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ROCK ON PRO

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TAOCファクトリーツアー / 鋳鉄のプロフェッショナル集団が生み出す、質実剛健プロダクツ

制振についてのコア技術に特許を持ち、実に40年にわたりホームオーディオの分野で活躍しているTAOC。40年間の製品開発で蓄積したノウハウを基に開発した新たな製品レンジ「STUDIO WORKS」シリーズを投入し、これまでは特注でしか生産されることがなかったプロオーディオ市場へ本格的に参入する。鋳鉄こそが「遮断」と「吸収」という2つの役割を両立できるベストな材質だという鋳鉄のプロフェッショナルたちがどのようにして製品を開発・生産しているのか、愛知県豊田市のアイシン高丘株式会社を訪れた。

振動を制するものはオーディオを制す

TAOCはブレーキディスクローターやシャーシ部品をはじめとした自動車部品を生産するアイシン高丘株式会社を母体に持つ。自動車用鋳造部品の製造ラインで採取される鋳鉄粉を用いて、鋳鉄の制振性や音響特性を活かした製品をホームオーディオの分野で多くリリースしているのがTAOCブランドだ。ほとんどの製品が制振にフォーカスをあてたもので、そのブランド名の頭文字が「Takaoka Anti Oscillation Casting」から成っていることからも、立ち上げ当初より音響機器の最適な振動制御を鋳造(Casting)で達成することを目的に活動してきたことが窺える。また、「異なる厚みの鉄板を密着させ、互いに違った固有値を持つ板材が振動を抑制することで、音質改善を行う二重鉄板構造」について特許を取得したこともあり、現在では多くの金属製スピーカースタンドメーカーが生産する製品の天板に採用されている。

音楽を活かすために「整振」するTAOCの製品には、音像の厚み、広がり、帯域のバランス、解像度といった要件が求められる。この複数の要件を満たすには、密度が高く、硬度が高く、自己の振動を持ち込まない減衰性を併せ持つ材質が必要となるが、これにおいて3拍子揃った材質が鋳鉄だ。

さらに、鋳鉄(言い換えれば黒煙を多量に含んだ鉄)は高い振動吸収性を持つ。鋳鉄はキャベツの葉を剥がしてランダムに並べたような黒鉛構造を持っており、その黒鉛と鉄部分の摩擦によって振動エネルギーは熱エネルギーに変換され制振性を発揮する。これが鋳鉄の大きな特徴であり、安全のためにも不要な振動を抑えておきたいブレーキローターに鋳鉄が用いられているのもうなずける。


📷各素材を特性ごとに並べてみると、鋳鉄がいかに3拍子揃った材質であるかがわかる。例えば、密度が最も高い鉛は一方で硬度が低く、硬度が最も高いセラミックは減衰性が低い。マグネシウムは減衰性に秀でているが、密度が低くなり音の厚みや解像度に劣ってしまう。この3つの特性を高い次元でバランスよく持っているのが鋳鉄だ。

鋳鉄が持つ独特な特性を体験する

アイシン高丘本社に到着後、広大な敷地内でも最奥に位置するTAOCオフィスまで車で移動。鋳鉄工場見学のレクチャーと諸注意を受けつつ、まずTAOC製品に広く用いられる鋳鉄粉のサンプルを見せていただいた。大きめの薬瓶に入れられた鋳鉄粉サンプルは、手に取ると当然ながらズッシリと重い。鉄粉はパウダー状になっている訳ではなく、砂粒ほどの大きさがあり、これが各種製品へ充填されている。試しに手に持って水平に揺らしてみると、ショックレスハンマーと同じ原理が働き、寸止めした時の反対側への反動が少なくピタッと止まる。力量は異なるが、スピーカースタンドの中でもこういった現象が起こっているのかと不思議な体験ができた。

作業着とヘルメットを装着したところで鋳造工場内へ移動を始めるが、大きな炉を拝見する前に、社内の研修施設で今の製造工程や自動化されている機械内処理の説明をいただいた。その研修施設の入口にはダンベルやエンジンブロックのサンプルを使った解説があり、自動車部品以外の鋳物製品や鋳造の成形不良のサンプルも展示されている。その中に音に関係するサンプルもあったのでご紹介しておきたい。そこには鐘形になった鉄4種類、青銅、アルミの成形物が設置されており、これをマレットで叩くことが出来るのだが、叩いてみるとアルミや青銅はサスティンが長くその音色も聴き慣れた美しいものなのだが、比べて鋳鉄を叩いた音色はどれも複雑な倍音をもち、アタックも鈍く、そして減衰が速い。素材自体に制振効果があるということは前知識としてあったが、実際にマレットで衝撃を与えた際の応答は予想以上に顕著なもの。オーディオ製品として鋳鉄が持つ可能性に期待が高まる。

