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ROCK ON PRO
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ROCK ON PRO導入事例/中京テレビ 放送株式会社様~リニア・ノンリニアを融合し、更なる進化へのマージンをもったシステム~
東海3県(愛知、岐阜、三重)をエリアとする中京テレビ放送株式会社は新局舎への移転に伴い、その設備全てを一新する大規模な導入を行われた。放送局でよく見られる隣の敷地への新局舎への設備更新ではなく、これまでの名古屋市東部の八事に立地する旧局舎から名古屋駅前の笹島地区への完全移転となる。ROCK ON PROではその移転工事の制作音声に関わる工事、システムの導入をお手伝いさせていただいた。
旧局舎には2部屋のMA室と1部屋の簡易MA室、5部屋のレコード室と呼ばれる音声仕込み用の設備があった。MA室はコンソールにStuder Vista7、メインのDAWとしてMerging社のPyramix、サブDAWとしてAVID Pro Tools、レコード室にはAVID Pro Toolsがそれぞれ導入されていた。今回の更新に伴い、全てのシステム、ワークフローのファイルベース化が大命題としてあり、それに則ったソリューション、システムの導入を行っている。制作編集、報道編集それぞれとネットワークで接続され、ファイルでのやり取りを基本とし、さらに報道で起こりうるスピードに対応するVTRや、SONY XDCAM Station XDS-PD2000に対してのリニア作業まで、幅広いワークフローに対応することの出来るシステムが求められることとなった。
まずはDAWの選定からその作業はスタートした。中京テレビ様はPyramixとPro Toolsという2種類のDAWが利用されていたわけだが、その統一を図るのか?それとも全く別の選択肢とするのか?また、その選択肢によりコンソールが必要となるのか?コントローラータイプの製品を選択するのか?など多面的な事象が総合的に検討された。その中で選定されたのが、今回導入されたAVID Pro ToolsとAVID S6の組合せ。世界的、そして国内での導入の事例の多さ、またMA室のサブDAW、レコード室にも導入され、使い慣れたシステムであるという点もこの選択の後押しをした。これまでと同様にコンソールを中心に据えて作業を行うのか?という部分も検討課題となったが、作業効率を考えPro Toolsを一番効率的に使えるソリューションとしてAVID S6の選択を行っている。コンソールミックスの良さももちろん認めた上で、DAWのみでミキシングを行うことのリコール性の高さが最終的な決め手となった。これは、後述するサーバー導入のメリットを最大限に享受するということにもつながっている。
AVID S6はMA1/2の2部屋へ導入された。この2部屋は全く同一の設備となっている。これは、部屋を移動した際の作業継続性を最大限に求めた結果である。十分なスペースが与えられたこの2部屋は、今回の更新担当である中京テレビの和田氏、CTV MID ENJINの山内氏、日比野氏、3氏のこだわりの結晶となっている。そのこだわりを一つずつ見ていきたい。
まずは、AVID S6が収まるコンソールデスク。その設計のコンセプトは、ワンマンでのオペレーションが多いということから、『エディットも、ミキシングもスイートスポットから移動すること無く行うことの出来る作業環境』を追求した結果である。スイートスポットに座ると、右手側にはモニターコントローラーであるTACsystem VMC-102など制御系の機器が手の届く範囲に並んでいる。センターポジションには、S6のMaster SectionではなくFader Moduleを設置、センターから左手方向へ4module、32faderが並ぶという配置だ。そして、コンセプトを具現化しているのがFaderの手前にあるKeyboardとTrackballが置かれたフラットなスペース。このスペースにより、KeyboardとTrackballをメインに使用するエディット作業時も、フェーダー操作が中心となるミキシング作業時も同じようにスイートスポットでしっかりと前を向いて作業を行うことが出来るようになっている。手前にKeyboard,Trackballがあってもフェーダー操作時に干渉しない様にギャップを設けフェーダーに手をかけた際にそれらに触れないような設計となっている。この部分のサイズに関しては、何度となく意見を交換し、実際にAVIS S6の実物を確認しながら1cm単位でどちらの寸法が良いのかという議論を数ヶ月に渡り行なった結果、ご満足頂けるコンソールデスクが完成している。また、DAW用のDisplayもErgotronのLong Arm仕様を採用することでセンターポジションの正面までの可動範囲を獲得している。このDisplay Armの設置は、現場へAVID S6の設置が行われた後に、理想のポジションを探っている。結果、AVID S6のProducer Deskに穴を開けての固定となった。
