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ROCK ON PRO

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株式会社三和映材社 様 / MAルーム『A2』〜大阪の老舗ポスプロが、これからの10年を見据えてMAルームをリニューアル〜


Text by Mixer


CMや企業VPといった広告案件を数多く手がける大阪の老舗ポスト・プロダクション、株式会社三和映材社が本社ビル内にあるMAルーム『A2』をリニューアルした。長らく使用されてきたヤマハ DM2000はAvid S4に入れ替えられ、モニター・スピーカーはGenelec The Ones 8331Aに更新。システム的にはシンプルながら、8331AとPro Tools | MTRXはAESで接続されるなど、音質 / 使い勝手の両面で妥協のないMAルームに仕上げられている。今回のリニューアルのコンセプトと新機材の選定ポイントについて、株式会社三和映材社 ポストプロダクション部所属のサウンド・エンジニア、筒井靖氏に話を訊いた。

大阪の老舗ポスプロ:三和映材社

大阪・梅田から徒歩圏内、新御堂筋沿いにスタジオを構える三和映材社は、1971年(昭和46年)に設立された老舗のポストプロダクションだ。映画の街:京都で、撮影機材のレンタル会社として創業した同社は、間もなくビデオ機材や照明機器のレンタル業務も手がけるようになり、1980年代にはポストプロダクション事業もスタート。同社ポストプロダクション部所属の筒井靖氏によれば、1985年の本社ビル新設を機に、ポストプロダクション事業を本格化させるようになったという。

「本社ビルは、1階が機材レンタル、3階が撮影スタジオ、5階が映像編集室、6 階が映像編集室とMA ルーム、7階がレコーディング・スタジオという構成になっていて、撮影から映像編集、MA、さらには音楽制作に至るまで、映像コンテンツの制作がワン・ストップで完遂できてしまうのが大きな特色となっています。手がけている仕事は、CMや企業さんのPRが8〜9割を占めています。製品紹介や会社紹介のビデオですね。CMと言っても、昔はテレビがほとんどだったのですが、最近はWebが多くなっています。最近は自分たちで映像編集されるお客様も増えてきたので、MA やカラコレ、合成、フィニッシングだけを弊社に依頼されるパターンも増えていますね」


📷株式会社三和映材社 ポストプロダクション部 サウンド・エンジニア 筒井 靖 氏

本社ビル内の施設は、映像編集室が3部屋(Autodesk Flame ×2、Adobe Premiere Pro ×1)、MAルームが2部屋、レコーディング・スタジオが1部屋という構成で、その他に別館にもボーカル・ダビングなどに使用できるコンパクトなスタジオが用意されているとのこと。2部屋あるMAルームは、フラッグシップの『A1』が5.1chサラウンドに対応、今回リニューアルが実施された『A2』はステレオの部屋で、どちらも1985年、ビルが竣工したときに開設されたという。

「音響設計は、日東紡さん、現在の日本音響エンジニアリングさんにお願いしました。ルーム・アコースティックは基本開設時のままで、その後は痛んだファブリックを張り替えたくらいですね。機材に関しては、『A1』はAMEK AngelaとStuderの24トラック・マルチの組み合わせでスタートし、1993年に卓を7階のレコーディング・スタジオで使用していたSSL 4000Eに入れ替えました。現在の卓は2006年に導入したSSL C300で、かなり年季が入っていますが、今年に入ってからフル・メンテナンスしたので今のところ快調に動いています。

一方の『A2』は、当初は選曲効果の仕込みで使うような部屋だったので、最初はシグマのコンパクト・ミキサーが入っていたくらいでした。その後、『A1』に4000Eを入れたタイミングで、現在のDAWの先駆け的なシステムであるSSL Scenariaを導入し、本格的なMAルームとして運用し始めたんです。Scenariaは、関西一号機のような感じでしたが、映像もノンリニアで再生できる革新的なシステムでしたね。Avid Pro Toolsを導入したのは2006年のことで、『A1』と『A2』に同時に導入しました。『A2』のメイン・コンソールは引き続きScenariaで、Pro Toolsはエディターとして使うという感じでした。映像は、ソニーのDSR-DR1000というディスク・レコーダーを9pinでロックして再生するようになったのですが、あれはワーク上げしながら再生できる画期的なマシンでした。その後、いい加減Scenariaも限界がきたので、2010年にヤマハ DM2000に更新した経緯です。」

