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2025/01/02
音響芸術専門学校様 / 未来への入口となるイマーシブ・システム教室
1973年に、国内では初となる音響制作技術の専門教育機関として開校した音響芸術専門学校。この夏、同校教室に満を持してイマーシブ・システムが導入されたということで、早速取材に伺った。応じてくれたのは同校学校長・理事長の見上 陽一郎 氏。イマーシブ・サラウンドの要であるスピーカーの選定や、教育機関ならではのテクノロジーに対する視点など、これからイマーシブ・システムを教室へ導入するにあたっては大いに参考となるだろう。
シンプルかつ充実したシステム
今回、音響芸術専門学校が導入したのは7.1.4ch構成のイマーシブ・サラウンド・システム。学内の教室のひとつを専用の部屋にしたもので、教室の中央前方寄りの位置にトラスとスタンドを使用して組まれている。教室の隅に12Uの機器ラックが置かれており、システムとしてはこれがすべてというコンパクトさだ。機器ラックにはPro ToolsがインストールされたMac Studioのほか、BDプレイヤー、AVアンプ、そしてオーディオI/FとしてMTRX Studioが収められている。MTRX StudioにはThunderbolt 3オプションモジュールが追加されており、Mac StudioとはHDXではなくThunderboltで接続されている。そのため、HDXカードをマウントするための外部シャーシも不要となっている。
MTRX II、およびMTRX Studioに使用することができるThunderbolt 3モジュールの登場は、オーディオ・システム設計における柔軟性を飛躍させたと感じる。MTRXシリーズがHDXカードなしでMacと直接つながるということは、単にオーディオ I/Oの選択肢を広げるということに留まらず、256ch Dante、64ch MADIなどの接続性や、スピーカーマネジメント機能であるSPQをNative環境に提供するということになる。さらに、1台のMTRXに2台のMac(+HDX)を接続できるため、DADmanの持つ巨大なルーティング・マトリクスを活用した大規模なシステム構築をシンプルに実現することも可能だ。そして、こうした拡張の方向とは逆にNative環境でDADmanを使用できるということは、MacとMTRXだけで外部機器とのルーティングやモニターセクションまでを含めたオーディオ・システム全体を完成させることができるということを意味する。音響芸術専門学校のようにシステムを最小化することもまた、Thunderbolt 3モジュールの登場によって可能となるということだ。
スピーカーに選ばれたのはEVE Audioで、2Wayニアフィールド・モニタースピーカーSC205とサブウーファーTS108の組み合わせ。ハイト4本はStage Evolutionの組み立て式パイプトラスにIsoAcousticsのマウンターを介して、平面サラウンド7本はUltimate Supportのスピーカースタンドを使用して設置されており、部屋の内装に手を加えることなくイマーシブ・システムを導入している。
📷イマーシブ・システムの組み上げで課題となるのはハイトの設置をどう行うかだろう。今回の組み上げでは照明用の製品を数多くリリースするStage Evolutionのトラスを使用した。コストパフォーマンスに秀でているだけでなく、堅牢な作りでスピーカーを支えており、ここにIsoAcousticsのマウンターを使用してハイトスピーカーを設置となっている。このように内装工事を行うこともなく簡便にイマーシブ環境を構築できるのは大きな魅力だろう。
国内初となるEVE Audioによるイマーシブ構築
EVE Audioによるイマーシブ・システムの構築は国内ではこれが初の事例となる。今回の導入に先立ち、音響芸術専門学校では10機種におよぶスピーカーの試聴会を実施しており、並み居るライバル機を押さえてこのEVE Audioが採用された格好だ。試聴会には同校の教員の中から、レコーディング・エンジニア、ディレクター、バンドマン、映像エディターなど、様々なバックグラウンドを持つ方々が参加し、多角的な視点でスピーカーを選定している。
試聴したすべての機種に対して、帯域ごとのバランス、反応の早さ、 全体的な印象などを数値化した採点を各教員がおこなったところ、このSC205ともう1機種の点数が目立って高かったという。「試聴会の段階ではまったく予備知識なしで聴かせてもらって、評価の高かった2機種の価格を調べたら、もう1機種とSC205には価格差がだいぶありました。SC205は随分コスパよくない?という話になり、こちらに決まったという感じです」とのことで、必然的に数多くのスピーカーを揃える必要があるイマーシブ・システムにおいては、クオリティの高さだけでなく費用とのバランスも重要であることが改めてわかる。SC205の音については「すごくバランスがよくて、ハイもよく伸びているし低音のレスポンスもすごくクイック。そして、音量が大きめの時と小さめの時であまりバランス感が変わらないところが気に入った」とのことで、 こうした特性も多数のスピーカーを使用するイマーシブ環境において大きな強みと言える。
そのEVE Audioは、リボンツイーターの実力をプロオーディオ業界に知らしめたADAM Audioの創立者でもあるRoland Stenz 氏が2011年に新たにベルリンで立ち上げたメーカー。ADAM Audioと同じくAir Motion Transformer(AMT)方式のリボンツイーターが特徴的だ。一般にリボンツイーターはドームツイーターと比べて軽量のため反応が早く、高域の再生にアドバンテージがある一方で、軽量であるがゆえに能率においてはドームツイーターに劣ると言われている。
これを解決しようとしたのがAMT方式で、この方式ではリボンが蛇腹状に折りたたまれており、折り目に対して垂直方向に電流が流れるように設計されている。すると、蛇腹のヒダを形成する向かい合った面には必ず逆方向の電流が流れるため、ローレンツ力(フレミングの左手の法則で表される電磁場中で運動する荷電粒子が受ける力)によってヒダは互いに寄ったり離れたりを繰り返す。この動きによって各ヒダの間の空気を押し出す形となり、従来のリボンツイーターと比べて約4倍の能率を得ることができるとされている。
また、EVE Audioは当初からDSPによるデジタル・コントロールをフィーチャーした野心的なブランドでもある。再生する帯域に対する適切なユニットのサイズ設計が難しいとされるリボンツイーターを採用しているEVE Audioにとって、クロスオーバーを精密にコントロールできるデジタル回路の搭載はまさに鬼に金棒と言えるだろう。アナログ的な歪みがそのブランドの味だと捉えることもできるが、スピーカー自体が信号に味をつけるべきではないというのがEVE Audioのコンセプトだということだ。
導入の経緯と今後の展望
2021年にApple MusicがDolby Atmosに対応したことをきっかけに、音楽だけでなくあらゆる分野で国内のイマーシブ制作への関心は年々高まっていると感じる。今回の音響芸術専門学校のイマーシブ・システム導入も、そうした流れを受けてのものかと考えていたのだが、専門学校と最新テクノロジーとの関係というのはそれほど単純なものではないようだ。
📷学校法人東京芸術学園 音響芸術専門学校 理事長/学校長 見上 陽一郎 氏
「最先端のものを追いかけても、それが5年後、10年後にはもう最先端ではなくなるし、なくなってしまっているかも知れない。2年間という限られた時間の中で、何がコアで何が枝葉かということは見極めていかないといけません。」と見上氏が言うとおり、軽々に流行りを追いかけてしまうと、学生が身につけなければならなかったはずの技術をないがしろにしてしまう結果になりかねない。専門学校と四年制大学のもっとも大きな違いは、専門学校が実際の現場で活用できる技術の教授をその主な目的としている点にある。それぞれの校風によって違いはあるものの、専門学校と比較すると、大学という場所は研究、つまり知的探求にかなりの比重を置いている場合がほとんどである。学生の卒業後の進路を見ても、大学で音響研究に携わった学生はオーディオ・エンジニアにはならずにそのまま研究職に就くことも多く、制作現場に就職する割合は専門学校卒業生の方がはるかに高いのだという。
極論すれば、大学ではステレオ制作を経験させることなくいきなりイマーシブ・オーディオに取り組ませることも可能であり、将来的にはそうした最新技術をみずから開発できるような人材の育成を目指しているのに対して、制作現場でプロフェッショナルなエンジニアとして活躍できる人材の育成が目的である専門学校にとっては、イマーシブ制作よりも基本となるモノラルやステレオでの制作技術を2年間で身につけさせるということの方が絶対的な命題ということになる。
そうした中で、同校がイマーシブ・システムの導入に踏み切ったきっかけのひとつは、実際に現場で制作をおこなうことになる専門学校生が在学中にイマーシブ制作に取り組むべき時期が来たと感じたからだという。「私はJASのコンクール(RecST:学生の制作する音楽録音作品コンテスト)の審査員や一般社団法人AES日本支部の代表理事を務めているのですが、そのどちらの活動においても、今は大学や大学院に在籍している方々が出してくる作品で2チャンネルのものというのは非常に少くて、大半がイマーシブ・オーディオ系なんです。ただし、 学生時代にそういったマルチチャンネル再生の作品を一生懸命作った大学生や大学院生の大半が、レコーディングエンジニアやMAエンジニアの道へ進まず、実際にその作品づくりをするエンジニアになるのは当校の卒業生など専門学校出身者が中心です。そこで、これからこういう分野リードしていくためには、やはり私たちの学校でもこうしたシステムを導入して、イマーシブ・オーディオ作品を専門学校生が生み出していくようにしないといけないよね、ということをこの2、3年じわじわと感じていたんです。」
導入されたばかりのイマーシブ・システムの今後の運用については、大きく分けてふたつのことを念頭に置いているという。ひとつは、すべての学生にイマーシブ・サラウンドという技術が存在することを知ってもらい、その技術的概要に関する知識を身につけ、実際の音を体験させるということ。「こういうシステムを組むときにはどういう規格に基づいて組まれているのかとか、どんな機材構成になっているのかとか。どのようなソフトを使って、どういう手順で作品が作られているのか。ここまでは全学生を対象に授業でやろうと考えています。つまり、卒業後に現場で出会った時に、イマーシブ・オーディオの世界というのが自分にとって未知のものではなくて、授業でやりました、そこから出てくる音も聴いています、というような状態で学生を世に送り出そうということです。これが一番ベーシックな部分で、全学生が対象ですね。」
もうひとつは、特に意欲の高い学生に対してカリキュラムの枠を超えた体験を提供すること。同校は27名のAES学生会員を擁しており、これは日本の学生会員の中では圧倒的に人数が多い。彼らはAESやRecSTを通して同年代の大学生たちのイマーシブ作品から大いに刺激を受けているようで、卒業制作で早速このシステムを使いたいという学生もいるという。そうした学生の意欲に応えるということも、今回の導入の理由になっているようだ。「2年生の夏ごろになると、2chなら大体ひと通りのことはできる状態になっています。そうした学生たちはこのシステムもすんなり理解できますね。もう、目がキラキラですよ、早く使わせろって言って(笑)。」
