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草野 博行

[ROCK ON PRO Sales Assistant]音声から映像までジャンルに縛られず、あらゆる機材・ソフトウェアに触れて現場での経験を吸収しスタジオ・エンタープライズを中心にお客様の期待に応えるため、日本全国を日々写真の愛車で奔走している。

株式会社テクノマックス様 / 統合された環境が生み出すMAワークフロー

テレビ東京グループの株式会社テクノマックスは、ポストプロダクション部門を担当するビデオセンターのすべての施設を旧テレビ東京近く(東京・神谷町)に移転した。その新たなMA施設にはAvid S6、MTRX、NEXISといった最先端のソリューションが導入され、システムは大きく刷新された。ワークフローに大きく変化を与えたこの導入事例を紹介させていただきたい。

今回更新されたMA3室。黄色のラインが壁面にあるMA-Cは5.1ch対応、赤色ラインのMA-Aおよび青色ラインのMA-Bとも共通した機材仕様となり、各部屋で同じクオリティのワークを可能とする意図が伺える。

1:柔軟なルーティングを受け止めるAvid MTRX

オーディオ関連機器のマシンルーム、3室共通の機材が整然とラックマウントされている。

今回の移転工事ではMA-A、B、Cの全3室と2式のProToolsシステムを設備したAudio Work室、そしてMA専用サーバーの導入工事をROCK ON PROで担当した。旧ビデオセンターで課題となっていた設置機材の違いによるMA室間の音響差をすべて解消できるよう、基本設計は3室とも統一されたものとなっている。部屋の基本レイアウト、設置機材を統一することでドラマ、バラエティ、番宣、スポーツと番組ジャンルに縛られず、各部屋で同じクオリティのワークを可能にする、というかねてからの目的を実現し、また効率的な制作リソース確保も可能とした。

MA室にはProTools HDXシステムが、Main DAWと音効用のSub DAWとして2台設けられており、今回のシステムの心臓部であるAvid MTRX1台に対してDigiLinkケーブルでそれぞれが接続されている。MTRXがMain/Sub両方のメインのI/Oを兼ねており、Main DAW側からもSub DAWの入出力ルーティングの設定が可能であるため、音効やアシスタントエンジニアをつけた2人体制のMA作業にも難なく対応することができる。MTRXのコンフィギュレーションは、AD/DAが各8ch、ベースユニットにオプションでAESカードを増設し合計32chのAES/EBU、そして映像の入出力が可能なSDIカードを拡張し、SDI 2IN/2OUT (各Audio 16ch)の構成となっている。

アナブースマイクやスピーカーなどのアナログ系統、メーター機器などデジタル入出力への対応をこのMTRX1台でまかなっている。また従来システムからの大きなアップデート項目としてVTRデッキとはSDI回線での入出力に対応した。更に MTRX ルーティングに内蔵された音声エンベデット / デエンベデットを使用することで、VTRデッキへの入出力数の制限から解放され、機器構成がシンプルになった。更新後は最大16chのオーディオ伝送が可能となりSDI規格の最大値を利用できるようになった。あらゆる入力ソースはMTRXに集約され、Main DAW上のDADmanアプリケーションによって柔軟なルーティング設定が可能となっている。コントロールルーム内のSPだけでなく、バックアップレコーダー、メーター類、さらにブース内に設けられたカフボックスに対しても後述するAvid S6との連携により、イージーな操作でルーティング設定やモニターセレクトなどが可能となっている。

2:3室すべてにAvid S6 M40を導入し環境を統一

今回の更新ではMA室3室すべてにAvid S6を導入し環境を統一した。モジュール構成は24フェーダー5ノブとした。旧ビデオセンターではYAMAHA DM2000をProToolsコントロ ーラーとして使用していたが、移転に際し新たなコントローラーとして、ProToolsと完全互換の取れるS6を選定、コントロール解像度、転送速度が向上した。また、実機を前にして使用感や利便性などの実フローを想定した検討を行い、S6をはじめメーター類、キューランプなどの設置場所にこだわった日本音響エンジニアリングの特注卓が導入された。エンジニアがコンソール前の席に着いた際のフェーダーやノブへのアクセスのしやすさ、ディスプレイやメーター類の視認性など、MA室にS6を設置したあとも細部に至るまで調整を繰り返し、非常に作業性の高いシステムが出来上がった。

