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Author
前田 洋介
[ROCK ON PRO Product Specialist]レコーディングエンジニア、PAエンジニアの現場経験を活かしプロダクトスペシャリストとして様々な商品のデモンストレーションを行っている。映画音楽などの現場経験から、映像と音声を繋ぐワークフロー運用改善、現場で培った音の感性、実体験に基づく商品説明、技術解説、システム構築を行っている。
Focal Professional – Utopia Main 112/212 / 125dbで紡ぎ出すカレントドライブ、ピュアアナログサウンド。
Focalが新たな一歩を踏み出した。サウンドエンジニアリングの世界ではニアフィールドのモニターを中心として、実績も歴史も積み上げてきた仏 Focal Professional社。実際のところは、カーオーディオやホームオーディオ、インウォールのスピーカーなどエントリーからハイエンドまで幅広いラインナップを誇る。そして、その中でも一切妥協のない、限界のないフラッグシップモデルに与えられる名称が「Utopia」だ。そのUtopiaの名前を冠した新たな製品が登場した、「Utopia Main 112 / 212」である。今回はビクタースタジオで行われた日本初上陸となるイベントにフランスよりFOCAL-JMLAB Pro部門セールス・マネージャーのVincent Moreuille 氏、プロダクト・マネージャーのSylvain Gondinet 氏が来日、Focalの新たなフェイズを切り拓くUtopia Main 112 / 212を国内のトップエンジニアに向けてプレゼンテーションした。
「ついに」と言っても良いだろう。1979年の創業から45年余り、当初はカーオーディオやホームオーディオの製品開発からスタートしたFocalが、プロフェッショナルなサウンドエンジニアリングの分野に進出し、STシリーズなどのニアフィールドの製品を経て、メインモニターの世界に到達した。その最新形が今回持ち込まれたUtopia Main 112 / 212である。
元々、ゼロからトランスデューサー、ドライバーを開発する技術があり、プロフェッショナルの求める正確でフラットなサウンドを提供する技術的な素地を持っていたFocal社。効率的にエネルギーを空気の振動へ変換することが技術的に得意であり、それはDSPに頼らないピュアアナログな方法で実現されている。意外かもしれないが、これまでのFocal製品でDSPを搭載したモデルは存在しない。目の前で演奏されている楽器がそのままスピーカーで再現されるようにすること、これがFocalが貫いてきた目指すべきスピーカーのあり方、哲学だそうだ。Utopia Main 112 / 212の詳細を見る前に、各製品に共通するFocalの考える良いサウンドを実現する手法、技術的なトピックを振り返っていこう。
正確な音を再生するために必要な素材の特性とはどのようなものだろうか。物理学の法則に依るものであるため、概ねは各社で共通してくるところだが、Focalでは「軽いこと」、「硬いこと」、「ダンピングに優れること」の3点を挙げている。
正確な空気振動の再現、つまり、空気振動を電気信号に変換したものをもう一度空気振動に変換するするために必要なこととして、入力信号に対し素早くユニットが動き、正確に再現するという要素がある。軽いということは物質を動かすために必要なエネルギーが少なく済み、正確な再現のためには必須な要素でありサウンドのダイナミクスに大きな影響を持つ。硬さについては素早さを再現するだけではなく、正確な動作を繰り返すことにつながる。素材が曲がって動いてしまってはディストーションの大きな要因となる。同様に、振動板表面に波紋が起こってしまうことを抑えるためにも重要な要素だ。これらの悪影響を排除するためにも硬さは重要なファクターとなる。また、FocalではTMD(Tuned Mass Dumper)という技術でユニットのエッジ、サスペンション部に重量を与えてディストーションを約50%も抑制することに成功。マスダンパーとは、オモリを使った振動抑制技術の総称でミニ四駆界隈以外ではあまり聞かないレガシーな技術だが、これをスピーカーエッジに採用し、その技術でさらなるアドバンテージを与えている。最後にダンピング、つまり動き出した振動板の動きを素早く減衰することが3つ目のポイント。素早く減衰して余計な動きを抑えることも原音に忠実で正確な音源再生には欠かせない。