ちなみに、機器ラックの上にはPlayStation 4が置かれているのだが、 学校としてはこのシステムを使用してゲームで遊ぶことも奨励しているという。「語弊があるかも知れませんが、ここは学生に遊び場を提供しているようなつもり。作品づくりでもゲームでも、遊びを通してとにかくまずは体験することが重要だと考えています。」とのことだ。実際に学生はゲームをプレイすることを通じてもイマーシブ・オーディオの可能性を体験しているようで、ここでFPSをプレイした教員がとてつもなく良いスコアを出したと学内で話題になったそうだ。見上氏は「そうした話はすぐに学生の中で広まります。そうやって、興味を持つ学生がどんどん増えてくれたらいい」と言って微笑んでいた。
NYやロンドンへの出張の際は、滞在日数よりも多い公演を見るほどのミュージカル好きという見上氏だが、海外の公演で音がフロントからしか鳴らないような作品はもうほとんどないのだという。それに比べると国内のイマーシブ制作はまだまだこれからと言える。その意味で、将来、制作に携わる若者たちが気軽にイマーシブを経験できる場所ができたことは確かな一歩である。「このくらいの規模、このくらいのコストで、こういうところで学生たちが遊べて作品を作って...これが当たり前って感じる環境になってくるんだったらそれで十分ですよね」と見上氏も言うように、イマーシブ・オーディオ・システム導入に対する気持ちの部分でのハードルが少しでも下がってくれればよいと感じている。
*ProceedMagazine2024-2025号より転載
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2024/12/26
立命館大学 映像学部 大阪いばらきキャンパス 様 / 驚きの規模感で整備された日本唯一の映像学部
2024年4月、大阪いばらきキャンパスへ移転した立命館大学映像学部。その移転は学部が入る建物から教室に至るまですべてが新設となるビッグプロジェクトとなった。映像学科のコンセプトに沿うように構成された最新機材の導入のうち、ROCK ON PROでお手伝いさせていただいた「映画芸術」ゾーンの施設を中心にご紹介していきたい。
最新のキャンパスへ移転
関西を代表する私立大学である立命館大学。その歴史は古く、1900年の京都法政学校を創設年として124年の歴史を持つ国内でも有数の歴史ある大学である。「立命」の名は、孟子の「尽心章句」の一節である「殀寿(ようじゅ)貳(たが)わず、身を修めて以て之れを俟(ま)つは、命を立つる所以(ゆえん)なり」に由来する。「自由と清新」の建学の精神と「平和と民主主義」の教学理念に基づき、精力的に最新学問分野を修める学部を設置している大学である。この精神は学祖である西園寺公望の国際的な感覚、新しいものへの柔軟な対応、そういったポリシーが受け継がれているのではないだろうか。
今回の移設先である立命館大学大阪いばらきキャンパスは衣笠、草津に次ぐ最新のキャンパスで2015年に開講した真新しいキャンパスである。JR京都線と近畿道に囲まれた立地となるため、移動中に目にしている方も多いのではないだろうか。ちなみに、このキャパス用地の前身はサッポロビール大阪工場である。こちらのほうが馴染みのある方もいるかも知れない。このキャンパスに作られたH棟へは今回ご紹介する映像学部と、情報理工学部が移転している。
日本唯一の総合大学における映像学部
📷Dolby Atmos Cinemaの認証を受けたシアター教室の入口。誇らしげにロゴが掲げられている。音響施工は日本音響エンジニアリング、シネコン等の施工実績のあるヒビノスペーステックがシステム工事を行っている。
ここへ移転した映像学部は、2007年に京都衣笠キャンパスで開講した、立命館大学にとって比較的新しい学部。現在の16学部の中で7番目に新しい学部となるそうだが、その2007年以降にも新設学部が数々あるということからも積極的に新しい学問分野を切り拓こうという立命館大学の姿勢がうかがえる。
映像学部(特に映画芸術ゾーン)は、衣笠キャンパスの直近にある太秦の松竹撮影所との産学連携での活動を行ってきたが、前述の通り2024年4月に大阪いばらきキャンパスに新しく建設されたH棟へと移転を行った。スタジオなどの設備も新規のキャンパスで完全新規での設計が行われ、移転におけるテクノロジー・ターゲットであるイマーシブ・オーディオへの対応を実現している。
芸術分野の学部の中に学科として映像の分野が設置されていることはあるが、こちらは学部として総合的に映像分野をカバーする国内でも稀有な存在。芸術系大学以外では唯一となる映像系の学部であり、単純に映像学部ということで括れば日本唯一となる学部である。また、芸術系の大学ではなく総合大学に設置されているということで、専門性の高い技術者を養成するというだけではなく、映像作品をクリエイトしプロデュースする、という内容の学習を行う学科であるということもその特色のひとつ。
映像学部にはその中に特定の学科が設置されているわけではなく、「映画芸術」「ゲーム・エンターテインメント」「クリエイティブ・テクノロジー」「映像マネジメント」「社会映像」の5つからなる学びのゾーンが展開されている。ゾーンと言うとわかりにくいかもしれないが、具体的には各分野の特色ある講義を選択し、3,4年時のゼミ選択で各分野に特化した学習を行うということになっている。実習授業では実際の映像作品制作を行うことを中心に、幅広い映像分野のテクノロジーに触れ、作品を作るための素養を学ぶということになる。本格的なプロの現場の機材に触れ、それを使用した制作を実習として体験する。どうしたら作品を作ることができるのか、作品を作るためには何をしなければならないのか、ということを総合的に学習しイノベーションあるクリエイターを輩出している。
設置されているゾーンを見ると映像に関連する幅広い分野が網羅されていることがわかる。今回お話を伺った「映画芸術」だけでも、プロデュース、監督、撮影、照明、脚本、演出、音響と7つの分野に特化した実習授業が設置されているということだ。実写からCG、ゲーム、VRに至るまで映像を使った表現すべてを学ぶことができる。そして、それらをプロデューサー目線で学ぶことができるというのが映像学部の最大の特長であろう。
1年時には、実習授業で短編作品を制作し、一つ一つの機材の使い方やその役目を学びながら手探りで作品創りというものに向きあう。その際にも教員は、何を伝えたいのか?何を表現したいのか?という全体像を学生自身が考えた上で、制作をサポートしているということだ。また、「映画芸術」のゼミを受講する学生は、卒業制作として1本の映像作品制作が必修となる。芸術系の大学であればその作品自体が卒業制作となるが、映像学部では作った映像作品に対して自身の学んできた分野に依った解説論文を書き、教授陣の口頭試問を受けるということだ。作品を作るということはあくまでも結果であり、それまでのプロセス、工夫、課題や成果などを考察することで全体を俯瞰した視点を学んでいく。まさにプロデューサー的な視野を持つということを目的としていることがよく分かるカリキュラムである。
立命館大学 映像学部
松蔭 信彦 教授
1961年 大阪生まれ。日本映画・テレビ録音協会会員。
1981年 フリーの録音助手として東映京都テレビプロダクションで、『銭形平次』 (主演大川橋蔵)、『桃太郎侍』(主演高橋英樹)など TV 時代劇を中心に従事した 後、映画『夢千代日記』『吉原炎上』『華の乱』など助手で参加し、1991年『真夏 の少年』で映画録音技師デビュー。以後、映画・TV ドラマ等で活動する。 主な作品歴は『魔界転生』、『男たちの大和 / YAMATO』、『憑神』、『利休にた ずねよ』、『海難 1890』、『エリカ 38』(整音担当)、『名も無い日』(整音担当) など、二度の日本アカデミー賞最優秀録音賞受賞、二度の日本アカデミー賞優秀録音 賞受賞。現在、立命館大学映像学部で後進の育成にも尽力している。
教室、MA、Foley、シアター、驚きの規模感
それでは、大阪いばらきキャンパスの映像作品に対する音響制作のための学習設備を列挙して紹介していきたい。5.1chのサラウンドを備えたMA1、Dolby Atmosの設備を持つMA2、そしてそれぞれのMA室に対応したSound Design Room1(5.1ch)、2(Dolby Atmos)。MA1,2には共有のアナウンスブースが設置されている。さらに、ADRとFoleyがある。ADRとFoleyはL,C,Rの3chのモニター環境が備わっており、収録で使用されていない際には仕込み作業を行える環境としても考えられている。さらに、基礎的な機器の操作を学んだり、ヘッドホンでの仕込み作業に使用される音響編集実習室がある。映像編集など総合的な確認用の設備として、Dolby Atmos Cinemaの視聴が可能なシアター教室。スクリーンでのグレーディングを実現するスクリーニングルームは、小規模な試聴室としての機能も持ち、こちらもDolby Atmos Homeの視聴環境を備えている。映像編集に関しては、8つの編集室と実習用のPCが並んだ教室とCGやデジタルアーカイブ用の実習室が2室あるという充実の環境。
このように、ざっと挙げただけでもその充実ぶりはおわかりいただけるだろう、これでも本誌執筆時点では「ゲーム・エンターテインメント」「映像マネージメント」のゾーンが衣笠キャンパスにまだ残っており、衣笠キャンパスと松竹スタジオをサテライトとして運用されているということ、驚きの規模感である。映像学部の1学年の定員は、2024年度から240名。前年までは160名だったということなので、大阪いばらきキャンパス移転で設備が増強されたことで1.5倍に増員されたということになる。
実習室
📷各デスクにiMacが設置され、Audio I/FにSSL2+、HPアンプ、スピーカーが準備された音響編集実習室。Pro Toolsがインストールされ、ここでDAWの操作方法などの実習授業が行われる。空いている時間には自由に使うことができるため、作品の仕込み作業などを行う生徒も多いということだ。
📷左)こちらは映像編集実習室となる。Avid Media Composer、Adobe Premier、Blackmagic Design DavinciがインストールされたWindowsでの実習が行われる。NLEを使った様々な作業を充実のスペックの環境で学ぶことができるこの実習室、さすがに各席にMaster Monitorは設置されていないが、プレビュー用にEIZOのColorEdgeシリーズが採用されている。中)シンプルにPCディスプレイが並んでいるこの部屋はCG編集実習室。WindowsベースでCG制作の実習が行われる部屋だ。完成した作品を書き出すレンダリング作業を行うために、別途サーバールームにレンダリングファームが準備されている。右)音響編集実習室を学生側から見るとこのような具合だ。DAWでの作業を行うための十分な環境が整えられていることがわかる。
履修争奪戦?人気講座を生む設備
それぞれの設備の内容に触れていこう。まずは、1~2回生の実習で主に利用されるMA1。5.1CHのサラウンド・モニター環境を備えたダビング規模の部屋となる。必修授業でも使うということで多くの生徒が着席できるようになっているこの部屋は、3台のAvid Pro Toolsが導入されている。「映画芸術」ということで映画のダビングを模したシステムアップが行われており、ダイアログ、効果音それぞれの再生用Pro Toolsとダビング用のレコーダーPro Toolsの3台体制である。このシステムにより、映画ダビングで何が行われているのか、どのようなワークフローで作業が行われているのかを実習の中で体験することができるようになっている。