このKeyboard,Trackballのスペースを確保したことで、通常のAVID S6のフレームと比べてフェーダーのスタート位置は奥に行っている。これにより、当初は9knob仕様を検討されていたが奥行きが大きくなりすぎるために5knob仕様での導入となっている。また、通常の設置とKnob ModuleとProcess Moduleの場所が逆転している。これは、使用頻度を考えた際に、Knob Moduleの方の優先度が高い、という非常に明快な理由からこの設置となっている。ハリウッドでもこのような設置のAVID S6が多く見られるという情報も一つのきっかけとなっている。この設置としたことで、残念ながら通常はフェーダーのすぐ上に来るはずのPANが一番奥のKnobになってしまっている。この部分は、今後バージョンアップでユーザの選択が出来るように是非ともしてもらいたい点だ。
写真ではわかりづらいかもしれないが、このコンソールデスクにAVID S6が乗っている部分には足が無い。両サイドのラック部分で支えられるような設計としている。具体的には、鉄骨を横方向へ流して支えているのだが、座った際に膝が当たらないように可能な限りセットバックしている。更に裏面の反射を押さえるために吸音層がこの裏には設けられている。コンソールデスクの奥にはメーター台が設置されているが、別体の構造とし日本音響エンジニアリングによるSilvanをベースとした柱状拡散体が配置されている。これにより、音が溜まりがちなこのスペースの改善を行っている。使い勝手と、快適性、そして音質と妥協なく、徹底的に細かな部分まで追い込んで設計されたこのデスク。地味に映る部分かも知れないが、このスタジオには無くてなならないパーツとなっている。
今回は、ROCK ON PROとして初となるスクリプトトレイのカスタムメイドにも挑戦している。S6は表面のボタン類の実装密度が高いために、スクリプトトレイはユーザーの満足行く製品がほとんど無い。お客様からはスクリプトトレイがあってもフェーダーには触れるようになっていて欲しいという要望もあり、カスタムでの制作に踏み切っている。写真からは、華奢に見えるかもしれないが、実物は鉄で制作しているため重量もあり、安定感もなかなかのもの。後のメンテナンス性も考え上部のレール、下部のスペーサーは貼り付けとしている。AVID S6の持つモジュラー構造による高いメンテナンス性はしっかりと確保したまま、出来る限りスムースな動きをもったスクリプトトレイに仕上がっている。要望通りにフェーダーへのアクセスもでき、台本がしっかりと置けるサイズの作りに仕上がっている。
コンソールからまずは見てきたが、次に全体システムの説明に移りたい。前述の通り、MA1とMA2は全く同一の設備が導入されている。Pro Toolsは2式導入され、メインのシステムがPro Tools HDX、サブのシステムがPro Tools HD Native Thunderboltとなっている。それぞれI/OはDAD AX-32がDigilinkでの接続、そして、HD I/Oがそれぞれに1台づつ接続され、バックアップ体制をとっているというシステムアップ。AES 2016で姿を表したPro Tools | MTRXの前身となるDAD AX-32のDIgilink Portを最大限に活用し、1筐体を2台のPro Toolsから32chずつのI/Oとして認識させている。
そして、モニターセクションにはTacSystem VMC-102を採用。DAD AX-32はS6からのダイレクトコントロールもかなりうまく行うことが出来るが、そのコントロール部分であるProMon V2の登場前にシステム構成が決まっていたということ、そして何よりもスタンドアローンで動作するVMC-102の利便性が決め手となりこの構成となる。VMC-102の機能もほとんど使い切ったシステムだ。Blu-ray Playerからの7.1chのサラウンドを5.1chへダウンミックスをする、モノ番組用のシグナルプロセス、ソースの柔軟なセレクトと、SUM機能の併用。また、メーターアウトの切替が行えるというのもVMC-102の美点である。メーターアウトは、モニター・フォローを基本として、VTRの戻り、Pro Toolsの出力に固定することが出来るようになっている。VTRに音戻しをする際に、モニターはVTRの出力、メーターはPro Toolsといったことが出来るような設計だ。
DAD AX-32へは、このMA室のほぼすべての回線が集中している。マイクやCDといったアナログの入力も、VTR類のAESのデジタル入出力も、スピーカーへのアナログアウトも、Pro Tools2台の信号もDigilink経由で全てがこの2Uの筐体へと集中している。そして、この部屋のシステムはこのDAD AX-32の内部のマトリクスにより全てのシグナルフローが成立している。言葉で書くと非常にシンプルだが、これをアナログの領域で行おうとしたら、何台もの分配器が必要となり、かなり複雑なシステムになっていたことだろう。このようにデジタルマトリクスを使用したシステム構築は、今後のトレンドなることは間違いない。