この軽く、硬く、共振しない素材をエントリーからハイエンドまで、コストとのバランスを考慮しながら複数開発できているのがFocalの強みとなる部分だ。それではウーファーに用いられた素材を見ていこう。
Focalではこの素材良否の判断に質量を剛性の値で割った数値を用いているそうだ。素材自体の厚みを増すことで合成は高まるが、重量は重くなる。どれくらい「軽くて硬い素材であるか」ということの目安がこの数値だ。まず、その「質量/剛性=3」とされたのが、最もエントリー向けとなるAlphaシリーズに採用されているスレートファイバーだ。これは自動車産業で生産時に排出されるカーボンを再利用、ポリマーと混ぜて加工することで硬度を保っている。良い素材の条件のひとつには、こうしたリサイクルや再利用を可能にするサスティナブルな素材であるという点がもう含まれていると言っていい。2つ目はmade in FranceのShapeシリーズに採用されているフラックス素材となる。これはリネン(亜麻繊維)をグラスファイバーでサンドイッチしたもので、「質量/剛性=7」となるそうだ。
そして最後に挙げられたのがW サンドウィッチ・コンポジット・コーン。軽さ、剛性、ダンピング、前述した要素を高い次元でバランスし応答させる素材で、ハイエンドとなるUtopia / Trio / ST等のシリーズに採用されている。W “はグラス/グラスの略で、中央の構造用発泡コアの両側に2枚以上のガラス板が貼り付けられた構造。グラス=ガラス素材は、鉄と冒頭以上の硬さを持ちつつ比重は約1/3、歪みにも強いがその特性ゆえに限界を超えると割れてしまう。これをを調整するために発泡ウレタンを両面に貼り合わせることで共振をコントロール。軽く、硬く、共振しない素材を形づくっている。こちらの数値はなんと「質量/剛性=90」。素材に対する妥協のなさを数値からも感じ取れるだろう。
また、Focalといえばその代名詞となるのはベリリウム・ツイーターだろう。ツイーターも同じく、軽く、硬く、共振しない素材をセレクトし、ラインナップのコスト帯に合わせてアルミ、アルミマグネシウム合金、そしてベリリウムと使い分けがなされているそうだ。
ハイエンドラインに採用されるベリリウムだが、これは世界で2番目に硬い金属だとのこと。軽さも非常に際立っており、まさしくツイーターに求める素材として最適なのだが、難点がひとつだけある、価格だ。ベリリウムは非常に高価でなんと金の30〜35倍もの相場になるという。世界の全産業から見ても相当に希少な素材と言えるベリリウムは、ベリリウムをツイーターに採用したすべてのFocal製品の生産トータルで、年間に使用されるのはたったの2kgほどだという。1シートの厚みもわずか21ミクロンという極薄な素材がもたらす効能と効果。逆に言えば、これがサウンド面で実証されているからこそ、たとえ高価であっても、希少であっても迷いなく使う。そこに限界は設けない、ということだ。
そして、会場にはアルミ、アルミマグネシウム合金、ベリリウムで作られた音叉が持ち込まれた。それぞれを実際に鳴らしてみると、その特性やダンピング、ハーモナイズの少なさなど一「聴」瞭然である。ただし、このベリリウム音叉、前述に則って落ち着いて考えれば同サイズの金の延べ棒 x 30倍のお値段とも捉えられる。これをプレゼンテーションのために作ってしまうあたりにも、まったく発想の限界が設けられていない。良いサウンドを知ってもらうためならノーリミット、もはや清々しさすら感じてしまう。
このように理想の素材を開発し、ピュアアナログな回路、軽量なドライバーが高い能率と、大きなダイナミックレンジを生み出し、それが正確なサウンドとなる。良いスピーカーの条件とは、Focalにとって実に明快なことであるようだ。