サラウンドシステムに関しては、ウォール・サラウンドではなくシングル・スピーカーによるものだが、実際のウォールサラウンドでの視聴を体験するためにシアター教室が存在しているので、MA室ではそこまでの設備は導入していないということだ。ただし、以前の衣笠キャンパスでは試聴室に唯一の5.1chシステムがあるのみであったことからすると、大きくその環境は進化したと言えるだろう。実際のところ、後述するMA2でのDolby Atmos視聴の体験とともに学生のモチベーションも上がり、今期3回生のゼミ課題の作品では5本の5.1ch作品が制作された。
MA1
📷MA1と呼ばれる5.1chサラウンドの部屋がこちら。32fader仕様のAvid S6が導入され、Dialog、SE、Dubber3台のPro Toolsによるダビング作業の再現が行えるシステムが組まれている。それぞれのPro ToolsにはAvid MTRXがI/Oとして採用されており、最新のシステムが構築されている。スピーカーはGenelecの8461が特注で作られたスタンドに置かれている。さすがにL,C,Rchすべてをスクリーンバックに設置するのは無理があったため、センタースピーカーのみスクリーンバックへの設置となっている。教室ということもありスクリーン脇には演台がある。この写真後方には授業の際に学生が座るベンチシートが置かれている。
📷左)このMA1に対応した仕込み部屋がこちらのSound Design 1。スピーカーにはGenelecの8431、コンソールはAvid S4というこちらも充実の仕様だ。MA1との使い勝手含めた互換性を考えて作られた仕込み用の部屋となる。右)MA1に導入された32fader仕様のAvid S6。
そして、3~4回生の音響実習の講義室としても活用されているMA2。こちらは今回導入にあたってのコンセプトであるイマーシブ・サウンドを実践するために、Dolby Atmos Home準拠の設備を持ったMA室だ。衣笠キャンパス時代の音響実習は定員を満たさないこともあったそうだが、やはりDolby Atmosでの視聴体験という新しいMA2室の魅力の成せるところで、大阪いばらきキャンパスに移転した途端に倍率1.5倍となる人気講座になったそうだ。ちなみに、実習講座を受講することでその設備の使い方を学べば、その後は自由に空き時間でそれらの部屋を使うことができるようになるということ。この仕組みは設備利用のライセンス制だと教えていただいたが、1.5倍という高倍率はこの利用ライセンスを獲得するための履修争奪戦という様相を密かに現しているのかもしれない。
MA2には3台のPro Toolsが設置されている。それぞれの役割はMA1と同様にダイアログ、効果音、ダビングであるが、こちらではさらにDolby Atmosを学ぶためにHT-RMUが導入されている。単独で準備されたHT-RMUはHome対応のものではあるが、Cinemaであったとしてもシグナルのルーティングなどに差異はなく、ワークフローも同一であり、映画のダビングのシステムを理解するための設備としては十分なものである。
これらのMA室に対応した仕込み部屋となるのがSound Design 1と2。Sound Design1はMA1に対応している5.1chの仕込み部屋。Sound Design 2はMA2に対応したDolby Atmos視聴が可能となる部屋である。それぞれPro Toolsは1台が設置された環境となっている。学生に開放されたこのようなサラウンド対応の仕込み設備があるということ自体が珍しいなか、Dolby Atmos環境の部屋までが提供されているのは本当に贅沢な環境である。
MA2
📷Dolby Atmos Homeに対応した7.1.4chの再生環境を備えたMA2。スピーカーはGenelec 8441が採用されている。すべて同一型番のスピーカーということでつながりの良いサラウンド再生環境が実現されている。スクリーンは150インチと大型のものが導入され、「映画芸術」ゾーンとして映画を強く意識した設備であることがわかる。なお、L,C,Rchのスピーカーはしっかりとこのスクリーンの裏に設置された「映画」仕様である。コンソールはAvid S6 24Fader、この導入により他の部屋と共通した操作性を持たせることに成功している。もちろん、このAvid S6とDolby Atmosの制作環境の親和性に関しては疑いの余地はない。MA1と同様のDialog、SE、Dubberの3台に加え、HT-RMUも導入された4台体制でのシステムアップとなっている。
📷左)MA2に対応したSound Design 2がこちら。こちらもGenelec 8431による7.1.4chの設備である。Avid S4との組み合わせで高い互換性を確保した仕込みの設備となっている。Dolby Atmosのレンダラーに関しては、Pro ToolsのInternal RendererもしくはStand alone Rendererによる作業となっている。右)こちらのMA2に導入されたのはAvid S6 24Faderだ。
📷左)MA1、MA2の間に設置されているアナウンスブース。横並びで2名が座れるスペースが確保されている。カーテンが開けられている方がMA2、閉まっている右側の窓の向こうがMA1である。収録用のマイクプリにはGrace m108が準備され、マイクはNeumann U87Ai が常備されている。Avid S6のコンソール上からもリモートコントロールできるようにセットアップされている。右)MA1,2共用のマシンルーム。左右対称に左側にMA1の機材、右にMA2の機材が設置されている。KVMとしてはIHSEが採用されており、MA1,2すべてのPCがKVM Matrixに接続されている。PCに関してはMacProとMacStudioが導入されている。
それでは、ここからは立命館大学 映像学部の充実したファシリティをブロックごとにご紹介していこう。
Foley
📷L,C,Rchのモニターが置かれたFoleyのコントロールルーム。この部屋もGenelec 8431が採用されている。Avid S4が設置されており、仕込み部屋としての使い勝手も考えられた仕様となっている。マイクプリにはGraceのm108が各部屋共通の機材として導入され、Avid S4からのリモートコントロールを可能としている。Foley Stageも充実の設備で、水場から足音を収録するための数々の種類の床が準備されている。部屋自体の広さもあり、国内でも有数の規模のFoley Stageとなっている。そして何と言っても天井が高いので、抜けの良い音が収録できそうな空間である。またこの写真の奥にある倉庫には多種多様な小物などが収納されている。Foleyに使われる小物の数々はそのFoley Stageの歴史でもあり、今後どのような小物が集まって収められていくのか数年後にも覗いてみたいところである。
ADR
📷こちらもL,C,RchにGenelec 8431が置かれたADR。ブース側は十分な広さがあり、4人並びでのアニメスタイルの収録にも対応できるキャパシティーを持っている。天井も高いのでマイクブームを振っての収録も可能だろう。アフレコ、音楽収録どちらにも対応のできる広い空間である。この部屋だけが唯一Avid S1の設置された部屋となる。収録用のマイクはNeumann TLM103、KM184,Audiotechnica AT4040といった定番が揃っている。
サーバールーム / レンダリングファーム
📷今後の拡張を考えた余裕のあるスペースにサーバールーム、兼レンダリングファームが置かれている。実習用のファイルサーバーとしてAvid Nexisが導入されMAルームなど3~4年生が卒業制作を行う部屋のPCが接続されている。PCがずらりと並んだ実習室はその台数があまりにも多いため接続は見送っているということだ。デスクトップPCが棚にずらりと並んでいるのがレンダリングファームである。処理負荷の大きいレンダリング作業をPCの並列化による分散処理を行うことで効率的に完成作品を作ることができる。このような集中して処理を行う仕組みを導入することで、教室の個々のPCのスペックを抑えることができるスマートな導入手法だと感じるところだ。
映像編集室
📷卒業制作などの映像編集を行うための部屋がこちら。SONYのMaster Monitorが置かれたしっかりとした編集室になっている。PCにインストールされているソフトは実習室と同じくAvid Media Composer、Adobe Premier、Blackmagic Design Davinciとのこと。この設備を備えた映像編集室が8部屋も用意されている。この規模感は大規模なポスプロ並みである。それでも卒業制作の追い込み時期になるとこれらの設備は争奪戦になりぎっしりとスケジュールが埋まってしまうということだ。学年あたりで240名も在籍しているのだからこれでも足りないくらいということなのだろう。
Theater
📷約280席のスタジアム状に座席が並んだ大教室がこちらのシアター教室。写真を見ていただいてもわかるようにただの大教室ではなく、Dolby Atmos Cinemaの上映が可能な部屋である。BARCOのシネマプロジェクターとDCPプレイヤーにより映画館と遜色ないクオリティーでの上映が可能である。オーディオもDolby CP950が導入されたDolby Atmos認証の劇場となっている。スピーカーはJBL、パワーアンプはCROWN DCiシリーズ、プロセッサーはBSS BLUと昨今のシネコンなどでの定番の組み合わせである。通常の授業で大教室としての利用や、学生の作品の視聴など様々な用途に活用されているとのこと。将来的にはこの教室にコンソールを接続してダビングとして活用できないかという壮大なアイデアもあるということだ。そうなったら国内最大のダビングステージの誕生である。ぜひとも実現してもらいたい構想だ。
Screening Room
📷30席程度の座席を持つScreening Room。メインの用途としてはカラーグレーディングのための設備だが、そこにDolby Atmos Homeの再生環境が導入されている。これは試写室としての活用も考えられた結果であり、映像はもちろんだがオーディオも充実した視聴環境が構築されている。ウォール・サラウンド仕様の7.1.4chの配置で、JBLのシネマスピーカーが設置されている。フロントのL,C,Rchはもちろんスクリーンバックにシネマスピーカーの採用である。プロジェクターにはDCP Playerも登載され、試写を行う気満々のシステムアップとなっている。
お話を伺った、映画サウンドデザインを専門とする松陰 信彦 教授は、長年映画の録音技師として活躍をされてきた方。研究室にお邪魔したところ、博物館クラスのNAGRAやSONYのポータブル・レコーダー(その当時は持ち運べること自体に価値があった!)が完動状態で置かれていた。映画録音に対する深い造詣、そしてそれを次世代へと伝える熱い思い。学生には「今しかできないこと、社会人になったらできないかもしれないことを、この環境で学び実践して欲しい」という思いを持っているということ。大学であるからこそ、その設備と時間を大いに活用して取り組めることも多いし、それを実現できる環境を整えていきたいとのことだ。機材面はもちろんのこと、技術サポートやノウハウの共有などで私たちも連携し、その想いを支えていければ幸いである。