Mac上ではDADmanアプリケーションとの連携によりモニターソースやアウトプット先の設定はS6のマスターモジュール上のスイッチやタッチパネルからワンタッチで操作可能になっているほか、ディスプレイモジュールにはレベルメーターとProToolsのオーディオトラックの波形を同時に表示することが可能。Protoolsの音声のみならず、VTRデッキなどMTRXの各インプットソースも表示可能となる。S6とMTRXを組み合わせて導入したことで信号の一括管理だけでなく操作性の向上が実現できた。また、短期間での移転工期でスムーズにDM2000からS6へ移行できたのはProToolsと完全互換が成せるS6だからこそであった。

今回の更新コンセプトを意識しラージスピーカーはPSI Audio A-25M、そしてスモールには同社のA-14Mが3室に共通して導入された。数日間に渡る音響調整により、各部屋の鳴りも同一となるように調整している。そして3室のうち「MA-C」は5.1ch対応となった。このMA-CにはGenelec 8340を5台、サブウーハーに7360APMを導入し5.1chサラウンド環境を構築している。Genelec GLMシステムによるアライメントにも対応しているため、音響設定も柔軟に調整が可能。またLCRのスピーカーはバッフル面に埋め込みジャージクロスで覆っているため、他の部屋と見た目の違いが少なく圧迫感のないスマートなデザインとなっている。もちろん、この5.1ch環境も通常の使用と同様にAvid MTRXやS6システム内にルーティングが組み込まれており、自由なモニタリング設定が行える。ラージSP、スモールSP、5.1chSPのモニターセレクトさらにはダウンミックス、モノラル化が容易に可能となっている。サラウンドパンナーはあえてS6のシャーシ内には組み込まず利便性を向上させた。


ラージ・PSI Audio A-25Mおよびスモール・A-14M。写真からは見てとれないのだが、ラージ上のジャージクロス裏にはサラウンド用途にGenelec 8340が埋め込まれている。

また、MA-CではアナブースもMA-A / Bの2室と比べて大きく設計されており、同時に4名の収録が可能。実況・解説・ゲストといった多人数での収録が必要なスポーツ番組などにも対応している。MTRXによる自由度の高いルーテイング機能とS6による容易な操作性があったからこそ実現した柔軟なシステムといえるだろう。

3:Avid NEXIS E4サーバーによる映像と音声のリアルタイム共有

映像編集およびオーディオ編集用のNEXIS E4がラックされている。

今回の移転工事においてもう一つの核となったのがAvid NEXIS E4サーバーの導入である。ワークスペースの全体容量は40TB(2TバイトHDDx20台+2台の予備HDD)となっており日々大容量のデータを扱う環境にも十分対応している(OSシステムはSSD200Gバイトx2台のリダンダント環境)。各MA室のMain DAW、Sub DAWからAvid NEXIS E4サーバーへは10Gbit Ethernetの高速回線によってアクセスが可能となっている。そのため単純なデータコピーだけではなく、VTRデッキからの映像起こし作業やMA作業についてもサーバーへのダイレクトリード/ライトが可能となったため、サーバー上のデータをローカルストレージへ移すことなくそのまま作業が行える環境となった。

従来の設備ではローカルドライブで作業を行い共有サーバーでデータを保管していたため、作業の前と後で数ギガバイトあるプロジェクトデータの「読み出し」「書き戻し」作業に機材とスタッフが拘束されていた。スピードが求められる現場での容量の大きいデータコピー作業はそれだけで時間のロスになってしまいスムーズなワークフローの妨げとなってしまう。今回のAvid NEXIS E4導入によりその手間は緩和されワークフローも大きく変化することになった。サーバー上ではミキサー別、番組別といったワークスペースを組むことができ、各PCのマネージャーソフトからダブルクリックでマウント、アンマウントが可能。更新コンセプトである3室の仕様統一もそうだが、この点も部屋を選ばずにワークを進められることに大きく貢献している。

また、サーバールームとは離れたAudio Work室に設置した管理用PCからは、SafariやChromeなどのインターネットブラウザによってNEXISマネージメントコンソールにアクセスしてシステム全体の設定を行うことができる。管理画面のGUIは非常にシンプルで視認性が良いため、専門性の高いネットワークの知識がなくともアクセス帯域やワークグループの容量、そのほか必要な管理項目が設定可能、またシステムエラーが発生した際にも一目でわかるようになっている。そのため、日々膨大なデータを扱う中で専門のスタッフがいなくてもフレキシブルな設定変更に対応できることとなった。サーバーの運用にはネットワークの専門性を求められるというイメージを持つかもしれないが、このNEXISサーバーにおいてはその様な印象は完全に払拭されたといえる。