S4は使い慣れたARGOSY製デスクに収納

📷もともとはDM2000用として設置されていたARGOSY製のスタジオ・デスクをサイド・パネルを取り外すことで使用。今回導入したAvid S4がきれいに収められた。

そして今年5月、三和映材社はMAルーム『A2』のリニューアルを実施。Pro Tools周りを刷新し、オーディオ・インターフェースとしてAvid Pro Tools | MTRXを新たに導入、長らく使われてきたDM2000はAvid S4に更新された。筒井氏によれば、約2年ほど前にリニューアルの計画が持ち上がったという。

「一番のきっかけは、Pro Tools周りとDM2000の老朽化ですね。弊社の仕事は修正 / 改訂が多いので、どちらの部屋でも作業ができるように、Pro ToolsやOSのバージョンをある程度揃えるようにしているんです。しかし以前『A2』に入っていたMac Proがかなり古く、それが足枷になってPro Toolsをバージョン・アップできないという状態になっていたんですよ。せっかくPro Toolsは進化しているのに、互換性を考慮してバージョン・アップせず、その恩恵を享受しないというのはどうなんだろうと。それでDM2000もところどころ不具合が出ていたこともあり、約2年前からリニューアルを検討し始めました」

DM2000に替わる『A2』の新しいコントロール・センターとして選定されたのが、16フェーダーのS4だ。S4は、CSM×2、MTM×1、MAM×1というコンフィギュレーションとなっている。

「作業の中心となるPro Toolsが最も快適に使えるコンソールということを考え、最終的にS4を選定しました。DM2000やC300のようなスタンドアローン・コンソールには、何か“担保されている安心感”があって良いのですが(笑)、最近はPro Toolsがメインになっていましたので、もはやコンソールにこだわることもないのかなと。一時期はコンソールをミックス・バッファー的に使っていたこともあるのですが、次第にアウトボードすら使わなくなり、完全にPro Toolsミックスになっていましたからね。

ただ、唯一心配だったのがコミュニケーション機能とモニター・セクションだったんです。以前、ICON D-Controlシステムで作られたセッションを貰ったときに、モニターを作るためのバスがずらっと並んでいたことがあって、そういった部分までPro Toolsで作らなければならないのはややこしいなと(笑)。しかしPro Tools | MTRXの登場によって、コミュニケーションとモニター・コントロールというコンソールの重要な機能をPro Toolsとは切り離して実現できるようになり、これだったらコントロール・サーフェスでもいいかなと思ったんです。Pro Toolsで行うのは純粋な音づくりだけで、環境づくりはPro Tools | MTRXがやってくれる。今回のシステムを構築する上では、Pro Tools | MTRXの存在が大きかったですね。

コントロール・サーフェスを導入するにあたり、S6やS1という選択肢もあったのですが、最終的にS4を導入することにしました。Dolby AtmosスタジオであればS6がマストだと思うのですが、ここはステレオの部屋ですし、機能的にそこまでは必要ありません。ただ、この部屋にはクライアントさんもいらっしゃるので、ホーム・スタジオのような見栄えはどうだろうと思い(笑)、S1ではなくS4を選定しました」


📷長らく使われてきたDM2000はAvid S4に更新

S4は、ARGOSY製のスタジオ・デスクに上手く収められている。このデスクは以前、DM2000用を収納して使用していたものとのことで、サイド・パネルを取り外すことで、きれいにS4が収まったという。

「予算の問題もありましたし、S4を設置するデスクをどうするか、ずっと悩んでいたんです。しかしあるときふと、DM2000のデスクにS4が収まるかもしれないと思って。実際、板を1枚抜いて、少しズラすだけできれいに収まりました。奥行きや高さは微妙に合わなかったのですが、そういった問題はコーナンで買ってきた板を敷き詰めることでクリアして(笑)。このARGOSYのデスクは、手前のパーム・レストが大きくて作業がしやすく、とても気に入っています。Macのキーボードも余裕を持って置くことができますしね。

S4の構成に関しては、8フェーダーだと頻繁に切り替えなければならないので、最低16フェーダーというのは最初から考えていたことです。ディスプレイ・モジュールは付けようか悩んだのですが、あれを入れるとPro Toolsのディスプレイを傍に置かなければなりませんし、最終的には無しとしました。各モジュールの配置は、16本のフェーダーに関しては分散させずに集約し、右側がトランスポート・コントロール、左側がフェーダーという隣の部屋のC300のレイアウトを踏襲しています」


