで慣れ親しんだものなので抵抗なく馴染める。今回のシステムは、そういったシステムとの整合性も高く、利用する技術者にとってはわかりやすいものとすることができたとお話をいただいている。MTRXをスタンドアローンで運用するため、今回の更新ではDADman を常に起動しておくための専用のPCとしてMac miniを導入いただいている。これにより、まさにAvid S6がMTRXをエンジンとした単体のコンソールのように振る舞うことを実現したわけだ。 📷もう一部屋のMA室でも採用した、コンソールを左右に移動させるという仕組みをこの部屋にも実装している。編集時にはキーボード・マウスなどがセンターに、MIXを行う際にはフェーダーがセンターに来る、という理想的な作業環境を実現するために、コンソール自体を左右に移動できるわけだ。これであれば、ミキサーは常にセンターポジションで作業を行うことができる。なお、専用に作られたミキサースタンドにはキャスターがあり、電動で左右に動く仕組みだ。これにより左右に動かした際、位置が変わることもなく常に理想的なポジションを維持できる。ちなみに一番右の写真はコンソールを動かすための専用リモコンとなっている。 イマーシブ・オーディオへの対応は、モニターセクションとしてスタンバイをする、ということとしている。5.1chサラウンドまでは常設のスピーカーですぐに作業が可能だが、ハイトスピーカーに関しては、もう一部屋のMA室との共有設備となる。これまでもトラスを組んで、仮設でのハイトチャンネル増設でイマーシブ・オーディオの制作を行ってきたが、モニターセクションのアウトとしても準備を行い、ハイト用のスピーカーをスタンドごと持ち込めば準備が完了するようにブラッシュアップが図られた。これにより、5.1.4chのシステム、もしくは7.1.2chのシステムにすぐに変更できるようになっている。地上波ではイマーシブ・オーディオを送り出すことはできない。とはいえ、インターネットの世界ではイマーシブ・オーディオを発信する環境は整いつつある。そしてこれらを見据えて研究、研鑽を積み重ねていくことにも大きな意味がある。まさにこれまでも積極的に5.1chサラウンド作品などを制作してきた毎日放送ならではの未来を見据えたビジョンが見える部分だ。 全てに対して正確な回答を導き出すための要素 📷一番作業としては多いステレオ用のラージスピーカーはMusik Electronic Geithain RL901KとBasis 14Kの組み合わせ。2本のSub Wooferを組み合わせ、2.1chではなく2.2chのシステムとしている。なお、サラウンド用には同社RL906が採用されており、こちらのスピーカースタンドは特注品となっている。 今回のシステム更新において、一番の更新点だと語っていただいたのが、スピーカーの入れ替え。古くなったから更新という既定路線の買い替えに留まらない、大きな含みを持った入れ替えとなっている。従来、この部屋のスピーカーはDynaudio Air6が導入されていたのだが、それをもう一つのMA室に導入されているMusik Electoronic Gaithin社の同一モデルへと更新。Musik社のスピーカーは、サブ(副調整室)にも採用されており、今回の更新で音声の固定設備としてのスピーカーをMusikに全て統一することができたわけだ。同じモデルなのでそのサウンドのキャラクターを揃え、毎日放送としてのリファレンスの音を作ることができたこととなる。 音質に対してのこだわりである、光城精機のAray MK Ⅱはコンソールの足元に設置されている。1台あたりで1000VAの出力を持つAray MK Ⅱが3台、スピーカーの電源及び最終段のアナログMTRX I/Oの電源が供給されている。 「Musikの音」という表現をされていたのが非常に印象的ではあるが、このメーカーのスピーカーは他社には真似のできない独自の世界観、サウンドを持っている。この意見には強く同意をするところである。同軸の正確な定位、ふくよかな低域、解像度の高い高域と言葉では伝えられない魅力を多く持つ製品である。お話を伺う中で、Musikに対してスピーカー界の「仙人」という言葉を使われていたのだが、たしかにMusikはオーディオエンジニアにとって「仙人」という存在なのかもしれない。いろいろなことを教えてくれる、また気づかせてくれる、そして、長時間音を聞いていても疲れない、まさに理想のスピーカーであるとのことだ。 放送局にとってMusikというスピーカーはハイクオリティではないかという意見も聞いたことがある。その意見は正しい部分もあるのかもしれないが、放送局だからこそ様々なアウトプットに対しての制作を求められ、どのような環境にも対応した音環境を持っていなければならない。そのためには、全てに対して正確な回答を導き出せる音環境が必要であり、ハイクオリティな環境であることは却って必要な要素であるというお話をいただいた。筆者もまさにその通りだと感じている。地上波だけではなく様々なアウトプットへの制作が求められるからこそ、ベストを尽くすことへの重要性が高まっているということは間違いない。 このハイクオリティな音環境を象徴するような機器が光城精工のArray 2の導入であろう。一見コンシューマ向け(オーディオマニア)の製品というイメージもあるかもしれないが、光城精工はスタジオ向け電源機器で一斉を風靡したシナノから独立された方が創業されたメーカー。もちろんプロフェッショナル業界のことも熟知した上での製品開発が行われている。Array 2は音響用のクリーン電源として高い評価を得ており、絶縁トランスでも単純なインバーターでもなくクリーン電源を突き詰めた、これも独自の世界を持った製品である。このArray 2が今回の更新ではスピーカー、モニタリングの最終アナログ段の電源として導入されている。アウトプットされるサウンドに対して絶対の信頼を持つため、また自信を持って作品を送り出すために、最高の音環境を整えようという強い意志がここからも読み取ることができる。 これらの更新により、音環境としては高さ方向を含めたマルチチャンネルへの対応、そしてハイレゾへの対応が行われ、スペックとして録音再生ができるということではなく、それらがしっかりと聴いて判断ができる環境というものが構築されている。Dolby Atmos、360 Reality Audio をはじめとするイマーシブ・オーディオ、これから登場するであろう様々なフォーマット、もちろん将来への実験、研鑽を積むためのシステムでもある。頻繁に更新することが難しいスタジオのシステム、今回の更新で未来を見据えたシステムアップが実現できたと強く感じるところである。そして、実験的な取り組みもすでにトライされているようで、これらの成果が実際に我々の環境へ届く日が早く来てほしいと願うばかりだ。この部屋で制作された新しい「音」、「仙人」モードでミックスされた音、非常に楽しみにして待つことにしたい。 (左)株式会社毎日放送 総合技術局 制作技術センター音声担当 部次長 田中 聖二 氏、(右)株式会社毎日放送 総合技術局 制作技術センター音声担当 大谷 紗代 氏 *ProceedMagazine2021号より転載
Review
2021/07/29

