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Author
澤口 耕太
広範な知識で国内セールスから海外折衝、Web構築まで業務の垣根を軽々と超えるフットワークを発揮。ドラマーらしからぬ類まれなタイム感で毎朝のROCK ON PROを翻弄することもしばしば。実はもう40代。
IMAGICAエンタテインメントメディアサービス 新宿アニメーションスタジオ様 / 「シンプル=本質的」な構成を持つアニメ制作特化スタジオ
IMAGICAエンタテインメントメディアサービス(以下、Imagica EMS)が、国内7拠点目となるスタジオを西新宿の地にオープンした。「新宿アニメーションスタジオ」という名の通り、アニメーション作品の制作に特化したこのスタジオは、複数の拠点を運営する同社ならではの蓄積されたノウハウや、既存スタジオの運営を通して発見されてきた改善点が集約された、クライアントにとって高い利便性を備えたスタジオとなっている。機材リストを見ただけではわからないこだわりについて、Imagica EMSの皆様からお話を伺った。
Imagica EMSにとって7つ目の拠点となる新宿アニメーションスタジオだが、昨年90周年を迎えたIMAGICA GROUP全体で考えれば、これまで開設してきたスタジオの数は実に数多くにのぼる。実績のあるスタジオシステムの機器構成がすでに存在しているだけでなく、実際に多数のスタジオを運営する中で明らかになる課題点について、スタジオを新設する度に改善を加えることで、同社エンジニアだけでなくクライアントにとってより利便性の高いスタジオをつくることができるということは、同社の積み重ねてきた歴史と実績の厚みがもたらす唯一無二の強みであると感じさせる。
特に本スタジオはアニメーション作品制作という、テレビ番組や実写映画とは大きく異なるクライアントの事情に配慮したこだわりが、その立地からスタジオの細かな構成に至るまでふんだんに盛り込まれている。
アニメーション作品のポストプロダクション制作で最初に思いつく特徴は、すべてのセリフがアフレコ、それも多数の声優陣が一堂に会しての集合録りがメインになることではないだろうか。これだけでも、ひとつのスタジオにかなりの人数が同時に集まることは想像にかたくないが、特に、原作があり、製作委員会方式が取られることが多い近年のアニメーションでは、多様な属性を持つ多数のクライアントがそれぞれの立場で作品をチェックし、制作を見守ることになる。
西新宿という立地は、まず、こうした多様な関係者にとっての利便性への配慮から決定されたという。ご存知の通り、テレビ局や番組制作会社、出版社といった企業は主に東京の南東側に集中しているが、一方で、アニメーション制作会社は東京の西側に立地していることが多い。新宿エリアは、このどちらからもアクセスが容易であるという理由によって選定されたという。これが番組制作ならテレビ局の近傍、映画制作なら敷地面積や天井高の確保が優先されるところだが、どのような場所からも等しく便利な立地が選ばれるというのは、先述したアニメーション制作の特色を反映した選択と言えるだろう。
そして、スタジオ内部の広さや居住性は充分に確保されている。本スタジオは4部屋の編集室(オンライン2部屋、オフライン2部屋)と、すべて集合録りが可能なブース併設のレコーディングルーム3部屋(5.1サラウンド1部屋、ステレオ2部屋、いずれもダビング作業まで可能)が1フロアで完結している。また、中央ロビーは非常に広く、大人数が待機できるよう工夫がされているほか、3つのミーティングルームも用意され、個別の打ち合わせや守秘性の高い話もフロア内でおこなえるようになっている。
アニメーション制作では、午前中にアフレコ、午後は別話数のダビングというように、1日のなかで異なる話数の工程を組み合わせて進めることが多いため、スタジオ機能を1フロアに集約することで、作業効率だけでなくクライアントの利便性の向上を図っているという。多数の関係者のスケジュールを調整しなければならない制作作業を、1日で完結できるというのは大変な利点だろう。映像編集と音声制作のスタジオが1フロアに揃っている仕様は同社としても初めてとのことで、アニメーション制作へ本格的に参入するにあたっての同社の意気込みが感じられる。
