Home » 技術解説 » 技術解説:ラウドネスメータどうなってるの?

技術解説:ラウドネスメータどうなってるの?

2010年11月15日 掲載(記事本文・構成 : ROCK ON PRO)


Loudness

文章:TCグループ・ジャパン株式会社 C.T.O. 京田 真一(2010.10)


Loudness-Meter決まりそうでなかなか決まらない規格に振り回されて、皆さんお困りの事と思われます。
(注意:2010年10月時点での記事となります)
ITU-BS.1770は良く目にする記号だと思いますが、日本的にはARIBでの規格決定が待たれる所ではあります。一応、理想的なスケジュールでは、来るべき2011年7月25日のアナログ放送停波に合わせてラウドネス管理基準が適用されると言われていますが、運用開始日の案内に関しては、皆さんがこのコラムに目を通すであろうInterBEE 2010の頃になると出てくるかと思われます。測定パラメータもITU規定に合わせて若干の変更もありそうです。その前に一度、10月の時点での話ではありますが、頭の整理を兼ねて現状整理をしてみようかと思います。

ITUがラウドネスを測定基準とする検討プロジェクトを始動したのは2000年になります。VUメータやQPPMメータによる測定は、レベルジャンプやピーク監視に不都合が出るとの見解から、新しい測定方法を模索するところから始まりました。

新しいラウドネスとピークレベル測定の規格
図1:R2LBカーブ(紫)RLBカーブ(緑)Aカーブ(赤)

図1:R2LBカーブ(紫)RLBカーブ(緑)Aカーブ(赤)

2006年にITUのワーキングパーティWP6Jは、BS.1770という新しいラウドネスとピークレベル測定の規格を策定しました。これは、Leq RLBというBカーブの重みづけをしたフィルタに高域用のKカーブの重みづけ(この事からラウドネスの単位はLkFSが使われています)を付加したR2LB(図.1)を用いてラウドネスを測り、True PeakメータというAES SC-02-01で規定されたオーバーサンプル・ピーク測定を採用するというものです。

このITU-BS.1770は、多くのラウドネスメータに搭載される規格ですが、BS.1770にプラスして幾つかの指標を盛り込む方が、よりラウドネスの測定結果が良くなることがその後の研究によって判ってきました。ラウドネス自体が、曖昧な指標であるがために、試行錯誤が多いわけです。

ラウドネスのおさらいですが、VUやピークメータといった電気的信号の大小という客観的な指標ではなく、人が感じる音量の指標ですから、非常にデリケートで主観的なものです。この音量感の厄介なのは、人種・性別・年齢・文化的背景といった個体の違いによる評価(BLW)もありますし、同じ人でも朝・昼・夜・夜中や気分(雰囲気)、何かをやりながら等で音の感じ方(WLV)が変わります。

また、再生機器(スピーカーの大小やヘッドフォン等)の違いによっても同じ音量での感じ方が変わります。ITUをベースに、EBU(Europe Broadcast Union:ヨーロッパ)とATSC(Advanced Television Systems Committee: アメリカ)が、それぞれ検証を重ねてきました。それがEBU R128とATSC A/85です。どちらもITU-BS.1770をベースにしていますが、いくつかの違いがあります。

図2:NLRプログラム例<ニュース>

図2:NLRプログラム例<ニュース>

ラウドネスを測定するにあたって、R2LBの重みづけだけを行った場合、無音またはそれに近い部分を平均値積算に組み入れてしまうので、スタートからストップまでの計測では、実際に感じる音では無い部分も含まれるために指標が低めになってしまいます。

これにより測定されたロングターム・ラウドネス値でプログラムをそろえて行くと、大きい音はとても大きく感じてしまいます。これを避けるためにセーフティ・ゲートと呼ばれる-70LUFS以下の信号にゲートをかけて計算から外す方法が付加されました。これはR128もA/85も共通です。

A/85は、基礎技術をAC3エンコードに共有するために、ダイアログ(言葉・セリフ)の大きさに着目して、さらに重みづけするという方法から発展させて(AC3エンコードをされた方はDialog Normという言葉にお聞き覚えがあると思います)アンカーレベルという重みづけを行っています。R128は、よりオープンスタンダードを目指し、相対ゲート(Relative Gate)という測定ラウドネス値から一定レベルより下をゲートをかけるという重みづけを行っています。

NLR、MLR、WLR。
図3:MLRプログラム例<ドラマ>

図3:MLRプログラム例<ドラマ>

「?」と思われるかもしれませんのでもう少し解説します。放送プログラムには様々なコンテンツがあります。ニュースや「ずっと喋っている」バラエティ番組等は、NLR( Narrow Loudness Range: ラウドネスレンジが狭い)という分類になります。ドラマや紀行番組等はMLR (Mid Loudness Range)、映画やクラシック音楽の放送等はWLR(Wide Loudness Range)と言います。

NLRでは、声(Foreground Loudness)以外の音がほぼ無いのでラウドネスの幅(レンジ)が狭く、あまり重みづけの効果は出てきません。図.2はニュース番組に-6LUの相対ゲートをかけたグラフ(FogL:赤)と、-20LUの相対ゲートをかけたグラフ(CoG:緑)です。ラウドネスの幅(LR)は2.1LUでNLRである事が解ります。

