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プロの仕事場 / よくわかる!音効というシゴト

プロの仕事場 / よくわかる!音効というシゴト
Text by 金子寛史(株式会社fro-less)

皆さんこんにちは、株式会社fro-lessの金子です。今回は音響効果、略して“音効”の世界をご説明させていただきます。音効と言ってもジャンルによって内容が全く違います。映画、ドラマ、アニメ、ゲーム、バラエティ、スポーツ、情報、報道など、私は以前所属していた会社やお付き合いのあったスタッフさんとの縁もあり、非常に沢山のジャンルを経験させて頂きました。音のお仕事で日々忙しくされている方、またこれから音のお仕事に就きたいと思っている方、また副業でYouTubeに音を付けている方などたくさんの方に、音効という仕事の内容を少しでも分かりやすくお伝えできればと思っております。どうぞ最後までよろしくお願いいたします。

株式会社fro-less
金子寛史 氏


音効のワークフローとは!?

それでは早速どのような流れで作業が進むのか大まかに見ていきましょう!音効の仕事は、1.ライブラリの管理、2.音効作業、3.楽曲リスト制作と大きく3つに分けられます。まずは自分の引き出しともなる定期的な「1.ライブラリの管理」。日々発売されている色々な音楽から権利的に使用可能な楽曲を精査しながらライブラリーに加えていきます。市販の音楽ですとアニメのサントラ、ドラマのサントラ、アーティストのインストなどになりますが、番組などに使用しやすい業務用の音源を各出版社レーベルから送っていただいているのでそちらもチェックです。また、弊社が契約しているロイヤリティフリー音源レーベルも日々更新されています。最近はWeb上から検索して試聴・ダウンロードできるものも増えていますので便利になりました。フリー音源は一般の方でも簡単に購入、使用できますのでいくつかご紹介しておきます。レーベルによってロイヤリティフリーではない曲が含まれることもありますので、利用の際にはよく確認してください。

代表的なフリー音源サービス


NASH Musicl Library
Ligar musiclibrary
Audiostock
Epidemic Sound
Premium Beat

それでは次に「2.音効作業」の流れを簡単に説明しましょう。弊社は情報バラエティのジャンルが多いので、そのパターンを例に進めます。まず制作スケジュールや番組構成の確認から始まりまして、未完成の映像と仮のナレーション台本をもらって選曲などの準備をします。ここで言う未完成の映像とはスーパー加工前の段階のもので、「オフライン」や「白完」など色々な呼び方をします。企業動画案件などは比較的時間に余裕はありますが、デイリーの番組などはタイトなスケジュールですので、未完成であってもこの状態で音効作業を始めないと間に合わなくなってくるのです。

ざっと全体像を把握した後に選曲に入るわけですが、その際にテレビ放送なのか、配信なのか、など媒体を確認して楽曲の使用範囲を把握します。Tver、YouTube、企業web動画、アーカイブ動画などそれぞれで使用できる楽曲が絞られてきます。ロイヤリティフリーの楽曲はほとんどの動画に使用できますが、放送番組ですとテレビ局が包括契約をしているJASRAC、NexToneの管理曲で放送、配信が可能な楽曲から選ぶことが多いです。

次に、編集上がりの映像をもらいます。こちらについても「オンライン」「画完」「スーパー入り」など色んな呼び方をします。ドラマ、映画ですと「ピクチャーロック」でしょうか。この段階からは、選曲した曲を物語と音楽のフレーズを意識しながら編集していきます。なお、スーパーが入るとイメージも変わってくるので、事前に選んでいた選曲をやり直すのもよくあることです。その後、物語の内容と音楽のキーに合うようなSEを選び、スーパーやテロップにSEを付けていきます。雰囲気の分かっているレギュラー番組などは大体想像がつきますが、ナレーターさんの声や読み方、タイミングなども重要な要素なので時間に余裕がある時は収録されたナレーションをもらって再度、音楽やSEの調整を重ねていきます。

そして、編集が完了したらクライアントチェックです。ドラマやCMなどはMA・ミックス前に監督チェックやスポンサーチェックを受けるのですが、CMやインフォマーシャルは幾つかパターンを用意して選んでもらう格好、ドラマについてはチェックで出てきた監督の指摘箇所を修正してMAにデータを送ります。MAで整音・ナレーション収録・ミックス作業を行い、エンジニアさんに最終的なバランスをとっていただいて再度気になる点があれば調整します。こちらも最近はコロナの影響もあり、MA時の修正などは遠隔で対応することが増えました。