鐘形のサンプルの裏手側には設計から製品になるまでの工程がジオラマ形式で展示され、アイシン高丘の鋳物製造フローが学べる。社員研修や社内技能試験などでは研修施設の機能をフルに活用するとのことだが、今回は鋳鉄粉が出来るまでの一部の工程を説明していただいた。

鋳鉄粉が採取できる工程は、鋳造の後半にあたる後処理工程となる。上型、下型、中子型から製品を取り出す作業が行われ、製品は砂型を壊して取り出される。取り出した製品には型で使われた砂が付着しているため、ショット機と呼ばれるサンドブラストの一種を使用してバリや砂を除去する。この作業によって、素材の表面が剥がれ落ち鋳鉄粉が採取できるわけだ。こうしてショット機からメディアが噴射され後処理が完了すると集塵機には砂、メディア、鋳鉄粉が混ざったものが集まる。これを選別して鋳鉄粉を取り出し、さらに取り出した鋳鉄粉は規格に沿ったメッシュを通して粒を揃えたものを採取する。このような工程で選りすぐられた鋳鉄粉をTAOCではスタンドの制振材として活用している。


📷バリ取りの工程で写真のショット機が使用される。砂型から取り出された製品からサンドブラストの一種であるこちらの機械を使ってバリと砂を除去する。すぐ隣にあるのがショット機用の集塵機。ここに集められたものを規格に沿ったメッシュでふるいにかけ、砂粒状の鋳鉄粉が採取される。

非日常的な迫力の工場内

研修施設での解説を受けたあとは、鋳物を製造している製造ラインへと移動する。人間の背丈を遥かに超える大型機械群に囲まれて、なにが何の為の機械なのかまるで見当がつかない。いよいよ工場にやって来たという感覚が湧いてきた。

ライン見学は製造工程通りに案内され、まずは材料となる鉄を溶かす溶解炉であるキュポラのセクションへ。1400度以上の鉄が連続溶解できるキュポラの足元には6トンほどの溶かされた鉄が入る釜が2基設置されており、満杯になるとレールを伝って鋳込セクションへ運ばれる。残念ながら、先程キュポラから運ばれてきた真っ赤な鉄を注ぐ鋳込の工程自体は外から作業を見ることができなかったのだが、工場内は常に80dBを超える音で満たされており、定期的に聞こえるエアー重機のブローオフは瞬間的に100dBを超える。これだけでも非日常的な迫力を感じることができた。

そして、後処理のセクションへ移動する。研修施設で見たショット機を使ってのバリ取りを行い、まさにいま鋳鉄粉が出来ている工程でこちらも自動化されている。その経路の途中にはセキ折りのセクションがあり、製品から伸びている湯道を切り離す作業のラインを見学。鉄でできた大きなプラモデルとでも言えば良いのだろうか、傍らから見るとランナーからパーツをニッパーで切る作業に似ているのだが、ニッパー風のエアー工具も切り離される製品もやはりそのすべてが大きい。

システムをきちんと機能させる土台

工場内を見学した後はTAOCの開発室兼視聴室へ向かった。視聴室の前は広大な庭が広がっており、アイシン高丘のOBや夜勤明けの従業員がハーフラウンドのゴルフをプレイできるという。これ以外にも社内の取り組みとして工場排熱を利用してスッポンを育てていたり、ショット機で出た砂を再利用してウコンを育てていたこともあるそうだ。鋳鉄粉もTAOC発足前は再びキュポラに戻され製品へリサイクルされていたそうだが、資源の活用とSDG’sへの意識が旧来から全社的に根付いていることがうかがえる。

開発室の中はその半分のスペースがリスニングスペースとなっており、天井や壁面は防音・吸音加工が施されている。残り半分のスペースは様々な資料と音源を収納したラック、ここを囲うようにオリジナルスピーカーや検聴を待つ試作品が並び、そこにはSTUDIO WORKSのデスクトップ型スタンドもあった。同じくSTUDIO WORKSのインシュレーターを手に取ってみると一般的にイメージする鋳物とは思えない仕上がりで、質感はどちらかと言うと鍛造に近い。切削の工程があるのか聞いたところ、仕上げの工程はあるが基本的には鋳込時の流す量と時間で密度をコントロールしているという。それらの製品を設置していただき拝聴後、TAOCチームの南氏、杉田氏、西戸氏にお話を伺った。