現役サウンドデザイナーによる実践レビュー!vol.3 ~Le Sound AudioTextureでクリエイティブなループを制作

既存のライブラリから音源を選び、尺を合わせて加工して、足りない音は収録…という従来のワークフローとはまったくことなるアプローチでサウンドデザインの世界を拡げるLe Soundプラグインは、効果音をシンセサイズするという、プロシージャルオーディオのコンセプトにもとづいたアプローチで自由自在なサウンドメイクを可能にします。 このLe Sound製品を、TV番組、CM、アニメーション、イベントなど幅広い分野で大活躍中のサウンドデザイナーである安江史男 氏(Tacit Knowledge Sound LLC)、荒川きよし氏(株式会社 Async)のおふた方に実際に使用していただき、実践的な使い方を教えてもおう!というこの企画。 全6回予定の第3弾はTacit Knowledge Sound LLC 安江氏によるAudioTextureの実践レビュー。 手持ちの素材から違和感なくループを作成したり、まるでシンセのような新しいサウンドを生み出したり…クリエイティブと遊び心が満載の実践レビュー第3弾をお楽しみください! 安江 史男 氏 プロフィール   愛知県春日井市生。カリフォルニア州立ノースリッジ大学で音楽ビジネスを学ぶ。外国人コーディネーターを経て、音響効果の世界へ。 TVCM、Web、イベント等、多種多様な効果音が必要な作品に従事。選曲も扱う。DJとしての活動も顕著。   公式サイト:https://www.yasuefumio.com レーベル: www.bigpierecords.com vol.1 ~Le Sound AudioElecで電撃サウンドを自在にデザイン vol.2 ~Le Sound AudioWindでロケ映像を美しく仕上げる AudioTextureで自然なループからトガったシンセサウンドまで! 第3回はAudio Textureについてご紹介します。 こちらは音を精製するものというよりは、基本的には、音源を元に、鳴らす箇所をランダマイズさせることで、無限ループを作ることができるプラグインです。 ピッチ可変も可能で、こちらもランダマイズできるので、揺らぎを作りながら無限に鳴らし続けることができます。 プラグイン画面です。右上のLoadから音源ファイルを指定してAudio Texture内に取り込みます。 取り込むと自動的にマーカーを生成してくれます。このマーカーはランダマイズさせる際の音源のトリガーポイントになります。左下のUnit Sizeのノブは再生される音源の長さを調整できます。マーカーから次のマーカーまでが再生される音源の長さになるので、Unit Sizeを動かすとマーカーの数が変わります。このマーカーは任意で動かしたり、ダブルクリックで追加することが可能です。 次にループして欲しい音源のエリアの中心を、波形画面下の横に長いバーのポインターを動かして指定し、真ん中の方にあるX Rangeのノブで幅の調整をします。 また、Rateで音源のピッチの上げ下げができます。さらにR Rangeでピッチのランダマイズができるようになり、値を上げていくとランダマイズされるピッチの幅が高低音域に広がって行きます。 まずは無限ループの映像です。 こちらでは水の音をループ感を軽減するために3つ重ねています。 冒頭で大元の音源をPreviewボタンを用いて流しています。Startボタンを押したところから、パラメータに沿ったランダマイズが始まります。 左と真ん中は同じ音源を読み込んでいますが、ピッチとX Rangeの使い方、またマーカーの位置を変えることで同じ音が鳴らないようにしています。これに右の音をベース音として載せることでさらに同じ音と感じさせないようにしてみたつもりです。大元の音源は短い音源ではありますが、長い音源に変化できることがなんとなくわかっていただけるかと思います。 次はシンセ系の音で、ちょっと違ったこともやってみました。 こちらは前回のAudio ElecからTelemetryの音だけを書き出したものを音源としています。X Rangeは最大、そしてUnit Sizeをかなり小さくし、マーカー位置を極端に増やすことでランダマイズされる箇所を増やし、複雑な音にしてみています。 また、後半ではX RangeとR Rangeを最小、Unit Sizeも小さめにし、Rateを上げ下げすることで、駆け上がり下がり音も作ってみています。 シンセでない音でも同じようなことをしてみました。 シェルシェイカーの音を元にしています。収録音関係をシンセサイズすることで手動では鳴らせない音に可変できるのが良いところかと思います。 第3回はAudioTextureをご紹介しました。 音源によって試せることが多様に変わるので、是非色々試行錯誤してみてください! AudioTextureの魅力は、手持ちの音源の長さを映像の尺に合わせて自在にコントロールできること。さらに、安江氏にご紹介いただいたようにシンセサイザーならではの加工もできる点がさらに便利なところです。 ノイズが入った部分をカットしているうちに尺が足りなくなってしまった音源を伸ばす、短い時間でも音源にダイナミクスを持たせるためにランダマイズする、自然音や生音を素材に新しいサウンドを創造する…使い方もまさに無限大のAudioTextureの魅力にぜひ触れてみてください! 今回登場したプラグイン以外のLe Sound全ランナップも、ぜひこちらからチェック!きっとイメージに合うサウンドがあるはずです。 今回登場したプロダクトはこちら AudioTexture 販売価格:¥19,800(本体価格¥18,000) AudioTextureはとても大きな創造の可能性を秘めています。AudioTextureのサウンドを重ねて、たったひとつのシンプルな素材から重層的なサウンドを生成したり、素材を複数使用してサウンド・シーンを制作してください。 Rock oN Line eStoreで購入>> https://pro.miroc.co.jp/headline/le-sound-review-sounddesign-1-audioelec/#.YQFSalP7Q-Q https://pro.miroc.co.jp/headline/le-sound-review-sounddesign-2-audiowind/#.YQFSjVP7Q-Q
Media
2021/07/28