ここでは、あまり差が出ませんが、図.3のドラマ番組のMLRになると少し差が広がるのが解ります。

図4:WLRプログラム例<映画>

図4:WLRプログラム例<映画>

映画を測定したのが図.4ですが、WLRプログラムでは25LUものレンジがある事が解りますね。この一連の図ではRelative Gateの重みづけを行っていますが、ゲーティング処理をしない場合のプログラムラウドネス値はこれより低くなりますので、そのラウドネス値で揃えると全体のレベルが下がります。が、一方で大きい音はとても大きくなってしまいます。

ゲーティングの閾値を何処に設定するかで測定値に差が出てきますが、最新の研究では-8LU〜-10LUの時に最もエラーレートが低くなるとの結果が出ており、これは各国の機関も同調する動きとなっています。

ITU規格では、プログラムのスタート・ストップ間のラウドネス値を「ロングターム・ラウドネス値」と呼んでいますが、これは前述のゲーティング処理をしていない計算方法になります。ATSCでは-70LUFSの絶対ゲート、EBUでは絶対ゲートに加えて-8LUの相対ゲートを採用していますので、「インテグレーテッド・ラウドネス値」と呼び分けています。

BS.1770では、番組間・ステーション間レベルジャンプ抑制の観点からロングタームのみを規定していますが、EBUではこれに加えていくつかの指標を盛り込む方向で調整しています。

ショート・ターム値といって3秒間のゲーティングしていない測定窓(Sliding Window)を、時間軸を移動しながらその平均値を測定する指標もその一つです。これはEBU R128に盛り込まれていますが、この指標により、全体で一つの指標では無く、プログラムのレベルバランスを時間軸で知る事が出来ます。

また、もっと短いラウドネスの瞬時値を示す指標もあります。モーメンタリと言って、400mSの時定数でのラウドネス値を表示します。VUメータが300mSの時定数ですので、かなり瞬時値としての指針になると期待されています。

ラウドネス・レンジ(LRA)という指標も
2010年11月のAES CONVENTIONでデモンストレーションされていたLM2(1Uラックマウント)と、タッチ・パネル式のスタンドアローン・ラウドネス・メーター、TM7/TM9

2010年11月のAES CONVENTIONでデモンストレーションされていたLM2(1Uラックマウント)と、タッチ・パネル式のスタンドアローン・ラウドネス・メーター、TM7/TM9

このほかにEBU Tec. Document 3342にてラウドネス・レンジ(LRA)という指標も検討されています。これは、プログラムがどれだけの幅を持っていたかという指標で、前述の図にてLR値として書かれています。LRAが放送コンテンツに対してどこまで有効かはまだ検証段階ですが、LRA値を運用基準として使用する事でラウドネス値で管理されたプログラム間でも起こり得るジャンプを未然に防ごうという動きもあります。

駆け足で書いてきましたが、ラウドネス管理は既に海外では始まっています。英国ではBCAP(放送広告運用委員会)により2008年7月1日からCMに対してラウドネス・ルールが施行されました。アメリカでもCMレベルは本放送を超えてはいけないというルールが施行される方向です。BCAPによるルールの施行後には、視聴者からのレベルジャンプに関するクレームが半減したという実績もありますので、ラウドネスコントロールの有効性は実証されていると言えるでしょう。

さて、日本では最終的にどのような動きになるのか流動的な部分もまだ残っていますが、大勢としての方向にはブレは無いでしょう。ロングターム値のみの管理では、サーバー管理のプログラム(ポストプロダクション後と言う事ですが)への規定、いわゆる納品規準となりますが、これにR128のインテグレーテッド値やモーメンタリ値の総合的な判断により、送出全体のラウドネス管理となれば…生放送も…と、進む事になってしまうかもしれませんね。ただし、セオリー通り「あまり突っ込みすぎず」「0VU」近辺を平均的に振らせていくと結構良い数字が出るという、ある意味安心できる(?)結果も出ています。あとは、経験による微調整で行けそうですので、あまり恐れる事は無いかもしれません。

最後に、EBU TECHNICALが掲げている「ラウドネスについて知っておきたい10の事」から少々。

  • 視聴者は、ラウドネスジャンプを快く思っていない。
  • リファレンスを変えることで、「ラウドネス戦争」に終わりを告げる事ができる。
  • ラウドネス・ノーマライズが最短のソリューション。
  • 全放送チェインで、ラウドネス・ノーマライズの標準化が求められている。

この号が出る頃には既に日本でも決まり事が出来ているかもしれませんが、まずはここまでの経緯を踏まえて「頭の整理」をしてみました。

文章:TCグループ・ジャパン株式会社 C.T.O. 京田 真一(2010.10)

3Day__tc_LMUp


記事本文・構成 : ROCK ON PRO

※ 記事中に掲載されている価格・割引率・購入特典・ポイントや仕様等の情報は 2010年11月15日 記事更新時点のものです。

お見積もり・ご相談は、お問い合わせフォーム、お電話 (03-3477-1776)、FAX (03-3477-1757) にてお待ちしております。

営業担当:岡田・君塚・森本・廣井・佐々木・清水、デモ:洋介までお気軽にどうぞ。

*本記事の内容は、特に断りのない場合掲載時点での情報を元に書かれています。


関連する記事