Rock oN多田(以下、R):改めてTAOCの持つ特徴をお伺いさせてください。

西戸氏:アイシン高丘は1960年ごろからトヨタ自動車の鋳物部品を生産しており、東洋一の鋳物工場を作るんだという熱意を持ってスタートしました。そしてちょうど40年前の1983年、オイルショックで一時的に鋳物の生産量が少なくなっていく中で自動車部品以外にもこの独自の鋳造加工技術を活かせることはないかと、社内で検討する部署が立ち上げられて、鋳物のスピーカーベースの生産からオーディオアクセサリの事業をスタートしました。鋳物を使ったモノづくりとして、鋳物の墓石を作ってはどうだとか、当時は色々試行錯誤していたと聞いています。また、当時はシミュレーションも少なかったため、製品開発は試行錯誤の体当たりで製作していました。インシュレーター、オーディオボード、オーディオラック、スタンドに加えて鋳鉄製ユニットマウントリングを特長としたスピーカーの製作など、鋳鉄が持つ振動吸収を活かした製品をリリースしています。鋳鉄には素材自体が自分で揺れず、振動を適度に吸収するという特性があります。それを実証するようにスピーカーユニットのリングを作った時は樹脂と比べて真っ直ぐにドライバがストロークしました。これは本来持っている音を出すことができていたとも言えます。

 

R:STUDIO WORKSという新たなコンセプトで製品を生み出した経緯をお伺いできますか。

南氏:2018年に、とあるマスタリングスタジオのテックエンジニア様から、システム全体の音質向上のためにお声がけいただきTAOC製品を導入いただきました。以降も、エンジニア様とは音質に関する研究交流を続けていた中、杉田の案で2021年のInter beeに2人で行き、特注スタンドのオファーをいただき、要望を伺いながら何本も製作していく中、徐々にプロオーディオ向け製品のコンセプトが定まっていったという経緯があります。 

杉田氏:ポタフェス(ヘッドフォン、イヤホン)に行った時も印象深いですね。ポタフェスはポータブルオーディオのイベントではありますが、それを踏まえても音響製品のイベントなのに会場が無音というのはショックを受けました。今までは主に、音を聴く側のお客様に向けての製品作りでしたが、ヘッドフォンの中に聴こえる素晴らしい音を創る側のエンジニア様、音楽家の皆様向けにTAOCとしてお役に立てられないかと思うようになりました。

R:STUDIOWORKSをどういったユーザー層を想定しているのでしょうか。

南氏:プロのエンジニアの方々やミュージシャンの皆様はもちろん、良い音を追求するすべての方々にご体験いただきたいですね。

杉田氏:イレギュラーな使い方や面白いご意見をいただき、そのフィードバックをいただければそこから更に製品の改善にもつながると思います。また個人向けで評価をいただいているこれまでの製品も、プロの方のフィードバックを反映してより良いものが作れると思っています。試作に対してのハードルが低いので、要望はどんどん欲しいですね。なので特注製品、いわゆるワンオフも大歓迎です。製品はすべて国産で製造しているので、フットワークも軽いですよ。


📷本文中でも触れたデスクトップサイズのスタンドも試作されていた。ユーザーの声を素早く反映してラインナップすることはもちろん、ワンオフでの特注にも柔軟に対応できるそうだ。

南氏:TAOCスタジオワークスは一貫して、確かな効果と実用性にこだわり、外観はとてもシンプルな仕様になっています。従来のTAOC製品同様に、20年・30年以上と永く使えるモノづくりをしています。また、今回のスタンドやインシュレーターはどのモデルも、それぞれエンジニア様やロックオンさんと何度も意見交換をしながら完成させたコラボのような製品で、みなさんの熱い思いが詰まっていると感じています。素晴らしい音楽を作られる皆様の鋭い感性と貴重なご意見に、いつも多くの学びがあります。今後も多くのミュージシャン様、エンジニア様とご一緒させていただきながら、TAOCスタジオワークスを進めていきたく思っています。

杉田氏:1983年9月に創業したTAOCは、今年2023年9月に40周年を迎えます。今までのご愛顧に深く感謝をお伝えしながら、次の40年に向けて新しいチャレンジをしていきます。TAOCスタジオワークスも、すでに多くのエンジニア様・ミュージシャン様のスタジオに導入いただけており、手応えを感じています。シリーズ第2弾の製品開発も進めていますので、ぜひ注目していただけると嬉しいですね。



📷写真左より、アイシン高丘エンジニアリング株式会社 TAOCチーム杉田 岳紀 氏、TAOCチーム 西戸 誠志 氏、Rock oN 多田純、ROCK ON PRO 前田洋介、TAOCチーム 南 祐輔 氏。

工場内でキュポラの説明を受けた時にまるでターミネーター2のラストシーンみたいですねと言うと、T-800は鉄の中で沈むので鉄より比重が大きい、おそらくT-800は鉄ではないんですね…と答えが返ってきた。映画のワンシーンにおいても鉄が基準(!)、そのどこまでもアイアンファーストな姿勢はプロオーディオの中で新たなメインストリームを作り出すことになるのではないだろうか。工場で製品が生産される際に生じる余剰となっていた鋳鉄粉だが、それを確かな研究開発の裏付けでリユースし、類まれなる制振特性は40年にわたりオーディオの世界で実績を重ねてきた。そしていま、プロユースの現場にもそのムーブメントが訪れようとしている。


 

*ProceedMagazine2023号より転載

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*記事中に掲載されている情報は2023年08月10日時点のものです。