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ヤマハのCLシリーズが提供する新たなワークフローとそれを支える革新性

Proceed Magazine 2012 Summer

ヤマハのCLシリーズが提供する新たなワークフローとそれを支える革新性

ヤマハ株式会社PA事業部 北川 敦志・今井 新・高橋 大介

1.CLシリーズの開発コンセプト

ヤマハデジタルミキサー25周年を迎えた2012年、その3月21日にフランクフルトで開催された世界最大の音響・照明の展示会「Pro Light + Sound」にて、当社は最新のデジタルミキサー「CLシリーズ」を発表しました。25周年という節目に発表したCLシリーズが掲げるコンセプトは「The standards stay, but innovation never ends.」。まずはそのコンセプトが意味するところに迫ります。

■変えないこと



ヤマハ株式会社PA事業部
北川 敦志・今井 新・高橋 大介

当社がデジタルミキサーにおいてお客様にお届けしてきた価値の中で、お客様に評価いただいていると我々が自負できる部分について、今回は敢えて「変えない」ことをテーマとしました。ライブコンソールはやり直しのきかない現場で使用されるため、操作に迷いや間違いがあってはいけません。2005年に発売した「M7CL」は、操作子が全て盤面に出ているアナログコンソールは本当に使いやすいのか?ということを検証した結果生まれたコンソールです。「Centralogic」というシンプルでわかりやすい操作体系は高い評価をいただき、今や業界のスタンダードとなっています。その操作体系を一切壊さないこと。それがCLシリーズ開発のスタートラインでした。ちなみにCLとはCentralogicの略で、まさに品番がそのスタートラインを物語っています。ほかにもCLシリーズで「変えない」選択をしている価値はいくつかありますが、何よりも大事にしていることは高い「信頼性」です。変わらないヤマハの高い信頼性があってこそ、新しい価値をお届けできると考えています。

■CLシリーズが提供する新しい価値

コンソールを構成する大きな3つの要素「音」「操作性」「機能」のそれぞれに新しい提案をしています。まず「音」ですが、ヤマハのフィロソフィーである「ナチュラルサウンド」をさらに追及し、そこに色づけするためのツールとして「Premium Rack」を搭載しています。次に「操作性」、Centralogicの操作体系はそのままに、さらに素早く・快適に操作できるアイデアを盛り込みました。新開発のフェーダー、屋外でも高い視認性を有するチャンネルネームとカラーバー、任意のパラメーターをアサインできるUser Defined Knobsなどです。そして「機能」ですが、コンソールとI/Oラックを接続するインフラとして、Ethernetベースのネットワークオーディオプロトコル「Dante」を採用。さらに複数のCLコンソールから同一のI/Oラック制御を実現するゲインコンペンセーション、Nuendo LiveとDVSによるライブレコーディング環境も実現しました(詳細は後述します)。


2.開発チームが挑んだ技術革新

CLシリーズの開発では、お客様が期待するヤマハ品質を継承しながらも「音」「操作性」「機能」のそれぞれで、革新的な価値を提供することに取り組みました。

■プレミアム&ナチュラルサウンド



Rupert Neve(左)と
VCM技術の生みの親である国本利文

2010年に発表したRupert Neve Designs社との協業による成果の一つとして、CLシリーズではRupert Neve氏の最新のイコライザーとコンプレッサーであるPortico 5033/5043をヤマハ独自のVCM技術で忠実に再現して、「Premium Rack」に搭載しています。VCM技術およびPorticoサウンドについては前号で寄稿済みなので詳細は割愛しますが、アンプ回路やトランスまで含めた正確なモデリング、および音楽的なサウンドに仕上げるための綿密なチューニングにより、Neve氏が言うところの”depth and perspective”を重視したファーストクラスのアナログサウンドをデジタルコンソールで実現しました。スタジオサウンドを妥協なくライブコンソールで実現したと言えます。この新しい武器を最大限に活かすためにも、サウンドのベースとして余計な色付けを排除した「ナチュラルサウンド」(原音忠実再生)か重要になります。このサウンド哲学はヤマハの歴代コンソールで一貫していますが、CLシリーズでは特にクロック周りに着目して開発しています。

FPGA内の回路ブロックの配置や、クロック信号の経路も含めて検証することで、いわゆるスペックに表される数値だけでなく、ジッターのスペクトラム特性も含めた最適化を図っています。結果として、ミックスしても一つ一つの音の輪郭や粒立ちをそのままに、周波数軸も定位軸もブレのない音楽的なサウンドに仕上がっています。