IPビデオ伝送の筆頭格、NDIを知る。〜ソフトウェアベースでハンドリングする先進のIP伝送〜

弊社刊行のProceedMagazineでは以前より音声信号、映像信号のIP化を取り上げてきた。新たな規格が登場するたびにそれらの特徴をご紹介してきているが、今回はNewtek社によって開発された、現在世界で最も利用されているIPビデオ伝送方式のひとつであるNDIを取り上げその特徴をじっくりと見ていきたい。IPビデオ伝送ということは、汎用のEthernetを通じVideo/Audio信号を伝送するためのソリューション、ということである。いま現場に必要とされる先進的な要素を多く持つNDI、その全貌に迫る。 一歩先を行くIPビデオ伝送方式 NDI=Network Device Interface。SDI/HDMIとの親和性が高く、映像配信システムなどの構築に向いている利便性の高い規格である。このIP伝送方式は、NewTek社により2015年9月にアムステルダムで開催された国際展示会IBCで発表された。そして、その特徴としてまず挙げられるのがソフトウェアベースであるということであり、マーケティング的にも無償で使用できるロイヤリティー・フリーのSDKが配付されている。ソフトウェアベースであるということは、特定のハードウェアを必要とせず汎用のEthernet機器が活用可能であるということである。これは機器の設計製造などでも有利に働き、特別にカスタム設計した機器でなくとも、汎用製品を組み合わせて活用することで製品コストを抑えられることにつながっている。この特徴を体現した製品はソフトウェアとしていくつもリリースされている。詳しい紹介は後述するが、汎用のPCがプロフェッショナルグレードの映像機器として活用できるようになる、と捉えていただいても良い。 フルHD映像信号をを100Mbit/s程度にまで圧縮を行い、汎用のEthernetで伝送を行うNDIはIBC2015でも非常に高い注目を集め、NewTekのブースには来場者が入りきれないほどであったのを覚えている。以前、ProceedMagazineでも大々的に取り上げたSMPTE ST2110が基礎の部分となるTR-03、TR-04の発表よりも約2ヶ月早いタイミングで、NDIは完成形とも言える圧縮伝送を実現した規格として登場したわけだ。非圧縮でのSDI信号の置換えを目指した規格であるSMPTE ST-2022が注目を集めていた時期に、圧縮での低遅延リアルタイム伝送を実現し、ロイヤリティーフリーで特定のハードウェアを必要とせずにソフトウェアベースで動作するNDIはこの時すでに一歩先を行くテクノロジーであったということが言える。そして、本記事を執筆している時点でNDIはバージョン4.6.2となっている。この更新の中では、さらに圧縮率の高いNDI HX、NDI HX2などを登場させその先進性に磨きがかけられた。 📷これまでにもご紹介してきた放送業界が中心となり進めているSMPTE 2022 / 2110との比較をまとめてみた。大規模なインフラにも対応できるように工夫の凝らされたSMPTE規格に対し、イントラネットでのコンパクトな運用を目指したNDIという特徴が見てとれる。NDIは使い勝手を重視した進化をしていることがこちらの表からも浮かんでくるのではないだろうか。 100Mbit/s、利便性とクオリティ NDIの詳細部分に踏み込んで見ていこう。テクノロジーとしての特徴は、前述の通り圧縮伝送であるということがまず大きい。映像のクオリティにこだわれば、もちろん非圧縮がベストであることに異論はないが、Full HD/30pで1.5Gbit/sにもなる映像信号を汎用のEhternetで伝送しようと考えた際に、伝送路の帯域が不足してくるということは直感的にご理解いただけるのではないだろうか。シンプルに言い換えれば一般的に普及しているGigabit Ethernetでは非圧縮のFull HD信号の1Streamすら送れないということである。利便性という目線で考えても、普及価格帯になっているGigabit Ethernetを活用できず10GbEthernetが必須になってしまっては、IPビデオ伝送の持つ手軽さや利便性に足かせがついてしまう。 NDIは当初より圧縮信号を前提としており、標準では100Mbit/sまで圧縮した信号を伝送する。圧縮することでGigabitEthernetでの複数Streamの伝送、さらにはワイヤレス(Wi-Fi)の伝送などにも対応している。4K伝送時も同様に圧縮がかかり、こちらもGigabit Ethernetでの伝送が可能である。もちろん10GbEthernetを利用すれば、さらに多くのStreamの伝送が可能となる。放送業界で標準的に使用されているSONY XDCAMの圧縮率が50Mbit/sであることを考えれば、十分にクオリティが担保された映像であることはご想像いただけるだろう。さらにNDI HXでは20Mbit/sまでの圧縮を行いワイヤレス機器などとの親和性を高め、最新の規格となるNDI HX2ではH.265圧縮を活用し、NDIと同様の使い勝手で半分の50Mbit./sでの運用を実現している。 Ethernet Cable 1本でセットできる 代表的なNDI製品であるPTZカメラ。 次の特徴は、Ethernet技術の持つ「双方向性」を非常にうまく使っているということだ。映像信号はもちろん一方向の伝送ではあるが、逆方向の伝送路をタリー信号やPTZカメラのコントロール、各機器の設定変更などに活用している。これらの制御信号は、SMPTE ST2022/ST2110では共通項目として規格化が行われていない部分だ。 NDIではこれらの制御信号も規格化され、メーカーをまたいだ共通化が進められている。わかりやすい部分としてはPTZカメラのコントロールであろう。すでにNDI対応のPTZカメラはPoE=Power over Ethernet対応の製品であれば、Ethernet Cable1本の接続で映像信号の伝送から、カメラコントロール、電源供給までが行えるということになる。従来の製品では3本、もしくはそれ以上のケーブルの接続が必要なシーンでも1本のケーブルで済んでしまうということは大きなメリットだ。天井などに設置をすることが多いPTZカメラ。固定設備としての設置工事時にもこれは大きな魅力となるだろう。NDIに対応した製品であれば、基本的にNDIとして接続されたEthernetケーブルを通じて設定変更などが行える。別途USBケーブル等を接続してPCから設定を流し込む、などといった作業から解放されることになる。 📷左がリモートコントローラーとなる。写真のBirdDog P200であれば、PoE対応なので映像信号、電源供給、コントロール信号が1本のEthernet Cableで済む。 帯域を最大限に有効活用する仕組み NDIの先進性を物語る特徴はまだある。こちらはあまり目に見える部分ではないが、帯域保護をする機能がNDIには搭載されている。これは前述のタリー信号をカメラ側へ伝送できる機能をさらに活用している部分だ。実際にスイッチャーで選択されていない(双方向で接続は確立されているが、最終の出力としては利用されていない)信号は、データの圧縮率が高められたプロキシ伝送となる。本線として利用されていない(タリーの戻ってきていない)カメラは、自動的にプロキシ伝送に切り替わり帯域の圧縮を防ぐということになる。これは本線で使用されていたとしても、PinP=Picture in Picture の副画像などの場合でも同様だ。画面の1/4以上で利用されている場合にはフルクオリティの出力で、1/4以下であればプロキシへと自動的に切り替わる。双方向に情報を伝達できるNDIはスイッチャーが必要とする時にカメラ側へフルクオリティー画像の伝送をリクエストして切り替える、この機能を利用しているわけだ。数多くのカメラを同一のネットワーク上に接続した場合にはその帯域が不安になることも多いが、NDIであればネットワークの持つ帯域を最大限に有効活用する仕組みが組み込まれている。 信号伝送の帯域に関しての特徴はほかにもあり、MulticastとUnicastの切り替えが可能というのもNDIの特徴だ。接続が確立された機器同士でのUnicast伝送を行うというのがNDIの基本的な考え方だが、スイッチャーから配信機材やレコーダーといった複数に対して信号が送られる場合にはMulticastへと手動で切り替えが可能となっている。もちろん、全ての信号伝送をMulticastできちんと設定してしまえば、特に考えることもなく全ての機器で信号を受け取ることができるが、実際のシステム上では設定も簡易なUnicastで十分な接続がほとんどである。イントラネットを前提とするNDIのシステム規模感であれば、Unicast/Multicast両対応というのは理にかなっている。AoIPであるDanteも同じく基本はUnicastで、必要に応じてMulticastへと変更できるということからも、イントラであればこの考え方が正しいということがわかる。 また、IP機器ということで設定に専門的な知識が必要になるのではと思われるかもしれない。NDIは相互の認識にBonjour(mDNS)を使っている、これはDanteと同様である。同一のネットワーク上に存在している機器であれば自動的に見つけてきてくれるという認識性の高さは、Danteを使ったことのある方であれば体験済みだろう。もちろん、トラブルシュートのために最低限のIPの知識はもっておいたほうが良いが、ITエンジニアレベルの高いスキルを求められる訳ではない。汎用のEthernet Switchに対応機器を接続することで自動的に機器が認識されていき、一度認識すればネットワーク上に障害が生じない限りそのまま使い続けることができる。 IPビデオ伝送ならでは、クラウドベースへ 非圧縮映像信号のリアルタイム伝送を目的として策定された SMPTE ST-2110との比較も気になるポイントだろう。SMPTE ST-2110はMulticastを基本とした大規模なネットワークを前提にしており、Video PacketとAudio Packetが分離できるため、オーディオ・プロダクションとの親和性も考えられている。各メーカーから様々な機器が登場を始めているが、相互の接続性など規格対応製品のスタート時期にありがちな問題の解決中という状況だ。NDIについてはすでに製品のリリースから6年が経過し高い相互接続性を保っている。 NDIはイントラ・ネットワーク限定の単一のシステムアップを前提としているために、大規模なシステムアップのための仕組みという部分では少し物足りないものがあるかもしれない。