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進化したAvid New HD I/O:Dave Hill HEAT共同開発者インタビュー

Avid-Pro-Tools
Avid-HEAT三次倍音内で主に発生する非直線的な高調波歪について語るデイブ・ヒルの目は本当に輝いています。さらに二次倍音に関しての質問をしようものなら、その目は一段と輝きを増し、その仕組みや素晴らしさについて、とめどなく語ってくれます。
彼は真のアナログ信奉者であり、テープマシーンやチューブの全てを知り尽くし、そしてまた、それらを使用した豊富な録音/リスニング経験を持っているのです。恐らく、彼は一般のエンジニアが一ヶ月に行う回数以上の厳密なリスニングを一日の中で繰り返している事でしょう。デイブは、彼が学んだ電子工学の知識を活かして、これまでアナログ回路の中で実現してきたことを、今回はソフトウエアのコードの中で見事に表現することができたのです。
あらためてデイブをご紹介しましょう。
彼は、Pro Tools HD 用にデザインされた素晴らしいテープ・シミュレーション・プラグインの一つであるPhoenixを開発したCranesong社の創設者です。そして今回、皆様にお届けする事ができたHEATをAvidと共同で開発しました。小さなこだわりが大きな違いを生む事ができる。彼の言葉を信じ、真剣にこのHEATのサウンドに耳を傾けてください。
では、デイブの口から、今回の共同開発に到った経緯やどのように具体化していったかを語ってもらいましょう。