■視認性を高めたオペレーション



暗転時だけでなく、
様々な色の照明下での視認性も検証

基本的な操作スタイルは、2005年リリースのM7CLで採用したCentralogicを継承しています。操作性を更に高めるために、美しいフォルムデザインだけでなく視認性の向上も忘れていません。まず、タッチスクリーンのオペレーションに最適な奧行きや角度を試行錯誤を重ねながら設計しています。また、屋外でも屋内でも視認性を確保できることを意識しました。炎天下のテント下で見えることだけでなく、劇場での暗転時にどこまで輝度を落とせるかにも挑戦しています。今回採用したチャンネルネームやチャンネルカラーバーでは、他社ではバックライト付きの液晶が使われている例がありますが、CLシリーズでは視認性を考慮して反射型の液晶を採用しています。したがって屋外でも黒色表示に優れるので、チャンネルネームを見失うことがありません。さらに、ユニバーサルカラーデザインにも取り組んでいて、様々なタイプの色弱者を想定してカラーシミュレーションした上で、画面の配色やデザインを決定しています。これは一部のユーザーへの配慮ではなく、色覚健常者の視認性の向上にもつながっています。







色覚タイプによる見え方の変化

■先進のオーディオネットワークDanteとは?



Danteインターフェースカード
Dante-MY16-AUD

「Dante」はAudinate社が開発したオーディオネットワークプロトコルで、ギガビットイーサネット上で最大1024チャンネルの音声(48kHz,24ビット時)を伝送することができます。伝送容量だけでなく、低レイテンシー、高いクロック同期性能、さらには複雑な設定を必要としないPlug&Playが評価され、近年Danteを採用するプロオーディオ機器が増加しつつあります。これまでのヤマハ機器でも、Dante-MY16-AUDカードをMini-YGDAIスロットに装着することでDanteによる音声伝送を実現してきました。CLシリーズでは機器本体にこのDanteモジュールを内蔵し、より手軽に高性能なオーディオネットワークを利用できるようになりました。

Danteを選んだ理由

CLシリーズの開発にあたってDanteを採用した理由、それはDanteが提供するメリットがCLシリーズの要求と合致したからに他なりません。当社が重視したポイントをいくつかご紹介します。

1.クロック同期性能の高さ=原音再生への寄与



Danteによるクロック同期

ヤマハコンソールのサウンド哲学である「ナチュラルサウンド」(原音忠実再生)を考えた時に、オーディオネットワーク技術に求められる理想性能は、「音声信号を何も変えずに伝送し再生すること」であると言えます。Danteは以下のポイントにおいて、この理想に一歩近づいた技術と言えます。まず、ネットワーク内のDante機器間での同期精度が高いことが挙げられます。「サンプリング周波数」の同期という意味では、これまでのどのデジタルオーディオ技術も十分な同期精度を実現してきましたが、Danteのユニークなポイントは、周波数の同期のみならず、クロックの位相までが同期するという点です。たとえば、ミキサーのステレオアウトL/Rの出力をそれぞれ舞台上下の2台のI/OラックにDanteで伝送したときに、その音声が出力されるタイミングがサンプル単位で同期する、ということになります。この位相同期性能については、SRの現場ではまださほど重要視されていませんが、多チャンネル放送が増えつつある放送市場、制作市場においては既に新たな要求性能の1つとなりつつあります。他のデジタルオーディオ伝送技術においても、この位相同期を実現する提案が行われていますが、別回線を敷設してリファレンス信号を全てのノードに分配する必要があったり、音声ルーティングの自由度に制約が伴う場合があります。その点、Danteは特別な配線や機材を必要とせずに、この位相同期を実現しています。また、クロック同期のジッター値(揺らぎ)の低さも、特長の1つです。クロックのジッターはA/D変換、D/A変換における音質に大きな影響を与えます。Danteの低ジッター性は、当社が目指す原音忠実再生に大きく寄与していると言えます。

