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ROCK ON PRO

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マスタークロックをみてみよう!!〜Chiba☆Labs 第4回!その3


連載第4回です。前回をwebにアップしてから実に一年以上経ってしまいましたが、番外編があったり、とあるものを開発したりと色々ありまし たので、そこら辺は勘弁して下さい。で、久々の本編はやはりアナログチックな話に戻ってマスタークロックジェネレータです。どこがアナログなのかは以下の 内容を読んでいただければ理解できると思います。では、いってみましょう。
文:ROCK ON PRO 千葉 高章

〜測定結果まとめ〜

いかがでしたでしょうか?SyncroGeniusとOCX-Vでは、全項目においてSyncroGeniusの方が文字通り1桁高い安定度を出していました。OCXOという同じくくりのモジュールを採用していても、モジュールの機種も違いますし、モジュールの発信周波数から目的の発信周波数を取り出す回路設計も違います(モジュール自体の発信周波数は製品として出力する周波数の256倍以上あるのが普通)。なので製品として性能の差があるのは当然のことです。今回の2機種では、価格や製品自体の志向から恐らくSyncroGeniusの方が性能が高いであろうと思ってはいましたが、結果として1桁上で、さもありなんといった感じでした。さすがにSyncroGeniusはOCXOを用いたクロックジェネレータの中で、トップレベルの安定度を誇っているだけのことはあります。
 
とはいえ、一つ絶対に誤解して欲しくないのはOCX-Vはクロックジェネレータという製品カテゴリの中で別に性能が低い部類に属するものではない、ということです。OCXOを用いた製品の中では明らかに平均値より上の安定度を保持しています。ましてや、OCXOより下位のモジュールを使用しているモデルとは比べものになりません。性能的には少し前の50万円位の製品と同等と思ってもらって間違いないです。そういった意味で、実は今回測定して一番感じたのは「2機種ともコストパフォーマンスがやたら高い」ということだったりします。SyncroGeniusもOCX-Vも、HD以前の時代でこの安定度だったら間違いなくこれより20~30万円は高かったろうなと。

さて、今回の測定について、周波数の変動については細かく見ましたが、周波数の値が理想値からどれだけ外れているかについては問題にしていません。なぜなら、校正済みのGPS-12Rのような機種からクロックを受ければ中心周波数のズレは一瞬で解消されるからです。図11がSyncroGeniusのGPS入力端子にGPS-12Rの出力を接続した結果です。中心周波数のズレはSyncroGenius単体の時、カウンタのリアルタイム表記が95,999.956,089,3Hzですからズレは0.0439Hz=0.457ppm、GPS-12R接続時でズレが0.0007161Hz=0.00746ppmですのでGPS-12R接続時は中心周波数の確度が61.3倍向上しています。実は今回、GPS-12RをSyncroGenius、OCX-Vそれぞれに接続し、その測定も行ったのですが、ものの見事に失敗しました。理由は図11のMinとMaxを図10の結果と比較するとわかるのですが、明らかに単品で測定したときよりも、GPS-12Rを接続したときの方が変動が大きくなっています。これはSyncroGenius内でクロックソースをInternalからExternalに切り替える際の変動を反映してしまったためです。クロックソースをGPS-12Rにしてから半日ほどおいて測定すべきだったのですが、速攻で測定してしまい上記のような結果になってしまいました。今回はちょうど紙面も足りなくなってしまいましたので、ま、結果オーライってことで(?!)。
 
今回の測定は数値の桁が多く、慣れていないと実感が湧きにくかったかもしれませんので、図10の変動の大きさを例に、日常的な言い方で表記すると、SyncroGeniusの周波数変動幅は96kHzに対して10億分の172でOCX-Vが1億分の129です。2機種とも高い性能を示していることがおわかりいただけたでしょうか?

