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Refference Condenser Microphoneで知る 魅惑のフィールドレコーディング

Proceed Magazine 2012 Summer

Refference Condenser Microphoneで知る

魅惑のフィールドレコーディング

フィールド録音という分野は、最近では小型のメモリー・レコーダーの普及により静かな人気を呼んでいます。フィールド録音に精通している人の中には、「はまったときのフィールド録音は音楽録音よりも気持ち良くなることがある」と言うほど魅力的な要素があるようです。多くのメモリー・レコーダーはマイクロホンが内蔵されていて、手軽にどこでも録音が出来るようになっています。フィールド録音において一番重要と考えられるのはマイクロホンです。内蔵マイクロホンは確かに便利なのですが、外部の高性能なマイクロホンを使うとより豊かな自然音の響きが収められるため、状況が許せばなるべく高性能なマイクロホンを用いて収録に臨みたいものです。

リファレンス・コンデンサーマイク比較試聴

このたびメディア・インテグレーションさんのご提案により、高性能なコンデンサー・マイクロホンをフィールドで試す機会に恵まれました。普段テレビ番組の収録などでは画面のセンターがとても重要なため、ガンマイクロホンを使用することが多いのですが、じっくり腰を据えて録音が出来る鑑賞用の音源に向き合うときにはリファレンスなコンデンサー・マイクロホンを選びたいところです。今回は、Earthworks、DPA、Sankenの高性能なコンデンサー・マイクロホンを試し、フィールドで同時録音をして比較試聴することにしました。コンデンサー・マイクロホンには近くの音源を対象としたものと遠くの音源を対象としたものがあります。今回のマイクロホンは後者です。フィールド録音では、対象となる空間が広いため、遠くの音源を収音できて、空気の細かな振動を的確にキャッチできる高性能なものが必要になってきます。このキャッチできる振動が細かければ細かいほど、再生される音は豊かな響きをもたらします。

テスト録音に際しては、長野県の戸隠高原へ出向きました。この地は、野鳥の繁殖に適した環境があり、様々な野鳥の声に出会えます。また、季節は雪解けの時期だったため、雪解け水がとても良い雰囲気の小川のせせらぎを創り出していました。野鳥が一斉に鳴き出すのは、夜明け前の薄暮の時間帯です。辺りが真っ暗な状態から、熊よけの鈴を腰に付けて準備に取りかかります。空が白々と光を感じ始める頃、一番鳥が鳴き始めます。普段、初夏の時期に最初に鳴き出すのはホトトギスなのですが、今年、とても寒い冬を過ごした高原は、未だに冬の気配を残しており、夏鳥はまだ訪れていませんでした。しかも標高1200mの夜明けの時間帯はかなり冷え込みます。そのため、極めてセンシティブなコンデンサー・マイクロホンはコンディションが優れず、けっこう困難な収録となりました。初日にトラブルが発生したために、翌日の収録に臨む際には、体温を使ってすべてのマイクロホンを事前に暖め、収録直前に取り付けました。

実際のサウンドはいかに?



用意したマイクロホンは全指向性の、Earthworks QTC50mp、DPA4006A、Sanken CO-100Kです。オーディオ・インターフェースにヘッド・アンプを内蔵したMetric Halo ULN-8を使用し、カーバッテリーで12V駆動しました。レコーダーはMacBook Proで、DAWはSteinberg NUENDOです。収録音源を試聴してみての印象ですが、どれもすばらしく豊かな響きをもたらしていました。3機種ともに高感度で、十分に自然空間の繊細な音を捉えていました。3機種の中でもSanken CO-100Kの感度は抜群で、他2機種より3dB前後良かったです。DPA4006Aは、高域になればなるほど指向性があるせいか、高周波数帯域付近のノイズ成分が押さえられ、スッキリとした音をしていました。周りの環境がとても静かで、静寂な空間を表現するような収録に臨む場合、またフロント方向に目的とする音源があるシチュエーションではとても有効です。Sanken CO-100Kも高域に指向性を持っていますが、DPAよりも高域の響きを感じます。



Earthworks QTC50mp



DPA4006A



Sanken CO-100K

Earthworks QTC50mpは、周波数特性のグラフを観ると、50kHz付近までフラットで高周波数帯域でも全指向性のポーラパターンを描いています。しかし、印象としては高域の成分がかなり多く感じます。6800Hz付近をEQ補正してあげると治まりの良い感じになります。DPA4006Aは、一番クリアな音空間を創り出しているように感じましたが、高域の背面の音が少ない分、響きの豊かさは押さえられていると言えるかもしれません。しかし、高域成分と響きの豊かさとのバランスは、どちらを取るかという選択になるでしょう。3機種ともに、細かな空気の振動を捉え、自然環境の空間を再現するという点においては素晴らしいものでした。



