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ROCK ON PRO
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劇場用予告編音量規制85Leq(m)について
劇場用予告編音量規制85Leq(m)について
1. はじめに
映画館でのデジタル音声導入後ほどなくして、再生音量を大きく狂わせている原因が予告編の大音量によると考えられた。特にシネマコンプレックスでは上映システムの効率上、予告編が本編に直結されて自動上映される。その為、映画音響上映の国際規格であるISO2969に準拠したSMPTE_ST0202(SMPTE_202M番号改訂)の標準音圧レベルでは堪え難い音量となる。こようなの予告編への対応で上映音量が著しく下げられると、直結される本編の音量も下げられたままでの上映となる。そのような弊害が映画音響のデジタル化によって顕在化した。
制作者の追求する音響的エンタテインメントを観客に効果的に伝える為には、適正な音量で上映されなければならない。再生標準音圧レベルの遵守は映画音響の特徴である。
そのために予告編・CMの適正音量を制作者側で制約する必要性が先ずアメリカで考えられ、1998年から運営組織TASA(Trailer Audio Standards Association)によって音量規制が実施されている。日本ではこれを手本に予告篇・CMなど本編以外の全ての劇場公開を目的とするサウンドトラックを対象として、映画産業団体連合会の予告篇等音量適正化委員会によって2004年から適用されている。(詳しくは事務局を担当する日本映画テレビ技術協会のホームページを参照されたい。なおシネアドに関しては、これを専門とする国内の複数代理店かSAWA(The Screen Advertising World Association)に加盟しており、その音量規制に関しては基本的にSAWAで定める規制値:82Leq(m)に準拠する。)
本稿では規制前(2002年)と規制直後(2004年)のばらつきを比較して、その効果を確認するとともに、今後放送に於いて運用される音量規制「ARIBTR-B32」のターゲットレベルである-24LkFSと85Leq(m)との間にどのような関係がみられるのかを考察してゆく。
2. Leq (Equivalent continuous sound level)とウェイティングについて
Leqは、環境騒音を測る尺度として用いられている「等価騒音レベル」と同じである。これは時間内の音のレベルを積分したものを、測定した時間の長さで割った値であるという。放送のラウドネス測定で言うところの「ロングターム」である。
そして各ラウドネス測定に於いて周波数特性補正カーブに違いがある。通常騒音の測定にはA特性が使用される。一方Leq(m)ではITU-R486特性(ITU-R weighting)を5.6dBオフセットさせた補正カーブを用いている。また放送のラウドネス規制で用いるITU-R BS.1770のウェイティングは、Bウェイティングに高域用のKカーブのウェイティングを合成したR2LBを用いている(図-1)。
3. 2002年の映画館に於ける予告編音量測定
2002年5月11日から5/31日にかけて毎日夕刻、都内のシネマコンプレックスに於いて30篇前後の予告編上映会が行われた。この様な機会は非常に稀であるため、当時強く必要性を覚えていた劇場に於ける予告編上映の音圧レベル測定と、作品間の仕上げ音圧レベルの比較をおこなった。
3-1. 測定条件、及び方法
上映は94席のスクリーンで行われた。サラウンドスピーカー数は側壁に3台、後壁に2台の合計8台である。シネマプロセッサーはドルビーCP500が設置されていた。
測定はスクリーンから約7メートル、両側壁から約6メートル、後壁から約3メートルの位置でおこなった。この位置は、東京テレビセンター407stの音声卓から見たスクリーンと、おおむね同等の大きさに見える位置であり、ドルビーのシネマプロセッサーのマニュアルからもその劇場の音圧レベル校正位置近辺であるとみなす事が出来る(*)。
* ドルビーCP55マニュアル16ページ:「校正されたマイクロフォンの劇場内での位置は、後方に2/3(劇場の中心線上ではなく、なお直接スピーカーの軸上ででない位置。)床より5フィート(約1.5m)の高さ、スクリーンに向かって45゚上方に傾斜させRTAに接続します。」
測定器はRION NA-29E精密騒音計の等価音圧レベル測定モードLeq(a)でおこなった。マイクロフォンは、膝上30センチ程の高さから45゚上向くように調整している。このときの床上からの高さはおよそ1メートルであり、推奨される高さには50センチほど足りない。
予告篇は31篇上映された。測定時間は各編、音を聞いた瞬間から作品の音が終わるまでの時間とし、厳密な作品時間では無い。なお上映されている音響のデジタルとアナログとをはっきり峻別する事は出来なかった。
3-2. 結果
この日の上映はCP500のアッテネーター数値表示が「3.8」の状態でおこなわれていた。これは音圧レベル校正基準の「7」から3.2低く、少なく見積もっても12dB は落として上映していたと考えられる(図-2参考)。
3-3. 全体平均
予告編は全部で31本上映され、その内28本の有効なデータを得た。測定平均は77.8dBで、最大はアクション系映画の81.8dB、最小は非アクション系映画の70.4dBであった。グラフは下げられた12dBをオフセットと見立てて実ミックスの音量を予想したものである。X軸は等価騒音レベル、Y軸は作品数を示す(図-3)
4. TASA運用後の予告編等価音圧レベル
予告編上映会の測定から2年後の、2004年から映画テレビ技術協会に於いて運用管理されている音量規制に関してダビングレポートの集計がなされている。(図-4)は運用直後の2004年7、8月期の集計グラフである。
また使用方法として、放送以外のたくさんのコンテンツを並べて記録しなければいけない際などにターゲットレベルをその作品に応じて設定し、たくさんのコンテンツのラウドネス値を揃えることにも使用できます。
測定方法とウェイティングが異なるので、効果を同列に比較する事は出来ないが、これを見て判る様に、規制前に作品間で大きくばらついていた等価音圧レベルは、規制後に大きく改善されている事が判る。
5. 85Leq(m)とLkFSの予告編に於ける関係について
昨年、今年に制作された予告編から無作為に33作品選び、そのLeq(m)の分布に対するLkFSを測定した結果、予告編85Leq(m)の規制値は放送-24LkFSの規制値に対して7LkFS程高い傾向が見られた。その時LtRtをソースとする場合、VU計の振れは+3VUに度々振れる程度であったが、このレベルは光学のアナログ録音で歪みが目立たないギリギリのレベルである(なおLtRtのLeq(m)はモニターレベルがSRモードで測定されている)。
おわりに
映画の予告編も本編と同じ様にフィルムからDCPなどへのデジタルメディアへ移行する。これは従来映画用のダビングステージで厳格に管理されていた予告編音量規制からはずれたスタジオで、予告編や本編がミックスされる可能性が高くなることを意味する。モニター環境がITU-R BS775-1の小空間スタジオでDCP予告編やシネアド、本編のミックスをすることは、映画館での上映を前提としたISO2969の規格とは異なるので望ましくはない。器の大きさに見合ったベストバランスを行なう為の技術者の経験が問われる厳しい世界だ。
高木 創
日本映画テレビ録音協会
(株)東京テレビセンター制作技術部
日本大学芸術学部卒。現在、株式会社東京テレビセンターにてサウンド・エンジニアを務める。山岳経験を生かし、世界中の山岳・僻地でのロケーションにも活躍。サラウンドにも造詣が深く、極限の世界でのサラウンド録音にも挑戦を続けている。その一方で、ジブリ『ゲド戦記』の整音を担当されるなど多くの映画音声にも携わっている。
*記事中に掲載されている情報は2012年03月21日時点のものです。