〜更に精度を上げてみよう〜

前項の実験でSyncroGenius、OCX-Vをクロックマスターにした時に、どれだけの精度が出るのかを測定しました。現実問題としてあれだけの精度が出ているクロックで十分な気もしますが、更に精度を上げる方法があります。

図11でGPS-12Rをクロックマスターにした時の例を紹介しました。GPS-12RをマスターにすればSyncroGeniusをマスターにした時よりも更に精度の向上が見込めます。
具体的には図10の測定結果を用いるとSyncroGeniusの周波数変動幅は0.000165Hzでした。それに対しGPS-12Rは96kHzを出力できると仮定した場合、0.00000048Hz(カタログスペックの計測時間100秒の周波数変動@アラン分散=5×10-12から算出した値)なので、測定条件とデータ処理方法が違うため単純比較はできないことを鑑みても、2桁位の向上は期待できそうです。

GPS-12Rをマスターにした場合はルビジウムマスターになりますので、かなりリッチな感じになりますが、この環境ではGPS-12Rを使う意味があまりなかったりします(精度が上がっている時点で意味は十分にある、という見方は置いといて)。GPS-12Rが、その本領を発揮する環境、それはGPSアンテナを繋いだ時です。GPSはいうまでもなくGlobal Positioning System(全地球測位システム)のことで、米国が打ち上げた衛星31基により衛星との間に遮蔽物がなければ地球上のどの緯度、経度でも6基以上の衛星を利用できるようになっています。GPSといえばカーナビを思い浮かべる人が多いと思いますが、実はGPS衛星は高精度のセシウム発信器を用いたクロックジェネレータであったりします。ですので、我々が普段利用している携帯や、テレビ局のクロックマスターも実はGPSだったりします。
 
さてこのGPSクロックですが当然衛星軌道から電波という形で地上に供給されています。従って、その電波を受け取るためのアンテナが必要になり、図12左上の謎の形をしたものがそれです。GPSアンテナの出力をGPS-12Rに接続すると画面に何個の衛星にロックしているかが表示されます。渋谷区神南にある弊社店舗前で実験したところビルの谷間という悪条件にも関わらず、5個の衛星にロックしました(本当はGPSマスターの状態での測定も行いたかったのですがアンテナ線をサーバールームに引き込むことができず断念しました)。
 
さて、先述した通りGPS衛星はセシウム発振器のクロックマスターな訳ですが、セシウム発振器は他の発信器とは違う位置付けになります。ここまで挙げたTCXO、OCXO、ルビジウム発振器は全て二次周波数標準器と呼ばれます。二次周波数標準器は全て校正が必要です。例えばSyncroGeniusは1年後の周波数誤差0.7ppm以下、10年後で4ppm以下と確実に出力の中心周波数がズレていきます。このズレを修正しメーカーの出荷基準を満たすようにする作業が校正で、校正は一般的に有料です。ルビジウム以下の発振器を使用している全てのクロックマスターは10年後には出荷基準を満たしていない状態になるともいえます。
 
それに対して、セシウム発振器は一次周波数標準器です。一次周波数標準器は二次周波数標準器の校正に用いられ、メンテナンスフリーであるとされます。従って一次周波数発信器であるところのGPSをマスターにしさえすれば、中心周波数の確度は10年後も補償され、GPSアンテナ以下のクロックマスターに関しては校正不要ということになります(厳密には確度のみが補償され、安定度に関しては修正が必要になりますが、安定度の修正は修理扱いになり、校正ではないため)。このように、GPSマスターは現行規格の最高級の安定度を得ることができます。しかも、クロックマスターは無料で!一軒家にお住まいの方や、エアコンの通線孔を使えば何とかできそうな人は是非チャレンジしてみて下さい。…っていうか、単純にクロックがリアルにサテライトリンクしてるって格好良くないですか?(笑)しかし、どうしても予算がない、が、やる気だけはあふれちゃってる人はz3801かthunderbolt gpsでググってみて下さい。 質問は受け付けかねますが (笑)

