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前田 洋介

前田 洋介

[ROCK ON PRO Product Specialist]レコーディングエンジニア、PAエンジニアの現場経験を活かしプロダクトスペシャリストとして様々な商品のデモンストレーションを行っている。映画音楽などの現場経験から、映像と音声を繋ぐワークフロー運用改善、現場で培った音の感性、実体験に基づく商品説明、技術解説、システム構築を行っている。

株式会社松竹映像センター 様 / S6・4 Pro Tools・Dual MTRX・MMP1、最新機器が織りなす完成度

2015年、大船にあった映画関連のポストプロダクション施設と、高輪にあったそれ以外のポストプロダクション施設をお台場に移転させて、新しいスタートを切った松竹映像センター。今回はその中でも高輪から移設したMA室のシステムについて更新を行った。移転から早くも3年、統合したことによって生まれたシナジーはすでに芽吹いており、様々な作業での設備の共用、有効活用が始まっている。そのような中でのシステム更新はどのようなものとなったのか?一つづつ見ていきたい。

1:ハリウッドで確認したIn The Box Mixingの流れ
更新の前後を同じアングルで撮影したものである。左が2018年の更新後、右が2015年時点での状況となる。AVID S6のコンパクトさ、特に奥行方向が際立つ。

この部屋はAudio Suiteと呼ばれ、テレビ向け番組のMAから、劇場での予告など様々な作品の作業が行われている。7.1chのサラウンドシステムが構築され、幅広い作業に対応できるよう設計された部屋である。これまでは国内唯一となるAVID D-ControlのDual Headシステムが導入され、ツーマン体制での作業を可能としたスタジオとなっていた。今回の更新ではその作業スタイルを更に拡張し、柔軟かつ、効率の高い作業が行えるよう様々な部分がブラッシュアップされている。

ICON D-Controlの後継機種としては、AVID S6以外の選択肢が登場することはなかった。やはり、Pro Toolsの専用コントローラーとしてのICON D-Controlの優れた操作性を実感しているユーザーとして、いまさらコンソール+DAWという環境へは戻れないというのが本音だろう。そして、ハリウッドでも進むDAWのIn The Box Mixingの流れ、リコール性・作業の柔軟性、そういったことを考えればDAWの内部で完結するシステムというものは理にかなっている。ポストプロダクション向けのコンソールがDigital化したいま、実際にAudio SignalをSummingしているのが、Digital Consoleの内部Mixer上なのか、DAW内部のMixerなのかという違いしか無い。どちらにせよデジタル処理であり、その処理の差異による音質ということになる。しかし、これはデジタル・ドメインでの話であり、日進月歩のSoftware BaseのDAWの優位性はHardware BaseのDigital Consoleとは進化のスピードが違うといえるだろう。とはいえ、Pro Toolsもご承知の通りFPGAとDSPをベースとしたPro Tools HDXというハードウェアベースのシステムである。それまでのTDMシステムからの世代交代により、音質の評価が一気に高まり、世界的にもDAWのIn The Box Mixingで音質的にも問題ないとう流れが生まれたのは間違いない。

また、この更新にあたりハリウッド地区のスタジオ視察にも行き、最新の環境、ワークフローを実感してきていただいている。AVID S6を使った大規模な映画向けのダビングステージなどを目の当たりにし、そのワークフローを見ることでDAW + Controlerという環境でこだわり抜いた作品作りが実際に行われているということを体感していただいた。Digital Consoleがなくとも十分な制作環境が構築できる。これは、AVID S6の提供する優れた操作性、Pro Tools HDXでブラッシュアップされた音質、そして、システムのコアとなるAVID MTRXが揃ったからこそ実現できたソリューションである。

2:11feetのシャーシに収まるS6 48フェーダー

前置きが長くなってしまったが、今回の更新に関して全体像を見ていきたい。ControlerはAVID S6 M40 48フェーダー仕様である。国内でも最大規模の11feetのシャーシに収まり、これまでのICON D-Control 32Fader + Dual Headとほぼ同じサイズに収まっている。最後までS6もDual Headにするかどうか悩まれたところではあるが、AVID S6のLayout機能を使うことで同等のことが、更に柔軟に設計できるということでSingle Headの構成となっている。ノブに関しては、手の届く範囲にあれば十分という判断から5-Knob。JoyStickはセンターポジションで使うことを想定して専用のケースを用意して外部に取り出している。左右には、作業用のProducer Deskを設け、ツーマンでの作業性に配慮が行われている。デスクをカスタムで専用のものを準備しようか?という話も出ていたのだが、これまでのICONとほぼ同一サイズということで左右に余裕が無いためシンプルに純正のLegを活用することとなった。