2.ライブでの信頼性

オーディオネットワークの多チャンネル化が進むにつれ、アナログマルチケーブルの太い束は数本のEthernetケーブルへと置き換わり、利便性は格段に向上します。しかし、当然のごとくケーブル1本が伝送するチャンネル数は増加し、ケーブル1本あたりの重要度は増すことになります。Danteは、プライマリー回線とセカンダリー回線という完全二重回線を前提としたリダンダント機能を実現しており、Ethernetケーブルが外れてしまった、Ethernetスイッチの電源が落ちてしまった、といったトラブルが本番中に起きてしまった場合でも、音声を伝送し続けることができます。特筆すべきは、プライマリー回線からセカンダリー回線に伝送路が切り替わる時にも、人間が知覚できるようなノイズやミュートが発生しないということです。CLシリーズの開発中の検証の際にも、うっかりプライマリー回線のスイッチの電源を落としてしまったことがあり、音声を聞きながら検証を行っていた担当者がそのことに気づかずそのまま作業を進めた、ということもありました。

3.フレキシビリティ



CLシリーズのシステム例

Danteの優れている点は、上記のような高い性能を実現しつつ、システム設計における自由度を犠牲にしていないという点です。まず、Dante機器をどこに配置して、Ethernetケーブルとスイッチを使ってどのように接続するかという物理ネットワークトポロジーの設計と、Dante Controllerのパッチグリッド画面で行うような、音声をどこからどこへ受け渡すのかという音響システムのフロー設計を、完全に独立して考えることができるという点です。これは、例えばオフィスのネットワークやインターネットの世界では当たり前の話なのですが、オーディオネットワークにおいては、伝送するデータ量の多さや要求性能の高さから物理ネットワークトポロジーを考慮しながらフロー設計しなければなりませんでした。もちろん、Danteの制約が皆無というわけではありませんが、巨大なオーディオネットワークを構築する場合を除けば、ほとんど意識する必要がないほど性能にマージンがあるということです。また、サンプリング周波数やビット深度が異なるオーディオ信号を同一ネットワーク内に共存させることができたり、機器のコントロールのための通信も共存させることができる、という許容性の高さも持ち合わせています。システムの規模に対するフレキシビリティも注目すべきポイントです。例えば、1台のCL5と2台のRio3224-Dから構成される小さなライブSR用システムから、複数台のCLコンソールとRioを組み合わせた大規模フェスティバルや複合コンサートホールなどの大規模システムまでも実現することができます。

高度なインテグレーション

CLシリーズは、デジタルミキシングコンソールに単にDanteのインターフェースを装備させただけの製品ではありません。ネットワークを意識せずに使ってもらえるように、DanteをCLシステムの一部としてインテグレーションしています。

1.Danteコントロール機能のインテグレーション



I/OラックのID設定エリア

Dante-MY16-AUDカードを使用して音声を伝送する際には、ミキサー側のWord Clockやパッチ設定とは別に、Dante ControllerというPCアプリケーションを使用してDanteネットワーク内のルーティング設定を行う必要がありました。CLシリーズではこのルーティング設定の手順を大幅に簡略化しています。I/OラックにユニークなIDを設定して、CLシリーズの画面でAUTO SETUP機能を実行するだけで、I/Oラックのインプット端子をミキサーのインプットチャンネルに自動的に立ち上げられます。この簡単なステップだけで、ネットワークを意識することなくすぐにミックス作業に入ることができます。

2.デイジーチェーン接続の実現



Dante Setup画面
ここでデイジーチェーンモードと
リダンダントモードを選択できる。

Danteは、Ethernetスイッチを介して機器を接続する、スター型トポロジーを基本としています。この場合、Ethernetスイッチの選択や設定といったネットワーク機材に関する新たな知識を必要とすることも確かです。そこで、CLシリーズではEthernetスイッチを介さずに機器を数珠つなぎにする、デイジーチェーン接続にも対応しています。例えば1台のCL5と2台のRio3224-Dのシステムであれば、リダンダント機能には対応しなくなりますが、Ethernetケーブル2本だけでシステムを構築することができます。

3.32ビット伝送

Dante-MY16-AUDなどの従来のDante機器は、ビット深度24ビットでのオーディオ伝送のみをサポートしていますが、CLシリーズは加えて32ビット伝送もサポートしています。元来Danteの規格上は実現可能なものでしたが、製品としてサポートしたのはCLシリーズが初めてではないかと思います。CLシリーズが持つゲインコンペンセーション機能(後述)の性能を向上させるために、32ビット伝送を積極的に活用することにしました。Danteが持つ機能をフルに活用して、優れたミキシング機能に昇華できたよい例だと思います。

