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パーソナル・スタジオ設計の音響学 その1「低域・中域・高域という3つの世界」

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長い夜は、じっくり音を科学する!

サウンドクリエイター、エンジニアにとって、制作空間には多くの要素が求められます。快適であること、創造性が高まる環境であることは、近年、特に高まってきた要望ではないでしょうか。その全ての基盤になるのが、適切な音響空間デザインがされていることだとRock oNは考えます。
建築家、デザイナーに設計を任せる前に理解を深めてみませんか。サウンドの世界が、ぐっと広がるかもしれません!今回から4回の連載で、株式会社ソナ 中原雅考 講師からご伝授いただきます。真剣にお楽しみ下さい。
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◆ 音の世界は、3種類の民族で構成されている!
光の可視範囲が 780nm〜380nmの波長をもつ約1オクターブバンドの帯域幅なのに対して、音の可聴範囲は、17m(20Hz)〜17mm(20kHz)の波長をもつ約10オクターブの広大な帯域幅です。つまり、光の世界では、様々な色の違いがあっても最大約2倍くらいの大きさの差しかなく、青色であっても赤色であってもほとんど同じ振る舞いをする単一民族の世界だといえます。
一方、音の世界では、低域と高域ではその大きさの差が1000倍となるため、性格がまるっきりちがう多民族で形成されている世界だといえます。洗練された単一民族の光の世界か、それとも様々な文化が入り交じる他民族の音の世界か、どちらが好みかは別として、音を相手にするためには、この平凡ではない多様な多民族の世界にいるということを意識しておく必要があります。
音の世界は、大まかには「低域、中域、高域」の3種類の民族で構成されていると考えることができます。さらに、例えば同じ350Hzでも、それが低域になるのか中高域になるのかは、その音が存在する部屋によって変化します。すなわち、音は、居住空間に応じて適宜性格を変えて変身する性質を持っているということになります。部屋の音響を理解するためには、まずは様々な状況における「低域、中域、高域」のカテゴリー分けを行い、それぞれの帯域の振る舞いを理解しておくことが重要です。今回は、パーソナル・スタジオの設計の第一回目として「低域、中域、高域」の考え方を解説します。

「低域、中域、高域」と「波動、幾何、統計」

音は、音波とも表現されるように、空気中を伝わる圧縮・膨張の情報の一種であり、その本質は「波」です。物理的には、(式1)のような非常にシンプルな基本式で表現される「波動」ということになり、この式を様々な条件で解くことができれば、どのような条件の音でも予測可能ということになります。
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(式1)

ところが、実際には(式1)が解ける条件は、ごく一部の仮想の条件でしか無く、我々が生活する一般的な環境やスタジオなどの空間に対しては、科学の発達した現代であっても未だに正確に解くことはできません。もちろん、(式1)を近似的に解く方法は色々とありますが、その結果が必ずしも現実の特性と一致しているかに関しては、まだまだ検討が必要です。
すなわち、答えを得るための方程式は、はるか昔に見つけられているのに、それを解く完全な方法や実践で使える解がなかなか得られないのが、室内音響学の現状ともいるかもしれません。
このように、全ての現象を「波動」として解くことが現実的ではない現状では、「音域によって音の性質を区別して考える」といった技量が、音響設計には必要とされます。また、このような考え方は、音のイメージをつかむための訓練にもなるため、音と接するためには非常に有用な方法です。
音の世界は「低域」、「中域」、「高域」の3つのカテゴリーに分けて考えることができます。
たとえば、同じ形状の壁面に音が入射しても、低域、中域、高域では音の跳ね返り方が異なります(図1)。低域では、壁の凹凸に関しては無視され、高域では細かな壁の形状にも音の反射特性が影響を受けます。

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(図1) 低域 / 中域 / 高域での反射の違い

これらの音の振る舞いの違いを把握するためには、それぞれの帯域に応じた音響理論を用いることになります(図2)。
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(図2) 低域 / 中域 / 高域と、波動 / 幾何 / 統計音響

