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RME Global Recordレビュー:行方洋一氏による「神戸JAZZ2010」Recording Review

REM_top港町・神戸で、2005 年から毎年行われている「神戸JAZZ」は、ジャズ音楽を通じて若者の想像力や価値観を育成しようという、まったく新しい取り組みです。学校のクラブ活動でジャズを演奏しているビッグ・バンドや、音楽業界の仕事に興味を持っている若者たちを広く募り、夏休み中に様々なカリキュラムのワークショップを開催。ワークショップでは、第一線のジャズ・ミュージシャンやレコーディング・エンジニアが協力し、若者たちに楽器演奏から音響技術まで直接指導を行います。そしてその成果は、秋に開催されるライブ・コンサートで披露され、その模様は地元のテレビ局やFM 局でオンエアされます。若者たちの心や夢を育むという観点からはもちろん、ジャズ音楽を若い世代に紡いでいくという点においても、大変意義のある素晴らしい取り組みと言えるでしょう。
6 年目を迎えた今年も「神戸JAZZ」は開催され、最後を締めくくるコンサートは10月2 日に神戸文化ホール(大ホール)を舞台に行われました。今年は音楽プロデューサーとして、NANIWA EXPRESS の清水興が参加し、東原力哉を中心に「神戸JAZZ」のために結成されたバンド「KOBE JAZZ special BIG BAND」がワークショップから最後のコンサートまで全面的にサポート。今年の「神戸JAZZ」も大成功のうちに幕を下ろしました。
そして「神戸JAZZ」の主催者側からの依頼で、2 年目からコンサートのライブ・レコーディングを行っているのが、大御所レコーディング・エンジニアの行方洋一氏です。行方氏は「神戸JAZZ」の主旨に賛同し、ライブ・レコーディングだけでなく、事前のワークショップや、コンサート後のミックス・ダウンなどもすべて手がけています。そんな行方氏に、今年の「神戸JAZZ」のライブ・レコーディングについて、じっくりと話を伺いました。


若者の心や夢をジャズ音楽で育む「神戸JAZZ」

——— 行方先生が「神戸JAZZ」に参加することになったきっかけは?

namekata主催者サイドに僕の後輩がいるんですよ。その後輩から、ぜひ録ってくれないかと話があったのが始まりですね。録ると言っても、CD を作るのはプロ・ミュージシャンが参加している関係で難しいので、あくまでも記録というスタンス。もちろん、後でミックスしたものは、テレビ局やFM 局のオ
ンエアで使われるんですけどね。
まぁ、後輩に誘われたのがきっかけなんですけど、僕は「神戸JAZZ」の主旨にも賛同しているんです。ジャズ音楽で若者を育成しようというね。だから、コンサート前の夏休みにワークショップが開催されるんですけど、僕はそれにも足を運ぶんですよ。楽器演奏ではなく、録音やPA、演出をやりたいという若者もけっこういるので、そういう子たちに音とは何かというのをレクチャーする。今年は11 人来たのかな。
この歳になると、そういうのもおもしろいですよ。最近の若いエンジニアは、僕のところに「おしえてくれ」って質問しに来ないから(笑)。
——— 学生バンドからプロ・ミュージシャンのライブまで、すべてレコーディングされるんですか?

もちろん。記録ですからね。学生バンドが演奏する一部が大体3 時間で、プロ・ミュージシャンが演奏する二部が約1時間。出演する学生バンドは、オーディションで選抜されるんです。今年は全部で11 校で、一番遠いところでは愛知の学校も選ばれてましたね。
演奏するのは、基本的にみんなビッグ・バンド・ジャズ。今の学校は、吹奏楽部を作っても人数が足りなかったりするらしいんですよ。それでも4 ペット、4 ボーン、5 サックスくらいはいるので、だったらとビッグ・バンド・ジャズに走るらしいんです(笑)。それと最近では、映画『スウィングガールズ』の影響もあるみたいですけどね。モデルになった「高砂高校ビックフレンドリージャズオーケストラ」も参加していましたよ。
でも、この歳になって、学生バンドを3 時間ぶっ続けで録音するというのもキツいものがありますよ(笑)。しかしたまに、「本当に高校生?」と驚く凄いバンドが出てくるんです。今回も1 バンドいたんですよ、クソ上手いのが(笑)。そういうのが出てくると、録っている側もやっぱり興奮しますよ
ね。