*ProceedMagazine2024-2025号より転載
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2024/09/10
放送芸術学院専門学校 様 / 幅広い授業に対応するスタジオシステムの最大公約数
放送芸術学院専門学校(BAC)は、大阪市北区天満橋にある放送、音響、映像に関する人材を育成する専門学校であり、関西で唯一となる放送業界が創った学校。また、eスポーツや声優といった分野を中心にした姉妹校、大阪アニメ・声優&eスポーツ専門学校も併設されており、学生の皆さんが様々な業界へのアプローチを行うことができるよう幅広いカリキュラムが用意されている。今回は放送芸術学院専門学校に新設されたコントロールB / Cスタジオの導入事例をご紹介したい。
業界の現場と繋がりが深い放送人材育成校
放送芸術学院専門学校は、その設立経緯にも学校を特色づける大きな特徴を持っている。元々は制作プロダクションの株式会社東通が放送業界の人材育成を目的に創立した学校、つまり放送業界が人材育成のために立ち上げた学校というわけだ。そのため、産学連携教育と銘打って企業の依頼を受けて実際にオンエアされる番組を制作したり、ステージに出演したりと現場で学ぶ実践的なカリキュラムが多数組まれており、いまも放送業界との繋がりが深い。1994年に数多くの専門学校を擁する滋慶学園グループの運営となり、現在の校舎も2012年4月に天満橋に完成、今回取り上げるコントロールB / Cスタジオもこの天満橋校舎に新設されている。2014年の竣工当初からはPro ToolsとMedia ComposerをSatellite Linkで同期させるシステム運用としていたが、今後より音声に特化した授業にも対応するために今回のスタジオ改修が計画された。
幅広いカリキュラムに対応するシステムとは
コントロールルーム
レコーディングスタジオB
レコーディングスタジオC
📷広さを充分にとったスペースで行われる授業は収録のみならず多岐にわたる。このスタジオに挟まれるようにコントロールルームが設置され、両スタジオへの対応はもちろん、校内に張り巡らされたDanteのネットワークで別階にある施設の収録もここで行うことができる。
数多くのカリキュラムを抱える同校の設備である、求められる機能も多岐にわたることとなった。収録関連の授業で信号の流れを把握するためにコンソールは必須となりながらも、そのほかの各コースの授業での使用も想定して、MA・アテレコ・ミックスなど様々な用途に合わせた対応をとる必要もある。レコーディングブースとして使用されることもあれば、ミーティングや別の授業が行われることもあるとのことだ。機材の使われ方という軸で見れば、Blu-rayディスクを視聴するという単純に音声を出力するだけという程度の用途もあるため、Pro Toolsありきの完全なコントロールサーフェスということだけでは、運用として扱いづらい局面も出てきてしまうし、逆にアナログ、もしくはデジタルミキサーだけでは今後の拡張性に欠けてしまう。念頭に置かれたのは、オーディオミキサーとしての用途を満たし、コントロールサーフェスの利便性を備えるシステム。今回はこれをAvid MTRX llとS4の組み合わせで実現したわけだ。
システムの中核にあるMTRX ll
前述の通り、多種多彩な授業への対応を実現するために、豊富な入出力とマトリクスを備えるMTRX llは不可欠となった。そして、校内にシステム構築を進めていくにあたって課題となったのは各スタジオとのコミュニケーション機能の確立である。通常のMAスタジオではアナウンサーブースがあり、コントロールルームとのトークバックシステムが常設されているわけだが、ここでは授業内容に沿ったマイクやトークバックスピーカーを設置する必要もある。もちろん学校ということからも、その仕組みや構成を学ぶことも授業の一環としてあるだろう。常にセッティングされたままとはせずに臨機応変であることが求められる。
その様々な用途に対応するべく駆使されているのが、DADmanのモニタープロファイルだ。トークバックの信号、CDやPro Toolsからの2Mixなどの信号をどこに送るか、トークバックのボタンが押された際に、どの系統にDimがかかりハウリングを防止するかなど、すべての要望にDADmanは応えてくれている。たとえば、各部屋のソースをDADmanのモニタープロファイル機能で扱うことで、各所の音量レベルをすべてS4およびDADman上で操作ができることもメリットのひとつ。そのほか、各スタジオのコネクターボックス下にバウンダリーマイクが仕込まれておりバックトークも可能、コントロールルームでスタジオ内の様子を聞くこともできる。
📷マイクプリはGrace Design m108を採用、その左には708S1の子機。
📷デスク左下のラックには最大7.1ch対応となるTASCAMのBlu-rayプレイヤーBD-MP1やStudio Equipment / 708S1の親機が収められている。
なお、今回はスタジオイクイプメント社のコミュニケーションシステムを用いて構築されているが、S4との連携はMTMのGPI/O機能にて連動ができるよう設定された。マルチチャンネルのオーディオソースをトークバックボタンなどでどのようにDimをかけるかなど、様々な制御をS4のGPI/O機能で可能にできるシステムとしている。Studio Equipment / 708S1のトークバックボタンが押された制御信号をS4が受け取り、DADmanのモニタープロファイルの機能にあるTB Dim機能を働かせることにより、スピーカーなどのDimがかかる仕組みだ。
また、校内にはDante用の回線が張り巡らされており、MTRX llに標準で搭載されているDanteポートを用いて、別フロアの7階・ドリームホールや1階・サブコントロールルームでの収録も可能となっている。B / Cサブがある4階にはAスタジオやラジオスタジオもあり、各スタジオとのDante信号のやりとりも可能となっている。
MTRX llはスタジオの将来を描ける
今回、MTRX llが採用された理由は他にもある。MTRX llが持つ大きな特長である優れた拡張性だ。現状の入出力は必要最小限の拡張カード構成にはなっているが、ここへDAカードを追加することにより容易にイマーシブ対応が可能となり、今後の授業をイマーシブサウンドに対応させていく構想も実現可能だ。また、モニターコントローラーとしての機能もDADmanのモニタープロファイル機能により、高価なイマーシブ対応のハードウェアモニターコントローラーなどを導入せずとも実現が可能となる。イマーシブのミックス環境とレコーディング機能のどちらにも対応できる機材は数少ないのではないだろうか。
📷今回のスタジオを監修した有限会社テーク・ワンオーディオ Sound Engineer 田中 貢 氏(右)、MasteringEngineer 中西 祐之 氏(左)。
Avid S4とMTRX llの導入で柔軟性高いシステムとなったコントロールB / Cスタジオ。今後もイマーシブ対応のみならず放送業界では技術の進歩や視聴者のニーズが常に変遷していくことだろう。そのような業界の動向に沿いながら実習環境を充実させていくためのベースとなる骨格がいまここに整えられた。また、録音関連以外の授業にも対応できるそのフレキシブルさは、同校が抱える幅広いカリキュラムに対する最大公約数とも言えるだろう。
*ProceedMagazine2024号より転載
Education
2022/08/09
専門学校ESPエンタテインメント大阪様 〜アナログ・コンソールはオーディオの基礎基本を体現する〜
以前にも一度、本誌で取り上げさせていただいた専門学校ESPエンタテインメント大阪。前回は2年次に使用する実習室へのAvid S6導入事例であったが、今回は1年次の実習で使われている実習室にて行われたSSL AWS924導入の様子をレポートしたい。
デジタルとアナログ、両方のコンソールでのカリキュラム
専門学校ESPエンタテイメント大阪は、大阪駅の北側、周りには楽器店なども多い御堂筋線 中津駅至近にある。地上11階建ての本館と地上5階建ての1号館を有しており、音楽アーティスト科や声優芸能科、そして今回AWSを導入された音楽芸能スタッフ科が設けられている。その音楽芸能スタッフ科には2つのコースがあり、PA&レコーディング、レコーディング&MAという2つのコースが設置されている。この2つのコースはともに1年次に今回AWS924が導入された録音実習室を使い、楽器を一つ一つレコーディング、オーバーダブし、1年掛けて1つの楽曲を録音するという授業を行っているとのこと。それぞれの楽器の特性、特徴、マイキングなどをしっかりと実践をもって学べるカリキュラムだということだ。
今回導入されたAWS924はAWS900からのリプレイスとなる。ご存知のようにAWS900の後継機がAWS924であり、これまでの実績や学内に積み重ねられたノウハウも継承できる選択となった。この決定にあたっては、福岡校への導入実績があるNEVE Genesys Blackなど他のアナログコンソールも候補には挙がったそうだが、そんな中でも従来を踏襲したと言えるSSL AWS924が選択されたのには理由がある。
ミキシング・コンソールを1から学ばなければならない1年次に、シグナルの流れやプロセスなどが具体的にわかりやすいアナログコンソールで学ぶということは、生徒にとっても、教える側にとってもメリットが大きい。そして大阪校には実習室が2室あり、もう一つの部屋はすでにAvid S6というDAWを中核としたコンソールが導入されている。そこで、複雑なデジタルでのルーティングなどは2年次にもう一つのAvid S6で学ぶこととし、1年次はアナログコンソールでの授業を行うこととする。そう考えると、従来の機種をキャリーオーバーするような選択であることの方がメリットが大きかったということだ。もちろんデジタルとアナログ、両方のコンソールに触れられるということもメリットとなる。
📷 今回新たに導入されたAWS924は特注デスクに収められている。このデスクはこれまでのAWS900時代からの流用でありながらも、新たに仕上げたかのようなピッタリの収まりである。
写真で見てとれるように今回の更新でリプレイスされたのはSSL AWS924の本体のみとなり、それ以外は更新されていないのだが、引き継がれたデスクはまるでAWS924専用に用意されたかのようにフィットしている。AWS900、AWS924ともにカタログ上のサイズは同じだが、以前のAWS900よりもピッタリとデスク内に収まったと、驚かれていた。ドラムのマルチマイクでの収録にも対応する24chのコンソールは、授業内容にもまさにジャストフィットしているということだ。1年次の実習ということもあってなかなかそこまで使うことはないようだが、AWS924に更新したことでミキシング・コンソール側でのオートメーションも使えるようになった。DAW内でのオートメーションが当たり前だからこそ、このような機能が使えるアナログコンソールに触れる機会は価値があることではないだろうか。
📷 デスクの左には、マイクプリTUBE-TECH MP1A、VINTECH AUDIO DUAL72、そしてオーディオパッチが収まっている。右側にはDBX 160A、Universal Audio 1176LN、Drawmer 1960、NEVE 33609が収まる。専門学校らしく定番と呼ばれる機器が取り揃えられている形だ。
新たなるニューノーマルな傾向?