★ 低域:波動音響
難解な「波動音響」は、音の本質を表現しているため、低域から高域まで全帯域に使用することができます。しかし、現実的には、波動音響でなければ解析できない低域にターゲットを絞って使用するケースがほとんどです。例えば、部屋のモード(定在波)の解析などは、波動音響による解析となります。
★ 中域:幾何音響
次に、中高域に関しては「幾何音響」を用いた解析が便利です。幾何音響では、音をボールのように扱い、作図によって大まかな音の振る舞いを検討できるため、直感的で分かりやすい検討が可能です。いわゆる、反射音の分布図などは「幾何音響」による検討の一例です。
★ 高域:統計音響
さらに高い音になると、作図で一つ一つの音の振る舞いを追いかけると膨大な数になるので、部屋全体の音の振る舞いを平均化して考える「統計音響」による解析が多く用いられます。例えば、残響時間などは、「統計音響」による解析の一例です。
以上のように、音の性質やその解析方法は、低域、中域、高域の3つのカテゴリーに分けることができますが、この中で特に重要なのは、低域と中高域との境界です(図2)。
例えば、小さな部屋では500Hzが低域として振る舞うこともありますし、大きな部屋では100Hzですら高域として振る舞うこともあります。どの帯域が低域なのか、すなわち低域と中高域との境界を把握しておくことは、部屋の音響設計には重要な事項です。
この境界を与える考え方が、「シュレーダー(Schroeder)周波数」と、「フレネル(Fresnel)ゾーン」です。

シュレーダー周波数× 2 ~低域の上限

部屋という壁で囲まれた空間は、その形状に応じた音色を持っています。その音色は、いわゆる倍音といわれるようないくつかの周波数スペクトルによってつくられており、そのスペクトルを「固有モード周波数」と呼びます。固有モード周波数とは、部屋が共鳴する周波数を表していますが、その数は、低域になるに従い少なくなってゆきます(図 3)。

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(図3) 固有モード周波数の例 (4.15m × 5.8m × 3m)

固有モードの数が少なくなると、定在波の影響を無視できなくなり、周波数特性や室内の特定の場所などに大きなピークやディップを生じる危険性が高くなります。このように、モード密度の減少により、室内の波動的な影響が顕著に表れるようになる周波数を「シュレーダー(Schroeder)周波数」といいます(図3中、fsch)。
シュレーダー周波数(fsch)は、(式2)で表されます。従って、部屋が小さくなるほど、また部屋がライブであるほど、シュレーダー周波数は高くなります。これは、吸音の少ない小さな部屋では、高い周波数まで低域として扱わなくてはならないことを表しています。
最近では、「スピーカーの再生特性と部屋の音響特性」の関係に着目すると、シュレーダー周波数の2倍〜3倍程度までは低域と考えた方が良いという見解もあります。従って、実用的には、シュレーダー周波数の2倍が、低域と呼ばれる周波数帯域の上限と考えられると良いでしょう。
(図4)は、シュレーダー周波数の2倍、すなわち低域の上限周波数を部屋の容積に沿って計算した結果です(ここでは、部屋の寸法比は、1.11:1.48:1と仮定)。
(図4)-(A)によると、吸音率が0.6(部屋全体の60%を吸音)の場合、部屋が狭くなるほど低域として扱わなくてはならない周波数帯域が広くなっていくことが分かります。
◎部屋の吸音率0.6の場合
★20畳の部屋 低域=167Hz以下
★12畳の部屋 低域=215Hz以下
★6畳の部屋 低域=304Hz以下
次に、部屋の吸音率が0.3になると、低域として扱わなければいけない帯域がさらに広くなることが分かります(図4)-(B)。
◎部屋の吸音率0.3の場合
★20畳の部屋 低域=236Hz以下
★12畳の部屋 低域=304Hz以下
★6畳の部屋 低域=430Hz以下
低域は、改善することが困難であるような音響障害をしばしば部屋に与えることがあります。
従って、特に小さい部屋では、低域として扱われる帯域をなるべく縮小するために、吸音が効果的な方法の一つであるということになります。

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(図4) 低域の上限周波数 (シュレーダー周波数× 2)

第2フレネルゾーン ~中高域の下限

同じ大きさの板に音が入射した場合、中高域の音はボールのように跳ね返されますが(鏡面反射)、低域は板の後ろにに音が回り込むなどして(回折)、完全には反射されません(図5)。

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(図5) 波長と反射、回折

見方を変えれば、ある大きさの反射面に対して鏡面反射される帯域が、その状況下における中高域と言うことができます。
ある周波数の音が鏡面反射するためには、反射面が少なくとも1つ以上のフレネル(Fresnel)ゾーンを含んでいなければならないと言われています。
フレネルゾーンとは、(図6)に示すように、反射点のまわりに形成される輪であり、小さい方から第1, 第2、第3フレネルゾーンと呼ばれています。詳細は割愛しますが、フレネルゾーンは、周波数が低いほど、また反射面から音源及び受音点が遠ざかるほど大きな輪となります(式3)。

