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ROCK ON PRO

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Rock oN REAL SOUND Project USER STORY vol.2 ~Mick沢口氏 ノウハウ編~

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2002年よりPyramixを愛用し、高品位なサウンドを提供するだけでなく、常に最新のテクノロジーを高い次元でアートへと昇華してきたUNAMASレーベル代表の沢口 “Mick” 真生 氏。近作では9.1chサラウンドでの音楽制作に取り組むだけでなく、ヘッドホンでサラウンドの音場を自然に再現するためのHPLバージョンも発表するなど、何よりもアートを届けたいと願う沢口氏。先日行われたロング・インタビューから、氏がもっとも重視しているレコーディング/マイキングのノウハウを中心にご紹介します。

INDEX
◎「アート」「テクノロジー」「エンジニアリング」の三位一体が描き出すリアル・サウンド!
◎ 現場から探るマイキングのノウハウ 1 – 大賀ホール編
◎ ブースを使わないスタジオ収録 – カブリも音楽だ!
◎ 現場から探るマイキングのノウハウ 2 – 音響ハウス 1ST編

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◎「アート」「テクノロジー」「エンジニアリング」の三位一体が描き出すリアル・サウンド

ROP:沢口さんにとってのReal soundというのは、ことばにするとどういったものになるでしょうか。

沢口:音楽に限って言えば、ひとつの作品を作るためのチーム…アーティスト、プロデューサー、エンジニア、アレンジャー…そのチームが同じベクトルで出来ないといいものにならない。商業主義だとそれは難しい。表現としてのメッセージとか、音のオリジナリティとかがなかなか出ない。

ROP:まず、メッセージというか、表現したいものが先にないとダメ、と。

沢口:日本の文化環境だと非常に難しいと思う。なぜぼくがそれをできるかというと、UNAMASレーベルというのはぼくがひとりで全部やってるから。もちろん、実際のレコーディングはUNAMASレーベルのコンセプトに共感して、ボランタリーで参加してくれるひとたちが入ってくれて成立してるんだけど。

ぼくはいつも3つの大きなコンセプトをバランスさせてプロジェクトをやる。第一優先はアート。ふたつめはテクノロジー。三つめはエンジニアリング。この三つの「最先端」をどうやって組み合わせるかということを考えている。

ぼくは「ビンテージ」とか、そういうものでやるっていうのが好きじゃない。機材はいつもカッティング・エッジなものを使う。使い慣れたもので、もう分かりきった音が出ても面白くない。リスクを負っても、カッティングエッジなもので音を作るという、ぼくはそっち系。

アートについても、ぼくはプロデューサー兼だから、誰でも想像するような音楽は作りたくない。クラシックに関して言えば、昔からあって誰でも知ってて、曲名を聴いただけですぐイメージ出来る、っていうのが今までのクラシックの概念だよね?ぼくはそれを壊したい。「え?このスコアからこんな音楽になるんだ!?」っていうのがやりたくて、毎回違うアプローチをしてる。

このアートという部分をどうするか、というのは、言い方が悪いかも知れないけど、商業主義のひとたちとはちょっと別のところで、音楽とかサウンドの本来あったものはどうだったのか、ということを、最新の技術、最新のエンジニアリングで表現したいっていうのがぼくの思い。

そのためには日頃から一番自分たちにあうツールというものをアンテナ張って勉強しておかないといけないし、自分で使ってみて判断もしなきゃならない。ぼくは去年の『The Art Of Fugue』から、デジタルマイクをメインに使い始めたんだけど、いきなりある意味リスキーだよね?クライアントがいる仕事だったら多分誰もやらないよね。それは、ぼくが全部最終的な責任を負えるから出来る。

ROP:単純に「レコーディング・エンジニア」という立場だったら、判断は別のところにありますものね?

沢口:ぼくはよく言うんだけど、「レコーディングというのは覚悟だ」って。それはなにかというと、レコーディングが始まる前に十分に考えて、自分の中で「これだ!」と思えるところまで考えてからレコーディングする。そしたら、レコーディングに行った時にはもう、アーティストが淡々とやるのを聞いてればいい。というのがレコーディング・エンジニアだと言ってるんだけどね。

レコーディングが始まる前までに「これだ!」って思えるあらゆることを自分で決めて現場に臨むというのが、ぼくは覚悟だと思う。よく、あれもこれも色々立てて後から選択しますっていうようなことをよくやるんだけど、そうすると、音楽がよくならない、絶対に。

ROP:沢口さんは1セットしかマイクを設置しない?

