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山之下 朝陽

[ROCK ON PRO Product Specialist Team / Assistant]Immersive Audioを用いた芸術音響作品を創作し国内外で発表を行なってきた経験から、音楽表現を支える最先端の技術を広めるべくROCK ON PROへ。メガネは伊達。

「ライブを超えたライブ体験」の実現に向けて〜FUKUYAMA MASAHARU LIVE FILM 言霊の幸わう夏〜

今年1月、アーティスト・福山雅治による初監督作品 『FUKUYAMA MASAHARU LIVE FILM 言霊の幸わう夏 @NIPPON BUDOKAN 2023』が公開された。昨年夏に開催された武道館公演を収録した本作は、ドローン撮影による映像やDolby Atmosが採り入れられ、福山本人による監修のもと “ライブを超えたライブ” 体験と銘打たれた作品となっている。今回は特別に、本作の音響制作陣である染谷 和孝氏、三浦 瑞生氏、嶋田 美穂氏にお越しいただき、本作における音響制作についてお話を伺うことができた。


📷
左)三浦 瑞生氏:株式会社ミキサーズラボ 代表取締役社長 レコーディング、ミキシングエンジニア
中)嶋田 美穂氏:株式会社ヒューマックスエンタテインメント ポストプロダクション事業部 リレコーディングミキサー マネジャー
右)染谷 和孝氏:株式会社ソナ 制作技術部 サウンドデザイナー/リレコーディングミキサー

”理想のライブの音”に至るまで

Rock oN(以下、R):まずは、今回の企画の経緯について聞かせていただけますか?

染谷:私はこれまで嵐、三代目 J Soul Brothers(以下JSB3)のライブフィルム作品のAtmos ミックスを担当させていただきました。嶋田さんとは前作のJSB3からご一緒させていただいていて、その二作目ということになります。嶋田さんとのお話の中で、私たちが一番注意していたことは、音楽エンジニアの方とのチームワークの構築でした。三浦さんは長年福山さんの音楽を支えてこられた日本を代表するエンジニアさんであり、すでにチーム福山としての完成されたビジョンやチームワークはできあがっています。そこに我々がどのように参加させていただくかを特に慎重に考えました。Atmos制作内容以前に、チームメンバーとしての信頼を得るというのはとても大切な部分です。その配慮を間違えると「作品の最終着地点が変わるな」と感じていましたので、最初に三浦さんにAtmosで制作する上でどういうことができるのか、いくつかのご説明と方向性をご相談させていただきました。そして最終的に、三浦さんと福山さんの中でステレオミックスをまず制作していただいて、その揺るぎない骨子をAtmosミックスに拡張していく方向で制作を進めていくことに決まりました。

R:Atmosで収録した作品として今作で特徴的なのが、ライブの再現ではなく、“ライブを超えたライブ体験”というコンセプトを大事にされていますが、その方向性というのも話し合う中で決まっていったのですか?

染谷:収録が終わり、まず三浦さんがステレオミックスをされて、その後何曲かAtmosミックスを行い、福山さんにお聴かせする機会がありました。そこで福山さんが、オーディエンス(歓声)のバランスを自分の手で調整しながらAtmosの感覚、できることを探っていかれる時間がありました。

嶋田:そこで、閃かれた瞬間がありましたよね。

染谷:武道館特有の上から降ってくるような歓声やセンターステージに立っている福山さんでしか感じられない雰囲気をこのDolby Atmosなら“お客さんに体感・体験していただくことができる“と確信されたんだと思います。その後の作業でも、福山さんの「追体験じゃないんですよ」という言葉がすごく印象に残っています。まさにステージ上での実体験として感じていただくこと、それが私たちのミッションだったわけです。

R:では録音の段階ではどのような構想で進められていたのですか?