コロナ禍で実施にも配慮が必要となっている実習授業についてだが、コンサート系コースなどは実際のコンサート・イベントにキャンセルが続いて難しい局面があったものの、音楽芸能スタッフ科ではオンラインでできる授業はそちらにシフトし、実習でしか教えることができない内容のものはこの2年間も学校内で行ったということだ。なお、この部屋を使う2つのコース、PA&レコーディング、レコーディング&MAは、例年であればPA&レコーディングコースのほうが入学者数が多いそうだが、今年の新入生から初めて入学者数が逆転し、MAコースの人数が多くなったということ。これは入学してくる生徒がコンサート、ライブを体験することがほとんどなかったからではないか?ということだ。実際にコンサートに行き、そのスタッフに憧れる。そういった体験がなかなか叶わない一方で、MA映像付きの音響を画面越しに体験をすることでMAに興味を持つ。これも新たなるニューノーマルな傾向なのか興味深いところだ。
また、YouTubeなど配信のサウンド、音響効果に興味を持って入学していくる生徒は年々増加しているという。ここでしっかりとした教育を受けた若者たちが、新たなステージでエンタテイメントの形を作っていく。MAといえばテレビ業界という考え方は、もはやステレオタイプなのかもしれない。そんな未来を感じさせられた。
📷 以前に本誌でも取り上げた 2 年次の実習で使われている Avid S6 を導入したスタジオ。現場での導入実績の高いAvid S6を使っての実習は即戦力育成に直結する。フルアナログの実習室と合わせて、幅広いシステム構成のスタジオでの実習を行うことができる環境が整えられている。
まさに順当とも言える後継機種への更新。改めてあえて変えないことの意味、アナログの大切さ、そういったことを考えさせられた。カルチャー、エンターテイメントは日進月歩で進化を続けている。しかし学びの環境の中での一歩目には、オーディオの基礎基本を体現するアナログ・コンソールがある。やはりこれは大きな価値のあることなのではないだろうか。
専門学校ESPエンタテイメント大阪
音楽芸能スタッフ科 松井 英己先生
*ProceedMagazine2022号より転載
Education
2021/07/14
洗足学園音楽大学様 / ~作編曲と録音の両分野をシームレスに学ぶハイブリッド環境~
クラシック系、ポピュラー系と実に18もの幅広いコースを持ち業界各所へ卒業生を輩出している洗足学園音楽大学。その中で音楽音響デザインコースの一角である、B305教室、B306教室、B307教室、B308教室の4部屋についてシステムの更新がなされた。作編曲と録音の両分野をシームレスに学ぶ環境を整えることになった今回の更新ではAvid S6が採用され、またその横にはTrident 78が据えられている。アナログ・デジタルのハイブリッドとなった洗足学園音楽大学の最新システムをご紹介したい。
日本国内で一番学生数が多い音楽大学
神奈川県川崎市高津区にある洗足学園音楽大学は1967年に設立された音楽大学で、音楽の基盤となるクラシック系からポピュラー系まで実に多彩な18のコースを有している。大学院まで含めると約2300人の学生が在学しており、現在日本国内で一番学生数が多い音楽大学である。
音楽大学の基盤となるクラシック音楽系のコースはもちろんだが、新しい時代の音楽表現を模索するポピュラー音楽系のコースとして、音楽・音響デザイン、ロック& ポップス、ミュージカル、ジャズコースなど多彩なコースがあり、特に近年は声優アニメソングやバレエ、ダンス、そして舞台スタッフを育成する音楽環境創造コースなど、音楽の周辺分野まで学べるコースも設立されており、近年ますます学生が増え続けているのも特徴である。
各分野には著名な教授陣がおり、音楽制作の分野ではゲーム音楽作曲家の植松伸夫氏、伊藤賢治氏、劇伴音楽やアニソン作曲家の山下康介氏、渡辺俊幸氏、神前暁氏、さらに録音分野の教授として深田晃氏や伊藤圭一氏などが教鞭をとっている。卒業後は国内の主要オーケストラや声楽家、ミュージカル俳優、声優、劇伴作曲家やゲーム会社、大手音楽スタジオエンジニアなどへ卒業生を多数輩出している。
作編曲と録音の両分野をシームレスに
現在、洗足学園では3つのスタジオを含む複数の音響設備を備えた教室が多数稼働している。メインスタジオではオーケストラや吹奏楽など大編成のレコーディングが可能で、ピアノやドラムなどをアイソレート可能なスモールブースも完備されている。これをはじめとする3つのスタジオではSSLのアナログコンソールが導入されており、音楽・音響デザインコースの生徒だけではなく、複数のコースの生徒がレコーディングなどの授業やレッスンで使用している。また、その他にも音響設備が備えられている教室の中には、Auro-3D 13.1chシステムを設置したイマーシブオーディオ用の教室が2つあり、Pro Tools UltimateとFlux:: SPAT Revolutionが導入され、電子音響音楽の制作やゲーム音響のサウンドデザインの授業が行われている。
📷学内にある大編成レコーディングも可能なメインスタジオ、ブースは天井高を高く取られている。
今回教室の改修が行われたのは、洗足学園音楽大学(以下、洗足学園)の音楽音響デザインコースの一角である、B305教室、B306教室、B307教室、B308教室の4部屋だ。近年、音楽・音響デザインコースを専攻する学生が増えており、既存のスタジオに加えてマルチブース完備のスタジオ増設が急務となったそうだ。主科で作編曲を学ぶクリエイター系の学生は音源制作をPC内でほぼ完結しているケースが多いが、さらに録音のスキルも身につけることによってより質の高い音源を制作できるようになる。このように作編曲と録音の両分野をシームレスに学ぶことができる環境を整えることが今回のテーマの一つとなった。そして、今回の改修でのもう一つのテーマは、アナログとデジタルが融合されたハイブリッドシステムを形成すること。これは授業内容なども考慮された大学ならではのシステム設計だろう。
📷今回改修が行われた4部屋の中でも、Avid S6を中心としたコントロールルームの役割を持つB305教室。
Avid S6とTrident 78によるハイブリッド
新たに導入されたPro Tools | MTRXは既存のHD I/Oと合わせてAD/DA 48chの入出力が可能。
今回改修された4教室は大きさがそれぞれ異なり、合わせて使用することで1つのスタジオとして稼働できるよう計画された。一番広いB305教室は、Avid S6を中心としたコントロールルームの役割を持つ。既存のスタジオが主にアナログ機器を中心とした設計なのに対し、今回改修された4教室ではデジタル中心のシステムを組むように考慮され、B305教室の既存Pro Tools HDXシステムには、Pro Tools | MTRXが追加導入された。これらのAvid S6システムは、録音はもちろんMAでも数多く導入実績があり、さらにDolby Atmosなどのイマーシブ・オーディオへの拡張性も申し分ない。授業においてPro Toolsを使用することが前提の教室で、これらの点を考慮した結果、Avid S6以外の選択肢はなかったそうだ。
S6の構成は5Knob・24Faderで、サラウンドミックスに対応できるようにJoystick Moduleも追加されている。もともとこちらの教室ではサラウンドシステムを導入しており、以前はJL CooperのSurround Pannerが使用されていた。なお、Joystick Moduleはファブリックの統一感のために専用スペースに納められている。Pro Tools | MTRXはADカード24ch(うち8chはMic Pre付き)、DAカード24chとSPQカードを増設。さらに既存のHD I/O 2台と組み合わせて、Pro ToolsとしてはトータルでAD/DA 48chの入出力可能なシステムへと強化された。HAはPro Tools | MTRXに増設された8chのほか、SSLやRME、FocusriteなどのMic Preが30ch以上用意されており、好きなMic Preを選択可能のほか、最大48chのマルチチャンネル録音も可能とした。
📷アナログパッチベイとHA類。SSL、RME、FocusriteなどのMic Preが30ch以上用意されている。
今回の改修で特徴となったのが、Avid S6横に設置されたTrident 78。デジタルとアナログのハイブリットシステムを構築しているわけだが、授業ではスタジオ録音を初めて経験する1年生から上級生まで様々な学生が使用するため、デジタル機器だけではなくアナログ機器についての学習も行えるようにハイブリッドシステムが採用されたということだ。Trident 78をHAやサミング・ミキサーとしても使用できるよう、Monitor OutはPro Tools | MTRXへ、Direct OutとGroup OutはHD I/Oへとそれぞれパッチベイ経由で接続されている。特にTrident 78のMonitor Outがパッチベイ経由なのは、デジタル中心のシステムではあるが、授業内容によってはTridentのみでも授業が行えるように、あえてAvid S6とPro Tools | MTRXを経由せずにも使用できるように設計された。
📷B305教室にはAvid S6 5Knob-24faderとTrident 78が並ぶ、アナログ機器の学習も行えるハイブリッドなシステムだ。Trident 78の下にはAV AmpとBlu-rayプレイヤー、Apple TVが収められている。
また、Pro Tools | MTRXはモニターコントロールとしても設定された。AD/DAのチャンネル数が豊富に拡張されているが、モニター系統はいたってシンプルに構成されており、ソースはPro Tools、TridentとAV Ampの3つに絞られたが、5.1chサラウンドで構成されている。AV AmpはBlu-rayプレイヤーのほか、Apple TVとHDMI外部入力が用意されており、持ち込みPCなど映像だけではなく音声もメインスピーカーからサラウンドで視聴が可能だ。民生機系の機材をAV Ampにまとめることで、音声のレベル差なども解消させている。
S6マスターセクションの隣に用意された専用スペースにはJoystick Moduleが収められている。
ソース切り替えに連動させるため、Pro Tools | MTRXとAES/EBU接続されたClarity M。
ワイヤレスで揃えられたマウスとキーボードは授業形態の自由度を高めるために、Avid S6とセパレートされた。
独立して使用可能なB308教室
マルチブースのなかで一番広いB308教室にはドラムセットが常設され、マイクの種類や位置など集中的にマイキングに関する授業やレッスンができるよう考慮された。これらの回線は壁面パネル経由でB305教室での録音を可能にしたほか、B308教室に設置されているPro Toolsシステムでも録音可能である。