以前のICON D-Control時代の写真と見比べてもらいたいのだが、左右の幅はほぼ同一ながら、非常にスッキリとした収まりになっているのがわかる。やはり、高さが低く抑えられていることと、奥行きが30cmほど短くなったことが大きく影響しているようだ。フットプリントとしては奥行きの30cm程度なのだが、驚くほどスッキリとした感覚だ。Ergonomics DesginにこだわったAVID S6らしいしつらえになっているのではないかと感じられる。

3:4台体制のPro ToolsとデュアルMTRX

今回の更新は、このAVID S6が目に見える部分での最大の更新となっているが、実はDAW周りも非常に大きく手が入れられている。これまでのシステムをおさらいすると、Main / Sub 2台のPro Tools HDXシステムと、Media Composerを使ったVideo Satelliteの3台のPCを駆使して作業が行われていた。今回の更新では、そこにさらに2台のPro Toolsが加えられ、ダビング仕様のシステムアップが行われている。DAWとしては、Main / Sub-A / Sub-B / Dubberという4台体制に。AVID MTRXをセンターコアとしてそれぞれが、32chずつの信号がやり取り出来るようにシステムアップが行われている。ある程度の規模までのダビング作業であればこなせるシステムであり、各DAW内部でのStem Outを唯一64hの入出力を持つDubberで受けるというシステムアップになっている。大規模なダビング用のシステムは、大きな空間を持つダビングステージを同社内に持つため、それよりも少し規模の小さな作品やハリウッドスタイルでのドラマの仕上げ作業など様々な使い勝手を考えてのシステムアップとなっている。

今回は限られた予算の中で、既存製品の流用を多く考えながらシステムの組み換えが行われていった。それまで、2台のDAWにはそれぞれ2台づつのAVID HD I/Oが使われていた。その4台のHD I/Oを有効活用しつつ、AVID MTRXを加えて4台分のI/Oを捻出しようというのが今回のプランとなる。Main / Sub-Aに関しては、AVID MTRXとDigiLinkにより直結。これにより32chのチャンネル数を確保している。Sub-Bは余剰となったHD I/O2台からのAES接続。Dubberは、64chを確保するためにAVID MTRXをDubber専用にもう一台導入し、2台のMTRXはそれぞれMADIで接続されている。ユーティリティー用のAD/DAとしては、Directout technologiesのANDIAMO 2.XTを準備。メーターアウトなどはここからのAnalogもしくはAES/EBU OUTを活用している。

4:16系統のMonitor Source、MTRXの柔軟さ

このように、構築されたシステムの中核はMain / Sub-AがDigiLink接続されたAVID MTRX。これをDADman経由でAVID S6のMonitor Sectionよりコントロールしている。柔軟なモニターセクションの構築は、優れたユーザビリティーを生み出している。これまでであれば、Sourceに選択できる回線数の制限、ダウンミックスの制約など何かしらの限界が生じるものだが、AVID MTRXを使った構成では、一切の制約のない状況で、思いつくかぎりの設定が可能となる。これは、MTRXに入力されている信号の全てが、Monitor Sourceとして設定可能であり、出力のすべてがSpeaker Outもしくは、Cue Outとしての設定が可能なためである。これにより、各Pro ToolsのOutを7.1ch Surroundで設定しつつ、VTRの戻りを5.1chで、さらにCDなどの外部機器の入力を立ち上げることが可能。実際に16系統のMonitor Sourceを設定している。ダウンミックスも柔軟性が高く、7.1ch to 5.1chはもちろん、Stereo / Monoといったダウンミックスも自由に係数をかけて設定することが可能となっている。


スピーカー棚下部に設けられたラックスペース。ここにDubber以外の回線が集約されている。

個別に入出力の設定が可能なCue Outに関しては、X-Mon互換のコントロールを持つS6のMonitor SectionでA,B,C,Dの4系統が設定可能となる。ここでは、アシスタント用の手元スピーカーの入力切替、Machine Roomに設置されたVTRへの戻しの回線の選択、そして本来のCueの役目であるBoothへのHPモニター回線の選択と、フルにその機能を活用している。ちなみにだが、Machine Roomへの音戻しの回線は、今回の更新でMTRXにSDI optionを追加しているので、これまでのAES経由での回線ではなく、SDI EmbeddedのAudioを直接戻せるように変更が行われている。Video Frameに埋め込まれた状態で音戻しが行えるために、同期精度によらない正確な戻しが実現できている。

5:AdderでPC KVMのマトリクス化を実現

今回の更新により、PCが5台となったためその切替のためにAdder DDXシステムが導入された。これは、低コストでPC KVMのマトリクス化を実現する製品。キーボードのショートカットから操作を行いたいPCを選択することの出来るKVMマトリクスシステムだ。IPベースのシステムであり、切替のスピードも早く最低限のPC Displayで柔軟な操作を行うことのできるシステムとして導入いただいた。大規模なシステムに向く製品ではないが、小規模なシステムであれば、従来のKVM Matirxシステムに比べて低予算で導入可能な優れた製品である。PCの台数が増えたことによるKVM関連のトラブルを危惧されていたが、目立った不具合もなく快適にお使いいただいている部分である。