最後の「3.楽曲リスト制作」では、使用した曲の詳細を各放送局で用意されたフォーマットの用紙に記載していきます。記載内容は曲名、作曲者、作詞者、アーティスト名、レコード会社、レコード番号、使用秒数などと多岐に渡ります。

選曲のアイディアの出し方

続いて、実際の選曲をどう考えて行なっているのかアプローチの切り口を見ていきましょう。選曲のアイデアの出し方ですが、何しろライブラリの曲数は膨大です。ある程度ピックアップしておいたり、記憶している曲から選んだり、新譜から探してみたりとその選曲方法も様々です。

自分は、ここが一番大変な作業でもあり楽しい作業でもあると思っています。曲によってシーンの見え方がどんどん変わっていく訳ですから面白い作業ではありますが、国語の自由作文のように正直なところ正解がないのです、というか正解がたくさんあるのです。この曲も合ってるけど、この曲も良いし…、逆に何をあてても違う気がする場合もあります。こうなるといくら時間があっても足りません。音効の皆さんはおそらく自分なりのOKラインを持っていて、そこのボーダーラインは超えるように努力されているのだと思います。特番などで弊社では受け切れないというほどの分量のお仕事が来た時、他社の音効さんに手伝って頂くことがよくありますが、皆さんOKラインが非常に高いレベルにあると感じますし、また人によってこんなにも選曲が変わってくるものかとも感心します。

AIロボット化が進み、何でも自動で行える世の中になってきていますが、自分はこの職業は無くならないものだと確信しています。音効は既存の音楽を付けるだけと思われているかもしれませんが、選ぶ作業というのは本当に大変で、悩み、苦しんでその1曲を選んでいるのです。ですから番組が無事放送された時は大変大きな達成感を感じます。

自分なりの選曲のアイディアの出し方ですが、画面を見て感じたことを踏まえて、ナレーションや前後の文脈を読み取って内容に合ったものを選びます。その時、気を付けているのが視聴者の客観的な目線です。演出に入りすぎると、やり過ぎてしまうことや無意味な箇所を埋めてしまったりもします。一旦、俯瞰の目を持つことが大事だと思っています。また、演出の意図を汲み取ることも大事です。ここで盛り上げて、ここで転調して、ここでカットアウトして、ここで復活とか…。さらに気にしているところは、ナレーターさんやMCの喋りのテンポに合わせることです。いくら曲が合っていても語りのテンポに合わないと良くありません。ナレーションなどが聴き取りにくくなってしまっては本末転倒ですから。ちなみに、ナレーション収録の際に音楽を付けておくと、ナレーターさんがそのテンポや曲調に合わせてくれます。職人技ですね。

後は、クライアントの目線も大事です。例えば炭酸飲料のインフォマーシャルでコントドラマの様な設定だとします。ここでコントの内容や演出に寄せて選曲すると企業イメージなどからNGが出てしまいます、それよりも爽やかさや元気さが必要です。と言っておきながらも内容にも合わないといけなかったりして…結果、パターンは多くなります。また、出演されている方の気持ちも考えます。ドキュメンタリーでは特に過度に音楽で煽ったり、その人の感情を揺さぶる様な選曲は避けています。基本は邪魔にならない曲を選んでいることになるのかもしれません。音楽はアーティストさんが何かを主張して作っているのですから、主張しないという曲を選ぶのも実のところ一苦労なわけです。

一方で、それとは全く逆のことになるのですが自分の好きな曲を流すというのもアプローチとしてもちろん有効です。学生時代、友人の影響もあってレッチリ、エリック・クラプトン、ビートルズ、スティービー・ワンダー、ビリー・ジョエル、エアロスミス、ガンズ・アンド・ローゼズなど洋楽のメジャーどころを聴いていました。音効になった頃は、いつか自分の好きな曲を流してやると意気込んでいました。ところが、そんな曲を使って良い場面は滅多にありません。でも時々、演出家さんへのチャレンジ的にこの辺の好きな洋楽などを流すんです。もちろん、内容にも画面にも合っている…と思ってますよ!そんな遊び心も音効には大事なことだと思っています。ちなみに、最近はTWICEが好きで可愛い動物の映像に流しています…(笑)。

