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前田 洋介

[ROCK ON PRO Product Specialist]レコーディングエンジニア、PAエンジニアの現場経験を活かしプロダクトスペシャリストとして様々な商品のデモンストレーションを行っている。映画音楽などの現場経験から、映像と音声を繋ぐワークフロー運用改善、現場で培った音の感性、実体験に基づく商品説明、技術解説、システム構築を行っている。

NTP、PTP、時刻を司るMeinberg製品

IT関連の時刻同期に活用されているNTP=Network Time Protcol、PTP=Precision Time Protcol規格。MoIPが一気に普及を始めているいま、我々もこれらの規格をしっかりと理解して運用する必要がある。ここでは、Meinberg社のグランドマスタークロック製品をご紹介しながら、NTP、PTPといった規格にも触れていこう。

時刻を司るNTPプロトコル

📷microSync RX

Meinberg社は1979年にドイツで創業した、この分野では歴史あるメーカーだ。当初はNTPのクロックマスターを専業とし、正確な時刻を出力する、まさに時計としてのマスタークロックを生産してきた。NTPは1980年代からコンピューターの時刻同期のための仕組みとして、様々な分野での活用が行われているレガシーな規格。我々の利用しているパソコンやスマートフォンは、インターネットから正確な時刻を得ているわけだが、この基準となっているのがこのNTP信号だ。これにより、インターネットに接続された世界中のPCの時刻は数十ミリ程度の誤差内に収められている。インターネット上には、世界各国が発信する世界標準時=UTCに対応するNTPがあり、日本国内ではNICT=日本標準時グループが発信するものが使用されることが多いのではないだろうか。それ以外にもGoogle、AWSなど世界規模のサービスを展開する企業がNTPを発信していたりもする。

このようにインターネット上には正確なNTPが存在しているのに、なぜローカルにハードウェアとしてのNTPが必要となるのだろうか。これは、NTPの受信に失敗した際や、NTPの受信が難しい状況などにおいても、NTPを使った同期システムを継続して運用するためである。例えば、国内の放送局では基本的にNTPをベースにしたシステムにより番組の放送を行っている。そのため、放送タイミングなどの基準としてNTPは非常に重要なものとなっている。その中での一例を挙げると、放送局内の時計はNTPを受信して正確な時刻を表示させることができる製品が使われていることがほとんどである。局内のNTPマスターから館内に引き回されたNTP信号網により、時計の同期が行われているということになる。

他の業種でもNTPの活用は古くから進んでいる。証券取引も世界規模での時刻同期が必要な分野である。現在はさらに正確性を高めたPTPが運用されているが、古くはNTPによる時刻同期により取引タイミングなどのジャッジが行われていたということだ。また、軍事・防衛関連、航空管制といった世界規模での同期が重要となるクリティカルな分野での活用が行われている。

現場で鍛えられてきたMeinberg製品

📷microSyncシリーズ

ローカルにハードウェアでNTP製品を持つということは、冗長化の意味も含めて重要なポイントである。NTP信号が途切れて同期が崩れてしまうようでは話にならない。信号が復旧するまでの間も正確な時刻を刻み続けられる製品でなければならない。MeinbergではTCXOもしくはOXCOのジェネレーターを搭載するオプションを設定している。再分配するだけであれば必要ない機能だが、信号が途切れた際に継続的に正確な信号を出力するためには、なくてはならないオプション項目である。世界中のクリティカルな現場で鍛えられてきたMeinbergは、自らが生成する信号精度にも自信を持っている。

NTPジェネレーターの専業メーカーとして歴史を積み重ねてきたMeinbergは、2008年よりPTP対応製品をリリースしていたが、さらに2019年にPTP技術を専門とするオーストリアのOregano Systemsを買収することにより様々な分野で活用されているPTPへの対応を加速させている。PTPは、NTP、GPSといった時刻同期に関する標準的な信号を取り扱えない現場で、NTPよりもさらに高い精度での同期を目指した規格。インターネットに接続できない、屋内などでGPSの受信ができない、このような状況は我々の業界では容易に起こり得る環境だ。このような中、NTPではなくPTPが次世代の伝送規格としてAoIPやVoIPのベースクロックとして採用されたのはある意味必然である。もともとミッション・クリティカルな現場や、NTPの安定受信の難しい環境、途切れた際のリダンダンシーなどを念頭にした製品をリリースしてきたMeinbergがPTPの製品を持つことになったのも自然な流れだったのかもしれない。