📷システムの環境構築に大きく貢献したというAvid Pro Tools | MTRX。

『A2』のPro Toolsは1台で、Intel Xeonを積んだMac ProにHDXカードを1枚装着したシステム。オーディオ・インターフェースとなるPro Tools | MTRXも、ADカードとDAカードが1枚ずつのミニマムな構成で、MADIカードやSPQカードなどは装着していないという。

「音響補正はGenelecの『GLM』でやっているので、SPQカードが入っていない初代のPro Tools | MTRXがちょうど良いスペックでした。VMC-102のようなモニター・コントローラーを導入しなかったのは、ここはステレオのスタジオなので、複雑なモニター・マトリクスが必要ないからです。その代わり今回、カフをスタジオイクイプメント製の新しいものに入れ替えました。映像はPro Toolsのビデオ・トラックで再生し、Blackmagic Design DeckLink 4K Extremeで出力しています。Pro Toolsの現行バージョンは、いろいろなビデオ・フォーマットを再生できるので、ビデオ・トラックでもまったく不自由はありません。2面あるディスプレイは、単にミラーリングしているだけで、右側でアシスタントが編集したものを、左側のぼくがバランスを取るという役割分担になっています。それと今回、ROCK ON PROさんからのご提案でUmbrella CompanyのThe Fader Controlを導入したのですが、これが入力段にあるだけでコンソールのように録音できるので助かっています。録りのレベルも柔軟に調整することができますし、とても気に入っている機材です」


📷S4の脇に備えられたのはUmbrella Company / The Fader Controlだ。

8331AとPro Tools | MTRXをデジタルで接続

今回のリニューアルでは、ニア・フィールド・スピーカーも更新。長らく使用されてきたGenelec 8030AがThe Ones 8331Aにリプレースされた。筒井氏によれば、8331AとPro Tools | MTRXは、AESでデジタル接続されているという。

「ニア・フィールド・スピーカーは、以前はヤマハ NS-10Mを使用していたのですが、2006年にScenariaを使うのを止めたタイミングでGenelecに入れ替えました。Genelecのスピーカーは、聴き心地の良さと、スタジオ・モニターとしての分かりやすさの両方を兼ね備えているところが気に入っています。

今回、The Onesシリーズを導入したのは、別館のレコーディング・スタジオで8331A を使用していて、何度かこの部屋で試聴してみたところ、もの凄く良かったからです。なのでスピーカーに関しては、スタジオのリニューアルを検討し始めたときから、絶対に8331Aにしようと考えていました。8331Aは、8030Aよりも定位がさらにしっかりして、音の粒立ちが良くなったような気がしますね。それと同軸設計のスピーカーではあるのですが、サービス・エリアの狭さを感じないところも良いなと思っています。同軸スピーカー特有の、サービス・エリアを外れた途端に音がもやっとしてしまう感じがないというか。もちろん『GLM』も使用していて、あの機能を使うと“しっかり調整されている”という安心感がありますね(笑)。『GLM』は、左右同一のEQか個別のEQが選べますが、両方試してみたんですけど、今は左右同一のEQで使っています。

今回、8331AとPro Tools | MTRXをデジタルで接続したのは、余計なものを挟まずにピュアな音にこだわりたかったからです。隣の部屋も、C300からヤマハ DME24Nを経由して、Genelecにデジタルで接続しているのですが、その方が安定している印象があります」

今年5月にリニューアル工事が完了したという新生『A2』。完成翌日からフル稼働しているとのことで、その仕上がりにはとても満足しているという。

「皆さんのおかげで、イメージどおりのスタジオが実現できたと大変満足しています。でも、まだ改善の余地が残っていると思うので、さらに使いやすいスタジオになるように、細かい部分を追い込んでいきたいですね。新しいS4に関しては、HUIモードのDM2000とは違ってPro Toolsに直接触れているような感触があります。画面上のフェーダーがそのまま物理フェーダーになったような感覚というか。それとアシスタントがナレーションのノイズを切りながら、こちらではEQを触ったり、2マンでのパラレル作業がとてもやりやすくなりました。今回は思い切ることができませんでしたが、イマーシブ・オーディオにも興味があるので、今後チャンスがあれば挑戦してみたいと思っています。」


 

*ProceedMagazine2023-2024号より転載

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*記事中に掲載されている情報は2023年12月26日時点のものです。