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Nugen Audio VisLMを使用したラウドネスの調整ワークフロー

Proceed Magazine

Nugen Audio VisLMを使用したラウドネスの調整ワークフロー

2011年7月を持ってアナログ放送が終了しました。事前告知もかなりの期間をかけて行ったこともあってか、地デジ化もスムーズに移行できたように感じます。

デジタル放送に備え、”リモコンからの解放”をスローガン?に掲げられていた、番組間の音量差を軽減させるラウドネスの指標も、日本国内ではARIB TR-B32として策定され、ITU BS.1770-2に準拠した内容となりました。

本ページでは、イギリスのプラグインメーカーである、NugenAudio社のラウドネスメーター「VisLM」をご紹介します。

 NugenAudio社はマスタリング・エンジニアJonSchorahと、音響理論、プログラミングに精通したPaulTapperによって2004年に英国にて設立され、2005年にリリースした音響解析プラグイン「Visualizer」が高く評価されました。以降ユニークなプラグインを多数リリースしています。

 今回ご紹介する「VisLM」も、「Visualizer」に続くメータープラグインとして、使用者の視点に立った、直感的な操作感と視認性の高いデザインによって発売以来すでに各国から高い評価を得ています。

 ヨーロッパではラウドネスメーターが比較的早い段階で運用されており、これまでのノウハウと要望された機能も、VisLMには頻繁なアップデートによって多数反映されています。


動作環境

 VisLMの対応フォーマットは、AudioUnit、RTAS、AudioSuite、VST、Mac / Winですので、現行DAWのほぼ全てのプラットフォームに対応すると言って良いでしょう。もちろんモノラルから5.1サラウンドにも対応しています。

 また、バージョン1.4からVisLM-Hにはスタンドアローン版も追加されました。DAWを起動することなく、コンピューター自体を手早くラウドネスメーターとして使用することも可能です。


2つのモデル

 VisLMにはHとCの2つのモデルがあります。Cでは基本的にはメーター表示のみとなっております。

 Hモデルは10秒〜24時間までのヒストリー表示、ヒストリーのテキスト書き出し機能、スタンドアローン機能などが搭載されています。非常に実用的な機能ですので、メイン業務には上位版のHモデルをお勧めします。


ファイルベース処理

 今回Pro Toolsを例に解説していきますが、各プラグイン・フォーマットに対応していますので、基本的にはどのDAWでもほぼ同様です。

 一点、Pro Toolsならではのメリットとしては、ファイルベースであるAudioSuiteによって計測できることです。

 番組全体の音量を計る必要があるラウドネスメーターでは、音声信号を最初から最後までメーターに通す必要があります。オーディオプラグインとして起動した場合は、計測に実時間を要しますが、AudioSuiteで計測処理を行うと非常に短時間で計測を行うことが可能です。数分程度であれば実時間でも大きな負担にはならないと思いますが、30分、1時間となると、大幅な時間効率の向上となるでしょう。

 ただし、AudioSuiteは選択した一つのオーディオリージョンのみに適用しますので、複数トラックのミックス時にこの手法が使えないのは少し残念です。

 AudioSuiteの処理時間はCPUやプロジェクトの状態などに大きく依存しますが、例えばCorei7 2.8GHz Quadでのステレオトラックの処理は45分のファイルでおよそ1分弱で計測が行えました。

 残念ながら、現状ではファイルベース処理が行えるのはPro Toolsのみとなっております。今後各DAW側の仕様も含めて対応が期待されます。


プラグインでの起動

 VisLMをマスタートラックの最後段にアサインします。

 続いてプリセットを選択します。前述のように日本国内の規格であるARIB TR-B32もすでに搭載されています。このプリセットは、VisLMのアップデートによって追加、修正が行われていますので、今後新しい規格が策定された際なども、仕様さえ公開されれば比較的早く追加されるでしょう。

 VisLMの計測再生ボタンをオンにし、プロジェクトを最初から最後まで再生し、計測を行います。

 メーター表示はモーメンタリー、ショート・ターム、インテグレーテッド(ロング・ターム)、ラウドネス・レンジと、必要な項目が1画面で表示されています。

 ARIB TR-B32では、インテグレーテッドが-24.0LKFSになっていますので、この数値に合うよう、音声トラックを調整します。

 制定された基準値は-24.0LKFSですが、マージンとして+-1dBが許容範囲として制定されています。ただし、このマージンは主に生放送などの調整時に念頭に置いた数値であり、ラウドネスメーターなどによって若干の測定違いが発生する恐れもありますので、基本的には-24.0LKFSの値が推奨されます。-23LKFSを超えた場合は即NGとなってしまいますので、音量を大きくする場合は注意が必要です。プロダクションによって若干許容値も異なると思いますので、納品先の基準を事前に確認しておく方が確実ですね。

