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前田 洋介

[ROCK ON PRO Product Specialist]レコーディングエンジニア、PAエンジニアの現場経験を活かしプロダクトスペシャリストとして様々な商品のデモンストレーションを行っている。映画音楽などの現場経験から、映像と音声を繋ぐワークフロー運用改善、現場で培った音の感性、実体験に基づく商品説明、技術解説、システム構築を行っている。

専門学校ESPエンタテインメント大阪様 〜アナログ・コンソールはオーディオの基礎基本を体現する〜

以前にも一度、本誌で取り上げさせていただいた専門学校ESPエンタテインメント大阪。前回は2年次に使用する実習室へのAvid S6導入事例であったが、今回は1年次の実習で使われている実習室にて行われたSSL AWS924導入の様子をレポートしたい。

デジタルとアナログ、両方のコンソールでのカリキュラム

専門学校ESPエンタテイメント大阪は、大阪駅の北側、周りには楽器店なども多い御堂筋線 中津駅至近にある。地上11階建ての本館と地上5階建ての1号館を有しており、音楽アーティスト科や声優芸能科、そして今回AWSを導入された音楽芸能スタッフ科が設けられている。その音楽芸能スタッフ科には2つのコースがあり、PA&レコーディング、レコーディング&MAという2つのコースが設置されている。この2つのコースはともに1年次に今回AWS924が導入された録音実習室を使い、楽器を一つ一つレコーディング、オーバーダブし、1年掛けて1つの楽曲を録音するという授業を行っているとのこと。それぞれの楽器の特性、特徴、マイキングなどをしっかりと実践をもって学べるカリキュラムだということだ。

今回導入されたAWS924はAWS900からのリプレイスとなる。ご存知のようにAWS900の後継機がAWS924であり、これまでの実績や学内に積み重ねられたノウハウも継承できる選択となった。この決定にあたっては、福岡校への導入実績があるNEVE Genesys Blackなど他のアナログコンソールも候補には挙がったそうだが、そんな中でも従来を踏襲したと言えるSSL AWS924が選択されたのには理由がある。

ミキシング・コンソールを1から学ばなければならない1年次に、シグナルの流れやプロセスなどが具体的にわかりやすいアナログコンソールで学ぶということは、生徒にとっても、教える側にとってもメリットが大きい。そして大阪校には実習室が2室あり、もう一つの部屋はすでにAvid S6というDAWを中核としたコンソールが導入されている。そこで、複雑なデジタルでのルーティングなどは2年次にもう一つのAvid S6で学ぶこととし、1年次はアナログコンソールでの授業を行うこととする。そう考えると、従来の機種をキャリーオーバーするような選択であることの方がメリットが大きかったということだ。もちろんデジタルとアナログ、両方のコンソールに触れられるということもメリットとなる。


📷 今回新たに導入されたAWS924は特注デスクに収められている。このデスクはこれまでのAWS900時代からの流用でありながらも、新たに仕上げたかのようなピッタリの収まりである。

写真で見てとれるように今回の更新でリプレイスされたのはSSL AWS924の本体のみとなり、それ以外は更新されていないのだが、引き継がれたデスクはまるでAWS924専用に用意されたかのようにフィットしている。AWS900、AWS924ともにカタログ上のサイズは同じだが、以前のAWS900よりもピッタリとデスク内に収まったと、驚かれていた。ドラムのマルチマイクでの収録にも対応する24chのコンソールは、授業内容にもまさにジャストフィットしているということだ。1年次の実習ということもあってなかなかそこまで使うことはないようだが、AWS924に更新したことでミキシング・コンソール側でのオートメーションも使えるようになった。DAW内でのオートメーションが当たり前だからこそ、このような機能が使えるアナログコンソールに触れる機会は価値があることではないだろうか。

📷 デスクの左には、マイクプリTUBE-TECH MP1A、VINTECH AUDIO DUAL72、そしてオーディオパッチが収まっている。右側にはDBX 160A、Universal Audio 1176LN、Drawmer 1960、NEVE 33609が収まる。専門学校らしく定番と呼ばれる機器が取り揃えられている形だ。

新たなるニューノーマルな傾向?

コロナ禍で実施にも配慮が必要となっている実習授業についてだが、コンサート系コースなどは実際のコンサート・イベントにキャンセルが続いて難しい局面があったものの、音楽芸能スタッフ科ではオンラインでできる授業はそちらにシフトし、実習でしか教えることができない内容のものはこの2年間も学校内で行ったということだ。なお、この部屋を使う2つのコース、PA&レコーディング、レコーディング&MAは、例年であればPA&レコーディングコースのほうが入学者数が多いそうだが、今年の新入生から初めて入学者数が逆転し、MAコースの人数が多くなったということ。これは入学してくる生徒がコンサート、ライブを体験することがほとんどなかったからではないか?ということだ。実際にコンサートに行き、そのスタッフに憧れる。そういった体験がなかなか叶わない一方で、MA映像付きの音響を画面越しに体験をすることでMAに興味を持つ。これも新たなるニューノーマルな傾向なのか興味深いところだ。

また、YouTubeなど配信のサウンド、音響効果に興味を持って入学していくる生徒は年々増加しているという。ここでしっかりとした教育を受けた若者たちが、新たなステージでエンタテイメントの形を作っていく。MAといえばテレビ業界という考え方は、もはやステレオタイプなのかもしれない。そんな未来を感じさせられた。


📷 以前に本誌でも取り上げた 2 年次の実習で使われている Avid S6 を導入したスタジオ。現場での導入実績の高いAvid S6を使っての実習は即戦力育成に直結する。フルアナログの実習室と合わせて、幅広いシステム構成のスタジオでの実習を行うことができる環境が整えられている。

まさに順当とも言える後継機種への更新。改めてあえて変えないことの意味、アナログの大切さ、そういったことを考えさせられた。カルチャー、エンターテイメントは日進月歩で進化を続けている。しかし学びの環境の中での一歩目には、オーディオの基礎基本を体現するアナログ・コンソールがある。やはりこれは大きな価値のあることなのではないだろうか。


専門学校ESPエンタテイメント大阪
音楽芸能スタッフ科 松井 英己先生


 

*ProceedMagazine2022号より転載

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*記事中に掲載されている情報は2022年08月09日時点のものです。