そして、「Utopia Main 112 / 212」である。解説にあたったシルヴァン氏から冒頭あったのは「この製品が将来数々の芸術作品を生み出す、そのことにプライドをもって製品開発を行っている。」ということだ。妥協のない、限界のないというUtopiaのコンセプトは、アンプ、ツイーター、ミッドドライバー、ウーファー、キャビネット、ポート、至る所に反映されており、Utopia Main 112 / 212に「最高の技術」 を余すところなく織り込んだそうだ。
さて、Utopia Mainは専用設計のアンプで駆動する。このアンプは初めて耳にする方も多いだろうClass-H / カレントモードが採用されているという。Class-Hという入力に対して、アンプ回路に掛ける電力量を変化させることで効率よく大出力を取り出す方式。この回路設計のアンプをカレントモードで動作させている。これはアンプを電圧(ボルテージ)ではなく電流(カレント)でコントロールするFocalの特許技術となる。出力されるエネルギーは磁力と、コイルの長さと、電流の掛け合わせで生まれている。つまり、出力される音にダイレクトに関わるのは電圧(ボルテージ)ではなく電流(カレント)だということだ。電圧はインピーダンスによって変化が生じるが、電流であればダイレクトで変化がないためよりピュアにサウンドを出力できる。抵抗値についてもコイルの温度、位置、周波数で変化する値なので、電圧ではなく電流をコントロールすることでよりサウンドをクリアにできるという。この専用アンプはFocalの無響室で測定した長年の結果の中で、最小のTHD値を出したそうだ。
特に自作アンプなどで電気の知識がある方は、古くからスピーカーの駆動における理想形は電流駆動(カレント・ドライブ)だ、という文献を目にしたことがあるのではないだろうか。ところが様々な理由があり、スピーカーを駆動するためのパワーアンプの設計は、電圧駆動(ボルテージ・ドライブ)方式が採用されている。トランジスタ1つで大出力を得ることができ構造がシンプルなこと、そもそも供給される電源が電圧を基準としたものであるため、といった具合だ。
「右ネジの法則」というものを覚えているだろうか、「コイルに対して電流を流した際にその内側に磁界が生じる」というものだ。このように磁界を生じさせ、固定させた磁石との反発によりスピーカーは動いている。この「右ネジの法則」に於いて磁界を生じさせているのは「電流」だということがポイント、生じさせる磁界の強弱にかかるパラメーターに「電圧」は出てこない。もちろん、電圧も全く関係がないわけではなくスピーカーユニットが持つインピーダンス(抵抗値)との間にオームの法則が成立している。しかし、スピーカーのインピーダンスは周波数により大きく変化する。そうなると一定の電圧を加えても周波数によって電流量が変化してしまうのだ。これを防ぐために考えられたのが「電流」駆動である。スピーカーが動作するためのパラメーターである電流量を変化させることで、前述のようにスピーカーユニットのインピーダンスの影響をゼロにすることができる。
さらに、一歩踏み込んで電気回路的な解説を加えると、一般的な電圧駆動アンプ(Voltage Feedback Amp=電圧帰還増幅器)と電流駆動アンプ(Current Feedbak Amp=電流帰還増幅器)の基本的な増幅回路の設計は同一である。違いはフィードバック=帰還回路の接続先である。電圧帰還の場合には、帰還回路のインピーダンスが高い入力信号のマイナス側になるが、電流駆動の場合にはインピーダンスの低いバッファーの後段となる。このインピーダンスの違いにより、増幅回路の動作が電圧モード、電流モードの差異を生んでいる。
このように電流駆動は、スピーカー駆動にとって理想的な駆動方法である。ほかにも高域特性が良い、応答特性が良いなど電気的なメリットもある。それでも電流駆動が一般的にならないことには理由がある。2-way、3-wayといったマルチスピーカーの駆動が事実上できない、過大入力時にユニットを壊してしまうリスクが非常に大きい、共振を起こしやすい、など看過できないデメリットが多数あるためだ。この数々の問題点を、Utopia Mainシリーズではアンプをスピーカーユニットに対して「専用」の設計とすることで問題を解決している。