染谷:収録段階では、2階、3階と高さ方向での空間的なレイヤーをキャプチャーしたいと考えていました。

嶋田:最終的にオーディエンスマイクは合計で28本になりましたね。PAの前にも立ててみたりはしたのですが、音を聴くと微妙に位相干渉していたので結局は使っていません。

三浦:基本のステレオミックス用がまず20本あって、そこに染谷さんがAtmos用に8本足されました。基本的には、PAスピーカーの指向性からなるべく外れたところから、お客さんの声や拍手を主に狙うように設置しています。

R:オーディエンスの音源の配置は、基本マイク位置をイメージして置かれていますか?

染谷:そうですね。上下で100段階あるとしたら、2階は40、3階は90~100くらいに置いてレイヤー感を出しています。上から降りそそぐ歓声を表現するには、上、下の二段階ではなく、これまでの経験から中間を設けて階層的に降ろしていった方が結果的に良かったので、今回はこのように配置しました。

R:福山さんが向く方向、映像の画角によってアンビエントのバランス感は変えたのですか?

染谷:そこは変えていないです。それをすると音楽との相関関係から音像が崩れていくので、基本的にオーディエンスは一回決めたらあまり動かさない方が良いように思います。楽器の位置なども基本は、三浦さんと福山さんが決められたステレオ音源の位置関係を基準にしてAtmos的な修正をしています。

Atmosミックスのための下準備とは

R:収録後はどういった調整をされたのでしょうか?

染谷:録った音をシンプルにAtmosで並べると、当然位相干渉を起こしていますので、タイムアライメント作業で修正を行います。具体的な方法としてはAtmosレンダラーでステレオと9.1.4chを何度も切り替えながらディレイを使用してms単位での補正を行います。レンダラーでステレオにしたときに正しくコントロールできていない場合は、確実に位相干渉するので判断できます。また、嶋田さんのコメントの通り、会場の反射で位相干渉した音が録れている場合もありますから、マイクの選定なども含めて進めていきました。

R:ディレイということは遅らせていく方で調整されたのですか。

染谷:今回はそうですね。ドームなどの広い会場だったら早めていると思うのですが、武道館では遅らせていった方がいい結果が得られました。早めていくと空間が狭くなっていくので、だんだん武道館らしさがなくなり、タイトな方向になってしまうんです。ですので、よりリアルに感じていただけるよう、疑似的に武道館の空間を創りだしています。実際にはセンターステージの真ん中のマイクを基準にして、他のマイクがどのように聴こえてくるかを考えながらディレイ値を導き出していきました。

R:逆にステレオだとオーディエンスを後ろにずらしての調整とかは難しいと思いますがどうでした?

三浦:オーディエンスマイクの時間軸の位置はそのままで、音量バランスで調整しています。フロントマイクをメインにして、お客さんの声の近さなどからバランスをとりました。やっぱり一番気になるのは、ボーカルの声がオーディエンスマイクを上げることで滲まないように、そこは色々な方法で処理しています。

R:Atmos用に追加したマイクはステレオでも使われましたか?

三浦:使っています。Atmosとステレオである程度共通した雰囲気を作る方がいいのかなと思って。スピーカーの数が変わる以上は聴こえ方も変わるのは分かっていましたが、福山さんとの作業の中でステレオ、Atmosで共通のイメージを固めておかないといけないと思ったのもありますし、会場の雰囲気を伝えることでできる音も含まれていましたので。

染谷:三浦さんがステレオの制作をされている間、嶋田さんと私はひたすらiZotope RXを使った収録済みオーディエンス素材のノイズ除去、レストレーション作業の日々でしたね。

嶋田:トータル 3、4ヶ月くらいしてましたよね。

R:RXはある程度まとめてマルチトラックモードでの処理も使われました?