こちらの独立したPro ToolsシステムではインターフェイスにPro Tools | Carbonが採用され、こちらでもPro Toolsを中心とした授業が行えるよう設計された。こちらの教室は単独で授業を行うことが多く、作曲系のレッスンで使用されることも多いため、Pro Tools以外にもLogicがインストールされている。こういったHost DAWが複数ある場合、それぞれのアプリケーションで同一インターフェイスを使用することが想定される。従来のインターフェイスであれば、それぞれのアプリケーションを同時に起動することは難しいが、Pro Tools | CarbonのAVB接続ではPro Toolsと他アプリケーションで同時にI/Oを共有できる。AVBのストリームをPro Tools専用の帯域とCore Audioとして使用可能な帯域とで分けることにより、Pro Toolsと他DAWが同時起動できる仕組みは、こちらの教室では非常に有効な機能だ。
📷B308教室の独立したPro Tools システムはPro Tools | Carbonをインターフェイスにし、AVB接続による他DAWと同時起動できる仕組みを活かした授業が行われている。また、こちらのClarity MはUSB接続となっている。
また、Pro Tools | Carbonの特長でもあるハイブリッド・エンジンにより、DSPエンジンの恩恵を受けることができるため、DSPプラグインを使用したり、ローレイテンシーでレコーディングをする、といった作業も可能だ。音質についても講師陣からの評価が非常に高く、作編曲と録音の両分野をシームレスに学ぶという点でも最適なインターフェイスである。システムの中心がPro Tools | Carbonではあるが、こちらの教室でも様々な授業が行われるため、B305教室と同様にHDMI外部入力にも対応したシステムが構築されている。こちらはAvid S6やPro Tools | MTRXのようなシステムはないため、モニターシステムはSPL MTCが導入されている。
4教室を連結、1つのスタジオに
今回の改修において最大の特徴である教室間を連携したシステムは、録音ができるマルチブースを完備するためでもあるが、昨今のコロナ対策として密集を避けて録音授業やレッスンを実施できるようにする目的もある。各教室は一般の録音スタジオのようにガラス窓などは設けられていないが、その代わりに各教室壁面に用意されたパネルには音声トランク回線のほか映像回線も用意されており、全てがB305教室とB308教室へ接続することができる。
📷4分割表示されたモニタディスプレイ。画面の上部には小型カメラが設置されている。
B305教室の映像系ラック。Smart Videohubでソースアサインを可能にしている。
4部屋に用意されたテレビモニターシステムは、モニタディスプレイと上部に設置された監視カメラ用の小型カメラから構成されている。B305教室では、各教室のカメラ回線がBlackmagic Design Smart Videohub Clean Switch 12x12に接続されており、各部屋への分配を可能にしている。さらに組み込まれたMulti View 4で4部屋のカメラ映像をまとめて1画面で表示し、各教室同士でコミュニケーションを可能にした。それだけではなく、分散授業の際にはB305教室の模様を全画面でディスプレイに表示し、B305教室では各部屋の学生の様子をモニタリングしたりと、授業内容によって自由にカスタマイズ可能である。
もちろんCUE Boxも各部屋に配置されているが、授業という形態を取るにあたり受講者全員がヘッドホンモニタリングするということは難しい。そのため、CUEシステムの1、2chをSDIに変換してモニタディスプレイの回線にエンベデッドし、各モニタディスプレイに分配、ディスプレイの音量ボリュームを上げることで、ヘッドホンをしていない受講者もCUE回線を聴くことができるよう設計された。こういった活用方法は一般の音楽スタジオでは見られない設計で、大学の教室ならではの特徴である。
ジャンルを越えていく教室の活用法
実際にAvid S6を使用して、まずはじめにPro Tools | MTRXの音質の良さが際立ったという。音質に定評のあるPro Tools | MTRXは音楽大学の講師陣からも絶賛だ。さらに、Avid |S6はレイアウトモードが大変便利だという。24ch仕様でフェーダー数に限りがあるため、レイアウトをカスタマイズできる機能は操作性が良く、柔軟にレイアウトを組むことができて再現性も高い。レイアウトデータがセッションに保存されるところも特徴で管理がしやすいのも特徴だ。視認性の高さという点では、ディスプレイモジュールに波形が表示され、リアルタイムに縦にスクロール表示されるのも視覚的に発音タイミングを掴みやすいので、MAなどで活用できそうだという。
実際にこちらの教室で行われる授業は、録音系の授業やレッスンでは実習が中心となり、学生作品や他コースからの依頼などで様々なジャンル、編成でのレコーディングやトラックダウンをS6で学び、またTrident 78、SSL Logic Alpha、RME Octamic、MTRXなどの様々なマイクプリの比較や、アナログとデジタルの音質の聴き比べなども行う。今後はMAやゲーム音響制作のレッスンでも使用予定だそうで、今回導入したJoystick Moduleもぜひ活用していきたいと語る。ほかにも、ジャンルの枠にとらわれないコース間のコラボレーション企画や学生の自主企画が多く執り行われており、2021年3月には、声優アニメソングコース、ダンスコース、音楽・音響デザインコース、音楽環境創造コースのコラボレーションによる、2.5次元ミュージカルが上映された。このようにユニークな企画が多く開催されているのも、学生の自主性を重んじる洗足学園ならではである。
また、コロナ禍により全面的な遠隔授業やレッスン室にパーティションを設置するなど、万全の感染対策を施した上で、いち早く対面でのレッスンを実現したことや、年間200回以上も上演されている演奏会では、入場者数の制限や無観客の配信イベントとして開催するなど、学生の学びを止めることなく、実践を積み重ねることで専門性を磨き、能力や技術の幅を広げている。
今後、このS6システムを活用して学生作品のコンペを実施し、優秀作品をこのスタジオで制作することを検討しているという。音楽大学のリソースを活かして、演奏系コースとのレコーディングプロジェクトを進めたり、こちらの教室を中核にした学内の遠隔レコーディングネットワークをさらに充実させる計画もある。アフターコロナでどの音楽大学も学びのスタイルを模索している中ではあるが、このように洗足学園ならではの制作環境を実現し、学びの場を提供し続けていくのではないだろうか。
洗足学園音楽大学 音楽・音響デザインコースで教鞭をとる各氏。前列左から、伊藤 圭一氏、森 威功氏、山下 康介氏、林 洋子氏。また、後列はスタジオ改修に携わった株式会社楽器音響 日下部 紀臣氏(右)、ROCK ON PRO 赤尾真由美(左)
*ProceedMagazine2021号より転載
Education
2019/01/31
専門学校ESPエンタテインメント福岡 様 / AMS NEVE Genesysで実現する充実のカリキュラム
多くの人材を業界へ輩出するESPミュージックアカデミーが福岡に新たな校舎を新設、レコーディング課の実習室として素晴らしいスタジオが作られた。リズムセクション収録の可能な広いブースと、授業を前提に広く作られたコントロールルーム。そして、そこに導入されたAMS NEVEGenesys。細かい部分までこだわりを持って設計されたそのスタジオをレポートしたい。
1:AMS NEVE Genesysという合理的なセレクト
まずは導入されたコンソールの話から始めるが、実は東京・大阪・福岡の各校舎ではそれぞれ異なった機材が導入されている。東京校は2 部屋の実習室があるが、それぞれSSL 4000G+ とSSL 9000が導入されており両方とも大型のアナログコンソールとなる。大阪校も2 部屋の実習室、こちらはSSL AWS948とAVID S6で、アナログコンソールとPro Toolsコントローラーという組み合わせになる。そして今回この福岡校に導入されたのはAMS NEVE Genesysである。ここから読み取れるのは、東京校では最初にアナログコンソールでシグナルフローなどの概念をしっかりと学び、次のステップへというカリキュラム。大阪校では1年目にSSL AWSでアナログコンソールでの実習、2年目はAVID S6で最新環境を体験するという2段構えの想定、福岡校は1 部屋で両方のコンセプトを兼ね備えた実習を行えるAMS NEVE Genesys、と各校とも実に合理的なセレクトが行われていることがわかる。
今回は新校舎ということもありプランニングには1年以上の時間がかけられているのだが、コンソールの選定には多くの候補が検討されたということだ。その中で最後まで残ったのが、今回導入されたAMS NEVE GenesysとAVID S6。学生には現場に出た際に学校で学んだ機材と同じもので作業を行ってほしいという意見もあり、今後のスタンダードとなりうるAVID S6は有力な候補であったが、やはり授業を行うことを前提に考えるとアナログコンソールであるということは外せないという判断にたどり着いたとのこと。ミキシングを教える際に非常に重要なシグナルフロー。デジタルだと柔軟性が高いがゆえにどうしても具体的になっていかないが、アナログコンソールであれば一つ一つのツマミを順に追いかけることで信号がどのような順番で処理が行われているのかがわかる。これは実習を行う上で非常に重要なポイントとして考えているということだ。
今回導入されたAMS NEVE Genesysはチャンネルストリップが16ch実装されたモデル。リズムセクションの収録を考えると16chというのは必須であり、NEVE 製のプリが16ch用意されているこの製品の魅力の一つでもある。残りのフェーダーはDAWコントロールとして働き、インラインコンソールのような使い方も可能。これもマルチトラックレコーディングのフローを教える際には非常に重要なポイントとなる。DAWへ信号を送り、それが戻ってくる(実際には、DAW内部で最終SUMはされるが)という感覚はこのクラスの製品でないと直感的に理解することは難しいのではないだろうか。
2:コントロールされた音響設計と200Vでの駆動
レコーダーとしてはAVID Pro Tools HDXが導入され、HD I/Oが2台接続、AD/DAは24ch が用意される。ここに関しては基本を知るという教育の現場であるためベーシックな構成が選択された。Pro Toolsのオペレート用のデスクは、Erogotronのカートが導入されている。このカートは医療現場用に設計されているために非常に作りもよく、耐久性も高い製品。授業の形態に応じてどこでも操作のできる環境が作り上げられている。ブースはリズムセクションが入れる十分な広さを持った空間で、アンプ類、ドラムセットなども用意された贅沢な空間となっている。楽器類もエントリークラスのものではなく、しっかりとした定番の機種が揃っているあたりにこだわりが感じられる。また、ブースとコントロールルームをつなぐ前室にもコネクターパネルが用意され、ボーカルブースや、アンプブースとしても使えるように工夫が行われている。