DAD AX-32、そしてその後継となるPro Tools | MTRXは内部で最大1500×1500という十分なシグナルマトリクスを持つことが出来る。デジタル領域でのマトリクスの利点は、信号の欠損無くクロスパッチが組めることはもちろんだが、信号の分配であれば、そのマトリクスの中でインビーダンスや、レベルの低下などを気にすること無く行えるという、大きなメリットがある。DAD AX-32はアナログ信号も、AES信号も、DigilinkもMADIも同じように1chごとに全てマトリクスを組むことが出来る。これは、これまでになかった大きなメリット。アナログ信号専用の製品、MADI信号専用、といった製品はこれまでにも存在したが、異なった信号をフラットに扱えることのメリットはシステムを組んでみると非常に大きい。スタジオ内の全ての信号をこのDAD AX-32に接続しておけば、あとは何処のポートから送り出したいのかを考えるだけ。ADもDAもDDも全て行なってくれるまさに夢のような製品。繰り返しになるが、Pro ToolsのI/Oとして稼働するというのも大きなメリット。メインのシステムとサブのシステムの信号のやり取りもこのDADの中だけで完結している。いち早くそのメリットに気付き、システムの中心としての導入をおこなうことが出来たのは、中京テレビ様の先進性ある視点ならではである。
そして、ファイルベース化のまさに象徴とも言えるサーバーはEidtShare XStream STが採用された。中京テレビ様は国内初のEditShareの導入先としても知られ、その運用の実績から今回はこちらのモデルの導入となった。当初より、Pro Tools対応を謳っていたEditShareは国内上陸当初よりテストを弊社でも行なっており運用できることはわかっていた。しかし、なかなかDAWに対してのパフォーマンスが上がらなかっこの製品も、近年のバージョンではNASとしての高速性を十分に発揮し、Pro Toolsでの利用に際しても満足出来る実効値を持つ製品に成長している。中京テレビ様で実績があるといってもそれはAVIDの編集機に対してのもの。DAWでの運用ということもあり、導入前には意地悪な負荷試験なども含めた検証を十分に行った上での導入だ。今回導入したモデルは12 Drive – 48TBという仕様になる。
ネットワークは、メインのスイッチまでは10GbE2本によるボンディング接続。そこから、各端末までは1GbEでの接続となっている。今回は、全館のシステムを同時更新ということで、制作編集、報道編集とも接続が行われている。映像編集が終わったファイルは各映像編集端末から直接MA室にあるEditShareへと送り込まれる。Video Fileと音声は、ノリシロ付きのAAFというのが現時点で想定しているワークフロー。直接サーバーへ送られてきたデータをそのままダイレクトに開き、ストリーミングでのMA作業となる。ファイルで先に送られたもので先行して作業を行い、タイムロスが無いようにワークフローが設計されている。
もちろん、従来のリニア作業にも対応できるように、SONY XDS-PD2000(XDCAM Station)がMA室には導入されている。エマージェンシー対応ということ、そして急ぎの緊急作業などにも柔軟に対応できるよう、ありとあらゆるシーンを想定してのシステムアップがなされている。中京テレビ様のMA室は、報道・制作共用という側面もありこのような仕様となっている。もちろん、このMA1/2の主だった利用は制作番組が中心である。
ファイルベースの作業をメインに設計されていながらも、シームレスにリニアの作業が出来る環境を構築するということで、CB electronics SR-4HDが導入されている。この機材は4ポートのSONY 9-pin シンクロナイザー、今回のワークフローを成立させるにあたって無くてはならないキーデバイスとなっている。
Pro Toolsはバージョンアップにより、デッキエミューレートモードが大きく進化を遂げている。あまり脚光を浴びる部分ではないためほとんど語られることは無いが、リニアとノンリニアの同期をシームレスに結びつける更新が行われている。その機能とは「9pinコマンドに再生が追従」という初期設定に追加された項目。従来のデッキエミュレートモードは、「REM」(リモートモード)に入ることで、Pro Toolsが9Pinの外部制御によりVTRのような挙動をするモードであった。しかしこのモードは、VTRがそうであるようにローカルからの制御を基本的には受け付けなくなるため、非常に使い勝手が悪くスレーブ専用とでも言うべき機能であった。