沢口:そう。これ(『Dimensions』)は9chだから、マイクは9本しか立ててない。
アンビエンスは大きめに取っておいて、多少いじるということはあるけど、録りの段階で出来上がりのレベルまで想定して組んでるから、ミックスでもフェーダーすらほとんどいじらない。

ROP:レベルはマイクと演奏者の距離で調整してる?

沢口:そうだよ。マイクの位置と、あとは演奏者の配置ね。頭の中でもう最終形のバランスがFixされるまで考えとくのよ、ぼくなんかは。

ROP:ミックスの作業というのは確認程度ということでしょうか。

沢口:そうね。あと、現場ではステレオでしか聴いてないから、本当にこうなってるかなって(笑)

ROP:もし、意図したものになってなかったら。。。

沢口:それはもう自分の覚悟が十分じゃなかったってことだよね。普通のひとはそれが怖いから、いろんなマイクを立てて後で選択しますとか言うんだけど、それをやると、なんか死んじゃうんだよ、音楽が。後々の材料として色々録っておくっていうのはまた別だけどね。

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現場から探るマイキングのノウハウ! – 大賀ホール編

2015年12月16-17日 @軽井沢 大賀ホール

『Four Seasons』、『The Art Of Fugue』、『Death And The Maiden』の一連のクラシック作品、そして大賀ホールでは自身初のソロ・ピアノ収録となった最新作『Dimensions』。これらの作品の大きな特徴は、「スピーカーとマイクが1対1」というコンセプトだ。つまり9.1chの場合、9本のマイク(場合によってはLFE用にもう1本)によって収録され、システムを構成する各スピーカーにそれぞれのトラックが100%パンニングされる。
それを可能にしているのが、vol.1でも紹介した「レコーディングは覚悟だ」という氏のことばだ。氏はレコーディング当日まで、スピーカーから流れる完成形と、それを実現するためのマイキングや奏者の配置について、徹底的に考え抜くのだという。

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2015年暮れに行われた『Death And The Maiden』レコーディング時に実際に使用されたセッティング図。画像左側がステージ、右側がモニター・ルームとなっている。

Microphones Mic Pre Amps
L:Neumann KM 133 D(1st Violin) デジタル・マイク用:RME DMC-842
C:Neumann KM 133 D(Contrabass) アナログ・マイク用:RME Micstacy
R:Neumann KM 133 D(2nd Violin)
Ls:Neumann KM 133 D(Cello) I/F
Rs:Neumann KM 133 D(Cello) RME MADI Face XT
Lh:Neumann KM D + KK 131
Rh:Neumann KM D + KK 131 DAW
Lhs:Sanken CO-100K Merging Pyramix Native 10
Rhs:Sanken CO-100K
LFE:AUDIX SXC-25 Power Supply
ELIIY Power Power YIILE PLUS

Hall long
収録時のステージ全景。沢口氏のサウンドを決定的に特徴付けているのが、明確な音像と完璧に共存する自然な空気感だが、そのサウンドの秘密はアンビエンス・マイクの設置にある。UNA MASレーベル作品でのリバーブ成分はほぼすべてアンビエンス・マイクで録られた生のもので、アウトボードやプラグインによるリバーブの付加はほとんどない。
この日もステージ間際から客席に向けて(!!)アンビエンス用のマイクが立てられているが、これらのマイクは4本のハイト・チャンネルにそれぞれ100%割り当てられ、サウンドに深いリアリティを与えている。
STAGE 05 LONG
ステージ中央に円周状に配置された奏者を5本のマイクで狙う。メインとなるこれらのマイクはすべてデジタル・マイク。沢口氏曰く距離感の把握が難しいが、みなさんにぜひ試してほしいマイクとのこと。
コントラバスに追加で立てられたSXC-25は、他の低域成分とともにLFEチャンネルに送られている。

stage batt
もともとは家庭用電源を製造しているELIIY POWER製のバッテリーですべての機材を駆動。「S/Nが抜群によくなった」「言ってみれば蒸留水のようだね」と、沢口氏もいたくお気に召されている様子。大賀ホールというロケーションに加え、わざと雪が降る時期に録るという選択も「空気のS/Nがまったく別物だから」という理由で、アナログ時代から音と深く関わってきた方ならではの観点だと思わせられる。

◎ブースを使わないスタジオ収録 – カブリも音楽だ!