 モーメンタリー・ラウドネスメーターは反応速度が400msに設定されています。VUメーターが300msですので、リアルタイムの調整時はこのメーターとショートターム・ラウドネスメーター(3s)を指針に行いつつ、全体像をインテグレーテッド・ラウドネスメーターで把握する方法になるかと思います。

 True-Peakボタンをクリックすると、トゥルー・ピークの確認が行えます。ここではモノラルから5.1chのサラウンドチャンネルのメーターが用意されています。

 トゥルー・ピーク・メーターは+3dBTPまでメモリがあります。通常のフルスケール(dBFS)ピーク・メーターでは、測定されたサンリングポイントによってメーターに現れない、レベルオーバー(インター・サンプル・ピーク)が生じる場合があります。これを避けるためトゥルー・ピーク・メーターは4倍オーバーサンプリングを行い、実際のデータとメーター表示の誤差を吸収しています。インターサンプルピークが発生すると、トゥルー・ピーク・メーターで+を超えた表示になる場合があり、ラウドネスの既定値では-1dBTP以下に納める必要があります。

 なお、Loudnessウィンドウでもトゥルー・ピークがクリップした際には”Peak”インジケーターが点灯します。

 画面左側はHistory表示です。ここではラウドネスの移り変わりが履歴として表示され、10秒から最大24時間まで表示されます。音量の推移やピークポイントの確認が行えますので、音量調整のアタリを付けるのに重宝するでしょう。また、Markボタンによってヒストリーにマークを付けることができます。ピークのポイントなど、後で確認、調整を行う必要がある場合などに便利な機能です。

 ラウドネスは基本的に番組全体の音声の平均値となるため、音量の大小のバランスによって大きく影響されますが、特に音量の大きい部分でかさ上げされる傾向があります。全体的に-24LKFSをオーバーしてしまった場合は、全般の音量調整まで行わずとも、音量の大きい場所をリミッターやフェーダーで重点的に抑えることで適正値内に納めることが可能です。また、ラウドネス計測アルゴリズムの特性上、比較的高域のレベルが高いとラウドネス値が高くなりがちになるため、EQなどで高域を若干絞ることでレベルオーバーを回避できることも多いようです。


AudioSuiteでの起動

 トラックをバウンス後、ファイル全体のラウドネス値を計測する場合はAudioSuiteで起動するのが便利です。AudioSuiteでは非リアルタイムでの計測になりますので、1時間番組の計測時間が数十秒〜数分と、大幅に時間を短縮することができます。History表示と前述の書き出し機能を設定することで、データ上のどのポイントの修正が必要かなど素早く判断でき、納品に計測データが必要な場合も、まとめて行えます。長時間のプロジェクトでもトライ&エラーがスムーズに行えるでしょう。

 ただし、Pro Toolsでは残念ながらバウンスはリアルタイムのみの仕様ですので、AudioSuiteで計測する前に、実時間でバウンスを行う必要があります。Pro Toolsのオフラインバウンス対応が待たれますね。


計測値の書き出し機能

 Hモデルでは計測した詳細情報をテキストデータとして書き出す機能を搭載しています。書き出されるファイルフォーマットは.csvフォーマットですので、表計算ソフトなどに取り込みグラフ化して表示させたり、必要な情報だけ統計データとしてデータベース化することが可能です。

 この機能は.1秒単位で各ラウドネス/ピーク値、クリップの有無など計測に必要な全ての情報が選択できますので、修正が必要なポイントを探し出すのにも有用でしょう。

 以上のように、VisLMはプラグインならではのメリットを活かし、DAW上で編集を行う際、非常に手軽かつスムーズに行えます。ノートパソコンなどでのパーソナルな作業時にはとても便利なプラグインとなるでしょう。