しかし、選曲にも限界があります。ゲームコンテンツやCMなどオリジナリティを出したいというオファーがあれば作曲ということになりますので、日頃から色々な場面で知り合った作曲家さんにお願いをして作っていただきます。基本的には演出家さんに雰囲気など伝えてもらうのですが、私が曲の雰囲気を伝えなければならないこともあります。これは自分で選曲するのとは違ってその伝え方が重要、責任重大です。頭にあるイメージを伝えるのはこんなにも大変なのかと痛感していますが、いつも作曲家さんの経験値や技量に助けられております。

選曲の幅の広がり

年齢を重ねるにつれて、人生の経験が深まり選曲のアイデアに潤いが出てきます。若手の頃は必死に目の前の仕事をこなすことで精一杯でしたが、時間に余裕のある時に、例えばスノーボード、ゴルフ、居酒屋、バー、登山、海、海外など1回でも行って体験すると、スノボーの曲はこっちの方がカッコいいなとか、登山してる時はこのタイミングで感動した音楽が欲しいな、など経験が選曲に良い影響を与えてくれます。アウトプットばかりでなく、たまにはインプットも必要と言うことです。また、健康のために時々ヨガをしているのですが、ヨガのインストラクターさんの選ぶ曲は心地良いし邪魔になりません。ピアノ曲からヒーリング曲、アクティブなシーンに合う曲などピッタリなんです。他にも中華の音楽は香港に合うか、ドバイにアラブ音楽は合うかなど、実際行ってみるとこんな曲が合いそうだなとか、こんな近代風にアレンジしているんだとか色々感じ取れると思います。趣味の延長だからと休み無しで働いている方もコロナが落ち着いたら色々なところに行ってみることをお勧めします。

ドキュメンタリーのお仕事もよく頂きますが、こちらも若い頃とは音の付け方が全く変わってきました。音楽で演出するのではなく、出演している人の気持ちになるべく寄り添って、感情を必要以上に演出することは避けて、別のシーンで色を出す様になりました。そうなると曲数もどんどん減っていきますが、「曲を付けない」ということも音響効果の演出なんです。

CaseStudy

孤独のグルメ 配信オリジナル全6話 paravi・ヒカリTVで配信中!

担当させて頂いた番組で印象的だったのが「孤独のグルメ」シリーズです。楽曲は全て原作者の久住昌之さん率いるバンド、TheScreenTonesが作っていることもあり曲に説得力があります。昨今、打ち込みの音楽が多い中で生演奏のパワーが凄くて、井之頭五郎の世界観と料理にハマるんです。シーズンを重ねるうちに600曲くらいに増えましたから、選曲するこちらもやりがいがあります。食べるシーンは定番の曲になることが多いですが、どんなシーンが来ても大丈夫だと思っています。

腹減ったシーンのポンポンポーンは私がバラエティ番組ぽいSEを付けていたら、監督がMAで「もっと生っぽいウッドベースのような音でいきたい」と言われました。色々な音を用意していた私ですが、さすがにウッドベースの単音は持っていなくて困りました。しかし、MA時の音効は「大丈夫ですよ!」って感じで素早く対応するのが腕の見せ所でもあります。そこで、生の音といえばTheScreenTonesさんの楽曲だ!と思い劇伴を聴き直し、ドラムの栗木さんが叩いたパーカッションの音を聴いて、これだ!と思いました。こうしてそのパーカッションを加工して…定番シーンのSEとして繰り返し使われるようになったんです。

当初、孤独のグルメはリアルを大事にしてSE、フォーリーなどは極力つけないでいこうという方向になり、料理の音など音声さんが録音してくれたリアルな音を基本的に使っています。編集として繋がらないような焼き肉やベース音や音が無いと成り立たないところくらいだけ付けるようにしています。これが成り立っているのは松重豊さんの身体で表現する音がちゃんと聴こえるからです。舞台経験の成せる技なのか、動く音、食べるシーンなど、喉の音まで、しっかり聴こえるんです。