小川のせせらぎに関しては、一番好みの音色だったのはEarthworks QTC50mpでした。柔らかくてなめらかで、小川の水音らしい音色(ねいろ)になっていました。静寂な森林の野鳥の声の収録時に気になった高域成分も広帯域の周波数成分を含む水音に消されて気になりません。水音のような広周波数帯域の成分を含む音源では、QTC50mp の様な高周波数帯域も全指向性であるマイクロホンの音色が一番自然に感じられたのかもしれません。もちろん他の2機種も複雑な水音の粒子を十分捉えていましたが、線が細かったり、別の周波数帯域に照準が合っているような印象でした。しかし、それも微妙なニュアンスなので、人によっては好みが分かれるでしょう。



全指向性のマイク以外に単一指向性のマイクも用意してありましたので、それぞれ録音しました。Earthworks SR40とDPA4011Aです。単一指向性のマイクロホンは定位に優れ、ステレオX-Y方式のように、L、Rの位相差が適切な割合のときには音場が立体的に感じられます。しかし今回の録音では定位より広がり感、心地良さを求めたため、少し間隔を開けて設置しました。全指向性のマイクロホンに比べると捉える空間の範囲が狭いのですが、音色としては水音の粒立ちが際立ってきます。わりとハッキリした音になるために、目的に応じて使い分けることが出来ると思います。例えば映像作品用の音源の場合には映像の構図、アングルによってタイトな音、ワイドな音を当てはめたり出来るわけです。

さらにサラウンドで試聴



手作りのマイクアレイでサラウンド収録

今回、小川のせせらぎでEarthwaoksが自分好みの音色をしていたので、サラウンドでも録音してみました。最初はマイクスタンドに一本一本立てていたのですが、音源からの距離が近いと感じたため、上の写真のような手作りのマイクアレイに組んで、上空2.7mの高さまで上げることにしました。 もっと高くしたかったのですが、頭上には木の枝がひしめいており、この高さが限界でした。音源との距離が離れると、マイルドで広がりのある音色になります。サラウンドでマイクアレイを組む際には各マイクロホン間のかぶりに注意しなければなりません。かぶりが多いと厚ぼったい音になってしまいますし、かぶりが無いとつながりが感じられません。決まったマイクロホンの間隔(距離)があるのかというと、それも対象音源によって異なります。また、フロントとリアで種類の異なるマイクロホンを選択した場合には、一貫した一つの音響空間と感じられない場合があります。今回の様に川幅の狭い小川の場合は、フロントのL、Rの距離は約1.5mに設置しました。リアの間隔はもっと広くしています。各マイクの間隔に関しては、過去の様々なマイキングで録音された音源を聴かせていただきましたが、本当に千差万別で、中には素晴らしい響きを感じさせてくれるものがいくつもありました。そのときに思ったのは、自分が収録に臨むシチュエーションでは、基本や過去のデータに基づいて試行錯誤が必要であること。それに、ケースごとに適切なマイクロホンやマイキングが違うことです。

テスト録音したこれらの音源は、Rock oN Companyの店舗にて試聴することが出来ます。興味のある方は、渋谷に足をお運びください。フィールドでこのクラスのマイクロホンを試すのは一つのチャレンジです。本来は室内での使用を想定して作られているマイクロホンは低温や多湿などの悪条件ではなかなか本来の性能を発揮してくれないことがあります。しかし、さまざまな条件を頭の中に入れて、気を遣って収録に臨めば、身震いするような素晴らしい響きをリスニング空間に届けてくれます。今後も機会あるごとに、リファレンスなマイクロホンでのフィールド録音に挑戦したいと思っています。

土方 裕雄(ひじかた やすお)

昭和39年1月13日生まれ
現在フリーランス ビデオ・録音エンジニア

 
<日本映画テレビ技術協会 日本テレビ技術賞 技術推奨賞受賞
2000年度・BSi開局記念特別番組「大アフリカ 生命(いのち)篇」の録音と音響効果

略歴

1984年3月 音響技術専門学校卒業
1985年1月 フリーランスのビデオエンジニアとして業務 ドキュメンタリー、ドラマ、Vシネマ など
1991年4月 (株)アイオス所属 一年おきにナイロビ(ケニア)支社業務
2003年3月 フリーランスのエンジニアとして活動中


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*記事中に掲載されている情報は2012年07月11日時点のものです。