昨年までとはガラリと変わったレコーディング・システム

——— それでは、レコーディング・システムについておしえていただけますか。

RME_2最初に言っておくと、去年までのシステムと今年のシステムではまったく違うんです。去年までは、PA の方から16chのアナログ回線を貰って、それをレコーディングしていたんですよ。具体的には、Steinberg Nuendo をインストールしたノートPC を持ち込んで、PA から貰った16ch のアナログ回線を、RME 社のAD コンバーターに入力してレコーディングする。AD コンバーター/オーディオ・インターフェース周りは毎年違ったりするんですが、去年はAD コンバーターとしてRME 社のM-32 AD、オーディオ・インターフェースとしては同じくRME 社のHDSPe MADIface を使用しました。ただ、それだけでは物足りないので、アンビエンス・マイクは自分で立ててレコーディングしています。去年はアンビエンス・マイクを2 本、RME 社のMicstasyに入力して、そのMADI 出力をHDSPe MADIfaceに入力しました。ですからレコーディング・ソースとしては、PA から貰ったアナログ回線が16ch と、自分で立てたアンビエンス・マイクが2ch、全部で18ch の音声という感じですね。

——— PA からの16ch のアナログ回線は、頭分けですか?
いいえ。16ch では足りないので、重要なものは頭分けで貰って、それ以外はPA の方でサブ・ミックスを作ってもらいます。頭分けで貰うのは、ドラムのオーバー・トップを2本と、ソロ楽器ですね。この2 つだけは、EQ などの処理が施されていない素の音が欲しいですから。あとは全部サブ・ミックス。5 サックスをステレオにまとめてもらったりとか。
——— レコーディング前に、マイクの選択やサブ・ミックスについて、PA エンジニアの方に要望を伝たりするのですか?
ドラムのオーバー・トップで使うマイクだけは、僕に選ばさせてもらっています。それ以外はすべて、PA エンジニアのセレクトですね。PA は、ハウリング・マージンを考慮しなければならないので、ダイナミック系でタイトな指向のマイクを選ぶ必要がありますから。レコーディングだったら、スネアにはもっとブロードな指向のものを使って、パスッという音にしたくなるんですけど、そういうわけにもいかない。だからPA エンジニアのセレクトを尊重しています。ただ、ドラムのオーバー・トップに関しては、ハウス・ミックスではそんなに使われないんですよ。上から狙うマイクは、ハウリング・マージンが確保できないので。それだったら、オーバー・トップだけはこっちで選ばせてよという感じですよね。具体的には、ドラムのオーバー・トップにはコンデンサー・マイク、アンビエンス・マイクには指向性が強く、PA の返りを拾わないマイクを使用しています。
サブ・ミックスに関してもマイクのセレクト同様に、PAエンジニアのバランスを尊重していますよ。一番最初に、これとこれが欲しいという話をするだけで、その後は一切口を挟みません。向こうだってプロですからね。ただ、PA エンジニアはやりにくいとは思いますよ。東京から来た訳の分からないオヤジが常にいるんですから(笑)。
——— そのような昨年までのレコーディング・システムが、今年からどのように変わったのですか?

DigicoRME 社の製品でお世話になっているシンタックスジャパンにお邪魔したときに、スタッフがレコーディングしたファイルを聴かせてもらう機会があったんですよ。とある歌手のライブをレコーディングしたものだったんですが、それが凄く良い音で。「これはよく録れてるね」と言ったら、PA コンソールからMADI で繋いでレコーディングしただけだと言うんですよ。デジタルの音声をそのままレコーディングしただけで、操作らしい操作は行っていないと(笑)。それは凄い、だったら今度の「神戸JAZZ」でも同じセットでやらせてよと言って、システムを変えてみることにしたんですよ。
ただ問題があって、同じようなMADI レコーディングを行うには、当然のことながらPA コンソールはデジタルでなければならない。去年までの「神戸JAZZ」のPA コンソールはアナログだったので、PA を担当しているヒビノさんにお願いして、今回特別にDiGiCo 社のデジタル・コンソールを使用してもらったんですよ。
——— それでは今回のレコーディング・システムについて、詳しくおしえてください。