それが「REM」モードに入ること無く、外部からの9pin制御にPro Toolsが追従するという機能が追加され、SR-4HDのような外部の9pinシンクロナイザーと組み合わせることで双方向制御が可能となる。Pro ToolsからでもSR-4HDからでもPlaySTOPといった再生制御が可能となるということだ。まさに、普段通りの使い勝手のまま、外部機器と同期を取ることができてしまう。そして、SR-4HDはシンクロナイザーであるため、Pro Toolsとの協調動作をしながら、それに合わせてVTRなど他の9pin制御のできる機器を同期することが出来る。今回のシステムでは、XDCAM stationが接続され、Pro Toolsに常に同期をして動き続けるということを実現している。XDCAM stationはInternalに設けられたSSDのデータを再生するため、ロケートで時間軸をジャンプした際にも瞬時に追従する。サーボロックのスピードはHDCAM相当といった体感ではあるが、十分に運用に耐えるものとなっている。
このように、スタンドアローンのPro Toolsを操作するのと全く変わらずにVTRを同期させることを実現している。Audio Insert編集もSR-4HDから行うことが出来るため、Pro Toolsをデッキコントロールモードに設定し制御をするということは必要ない。SR-4HDからインサートしたいトラックを選択し、Pro Toolsを再生し、任意のタイミングでSR-4HDのRECボタンを押すだけだ。非常に作業の工程が簡略化され、理想のポストプロダクション環境が出来上がったといえる。更に、Video Satelltieで同期をしているSE用のPro Toolsもこのシステムにそのまま追従する。Video Satelliteも双方向の同期システムなので、2台のPro Tools、SR-4HDどの再生ボタンを押したとしても全てが、一斉に動き出すというシステムになっている。
ノンリニアのシステムとリニアのシステムが融合した操作感。これにより、従来のフロートの高い互換性を保ったまま、これからのワークフローに対応できるシステムアップが行われたといえる。報道とのワークフローは、白完パケの段階でEditShareへデータが投げ込まれ、並行しての作業が行われる。最終メデイアは、SxSとなるため、編集からの完パケSxSをXDCAM Stationへ取り込みオーディオインサートを行い、報道へ戻し、送出サーバーへ登録を行うという流れだ。制作編集とは、完全にファイルでのやり取りとなるEditShareに投げ込まれたワークVideoとAAFでの音声を基に作業を行い、完パケ音声を作成した後、コンテンツブラウザーを使いソニーサーバーを介して取り込んだ編集済みファイルをXDCAM Stationのオーディオインサートで完パケし、再度ソニーサーバーを経由してマスターに搬入するという流れだ。
他にも使い勝手にこだわり、様々な作業を想定してのシステムアップが行われている。モニターの補正用のプロセッサーとして導入されたBSS BLU-160はS6のコンソール上に用意したカスタムスイッチよりX-CurveのON/OFF、Base ManagementのON/OFF、エマージェンシー用の強制MUTEが行えるようになっている。カスタムスイッチ・パネルには、他にも強制Cuf ONを行うためのスイッチと、ラウドネスメータの制御用のスイッチが備えられている。
スピーカーも複数社のモニターを視聴した結果、旧社屋のMA室で使っていたGenelec 1037の後継で、一回り大きな1238が選択された。ニアにはYAMAHA NS-10Mと手堅い選択。これもエンジニアの意見の総意としての結果である。GLM 2.0を搭載した機種ではあるが、音響設計をしっかりと行った部屋であるということと、BSS BLU−160のような補正プロセッサーが導入されたということから、この機能は使用していない。同じような機能をもった箇所が複数あることによるトラブルの回避が行われている。
他にも細かいこだわりを上げれば切りが無い。2年間以上システムをどうするのかという話し合いをもった末に完成したシステム。話し合いを行っている最中に登場した、最新技術を吟味しながら取捨選択を行い、作業効率の要となるコンソールデスクに納められたトータルパッケージがここにある機器達。さまざまな作業の想定をシュミレーションしながら、機器がこの形に収まってからも小修正、設定の変更を積み重ねている。本号が皆様の手に届く頃に本格稼働を始める予定ではあるが、更なる進化のマージンをもったシステムでもある。今後のワークフローの変化に柔軟に追従し、エンジニアたちの理想を音にする作業環境であり続けてほしいと願う。
最後にはなるが、AVID Pro Tools,S6はもちろん、DAD AX-32、TACsystem VMC-102、BSS BLU-160といった機器はROCK ON PROのスタッフにより全て調整が行われている。お客様と直接打合せを行なったスタッフが、実際に調整・設定作業を行う。一番間違いがなく、その想いが形になると信じたい。また、システム導入にあたり、設計施工をおこなったレアルソニード谷口氏の多大な努力にこの場を借りて御礼を申し上げたい。
今回の工事に関わった皆さん、左からEditShareの調整を行なったVGI森氏、ROCK ON PRO洋介、廣井、CTV MID ENJIN山内氏、中京テレビ放送和田氏、CTV MID ENJIN日比野氏、音響設計を行なった日本音響佐竹氏(奥)、稲毛氏(手前)、崎山氏