■ゲインコンペンセーション



ゲインコンペンセーションの概念図

CLシリーズでは、複数のCLコンソールで同一のI/Oラックを共有するために、新たなゲイン補正システムを導入しました。たとえば、FOHとモニターコンソールが同一のI/Oラックのヘッドアンプを共有する場合、各オペレーターがそれぞれアナログゲインを調整すると、意図せずもう一方のコンソールでも音量が変化してしまいます。新たに導入したゲインコンペンセーションでは、ヘッドアンプのアナログゲインを調整しても、A/D直後のデジタル段で自動的にゲインを補正し、I/OラックからDanteネットワークに送出される信号のトータルゲインを一定に保ちます。このシステムの特長は、コンソールではなくI/Oラックでゲイン補正するので、レコーディング用のPCや他のDante機器もゲイン補正の恩恵に預かれることにあります。



ゲインコンペンセーションのレベル遷移

また、ゲインコンペンセーションとは別に、コンソールの入力段にデジタルゲインを設けています。したがって、ノイズレベルを低減したい場合はアナログゲイン、音量を調整したい場合はデジタルゲイン、という新しいオペレーションスタイルを提案しています。ここで入力信号のダイナミックレンジを考えてみます。24ビットA/Dコンバーターで量子化したデジタル信号をゲイン補正して24ビットオーディオデータで伝送すると、下位ビットのデータが一部欠落する可能性があります。CLシリーズでは、Danteネットワークに新たに32ビット伝送モードを設けました。この8ビット(48dB)のマージンを設けることで、ゲイン補正して最適化した入力信号を余すところなくコンソールに伝送します。


3.新しいワークフローを支えるアプリケーション群

■CLシリーズとNuendo Liveによるライブレコーディング



Steinberg Nuendo Live

CLシリーズに同梱されるSteinberg「Nuendo Live」はNuendoのオーディオエンジンを搭載しながら、ライブレコーディングに最適化されたDAWアプリケーションです。CLシリーズとの通信はAudinate社が提供するDante用オーディオドライバーDVS(Dante Virtual Soundcard)を経由して、64トラックのレコーディングが可能です。またCLコンソールのチャンネルネームとカラーはNuendoLiveのトラックネームとカラーに引用でき、さらにCLコンソールからトランスポートやマーカーなどのコントロールが行えます。これらの通信はヤマハが提供するプラグインCL ExtensionによりDanteの音声信号と共存して行われます。Nuendo Liveに録音する音声信号はI/Oラック「Rio3224-D」や「Rio1608-D」から直接Nuendo Liveにルーティングできます。またCLコンソールへの入力をDanteのパッチでI/OラックからNuendo Liveに切り替えることにより、簡単にバーチャルサウンドチェックが行えます。

■CL StageMix / CL Editor / Yamaha Console File Converter






CL StageMixと
Yamaha Console File Converter

「CL StageMix」はCLコンソールをリモートコントロールするためのiPadアプリケーションです。StageMixの登場以前はステージからオペレーターに指示をしてチューニングを行っていたため、意思疎通の難しさに起因するミスも起こっていました。CL StageMixとCLコンソールはアクセスポイントを通じてWi-Fi接続されるので、オペレーターはステージ上のアーティストの位置からCLコンソールをリモートコントロールできます。つまりステージ上にいながら、自身の手でチューニングが行えるのです。

またCLコンソールの設定をオフラインで行ったり、オンラインで監視・コントロールできるPCアプリケーション「CLEditor」も用意しています。さらにPCアプリケーション「Yamaha Console File Converter」がCLシリーズ/PM5D/M7CL/LS9間のバックアップデータの互換性を実現しました。同じイベントを別の日に別の会場で、別のヤマハコンソールで行うことがあっても、セットアップに掛かる時間は最小限に抑えることができます。

■CLシリーズが提供する新しいワークフロー

ここまでご紹介させていただいたCLシリーズを支えている数々の価値が組み合わさることによってCLシリーズは「新しいワークフロー」をお届けしています。また「音」「操作性」「機能」のそれぞれにおいても、絶妙のバランスで「変わらないこと」と「新しい価値」が共存しています。新しいワークフローとは、自由度の高いシステム構築、複数台コンソールにおけるゲインコンペンセーション、Nuendo Liveによるライブレコーディング、CL StageMixによるリモートコントロールなど、単体ミキサーの枠を超えた仕事を「変わらない」使い慣れた操作性でスピーディーに行えることに他なりません。これはまさにCLシリーズのコンセプト「The standards stay, but innovation never ends.」そのものと言えます。



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*記事中に掲載されている情報は2012年07月04日時点のものです。