KVM MatrixであるAdderの選択画面。キーボードショットカットでこの画面をすぐに呼び出せる。

MTRXの設定しているDADman。回線のマトリクスパッチ、モニターコントロール設定、まさにこの設定がスタジオのコアとなる。

もちろん、今回の更新でもスタジオとしていちばん重要な音質部分に関してもブラッシュアップが図られている。その中心は、やはりAVID MTRXによるAD/DAの部分が大きい。Boothのマイクの立ち上げ、スピーカーへの接続回線はAVID MTRXのAD/DAへとブラッシュアップが行われている。これにより、はっきりとしたサウンド変化を感じ取られているようだ。解像度の高さ、空気感、音質という面では非の打ち所のないブラッシュアップされたサウンドは「やはり間違いなくいい」とのコメント。MTRXの音質に関しては、どのユーザーからもネガティブな意見を貰ったことはない。クリアで解像度の高いそのサウンドは、癖のないどのような現場にも受け入れられる高いクオリティーを持っていることを改めて実感した。

それ以外にも、音質にこだわった更新の箇所としてYamaha MMP1の導入があげられる。Boothとのコミュニケーションは、既存のCuf Systemを流用しているのだが、音質に影響のあるCufのOn/Offの連動機能をYamaha MMP1のプロセッサーに預けている。これにより、これまでAnalogで行われていたMicのOn/OffがDigital領域での制御に変更となっている。非常に細かい部分ではあるが、アナログ回路部分を最小限にピュアにADコンバーターまで送り届け、制御をデジタル信号になってから行っているということだ。


MTRXとともに収められたYamaha MMP1

更新されたMic Pre、Shelford Channel

同時にMic Pre AmpもRupert Neve DesignのShelford Channelを2台導入いただいている。これまでにも、Mic Preを更新したいというご相談を何度となく受けていたのだが、ICON D-Controlからのリモートが効かなくなるということもあり、AVID Preを使っていただいていた。今回は念願かなってのMic Pre導入となる。この選定にも、5機種ほどの候補を聴き比べていただきその中からチョイスしている。基礎体力的なサウンドの太さと、破綻のないサウンドバリエーションを提供するShelford Channelは様々な作品を扱うこのスタジオにはピッタリマッチしたとのことだ。特にSILKボタンはお気に入りでBLUE/RED/Normalすべてのモードが、それぞれに魅力的なサウンドキャラクターを持っており、収録するサウンドをより望んだ音質に近づけることができるようになったとのことだ。Textureのパラメーターとともにこれからの録音に活躍させたいとコメントいただいている。もともと導入されていたSSL X-RackにインストールされたEQ / DYNモジュール、NEVE 33609との組み合わせで、様々なサウンドバリエーションを得ることが出来るようになっている。

Yamaha MMP1はCufのコントロール以外にもいくつかの便利な機能がある。その一つがTB Micの制御。TB Micに対してのEQ / Compの処理を行うことで、聞き取りやすいコミュニュケーション環境を提供している。少しの工夫ではあるが、Yamaha MMP1の持つChannel Stripを活用してこれを実現している。プロセッシングパワーのある機器が数多く導入されているため、柔軟かつクオリティーの高い制作環境が整った。

6:ミックスバランスに配慮したスクリーン導入

この更新が行われる前に、Audio Suiteにはスクリーンが導入されている。これは劇場公開作品の仕上げ時に出来る限り近い環境での作業が行えるようにとの配慮からである。単純に画面サイズの違いにより、ミックスバランスに差異が生じることは既知の事実である。このような一歩一歩の更新の集大成として今回のシステムのブラッシュアップがある。小規模なダビング作業から、TV向けのミキシングまで、柔軟に対応のできるオールマイティーなスタジオとして、大規模なダビングステージと、ADR収録用のスタジオを併設する松竹映像センターとして明確な使い分けを行い、どのような作業の依頼が来ても対応できるファシリティーを揃えることに成功している。


今回の更新によりダビングスタイルの作業にも対応したことで、更に対応できる仕事の幅は広がっている。サウンドのクオリティーにも十分に配慮され、今後どのような作業に使われていくのか?次々と新しい作業にチャレンジが続けられることだろう。


株式会社 松竹映像センター ポストプロダクション部 ダビング MA グループ長 吉田 優貴 氏


*ProceedMagazine2018-2019号より転載

*記事中に掲載されている情報は2018年12月18日時点のものです。