4:クオリティを高めるための要素

そのほかにも今回の移転工事では様々なこだわりを持って機材の導入が行われた。MA室へ入って真っ先に目に入るのはモニターディスプレイの多さではないだろうか。ミキサー用のPro Tools画面からアシスタント、音効、ディレクター、クライアント、ブース内、正面のメインモニターTVまで1室に最大15台が導入されているのだが、エンジニア、クライアント席からの視認性が得られるよう配慮して設置されている。ディスプレイの多さは音響的に気になるところだが、各部屋の音響調整の時に考慮して調整が施されている。

すべてのモニターの映像入力はBlackmagicDesign社のSmartVideoHub20x20で自由に切り替えが可能。入力ソースは編集設備のSDI RouterでアサインされるVTRデッキやMAマシンルームの各機器の映像を作業に合わせて選択する。また、同社のリモートコントローラーVideohub Smart Controlのマクロ機能で、すべてのモニターを用途に合わせて一斉に切り替えることも可能なため設定に手間取ることが無い。SDIでの信号切り替え、モニター直前でのHDMI変換、モニターの機種選択で映像の遅延量にも気を遣った。

メインのビデオI/OはBlackmagicDesign UltraStudio 4K Extremeをセレクト。Non lethal application社のVideoSlaveを導入することでProTools単体では不可能だったタイムコードオーバーレイが可能となった。各種メーター機器も豊富でVUメーターにはYAMAKI製のAES / EBU 8ch仕様を導入。ラウドネスメーターにはASTRODESIGN AM-3805/3807-Aを導入し、別途用意したMac Mini上のリモートソフトと連動することでPCモニター上にもメーターが表示できる設計となっている。さらにMA設備の主幹電源部には電研精機研究所のノイズカットトランスNCT-F5を導入し安定化を実現、スピーカーの機器ノイズをカットしている。実際のフローでは見えにくい部分にもこだわりクオリティの高いワークを目指していることが伺いとれる部分だ。

写真左からYAMAKIのVUメーターとASTRODESIGN AM-3805。中央が同じくASTRODESIGNの AM-3807-A。そして右の写真が主幹電源部に導入された電研精機研究所のノイズカットトランスとなる。

5:MAワークに近い環境を実現したAudioWork

今回、映像の起こし、整音、データ整理などを行うAudio Work室のAudioWork-Aはシステム構成を一新。MTRXを導入することでシステムの中枢を各MA室と統一している。あくまでMAの本ワーク前の準備を担う設備であるため、S6こそないもののメーター類やプラグインもほぼ同等のものを設置し、MA室と近いワークフローで作業することができる。モニターコントローラーにはMA室のDADmanアプリケーションと完全互換のとれるDigitalAudioDenmark MOMを導入して手元でのモニターセレクトを実現した。VTRデッキとの回線も通っているため、MTRXやBlackmagic Design UltraStudio4Kを駆使して、起こし・戻しの作業までできる環境となった。もちろんこのAudioWork-AおよびBもNEXISサーバーへアクセスができ、MA室と互換の取れるプラグインが設備されており、本MAへスムーズな移行が可能となっている。

今回の移転では、通常の業務を極力止めずに新ビデオセンターへ業務移行できるよう、スケジュールについても綿密に打ち合わせをした。限られた時間の中で滞りなく業務移行ができたのは、Avid S6やNEXISがシームレスな連携を前提に設計されたプロダクトであり、かつユーザーにとって扱いやすい製品である証だと言えるだろう。効率的なワークフローと新たなクオリティを実現したスタジオは、統合されたMAワーク環境の最先端を示していると言えるのではないだろうか。


株式会社テクノマックス
ビデオセンター
〒105-0001 東京都港区虎ノ門4丁目3−9 住友新虎ノ門ビル 4階
TEL 03-3432-1200(代表)FAX 03-3432-1275



(写真前列左手より)株式会社テクノマックス 営業本部 副本部長 小島 壯介氏、放送技術本部 編集技術部 主事 大矢 研二 氏、放送技術本部 編集技術部 専任部長 伊東 謙二 氏、放送技術本部 編集技術部 主事 武田 明賢 氏、放送技術本部 編集技術部 高橋 知世 氏、放送技術本部 編集技術部 主事 大前 智浩 氏
(写真後列右手より)ROCK ON PRO 君塚隆志、丹治信子、赤尾真由美、草野博行


*ProceedMagazine2019号より転載

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*記事中に掲載されている情報は2019年08月01日時点のものです。