WWW=World Wide Webを経由してNDIを伝送するというソリューションも登場を始めているが、まだまだNDIとしてはチャレンジ段階であると言える。その取り組みを見ると、2017年には200マイル離れたスタジアムからのカメラ回線をプロダクションするといった実験や、Microsoft Azure、AWSといったクラウドサーバーを介してのプロダクションの実験など、様々なチャレンジが行われたそうだ。なお、こちらの実験ではクラウドサーバーまでNDIの信号を接続し、そこからYoutube Liveへの配信を行うということを実現している。つまり、高い安定性が求められる配信PCをクラウド化し、複数のストリーミング・サービスへの同時配信を行う、といったパワフルなクラウドサーバーを活用したひとつの未来的なアイデアである。このようなクラウド・ベースのソリューションは、まさにIPビデオ伝送ならではの取り組みと言える。業界的にもこれからの活用が模索されるクラウド・サービス、SMPTE ST-2110もNDIもIP伝送方式ということでここに関しての可能性に大きな差異は感じないが、NDIが先行して様々なチャレンジを行っているというのが現状だ。 NDIをハンドリングする無償アプリ 次に、NDIの使い勝手にフォーカスをあてていくが、キーワードとなるのは最大の特徴と言ってもいいソフトウェアベースであるということ。それを端的に表している製品、NewTekが無償で配布しているNDI Toolsを紹介していこう。 NDIを活用するためのアプリケーションが詰まったこのNDI Toolsは、Windows用とMac用が用意され9種類のツールが含まれている。メインとなるツールはネットワーク内を流れるNDI信号=NDIソースのモニターを行うNDI Studio Monitor。NDI信号が流れるネットワークにPCを接続しアプリケーションを起動することで、信号のモニターがPCで可能となる。SDIやHDMIのようにそれぞれの入力を備えたモニターの準備は不要、シンプルながらもIPビデオ伝送ならではの機能を提供するソフトウェアだ。次は、VLCで再生した映像をNDI信号としてPCから出力できるようにするNDI VLC Plugin。こちらを立ち上げれば、外部のVideo PlayerをPCを置き換え可能となる。そして、PCから各種テストパターンを出力するNDI Test Patterns。高価な測定器なしにPCでテストパターンの出力を実現している。ここまでの3点だけでも、最初に調整のためのテストパターンを出力し、調整が終わったらVLCを使ってVideo再生を行いつつ、最終出力のモニタリングをNDI Srtudio Monitorで行う、といったフローがPC1台で組み上げられる。IPビデオ伝送ならではの使い勝手と言えるのではないだろうか。 利便性という面で紹介したいのがNDI Virtual Input。これはWindows用となり、PCが参加しているネットワーク内のNDIソースをWindows Video / Audioソースとして認識させることができる。つまり、NDIの入力信号をウェブカメラ等と同じように扱えるようになるということだ。なお、Mac向けにはNDI Webcam Inputというツールで同じようにWEBカメラとしてNDIソースを認識させることができる。すでにZoom / Skypeはその標準機能でNDIソースへの対応を果たしており、IPベースのシステムのPCとの親和性を物語る。そして、NDI for Adobe CCは、Premier / After Effectの出力をNDI信号としてPCから出力、イントラネット越しに別の場所でのプレビューを行ったり、プレイヤーの代替に使ったりとアイデアが広がるソフトウェアだ。他にもいくつかのソフトウェアが付属するが、ハードウェアで整えようとすればかなりのコストとなる機能が無償のソフトウェアで提供されるというのは大きな魅力と言える。 NDI Tools紹介ページ NDI Toolsダウンロードページ NDIの可能性を広げる製品群 続々と登場している製品群にも注目しておきたい。まずは、Medialooks社が無償で配布を行なっているSDI to NDI Converter、NDI to SDI Converter。Blackmagic Design DecklinkシリーズなどでPCに入力されたSDIの信号をNDIとして出力することができる、またその逆を行うことができるソフトウェアで、IPビデオらしくPCを映像のコンバーターとして活用できるアプリケーション。有償のソフトウェアとしてはNDI製品を多数リリースするBirdDog社よりDante NDI Bridgeが登場している。こちらはソフトウェアベースのDante to NDIのコンバーターで、最大6chのDante AudioをNDIに変換して出力する。ステレオ3ペアの信号を3つのNDI信号として出力することも、6chの一つのNDIの信号として出力することもできる使い勝手の良い製品だ。同社のラインナップにはNDI Multiveiwというアプリケーションもある。こちらは、その名の通りネットワーク上のNDI信号のMultiview出力をソフトウェア上で組み立て、自身のDisplay用だけではなくNDI信号として出力するという製品。ソースの名称、オーディオメーター、タリーの表示に対応し、複数のMuliviewをプリセットとして切り替えることが行える。 また、BirdDog社は現場で必須となるインカムの回線をNDIに乗せるというソリューションも展開、SDI / HDMI to NDIのコンバーターにインカム用のヘッドセットIN/OUTを設け、その制御のためのComms Proというアプリケーションをリリースしている。このソリューションはネットワークの持つ双方向性を活用した技術。映像信号とペアでセレクトが可能なためどの映像を撮っているカメラマンなのかが視覚的にも確認できるインカムシステムだ。もちろん、パーティラインなど高度なコミュニケーションラインの構築も可能。ハードウェアとの組み合わせでの機能とはなるが、$299で追加できる機能とは思えないほどの多機能さ。どのような信号でも流すことができるネットワークベースであることのメリットを活かした優れたソリューションと言える。 今回写真でご紹介しているのが、Rock oN渋谷でも導入している NewTek TriCaster Mini 4K、NDI自体を牽引しているとも言えるビデオスイッチャーである。NDIのメリットを前面に出した多機能さが最大のアピールポイント。先述した接続の簡便さ、また、双方向性のメリットとして挙げたPTZカメラのコントロール機能では対応機種であればIRIS、GAINなどの調整も可能となる。そして、TriCasterシリーズはソフトウェアベースとなるためVideo Playerが組み込まれている、これもビデオスイッチャーとしては画期的だ。さらには、Video Recorder機能、Web配信機能などもひとつのシステムの中に盛り込まれる。肝心のビデオスイッチャー部もこのサイズで、4M/E、12Buffer、2DDRという強力な性能を誇っているほか、TriCasterだけでクロマキー合成ができたりとDVEに関しても驚くほど多彩な機能を内包している。 📷 NDIを提唱するNewTekの代表的な製品であるTriCasterシリーズ。こちらはTriCaster Mini 4Kとなる。コンパクトな筐体がエンジン部分、4系統のNDI用の1GbEのポートが見える。TriCasterシリーズは、本体とコントロールパネルがセットになったバンドルでの購入ができる。写真のMini 4Kのバンドルは、エンジン本体、1M/Eのコンパクトなコントローラー、そしてSpeak plus IO 4K(HDMI-NDIコンバーター)が2台のバンドルセットとなる。そのセットがキャリングハンドルの付いたハードケースに収まった状態で納品される。セットアップが簡単なTriCasterシリーズ、こちらを持ち運んで使用するユーザーが多いことの裏付けであろう。 すでにInternetを越えて運用されるNDI イントラ・ネットワークでの運用を前提としてスタートしたNDIだが、すでにInternetを越えて運用するソリューションも登場している。これから脚光を浴びる分野とも言えるが、その中からも製品をいくつか紹介したい。まずは、Medialooks社のVideo Transport。こちらは、NDIソースをインターネット越しに伝送するアプリケーションだ。PCがトランスミッターとなりNDI信号をH.265で圧縮を行い、ストリーミングサイズを落とすことで一般回線を利用した伝送を実現した。フルクオリティの伝送ではないが、汎用のインターネットを越えて世界中のどこへでも伝送できるということに大きな魅力を感じさせる。また、データサイズを減らしてはいるが、瞬間的な帯域の低下などによるコマ落ちなど、一般回線を使用しているからこその問題をはらんでいる。バッファーサイズの向上など、技術的なブレイクスルーで安定したクオリティーの担保ができるようになることが期待されるソリューションだ。 BirdDog社ではBirdDog Cloudというソリューションを展開している。こちらは実際の挙動をテストできていないが、SRT=Secure Reliable Transportという映像伝送プロトコルを使い、インターネット越しでの安定した伝送を実現している。また、こちらのソリューションはNDIをそのまま伝送するということに加え、同社Comms ProやPTZカメラのコントロールなども同時に通信が可能であるとのこと。しっかりと検証してまたご紹介させていただきたいソリューションだ。 Rock oN渋谷でも近々にNewTek TriCasterを中心としたNDIのシステムを導入を行い、製品ハンズオンはもちろんのことウェビナー配信でもNDIを活用していくことになる。セットアップも簡便なNDIの製品群。ライブ配信の現場での運用がスタートしているが、この使い勝手の良さは今後のスタジオシステムにおけるSDIを置き換えていく可能性が大いにあるのではないだろうか。大規模なシステムアップに向いたSMPTE ST-2110との棲み分けが行われ、その存在感も日増しに高くなっていくことは想像に難くない。IP伝送方式の中でも筆頭格として考えられるNDIがどのようにワークフローに浸透していくのか、この先もその動向に注目しておくべきだろう。   *ProceedMagazine2021号より転載
Music
2021/07/21