それだけではない。アンプの背面には設置時にファインチューニングが行えるように多くのパラメーターを調整できる仕様が設けられた。「125dbを持ちつつもピュアなサウンドを再現する」という目標が掲げられたそうだが、このアンプ部分だけでも限界なくテクノロジーが織り込まれていった様子がうかがえる。しかもそのすべてが電気的にもアナログ処理されており、DSPを使わないフルアナログ回路での調整となっている。
ツイーターはベリリウムが採用され、インバーテッドではなくMシェイプ、ミッドドライバーにもMシェイプが用いられている。Mシェイプは元々カーオーディオ向けの技術で、車に搭載するために浅い奥行きを求めて開発されたものだそうだ。その結果、ドーム形状のおよそ1/3の奥行きにできたそうなのだが、これがサウンド面でも相乗効果をもたらす。奥行きを浅くすることはショートストローク化と同義となるため、Utopiaの領域で求められるような完全なピストン運動を実現できた。こうして実現された最高精度のミッドレンジドライバーは生産ラインで+/- 0.2dB レベルでペアリングされているという。
ウーファーは13インチ。前述の「質量/剛性=90」を誇るW-Sandwichコーンが採用され、TMD(Tuned Master Dumper)も搭載、より自由に豊かに動く設計が施されているそうなのだが、その分だけこれを収めるキャビネットの開発は、相当な量の研究上に成り立っているそうだ。まず、そもそもキャビネットは動いて欲しくない。そのためには動いているポイントを正確に把握して対策する必要がある。こうして286箇所にもおよぶキャビネットのポイントを計測し、その挙動がどのようなものかを明らかにすることとなった。その結果、採用されたのが合成確保のためのブレーシング機構、共振を防止して吸収するチューブレゾネーターを搭載、そしてフロントパネル50mm、横・後ろは30mmというかなりの厚みを持ったキャビネットそのものだ。さらに特徴的なのは、ポート部分。ラージモニターの大音量時でもポートノイズや歪みを発生させないよう、内部をフレア形状に整えている。これにより空気の流れを改善し、鋭いエッジからの回折効果を低減することでポートノイズを回避する。

📷キャビネット自体も非常に厚みを持った強固な仕様だが、計測結果をもとにブレーシング補強が施されている。さらに共振を防ぐレゾネーターも搭載された。右図からはポートのフレア形状を設けることで空気の流れが整えられていることがよく分かる。
こうしてフラッグシップとなるUtopia Main 112 / 212の機能上のトピックを振り返ってきたが、すべてに共通するポリシーである「最終的にこれを音楽を創るための道具として使う」ことに向けて、最後のひと仕上げがある。現場のフィードバックを反映していくことだ。最終調整となる現場テストは、11人のグラミー受賞エンジニアによって米・BlackBird Studio / Studio Cで行われたそうだ。なんと、このエンジニア11人によってグラミーにノミネートされた作品は70作品を数えるそうで、実績実力とも世界最高峰と言える陣容によるテストとなっている。これを製品最後の仕上げとし、いま私たちの前に現れたのが「Utopia Main 112 / 212」だ。
そして、繰り返しにはなるが、Focalはアナログでその理想を追求することを哲学としている。DSPという魔法のデバイスを使うのではなく、リアルワールドでの究極を目指す、その誇りをひしひしと感じさせるFocalのこだわりの結晶がUtopia Main、125dB SPLという音圧レベルを持ちながら、少しの緩みもないフォーカスのあった究極のモニタースピーカーとも言えるサウンドを実現している。
*ProceedMagazine2025-2026号より転載
*記事中に掲載されている情報は2026年01月16日時点のものです。



















