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前田 洋介

[ROCK ON PRO Product Specialist]レコーディングエンジニア、PAエンジニアの現場経験を活かしプロダクトスペシャリストとして様々な商品のデモンストレーションを行っている。映画音楽などの現場経験から、映像と音声を繋ぐワークフロー運用改善、現場で培った音の感性、実体験に基づく商品説明、技術解説、システム構築を行っている。

株式会社イクシードが展開する8K overフィルムスキャンサービス 〜OXSCAN 12Kで残すアナログの価値〜

歴史ある都内有数のポストプロダクションである株式会社イクシードが、2022年より新たに8K overの解像度を持つ映像のデジタイズ、グレーディング、レストアのソリューションを、プラサド社とパートナーシップを組みスタートさせた。ハリウッドでのフィルムレストア、VFXなど様々な分野で高い実績を持つプラサド社。そしてプラサド社の傘下であるデジタルフィルムテクノロジー(DFT)社のフィルムスキャナー、イクシードが持つフィルムの取り扱いのノウハウ、グレーディングのソリューション。そのシステムの全貌とどのようなサービス提供を考えているのかお話を伺った。

8K overのデジタイズサービス

はじめに、なぜこの記事内で「8K over」という表現をしているのか?ということを説明したい。まず、高解像度のデータがあれば、それ以下の解像度への変換時に基本的にはロスは生じない。できる限り高い解像度を保ったままデータ処理をすることの有用性は、改めて説明をするまでもないだろう。そして、今回プラサド社とのパートナーシップによりイクシードに設置されたOXSCAN 12K(デジタルフィルムテクノロジー(DFT)社製) は、センサーとしては12Kの解像度を持っている。この12Kでのスキャンエリアはパーフォレーションを含んだものであり、有効画面として純粋に12Kの解像度が担保されるものではないが、様々なフォーマットがあるフィルム媒体への対応のためには必要なことでもある。実際のところ、OXSCAN 12Kでは16mm、35mmのフィルムともに有効面の解像度は8Kを超える画素数を得ることができる。そのためここでは「8K over」という表現を使わせていただいている。

このOXSCAN 12Kで取り込まれたデータは色深度16bit-logであり、RAWデータの状態で1フレームあたり500MBというデータ量を持つ。24fpsで換算すると1秒あたり12GBというデータ量だ。解像度の高さもさることながら、16bit-logで色情報を捉えることができるこのシステムは、まさに世界最高峰のスキャナーと言って過言ではないだろう。そこで捉えたデータは、さすがにそのまま触るということではなく、プロキシデータを生成して作業を行っているということだ。最初に1フレーム500MBと聞いた際には、どのような巨大なサーバーシステムが裏に構えているのか?と思ってしまったところだが、データ容量としては膨大となるものの一般的なNASストレージ(10GbE接続)で動作させているということだ。ここで捉えたデータにトリミング、グレーディングといった作業を施し、顧客の必要とするデータ形式での納品が今後行われる。旧作品のアーカイブであれば必要に応じてレストアも対応していくということだ。

ソフトウェアとしては、Blackmagic Design Davinciを中心にシステムアップが行われていたが、更に高度な処理を行うということであれば、プラサド社とのパートナーシップを活用してハリウッドでの作業なども見据えるなど、そのサービスは広がりを持つものとなっているという。

デジタルではたどり着けないアナログの残し方

フィルムでの映像作品が映像のメインストリームから消えて20年近くが経過しようとしている。保管状況にシビアなフィルムが経年で劣化してしまう前に、高解像度でアーカイブを行う最後のチャンスに差し掛かっているとも言える状況だ。後世に作品をマスタークオリティーで残すためにこの8K overのデジタイズサービスは価値があり、これまでにHD解像度でデジタイズされた作品も改めて更に高い解像度で残すべきだとお話をいただいた。


📸左よりお話をお伺いした株式会社イクシードのカラリスト田嶋氏、プラサド社の中西氏、イクシード代表の中野氏。

フィルムの持つ解像度がデジタルとしてどれほどのものになるのか?これには様々な意見があるだろう。しかし、長期的に見て今の時点で考えうる最高の解像度で作品を残すということには価値がある。これには異論は無いだろう。実際にデジタイズされたデータを85インチの8K モニターで見せていただくとフィルムの粒子が見える。この表現が正しいかはわからないが、粒状感のあるフィルムならではの質感を保ちつつ、ピントのピーク一つ一つに製作者の意図を感じる。もちろん、フィルムならではのダイナミックレンジ、色味などの情報も如実に反映される。あとからデジタル処理として粒状感を加えたり、グレーディングで似せたものものでは決してたどり着けないアナログの良さがしっかりと残っていた。

昨今、ハリウッドではデジタル撮影された作品をキネコ(※)してデジタイズし直すという手法も行われているとのこと。本物のフィルムならではの質感を得るために、あえてこのような工程も手段の一つとして生まれているそうだ。もちろん、予算さえ許せば当初よりフィルムで撮影するということも行われている。イクシードでは過去作品のアーカイブのみならず、新撮作品のデジタイズもサービスとして積極的に行っていきたいということだ。ピントがシビアだ、などと言われる8Kデジタル撮影だが、フィルムで撮影してからの8Kデジタイズであればアナログ的なにじみが逆に味として残る。撮影の負担も軽減されるので手法の一つとして考えられるのではないだろうか。

※キネコ:デジタルの映像作品をフィルムに焼き付ける作業、機械。Kinescope。


この8K overのデジタイズソリューションにより、どのような作品が生み出されていくのか?過去の作品が未来へとどのようにつながっていくのか?国内初となるOXSCAN 12K、今後どのように活躍の場を拡げていくのかその動向から目が離せない。

株式会社イクシード
2000年9⽉に映像ポストプロダクションとして設⽴。数多くの映像作品(CM、企業 VP、プロモーションビデオ、ミュージックビデオ、映画)に携わっており、様々な業務(撮影、編集(オフライン編集、オンライン編集)、カラーグレーディング、MA、各種マスタリングサービス)を提供している。

プラサド
デジタルリマスター制作におけるトータルサービスをグローバルに提供するプラサド社。フィルム保存、16mm、35mm、65mm、IMAX シアター及び、2K、4K、8K、12K までの解像度のフィルムスキャン、デジタルレストア、クオリティーチェック、メタデータ管理など、ハリウッドでも⻑年サービスを提供している。

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*記事中に掲載されている情報は2022年06月07日時点のものです。