Chimpanzee Studio 様 / 〜コンパクトスタジオのスタイルを広げるDolby Atmos〜

本職はプロのミュージシャン。ドラマーを生業としつつ、スタジオの経営を鹿児島で行う大久保氏。そのスタジオにDolby Atmosの制作システムを導入させていただいたので詳細をお伝えしたい。かなり幅広い作品の録音に携わりつつも、自身もミュージシャンとしてステージに立つ大久保氏。どのようにしてスタジオ運営を始め、そしてDolby Atmosに出会ったのだろうか?まずは、スタジオ開設までのお話からお伺いした。 90年代のロスで積み重ねた感覚 それではスタジオ開設に至る経緯をたどってみたい。鹿児島出身である大久保氏は学生時代より楽器を始め、広島の大学に進学。その頃より本格的に音楽活動を始めていたということだ。普通であれば、学生時代に特にミュージシャンとしての道を見出した多くの場合は、ライブハウスの数、レコーディングセッションの数など仕事が多くある東京、大阪、福岡といった大都市をベースに活動を本格化させるのが一般的である。しかし大久保氏は日本を飛び出し、全てにおいて規模が大きく好きな音楽がたくさん生まれたロサンジェルスの地へと一気に飛び立った。ロサンジェルスは、ハリウッドを始めとしたエンターテイメント産業の中心地。大規模なプロジェクト、本場のエンターテイメントに触れることとなる。なぜ、アメリカ、そしてロサンジェルスを選んだのか?その答えは文化の違いとのことだ。アメリカには町ごとに音楽がある。ロス、ニューヨーク、シアトル、アトランタ、それぞれの街にそれぞれの音楽がある。そんな多様性、幅の広さが魅力だという。 Chimpanzee Studio(チンパンジースタジオ) 大久保 重樹 氏 ロスに移住してからは、ミュージシャンとして活躍をする傍ら、住んでいた近くにあったレコーディングスタジオのブッキングマネージメント、日本からのミュージシャンのコンサルなどを行ったということだ。時代は1990年代、まだまだ日本のアーティストたちもこぞってアメリカまでレコーディングに出かけていた時代。そこで、自身もミュージシャンで参加したり、スタジオ・コーディネイトを行ったりと忙しい日々を過ごしていたそうで、ロスでも老舗のSunset Soundやバーニー・グランドマンにも頻繁に通っていたというからその活躍がいかに本格的なものであったかが伺える。 そんな環境下で、スタジオによく出入りをし、実際にレコーディングを数多く経験するうちに、録音というものに興味が湧いてきたということだ。まずは、自身のドラムの音を理想に近づけたい、どうしたらより良いサウンドへと変わるのか?そういったことに興味を持った。そして、今でも現役として使っているBrent Averillのマイクプリを入手することになる。今では名前が変わりBAE Audioとなっているが、当時はまさに自宅の一角に作業場を設け、手作業で一台ずつ製品を作っていた文字通りガレージメーカーだった時代。創業者の名前をそのままにメーカー名をBrent Averillとしていたのも、自身の名前をフロントパネルにサイン代わりにプリントした程度、というなんとものどかな時代である。 大久保氏は、実際にBrent氏の自宅(本社?)へ出向き今でもメインで活用しているMic Preを購入したそうだ。そのエピソードも非常に面白いものなので少し紹介したい。Brentさんの自宅は大久保氏とは近所だったというのも訪問したきっかけだった。そしてそこで対応してもらったのが、なんと現Chandler Limitedの創業者であるWade Goeke氏。その後、世界を代表するアウトボードメーカーを立ち上げることとなるGoeke氏の下積み時代に出会っているというのは、ロサンジェルスという街の懐の深さを感じさせるエピソードだ。 📷Pro ToolsのI/O関連とMicPreは正面デスクの右側に設置。上のラックにはDirectout ANDIAMO、AVID MTRX。下のラックには、DBX 160A、Brent Avirill NEVE 1272、Drawmer 1960が入っている。 ネットの可能性を汲み取った1997年、鹿児島へ そんなロスでの生活は1990年に始まったそうだが、時代はインターネットが普及への黎明期を迎えていた時期でもある。ロスと日本の通信は国際電話もあったが、すでにEメールが活用され始めていたということ。必然性、仕事のためのツールとしてインターネットにいち早く触れた大久保氏は「これさえあれば世界のどこでも仕事ができる」と感じた。アーティストならではなのだろうか?いち早くその技術の持つ可能性を感じ取り、活用方法を思いつく。感性と一言で言ってしまえば容易いが、人よりも一歩先をゆく感覚を信じ、鹿児島へと居を移すこととなる。ロスで知り合ったいろいろな方とのコネクション、人脈はインターネットがあればつながっていられる。それを信じて帰国の際に地元である鹿児島へと戻ったのである。帰国したのが1997年、日本ではこれからインターネットが本格的に普及しようかというタイミングである。その感性の高さには驚かされる。 鹿児島に帰ってからは、マンションでヤマハのアビテックスで防音した部屋を作りDAWを導入したということだ。最初はDigital PerfomerにADATという当時主流であったシステム。もちろんミュージシャンが本職なので、最初はエンジニアというよりも自分のスキルを上げるための作業といった色合いが強かったそうだ。そのエンジニアリングも、やればやるほど奥が深くどんどんとのめり込んで行き、自身でドラムのレコーディングができるスタジオの設立を夢に描くようになる。ドラムということで防音のことを考え、少し市街地から離れた田んぼの真ん中に土地を見つけ、自宅の引っ越しとともに3年がかりで作り上げたのが、現在のチンパンジースタジオだということだ。今は周りも住宅地となっているが、引っ越した当時は本当に田んぼの真ん中だったということ。音響・防音工事は株式会社SONAに依頼をし、Pro Toolsシステムを導入した。 スタジオのオープンは2007年。オープンしてからは、国内のアーティストだけではなく、韓国のアーティストの作品を手掛けることも多いということだ。チンパンジースタジオができるまではライブハウスや練習スタジオに併設する形での簡易的な録音のできる場所しかなかったそうで、鹿児島で録音に特化したスタジオはここだけとなる。チンパンジースタジオでの録音作業は、地元のCM音楽の制作が一番多いということだ。自身がメインで演奏活動を行うJazzはやはり多くなるものの、ジャンルにこだわりはなく様々なミュージシャンの録音を行っている。 地元ゆかりのアーティストがライブで鹿児島に来た際にレコーディングを行うというケースも多いということだ。名前は挙げられないが大御所のアーティストも地元でゆっくりとしつつ、レコーディングを行うということもあるということ。また面白いのは韓国のアーティストのレコーディング。特に釜山からレコーディングに来るアーティストが多いということだ。福岡の対岸に位置する釜山は、福岡の倍以上の人口を抱える韓国第2の都市でもある。しかし、韓国も日本と同様にソウルへの1極集中が起こっており、釜山には録音のできる施設が無いのが実情の様子。そんな中、海外レコーディング先としてこのチンパンジースタジオが選ばれることが多いということだ。 📷錦江湾から望む鹿児島のシンボルとも言える桜島。チンパンジースタジオは市街から15分ほどの距離にある。 📷Proceed Magazine本誌で別途記事を掲載している鹿児島ジャズフェスティバルのステッカーがここにも、大久保氏はプレイヤーとして参加している。 省スペースDolby Atmos環境のカギ 📷内装のブラッシュアップに合わせ、レッドとブラックを基調としスタイリッシュにリフォームされたコントロールルーム。