コントロールルーム、ブースなどは日本音響エンジニアリングによる音響設計で、しっかりとした遮音とコントロールされた響きにより充実した録音実習が行える空間となっている。ドラムが設置されている部分には、木のストライプやレンガ風塗り壁にしデッドになり過ぎず、自然な響きが得られるようになっていたり、コントロールルームとの間は大きな窓が開き、授業の際に十分な視界を確保することができる、といったように少し現場を見るだけでも考え抜かれた設計であることがわかる。さらに、ここでは音質にこだわり200Vでの駆動を行っているということだ。学校であるということを考えると必要十分以上な設計かもしれないが、本当に良い音を実習の段階から知ることができるのは、卒業して現場に出たときに必ず武器となるはずである。良い音を知らなければ、良い音は作れないのだから。
福岡の地に誕生した充実のスタジオ。ここから巣立つ学生の皆さんがどのような活躍をしていくのか非常に楽しみである。
右: 教務部 音楽アーティスト科 吉田雅史氏
中: サウンドクリエイターコース講師 大崎隼人氏
左: ROCK ON PRO 岡田詞郎
*ProceedMagazine2018-2019号より転載
Education
2019/01/09
京都造形芸術大学 様 / キャラクターの成立を学ぶMA 実習環境
京都市街の中でも屈指の観光地である東山の北、銀閣寺の近くにキャンパスを構える京都造形芸術大学。東山三十六峰の一つ、瓜生山の裾野に白川通りから斜面に校舎が立ち並んでいるのが特徴的。美術大学の中でも特徴的な学科が揃っており、マンガ学科、空間演出デザイン学科、文芸表現学科、こども芸術学科、歴史遺産学科など独自の学科が並ぶ。そのなかで今回AVID S6 を導入いただいたのはキャラクターデザイン学科である。どのようにAVID S6 そして、AVID Pro Tools が講義の中で活用されているのか、そのような視点も含めご紹介したい。
1:水平設置されたAVID S6
今回導入いただいたAVID S6 は24 フェーダーのモデル。それまで活躍していたAVID ICON D-Control 16 フェーダーモデルからのリプレイスとなる。そのリプレイスに伴い、AVID HD I/O からAVID MTRX への更新も同時に行われている。通常のICON からのリプレイスでは、それまで使用していたAVID X-MON(モニターコントロールユニット)はそのまま継続されるケースが多いのだが、今回は最新の設備へと積極的に更新を行っていただいた。
音質の向上、そしてモニターコントロール部分におけるAVID S6 との統合と、次世代の制作環境を見据えたシステムアップとなっている。同時に映像の再生をそれまでのVideo Satellite システムから、Video Slave へと変更をしている。このあとに活用されている実習などをご紹介するが、シンプルな作業ながら様々なファイルの受け入れが必要となっているため、より柔軟性の高いVideo Slave へと変更がなされている。
システムとしては、非常にシンプルにPro Tools HDX システムにAudio I/O としてAVID MTRX が用意された構成。そこにAVID S6 が組み合わされている。ただし、それを設置する机は特注のデスクが用意され、通常では奥に向かって高くなる傾斜のついたS6 の盤面が水平になるように工夫がなされている。AVID S6 のシャーシがきれいに収まるようにかなり工夫が行われたデスクである。これにより、非常にスッキリとした形状が実現できている。もともとサイズのコンパクトなAVID S6 があたかも机にビルトインされているように見えるなかなか特徴的な仕様となっている。
2:キャラクターに生命を宿すMA 実習
ブース等の内装に関しての更新は行われていないが、奥に広い4 名程度のアフレコが行える広さを持った空間が用意されているのが特徴となる。これは、このキャラクターデザイン学科の実習には無くてはならない広さであり、実習の内容と密接な関わりを持ったものである。キャラクターデザイン学科は、その名の通りアニメーションなどのキャラクターを生み出すことを学ぶ学科である。描き出されたキャラクターは、アイコンとしての存在は確立されるものだが、動画でキャラクターを活かすとなるとボイスが必須となる。声を吹き込むことで初めてキャラクターに生命が注ぎ込まれると言っても過言ではない。
そのため、キャラクターに対してボイスを吹き込む、動画(アニメーションが中心)に対して音声(ボイスだけではなく音楽、効果音なども含め)を加えるMA 作業を行うことになる。そのような実習を行うための空間としてこの教室が存在している。高学年時の選択制の授業のための実習室ということだが、音と映像のコラボレーションの重要性、そしてそれを体感することでの相乗効果など様々なメリットを得るための実践的な授業が行われている。もちろん、卒業制作などの制作物の仕上げとして音声を加えるなど、授業を選択していない学生の作品制作にも活用されているということだ。
ご承知のように、アニメーションは映像が出来上がった時点では、一切の音のない視覚だけの世界である。そこに生命を吹き込み、動きを生み出すのは音響の仕事となる。試しに初めて見るアニメを無音で見てみてほしい。過去に見たことがあるアニメだと、キャラクターの声を覚えてしまっているので向いていない、ドラえもんの映像を見てその声を思い出せない方はいないだろう。はじめてのキャラクターに出会ったときにどのような声でしゃべるのか?これは、キャラクターの設定として非常に重要な要素である。同じ絵柄であったとしても、声色一つで全く別のキャラクターになってしまうからだ。
つまり、絵を書くだけではなくどのようにキャラクターが成立していくのか?そういった部分にまで踏み込んで学ぶこと、それが大学のキャラクターデザイン学科としての教育であり、しかもそれが最新の機材を活用して行われている。ちなみに京都造形芸術大学には、この設備以外にも映画学科が持つ映画用の音声制作設備があるということだ。
アニメーション関係では、卒業生に幾原邦彦(セーラームーンR、少女革命ウテナなど)、山田尚子(けいおん!、聲の形)といった素晴らしい才能が揃う。これからも日本のアニメーションを牽引する逸材がこの現場から登場していくことになるだろう。
京都造形芸術大学 村上聡先生、田口雅敏先生
*ProceedMagazine2018-2019号より転載
Education
2017/05/23
専門学校 ESPエンタテインメント 大阪様 / 最高峰の機材で確実な力となる貴重な体験を得る
大阪梅田にほど近い、中津駅そばに専門学校ESPエンタテインメント大阪はある。大阪駅からも徒歩で楽器店の並ぶ通りを抜けると学校がある、そんな立地だ。みなさんもご存知のようにESPは日本を代表するギターメーカーの一つであり、個性あるクラフトモデルを多くリリースしているメーカー。学校の開設は古く30年以上の歴史を誇る。当初は、ギター制作学院としてスタート。その後、東京・高田馬場に専門学校ESPミュージカルアカデミーを開校し、ミュージシャンの育成をスタートする。ミュージシャンだけではなく、パフォーマー、コンサートスタッフ、アーティストスタッフ、ピアノ調律、レコーディングと分野を広げ、今では芸能全般をフォローする総合専門学校となっている。
◎「現場主義」を実現する充実した環境
今回取材を行なった大阪校の開校は13年前、音楽アーティストの育成、音響・コンサートスタッフの育成、声優、芸能と幅広い学科を開設し業界へ人材を送り出している。学校の特色としては「現場主義」という言葉が真っ先に飛び出した。講師は、現役の現場で作業をおこなうエンジニアが多く、即戦力を育成するためのプログラムが組まれているということだ。コンサートスタッフ・コースなどは、学生時代から、実際の現場での実習を受けることが出来ることが大きな魅力になっている。これは、卒業後の採用にもシナジーを生み、実際の現場での動きを見聞きし、共に仕事をしたことがある学生の中から採用を行うことが出来る、ということにもつながっている。実際の進路を聞いてみると、7~8割の学生が就職しているということ。門戸が狭いと思われがちな、音楽業界へこれだけの就職率を持つということは素晴らしいことではないだろうか。
もちろん、学内のイベントも運営は学生が主体。講師がサポートに回り、実践的な実習を中心に授業が行われているということ。今回取材させていただいた、レコーディングスタジオも、学生の演奏を学生がレコーディングするという、両者にとって貴重な経験となるカリキュラムとなっている。MAの授業もあり、そこでは声優科の学生を録音するという形を取っているということだ。学内のリソースで様々な現場の再現ができ、最新の機材と、現場同様の環境で実習が出来るというのは学生にとって理想的な環境であると言えるだろう。
このレコーディング・スタジオを利用する学生は1年時に隣の校舎に設置されたSSL AWS900のスタジオで基礎を学ぶ。2年時にこのAVID S6の設置された環境で、応用となるエンジニアリングを学ぶということだ。やはり、レコーディングの基本、シグナルルーティングなどを、学ぶにはアナログコンソールは最適である。これは、デジタル全盛の現代においても変わらないことだ。やはり、全てが、物理的につながり1対1の関係であるアナログは全ての基本であるということだろう。2年時にはAVID S6というサーフェースに環境を変え、実践的なDAWの使いこなしを学ぶこととなる。豊富に用意されたアナログアウトボードも、その思想の現れであり、レコーディング、マイキングの更に踏み込んだパートとして、機器、メーカーによるサウンドの違い、そのセレクトといったところを体験、体感できるように準備されているということだ。
アウトボードラックには、マイクプリだけでもSSL、API、Vintech、Manleyとハイエンドの製品が並ぶ。コンプはUniversal Audio 1176とTUBETECH CL-1Bという定番の機種。リバーブもLexiconとTCという2台があり、その違いを確認することが出来るようになっている。なんとも贅沢な環境である。ハイエンドの製品のサウンドに触れ、その違いを体感することは、その後現場に出て確実に経験の下地として蓄積されていくことであろう。
◎将来のスタンダードを踏まえた機材選定
それでは、ここから今回更新されたAVID S6に関して見ていきたい。この教室には元々Digidesign D-Control 32 Faderが設置されていた。10年以上稼働したこのサーフェースの更新にあたり、SSLなど他にも候補は出たものの、やはりその後継であるAVID S6が採用されたということだ。SSL AWS900を1年時に使い2年時にステップアップして、別の環境を用意するという観点からも、即戦力育成という学校の方針から、今後導入が進むと考えられるこの製品を選択するということに大きな迷いはなかったということだ。