個人的に印象に残ったのだが、フロア移動の必要性をなくすことは、声優のプライバシー保護やセキュリティ確保の観点からクライアントに非常に喜ばれるそうだ。声優業だけでなく、顔を出して幅広く活躍する方も多い今の時代の声優たちにとって、外部と明確に区分された環境であるということはスタジオに対する評価ポイントして重要度も高まっている様子だ。
これを逆に捉えれば、ひとによっては1日をスタジオの限られた同じ空間で過ごすことになるとも言えるアニメ制作現場。なるべく居心地のよい空間にするべく、全体的に明るいベージュと焦茶ブラウンを基調に、ナチュラルウッドの板材が配された開放的で清潔感のある内装とされ、仕上げで2.8mあるスタジオ内部の天井高にもこだわったという。
天井高といえば、近年はDolby Atmosへの対応ということで耳にすることの多いワードだ。実際、2020年に本誌でも取り上げたIMAGICA SDI Studio(現 同社汐留サウンドスタジオ)は、Dolby Atmos対応のために3m以上の天井高を確保できることが物件選定の決め手だった。新宿アニメーションスタジオにはDolby Atmosは導入されていないのだが、なるべく圧迫感を持たせないようにはじめから天井高を確保できる物件を探したという。
同社では天井の高さにはこだわっているそうで、汐留と新宿だけでなく、すべての制作スタジオで3m前後の天井高を確保しているという。過ごしやすさ、快適性というポイントに加えて、サウンドの面でも部屋が広ければ余計な間接音やそのマネジメントのための物理的・電気的補正を減らせるため、結果として作品のクオリティ向上にも寄与していると考えられる。
発表前のコンテンツの機密性の確保という点は、どの放送局、どのプロダクションにおいても、作品のクオリティ向上と同じように重みのある課題となっている。
この点で、Imagica EMSが運営する全拠点は、米国映画協会が定めるコンテンツ・セキュリティに関する世界的な評価プログラムであるTrusted Partner Network(以下、TPN)において、2026年3月より義務化された最新基準である「MPA Best Practices v5.3.1」に準拠し、設備・運用による高いセキュリティ水準を維持している。
海外の配信事業者やプロダクションのなかには、このTPNの取得を取引の絶対条件としているところも少なくないため、共通のセキュリティ要件を満たしていることが事前に証明されていれば、個別の検査項目を減らせるだけでなく、何よりクライアントに安心感を持ってもらうことができるという。確かに、海外に仕事を発注しようという段階で共通のセキュリティ要件を満たしていることがわかっているというのは、クライアントにとっては大きな安心材料となるだろう。
さらに、同社ではすべての制作拠点がネットワークで接続されており、拠点間をまたいだ制作をおこなう場合でも、制作中のコンテンツをコピーした物理メディアを外部へ持ち出す必要が皆無だという。こうすることで、メディア間のコピーにかかる時間を節約できるだけでなく、盗難や紛失といったセキュリティ上のリスクをなくすことができる。こうした体制や設備を整えるだけの地力を持っていることも同社ならではの強みであろう。
3部屋あるレコーディングスタジオはすべて集合録りに対応している。各部屋には4本ずつのNeumann U87 Aiが、宝電機工業 FM-3810マイクスタンドを使用して設置されている。レコーディングスタジオと呼ばれているが、ホストマシンとしてミキサー / ダバーであるMac Proに加えてSE用のMac Studioが導入されており、すべてのサウンドスタジオで、アフレコ録りだけではなくその後のMA→ダビング作業まで実施することができる。まさに、午前中にアフレコ収録したそのままの部屋で完成まで持っていくことが可能となっているのだ。こうすることで、技術的にはサウンドの一貫性が確保され、クライアントにとっては半日〜1日の間スタジオを訪れるだけでひとつのエピソードのチェックが完了するというメリットがある。
先述の通り、国内のアニメーション制作においては声優陣はもとより、製作委員会方式であればスポンサーだけで数社、原作者、脚本家、出版社、配給会社やテレビ局など多数の関係者が、対面 / リモートを問わず同時にスタジオを訪れるため、コントロールルームは15名程度が同時に入室することができるようになっている。もちろん、各部屋は実際に広いのだが、天井の高さとシンプルな内装の効果か、かなりゆったりとした印象を受ける。ちなみに、3部屋のサウンドスタジオの内装にはそれぞれ異なる挿し色が使われており、Studio 1がシックなチョコレートブラウン、Studio 2が淡いオレンジ系、Studio 3はターコイズブルー系となっている。