嶋田:これがすごく難しいんですけど、28トラック分まとめて処理する場合も、1トラックずつ処理する場合もあります。私はノイズの種類によって使い方を変えました。例えばお客さんの咳を消したい場合、一番近いマイクだけでなくすべてのマイクに入っているので、綺麗に消したくなりますよね。でもすべて消すと空間のニュアンスまで無くなってしまうので、そのバランスは悩みました。近すぎる拍手なども全部消すのか、薄くするのかの判断は、喝采の拍手なのか、しっとりとした拍手なのかという拍手のニュアンス込みで考えたりもしましたね。

染谷:消せば良いってものでもないんですよ。音に味が無くなるというか。拍手を取る時はDe-Clickを使いますが、Sensitivityをどこの値にもってくるか最初の初期設定が大事です。

R:その設定はお二人で共有されていたんですか?

嶋田:最初に染谷さんがノイズの種類に合わせて大体の値を設定していただいて、そこから微調整しながら進めました。

染谷:作業が進んでいくとだんだんその値から変わっていきますけどね(笑)。リハの時に録っておいたベースノイズをサンプルにして全体にレストレーションをかけることもしています。武道館の空調ノイズって結構大きいんですよ。でもSpectral De-Noiseを若干かけるくらいです。やっぱり抜きすぎてもダメなんです。抜かないのもダメですけど、そこはうまくコントロールする必要があります。

染谷:基本的にクラップなどの素材も音楽チームの方で作っていただいて、とても助かりました。

三浦:ステレオミックスの仕込みの段階で福山さんとミックスの方向性の確認をした際に、通常はオーディエンスのレベルを演奏中は低めにして、演奏後はかなり上げるというようにメリハリをつけていますが、今回は曲中もお客さんのハンドクラップ(手拍子)がしっかり聴こえるくらいレベルを上げ目にしてくれというリクエストがありました。「これは記録フィルムではなくエンターテイメントだから」ということも仰っていたので、ライブ中の他の場所から良いハンドクラップの素材を抜き出し、違和感がない程度にそれを足して音を厚くするなどのお化粧も加えています。


📷三浦氏が用意したAtmos用ステムは合計111トラックに及ぶ。28chをひと固まりとしたオーディエンスは、素材間の繋ぎやバランスを考慮した嶋田氏の細かな編集により何重にも重ねられた。時にはPCモニターに入りきらない量のトラックを一括で操作することもあるため、タイムライン上での素材管理は特に気を張る作業であったという。高解像度なAtmosに合わせたiZotope RXによる修正も、作業全体を通して取り組まれた。

R:その他に足された音源などはありますか?

三浦:シーケンスデータですね。ライブでは打ち込みのリズムトラック、ストリングスなどのシーケンスの音はある程度まとまって扱われます。それはライブPAで扱いやすいように設計されているからなのですが、映画やパッケージの制作ではもう少し細かく分割されたデータを使って楽曲ごとに音色を差別化したくなるので、スタジオ音源(CDトラックに収録されているもの)を制作した際の、シーケンスデータを使用しました。なのでトラック数は膨大な数になっています(笑)。

嶋田:480トラックくらい使われていますよね!Atmos用に持ってきていただいた時には111ステムくらいにまとめてくださりました。

三浦:楽曲ごとにキックの音作りなども変えたくなるので、するとどんどんトラック数は増えていってしまいますよね。作業は大変だけど、その方が良いものになるかなと。今回はAtmosということでオーディエンスも全部分けて仕込んだので、後々少し足したい時にPro Toolsのボイスが足りなくなったんですよ。オーディオだけで1TB以上あるので、弊社のシステムではワークに収まりきらず、SSDから直の読み書きで作業しました。Atmosは初めてのことだったので、これも貴重な体験だったなと思っています。

染谷:本当に想像以上にものすごい数の音が入っているんですよ。

嶋田:相当集中して聴かないと入っているかわからない音もあるんですが、その音をミュートして聴いてみると、やはり楽曲が成立しなくなるんです。そういった大切な音が数多くありました。

R:ステムをやり取りされる中で、データを受け渡す際の要望などはあったのですか?