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(図6) フレネルゾーンの概念                        (式3)

(図7)は、異なる3つの条件で、鏡面反射に必要と言われている第2フレネルゾーンの直径の大きさを計算した結果です。これを見ると、20kHzでは30cm×30cmの板でも鏡面反射が可能ですが、一方で50Hzのような低域の音を鏡面反射させようと思うと10m×10m程度の大きさの板が必要になることが分かります。小さな部屋ではそのような大きな壁面は存在しないため、部屋が小さくなるほど鏡面反射出来る周波数帯域が高くなると予想されます。

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(図7) 鏡面反射に必要な板の一辺の長さ

(図8)に、部屋の容積に対して算出した中高域の加減の周波数、すなわち部屋の壁面に対して鏡面反射が可能となる周波数を(図4)の結果とあわせて示します(ここでは、部屋の寸法比は1:1:1を仮定しています)。図中、赤の領域が低域、青の領域が中高域のエリアを表しています。また(C)、(D)は、「壁から壁の一辺の長さの 1/4の近距離から音を再生して受音」した場合および「部屋の中央から音を再生して受音」した場合の計算結果を表しています。
(図8)によると、おおまかには200Hzから400Hzの間に「低域」と「中高域」の境界があるように見受けられますが、よく見ると、その値は以下のように変化していることが分かります。
★部屋の大きさ 低域及び中高域の境界の双方に影響
★部屋の吸音 低域の境界に大きく影響
★音源及び受音位置 中高域の境界に影響.
特に、パーソナル・スタジオのような小さな空間では、ちょっとした影響で低域の帯域幅が大きく変化するため、予めどの周波数まで低域対策を施す必要があるか、(図8)などで確認しておくと良いでしょう。

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(図8) 部屋の大きさと「低域⇔中高域」の境界の関係

【SONA PERSONAL STUDIO DESIGN Vol.2 予告】

今回から始まりました「SONA PERSONAL STUDIO DESIGN 」。
プライベートスタジオ設計の解説といっても、現場で即役立つコツや実践ノウハウなどといったフロントエンド的な内容ではなく、そのバックボーンをしっかりと解説しようというコンセプトの記事です。従って、ここでは、実際に設計する前に学んでおかなければいけない音響理論を実施設計と関連づけて、なるべく平易に解説してゆきます。そのため、よく見かけるスタジオ設計入門的な内容とは違うモノになっていますが、即効性を期待しないで根気よくお付き合い頂ければ幸甚です。基本が分かっていれば、あとはそれをどのように応用するかを考えれば良いだけです。
応用例だけを身につけるといった方法では、その先の広がりが期待できませんが、基本が身についていれば色々なことを考えることができます。次回は、いよいよ「低域、中域、高域」の3つの世界のうちの一番の大物である「低域」の扱いに関して、解説を行う予定です。
みなさん、根気よく最後までお読みいただきありがとうございます。なかなか「むずかし〜」と思われた方、きっとあなたは、将来有望!もちろんRock oNは、皆さんの疑問を放ったらかしにはしません。ご意見、ご質問はPRO@miroc.co.jpまで!お待ちしております。中原さんにもお伝えします。
barSONA:(株)ソナ
1975年より、メジャーレコード会社(ソニー、ビクター、エイベックス,ユニバーサルミュージック等)や放送局(NHK、NTV、TBS、YTV、 ABC等)そしてポストプロダクション(オムニバスジャパン、イマジカ,Sony PCL等)など幅広い分野のスタジオの音響設計を手がけ、多くの制作環境を高品質に導いています。
その一方で、トップ・アーティストやクリエーターなどのパーソナル・スタジオの実績に関しても抜きんでています。また、サラウンド対応スタジオはDVDの普及前から取り組み、この分野での先駆的な役割を果たしています。
新たな技術を柔軟な思考で取り入れ、様々な手法でスタジオデザインにアプローチし、建築はもちろんのこと、モニターシステムの構築や最終的な再生音の調整(THXからライセンスを受けた技術者が在籍)に関しても積極的に携わっています。
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*記事中に掲載されている情報は2010年01月20日時点のものです。