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丹治 信子

[ROCK ON PRO Product Specialist]ノンリニア編集とファイルベースワークフローを普及すべく、これまでAvidおよび、Autodeskでビデオセールスに従事。プリセールスからサポートまで、エディターに寄り添ったコミュニケーションがモットー。ROCK ON PROのメンバーとなってからは、新しい分野で互いに刺激を与え合いながら活躍している。

ファシリティの効率的活用、Avid NEXIS | EDGE

コロナ禍になり早くも3年が過ぎようとしています。その最中でも、メーカー各社はリモートワークに対応するために様々なワークフローを紹介していますが、Avidでも今年の始めに新たにリモートビデオ編集のフローを実現するシステムNEXIS EDGEを発表し、満を辞して今秋リリースされました。

クラウド?オンプレ?

Avidではこれまでもリモートでのビデオ編集やプレビューをする製品が各種あり、ポストプロダクションのニーズに合わせて、システムを構築できるようにラインナップも取り揃えられています。例えば、Avid Edit On Demandでは、ビデオ編集ソフトMedia ComposerやNEXISストレージをすべてクラウド上に展開し、仮想のポストプロダクションを作ることが可能です。クラウドでの展開は時間や場所を問わず利用できること、使用するソフトウェアの数やストレージの容量の増減を簡単に週・月・年単位で設定し、契約することができ、イニシャルコストがほとんどないことがメリットと言えます。

今回紹介するAvid NEXIS EDGEは先で述べたEdit On Demandのクラウド構築とは異なり、サーバー購入の初期投資が必要になります。クラウド化の進みとともに、CAPEX(設備投資)からOPEX(事業運営費)へという言葉が最近よくささやかれ、今どきオンプレのサーバーは流行らないのでは?という見方はあるかもしれませんが、ポストプロダクション業務としてビデオ編集をする上で、すべてをクラウド上で編集することが必ずしも正解だとは言い切れません。それは、映像データの適切な解像度での再生、正確な色や音のモニタリングに対してクラウド上のシステムではできないこともあるからです。

Avid NEXIS EDGEは、会社内にサーバーを置くオンプレミスでのメディアサーバーシステムとなります。Avid NEXISストレージサーバーを軸にしたシステムとなり、メディアサーバーに加えてWindowsサーバーを追加します。ソフトウェアとしては、Media Composer Enterpriseが最低1ライセンス必要になります。Media Composer EnterpriseライセンスはDP(Distributed Processing)ライセンスが含まれており、プロキシを作成するために使用されます。DPは日本語では分散レンダリングと言われ、ネットワーク上にあるひとつまたはそれ以上のワークステーションを使用して、レンダリングやトランスコード、コンソリデートといったメディア作成の処理を行うことで、編集システムのCPUを使用せずに時間のかかるプロセスを外部で行うことができる機能です。

NEXIS EDGEが持つメリット

📷 NEXIS EDGE Webブラウザのユーザーインターフェース 素材の検索と編集

NEXIS EDGEの特徴は大きく分けて2つあります。1つ目は、NEXIS環境において社内のLAN環境と、汎用のインターネット回線を用いるリモートアクセス機能を簡単に切り替えできることです。つまり、遠隔地にいてもオンプレにあるNEXISサーバにアクセスすることができ、サーバー内にあるシーケンス、ビン、クリップを閲覧、再生、編集することができるのです。クラウドサービスを使用しなくてもクラウドと似た環境を構築することができ、メディアを様々な場所にコピーして分散させずに、オリジナルのメディアを1つの場所に置いて使うことができます。

2つ目は、高解像度メディアとそこから生成されたワーク用のプロキシメディアのメタデータが完全に一致して作られることです。そのため高画質のクリップを用いて編集をしても、プロキシメディアで編集をしても、シーケンスにはどちらのメディアも完全にリンクしており、再生ボタンの切り替えで再生させたいメディアを簡単に選ぶことができます。このシステムでプロキシを作成し、使用することの優位性がいくつかあります。汎用のインターネット回線を介して使用できることがその一つです。そしてプロキシメディアはデータ量も少なくダウンロードするにも時間がかからないため、ダウンロードをしたメディアを使用することができます。いったんメディアをコピーしてしまえば、その後インターネットを接続していなくても、ダウンロードをしたメディアで編集をすることができ、その編集されたビンやシーケンスは、ネットワークのある環境に戻せば、NEXISサーバー内にあるメディアにすぐにリンクすることができます。また、プロキシメディアの優位性はリモート環境で使用することだけではありません。LAN環境でもそのメディアを使うことで、ネットワークの帯域を節約することができます。

ストレージ内のメディアにアクセス

ご自身が社内ではない場所にいる場合、社内にあるNEXISメディアサーバーへアクセスするには通常のNEXISクライアントのリモート機能を使い、アクセス権で管理されたワークスペースをマウントします。Media Composerはプロジェクトの作成画面で、Remote Avid NEXISにチェックを入れて起動します。