染谷:僕からお願いしたのは、三浦さんの分けやすいようにということだけです。後から聞くと、後々の修正のことも考えて分けてくださっていたとのことでした。ありがとうございます。

三浦:ステレオではOKが出たとしても、環境が変わってAtmosになれば聴こえ方も変わるだろうというのがあったので、主要な音はできるだけ分けました。その方が後からの修正も対応できるかなと思って、シーケンスデータもいくつかに分けたり、リバーブと元音は分けてお渡ししましたよね。想定通り、Atmosになってからの修正も発生したので、分けておいてよかったなと思っています。

嶋田:その際はすごく助かりました。特に、オーディエンスマイクもまとめることなく28本分を個別で渡してくださったので、MAの段階ですぐに定位が反映できたはとてもありがたかったです。

チームで取り組むDolby Atmos制作

染谷:今回は三浦さんが音楽を担当されて、僕と嶋田さんでAtmosまわりを担当したんですけど、チームの役割分担がすごく明確になっているからこそできたことが沢山ありました。そのなかの一つとして、編集された映像に対して膨大な音素材を嶋田さんが並べ替えて、ミックスができる状態にしてくれる安心感というのはすごく大きかったです。今回、嶋田さんには、大きく2つのお願いをしました。①映像に合わせてのステム管理、使うトラックの選定、とても重要な基本となるAtmosミックス、②足りないオーディエンスを付け足すという作業をしてもらいました。何度も言っちゃいますが、すごいトラック数なので並べるのも大変だったと思います。

三浦:こちらからお渡ししたのはライブ本編まるまる一本分の素材なので、そこから映画の尺、映像に合わせての調整をしていただきました。

嶋田:映像編集の段階で一曲ずつ絶妙な曲間にするための尺調整や曲順の入れ替えがあったり、エディットポイントが多めで、いつもより時間をかけた記憶があります。特に普段のMAでは扱わないこのトラック数を一括で動かすとなると、本当に神経を使う作業になるんですよ。修正素材を張り込む時にも、一旦別のタイムラインに置いて、他のオーディオファイルと一緒に映像のタイムラインに置いたりと、とにかくズレないように工夫をしていました。

R:Atmosで広げるといってもLCRを中心に作られていたなと拝見して感じているんですけれど、やはり映画館ではセンタースピーカーを基本に、スクリーンバックでの音が中心になりますか。

嶋田:映像作品なので、正面のメインステージの楽器の配置、三浦さんのステレオのイメージを崩さないバランスで置きました。空間を作るのはオーディエンスマイクを軸にしています。さらに立体感を出すためにギターを少し後ろに置いてみたりもしました。ボーカルはセンター固定です。しっかりと聴かせたいボーカルをレスポンス良く出すために、LRにこぼすなどはせずに勝負しました。なんですが、、、ラスト2曲はセンターステージの特別感を出すために中央に近い定位に変えています。

染谷:福山さんからの定位に関するリクエスト多くありましたね。印象的な部分では今さんのギターを回したり、SaxやStringsの定位、コーラスの定位はここに置いて欲しい、など曲ごとの細かな指定がありました。

R:ベッドとオブジェクトの使い分けについてはどう設計されました?

嶋田:基本的には楽器はベッド、オーディエンスをオブジェクトにしました。それでもすべてのオーディエンスマイクをオブジェクトにするとオブジェクト数がすぐオーバーするので、その選定はだいぶ計算しました。

染谷:やっぱりどうしてもオブジェクトの数は足りなくなります。 Auxトラックを使用して、オブジェクトトラックに送り込む方法もありますけど、映像の変更が最後まであったり、それに伴うオーディエンスの追加が多くなると、EQを個別に変えたりなどの対応がとても複雑になります。瞬時の判断が求められる作業では、脳内で整理しながら一旦AUXにまとめてレンダラーへ送っている余裕は無くなってきます。やはり1対1の方が即時の対応はしやすかったです。今考えているのは、ベッドってどこまでの移動感を表現できるのか?ということです。先ほどギターを回したと言いましたが、それも実はベッドなんです。ベッドだとアレイで鳴るので、どこの位置で回すかということは考えないといけませんでしたが、最終的に上下のファンタム音像を作って回してあげるとHomeでもCinemaでもある程度の上下感を保って回ってくれることが分かりました。絶対に高さ方向に動くものはすべてオブジェクトじゃなきゃダメ!という固定概念を疑ってみようかなと思って挑戦してみたんですけど。嶋田さんはどのように感じましたか?