〜どこの世界にも卵を立てる人はいる〜

さて、ここまでの流れは割と正当派なクロック環境についてでしたが、この流れは「温度変動で出力が変化するなら、その変動が無視できる位モジュール自体を暖めりゃいいだろう、更に高温状態を保持しやすいように恒温槽に入れりゃバッチリだ」みたいな根本的にはあまりインテリジェントでない発想に基づいてできています。こういった力業の流れは往々にして巨大なシステムに行き着きます(それがすべて悪いといっているわけじゃないんですが)。けどもしも、10-12とかの精度はハナから捨てる代わりに、自分自身のクロックを常に監視、補正する発振器があったらどうでしょう?
 
それこそ、校正、メンテ不要で、常にその製品の仕様の範囲内で安定しているクロックジェネレータではないでしょうか?温度がいくら変動しても(あくまで常識の範囲内でね)、自身のクロックを常に補正していますから問題にならないので、従ってヒータも恒温槽も不要となり、当然電源部分を含めた実装面積も劇的に縮むでしょう。今まで挙げてきた機材は自身の安定度を補償するためにある程度の実装面積、筐体の大きさが必要で、それ故専用機として存在していました。しかし、このクロックジェネレータなら例えばオーディオインターフェースに組み込むことだってできるかもです。

そんな、ある意味、夢のクロックジェネレータを組み込んだ機器があります。というか、この記事を読んでいる人なら皆知っている製品です。それがRMEの製品群です。
SteadyClockと呼ばれるこのクロックはRMEのMADI BridgeとMADI Converter、 Multifaceシリーズ(1、2、AE)を除く全ての製品に実装されています。が、何故か世間的に重要視されていないようです。というのは、Firefaceの音質についての質問は今までの人生で100回以上は受けていると思うのに、SteadyClockに関する質問はただの一度も受けたことがないからです。いうなれば、皆さんクロックに無頓着でいらっしゃる?という感じです。SteadyClockに関してはRMEの製品紹介ページで詳細な説明がありますので、そちらに譲りますが、このSteadyClockをマスターにすると図13のようになります。
 
どうですか?いや別にFireface400じゃなくてもいいんですがね。図13は図1と比べて確度、精度ともに確実に向上します。しかも今ならFireface400は 12/31までの期間限定特別価格で弊社なら129,800円税込みですよ。クロックの精度は上げたいけど、予算も手間もあまりかけられない方には間違いなくベストなクロックマスターだと思います。ただし、先にも記述しましたがSteadyClockは10-12とかの精度を狙った製品ではありません。例えていうなら「近くで見ると超細かく揺れてるけど、ちょっと離れてみたら直線だよね」といった感じです。また、RME製品は外部クロック入力に対してSteadyClockによるRe-Clockがかかります。実際、過去にFireface800のクロックマスターをSyncroGeniusにして試したことがあるのですが、マスターの有る/無しで測定値が全く変わりませんでした(もちろん聴感上も変化無し)。
 
ここら辺は、かなりの安定度を組み込み可能というレベルまでダウンサイジングしたが、それ以上の安定度にはならないという、ある意味トレードオフな関係になっていると思われます。しかし、上記欠点があるにしても、単品のクロックジェネレータではなく、ある製品の一機能として有しているクロックとしてはSteadyClockは間違いなく最強といえます。

〜最後に〜

今回の記事はいかがだったでしょうか?クロックジェネレータの校正、修理を請け負う立場のものとして、今回はかなり力を入れました。が、実は一番書きたかったところはGPSやRMEに関してだったりします。RMEは大分前のInterBEEでFirefaceを借りて、会場でクロック周りを試したときには、実際に今までRME製品以外でクロック周りが先述したような挙動の機械を見たことがなかったので、かなりの衝撃でした。この記事が皆様のクロック周りの理解が深まったり、クロック周りの設計について再考するきっかけになればシアワセです。


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*記事中に掲載されている情報は2010年12月29日時点のものです。