PTPの基準信号の基本は、GPSクロックを基準としたPTPの生成である。MeinbergのPTP対応製品のすべてはGPS入力を備えている。GPSの送信元は言うまでもなくGPS衛星である。非常に正確な原子時計が登載されたこれらの衛星からの信号は、高い信頼性を持って世界中で運用されている。GPS信号には時刻情報も入っているため、これを基準にPTPやNTP信号を生成することは容易い。余談ではあるが、GPSはアメリカが軍事目的でスタートさせた技術であり、それを民間利用に開放したという経緯がある。GPSは米国の軍事ベース技術となるため、各国では独自のGPSに準拠した衛星システムを持っている。EUは「ガリレオ」、ロシアは「GLONASS」、中国は「北斗」、日本でも「みちびき」と様々なシステムが運用されている。MeinbergはGLONASSへの対応も済んでいる、そのため世界中どこでも高い精度での測位衛星(GPS準拠衛星)からの信号を受けることが可能となっているわけだ。

自己ジェネレート、ホットスワップ

📷IMSシリーズ

放送業界でもMoIPのクロックとして活用が始まったPTPを扱えるということで、MeinbergはNABやIBCといった放送機器展への出展を行い自社製品のアピールを開始している。先に述べているように長年にわたるバックグラウンドがあり、PTPに対応したことで放送業界への参入を果たしたメーカーである、PTPグランドマスターを引っさげて突如現れたメーカーということではない。証券取引、軍事、航空管制といったクリティカルな現場で認められてきたMeinbergの製品。その仕様を見てみると、さすがという部分が多数ある。フラッグシップのラインナップとなるIMSシリーズは、電源、コントローラー、信号生成のための各種規格に対応したジェネレーターがなんとホットスワップ仕様になっている。サーバーの電源部分などでホットスワップ仕様は見ることができるが、クロックジェネレーターの電源でホットスワップ仕様になっているというのは類を見ない。これは、一度設置したら停止することなく不具合部分だけをリプレイスすることで継続利用が可能な仕様ということだ。

PTPには世代があり、Audinate Danteが利用しているPTPv1と、NDI、ST-2110などが利用するPTPv2がある。執筆時点ではMeinbergはPTPv2のみの対応であるが、1年以内のPTPv1対応を目指して開発を進めているとのこと。ちなみにPTPv1はIEEE 1588-2002で定義されたオリジナルの仕様で、PTPv2はIEEE 1588-2008でさらなる精度と堅牢性を求めてブラッシュアップされたものである。残念ながらPTPv2には下位互換性はなく同じPTPという規格ではあるものの相互に互換性はない。

そして、GPSを受信できない環境において、内臓のTCXOもしくはOCXOによる自己ジェネレートが可能となっているのもMeinberg製品の大きな魅力。前述の通り、PTPはGPS信号からの生成を行うことが基本であるため、あくまでもリダンダンシーのための信号回復までの繋ぎの役割として自己生成用のクロックが登載されている製品がほとんどだが、Meinbergでは自己ジェネレートでのPTP信号の利用を前提として設計が行われている。この仕様はスタジオ設計の目線から見ても使いやすい製品と言えるのではないだろうか。まだまだ、スタジオへGPS信号を引き込むのは難しい状況が続いている。自社ビルであればまだしもだが、ビルへ入居している格好であればなおのことだ。

コンパクトなハーフラックサイズの製品から、モジュールによる強力な冗長性を持つ製品まで幅広いラインナップとなるMeinberg製品。マスター、サブなど生放送に対応した場所にはモジュールタイプ、ポストプロなどはハーフラックの製品、といったように選択の幅が広いのも魅力だろう。


全数をドイツ国内の自社工場で組み立てし、1週間のランニングテストの後に出荷するというまさにクリティカルな現場に向けた生産体制。ハーフラックの末っ子にあたるプロダクトでさえ平均故障間隔が60万時間にも及ぶという。IEEE、ITU-R、SMPTEなど業界基準を策定する各団体への参加も行っており、出力信号の確実性もある。そして、ドイツのクラフトマンシップとミッション・クリティカルな現場で鍛え上げられた高い信頼性は、PTPグランドマスターを検討する際の筆頭候補となるだろう。


 

*ProceedMagazine2024-2025号より転載

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*記事中に掲載されている情報は2025年01月23日時点のものです。