📷 NEXISへのリモートアクセス

ビンに表示されているクリップは、プロキシメディアがあるクリップなのかどうかが一目で分かります。プロキシメディアがない場合には、メディア作成権のあるユーザーがMedia Composerからプロキシメディアを生成させることもできます。プロキシの生成は前述したDPが機能するPCで行うため、Media Composerで作業をしているエディターは編集作業をそのまま続けることができ、プロキシが作成された順にそのメディアを使うことができます。この分散レンダリングは、バックグラウンドでレンダリングを行うDP Workerと呼ばれるPCの数で、プロキシ生成やトランスコード等のタスクを分けることができます。そのためDP Workerの数が多ければ処理も早くなります。また、スタジオ内にあるMedia Composerが使用されていなければ、そのシステムもDP Workerとして使うこともできます。


📷 分散レンダリングでプロキシを作成するメニュー 

リモートで接続したMedia ComposerからNEXISストレージ上のメディアを再生するときは、そのメディアの解像度を選択します。NEXISストレージ上にあるクリップには、高画質メディアとプロキシメディアの2つのメディアがリンクされており、Media Composerでどちらのメディアを再生するかを選択することができるため、NEXISストレージに接続されている環境に合わせてメディアを再生できます。


📷 再生のための解像度の選択

みんなでコラボ

NEXIS EDGEへのWebアクセスツールでは、クリップやビンへのアクセスはもちろんのこと、簡単なビデオ編集、クリップまたはシーケンスへマーカーやコメントなどを付ける機能があります。アシスタントからプロデューサーまでコンテンツに関わるすべての人々が、簡単な操作で編集作業を効率的に、そして円滑に共有することができます。一方、そのためにメディアの管理にはいっそう気を使わなければなりませんが、そんなときにもNEXIS EDGEではビンロックの機能によるシーケンスやクリップの保護、視聴や編集機能の有無など、ユーザー単位でシステムの機能を制限することができます。

さらに、NEXIS EDGEのPhonetic Indexオプションを使用することで、クリップ内の音声トラックからのキーワード検索をすることができ、素材クリップとそのキーワード箇所を素早く見つけることができます。この機能はWebクライアントでも、Adobe Premiere Proクライアントでも利用することができます。

SRT対応で機能アップ、Media Composer 2022

📷 Media Composerユーザーインターフェース クリップアイコンがオレンジ表示になっている時はプロキシメディアがリンクされている。

今年になり5Gが本格的に普及し、汎用のインターネット回線を使ってのワークフローは今後も増えていくことが期待されます。Media Composerはバージョン2022.4でSRT(Secure Reliable Transport)に対応しました。SRTは以前の本誌でも何回かご紹介したことがありますが、マルチメディア伝送のプロトコルです。2012年にカナダに本社を置くHaivision社によって開発されました。非常に強力な暗号技術を採用し、高い安全性とパケットロスのリカバリ、高画質であることが特徴で、2017年にオープンソース化され、同時に組織化されたSRT Allianceによる推進のもと、今では世界の多様なメーカーによって採用・開発・実装が行われています。コロナ禍で最初は戸惑っていたWeb会議も日常的になりましたが、環境によって回線速度が異なるため、そういったツールでの画質や音質は最低限に抑える必要があり、とてもリアルタイムでのプレビューチェック向きとは言えません。それを回避するためにYouTubeなどを使用することもありますが、設定ミスから意図せず動画が公開されてしまうというリスクはなくなりません。


📷 SRTの設定画面

そういった問題を解決できるのがMedia ComposerでのSRT送信です。Media Composerは内部でSRTのソフトウェアエンコードを行い、リアルタイムでインタネット越しにタイムラインを送信します。SRTを送信するにはMedia Composer内のH/Wボタンから設定を行い、シーケンスを再生するだけです。それを受け取るには、SRTデコーダーを備えたアプリケーションやハードウェアが必要になりますが、フリーのHaivision Playerや VLC Player等を使っても受信することが可能です。そのため、インターネット回線さえあればMedia ComposerのタイムラインをSRTでプレビューできます。例えば、遠方のクライアントに対してプレビューをする時など、前もってファイル転送サービスでファイルを送ったり、YouTubeの限定公開を使うためにファイルをアップロードしたりすることなく、ZoomなどのWeb会議システムで会議をしつつ、タイムラインをプレビューすることができます。そして、プレビュー中に直しがあってもファイルを書き出し直し、そのファイルのアップロードやダウンロードをし直すことなく、まるで編集室で立ち会っているかのようなコニュニケーションを取ることが可能です。

また、10月にリリースされたMedia Composer 2022.10では、Multiplex-IO機能が搭載されました。この機能は、シーケンスをスタジオでモニタリングしながら、同時にSRTやNDIをストリーミングさせることができるため、以前のようにどちらかに接続先を切り替える必要がなくなります。


より良い作品を作ることに必要とされるのが「どんな作品を作るのかという共通の認識」を持つことだとしたら、一番大切なのはコミュニケーションです。スタジオでの立ち合い編集などで時間を共有させてのコミュニケーションも大事ですが、ライフスタイルの変化によって場所も時間も共有できない時には、それを可能にするツールを使ってみてはどうでしょう。NEXIS Edgeはリモート・ビデオ編集を可能にする製品ではありますが、単に在宅作業を促進するためのものではありません。この製品はそう簡単には増やせない編集室の代わりに、場所を選ばない方法で編集作業を可能にするものなのです。


 

*ProceedMagazine2022-2023号より転載

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*記事中に掲載されている情報は2022年12月28日時点のものです。