右にあるSSL XL Deskはもともと正面に設置されていたものだが、DAWでの作業が増えてきたこと、またAtmosの制作作業がメインとなることを考えPCのデスクと位置が入れ替えられている。またリフォームの際にサラウンド側の回線が壁から出るようにコンセントプレートが増設されている様子がわかる。Atmos用のスピーカーはGenelec 8020、メインのステレオスピーカーはADAM A7Xとなっている。 スタジオをオープンさせてからは、憧れであったアナログコンソールSSL XL Deskを導入したりマイクを買い集めていったりと、少しづつその環境を進化をさせていった。そして今回、大きな更新となるDolby Atmos環境の導入を迎えることとなる。Dolby Atmosを知るきっかけは、とあるお客様からDolby Atmosでの制作はできないか?という問い合わせがあったところから。それこそAtmosとは?というところから調べていき、これこそが次の時代を切り拓くものになると感じたということ。この問い合わせがあったのはまさにコロナ禍での自粛中。今まで通りの活動もできずにいたところでもあり、なにか新しいことへの試みをと考えていたこともあってAtmos導入へと踏み切ったそうだ。 当初は、部屋内にトラスを組みスピーカーを取り付けるという追加工事で行おうという簡易的なプランだったというが、やるのであればしっかりやろうということなり天井、壁面の内装工事をやり直してスピーカーを取り付けている。レギュレーションとして45度という角度を要求するDolby Atmosのスピーカー設置位置を理想のポジションへと取り付けるためには、ある程度の天井高が必要であるが、もともとの天井の高さもあり取り付けの位置に関しても理想に近い位置への設置が可能であった。取り付けについても補強を施すことで対応しているという。合わせて、壁面にも補強を行いスピーカーを取り付けている。このような設置とすることで、部屋の中にスピーカースタンドが林立することを避け、すっきりとした仕上がりになっている。また、同時にワイヤリングも壁面内部に埋め込むことで、仕上がりの美しさにもつながっている。環境構築にはパワードスピーカーを用いるケースが多いが、そうなると、天井や後方のサラウンドスピーカーの位置までオーディオ・ケーブルとともに電源も引き回さなければならない。これをきれいに仕上げるためには、やはり内装をやり直すということは効果的な方法と言える。 📷天井のスピーカーはDolby Atmosのリファレンスに沿って、開き角度(Azimuth)45度、仰角(Elevation)45度に設置されている。天井が高く余裕を持って理想の位置へ設置が行われた。 今回のDolby Atmos環境の導入に関しては、内装工事という物理的にスピーカーを取り付ける工事もあったが、システムとしてはオーディオインターフェースをMTRXへと更新し、Dolby Atmos Production Suiteを導入いただいたというシンプルな更新となっている。XL Deskを使ったアナログのシステム部分はそのままにMTRXでモニターコントロールを行うAtmos Speakerシステムを追加したような形だ。録音と従来のステレオミキシングに関しては、今まで通りSSL XL Deskをメインとしたシステムとなるが、Dolby Atmosミックスを行う際にも従来システムとの融合を図った更新が行われている。やはり今回のシステム更新においてMTRXの存在は大きく、ローコストでのDolby Atmos環境構築にはなくてはならないキーデバイスとしてシステムの中核を担っている。 📷今回更新のキーデバイスとなったAvid MTRX、持ち出しての出張レコーディングなどでも利用するため別ラックへのマウントとなっている。 📷収録時のメインコンソールとなるSSL XL Desk。プレイヤーモニターへのCueMixなどはこのミキサーの中で作られる。アナログミキサーなのでピュアにゼロレイテンシーでのモニタリングが可能だ。 📷ブースはドラム収録できる容積が与えられ、天井も高くアコースティックも考えられた設計だ。 Dolby Atmos構築のハードルを下げるには エンドユーザーに関しては、ヘッドフォンでの視聴がメインとなるDolby Atmos Musicだが、制作段階においてスピーカーでしっかりと確認を行えることは重要だ。仕込み作業をヘッドフォンで行うことはもちろん、ヘッドフォンでのミックスを最終的にしっかりと確認することは必要なポイントではある。しかし、ヘッドフォンでの視聴となるとバイノーラルのプロセッサーを挟んだサウンドを聴くことになる。バイノーラルのプロセスでは、上下や後方といった音像定位を表現するために、周波数分布、位相といったものに手が加わることとなる。サウンドに手を加えることにより、擬似的に通常のヘッドフォン再生では再現できない位置へと音像を定位させているのだ。これは技術的にも必要悪とも言える部分であり、これを無くすことは難しい。スピーカーでの再生であればバイノーラルのプロセスを通らないサウンドを確認することができ、プロセス前のサウンドで位相や定位などがおかしくないか、といったことを確認できる。これは業務として納品物の状態を確認するという視点からも重要だと言える。 制作の流れとしては、スピーカーで仕上げ、その後にヘッドフォンでどのように聴こえるかを確認するわけだが、バイノーラルのプロセスを通っているということは、ここに個人差が生じることになる。よって、ヘッドフォンでの確認に関して絶対ということは無い。ステレオでのMIXでもどのような再生装置で再生するのかによってサウンドは変質するが、その度合がバイノーラルでは耳の形、頭の形といった個人差により更に変化が生じるということになる。ここで、何をリファレンスとすればよいのかという課題が生じ、その答え探しの模索が始まったところだと言えるだろう。バイノーラルのプロセスでは音像を定位させた位置により、音色にも変化が生じる。そういったところをスピーカーとヘッドフォンで聴き比べながら調整を進めるということになる。 制作のノウハウ的な部分に話が脱線してしまったが、スピーカーでサウンドを確認できる環境が重要であるということをご理解いただけたのではないだろうか。省スペースなDolby Atmos環境であっても、物理的に複数のスピーカーを導入するといった機材の追加は、その後に制作される作品のクオリティのために必要となる。また、システムとしてはAvid MTRXの登場が大きい。モニターコントローラーや、スピーカーチューニングなどこれまでであれば個別に必要であった様々な機器を、この一台に集約することができている。チンパンジースタジオでは、このMTRXの機能をフルに活用し、機材の更新は最低限にして、内装更新やスピーカー設置といったフィジカルな部分に予算のウェイトを置いている。前号でご紹介した弊社のリファレンスルームもしかり、そのスペースにおけるキーポイント明らかにし、そこに焦点をあてて予算を投入することで、Dolby Atmos Music制作環境の構築はそれほど高いハードルにはならないということをご理解いただきたい。 大久保氏は今回Dolby Atmosのシステムを導入するまでは、完全にステレオ・オンリーの制作を行ってきており、5.1chサラウンドのミキシング経験もなかったそうだが、今回の導入でステレオから一気にDolby Atmos 7.1.4chへとジャンプアップしている格好だ。お話をお伺いしたときには、まだまだ練習中ですと謙遜されていたが、実際にミックスもすでに行っており本格稼働が近いことも感じられる。今後はアーティストの作品はもちろん、ライブ空間の再現など様々なことにチャレンジしたいと意気込みを聞くことができた。鹿児島で導入されたDolby Atmosが、その活動に新たな扉を開いているようである。   *ProceedMagazine2021号より転載
Education
2021/07/14