嶋田:こんなにベッドで動くんだ、というのが素直な感想です。私も動くものや高さを出すものはオブジェクトじゃないと、という気持ちがずっとあったんですけど、今のオブジェクト数の制約の中ではこういった工夫をしていかないといけないなと思っています。


📷Dolby Atmos Home環境でのプリミックスは、Atmosミックスを担当したお二人が在籍するヒューマックスエンタテインメント、SONAのスタジオが使用された。劇場公開作品でもHome環境を上手に活用することは、制作に伴う時間的・金銭的な問題への重要なアプローチとなりえる。その為には、スピーカーの選定やモニターシステムの調整などCinema環境を意識したHome環境の構築が肝心だ。なお、ファイナルミックスは本編が東映のダビングステージ、予告編がグロービジョンにて行われた。

シネマ環境を意識したプリミックス

染谷:今回、ダビングステージを何ヶ月も拘束することはできないので、Dolby Atmos Home環境でダビングのプリミックスを行いました。Homeのスタジオが増えてきていますが、Homeで完結しない場合もこれから多く出てくると思うので、今回はこういった制作スタイルにトライしてみようと考えました。

嶋田:Homeでのプリミックスでまず気をつけなければならないのが、モニターレベルの設定です。映画館で欲しい音圧感が、普段作業している79dBCでは足りないなと感じたので、Homeから82dBCで作業していました。

染谷:最終確認は85dBCでモニターするべきなんですが、作業では82dBCくらいが良いと感じています、スピーカーとの距離が近いスタジオ環境では85dBCだと圧迫感があって長時間の作業が厳しくなってしまいます。

嶋田:ダビングステージでは空間の空気層が違う(スピーカーとの距離が違う)ので、ダビングステージの音質感や、リバーブのかかり方をHomeでもイメージしながら作業しました。またダビングステージは間接音が多く、Homeでは少し近すぎるかなというクラップも、ダビングステージにいけばもう少し馴染むから大丈夫だとサバ読みしながらの作業です。

染谷:Dolby Atmos Cinemaの制作経験がある我々は、ある程度その変化のイメージが持てますが、慣れていない方はHomeとの違いにものすごくショックを受けられる方も多いと聞いています。三浦さんはどうでした?

三浦:やはり空間が大きいなと、その点ではより武道館のイメージにより近くなるなとは感じましたね。

R:ダビングではどう鳴るか分かって作業しているかが本当に大事ですよね。やはりダビングは、映画館と同等の広さの部屋になりますからね。

染谷:直接音と間接音の比率、スピーカーの距離が全然違いますからね。制作される際はそういったことを含めて、きちんと考えていかないといけません。

嶋田:今回Homeからダビングステージに入ってのイコライジング修正もほぼなかったですね。

染谷:ダビング、試写室、劇場といろんな場所によっても音は変わるんだなというのは思います。どれが本当なんだろうなと思いながらも、現状では80点とれていればいいのかなと思うことにしています。

R:それは映画関係の方々よく仰ってます。ある程度割り切っていかないとやりようがないですよね。三浦さんは今回初めてAtmosの制作を経験されましたが、またやりたいと思われます?

三浦:このチームでなら!