最近のドラマは非常に細かく音が付いていますが、私が最初にアシスタントでついた「北の国から 時代」の頃はPro Toolsもなかったですし、6mmテープやAKAIのDD1000やTASCAM DA88の8chマルチで音をピンポンしてSEを作っていましたので、全ての動きに音をつけるなんてことは想像もしていませんでした。それでも一つのシーンに何日もかけて試行錯誤して作り込んでいく音の作り方は大変勉強になりました。私の原点でもあります。

ほかにも印象的な作品を挙げますと、NETFLIX「野武士のグルメ」ではサラウンドの音響制作を行いました。NETFLIXが5.1ch納品と聞いて非常に驚いたことを思い出します。サラウンドについて当時はほぼ未経験でしたので、サラウンドに精通しているエンジニアさんに色々と教えていただきました。AutoPanの書き込み方なども知らなかったくらいでしたので、一人ではいくら時間があっても終わらなかったと思います。ただ、センターの音の重要さや左右だけでなく前後に音を動かせることで広がるサウンドなど、サラウンドの見せる音場に興味津々で作業にのめり込めました。音楽はNugen Audio Halo Upmixを使用して広がりを出し、ベースの音はセンターに寄せたりフロントに寄せたり、単音を左後ろから右前へ移動させてみたり、物語の邪魔をしない範囲で音を動かしたりもして色々試しました。


東京放置食堂

ドラマ「東京放置食堂」では細かい音付けが必要になりました。フォーリー系はもちろんのこと、演者の息づかいやため息まで作成しました。不思議なことに細かく音を作ることで自分も演じている気分になってくるんです。また、心情も俳優さん達と合わせないとそのシーンに合う音が録れないんです。そこから生まれてくるアイデアは非常に面白いです。例えば息を長く吐き出すシーンは息の音が風の音に聴こえてきたり、、、伝わりますかね…(笑)。大変でしたが、非常にやりがいのあった仕事の一つです。

色々とお仕事の経験させていただきましたが、私が一番長く携わった番組は実は生放送なんです。小倉智昭さんの「とくダネ!」など20年ほど携わらさせていただきました。生放送は、いかにミスなくこなすかがテーマですが、当時の選曲作業はVTRも見ずに台本だけで選曲して、O.A15分前までに選曲していたCDを10枚くらい並べて、15秒から20秒でどんどん乗り換えていくんです。忙しいDJみたいです(笑)。生放送の選曲は、また特殊です。事件からエンタメ、ドキュメンタリー、様々なネタを映像を見ずにナレーションだけで想像して選曲しておいて、初めて見る映像に音楽やSEを生で出していくのです。今は映像を見たり、サンプラーを使ったりしていると思いますが…。

生放送に関しては夜中からスタンパイしたり、時間に追われる緊張感など、特殊な音効業務です。しかし、その中で多くのジャンルを体験することになりますから、音効に必要なものが全て詰まっている仕事のような気がします。時々、選曲速度が速いと声を掛けていただくことがありますが、これは生放送で時間に追われて染み付いたものかもしれませんね(笑)。


こんな私ですが、もちろん最初から仕事をたくさん頂いていた訳ではなく、若い頃は先輩の音効さんの模倣をすることで精一杯でした。1人立ちしてからもディレクターさん、プロデューサーさんに沢山ご指導いただきました。そのお陰でここまで長くお仕事をさせて頂いているのだと思っています。不思議と厳しくご指導いただいた方に限って、10年以上の長期のお付き合いになっています。本当に感謝しかありません。また、人の繋がりもあり、元々やりたかったドラマや歌番組のお仕事をさせて頂けることも増えました。まだまだ、音効として勉強する事は沢山あると日々感じています。そして一生勉強しがいのある、この音効というお仕事を選んで本当に良かったと思っています。

●株式会社fro-less
株式会社fro-lessは、音響効果・選曲・SE・MA 等、音作りを全般的にサポートする音効会社です。普段無意識に感じている音を、より自然に、より効果的に映像に取り入れられるよう私たちは日々努力しています。社名の”フローレス”は、ダイヤモンドの最高ランクをさします。カットによっていかようにも表情を変え、底知れぬ光を放つことができるダイヤのように鍛錬された技術と厳選した音で映像作品をより美しく演出していきます。また、年々進化している映像作品ですが、音響という分野でその映像作品に刺激を受けながら、斬新かつクリエイティブな表現を目指しています。


*ProceedMagazine2022号より転載

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*記事中に掲載されている情報は2022年08月10日時点のものです。