洗足学園音楽大学様 / ~作編曲と録音の両分野をシームレスに学ぶハイブリッド環境~

クラシック系、ポピュラー系と実に18もの幅広いコースを持ち業界各所へ卒業生を輩出している洗足学園音楽大学。その中で音楽音響デザインコースの一角である、B305教室、B306教室、B307教室、B308教室の4部屋についてシステムの更新がなされた。作編曲と録音の両分野をシームレスに学ぶ環境を整えることになった今回の更新ではAvid S6が採用され、またその横にはTrident 78が据えられている。アナログ・デジタルのハイブリッドとなった洗足学園音楽大学の最新システムをご紹介したい。 日本国内で一番学生数が多い音楽大学 神奈川県川崎市高津区にある洗足学園音楽大学は1967年に設立された音楽大学で、音楽の基盤となるクラシック系からポピュラー系まで実に多彩な18のコースを有している。大学院まで含めると約2300人の学生が在学しており、現在日本国内で一番学生数が多い音楽大学である。 音楽大学の基盤となるクラシック音楽系のコースはもちろんだが、新しい時代の音楽表現を模索するポピュラー音楽系のコースとして、音楽・音響デザイン、ロック& ポップス、ミュージカル、ジャズコースなど多彩なコースがあり、特に近年は声優アニメソングやバレエ、ダンス、そして舞台スタッフを育成する音楽環境創造コースなど、音楽の周辺分野まで学べるコースも設立されており、近年ますます学生が増え続けているのも特徴である。 各分野には著名な教授陣がおり、音楽制作の分野ではゲーム音楽作曲家の植松伸夫氏、伊藤賢治氏、劇伴音楽やアニソン作曲家の山下康介氏、渡辺俊幸氏、神前暁氏、さらに録音分野の教授として深田晃氏や伊藤圭一氏などが教鞭をとっている。卒業後は国内の主要オーケストラや声楽家、ミュージカル俳優、声優、劇伴作曲家やゲーム会社、大手音楽スタジオエンジニアなどへ卒業生を多数輩出している。 作編曲と録音の両分野をシームレスに 現在、洗足学園では3つのスタジオを含む複数の音響設備を備えた教室が多数稼働している。メインスタジオではオーケストラや吹奏楽など大編成のレコーディングが可能で、ピアノやドラムなどをアイソレート可能なスモールブースも完備されている。これをはじめとする3つのスタジオではSSLのアナログコンソールが導入されており、音楽・音響デザインコースの生徒だけではなく、複数のコースの生徒がレコーディングなどの授業やレッスンで使用している。また、その他にも音響設備が備えられている教室の中には、Auro-3D 13.1chシステムを設置したイマーシブオーディオ用の教室が2つあり、Pro Tools UltimateとFlux:: SPAT Revolutionが導入され、電子音響音楽の制作やゲーム音響のサウンドデザインの授業が行われている。 📷学内にある大編成レコーディングも可能なメインスタジオ、ブースは天井高を高く取られている。 今回教室の改修が行われたのは、洗足学園音楽大学(以下、洗足学園)の音楽音響デザインコースの一角である、B305教室、B306教室、B307教室、B308教室の4部屋だ。近年、音楽・音響デザインコースを専攻する学生が増えており、既存のスタジオに加えてマルチブース完備のスタジオ増設が急務となったそうだ。主科で作編曲を学ぶクリエイター系の学生は音源制作をPC内でほぼ完結しているケースが多いが、さらに録音のスキルも身につけることによってより質の高い音源を制作できるようになる。このように作編曲と録音の両分野をシームレスに学ぶことができる環境を整えることが今回のテーマの一つとなった。そして、今回の改修でのもう一つのテーマは、アナログとデジタルが融合されたハイブリッドシステムを形成すること。これは授業内容なども考慮された大学ならではのシステム設計だろう。 📷今回改修が行われた4部屋の中でも、Avid S6を中心としたコントロールルームの役割を持つB305教室。 Avid S6とTrident 78によるハイブリッド 新たに導入されたPro Tools | MTRXは既存のHD I/Oと合わせてAD/DA 48chの入出力が可能。 今回改修された4教室は大きさがそれぞれ異なり、合わせて使用することで1つのスタジオとして稼働できるよう計画された。一番広いB305教室は、Avid S6を中心としたコントロールルームの役割を持つ。既存のスタジオが主にアナログ機器を中心とした設計なのに対し、今回改修された4教室ではデジタル中心のシステムを組むように考慮され、B305教室の既存Pro Tools HDXシステムには、Pro Tools | MTRXが追加導入された。これらのAvid S6システムは、録音はもちろんMAでも数多く導入実績があり、さらにDolby Atmosなどのイマーシブ・オーディオへの拡張性も申し分ない。授業においてPro Toolsを使用することが前提の教室で、これらの点を考慮した結果、Avid S6以外の選択肢はなかったそうだ。 S6の構成は5Knob・24Faderで、サラウンドミックスに対応できるようにJoystick Moduleも追加されている。もともとこちらの教室ではサラウンドシステムを導入しており、以前はJL CooperのSurround Pannerが使用されていた。なお、Joystick Moduleはファブリックの統一感のために専用スペースに納められている。Pro Tools | MTRXはADカード24ch(うち8chはMic Pre付き)、DAカード24chとSPQカードを増設。さらに既存のHD I/O 2台と組み合わせて、Pro ToolsとしてはトータルでAD/DA 48chの入出力可能なシステムへと強化された。HAはPro Tools | MTRXに増設された8chのほか、SSLやRME、FocusriteなどのMic Preが30ch以上用意されており、好きなMic Preを選択可能のほか、最大48chのマルチチャンネル録音も可能とした。 📷アナログパッチベイとHA類。SSL、RME、FocusriteなどのMic Preが30ch以上用意されている。 今回の改修で特徴となったのが、Avid S6横に設置されたTrident 78。デジタルとアナログのハイブリットシステムを構築しているわけだが、授業ではスタジオ録音を初めて経験する1年生から上級生まで様々な学生が使用するため、デジタル機器だけではなくアナログ機器についての学習も行えるようにハイブリッドシステムが採用されたということだ。Trident 78をHAやサミング・ミキサーとしても使用できるよう、Monitor OutはPro Tools | MTRXへ、Direct OutとGroup OutはHD I/Oへとそれぞれパッチベイ経由で接続されている。特にTrident 78のMonitor Outがパッチベイ経由なのは、デジタル中心のシステムではあるが、授業内容によってはTridentのみでも授業が行えるように、あえてAvid S6とPro Tools | MTRXを経由せずにも使用できるように設計された。 📷B305教室にはAvid S6 5Knob-24faderとTrident 78が並ぶ、アナログ機器の学習も行えるハイブリッドなシステムだ。Trident 78の下にはAV AmpとBlu-rayプレイヤー、Apple TVが収められている。 また、Pro Tools | MTRXはモニターコントロールとしても設定された。AD/DAのチャンネル数が豊富に拡張されているが、モニター系統はいたってシンプルに構成されており、ソースはPro Tools、TridentとAV Ampの3つに絞られたが、5.1chサラウンドで構成されている。AV AmpはBlu-rayプレイヤーのほか、Apple TVとHDMI外部入力が用意されており、持ち込みPCなど映像だけではなく音声もメインスピーカーからサラウンドで視聴が可能だ。民生機系の機材をAV Ampにまとめることで、音声のレベル差なども解消させている。 S6マスターセクションの隣に用意された専用スペースにはJoystick Moduleが収められている。 