ヒビノさんが用意したPA コンソールはDiGiCo 社のSD8-24 で、その入出力ユニットであるStage Rack から48ch のMADI 回線を貰いました。要するに、SD8-24 に入る前の段階で、すべてのインプット・ソースを頭分けして貰ったということです。もちろん、Stage Rack のヘッド・アンプは、PA エンジニアがSD8-24 から操作しているんですけどね。
アンビエンス・マイクは去年と同じように2 本立てて、RME 社のMicstasy をマイク・プリアンプ兼AD コンバーターとして使用しました。回線の流れとしては、StageRack から出力された同軸のMADI 回線をMicstasy に入力して、アンビエンス・マイクの2ch の音声を足し、再びMADI で出力してRME 社のHDSPe MADIface に送る……という感じです。チャンネル数でいうと、Stage Rack から出力された段階では48ch ですが、Micstasy の中でアンビエンス・マイクの音声を2ch 足しているので、計50ch の音声がHDSPe MADIface に入っているということになります。
要するに、去年まではPA コンソールのサブ・ミックスをレコーディングしていたのが、今年はマイクに入った音をそのままレコーディングできたということですね。しかも接続は同軸ケーブル1 本と、これ以上ないくらいシンプルで、Stage Rack から直接貰うのでPA エンジニアに気を遣わせることもない。去年までとは桁違いの進化ですよね。一昔前に同じようなことをやろうと思ったら、一日数十万円支払って録音車を借りないとダメですよ。それに出張費を足したら、とんでもない金額になる。それがMADI を活用すれば、ノートPC 1 台で出来てしまうんですから本当に凄い時代ですよね。
——— 今回もNuendo を使ってレコーディングされたのですか?

global-recordいいえ。今回は、RME 社のオーディオ・ハードウェアに付属しているGlobal Record というソフトウェアを使ってレコーディングしました。ノートPC はパナソニックのTOUGHBOOK で、CPU はCore 2 Duo の2.0GHz とそんなにパワーは無いマシンなんですが、何の問題もなく50 トラックのレコーディングが行えました。
そして今回、おもしろい試みとして、レコーディングをしながらRME 社のTotalMix というソフトウェアを使って2 ミックスも作ったんですよ。TotalMix は、RME社のオーディオ・ハードウェアのDSP 上で動作するソフトウェア・ミキサーなんですが、主催者サイドがすぐに2 ミックスが欲しいというので、だったらその場で作りましょうと。
——— ライブ・レコーディングをしながら、リアルタイムにミックスも行ってしまうというのは凄いですね。
昔は皆、TotalMix のようなシンプルなコンソールでミックスしていたんですから。機能的な要望はあるんですけど、単にミックスするだけだったら十分ですね。もちろん、TOUGHBOOK でGlobal Record とTotalMix を同時に使用しても全く問題なく、GlobalRecord でのレコーディングとTotalMix でのミックスは完全に切り離されています。
——— ミックス時は、どのようにモニターしたのですか?

RME_1HDSPe MADIface のMADI 出力をRME 社のデジタル・フォーマット・コンバーター、ADI-642 に入力して、そのヘッドフォン端子でモニターしました。そしてADI-642 のAES/EBU 出力をRME 社のFireface 800 に入力し、そこからアナログ回線をステレオ4 系統出力しています。要するに、Fireface800 をAES/EBU 入力のDA コンバーター兼スプリッターとして使用して、そこから主催者側のレコーダーにアナログ回線を送っているわけですよ。具体的には、Pro Tools、中継カメラ、そして2 台のMD レコーダーにアナログ回線を送っています。
そしてコンサートが終わった後は、もちろん自宅のNuendo で改めてミックスを行いました。Sonalksis社のプラグインを活用してね。50 トラックもあると、ミックスはかなり大変なんじゃないかと思うかもしれませんが、実際には使わないトラックの方が多かったりするんですよ。全部のトラックを使う必要はないんです。その辺りは長年の経験がものをいう感じでしょうか。
今年の「神戸JAZZ」は、PA の方でデジタル・コンソールを使用してもらったことで、初めて全面的にMADI を使ったライブ・レコーディングを行うことができました。その結果、シンプルなセットアップでありながら、今までで最も高音質なレコーディングができたと自負しています。来年もぜひこのセットアップでレコーディングを行いたいですね。
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*記事中に掲載されている情報は2010年11月15日時点のものです。