興味深いのは、コントロールルームの天井にSennheiser TeamConnectシーリングマイクが仕込まれていることだ。これはいわゆる会議室向けの設備用マイクで、QSC Core 8 Flexによって集約・コントロールされ、リモート参加のクライアントにスタジオの音声を明瞭に伝送することを目的に導入されている。
アフレコ自体は完全に現場収録に戻った国内のアニメーション制作だが、クライアントによってはリモートで参加する方もいるとのこと。同社の従来のスタジオでは部屋の隅にいる参加者の声がリモート先へ届きにくいことがあったということで、こうした課題を解決するために導入を決めたという。こういった細かい部分にも、クライアントの満足度を向上させるための工夫がおこなわれている。作業の中心はスタジオという現場に戻っているとはいえ、コロナ禍を経て浸透したリモートという選択肢がなくなったわけではない。今後、新宿アニメーションスタジオのように、制作スタジオに会議向けソリューションを導入するスタジオも増えていくかもしれない。これまであまり交わることのなかった「畑違い」のソリューションをクロスオーバーさせながらクライアントのニーズに応えていく、というのはアフターコロナという時代が生んだ様相であるように感じられた。
新宿アニメーションスタジオのレコーディングルームは3部屋すべてが集合録りに対応しているのは既述の通りだが、Studio 1が5.1サラウンド、Studio 2とStudio 3がステレオ仕様となっていることを除くと、その他の機器構成もすべて共通となっている。試しに図面を重ねてみたところ、B-Chainに関わる箇所以外は見事に一致していることに驚く。
本スタジオの中だけではなく、Imagica EMSでは全拠点のシステムが基本的に同じ構成になるようにスタジオを設計しているのだという。もちろんまったく同じではないものの、プラグイン構成までなるべく揃えるようにしているということで、かなり戦略的に仕様を統一していることが窺える。こうすることで、各拠点内はもとより、拠点を跨いでの作業が発生した場合にもエンジニアが制作作業に集中できるようになっており、また、ある部屋で途中まで制作したコンテンツを別の部屋へそのまま引き継げるということは、納期スケジュールの管理においても大きなアドバンテージであると言える。
マシンルームのラックには、BRAINSTORM DXD-8、Tritechのトークバック、モニターコントローラー、ビデオI/O、SYNC HD、Pro Tools | MTRX II、Mac Pro、Mac Studio、これで各スタジオのA-Chainは完結しており、同じ構成が3部屋分並んでいる格好だ。
こうして見ると意外なほどにシンプルに思えるが、単にシンプルと言うよりは本質的な構成であると言いたい。同社では前述の通り全拠点のスタジオシステムを共通の構成としているため、構成自体はすでに多数の拠点で実績のある雛形が存在している。中核となる構成に対して各スタジオに必要な機能に応じて機器を追加していく形を取ることで、システム設計のプロセスを迅速化できる上、後々システムを拡張した場合でも拠点間の共通性を担保することが容易になる。
各スタジオはMac ProとMac Studioの2台構成。Mac Proは収録時のレコーダー、MA時のミキサー、ダビング時のプレイアウト+ダバーとして使用され、Mac Studioはダビング時にSEプレイアウトとして使用されることを想定している。SE用のMac Studioを導入していることで、どのスタジオでもしっかりとダビング作業まで完結させることができるようになっている。Pro Toolsは2式ともHDX仕様。Mac StudioからはAvid製ラックマウントタイプのTBシャーシを介して、DigiLinkオプションカードを換装した1台のPro Tools | MTRX IIに接続されている。MTRX IIのAD / DAカードにはそれぞれ、アナログミキサーやモニターコントローラーほか、トークバックやメーターへの回線などが接続されている。