ROP:基本的にブースを使わないっていうのがすごく特徴的なコンセプトですが、なぜそうするのでしょう?当然マイキングも難しくなると思いますが、注意点などはありますか?

沢口:ぼくはジャズとクラシックしかやってないから、ほかのはなんとも言えないけど、ジャズに限って言えば…ぼくはアル・シュミットっていうエンジニアが大好きなんですけど、彼が機会あるごとに言ってるのは、ジャズっていうのはミュージシャンがお互いに息を感じられる距離まで寄せて、なるだけセパレートしないで録るのが一番いいってこと。

ぼくもそういうのに共感するし、じゃあ、アル・シュミットが実際どうしてるのかっていうと、彼のマイキングの資料とかは探せばいっぱいあるんですよ、今は。そういうのを注意深く見ると、なるほど、そうしてんのかっていうのがよく分かる。ビデオもいっぱいあるしね。最近作だとポール・マッカートニーがキャピトルで録ったアルバムなんかに映像もたくさん付いてるから、アル・シュミットがドラムどうしてんのか、ピアノどうしてんのか、ベースどうしてんのかとかね。全体の配置はどうしてんのかとかね。もう、見れば分かる訳ですよ。マイキングの資料なんか、いまはたくさん出てるから。要は、それを「あ~、そうなんだ~」とボーっと見るんじゃなくて、彼はどういうサウンドにしたかったのかということを分析しながらマイキングの図を読むっていうことまでできるようになると、なぜそうしてるかということが非常に明確にわかるんだよね。
近作のアル・シュミットでいうと「えー!バック・トゥ・ベーシックだなあ」と思ったのは、ボブ・ディランがシナトラに捧げたアルバム(「シャドウズ・イン・ザ・ナイト」)を去年出したんだけど、それのマイキングなんかは、もう超シンプルなんですよね。バンド+ブラスなんだけど、キャピトルのスタジオはバンドが真ん中にいて、ブラスだけは離れたブースに入れてる。ブースに入れてるんだけど、ブースのドアは開けていて、ブラスにマイクは立ててないんだよ!バンドに立てたマイクに入ってくるカブリだけで録ってる(編注:正確にはブラスにマイクは立っているが、生かしていない様子)。彼はすごいベーシックなところに戻ってて、「すごい、面白いレコーディングのコンセプトだな」と思ってね。
そういうことに興味を持っていろいろと調べていくと、アル・シュミットのマイキングのコンセプトに共通するものがだんだんわかるようになってきた。だから、ぼくもジャズの場合はミュージシャンが極力近くにいて、自分たちでバランスが取れて、自分たちで阿吽の呼吸でコミュニケーションが取れる環境を作ってあげる、というのが第一だね。それはアートを第一にしてるからなんですよ。

その次に「え?ドラムの横にペット(トランペット)とかいて大丈夫なの!?」と普通のエンジニアだったら考えるじゃないですか。そこは、そういう近場でいかに綺麗なカブリを録るかという方に…カブリを嫌うんじゃなくて、いかに綺麗なカブリを録るか、という方に発想を変えるんですよ。
そして、カブリを綺麗に録るためには、軸外特性のいいマイクを選ぶといいと思いますよ。ぼくが使ってるSanken CO-100Kはそれが綺麗。そういう意味では、御社が代理店してるEarthworksも向いてると思うよ。
ドラムだって、ぼくはジャズの場合はトップの2本だけでほとんどメインの音を録りますので、12本も16本も、ってガバガバ入れてね、あとでミキシングでどっかのチャンネルは位相をひっくり返してどうのこうのとかね、EQしてとかね、…文章読めば「すげえことやってんな」って思うかも知れないけど、ジャズの場合はそこまでやらなくてもいいから。もう、トップの2本の位置さえ決めれば、バランスよく入るんですよ。ジャズのドラマーって上手いからね。自分でバランス取れるから。

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ROP:マイクの位置について、一貫したコンセプトはありますか?