AVID S6の構成は24 Fader - 9 Knobの仕様。フェーダー数が8本減ってはいるが、AVID S6の持つ柔軟なレイアウト機能や、スピル機能を考えるとこのサイズでも十分という結論になったということだ。ノブに関しては、各種パラメーターを学生が俯瞰出来る環境のほうがわかりやすいという目線からこちらの仕様を選択したということ。導入直後ということもあり、講師の方々もどのようにこのAVID S6を教えていくのか?まさに検討が始まっているということだ。様々な使い方が可能なAVID S6だが、どのように使いこなしていくのか?それぞれの個性が出る部分だ。ユーザのアイディアに柔軟に対応できるAVID S6の真価を引き出してほしいと願うところである。
AVID S6に接続されるPro Toolsも同時に更新され、Pro Tools HDXの環境へと更新が行われている。InterfaceにはAVID HD I/O 8×8×8が3台用意され、モニターコントローラーとしてAVID XMONが、またMic PreとしてAVID Preが採用されている。XMONとPreは、これまでのD-Control環境でも使用していた製品ということで、AVID S6のメーカー純正環境として採用されている。特にPreはAVID S6のサーフェースから直接のリモートコントロールが可能な製品であり、コンソール感覚でのチャンネルごとのゲイン設定などのリモートコントロールが可能となっている。
プラグイン関係の更新としては、UADが追加で導入された。現場での採用率が高くなっているUAD。レコーディングでの掛け録りなど、色々と試してみたいと積極的に新しい技術を教えていこうという意欲の感じられる部分である。なかなかプラスアルファの部分にまで踏み込んで学べる環境はない中で、このような積極的な姿勢を持つ学校の存在は、非常に心強く感じた。
この教室では、MAの実習も行われている。その為、Videoの再生環境が整えられている。Pro ToolsのVideo Trackからの出力はもちろんだが、TImecodeのオーバーレイ表示できるVideo Slave 3 Proが追加で導入された。国内に導入されたばかりのソリューションであるVideo Slave 3 Proは講師陣にも非常に好評。タイムコード表示の柔軟性、ADRの支援機能などこれまでは得られなかった、機能に好印象を持っていただいている。Pro ToolsのVideo Trackでの基本的な使い方と共に、ESPを出た学生はもう一つの環境を知った人材として今後羽ばたいていくことだろう。
現場での採用が加速度的に進む、AVID S6。その環境を学生時代から知り、学ぶことの出来る環境は増え始めている。DAWにかじりついての作業だけではなく、豊富なアナログ機器に触れ、最高峰のコントロール・サーフェスでの作業を知る。現場に出て、確実に力となる貴重な体験を得ることの出来る環境が揃っていると感じる。もう一度学生に戻り、ゆっくりと機材と向かい合いたい。そんなことを感じる取材であった。
専門学校ESPエンタテインメント 教務部主任 サウンドクリエイター科 学科長 今村典也 氏
今回更新のご協力を頂いたESPエンタテイメント大阪のスタッフの皆様
*ProceedMagazine2017Spring号より転載
Education
2015/12/25
ROCK ON PRO導入事例/学校法人 片柳学園 日本工学院八王子専門学校 ミュージックカレッジ
学校法人 片柳学園「日本工学院八王子専門学校」のミュージックカレッジ・レコーディングクリエイター学科に専門学校として国内初となるAVID S6を導入させていただいた。その導入の経緯、選定の決め手などを同学科教員 藤義隆先生にお話を伺った。
日本工学院のポリシー『人間力』
日本工学院は1947年に、東京・蒲田に開校した創美学園がそのルーツとなっている。当初は洋裁と絵画の学校としてスタート、その後、織物科、英語科、人形科等を次々と開設。1953年にテレビ放送の開始をきっかけとして「日本テレビ技術学校」を設立。放送関連学科の開設を行ない、教育環境、設備の充実に努め時代の先端を行く人材を育てている。1964年の東京オリンピックではNHKの技術補助員として30名の学生を実況中継に参加させている。1976年に校名を現在の「日本工学院専門学校」に改める。この時点ですでに学生数は7500名という規模となっている。今回導入をした八王子キャンパスは1986年の開設、翌1987年に「日本工学院八王子専門学校」が開校しており、つくば万博への協力出展、米国トップの工学系大学となるマサチューセッツ工科大学(MIT)との交流協定、最先端のマルチメディア研究を行う南カリフォルニア大学(USC)との提携等、日本有数の教育機関としてその規模を拡大している。
専門学校でありながらいち早く1987年より3年制のカリキュラムも実施し、より高いレベルでの人材の育成に務めている。専門学校として、即戦力の人材育成が大きな役割ということはもちろんであるが、『人間力』の教育に実は一番力を入れているとお話を伺った。スキル、技術を通常の2年間で教育することは実際の現場レベルを考えると限界がある。そうなると、社会に出て、社会人として立派に仕事をこなすことのできる『人間力』こそが本当に一番大切なスキルであり、教育ポリシーにおける重要な要素としている。国内随一と言える設備を備え、現場からの講師を多く迎えて実践的な講義を行なっている学校が、しっかりと自身を見つめた『人間力』を大切に捉えていることは心強く感じられる。
なぜAVID S6の導入に踏み切ったのか?
日本工学院八王子キャンパスにはスタジオが4室ある。その中の3室は、音楽録音に対応したスタジオを持つ大規模な設備。これまでは、SSL 4000Eを設置したスタジオが2室、もう1室はSSL Axiom MTを設置したスタジオ。そして少し規模の小さいラジオ実習向けのスタジオには、YAMAHA O2Rが導入されている。今回の更新では、2台あったSSL 4000Eの片方、Studio Cに設置されていたもののリプレイスとなっている。
これにより、3室の大規模なスタジオは、コンソールの基礎となるインラインタイプのアナログミキサーSSL 4000Eと、デジタルコンソールであるAxiom MT、そして最新のDAWをコアとしたAVID S6というラインナップとなる。4000Eでコンソールのシグナルフローを学び、ミキサーの基礎、動作原理を学び、Axiomでデジタルミキサーならではの部分を吸収。マトリクスなど複雑なシグナルフローを学ぶ。そして、AVID S6ではDAWをコアとしたコンソールで最新のワークフローをというように、キャラクターの異なるシステムの設置により幅広い学習を実現している。
導入のきっかけは、1986年の八王子キャンパス開設当時に設置されたSSL 4000Eの老朽化と、学生の就職先がポストプロダクションに移ってきているという現状から。今、そしてこれからポストプロダクションで導入されるコンソールは何か?と考えるとやはりAVID S6が一番多いのではないか、また日本工学院はAVIDの認定校でもあり、AVIDのトータルソリューションを導入することでの学習効果の向上も目指しているということだ。
AVIDのトータルソリューションが出現
AVID S6はM40と呼ばれる上位のコアに、24 Fader , 9 Knob , Display Moduleという規模。もう少しコンパクトな構成も検討したようだが、複数の学生がコンソールの前に座って実習を行うことを考えると24 Faderは必須であったということ。そして、S6の最大の特長とも言えるVisual Feedbackを実体験し、その利便性により生み出されるワークフローを学んでもらうために、その他のモジュールもフルに実装を行なったということだ。
設置に関しては、国内初導入となるARGOSYの専用デスクを準備し、スタイリッシュに収まっている。入力段はAVID Preが準備され、S6からのリモートコントロールが可能となっている。この機能により、S6はまさにコンソールとしての魅力を持つ。バンド編成が入れるスタジオであるため、AVID Preは3台、合計で24チャンネルが導入されている。DAW部分はPro Tools HDX 2システムを導入。HDXカードが2枚のこのシステムは十分なプロセッシングパワーを持ち、様々な授業に対応が可能となっている。インターフェースには、HD I/Oが2台、アナログで32チャンネル分が用意されている。これは、他のスタジオとの整合性を取るという意味もあり、この規模としたとのこと。
それとは別のMac ProにVideo Satelliteシステムを導入。最新のDNxIOを備え、将来の4Kにも対応したソリューションとして、MA作業の実習にも活用できるようにシステムアップがなされている。将来的には、放送・映画学科に導入済みのAVID ISISとも接続を行いファイルべースワークフローの実習も実施してみたいとのこと。まさにAVID製品によるトータルソリューション。認定校ならではの充実の設備ということが出来る。
他にも、汚れが目立っていたクロスの張り替え、メインモニターとして利用していたUreiのスピーカーをGenelec 3080へ更新なども行なっている。MA用のテレビモニターも新しい物に更新された。一つ面白い機材が、タイムコードの確認用にPunchLight社のStudio Display USBというコンパクトなTC Displayを導入。手元でのTCカウンターの確認が可能。さらに同社のPunchLight DLiにより前室のRecording Lumpの制御を行なっている。このRecording LumpはPro Toolsに連動しているので、Rec Readyの状態になると自動的に点灯するという優れものだ。
導入が終わったところから、その設備を活用する方法を考えていかなければならない。『人間力』の向上はもちろんだが、これからの人材育成の方針として、レコーディング、MAといった業種の区別なく『音』のスペシャリストの育成が必要になるのではないかとのコメントを頂いた。これまでのように単一の分野に特化したスペシャリストではなく、幅広い視野を持ち『音』全般を知り尽くした人材。今日はレコーディング、明日はMA、そして収録作業など全てを任せられる柔軟な人材が重宝されるのではないか。そのような人材の育成のためにこのAVID S6の設備は十分に活用可能なのではないだろうかと将来像を語っていただいた。これからの時代を生き抜いていける人材には、どのようなスキルが必要なのか?未来をしっかりと考えてもらえる講師、そしてそれを支える充実の設備、まさに理想的とも言える教育環境がここにあると言えるのではないだろうか。
学校法人 片柳学園
日本工学院八王子専門学校
〒192-0983 東京都八王子市片倉町1404-1
Tel : 0120-444-700
キミの全力を発揮できる環境はココにある。専門学校の枠を超えた施設を有する緑豊かなキャンパス東京郊外の美しい自然環境広がる文教都市八王子にある、東京ドーム8個分もの広大なキャンパス。これが専門学校?というべき最新実習施設・スポーツ施設・福利厚生施設を備えています。いわば、近未来の学校のあり方を具現化したもの。ドラマ・CM・映画のロケ地として内外のメディアからも注目されている学校です。