染谷・嶋田:ありがとうございます(笑)。

三浦:染谷さん、嶋田さんには、客席のオーディエンスマイクのレベルを上げると、被っている楽器の音まであがっちゃうんですが、そういう音も綺麗に取っていただいて。

染谷:でも、その基本となる三浦さんのステムの音がめちゃくちゃに良かったです。

嶋田:聴いた瞬間に大丈夫だと思いましたもんね。もう私たちはこれに寄り添っていけばいいんだと思いました。

染谷:今回は特に皆さんのご協力のもと素晴らしいチームワークから素敵な作品が完成しました。短い時間ではありましたが、三浦さんのご尽力で私たち3名のチーム力も発揮できたと感じています。プロフェッショナルな方達と一緒に仕事をするのは楽しいですね。

三浦:そういった話で言うと、最後ダビングステージの最終チェックに伺った際、より音がスッキリと良くなっていると感じたんです。なぜか聞いたらクロックを吟味され変えられたとのことで、最後まで音を良くするために試行錯誤されるこの方達と一緒にやれて良かったなと感じています。

染谷:その部分はずっと嶋田さんと悩んでいた部分でした。DCPのフレームレートは24fpsですが、実際の収録や音響制作は23.976fpsの方が進めやすいです。しかし最終的に24fpsにしなくてはいけない。そこでPro Toolsのセッションを24fpsに変換してトラックインポートかけると、劇的に音が変わってしまう。さらにDCP用Atmosマスター制作時、.rplファイルからMXFファイル(シネマ用プリントマスターファイル)に変換する際にも音が変わってしまうんです。
この2つの関門をどう乗り越えるかは以前からすごく悩んでいました。今回はそれを克服する方法にチャレンジし、ある程度の合格点まで達成できたと感じています。どうしたかというと、今回はSRC(=Sample Rate Convertor)を使いました。Pro Toolsのセッションは23.976fpsのまま、SRCで24fpsに変換してシネマ用のAtmosファイルを作成したところ、三浦さんに聴いていただいたスッキリした音になったんです!今後もこの方法を採用していきたいですね。

R:SRCといっても色々とあると思うのですが、どのメーカーの製品を使われたんですか?

嶋田:Avid MTRXの中で、MADI to MADIでSRCしました。以前から24fpsに変換するタイミングでこんなに音が変わってしまうんだとショックを受けていたんですが、今回で解決策が見つかって良かったです。

染谷:MXFファイルにしたら音が変わる問題も実は解決して、結局シネマサーバーを一度再起動したら改善されました。普段はあまり再起動しない機器らしいので、一回リフレッシュさせてあげるのは特にデジタル機器では大きな意味がありますね。こういった細かなノウハウをみんなで情報共有して、より苦労が減るようになってくれればと願っています。

R:この手の情報は、日々現場で作業をされている方ならではです。今日は、Atmos制作に関わる大変重要なポイントをついたお話を沢山お聞きすることができました。ありがとうございました。


📷本作を題材に特別上映会・トークセッションも今年頭に開催された。

本作はアーティストの脳内にある“ライブの理想像”を追求したことで、Dolby Atmosによるライブ表現の新たな可能性が切り拓かれた作品に仕上がっている。音に関しても、アーティストが、ステージで聴いている音を再現するという、新しい試みだ。それは、アーティストと制作チームがコミュニケーションを通じて共通のビジョンを持ち制作が進められたことで実現された。修正やダビングといったあらゆる工程を見越した上でのワークフローデザインは、作業効率はもちろん最終的なクオリティにも直結するということが、今回のインタビューを通して伝わってきた。入念な準備を行い、マイクアレンジを煮詰めることの重要性を改めて実感する。そして何より、より良い作品作りにはより良いチーム作りからという本制作陣の姿勢は、イマーシブ制作に関係なく大いに参考となるだろう。

FUKUYAMA MASAHARU LIVE FILM言霊の幸わう夏@NIPPON BUDOKAN 2023

監督:福山雅治
出演:福山雅治、柊木陽太
配給:松竹
製作:アミューズ
©︎2024 Amuse Inc.


 

*ProceedMagazine2024号より転載

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*記事中に掲載されている情報は2024年08月20日時点のものです。