沢口:ぼくの場合は、カミさんがやってるジャズ・クラブ UNA MASがあったっていうのが助かったよね。あそこで色んなマイクと色んなマイク位置を試して、この楽器でこうだったらここらへんだとこういう音になる、っていう引き出しをね、あそこで勉強して、スタジオでやるときにそれを反映していくというやり方をしてるんだけど。
基本的にはジャズのドラムだったらここら辺(下部囲み記事参照)にワンポイントで置けば、(演奏者が)プロだったらいい音になるなっていうのがわかるようになってきましたので。基本的にはそこに置いて、多少ドラマーによって大きい小さいがあれば、ちょっと上げるか下げるかくらいは。1、2度は修正に行きますけど。

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そうやって試行錯誤した結果だから、(ダイヤフラムの位置が)きれいに揃わないんですよ。理屈で言うひとからはオカシイって言われるんだよね(笑)。だけども、それでジャズらしい音になるんだから、別に理屈に合わなくてもいいな、っていうのがぼくの主義だからさ(笑)。変な音になってなきゃいいや、って思ってる。
基本的にはピアノ・トリオのサウンドをどうするかっていうところで言えば、そういう実験をして、色んなマイクでやって、だいたいのことがわかったものを、スタジオでは「エイヤ!」でやるっていうね。
スタジオに行ってから「ごめん、これやっぱダメだからマイク変えよう」とかね、位置をいろいろ動かしたり、ドラマーに30分も40分も叩いてもらって音を決めるとかっていうようなことは、しない。それは、アートのパワーが落ちちゃうからなんですよ。エンジニア的にはパーフェクトかもしれないけど、アーティストとしてはパワーが落ちちゃうから、なるたけファーストテイクを早く録って、自分たちの感じを最初に聴いてもらうっていうのが、大事だと思う。
それはアル・シュミットもそう言ってる。彼は「ぼくは録る時までにほとんどのことを決めてるから、録るのもサッと録れるし、ミックスダウンなんか1アルバム3時間くらいで終わるよ」って言うんだよね。なんもしないから(笑)。それは、彼がやっぱり考えてるからだと思うんだよね。ぼくもそういうことを見習ってずっとやってるから、スタジオであまりウロウロしないし、いろんなこともしない。

現場から探るマイキングのノウハウ! – 音響ハウス 1ST編

2014年9月16日、18日 @音響ハウス 第1スタジオ

レコーディング・スタジオでの収録にもかかわらず「ブースを使用しない」という荒技でレコーディングを行う沢口氏。この手法は、氏が尊敬して止まない、アル・シュミットの技法から学んだものとのこと。ジャズ・バンドの録音となると各トラックを各チャンネルに振り切り、というわけにはいかないようだが、各楽器の配置とマイクの選定により、やはり録りの段階でほぼ完成形のミックスに仕上がっている手腕はさすがとしかいいようがない。

しかし、こうしたサウンドが録れるのは沢口氏が天才的な勘を持っているからではなく、長い時間をかけたトライ&エラーの成果である点は見逃せないだろう。この日のレコーディングも、最終的なサウンドのイメージを固めるために、同じメンバーでのライブの現場に足を運んだそうである。氏のこうした下準備のおかげで、ミュージシャンがサウンド・チェックで疲弊してしまうことを避け、彼らから100%集中したパフォーマンスを引き出していることもUNAMASレーベル成功の秘訣だろう。

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スライド2

こちらも現場で実際に使用されたセッティング図。当日はギター・トリオがリズム・セクションを務めるピアノレス編成のワンホーン・カルテットということで、全員が中央に集まっての収録となった。図下方向がコントロール・ルームで、ベースのみ正面のブースに入っているが、ブースの扉は開放されている。これは沢口氏が敬愛するアル・シュミットが『Shadows In The Night / ボブ・ディラン』でブラス・セクションを録るのに使用した方法を参考にしている。
アンビエンスには沢口氏のレコーディングではおなじみのSanken CO-100Kが使用されている。

 
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Trumpet
RCA 77DX(カーディオイド)
Neumann U-67S(カーディオイド)