 お、近い将来の機能追加として、タイムライン情報と測定Logを記録し、1Pass後は、途中部分のみを再計算する機能が搭載される予定です。これによって修正部分のみを再計測するだけで、全体のインテグレート・ラウドネスを割り出せるようになります。修正のたびに全ての尺を計測しなくても良くなる、画期的な機能が予定されています。


ラウドネスバッチ処理ソフトウェアLMB

 ここまでは、実際にミックスを行う際のラウドネスメーターの機能を案内しました。もちろん、新しい作品はメーターを見ながらそれぞれミックス、編集作業が必要でしょう。では、古い番組の再放送や、アーカイブ化が必要な場合はどうでしょう?改めてラウドネスのフォーマットに従って編集し直すのはコストも時間もかかってしまいます。この問題を解決するために、NugenAudioでは、もう一つのラウドネスソフトウェア「LMB」をリリースしています。

 簡潔に言うと、LMBは自動的に音声ファイルを指定したラウドネス値に収まるよう変換してくれるバッチプロセッサーです。登録したオーディオファイルを、ラウドネスの規格内に納めるよう、自動的に変換します。

 このソフトウェアはスタンドアローン版アプリケーションで、2011年10月の時点ではWindowsXP以降の対応となっており、今後Mac版のリリースも予定されています。

 オーディオフォーマットはWAV、AIFF、FALC、AVI、MOVなど殆どの音声フォーマットに対応しています。オーディオファイルをLMBのCueウィンドウにドラッグし、プリセットから該当のラウドネス値、設定を指定すれば、自動的に適正値のオーディオファイルを書き出します。ちなみにAVIなどビデオファイルをドラッグすると、自動的に音声トラックが取り出され、解析されます。

 なお、LMBではバッチ処理専用のフォルダ指定が出来るので、処理が必要なオーディオフォルダを設定しておけば、そのフォルダ内に音声ファイルを入れるだけで次々に処理されていきます。もちろん、計測結果もログファイルとして書き出し可能です。ネットワーク上からも設定フォルダが認識できるので、コンバート用のサーバーPCを1台用意すれば、クライアントPCからオーディオファイルを送って自動的に処理をして戻す、という作業もシームレスに行えます。

 適用するファイルに矛盾した設定を行わない限り、規定値に収まるように自動的に処理されます。基本的には相対的に全体のゲインを適正値になるよう上下して調整するため、全体的な音量のバランスはそのままですが、トゥルーピークにリミッターをかけたり、ラウドネスレンジにコンプレッションかける処理も行えます。なお、モメンタリー・ラウドネス、ショートターム・ラウドネスの設定も同時に行うと矛盾が生じやすくなるので、注意が必要です。

 処理時間はCPUの処理速度やファイルの状態などによって前後しますが、参考例として45分の音声ファイルでCorei7のプロセッサを使用し、およそ3分程度で処理が行えました。

 相対的な音量バランスの再調整の必要が無いミックスされたデータ、時間や予算のかけられない旧作品など、一括して変換が行えます。また、数値をかっちりと規制値内に揃えるために、最終段階での微調整にもLMBは重宝するでしょう。

 また、ミックス時には相対的なバランスのみに注視し、ラウドネスの規定値への対応はLMBでプロセスする、という手順であれば、これまでとほぼ同様のワークフローで行え、大幅な時間短縮も期待できます。


ラウドネスソリューションにおける新製品

 もう一つ、NugenAudioから新しいラウドネスソフトウェア「LMCorrect」がリリースされました。上記LMBと同様に、ファイルをラウドネス規格に適用されるように自動的にコンバートを行うAudioSuite専用のプラグインです。

 これはトラック上のリージョンを選択し、プロセスを行うだけで設定されたラウドネス値に処理されます。例えば、ミックス、バウンス処理されたトラックが、若干規格値を満たしていない場合など、大幅な調整を必要としないケースなどで有効でしょう。LMBは大量のファイルの変換に、そしてLMCollectはAvid社のソフトウェア上で自動的にプロセスさせたい場合に、いずれもVisLMのメーターと組み合わせることでラウドネス処理の強力なツールとなるでしょう。

 ちなみに、個人的な意見としてはラウドネスは放送のみにとどまらず、インターネット上の映像配信などにも浸透しないかな、と期待しています。ネット上の配信映像も、全てのコンテンツが同じ音量になれば快適だと思いませんか?


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*記事中に掲載されている情報は2012年03月21日時点のものです。