ソース切り替えに連動させるため、Pro Tools | MTRXとAES/EBU接続されたClarity M。 ワイヤレスで揃えられたマウスとキーボードは授業形態の自由度を高めるために、Avid S6とセパレートされた。 独立して使用可能なB308教室 マルチブースのなかで一番広いB308教室にはドラムセットが常設され、マイクの種類や位置など集中的にマイキングに関する授業やレッスンができるよう考慮された。これらの回線は壁面パネル経由でB305教室での録音を可能にしたほか、B308教室に設置されているPro Toolsシステムでも録音可能である。 こちらの独立したPro ToolsシステムではインターフェイスにPro Tools | Carbonが採用され、こちらでもPro Toolsを中心とした授業が行えるよう設計された。こちらの教室は単独で授業を行うことが多く、作曲系のレッスンで使用されることも多いため、Pro Tools以外にもLogicがインストールされている。こういったHost DAWが複数ある場合、それぞれのアプリケーションで同一インターフェイスを使用することが想定される。従来のインターフェイスであれば、それぞれのアプリケーションを同時に起動することは難しいが、Pro Tools | CarbonのAVB接続ではPro Toolsと他アプリケーションで同時にI/Oを共有できる。AVBのストリームをPro Tools専用の帯域とCore Audioとして使用可能な帯域とで分けることにより、Pro Toolsと他DAWが同時起動できる仕組みは、こちらの教室では非常に有効な機能だ。 📷B308教室の独立したPro Tools システムはPro Tools | Carbonをインターフェイスにし、AVB接続による他DAWと同時起動できる仕組みを活かした授業が行われている。また、こちらのClarity MはUSB接続となっている。 また、Pro Tools | Carbonの特長でもあるハイブリッド・エンジンにより、DSPエンジンの恩恵を受けることができるため、DSPプラグインを使用したり、ローレイテンシーでレコーディングをする、といった作業も可能だ。音質についても講師陣からの評価が非常に高く、作編曲と録音の両分野をシームレスに学ぶという点でも最適なインターフェイスである。システムの中心がPro Tools | Carbonではあるが、こちらの教室でも様々な授業が行われるため、B305教室と同様にHDMI外部入力にも対応したシステムが構築されている。こちらはAvid S6やPro Tools | MTRXのようなシステムはないため、モニターシステムはSPL MTCが導入されている。 4教室を連結、1つのスタジオに 今回の改修において最大の特徴である教室間を連携したシステムは、録音ができるマルチブースを完備するためでもあるが、昨今のコロナ対策として密集を避けて録音授業やレッスンを実施できるようにする目的もある。各教室は一般の録音スタジオのようにガラス窓などは設けられていないが、その代わりに各教室壁面に用意されたパネルには音声トランク回線のほか映像回線も用意されており、全てがB305教室とB308教室へ接続することができる。 📷4分割表示されたモニタディスプレイ。画面の上部には小型カメラが設置されている。 B305教室の映像系ラック。Smart Videohubでソースアサインを可能にしている。 4部屋に用意されたテレビモニターシステムは、モニタディスプレイと上部に設置された監視カメラ用の小型カメラから構成されている。B305教室では、各教室のカメラ回線がBlackmagic Design Smart Videohub Clean Switch 12x12に接続されており、各部屋への分配を可能にしている。さらに組み込まれたMulti View 4で4部屋のカメラ映像をまとめて1画面で表示し、各教室同士でコミュニケーションを可能にした。それだけではなく、分散授業の際にはB305教室の模様を全画面でディスプレイに表示し、B305教室では各部屋の学生の様子をモニタリングしたりと、授業内容によって自由にカスタマイズ可能である。 もちろんCUE Boxも各部屋に配置されているが、授業という形態を取るにあたり受講者全員がヘッドホンモニタリングするということは難しい。そのため、CUEシステムの1、2chをSDIに変換してモニタディスプレイの回線にエンベデッドし、各モニタディスプレイに分配、ディスプレイの音量ボリュームを上げることで、ヘッドホンをしていない受講者もCUE回線を聴くことができるよう設計された。こういった活用方法は一般の音楽スタジオでは見られない設計で、大学の教室ならではの特徴である。 ジャンルを越えていく教室の活用法 実際にAvid S6を使用して、まずはじめにPro Tools | MTRXの音質の良さが際立ったという。音質に定評のあるPro Tools | MTRXは音楽大学の講師陣からも絶賛だ。さらに、Avid |S6はレイアウトモードが大変便利だという。24ch仕様でフェーダー数に限りがあるため、レイアウトをカスタマイズできる機能は操作性が良く、柔軟にレイアウトを組むことができて再現性も高い。レイアウトデータがセッションに保存されるところも特徴で管理がしやすいのも特徴だ。視認性の高さという点では、ディスプレイモジュールに波形が表示され、リアルタイムに縦にスクロール表示されるのも視覚的に発音タイミングを掴みやすいので、MAなどで活用できそうだという。 実際にこちらの教室で行われる授業は、録音系の授業やレッスンでは実習が中心となり、学生作品や他コースからの依頼などで様々なジャンル、編成でのレコーディングやトラックダウンをS6で学び、またTrident 78、SSL Logic Alpha、RME Octamic、MTRXなどの様々なマイクプリの比較や、アナログとデジタルの音質の聴き比べなども行う。今後はMAやゲーム音響制作のレッスンでも使用予定だそうで、今回導入したJoystick Moduleもぜひ活用していきたいと語る。ほかにも、ジャンルの枠にとらわれないコース間のコラボレーション企画や学生の自主企画が多く執り行われており、2021年3月には、声優アニメソングコース、ダンスコース、音楽・音響デザインコース、音楽環境創造コースのコラボレーションによる、2.5次元ミュージカルが上映された。このようにユニークな企画が多く開催されているのも、学生の自主性を重んじる洗足学園ならではである。 また、コロナ禍により全面的な遠隔授業やレッスン室にパーティションを設置するなど、万全の感染対策を施した上で、いち早く対面でのレッスンを実現したことや、年間200回以上も上演されている演奏会では、入場者数の制限や無観客の配信イベントとして開催するなど、学生の学びを止めることなく、実践を積み重ねることで専門性を磨き、能力や技術の幅を広げている。 今後、このS6システムを活用して学生作品のコンペを実施し、優秀作品をこのスタジオで制作することを検討しているという。音楽大学のリソースを活かして、演奏系コースとのレコーディングプロジェクトを進めたり、こちらの教室を中核にした学内の遠隔レコーディングネットワークをさらに充実させる計画もある。アフターコロナでどの音楽大学も学びのスタイルを模索している中ではあるが、このように洗足学園ならではの制作環境を実現し、学びの場を提供し続けていくのではないだろうか。 洗足学園音楽大学 音楽・音響デザインコースで教鞭をとる各氏。前列左から、伊藤 圭一氏、森 威功氏、山下 康介氏、林 洋子氏。また、後列はスタジオ改修に携わった株式会社楽器音響 日下部 紀臣氏(右)、ROCK ON PRO 赤尾真由美(左) *ProceedMagazine2021号より転載
2 / 1112345678...»

Solution

Solution
制作環境を飛躍させる

Works

Works
システムの実例を知る

Brand

Brand
そのワークフローを実現する

主要取扱ブランドホームページ

リストに掲載がない製品につきましてもお気軽にご相談ください。

»問い合わせフォーム