トランペットは2本のマイクをほぼ1対1でブレンド。クリアな音像を確保しながらも豊かな空気感を得るために、楽器から1mほどの距離を取ってセッティングされている。沢口氏によると、この組み合わせだとEQなどを施さなくても原朋直氏の音になるとのこと。いつものごとくこの組み合わせはあらかじめ決めており、当日にあれこれ試行錯誤することはないとのこと。レコーディングに先駆け、当日と同メンバーによるライブに足を運び、実際の音を確認した上での決定ということだ。



 
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Drums
Top L/R:AKG C452
Snare:AKG C452S
Kick:AKG D112、Mojave MA-301fet

ドラムのマイキングは当時の沢口氏定番ラインナップとなっている(現在はトップがMicrotech Gefell M300)。比較的新しいブランドであるMojaveがKickにセットされている以外は、すべてAKGという仕様だが、細部に沢口氏ならではのこだわりが伺える。トップとスネアにはC451ではなくあえてC452が使われており、スネアに立っているものは高域が上がったSカプセル仕様となっている。「なんでそうするかというと、EQしないでもスネアらしい音になるからなんですよ。ブラシとか。マイクの特性でEQをしちゃう。これもアル・シュミットの考え方だよね。」とのこと。
また、ハイハットやタムへのオン・マイクは立てておらず、ほとんどをトップの2本で収録するというが、カプセルの向きもダイヤフラムの位置も揃っていない”いびつな”セッティングとなっている。L側はスネアとハイハットの真ん中くらいを狙える角度、R側はトップ・シンバルとフロアタムの真ん中くらいのところを狙っており、さらに、R側はフロアタムをクリアに収録するためにL側より低い位置にセットされている。
Kickもスネアも比較的オフ気味にセットされているのは、やはり空間のニュアンスを収録したいという意図からであるという。

 
ラフ-GT-XY02

Guitar
Octava MK012 x2

ジャズのリズム・セクションはピアノ・トリオが務めることが多いが、当日はピアノの代わりにギターが入った編成。ピアノに比べて音像感の低いジャズ・ギターをどのように録るかが課題となった。沢口氏の手法は2本のマイクをモノミックスせず、ステレオで使用するというもの。こうすることでコンテンポラリー・ジャズギターの王道である「空気感を作る」という役割をリアルに再現することが可能だという。
マイクにはOctavaがチョイスされているが、氏いわく「Octavaのマイクって音がちょっと薄汚れてるんだよ。だからギターにちょうどいい(笑)。クリア過ぎなくて、それでいて音はちょっと立つんだよ。」とのこと。録音後の処理に頼らずマイクによって目的のサウンドを作り上げる氏のコンセプトが反映されたチョイスと言えるだろう。

 
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Bass
DPA d:vote 4099B
Audio-technica AT4080

ウッドベースにはもはや業界標準とも呼べるDPA 4099がセッティングされているが、空間を重視する沢口氏は必ずオフ気味にもう一本のマイクを立てる。空間を捉えるためのマイクには特に定番はなく(Audixが多い気がするが)、この日はAudio-technicaのリボンマイクが選ばれた。
「以前は全部1フロアでやったんだけど、さすがにドラムのカブリが多いなってことで」当日はベースのみブースに入っての録音となった。しかし、ブースの扉は開放されており、ほかの楽器からの適度なカブリを録ることに成功している。アイデアとしては氏の敬愛するアル・シュミットを参考にしているようだが、アル・シュミットが「ブースから漏れる音を録る」ためにこの手法をとったのに対して、沢口氏は「ブースへのカブリの度合いをコントロールする」という逆向きの発想である点がミソだろう。


いかがでしたでしょうか。最終的な音場を正確に予測し、徹底的に「録り音」にこだわる沢口氏。その背景には、膨大な手間と時間をかけた実験に裏付けられたマイクやルーム・アコースティックの特性に対する、幅広い理解があるように感じました。そうした努力によって得たノウハウを惜しみなく提供する懐の広さは、若い頃から積極的に関わってきた海外のプロたちからの影響なのだそうです。
REAL SOUND Projectでは、これからもみなさまにカッティング・エッジなノウハウを提供していきます。8月にはDSDをテーマにしたセミナーを予定しています。詳細はまたこちらのサイトで公開しますので、ぜひご参加ください。

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*記事中に掲載されている情報は2016年07月15日時点のものです。