HEAT : デジタル・ドメイン内でのテープ及びアナログ・イミュレーション

Dave-Photo-190年代にATR Serviceのアナログテープマシーン用の電子回路をデザインした後、私は、デジタル・ドメインの中で、いかにテープやアナログのイミュレーションを行うかという事に集中し始めました。そして2003年にCranesongのPhoenixプラグインの開発に興味を持ち始めたのです。
Phoenixが市場で出てしばらく経ってから、Avidの当時の技術最高責任者だったデイブ・ラボルトとNAMM ショーで話をし、そしてその話題はフランクフルトのmusikmesseでも継続されました。デイブは、当時、ある目的を持って個性的なアナログ・イミュレーションをプラグインで実行する為の方法論を模索しており、その後、私をAvidのオフィスに招き,その可能性について話をするため数人の人々を紹介してくれました。その時に会ったAvidのスタッフ、デイブ・ギブンス、ボビー・ロンバーディ、ボブ・リー、クリス・タウンゼントといった素晴らしい人達との出会いは非常に印象的で、彼らの求めているイミュレーションには何が必要か、どういった方法が効果的かなどを話し合いました。これらの議論は、真に優れていて、かつ独特な「何」かを生み出す原動力となったのです。つまり、プラグインの通常のフォームを超えた「何か」です。これらの素晴らしい人々と議論を交わしたこの三日間こそが、Avidとの共同作業のスタートだったと言えるでしょう。そして、その結果として誕生したのが、このHEAT、つまり通常のプラグインの形ではなくPro Tools HD用アド・オン・ソフトウエア・ミキサーなのです。
Dave-Photo-2開発の初期段階から、デジタル領域で「何か」をうまく成し遂げるには、何が必要かは明らかでした。第一に必要なのは、アナログの基礎を深く、そして多角的に理解することです。勿論、アナログについて学ぶ最も良い方法は、アナログ機器とともに、深く、そして長年に渡って作業を行う事です。我々はテープを使って育っている為、テープマシーンの良い面も悪い面も熟知し、また様々な対処方法も心得ています。
最初に認識しておかないといけないことは、素晴らしいサウンドを持つ精巧なテープマシーンは、決して何かに似ているというわけではないということです。それらは何者にも似ず、それ自体が個性を持って「素晴らしい」のです。従って、これらの「素晴らしいサウンド」をデジタルの世界の中で忠実に再現する事が目的のHEATをデザインするに当たっては、アナログで生じる心地よい歪みの創出、そしてそれのゲイン・コントロール、また様々なトーン・カラーを供給するシンプルなツールを持つ必要が有ると考えました。では、アナログ及びテープを構成する何がHEATに加わり、それらをHEATがどのようにPro Toolsにもたらしたかを見て行きましょう。
Dave-Photo-3
テープマシーン独特のサウンドは、主に4つの部分の品質に左右されると考えられています。つまり、録音時における周波数変調またはプリ・エンファシス、リニアに接する事になるテープそのものとテープ・ヘッドとの相関関係、再生時に派生する周波数変調とディ・エンファシス、そしてアナログ電子回路の品質です。
7.5IPSに対するNAB規程のEQカーブは、1KHz時を基にした場合、比較して15KHz時では約12dbブーストされます。つまり、もしあなたがアナログテープに何かを録音する場合は、周波数構成毎の録音レベルに注意を払う必要があるということになります。例えば、1KHで0VUトーンを録音できたとしても、15KHzではそのままのレベルで録音することはできません。その場合の15KHzトーンはオーバーロードとなり、歪んでしまうからです。古いテープマシーン、例えばAmpex 440やStuderA80では、レベルがオーバーロードした際、主に2次倍音から構成される偶数倍音のハーモニック・ディストーションを生じさせるシングル・エンデッド・アンプリファイヤーを採用しています。
Dave-Photo-4それが1オクターブ上の繊細な高調波歪で、それ自体は聴き取りにくいものであっても、元のサウンドに対して、デリケートな柔らかさや、言葉では表現しにくい何らかの影響を与えます。ハイファイな人々は、これを「euphoric(心地よさ)」と表現します。テープに録音すると、そのテープ・エフェクトが、EQ処理やその他のポスト・プロセッシングの前段階で、レコーディングしている全てのトラックに生じるのです。ここで生じる色彩感やスムースさといったものは、ソフト・コンプレッションまたはオーバーロードの度合い、そしてまた、その度合いは周波数によっても異なった形で生じ、これらが複合的な形で独特のサウンドとして表現されます。これがコンプレッション効果や聴感的に心地よいとされるハーモニック・ジェネレーターなのです。
真のアナログ・イミュレーションを行うソフトウエアをデザインするにあたっては、DSP効率の追求も課題となりますが、同時に、アナログで生じうる可変的な結果を導く方法を追求しながら、それぞれに対して聴感上でも正しいサウンドを得る事が求められました。
Dave-Photo-5そういったコンセプトを基にAvidのボブ・リーと現在はスカイウォーカーサウンドに所属しAvidのトップベータ・テスターでもあるダニー・カッカーボと共に作業を行って6ヶ月が経過した頃、私は何かしらの手応えと、サウンドを正しい方向に導く手がかりを掴みかけていました。理想を実現するにあたり、プログラムをミキサーの中に組み込むというアイディアが、全てを変えたのです。夢の実現に向けてスタートを切った瞬間でした。それから数年間に渡りコード・ライティングとリスニングを繰り返す事で、遂にHEATが誕生しました。
HEATは非常に複雑でかつハーモニー豊かな効果を生み出しますが、その使い方は至ってシンプルです。HEATには、2つのコントロールがあります。1番目は、テープとテープに追加のアナログ機器を加えたケースを再現する2つのモードを持つドライブ・コントロール。片方向にノブを回すとテープを使った際に生じる独特のカラーをもたらし、テープならではのコンプレッションや歪みも同時に再現されます。逆方向にノブを回すと、今度はテープに加え真空管ベースのアナログ機器で加わる効果もプラスされます。2番目のコントロールは、トーン・コントロールで、高周波数に対するコンプレッションのキャラクターを変更することで、サウンドの硬軟を調整します。HEATは、テープ・マシーンそのもののように、レベルと周波数の相関関係でサウンドが決まります。もし使っているトラックの一つのレベルが高過ぎるなら、そのカラーを調整する為にレベルのトリム調整を行う必要が生じるでしょう。
Pro-Tools-HEATまた、HEATのサウンドは、Phoenixともまた異なるものだという事も伝えておきましょう。この二つは、操作性も全く異なりますが、サウンドの違いゆえに共存することも可能です。また、ミキサー上にあるHEATとの関連性をうまく利用し、特定のトラックにPhoenixを実行して特別な効果を得る事もできるでしょう。
ミックスしたサウンドを変えたい?そういった希望も遂に簡単に実現できるようになりました。各トラックにHEATが実行されることで、バス上に何かを実行していた時とは大きく異なる結果を得る事が可能となります。HEATを使えば、例えばミックスを少しだけ明るいトーンにしたいという場合でも、トーン・コントロールを回すだけで、豊かなハーモニクスが加わり明瞭度が上げることができますが、これは複合的な要素の追加であり単純なEQと同じではありません。
HEATはデジタルですが、実際には殆どアナログ・ワールド時のオペレーションと同じであり、また効果もアナログそのものです。もしあなたが、アナログ・サウンドをお好みで、それがどのような効果をもたらすかを理解しているのであれば、是非、HEATでミックスしてみてください。きっと素晴らしい成功を収める事でしょう。
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  1. 進化したAvid New HD I/O:杉山勇司氏インタビュー New HD I/OとPro Toolsの未来(前編)
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*記事中に掲載されている情報は2010年11月15日時点のものです。