同社の収録スタジオの特徴として、Pro Toolsのコントロールサーフェスと並んで、必ず小型のアナログミキサーとモニターコントローラーが導入されている点が挙げられる。どちらも、現在のPro ToolsシステムであればMTRX IIとDADmanを活用することで省くことのできる機器なのだが、同社エンジニアの総意として、制作作業においてフィジカルなフェーダーやスイッチがあることの利点や安心感は捨てられないという判断のようだ。特に、ナレーション録りに比べてはるかにダイナミクスレンジが広いアニメーション作品のアフレコにおいては、パッと手が伸びるところにフェーダーやスイッチがあるということは大きな利点だという。
アナログミキサーには同社の多拠点でも採用されているSSLから、現行モデルのデスクトップミキサーとしては最大のSSL BiG SiXが採用されている。SuperAnalogue™機能を備えた4チャンネルのマイク入力と4系統のステレオ入力を持ち、18 チャンネルのアナログサミングが可能な、小型と言えど本格的なSSLコンソールだ。
モニターコントローラーはサラウンド仕様のStudio 1がGRACE DESIGN m908、Studio 2 / Studio 3が同m905。Imagica EMSのエンジニア陣の中ではGRACE DESIGNに対する絶大な信頼感が醸成されており、本スタジオ設計の際にも迷いなく採用されたという。
このようにアナログ信号のコントロールをMTRX IIに集約せず、アナログミキサー・モニターコントローラーを使用するという方針が先にあるため、本スタジオでは大型のコントロールサーフェスではなく8フェーダーのPro Tools | S1が採用されている。作業の種類やエンジニアの好みによってS1とBiG SiXの位置を入れ替え、どちらをミキサー卓の中心に置くかを選択できる点が気に入っているとのことで、確かにこれはS6やS4などの大型コントローラーでは実現できないワークフローだ。面白いのは、Studio 1にはサラウンドメーターとステレオメーターのふたつのVUメーターがあり、作業内容によって使い分けているという点。機能的にはサラウンドメーターだけで運用できるはずだが、こうした実践的な部分にこだわっているのはさすがだと感じる。
3部屋あるサウンドスタジオのうち1部屋が5.1サラウンド、残り2部屋はステレオという構成だが、すべての部屋でメインモニターはGenelec S360となる。Imagica EMSではモニタースピーカーの選定にはすべてのエンジニアが参加し、協議の上で選定するという方法を取っており、このモデルも「音が飛んでくる」「部屋のどこで聴いても音像が変わらない」「帯域のバランスがいい」と非常に評価が高く、ほぼ全会一致で決定したというエピソードのある機種だ。
本スタジオに先立ち、汐留サウンドスタジオのもっとも大きな部屋でも採用されているモデルである。汐留では部屋の大きさの都合上、収録部屋には同メーカーの別モデルが採用されていたが、本スタジオは3部屋ともほぼ同じサイズということもあり、すべての部屋でモニタースピーカーが統一されている。
ちなみに、計画当初はStudio 1もステレオ仕様とする予定だったという。しかし、海外の配信事業者がクライアントとなるアニメーション作品では最低5.1サラウンドが要求されることが多いようで、需要があるならばということで急遽サラウンド構成に変更されている。
各サウンドスタジオにはS360のほか、スモールモニターとしてYAMAHA HS5が1ペアずつ導入されている。これも同社エンジニアによる試聴と協議を経ての採用とのことだが、こちらは最終候補に残ったもうひとつのモデルとの決選投票の末、僅差で決定したようだ。業務用スタジオの定番だった同メーカー NS-10Mの実質的な後継機であるHS5だが、最終的な試聴環境に近いキャラクターでありながら全帯域にわたってきちんと音が再生される点が高く評価された。
さまざまな配信プラットフォームの普及により大きな変革期を迎えつつあるコンテンツ業界の中にあって、着実に需要を増やし、いまや世界的な認知を得ている国産アニメーション作品。さらに増えていくであろう制作の需要に応えるために生まれた新宿アニメーションスタジオだが、オープンするや既に多数の問い合わせを受けているという。今後、ここから世に送り出される数多くの作品に触れる日が今から楽しみだ。
*ProceedMagazine2026号より転載
*記事中に掲載されている情報は2026年08月20日時点のものです。















